第2章 マーケティング・流通診断

第2章
マーケティング・流通診断
§1.過去問題の出題概要
取り上げている業種をみると、ペット用品専門の小売店、美容院、テニススクー
ル、ホームセンター、老舗の温泉旅館、スポーツ用品店、そして食品スーパーマー
ケット、眼鏡専門店といったように、多様な業種・業態から出題されている。
マーケティング・流通に関する事例問題を攻略するにあたっては、ある程度の業
種・業態の基礎知識は必要であるが、専門的な知識を深く学習する必要はない。そ
れは問題文に、設問を解くにあたって必要な業種・業態の情報が書かれているから
である。
出題の主眼は、このように業種・業態の詳しい「知識」ではなく、
「戦略的な思考
プロセス」に置かれている。つまり、中小企業診断士として企業を診断するにあた
り、どのようにとらえ、どのように考え、どのように対応するかという思考プロセ
スを問う内容になっている。
事例は、実務に則しており戦略的な内容を問うものになっている。 なぜ、そのよ
うにしたのかといった理由
どのように判断するか
経営者に対するアドバイス
といった診断実務に近い形でのものが増えている。
設問の構成も経営戦略の枠組みや診断プロセスに沿って出題されているといえる。
すなわち、対象企業の「経営環境の調査・分析」→「マーケティング方針の明確化」
→「マーケティング戦略の策定」→「機能別戦略(マーケティング・ミックス)の
決定」という流れのなかで出題されていると考えられる。
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◆1.平成 24 年度出題内容
【出題テーマ対象企業】
酒造メーカー
【解答する文字数】
540 文字
内 容
第
1
問
第
2
問
第
3
問
第
4
問
設
問 文
経 営 再 建の ため に
ターゲット・セグメ
ン ト ご とに 展開 し
た製品戦略の概要
10 点
B社が経営再建のためにターゲット・セグメントごとに展開した製品
戦略の概要を100字以内で説明せよ。
B 社 の 提携 先企 業
に と っ ての メリ ッ
トについて 30 点
B社は提携によって新たな販路を獲得し、経営再建を成し遂げた。一
方、この提携は提携先の企業にとってもメリットがあったために成功
したといえる。B社の提携先の企業にとってのメリットについて次の
設問に答えよ。
垂直的な提携 によ
る 提 携 先企 業に と
ってのメリット
水 平 的 な提 携に よ
る 提 携 先企 業に と
ってのメリット
コ ー ズ リレ ーテ ッ
ド・マーケティング
について
30 点
B 社 が 行っ たコ ー
ズリレーテッド・マ
ー ケ テ ィン グの 概
要
コ ー ズ リレ ーテ ッ
ド・マーケティング
が 売 上 拡大 に結 び
ついた理由
B 社 の マー ケテ ィ
ング・アクションと
期待される効果
30 点
B社が行った垂直的な提携は、提携先企業にとってどのようなメリッ
トがあったと考えられるか。100 字以内で答えよ。
B社が行った水平的な提携は、提携先企業にとってどのようなメリッ
トがあったと考えられるか。100 字以内で答えよ。
B社が取り組んだコーズリレーテッド・マーケティングについて、次
の設問に答えよ。
B社が行ったコーズリレーテッド・マーケティングの概要を 80 字以
内で整理せよ。
B社の売上は、コーズリレーテッド・マーケティングの効果により再
び拡大しつつある。コーズリレーテッド・マーケティングが、B社の
売上拡大に結びついた理由を考察し、80字以内で答えよ。
地域における企業ブランドの強化に向けて有効と考えられるB社の
マーケティング・アクションを2つ提案し、それぞれについて80字
以内で答えよ。ただし、そのアクションの実行により期待される効果
についても併せて述べること。
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§2.マーケティング診断の概要
◆1.マーケティング診断とは
(1)マーケティング戦略
マーケティング戦略とは、経営戦略を受けて、与えられた環境のなかで、顧客ニ
ーズにうまく適応するために企業の持つ強みを活用しながら、明確に競争相手と区
分すること(差別的優位性の確保)によって、利益を得るための考え方とその方法
である。
マーケティング診断は、経営全体をみる診断の一環として行うこともあれば、マ
ーケティング活動のみに限定して行う場合もあり、あるいは特定のマーケティン
グ・プロジェクト診断として行われる場合もある。
(2)マーケティング診断
マーケティング診断とは、マーケティング上の何らかの問題発生に対して、その
原因の探索と将来の予測を踏まえた戦略的対処の方法を提示することである。
マーケティング問題
発生の原因探索
内部情報
統制不可能要因
企業及び取り巻く
外部情報
統制可能要因
必要な調査
経営環境の将来予測
マーケティング
ミックスの構築
マーケティング診断上の
不可欠な調査を行う
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◆2.戦略的マーケティング
(1)戦略的マーケティングのフローチャート
戦略的マーケティングのフローチャートは、マーケティング診断における基本フ
レームである。そのため事例問題を解くために十分な理解が必要となる。次頁に示
したフローチャートは、頭で理解するだけでなく、自分で書いてみることで流れと
内容を正確にアウトプットできるようにしておいてほしい。
戦略的マーケティングのフローチャートは、中小企業の実態に合わせて柔軟にと
らえ、枠組みを理解することが必要である。企業経営理論の経営戦略論などの第1
次試験科目で学習した戦略的マーケティングのフローチャートに関する知識は、ほ
とんどそのまま第2次試験で活かすことができる。しかし第2次試験対策としては、
フローチャートの枠組みを中小企業の実態に合わせて柔軟にとらえる必要がある。
とくに企業経営理論におけるマーケティング論は、マネジメントの一般的知識を
習得する科目である。そのため、学習内容は中小企業を対象としているのでなく、
大企業を対象として論理展開されている場合が多い。しかし、第2次試験の事例問
題が対象としている企業は、基本的に中小企業である。たとえば中小企業では、事
業部制を採用している企業はそれほど多くなく、戦略策定の段階においても、成長
戦略 → 経営資源の配分 → 事業戦略(競争戦略)と、きめ細かく区分していない
場合が多い。
このようなことから、第2次試験対策の戦略的マーケティングのフローチャート
は、つぎに示したようにとらえることを勧める。ただし、このフローチャートもあ
くまで一例であるので、対象企業の規模・業種・業態・条件によって柔軟に適用す
ることが望ましい。
なお、経営戦略と戦略的マーケティングは、一般に区別して論じられるが、戦略
的マーケティングは、企業行動と環境・経営資源との適合性を志向するものであり、
その基本的枠組みは経営戦略の枠組みとほぼ同じであることから、両社を同義とと
らえてフローチャートを示した。
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図表2−1
<手
順>
準
備
戦略的マーケティングのフローチャート
経営環境の調査・分析
<内
容>
マーケティング目的・目標の設定
外部環境調査:①業界・立地、②消費者特性、
③商品特性、④競合条件
内部環境調査:①経営基本戦略、②財務、③労
務、④販売、⑤仕入、⑥店舗、⑦商品
分析:SWOT 分析、ポジショニング分析
マーケティング方針
の明確化
戦略ドメイン(事業領域)の明確化
マーケティング・コンセプトの設定
マーケティング戦略
の策定
取扱商品の分野決定
販売ターゲットの決定
マーケティング・
ミックスの決定
商品戦略
価格戦略
プロモーション戦略
チャネル戦略
サービス戦略
・・・
調
整
実
施
統
制
関係部門との意見調整、合意形成
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