猪浦道夫の 第4回 意味の変遷 言語学的連想ゲーム 〜語感の磨き方2〜 皆さんこんにちは。前回の宿題は解けましたか。blond, blend, 猪浦道夫(いのうら みちお) 米国ニューポート大学日本校准教授。横浜市立大学、 東京外国語大学イタリア語学科卒業後、同大学大学 院修士課程修了。イタリア政府留学生としてローマ大 学留学。帰国後、ポリグロット外国語研究所を主宰。著 書に『語学で身を立てる』 『3語で話すスペイン語』など がある。DHCカルチャーセミナーの講師としても活躍中。 吹き出る」の発想からです。 blind の「共通項」 とは何でしょうか。少々難しすぎたかと思いま ちなみに、 この spring に、接尾辞 -le をつけると spring-le > すが、 blond と blind については気づいた方もいるかも知れませ sprinkle となります。-le は、動作が縮小され反復される意味をも んね。 まず blond には「光り輝く」イメージがあり、 したがって「ま つ接尾辞であることを知っていると、 なるほど、 それで sprinkler か、 ばゆい>見えにくい」 という連想から blind の意味が出ます。一 と納得できます。 方、 blond は中世フランス語の blondé に由来し、 原義は「混ざっ ところで、spr- という音は噴出する感じがしませんか。sprout, た色>薄い茶色」の意味でした。この blondé は blend と語源的 sprint, spurt なども広い意味で同じファミリーの言葉ですね。それ に重なるのです。 ぞれの単語の意味を思い返して、 イメージしてみてください。 しょっぱなから前回の続きをお話してしまいましたので、 今回は、 このままもう少しこの手のクイズを出してみましょう。 2)の問題ですが、 week, weak の元になっている古いゲルマン 語の単語では「変わる」という意味だったようです 。そこから week は「時の変わり目>週」、weak は「変わる>変節しやす 1)spring という語には「春」、 「バネ」、 「温泉」の意味が ありますが、 それらの意味が派生してくる共通項は何でし ょう? 2)week と weak は同じ発音ですが、語源も同じです。と すれば、どういう共通項があって、 「週」と「弱い」の意 味になったのか? 3)speak と spark は同語源ですが、 その意味的共通項 は? 4)kind は「親切な」 (形容詞) という意味と「種類」 (名詞) の意味がありますが、 その共通項は? 5)minute には「分」のほかに、 「微細な、綿密な」の意味 の形容詞(この場合、発音は [mainjú:t] )がありますが、 その共通項は? い>軟弱な>弱い」 となったようです。 3) の答えは、 ゲルマン民族の女性は「火花を散らすように話す」 からだとか。確かにドイツ語は強い子音が多い言語で、 イタリア人 などから見れば、 ドイツ人の会話は火花が散っているように感じら れるかも知れませんね。 4) は難問です。本来、 非常に古い印欧語では gh-n の語幹は 「女性」を意味し、 そこから出産、血縁のニュアンスを帯びる単語 がたくさん作られました。ロマンス系言語ではこの語幹は g-n とな り、 ゲルマン語系では k-n となったのです。前者からはフランス語 を通じて、generous, generate, general, genre, gynecology, hydrogen などの語を生み、後者からは kin, kind, akin, king, queen などの語が派生しました。kind, generous は「親族に対す るような態度の>親切な」 となり、 genre, kind は「生み出された結 果できたもの>種類」 となったわけです。 5) は比較的易しいでしょう。いずれもラテン語の mini- の語幹 から来ていますので、 「細かくされたもの」がその原義ですね。 こうした連想を働かせると、言葉の意味がどのように変化する か観察でき、 ひとつひとつの語に対する感性が磨かれるばかりで まず1)です。母音は変化していないのですが、spring には上 述の3つの意味があります。まず、温泉とバネの共通項は「噴出 する>勢いよく飛び出る」ですね。では「春」は?そうです、 「芽が なく、 それを通して、 日本語についても考え直すよいきっかけにな ります。 それでは、 また次回をお楽しみに。
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