6.3 6.3.1 酸化剤,還元剤の強弱と定量 酸化剤,還元剤の例 è 重要な酸化剤 { 過マンガン酸カリウム KMnO4 É 硫酸酸性の溶液中 + Ä 2+ MnOÄ + 4H2 O 4 + 8H + 5e Ä! Mn (6.14) 色の変化:赤紫色 Ä!淡桃色 (ほぼ無色) É 中性,塩基性の溶液中 Ä Ä MnOÄ 4 + 2H2 O + 3e Ä! MnO2 + 4OH (6.15) { 二クロム酸カリウム K2 Cr2 O7 硫酸酸性の条件 + Ä 3+ Cr2 O2Ä + 7H2 O 7 + 14H + 6e Ä! 2Cr (6.16) 色の変化:赤橙色 Ä!緑色 { 熱濃硫酸 H2 SO4 + 2H+ + 2eÄ Ä! SO2 + 2H2 O (6.17) HNO3 + H+ + eÄ Ä! NO2 + H2 O (6.18) { 濃硝酸 NO2 は赤褐色の気体である。 { 希硝酸 HNO3 + 3H+ + 3eÄ Ä! NO + 2H2 O (6.19) { 二酸化イオウ (亜硫酸ガス) SO2 + 4H+ + 4eÄ Ä! S + 2H2 O (6.20) H2 O2 + 2H+ + 2eÄ Ä! 2H2 O (6.21) (COOH)2 Ä! 2CO2 + 2eÄ + 2H+ (6.22) SO2 + 2H2 O Ä! H2 SO4 + 2eÄ + 2H+ (6.23) { 過酸化水素 è 重要な還元剤 { シュウ酸 { 二酸化イオウ { 過酸化水素 110 H2 O2 Ä! O2 + 2eÄ + 2H+ (6.24) Fe2+ Ä! Fe3+ + eÄ (6.25) { 鉄 (II) イオン 色の変化:淡緑色 Ä! 黄色 6.3.2 酸化剤,還元剤の強弱 è 金属のイオン化傾向 { 金属イオンと金属単体の反応 硫酸銅 (II) の水 溶液に鉄を入れ る場合と,硫酸 鉄 (II) の水溶液 に銅を入れる場 合を比較すると, 銅イオンと鉄の 間でのみ化学変 化が生じ,銅が 鉄の表面に析出 する。このよう に,金属イオン を含む水溶液に, 図 6.1: 金属樹 金属固体を入れ, イオンを還元して単体を析出させたものを,金属樹という。 この変化から,銅 (II) イオンは鉄を酸化することができるが,鉄 (II) イオンは銅を酸 化することができないことがわかる。このことは,鉄は銅 (II) イオンを還元できるが, 銅は鉄 (II) イオンを還元できないことを示している。 従って,還元剤としては, Fe > Cu であり, 酸化剤としては, Fe2+ < Cu2+ である。 { イオン化傾向 金属単体を,その還元力の強さ順番にならべたものをイオン化傾向 (イオン化列,電荷 列) という。この順番は,次のようになる。 K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H) > Cu > Ag; Hg > Pt > Au 図 6.2: イオン化傾向 111 K 常温で水と反応 Ca H2 を発生し, 金属水酸化物となる Mg 高温の水と反応 Al 高温の水蒸気と反応し,H2 を発生, Zn 金属酸化物となる Fe Ni Sn 水蒸気とは反応しない C や CO で還元される Pb (H) Cu 還元され にくい Na Ag 加熱だけで分解し, 還元される Pt Au 図 6.3: イオン化傾向と金属の性質a a Ag と Hg については,そのイオン化傾向の位置が近いことと Hg はあまり高等学校では扱わないため,省略 した。 è 酸化還元電位 イオン化傾向をはじめ,酸化剤,還元剤の強弱を示すために,標準酸化還元電位を用いる。 酸化還元反応は電子 eÄ の授受であるため,還元剤の変化と酸化剤の変化を分離すると,そ の間の電子を移動させ る力を電圧を用いて測 定できる。そこで,標 準水素電極に対する電 圧を測定して,酸化還 元電位とする。 図 6.4: 標準水素電極による測定 112 表 6.1: 標準酸化還元電位 (東大教養部化学講義資料集等より) 半反応式 E° + -2.93 K + eÄ Ä! Ä K 2+ Ä -2.84 Ca + 2e Ä! Ä Ca -2.71 Na+ + eÄ Ä! Ä Na 2+ Ä -2.37 Mg + 2e Ä! Ä Mg 3+ Ä -1.66 Al + 3e Ä! Ä Al Ä -0.828 2H2 O + 2e Ä! Ä 2OHÄ + H2 -0.763 Zn2+ + 2eÄ Ä! Ä Zn + Ä -0.49 2CO2 + 2H + 2e Ä! Ä (COOH)2 2+ Ä Ä! Fe -0.440 Fe + 2e Ä -0.25 Ni2+ + 2eÄ Ä! Ä Ni 2+ Ä -0.138 Sn + 2e Ä! Ä Sn 2+ Ä Ä! Pb -0.129 Pb + 2e Ä 0.000 2H+ + 2eÄ Ä! Ä H2 + Ä Ä! H +0.141 S + 2H + 2e Ä 2 Saq +0.15 Sn4+ + 2eÄ Ä! Ä Sn2+ + Ä Ä! +0.20 SO2Ä 4 + 4H + 2e Ä H2 SO3 + H2 O +0.337 Cu2+ + 2eÄ Ä! Ä Cu +0.401 2H2 O + O2 + 4eÄ Ä! Ä 4OHÄ +0.68 O2 + 2H+ + 2eÄ Ä! Ä H2 O2 3+ Ä +0.771 Fe + e Ä! Ä Fe2+ +0.799 Ag+ + eÄ Ä! Ä Ag Ä + Ä Ä! +0.96 NO3 + 4H + 3e Ä NO + 2H2 O +1.28 MnO2 + 4H+ + 2eÄ Ä! Ä Mn2+ + 2H2 O 2Ä +1.33 Cr2 O7 + 14H+ + 6eÄ Ä! Ä 2Cr3+ + 7H2 O Ä Ä! 2ClÄ +1.358 Cl2 + 2e Ä Ä +1.51 MnO4 + 8H+ + 5eÄ Ä! Ä Mn2+ + 4H2 O +1.77 H2 O2 + 2H+ + 2eÄ Ä! Ä 2H2 O 6.3.3 酸化還元滴定 無色の還元剤に対して,過マンガン酸カリウム水溶液や二クロム酸カリウム水溶液を硫酸酸性 の条件で酸化剤として使用すると,その色の変化によって,過不足なく酸化還元反応が生ずる量 を決定することができる。このようにして,濃度既知の酸化剤や還元剤を用いて,濃度未知の還 元剤や酸化剤の濃度を決定する操作を酸化還元滴定という。 è シュウ酸による過マンガン酸カリウムの濃度決定。 1.00 mol / ` のシュウ酸水溶液 10.0 m`をコニカルビーカに取り,これに 1 mol / ` の硫酸 を加えた。この溶液に,ビュレットから濃度未知の過マンガン酸カリウム水溶液を滴下した 113 ところ,4.80 m`の過マンガン酸カリウム水溶液を加えたところで,ちょうどコニカルビー カー内のシュウ酸をすべて消費した。 { コニカルビーカー内のシュウ酸が供給できる総電子数は, { コニカルビーカーに加えた過マンガン酸カリウム水溶液が消費した総電子数は,過マ ンガン酸カリウム水溶液の濃度を COX とすると, { 過マンガン酸カリウム水溶液の濃度は, { 滴定の終点はどのように知ることができるか。 è ヨウ素滴定 (チオ硫酸ナトリウム滴定) 酸性溶液で,KIO3 は KI と次のように反応する。 Ä + IOÄ 3 + 5I + 6H Ä! 3I2 + 3H2 O (6.26) そこで,濃度未知の KIO3 水溶液に十分な量の KI 水溶液を加え,生じた I2 を定量すれば, KIO3 水溶液の濃度を決定できる。 生じた I2 はチオ硫酸ナトリウム Na2 S2 O3 水溶液で滴定することができる。このときの反応 は次のようになる。 Ä 2Ä I2 + 2S2 O2Ä 3 Ä! 2I + S4 O6 (6.27) この滴定における終点は,ヨウ素の色が薄くなったときにデンプン水溶液を加えると (デン プンが指示薬),ヨウ素デンプン反応によって強い青紫色を呈する。この色が消失するまで チオ硫酸ナトリウム水溶液を加える。 この方法では,酸化剤が無色でも定量できる。そこで,過酸化水素水の濃度決定などに利用 される。 114 6.3.4 イオン化傾向と物質の性質 K HCl,希 H2 SO4 に溶けて H2 を発生する。 Ca 強電解質 Na Mg Al Fe 水に不溶 単体と酸との反応 濃硝酸では, 不動態となる Zn Ni Sn Pb 金属水酸化物 塩酸,硫酸では,表面に 不溶性の塩を生ずる (H) Cu 酸化力のある酸には溶解する Ag 水酸化物は存在しない Pt 2Ag+ + 2OHÄ Ä! Ag2 O + H2 O Au 王水 (濃硝酸:濃塩酸=1:3) には溶解する 図 6.5: イオン化傾向と化合物の性質 (1)a a Ag と Hg については,そのイオン化傾向の位置が近いことと Hg はあまり高等学校では扱わないため,省略 した。 K Ca 液性によらず沈殿しない 金属イオンと H2 S の反応 Na Mg Al 水酸化物の沈殿を生ずる Zn 塩基性のとき 酸に溶解し, Fe 沈殿する H2 S を発生する Ni Sn Pb 液性によらず (H) 硫化物と酸の反応 沈殿する Cu 酸に溶解しない Ag Pt Au 図 6.6: イオン化傾向と化合物の性質 (2)a a Ag と Hg については,そのイオン化傾向の位置が近いことと Hg はあまり高等学校では扱わないため,省略 した。 115
© Copyright 2024 Paperzz