平成 24 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集 N-4 バイオブタノール精製プロセス開発のための 3 成分系定圧気液平衡の測定 Measurement of Isobaric Vapor-Liquid Equilibria of Ternary Systems for Development of Biobutanol Distillation Process ○倉都貴之 1,栗原清文 2,松田弘幸 2,栃木勝己 2 *Takayuki Kuratsu1, Kiyohumi Kurihara2, Hiroyuki Matsuda2, Katsumi Tochigi2 Abstract: In this work, the isobaric vapor-liquid equilibria (VLE) were measured for the ternary systems acetone + ethanol + 2-ethyl-1-hexanol and ethanol + 1-butanol + 2-ethyl-1-hexanol at atomospheric pressure to develop the distillation process for purification of biobutanol. The binary parameters for the Wilson and NRTL equations were determined from VLE data for the six constituent binary systems, and the VLE for the ternary systems studied in this work were predicted by using those binary parameters. Predicted the results for the ternary systems were compared with the experimental data. 1.緒言 近年,国際原油価格の激しい変動や,石油資源の枯渇が問題とされており,その対策として化石燃料資源に代わるバ イオマスアルコールの利用が着目されている.このバイオマスアルコールとしては現在,その 90 %以上はバイオエタ ノールが利用されている.しかし,バイオブタノールはバイオエタノールと比較して水との親和性が低く,発熱量も 30 %程高く,ガソリンとほぼ同じといった性質があることから,本研究室ではバイオブタノールに注目している.こ のバイオブタノールはアセトン・ブタノール(ABE)発酵により得られるが,その発酵により得られる生成物は混合物 であり,ブタノール濃度が低いため,何らかの精製法が必要である[1].この精製法としては,抽出法,吸着法,浸透気 化法,ガスストリッピング法などが検討されているが,いずれも技術開発段階であり,現段階では,生成物を有機溶媒 などにより水相,有機相に分離し,有機相を蒸留分離することにより,バイオブタノールを精製する方法が有用とされ ている[2]. そこで本研究室ではその抽出剤として 2-エチル-1-ヘキサノールを選択し,ABE 発酵より生成される混合物の蒸留プ ロセスを設計・開発する際に,その基礎物性として必要となるアセトン,エタノール,1-ブタノールおよび 2-エチル-1ヘキサノールを含む混合物の定圧気液平衡(VLE)の測定を行っており,一昨年度までに全ての構成 2 成分系(6 種) および構成 3 成分系の一つであるアセトン(1)+エタノール(2)+1-ブタノール(3)系の 101.3 kPa における VLE の測定を 終了している. 本研究もこの研究の一環であり,今回は構成 3 成分系であ るアセトン(1)+エタノール(2)+2-エチル-1-ヘキサノール(3) およびエタノール(1)+1-ブタノール(2)+2-エチル-1-ヘキサノ ール(3)系の 101.3 kPa における VLE の測定を行った.また, 先行研究において測定された構成 2 成分系 VLE データに基づ き決定した Wilson 式[3]および NRTL 式[4]の 2 成分パラメータ を用いて 3 成分系 VLE の推算を行い,実測値との比較を行っ たので報告する. 2.測定装置 本研究で使用した定圧 VLE 測定装置を Figure 1 に示す.本 装置は改良 Rose-Williams 型気液平衡蒸留器[5]を中心に温度測 定部およびデータ収録部から構成されている.平衡温度の測 定には精度±0.01 K の白金センサーを使用し,また,気相・液 相留分の組成分析には島津製作所㈱製ガスクロマトグラフ GC-1700 を用いた.組成分析の精度は±0.1 mol%である. 1:日大理工・院・応化 2:日大理工・教員・応化 1165 (A) apparatus for measuring vapor-liquid equilibrium (B) data acquisition (C) personal computer (D) backpressure valve (E) pressure transducer (F) serge tank (G) cold trap (H) vacuum pump (I) pressure instrument (J) thermo meter (K) buffer tank Figure 1. Schematic diagram of apparatus for measuring vapor-liquid equilibria 平成 24 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集 3.測定方法 あらかじめ組成を調製した試料を気液平衡蒸留器に仕込み,加熱を開始する.フラッシュを確認し,温度測定部での 温度変動が±0.01 K/min 以内に達したならば平衡状態とみなし,平衡温度を測定後,気相・液相留分を同時にサンプリ ングして,速やかに組成分析を行う.また測定は大気開放で行い,平衡温度は沸点補正式[5]を用いて 101.3 kPa におけ る沸点に補正した. 1.0 4.測定結果 本研究で測定した 101.3 kPa における 3 成分系定圧 VLE 1-butanol(2) 390.86[K] トン(1)+エタノール(2)+1-ブタノール(3)系の測定結果を Figure 2 に実線の矢印で示す.図中,矢印の末端および先端 :Wilson eq. :NRTL eq. x2,y2[mole fraction] の結果の一例として,エタノール(1)+1-ブタノール(2)+2エチル-1-ヘキサノール(3)系および先行研究で測定したアセ :exp. 0.8 0.6 0.4 はそれぞれ液相,気相のモル分率を示す. 5.推算結果 本研究の推算には活量係数式としてWilson式およびNRT 0.2 L 式を用いた. これらの活量係数式は局所組成式と呼ばれ, 0.0 0.0 式中の 2 成分パラメータを対応する 2 成分系 VLE データか ら決定できれば, それらの 2 成分パラメータのみを用いて, 0.2 2-ethyl-1-hexanol(3) 457.48[K] 3 成分系以上の多成分系 VLE を推算できる式として知られ 0.4 0.6 0.8 1.0 ethanol(1) 351.49[K] x1,y1[mole fraction] (a) ethanol(1)+1-butanol(2)+2-ethyl-1-hexanol(3) ている. そこで本研究では,先に測定した 101.3 kPa における 6 種の構成 2 成分系データに基づき,二つの活量係数式中の 2 成分パラメータを決定し,本研究で測定対象とした 3 成分 1.0 ethanol(2) 351.49[K] 系 VLE の推算を試みた.その推算結果を図中,Wilson 式に また,実測値と推算値の気相組成および沸点の絶対算術平 均偏差を Table 1 に示す.図に示すように,実測値と推算 値との一致は,二つの活量係数式共にほぼ良好であるが, その平均偏差を比較すると,Wilson 式がより良好な結果を 与えた. Table 1. Deviations between calculated and experimental vapor-phase mole fractions |⊿yi|av. and temperatures|⊿T|av. for the Wilson and NRTL equations :Wilson eq. x2,y2[mole fraction] ついては破線, NRTL 式については一点鎖線の矢印で示す. :exp. 0.8 :NRTL eq. 0.6 0.4 0.2 ethanol(1)+1-butanol(2)+ aceton(1)+ethanol(2)+ 2-ethyl-1-hexanol(3) 1-butanol(3) Wilson eq. 0.007 0.012 |⊿y 1 |av. 0.008 0.021 |⊿y 2 |av. 0.33 0.39 |⊿T |av.[K] NRTL eq. 0.013 0.019 |⊿y 1 |av. 0.012 0.021 |⊿y 2 |av. 0.34 0.24 |⊿T |av.[K] 0.0 0.0 1-butanol(3) 390.86[K] 0.2 0.4 0.6 0.8 x1,y1[mole fraction] 1.0 acetone(1) 329.26[K] (b) acetone(1)+ethanol(2)+1-butanol(3) Figure 2. Vapor-liquid equilibrium tie lines for ternary systems at 101.3 kPa 6.引用文献 [1]横山伸也ら.バイオマスエネルギー. 森北出版 (2009) .[2]「セルロース系バイオマスを原料とするブタノールの生産 技術及び利用に関する最新動向調査」平成 21 年 3 月(株式会社三菱化学テクノリサーチ) .[3] Wilson, G. M, J. Am. Chem. Soc., 86, 127 (1964).[4] Renon et al., AIChE J.,14,135-144 (1968).[5] Hiaki et al., Fulid Phase Equilibria, 26, 83 (1986). 1166
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