資料No.1-1 志賀原子力発電所2号機 気体廃棄物処理系における水素濃度の上昇事象の 原因と対策について 平成20年5月 北陸電力株式会社 経緯 3月26日 20時38分:原子炉起動 4月 1日 3時30分:試験的に発電を開始 11時 9分:気体廃棄物処理系※1の排ガス再結合器※2 出口の水素濃度が上昇したため,同日11時 46分から出力を降下させ,原因調査を実施 14時30分:連絡基準※3に基づき石川県及び志賀町へ連絡 4月 2日 5時58分:詳細な点検・調査を実施するため,原子炉 停止を決定し,出力降下開始 6時19分:安全協定に基づき石川県及び志賀町へ連絡 7時23分:発電停止 13時 3分:原子炉停止 なお,本事象による外部への放射性物質の放出はなく環境への影響もなかった。 ※1 気体廃棄物処理系: 復水器からの排ガス中に含まれる水素を可燃限界未満の濃度にするとともに,放射能を十分減衰 させ,排ガスを排気筒から放出するための系統 ※2 排ガス再結合器: 復水器からの排ガス中に含まれる酸素と水素を触媒反応により水蒸気とし,水素濃度を可燃限界 未満にする機器 ※3 連絡基準:志賀原子力発電所における石川県・志賀町への連絡基準に係る覚書 2 気体廃棄物処理系 概要図 大気 気体廃棄物処理系 所内用圧縮空気 空気 高圧タービン 低圧タービン 活性炭式希ガス ホールドアップ塔 排ガス再結合器 排ガス予熱器 蒸気,水素,酸素 ↓ 水(蒸気) 排 気 筒 発電機 原 子 炉 排ガス復水器 蒸気 蒸気, ↓ 水素,酸素 水 復水器 触媒 蒸気,水素,酸素 H2 水素濃度計 (入口) 蒸気 ↓ 水 H2 水素濃度計 (出口) 主蒸気 復水 排ガス 空気 3 主要プラントパラメータ 発電機出力,排ガス再結合器入口水素濃度,排ガス再結合器出口水素濃度 排ガス再結合器 入口水素濃度(vol%) 警報初期対応 事象安定化のための対応 (蒸気分(約99%)を除いたガス中の濃度) 発電機出力(×10MWe) 排ガス再結合器 出口水素濃度(vol%) ↑ 4/1 ↑ 4/2 排ガス再結合器入口水素濃度の変 化は,主に蒸気式空気抽出器入口 弁の開閉操作に伴うものである。 ・開操作で水素濃度上昇 ・閉操作で水素濃度下降 4 要因分析図 事 象 水素濃度上昇 一次要因 金属触媒の 性能低下 二次要因 調査内容 判定 不純物の付着 (触媒に不純物が付着した場合は再結合 反応が阻害され性能が低下する) 不純物確認,不純物影響調査 ○ 観察,測定 × 運転データ調査 × 外観点検,記録確認 × 運転データ調査,系統確認 × 外観点検,浸透探傷試験 × 排ガス水素分析計点検 × 運転データ調査 × 白金付着量の減少 酸素流入不足 排ガス予熱器出口温度低下 製造・据付不良 バイパスライ ンの形成 排ガス再結合器本体のバイパス 金属触媒のバイパス 計器不良 水素流入量 増加 原子炉出力の急上昇 蒸気式空気抽出器空気入口弁の急開操作 【凡例】 ○:要因の可能性あり ×:要因の可能性なし 5 排ガス再結合器の概要 【排ガス再結合器】 復水器からの排ガス中に含まれる 酸素と水素を触媒反応により水蒸 気とし,水素濃度を可燃限界未満 にする機器。 リーク防止板 40段 金属触媒 金属触媒の構造 金属触媒 カートリッジ 担持材:アルミナ(Al2O3) 触媒:白金 (Pt) 基材:Ni,Cr合金 高さ 約2m 排ガス再結合器構造図 【触媒】 活性が高く,特定の 化学反応の反応速度 を速める物質 直径 約1.3m 排ガス再結合器 金属触媒(最下層<1段>) (排ガス再結合器上部より撮影) 【金属触媒】 ニッケル,クロムを 主成分とする発泡金 属にアルミナを介し て触媒(白金)を担持 (付着)させたもの 6 触媒性能試験 現触媒及び未使用触媒について,触媒性能試験を実施。 ⇒現触媒の出口水素濃度は経時的に上昇し,再結合性能の低下が確認された。 ⇒未使用触媒では,出口水素濃度に上昇は見られず,再結合性能の低下は確認され なかった。 試験装置出口水素濃度(Vol%) 7.0 【試験条件】 ・触媒層数:4層 ・電気出力約20%運転時を模擬した混合ガスを送気 6.0 現触媒 ⇒経時的に水素濃度が上昇 5.0 4.0 3.0 2.0 未使用触媒 ⇒水素濃度上昇見られず 1.0 0.0 0 1 2 3 4 5 経過時間[h] 6 7 8 9 7 触媒の基本的物性確認 触媒の基本的物性確認として,金属触媒の表面観察,Pt(白金)の付着分布確認及 びPtの付着密度分析を実施。 ⇒触媒の損傷はなく,Ptの付着状況は未使用触媒と比較して有意な差がなかった。 項 目 走査型電子顕微鏡による 表面観察 結 果 金属触媒の損傷及び未使用触媒との有意な差は認められなかった。 現触媒(20段) 未使用触媒 (参考:触媒外観) 現触媒(20段) 未使用触媒 (1目盛=1mm) エネルギー分散型蛍光X線 分析装置による Pt(白金)付着分布確認 原子吸光光度計による Pt(白金)付着密度分析 現触媒と未使用触媒で有意な差は認められなかった。 現触媒の白金付着密度は,未使用触媒と同等であることを確認した。 8 触媒付着物分析 温水抽出により触媒の付着物を溶出させ,硫酸イオン等をイオンクロマトグラフ にて,金属イオンを原子吸光光度計にて分析を実施。 ⇒硫酸イオンが未使用触媒に比べて多く検出された。 [成分分析結果] (μg/g-触媒) イオン成分濃度 測定項目 Cl NO2 PO4 SO4 NO3 CrO4 Na NH4 K Mg Ca 現触媒(40段) 1.5 - - 68 - - 3.2 0.26 - 0.16 1.2 現触媒(20段) 0.67 - - 120 - - 0.81 0.41 - 0.095 1.3 現触媒(1段) 0.64 0.65 - 89 - - 0.80 0.26 - 0.12 0.89 未使用触媒 0.79 1.5 - 12 19 5.8 0.30 1.2 - - 1.3 採取箇所 注) 「-」は検出限界値未満を示す。 ⇒金属イオンではニッケルイオンが未使用触媒に比べて多く検出された。 [金属イオン,硫酸イオン分析結果] (μg/g-触媒) 試 料 現触媒(20段) 現触媒(1段) 未使用触媒 金属イオン Al Ni <0.5 46 <0.5 44 <1 11 SO 4 82 65 11 9 触媒性能試験 現触媒及び硫酸に浸漬させた未使用触媒に ついて,触媒性能試験を実施。 ⇒硫酸に浸漬させた未使用触媒は,現触媒と 同様に出口水素濃度は経時的に上昇し, 再結合性能の低下が確認された。 試験装置出口水素濃度(Vol%) 7.0 【試験供試体】 ・未使用触媒(10%硫酸浸漬):未使用触媒を10%硫酸に瞬時 浸漬,密封保管(約12時間) ・未使用触媒(5%硫酸浸漬):未使用触媒を5%硫酸に瞬時 浸漬,密封保管(約12時間) 【試験条件】 ・触媒層数:4層 ・電気出力約20%運転時を模擬した混合ガスを送気 未使用触媒(10%硫酸浸漬) ⇒経時的に水素濃度が上昇 6.0 5.0 現触媒 4.0 3.0 未使用触媒(5%硫酸浸漬) ⇒経時的に水素濃度が上昇 2.0 1.0 未使用触媒 0.0 0 1 2 3 4 5 経過時間[h] 6 7 8 9 10 硫黄酸化物及び水分の流入について ①硫黄酸化物の流入 ■所内用圧縮空気の性状をイオンクロマトグ ラフにより測定したところ,大気中から硫黄 酸化物が持ち込まれていることを確認した。 [硫黄酸化物及び水分の流入経路] 排ガス再結合器 [所内用圧縮空気性状調査] SO 2 所内用圧縮空気 0.53 ppb (参考) 原子炉建屋 空気圧縮機室 0.62 ppb 排ガス予熱器 主復水器 採 取 箇 所 所内用圧縮空気 石川県の大気測定結果(H17年度):SO2濃度0~5ppb(年平均値) ※平成18年度版石川県環境白書より ②水分の流入 ■系統保管履歴調査の結果,原子炉停止中の 大部分の期間,排ガス再結合器電気ヒータが 停止していたこと及び排ガス復水器にドレン水 を保有した状態で保管していたことを確認した。 排ガス復水器 ①所内用圧縮空気から 大気中の硫黄酸化物 が流入 ■排ガス復水器内のドレン水から発生した水分が 排ガス再結合器内に存在していたことが推定される。 ②排ガス復水器内 ドレン水から水分が流入 11 凡例: SO2(硫黄酸化物) SO3(硫黄酸化物) H2O(水) H2SO4(硫酸) 事象発生のメカニズム(1/2) ①初期状態 ②運転中あるいはパージ中:硫黄酸化物の吸着 〔高温(~300℃)あるいは室温〕 担持触媒:白金(Pt) 担持材:アルミナ(Al2O3) H2 O O2 H2 触媒 反応 SO2 吸着 酸化 SO3 アルミナ結晶の間隙 基材:Ni,Cr合金 ③停止~長期保管中(1):水蒸気の結露 〔温度低下(~室温)〕 ・大気(所内用圧縮空気)中の硫黄酸化物が触媒に吸着される。 (大気中ではSO2の形で存在するが,吸着後,触媒により酸化され, SO3に変化する。) ・一方,触媒反応により水素と酸素が結合し水蒸気となり脱離する。 ④長期保管中(2):硫酸の生成 〔室温〕 (湿度が高い状態) (湿度が高い状態) H2 O H2 O H2 O ・雰囲気中の水蒸気が触媒表面に結露する。 (湿度が高い状態) H2 O SO3+H2O ↓ H2SO4 H2 O H2 O H2 O 吸着 ・触媒表面のSO3と結露水が結合し硫酸が生成される。 12 事象発生のメカニズム(2/2) ⑤長期保管中(3):硫酸塩水和物の生成 〔室温〕 ⑥系統暖機運転:硫酸塩水和物の結晶水減少 〔低温(~150℃)〕 (湿度が高い状態) 硫酸塩水和物 Mm(SO4)n・n1H2O 触媒未反応 (水素未導入) 水分減少 Mm(SO4)n・n1H2O ↓ (n1>n2) Mm(SO4)n・n2H2O ・担持材や基材表面の金属(Ni等)と硫酸が反応して硫酸塩水和物 が生成される。(→触媒の初期性能低下) ・硫酸塩としてはNiSO4等が考えられ,これらは吸湿性が高いことが 知られている。(例えば,NiSO4の水和物配位数(n1)は6であり,6個 の結晶水を持つ) 今回事象発生時 H2 触媒 反応 H2 O ・気体廃棄物処理系の暖機運転(再結合器電気ヒータによる加温)に より,雰囲気温度が上昇し,硫酸塩水和物の結晶水が減少する。 ⑦起動時(低出力運転):硫酸塩水和物の結晶水等増加 〔中温(~200℃)〕 水素導入(低濃度)により 触媒反応開始 (湿度低下) 凡例: H2O(水) Mm(SO4)n(硫酸塩) (過熱蒸気雰囲気) Mm(SO4)n・n1H2O(硫酸塩水和物) O2 H2 O Mm(SO4)n・n2H2O ↓ (n2<n3) Mm(SO4)n・n3H2O ・触媒反応により水素と酸素が結合し水が生 成すると,結晶水が減少した状態の硫酸 塩水和物に水を取り込んで触媒を覆い, 触媒反応を阻害する。 (→再結合性能が徐々に低下→ →出口水素濃度が徐々に上昇) 13 再発防止対策 ¾排ガス再結合器の金属触媒を新品と取り替える。 ¾原子炉停止期間中,排ガス再結合器が水分の影響を受けるこ とを防止するため,次の対策を実施する。 ・排ガス復水器内のドレン水を抜いて保管する。 ・水分の凝縮を防ぐことを目的として,排ガス再結合器電気 ヒータを通電状態に保つ。 念のため,気体廃棄物処理系停止時の掃気運転後,除湿空 気により系統内を乾燥させる。 14 再発防止対策(排ガス再結合器保管方法の変更) 保管準備 排ガス再結合器 電気ヒータ「入」 排ガス予熱器 「運転」 ①排ガス再結合器電気ヒータ「入」 ②排ガス予熱器「運転」 ③所内用圧縮空気により10時間掃気運転 実施 主復水器 排ガス復水器 所内用圧縮空気 対策 現状 ①排ガス再結合器電気ヒータ「入」 ②排ガス復水器ドレン水なし ③所内用圧縮空気掃気「停止」 ④排ガス予熱器「停止」 ⑤除湿空気により系統内を乾燥 ①排ガス再結合器電気ヒータ「切」 ②排ガス復水器ドレン水有り ③所内用圧縮空気掃気「停止」 ④排ガス予熱器「停止」 排ガス再結合器 排ガス再結合器 電気ヒータ「切」 電気ヒータ「入」 排ガス予熱器 「停止」 排ガス予熱器 「停止」 排ガス復水器 所内用圧縮空気 主復水器 主復水器 保管状態 除湿空気 排ガス復水器 所内用圧縮空気 ドレン排水 15
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