「マーケティング応用研究」シラバス 担当 高嶋克義・南知惠子 Ⅰ.授業のテーマと目標 この授業では,消費財と生産財のマーケティング理論を基礎から解説するとともに,マーケティング 問題に関わる事例を分析することで,マーケティングの基本的な考え方や問題解決能力を高めることを めざします。 授業は,前半を南が担当し,消費財のマーケティング理論(一般のマーケティング論)を扱い,後半 は高嶋が担当し,生産財のマーケティング理論を考えていきます。 消費財関連事業の方は,前半で自らの産業におけるマーケティング活動について学習し,後半ではそ の消費財の業務用ニーズに対するマーケティング戦略や流通企業との取引関係に関する戦略を考える ことができます。他方で,生産財関連事業の方は,後半において生産財のマーケティングを勉強するこ とに加えて,前半で「顧客の顧客」の課題を考えることができます。したがって,自分の業種が消費財 か生産財かに関わりなく,前半と後半との両方のマーケティング理論の知識や考え方を身につけてもら いたいと考えています。 Ⅱ.グループ研究課題について 「企業(または事業部)を 1 つ取り上げて,そのマーケティング戦略を分析しなさい。」という 課題について,グループで共同研究を行い,授業時間において発表(10 分以内)するとともに,グ ループ単位で 5 千字以上(A4で 5 ページ程度)のレポートを提出してもらいます。 まずこのグループ研究のために3名程度(2名以上4名以下)の少人数のグループを第1回までに 各々で相談して作っておいて下さい。(第1回目にグループが決まっていない人は,こちらでグルー プ分けを行います。)そして,各グループでは,任意の1企業(または1事業部)を決め,講義内容 も踏まえて,マーケティング戦略分析を行って下さい。 そして11月17日以降の授業時間において,グループごとの発表をしてもらいます。前半におい ては,発表を11月17日と24日に各日6グループずつ集中的に行います。後半においては,毎回, 2-3グループずつの発表になり,発表日や順番は,こちらで指定します。基本は,消費財は前半で, 生産財は後半になります。 またグループ研究のレポートの提出期限は,そのグループの発表当日とします。グループ研究レ ポートの評価は個人単位で行うので,グループ研究レポートの提出の際には,個人の貢献が分かる ように,役割分担や執筆分担をレポートに付記して下さい。 なお他の応用研究やプロジェクト実習などの授業のレポートで扱った同じ企業を取り上げること は構いませんが,他の授業のレポートと1ページ以上の内容が共通していると判断される場合には, そのグループ全員の成績を不可とします。またマーケティング戦略の分析であることに十分に留意 して下さい。(全般的な事業戦略の話や事業や業界の紹介だけにならないようにして下さい。) Ⅲ.教科書・参考書 前半(南担当分) 教科書:田村正紀著『マーケティングの知識』日経文庫 参考文献:嶋口充輝・石井淳蔵著『新版:現代マーケティング』有斐閣 和田充夫・三浦俊彦・恩蔵直人著『新版:マーケティング戦略』有斐閣 小林哲・南知惠子編著『流通・営業戦略―現代のマーケティング戦略③』有斐閣 * 参考文献は,マーケティング戦略分析課題に適宜,使用してください。 事例分析については,配付資料のほか神戸ビジネススクール・ケースシリーズを利用します。神戸 ビジネススクール・ケースシリーズの資料は, http://www.b.kobe-u.ac.jp/case/ から,当該ケー スを各自でダウンロードしておいて下さい。 後半(高嶋担当分) 教科書:高嶋克義・南知恵子『生産財マーケティング』有斐閣(2006年11月下旬に出版) 事例分析については,神戸ビジネススクール・ケースシリーズを利用します。神戸ビジネススクー ル・ケースシリーズの資料は, http://www.b.kobe-u.ac.jp/case/ から,当該ケースを各自でダウ ンロードしておいて下さい。 Ⅳ.授業内容 前半-南担当分 前半7回の講義では,マーケティングの基礎的な概念について解説します。事前課題(予習)として, 指定のケースを必ず読み,課題を考えてきてください。また,第1回から第5回までの講義時に毎回 事後課題としてレポートを課します。A4で1-2ページのレポートを作成し,翌週授業日にTAま で提出してください。なお,この課題内容についてはその都度説明します。 10月6日(1)マーケティング・マネジメントの基礎(1)-マーケティング・ミックスの4Ps マーケティング・マネジメントについて講義します。マーケティングの活動要素と4Ps の概念につ いて理解することを目標とします。 事前課題として,「ハイチオール C」のケースを読み,「ハイチオール C」市場導入における,製 品,価格設定,流通,プロモーション方法について,製品リニューアルの前後に分け,それぞれ簡潔 にまとめてきてください。 10月13日(2)マーケティング・マネジメントの基礎(2)-市場細分化と標的市場 市場細分化の方法とターゲット・マーケティングについて解説します。市場細分化にあたっての 考慮すべき条件や,ターゲット選定の考え方について理解することを目標とします。 事前課題として,「サントリー『ボス』」のケースを読み,缶コーヒーの市場細分化の方法につ いてまとめ,最終ページの問題1について考えてきてください。 10月20日(3)マーケティング・マネジメントの基礎(3)-流通チャネルの管理 メーカーによる流通チャネル管理の考え方,方法について解説します。流通チャネルの選択と管 理問題について理解することを目標とします。 事前課題として,配布資料「ルイ・ヴィトン」のケースを読み,ルイ・ヴィトン・ジャパン社の 流通チャネル選択の方法と管理手法について,まとめてきてください。 10月27日(4)戦略的マーケティングと市場分析(1)-戦略的マーケティングの基礎概念 戦略的マーケティングの基礎概念として,環境と経営資源,ポートフォリオ分析,及び市場構造の 分析について解説します。 事前課題として,「ワールド」のケースを読み,ワールドの各事業の問題点について明らかにし, ブランド・ポートフォリオ・マネジメントについてまとめてきてください。 11月10日(5)マーケティング戦略におけるビジネス・モデル分析 消費財のマーケティングにおいて,とりわけサプライチェーン・マネジメントに関わるビジネス・ モデルについて比較分析を行い,分析的視点を養うことを目標とします。 事前課題として,「ファーストリテイリング」のケースと,「Zara と H&M のケース」(配布資料) を読み,SPA 業態における,ファーストリテイリング社とインディテックス社,ヘネス&モーリツ社 型の2類型のそれぞれのビジネス・モデルについて比較分析してきてください。 11月17日(6)マーケティング戦略分析 任意の事例についてグループ研究発表(6グループ) 11月24日(7)マーケティング戦略分析 任意の事例についてグループ研究発表((6グループ) 後半-高嶋担当分 後半では生産財マーケティングを解説・検討します。 各回の授業内容は,以下の通りです。 (1) 教科書「生産財マーケティング」の該当の章についての解説 (2) グループ研究の発表(各回2-3グループ) (3) 課題設問についてのディスカッション (4) 事例分析(第9回,第12回,第14回のみ) 課題レポート提出について 各回の課題設問(括弧内は教科書の演習問題番号)について1問を選択し,A4で1-2ページの レポートを作成し,指定の授業日に提出してもらいます。この課題設問については次回の授業にお いてディスカッションするため,提出したレポートのコピー等を次回の授業日に持参して下さい。 * 提出日に注意!-課題レポートの提出日は,その問題を検討する授業日ではなく,その前回の 授業日であることに注意して下さい。 12月1日 (8)生産財マーケティングの考え方と組織購買行動論 ①講義:生産財マーケティングの特徴と生産財の組織購買行動論について解説します。 ②グループ研究発表 ③課題設問のディスカッション 第8回の課題設問-以下の3問のうち,1問を選択のこと。課題レポート提出日は,11月24日。 ●「生産財マーケティング活動の特徴について,業種間でどのような差異があるか考えなさい。」 (第1章④) ●「自社におけるある生産財購買の事例に基づいて,その購買センターと購買意思決定プロセスを 分析しなさい」(第2章①) ●「生産財事業を1つ取り上げて,その事業のマーケティング戦略が顧客の購買行動と適合してい るかどうかを検討しなさい」(第2章②) 12月8日 (9)生産財マーケティングにおける市場分析と市場細分化 ①講義:生産財マーケティングにおける市場分析と市場細分化について解説します。 ②グループ研究発表 ③課題設問のディスカッション 第9回の課題設問-以下の2問のうち,1問を選択のこと。課題レポート提出日は,12月1日。 ●「生産財事業を1つ取り上げて,その顧客市場を企業規模でセグメントし,各セグメントに適し たマーケティング戦略の違いについて考えなさい」(第3章②) ●「生産財と消費財とでの市場セグメンテーションの考え方や方法の違いについて説明しなさい」 (第3章⑤) ④事例分析:デル 下記の資料に基づき事例分析をします。 教材:2001-18 「デルコンピュータのビジネス・モデル」 12月15日 (10)生産財における取引関係の構築 ①講義:企業間取引における戦略的パートナーシップの形成の意味と課題について解説します。 ②グループ研究発表 ③課題設問のディスカッション 第 10 回の課題設問-以下の3問のうち,1問を選択のこと。課題レポート提出日は,12月8日。 ●「企業間取引における戦略的パートナーシップが形成されている具体的な事例を挙げ,その戦略 性について分析しなさい」(第 4 章②) ●「企業間ネットワーク関係の構成が大きく変わった産業の事例を一つ挙げて,どのような環境変 化が影響したのかを説明しなさい」(第 4 章⑤) ●「特定顧客からの依存回避戦略として,具体的にどのような戦略的行動が考えられるか説明しな さい」(第5章④) 12月22日(11)生産財の顧客適応戦略 ①講義:顧客適応戦略におけるカスタマイゼーションと受注生産の意思決定問題と課題を解説します。 ②グループ研究発表 ③課題設問のディスカッション 第 11 回のための課題設問-以下の2問のうち,1問を選択のこと。課題レポート提出日は,12月 15日。 ●「カスタマイゼーションのレベルを戦略的に変化させた事例を一つあげて,なぜ,どのように変化 させたのかを分析しなさい」(第6章②) ●「標準化戦略のための組織的条件について説明しなさい」(第6章⑤) 1月12日(12)生産財における新製品開発 ①講義:生産財の新製品開発戦略について解説します。 ②グループ研究発表 ③課題設問のディスカッション 第 12 回のための課題設問-以下の1問に解答のこと。提出日は,12月22日。 ●「新製品開発についての4つの基本戦略である,製品開発戦略,顧客開発戦略,低価格戦略,顧客 調整戦略のうち一つを取り上げ,具体例を用いて,その戦略を説明しなさい」(第 7 章⑤) ④事例分析:日東電工 下記の資料に基づき事例分析をします。 教材:2001-11「日東電工-シーズとニーズを統合する「三新活動」-」 2005-01「日東電工-2 段階の営業活動」 1月19日(13)営業体制の構築 ①講義:生産財の営業体制と営業改革について解説します。 ②グループ研究発表 ③課題設問のディスカッション 第 13 回のための課題設問-以下の3問のうち,1問を選択のこと。提出日は,1月12日。 ●「アウトプット管理様式が選択されている事業を一つ取りあげ,なぜその管理様式が選択されて いるのかを説明しなさい」(第8章②) ●「営業活動における部門間連携が難しい理由をあげて,その解決策を考えなさい」(第8章②) 「営業プロセスの革新を進めるのに潜在的に障害となり得る問題を取り上げ,その克服方法について 考えなさい」(第8章③) 1月26日(14)生産財の広告戦略とチャネル戦略 ①講義:生産財マーケティングにおける広告戦略とチャネル戦略について解説します。 ②グループ研究発表 ③課題設問のディスカッション 第 14 回のための課題設問-以下の3問のうち,1問を選択のこと。提出日は,1月19日。 ●「広告活動を積極的に行う生産財企業の事例を1つ取り上げて,その企業がどのように広告を利 用しているのか分析しなさい」(第9章③) ●「生産財企業を一つ取りあげて,近年の環境変化とチャネル戦略の転換について説明しなさい」(第 10 章③) ●「生産財において電子商取引を展開している事例を一つ取りあげて,その有効性と課題を分析しな さい」(第 10 章④) ④事例分析:東陶機器株式会社 下記の資料に基づき事例分析をします。 教材:2004-01「TOTO-東陶機器株式会社」 * 12月29日と1月5日は冬休みのため,休講。1月19日は六甲台キャンパスでは大学入試準 備のため休講となりますが,中之島は影響ないので,授業を実施します。 Ⅴ.成績評価の方法 前半45点,後半45点,グループ発表・グループ研究レポート10点の100点満点で評価し ます。 前半は,事後課題レポート(5回)25点,クラス討議への貢献度20点の配分とします。 後半は,課題設問レポート(7回-事前課題)25点,クラス討議への貢献度20点とします。 クラス討議への貢献度は,発言回数とその内容(質)により評価します。 Ⅵ.最後に事例分析について この授業では,何回か事例分析を行います。 「答えはどっさり教わった。 さて就職をしたあとで 泣きの涙をこぼすこと 答えにぴたりの事実なし。」 これはあるアメリカのビジネススクールの学生がケースメソッドを風刺した詩(注1)です。しかし, このような「正解」のパターンを学ぶために,ケースを用いるのではありません。また,ここまではい かなくても,「自分の業種に近いケースを」「もっと新しいケースを」という声があがるのは,自分の イメージしている「正解」をもたらすケースを期待しているからです。 実は,ケースメソッドでは,古い事例を扱うことがよくあります。アメリカのあるビジネススクール の授業を受けたことがありますが,一番古いもので,1960年代の事例というものがありました(お まけにこの事例の産業さえも現存しません)。そんな古い事例でも解決すべき問題があり,その経営問 題が現在でも認められる限り,その問題を議論することは重要と考えられているからです。ここでもし 条件の違いにこだわると,古い事例や別の産業の事例からの問題の理解や分析ができず,結局,自分た ちとそっくりな事例に出会うまでは何も学べないことになってしまいます。問題を抽象的なレベルで考 え,それを別の問題に適用する能力が高まれば,古い事例や別の産業の事例でも,とても役に立つので す。 また,めったにありませんが,別の授業やセミナーなどで勉強した事例を再び行う場合もあります。 その場合に「すでにやった」と意欲を失いがちですが,教官や授業のテーマが異なれば,問題の切り口 が違うことで,議論が大きく異なってくるはずです。議論は「正解」さがしではなく,隠れた要因間の 因果関係を導くために行っていますので,議論の展開には無限の可能性があり,そこから,新たなこと を学ぶことができると思います。 一般的に,ビジネススクールでケースを用いる目的の一つは,多様なケースでの意思決定を学習する ことにより,経営者・管理者・戦略スタッフとしての実践的な問題解決能力を高めるということにあり ます。この目的でのケースメソッドは,ビジネススクールでは,定番というべきものです。 さらに,この授業でのケースの位置付けは,ケースを通じてマーケティングの理論を学ぶことも視野 に入れていきます。それは,実践的な問題解決能力よりも,マーケティングの問題に対する理論的な分 析や論理的な思考の能力を養うことをめざすものです。そのような能力を身につければ,現実の多様な 問題でも(たとえ学んだケースとかけ離れた問題であっても),より深いレベルで,多くの先人たちの 知恵を動員しながら解決することができるようになります。 この方法では,たとえ,たくさんの事例分析をこなさなくても,またたくさんの「正解」のパターン を覚えなくても,優れた問題解決能力を身につけることができますが,現実と理論を行き来するために, きついアップダウンを克服しなければなりません。 また,この事例分析では,事例企業をよく知っているかどうかは,それほど重要ではありません。他 方で,理論を勉強していることは大事ですが,「使えない理論」で大ざっぱに切るのではなく,理論を 使いこなす能力が,むしろ問われます。言い換えれば,現実において隠れた要因間の因果関係をきちん と抽出することと,それを抽象的なレベルで捉え直すことが重要になります。さらに,机上の理論の背 後にある多くの現実を理解できるように,きちんと理論を理解することも重要になります。 以上の趣旨をよく理解したうえで,事例分析に取り組まれることを望みます。 (注1)M.P.McNair,ed.(1954) The Case Method at the Harvard Business School.
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