ビタミン B

306
17 章
代謝異常症
がみられる.罹患児は低出生体重児として生まれ,生後まもな
く痙攣などの神経症状を呈し,精神運動発達遅延,筋緊張低下,
哺乳力低下,低体温などをきたす.全身の血管異常や骨粗鬆症,
尿路感染症なども認める.
病因
coppertransporting ATPase(ATP7A )遺伝子の変異によって,
図 17.19
皮膚石灰沈着症(calcinosis cutis)
小児前腕伸側.数〜 7 mm 大の石灰沈着による丘疹・
小結節が多発し,一部で自潰融合し内容物が排出さ
れている.
腸管での銅の吸収に異常が生じるため銅の欠乏をきたす.X 連
鎖劣性遺伝形式で男児に好発する.
治療
銅塩の非経口的な投与が試みられ,軽症の症例には効果があ
る.責任遺伝子が同定されたため,遺伝子治療の対象になる可
能性がある.
4.皮膚石灰沈着症
calcinosis cutis
多量のカルシウム沈着により生じる黄色〜白色の硬い丘疹,
結節である.高カルシウム血症や高リン血症を伴い,胃,腎,
肺,筋,皮下などに石灰沈着をみる場合は,副甲状腺機能亢進
(腫瘍や慢性腎不全など)やビタミン D 過剰,多発性骨髄腫,
図 17.20
陰嚢石灰沈着症
(scrotal calcinosis)
腫瘍の骨転移などが原因になる.全身性強皮症や皮膚筋炎では,
血中カルシウム値が正常であっても,一症状として現れること
17
がある(図 17.19)
.特発性の症例も知られており,陰囊部に
生じたものを陰囊石灰沈着症と呼ぶ(図 17.20)
.
5.カルシフィラキシー
calciphylaxis
長期血液透析中で二次性に副甲状腺機能が亢進している慢性
腎不全患者などで,まれに微小外傷を契機として著しい疼痛を
伴う潰瘍が急速に拡大する(図 17.21).小動脈の石灰化が病
図 17.21
カルシフィラキシー(calciphylaxis)
E.ビタミン
理組織学的に認められる.予後は一般的に不良.
vitamin
ハルトナップ
Hartnup 病
(Hartnup disease)
1.ペラグラ
pellagra
●
ナイアシン(ニコチン酸,ニコチン酸アミド)の欠乏による.
●
皮膚炎(dermatitis),下痢(diarrhea),認知症(dementia)
E.ビタミン
307
の 3D を主徴とする.
●
慢性アルコール中毒,胃切除患者,偏食,イソニアジド内服
などにより生じる.
●
治療はニコチン酸アミドの補充.
病因・症状
ナイアシン(ニコチン酸,
ニコチン酸アミド)の欠乏による.
皮膚炎,下痢,認知症を 3 主徴とするが,近年では,これらの
3 症状すべてを生じる症例は少ない.皮膚症状は灼熱感と強い
瘙痒を伴う光線過敏症で,露光部に日焼け様の皮疹が出現し,
赤褐色紅斑や水疱,びらんを形成する.皮膚は粗造となり,境
界明瞭な黒褐色の色素沈着と皮膚萎縮を残す(図 17.22)
.頸
部前面に皮疹を呈したものをカザールの首飾り(Casal’
s necklace)と呼ぶ.口角炎や口内炎,舌炎も生じる.消化器症状と
して下痢や食道炎,悪心嘔吐などを生じる.また,末梢神経障
害,抑うつ,せん妄,幻覚などの精神神経症状が起こる場合が
ある.
検査所見・診断
全血総ニコチン酸濃度の低下を示す.ニコチン酸の代謝産物
である N 1.メチルニコチンアミドなどを 24 時間尿で定量する
と低値を示す.
他の光線過敏性皮膚炎との鑑別に注意を要する.
17
治療
ニコチン酸アミドを投与する.食事の改善,遮光などを行う.
2.ビオチン欠乏症
biotin deficiency
糖新生,アミノ酸代謝および脂肪酸合成に必要な補酵素であ
るビオチン(biotin)の欠乏によって生じる(図 17.23)
.亜鉛
欠乏症候群に類似した,顔面間擦部中心の落屑を伴う湿疹様病
変を生じる.舌乳頭萎縮,食欲不振,振戦,筋肉痛なども呈す
る.長期間の経中心静脈栄養患者や,新生児に生じうる.また,
ビオチン関連酵素の先天的異常により常染色体劣性遺伝形式で
乳児に発症する〔ビオチン依存症(biotin dependency)〕.
3.壊血病
scurvy
ビタミン C(アスコルビン酸)の欠乏により生じる.アスコ
ルビン酸はⅢ,Ⅳ型コラーゲンの合成に必要なヒドロキシプリ
ンの合成に不可欠であり,この欠乏が原因でコラーゲン合成が
低下した結果,血管壁や毛組織の脆弱化をきたす.毛孔一致性
図 17.22
ペラグラ(pellagra)
露光部の紅斑と黒褐色の色素沈着.不適切な食生活
により生じた.
308
17 章
図 17.23
ビオチン欠乏症(biotin deficiency)
代謝異常症
の角化と紫斑が特徴的であり,歯肉出血,歯肉腫脹を起こす.
また,倦怠感などの全身症状や易骨折を伴うこともある.ビタ
ミン C の補充によって速やかに回復する.
F.ポルフィリン症
porphyria
●
ヘム合成に必要な酵素が先天的あるいは後天的に障害され
ているために,ポルフィリンなどの中間生成物が肝臓や皮膚
などに蓄積し,症状を呈した病態の総称.
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●
肝性と骨髄性に大別される.
●
皮膚症状は,水疱を伴う光線過敏症が主.
分類・病因
ポルフィリン(porphyrin)はポルフィリン環をもつ分子の総
称で,グリシンとスクシニル CoA からヘムが生合成される過
程の中間代謝産物をさす.ヘムの生合成には 8 種類の酵素が関
与しており,その異常によりポルフィリンが蓄積されたものが
本症である(図 17.24).肝では P450 などの代謝酵素がヘム蛋
表 17.3
主なポルフィリン症候群の病型