英国 州特許裁判所 訴訟手続の簡素化 November 2010 _______________________________________________________________________ 2010 年 10 月 1 日付で、州特許裁判所において、訴訟手続が大幅に改正され、His Honour Colin Birss QC が新たに主任判事に就任した。理系出身でもある Colin Birss 新判事は、長年、 法廷弁護士として特許訴訟に携わってきた、特許訴訟の経験豊富な専門家である。今回のこ れらの州特許裁判所制度改革の目的は、一般的に最も利用されている高等法院特許裁判所に 代わり得る、より簡素で、かつ安価な手続を提供することにある。本改正は、英国における 特許法廷の手続簡略化という一般的傾向に沿うものであり、訴訟当事者の求めるところに従 って、裁判所及び訴訟手続を調整し、簡素化することを企図している。かかる手続簡略化の 動きは、過去数年に見られた、書類ディスクロージャー(ディスカバリー)、及び証拠調手 続の限定等の変化にも現れているものである。 州特許裁判所における訴訟手続の主要な改正点は、以下の通りである。 相手方当事者から償還可能な費用の上限が定められ、ほとんどの訴訟において 50,000 ポンドを限度とすることとなる。訴訟費用は、訴訟の各手続段階でかかる費用の範囲を 前提に、定められる。本改正の趣旨は、訴訟当事者が負担すべき費用を、予測可能かつ 限定的な範囲にとどめることにある。 各当事者は、陳述予定の全ての主張及び事実を簡潔に述べた書面の提出が求められるこ ととなる。これにより、弁論等の内容がより詳細になるため、裁判所は、当事者の書面 及び口頭による弁論のみに基づいて、訴えを判断することが可能となる。また、当事者 の同意があれば、各当事者の陳述を書面のみで判断することもできる。本改正により、 州特許裁判所の手続は、ドイツやオランダの訴訟手続に近似するものと考えられる。 特定の書類のディスクロージャー、製品または製法の詳細、実験、証人の陳述書、専門 家証人の報告書、証拠調手続における反対尋問、並びに、弁論及び同骨子の書面等は、 特定の具体的争点に関して、かつ裁判所がこれらの追加書類等の費用対効果を吟味した 上でのみ、利用されることとなる。 可能な限り、証拠調手続は二日以内で終了し、証人尋問は厳格に限定して行う。 上記の改正により、州特許裁判所は、高等法院特許裁判所との差別化が図られることとなる。 すなわち、事案によっては、欧州の大陸法の国々と類似の訴訟手続が、英国においても利用 可能になるのである。しかし、それら大陸法に基づく手続とは対照的に、州特許裁判所にお いては、例えば製法特許の侵害の証明等適当と認める場合には、限定的にディスクロージャ ー手続を命じることも可能である。もっとも、訴訟費用は、この場合も低額に抑えることと されている。 州特許裁判所による審理が適当か否かを裁判所が如何に判断するのか、今後の事例の集積を 待たねばならないが、その判断要素となるのは、当事者の性質(支払能力の範囲が州特許裁 判所の訴訟に限定されるか)、及び訴えの性質(訴額及び争点の複雑性)の両方である。従 って、州特許裁判所は、中小企業に対してそのニーズに資する手続を提供するのみならず、 複雑性及び訴額の低い訴訟であれば、大企業同士の争いであっても、活用される可能性があ るだろう。 _________________________________________________________________________ Alex Wilson [email protected] Peter Bell [email protected] 訳 南 かおり [email protected] Powell Gilbert LLP 85 Fleet Street | London | EC4Y 1AE | UK T +44 20 3040 8000 | F +44 20 3040 8001 | W www.powellgilbert.com
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