Chapter 25 Ecosystem metabolismⅠ: Primary Production 生態系における物質代謝(循環)Ⅰ:一次生産 動物・植物群集や生態系について研究する時、大まかに二つの方法がとられる。 ① 物種を生物学的実体として取り扱う方法。生物種ごとの適応や種間の相互作用に注目する。 これまでの4つのチャプターで用いられた。 ② 生態系をエネルギー機会や栄養物処理装置として物理学的にとらえる方法。 ⇒次の3つのチャプターの主題 生態系全体の物質循環を動植物個体の代謝の積算として考えると理解しやすい。 →生物個体は代謝や成長、再生産によって失われたエネルギーを絶えず外部から補給している。 生物個体はエネルギーや物質の複合処理装置とみなせる。群集には独立栄養者と従属栄養者が 混在する。 独立栄養者:エネルギーを太陽から、物質を非生物的資源から得ている。緑色植物は独立栄 養者である。 従属栄養者:他の生物を食べることでエネルギーや物質を得る。植食者は植物を食べる従属 栄養者、肉食者は他の植食者を食べる従属栄養者である。 生態系における物質代謝(循環)の理解 ①群集における食物網を見つけだす(チャプター23 を見よ)。 ②群集における物質循環においてどの生物が重要であるかを判断。 生態系の中での相対的な重要さを定義するのに3つの測定値が用いられる。 (1)バイオマス 種ごとの重量や現存量を測ることは重要である。代謝速度や再生産速度が速ければ、生産性は 高い(回転率が高い)。Fig. 25.1 は平衡群集において収穫量がバイオマス(現存量)に影響しな いことを表す。 (2)化学物質流動量 生態系は食物を取り込み、利用し、排出する超有機体とみなすことができる。群集の中で全物 質は何度も再利用される。 (3)エネルギー流動量 生態系はエネルギーの変換器とみなせる。太陽光のエネルギーは光合成によって固定され、こ のエネルギーは植物→植食者→肉食者に移り変わっていく。エネルギーは生態系の中を一度だけ 移動し、再利用されない:熱に変わって系から失われる。 1 生態系における物質循環を研究する上で、パラメータを何にするかが問題 多くの生態学者は炭素量あるいはエネルギー量を使う。炭素以外の元素の量は生物の特性によ って大きく異なってしまう。たとえば、脊椎動物や軟体動物は骨格や貝殻を持つため、淡水産無 脊椎動物より多くのカルシウムを含んでいる。ある種の海産無脊椎動物は特定の物質を多く含む。 また個体差もある。哺乳類の歯や骨格に含まれるカルシウム濃度は長期間一定であるが、血しょ う中のカルシウム濃度は摂取や排泄によって急速に変化する。だから、生態系におけるカルシウ ムの流動を測ることはとても困難である。ほとんどのエネルギーは再利用されないので、エネル ギーを測るのは物質を測るより容易である(Fig. 25.2) 。 一次生産 光合成は全ての生命の礎であり、群集における物質循環を研究する起点である。 地球の living マントルの大部分は緑色植物で(重量で 99.9%)、残りわずかが動物である。 光合成: 12H2O + 6CO2 + 太陽光エネルギー → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O 呼吸: C6H12O6 + O2 → CO2 + H2O + 獲得エネルギー 補償点:光合成量 = 呼吸量 総生産(量):独立栄養生物(光合成生物および化学合成生物)による有機物生産量。生産を行 う生物自身の呼吸などにより消費される前の,炭酸固定量そのものを指す。 純生産(量) :総生産(量)− 呼吸(量) エネルギー流動を加味すると、 12H2O + 6CO2 + 2966kJ + 太陽光エネルギー → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O ・・・6モル(標準状態で)の CO2を固定すると 2966kJ のエネルギーを吸収できる。 一次生産量の単純な測定方法 ΔB=B2−B1 ΔB=時間1(t1)と時間2(t2)の間のバイオマス変化量 B1=時間1(t1)のバイオマス B2=時間2(t2)のバイオマス L=植物全体あるいは一部の死亡によって失われたバイオマス G=食われたことによって失われたバイオマス 純生産量=NPP=ΔB+L+G 植生のタイプによって純生産量は異なる。Table. 25.1、Fig. 25.3 2 総生産効率=総生産に利用されたエネルギー量 / 太陽光として照射された全エネルギー量 Kozlovsky(1968)は、Mendota 湖の水中群集において、 総生産効率=20,991kJ / m²/ yr 総生産 / 4,973,604kJ 太陽光 =0.42% と計算した。植物プランクトンの生産効率は一般に低く、0.5%以下である。浅海域の着底性藻 類や海藻の生産効率は高い。また、草本群落(1.0-2.0%)あるいは農地(1.5%以下)より森林(2.0-3.5%) の生産効率の方が高い(Kira 1975)。 森林では、総生産量の 50-75%が呼吸によって失われる。純生産量は総生産量の 1/4 程度に過 ぎない(Kira 1975)。 一次生産の制限要因 自然界において、一次生産速度は何の影響を受けているのか。この疑問をめぐって、陸上植物 群落よりも水中植物群集についての研究の方が進んでいる。 水生植物群落(植物プランクトン群集) 水中では、赤外線を含む太陽光の 50%は深度 1m までで吸収される。透明な水でさえ、深度 20m まで届く光は 5-10%程度である。 dl / dt = kl l = 照射された全太陽光(J / m²/ 単位時間) t = 深度 k = 吸光計数(一定) Fig.25.4: 水の透明度が低いと k の値は大きい。 Fig.25.5: カリフォルニアの 3 つの湖での深度と光合成速度の関係。Clear 湖は富栄養湖で生産が 高く、光の透過度は低い。Castle 湖は生産は中間で、水深 20m くらいまで光合成が行わ れている。Tahoe 湖は貧栄養の山岳湖で、生産は低いものの水深 100m でも光合成が行 われている。(Goldman 1988) 海洋植物プランクトン群集 (→ 生物海洋学入門 第三章に詳しい) 海洋では、光強度が一次生産の第一の制限要因である(Platt et al. 1992)。 North Pacific Central Gyre 中部太平洋循環(Fig. 25.6):大規模で安定した循環系 →循環系の内部は外部からの移流が遮断されているので、一次生産を測りやすい 3 →Fig. 25.7: Hayward 1991 は Fig. 25.6 の*で水温、リン酸塩濃度、硝酸塩濃度、クロロフィル量、 一次生産量を測定。全ての一次生産は 90m 深までの有光層(太陽光の 1%以上が届く深度)内 で行われている。海表面では強光阻害のために一次生産は最大ではない(最大は 10-30m 深)。 光強度が第一の制限要因であるなら・・・ 光の照射量は低緯度で多く極地で少ない。一次生産量も同じ勾配になるはず。 →Fig. 25.3 を見ると、熱帯や亜熱帯(サルガッソ海、インド洋、中部太平洋循環)では一次生産 が低い。一方、北大西洋、アラスカ湾、ニュージーランド南部の海では生産が高い。アフリカ や南北アメリカ大陸西海岸で一次生産は最も高い。 →なぜなら、一次生産には栄養塩濃度(リン酸塩、硝酸塩)が影響するからだ(Fig. 25.7)。 硝酸塩は海洋の大部分で植物プランクトンにとっての制限要因になっている(Ryther and Dunstan 1971, Platt et al. 1992)。 例)ニューヨークの Long Island(Fig. 25.8a)ではアヒル養殖によって窒素とリンが海洋に流出した が、窒素だけが直ちに藻類に取り込まれた(Fig. 25.8b)。また、栄養塩付加実験によって窒素が 藻類の数を制限していることが分かった(Fig. 25.8c Ryther and Dunstan 1971)。 赤道太平洋では窒素濃度型海にもかかわらず、一次生産が低い。 →植食者によるトップダウン効果によると説明されてはいるが、不十分。 そこで・・・ ① Menzel and Ryther 1961 はサルガッソ海で採取した海水に様々な栄養塩を付加した(Table)。す ると、鉄が制限要因であることが分かった。 ② Coale et al. 1993 は赤道太平洋で、72km²の鉄イオン濃度の低い海域に鉄を散布した。すると、 一週間でクロロフィル a 量は 27 倍になり、窒素は 35%減少した! 鉄はシアノバクテリア(藍藻類)が窒素固定を行う上で、不可欠な物質。 鉄 → シアノバクテリア → 窒素固定 → 植物プランクトン Dowing et al. 1999 は 303 回もの栄養塩付加実験を行った。 →植物プランクトンの成長を制限しているのは窒素と鉄であり、優占種が珪藻である場合のみケ イ素が制限要因となることが分かった(Fig. 25.9)。 海洋は陸に比べて生産性がかなり低い 肥沃な土地は 5%の有機物と 0.5%以上の窒素分を含む。1m²の土地に乾燥重量 50kg の植物が 生える。一方、海洋では富栄養な海水でさえ 0.00005%の窒素しか含まない。水柱 1m²断面には 乾燥重量 5g の植物プランクトンしか含まない。(Ryther 1963) 4 近年、衛星リモートセンシングデータから一次生産量を推定できるようになったことは、海洋 生態学のエキサイティングな発展の一つだ(Longhurst et al. 1995, Falkowski et al. 1998)。Fig. 25.10 ではクロロフィル量の変化から、植物プランクトンのブルームの様子を見てとれる。 結論:海洋においては光強度ではなく、植物プランクトンの成長に影響する窒素と鉄が一次生 産の制限要因となっている。 淡水植物プランクトン群集 1970 年代、湖水の汚染が深刻になった。各地で富栄養化が起こり、優占種がケイ藻や緑藻か ら藍藻に変わった。当時、富栄養化には窒素、リン、炭素が関わっていると考えられていた。 1974 年Schindler and Feeによるオンタリオ湖での栄養塩付加実験 ・・・淡水湖での富栄養化におけるリンの役割を明らかにした(Fig. 25.11)。 227 番湖では、5 年間にわたってリンおよび窒素濃度を高めた結果、植物プランクトンの現存 量がコントロール湖の 5 倍になった。また、226 番湖を二つに区切り、一方には炭素と窒素のみ を付加し、他方にはリン、炭素、窒素を付加した。すると、3 つ全てを付加した方のみで、藍藻 類のブルームが見られた(Fig. 25.12)。この実験により、温帯の淡水湖ではリンが植物プランクト ンにとっての制限要因になっていることが分かった。 リンを付加すると今度は窒素や炭素が制限要因となるが、長期的に見ると窒素や炭素の欠乏は 緩和される(Schindler 1977,1990)。水の攪拌や大気とのガス交換といった物理的要因によって CO2 は供給されるし、窒素は藍藻によって固定されるからだ。結局、淡水湖ではリンが植物プランク トンにとっての制限要因なのである(Fig. 25.13)。 藍藻は ① 大きな群体を作る 植食者や魚の餌になりにくい ② 有毒である(DeMott and Moxter 1991) →優占しやすい ③ 消化されにくい 藍藻は大気中の窒素を固定できるから、窒素濃度が相対的に低い環境では有利。 →Washington 湖(p.477 を見よ)では、窒素−リン比が 23 以下の時藍藻が優占するが、25 以上に なると藍藻は消える(Tilman et al. 1982)。富栄養化が起こった時、リンは湖に絶え間なしに注 ぎ込まれ、窒素−リン比は下がる。このとき窒素が制限要因となる(Fig. 25.14)。 結論として、淡水の植物プランクトンにとっての制限要因はリンとケイ素(ケイ藻にとって) であり、時に窒素や鉄が制限要因となる。 5 Essay 25.1 栄養塩比と植物プランクトン 海洋学者である A. C. Redfield は 1958 年、全ての外洋性生物の元素組成比は C:N:P=106:16:1 (レ ッドフィールド比)となっていることを発見した。外洋性生物の元素組成比は一律であるのに対 し、淡水性植物プランクトンの元素組成比は多様性に富んでいる。植物プランクトンの C:N:P 比は生息水の C:N:P 比や pH によって変わる(Sterner and Hessen 1994)。51 の淡水湖で植物プラン クトンの元素組成比を調べた結果、C:N 比は 4-20、C:P 比は 100-550 とレッドフィールド比には 従わなかった(図)。 一般に、淡水産植物プランクトンはリンや窒素に比べて炭素を多く含む(相対量として)。な ぜか。C:P 比の高い藻類は動物プランクトンのような植食者にとって質の低い餌となるが、微生 物にとっては質の高い餌となる。C:N:P 比は食物網の構造に影響する。動物プランクトンは種ご とに異なる藻類を捕食する。そのため C:N:P 比は種ごとに異なる。一般に、C:N:P 比の多様性は 植物、バクテリア、動物プランクトン、魚の順に乏しくなる(Sterner et al. 1998)。 陸上植物群落 緑色植物は光合成を行っているため、その反射スペクトルの波長は可視光(0.4-0.7μm)と近赤 外光(0.725-1.1μm)という特有のパターンを示す(Goward et al. 1985)。生きている植物は植生 index によって周りの岩、土、水と区別できる(Box 25.1)。よく用いられる植生 index として、標準植 生 index 差というものがある。これは近赤外光と可視赤色光のスペクトルの比である。 NDVI = NIR-RED / NIR+RED NDVI = 標準植生 index 差 NIR = 近赤外光反射率 RED = 赤色光反射率 この index は一次生産と密接に関連している(Graetz et al. 1992)。気象衛星 NOAA に搭載された AVHRR センサーや Sea Star 宇宙船に搭載された SeaWIFS を使って地球の植生がモニターされて いる(Fig. 25.15)。 Box 25.1 衛星データを用いた一次生産量推定 狭い範囲の一次生産を推定するのは比較的容易であるが、地球規模での一次生産量推定には衛 星データが用いられる。植物は 400-700nm の波長の光だけを光合成に利用する。純生産量は次 式で表される。 NPP = (APAR)(ε) (25.4) NPP=純生産量(C g / 単位面積 / 年) APAR=光合成有効放射(J / 単位面積 / 年) 6 ε=平均光利用効率(C g / J) 衛星では APAR を推定する時に必要な波長の光を測定できる。海洋では、得られた APAR か ら直接表層のクロロフィル量を測ることができる。陸上では、衛星データからその場所の緑度(植 物の繁茂度合い?)を測定することができ、それを使って植生 index(NDVI)を求めることができ る。 NDVI = NIR-RED / NIR+RED (25.5) NDVI = 標準植生 index 差 NIR = 近赤外光反射率 RED = 赤色光反射率 NDVI から APAR を推定することができる。 (25.4)のεおよび光利用効率は衛星データからは得られず、実際に野外で測定する必要がある。 εを測定するのは非常に大変で、実際に純生産量を算出する時、多くの場合不正確な推定値が使 われている。海洋ではεは水温から算出される。陸上では植生のタイプ(森林、草原、ツンドラ) や最適温度、水分量、栄養分量と生息環境におけるそれらの値との差(どれだけその植物にとっ て過酷な環境下にあるか)から推定される(Field et al. 1998)。 今日では、陸上生態系の一次生産を推定するための色々なモデルで互換性の高いε算出されて いる(Cramer et al. 1999)。 陸上植物群落で一次生産を制限している要因は何か Rosenweig(1968)は蒸散量を用いて陸上植物群落の生産量を精度よく測る方法を提示(Fig. 25.16)。 ・・・地上から大気中への蒸発水分量と植物を経由して大気に排出された水分量を太陽光、気 温、降水量から推定し、蒸散量を算出。 Kira(1975)は色々なタイプの森林の一次生産量を算出。 Fig. 25.17 は日本における5つのタイプの森の一次生産量を表している。 ・温帯の常緑広葉樹林は最も生産性が高いが、森林のタイプによって生産性に大した違いはない。 ・平均値を比較すると、同じ環境下では落葉樹の生産性より針葉樹の生産性の方が高い。 →生産性の違いは成長期間の違いや葉の表面積の違いによる。針葉樹は落葉樹に比べ葉の表面積 が広く、成長期間が長い。Fig. 25.18 では針葉樹と広葉樹の総生産量が、葉の表面積と成長期 間の長さをもとに正確に推定されている。成長期間の長さは気温によって決定される。 草原の一次生産にはC3 植物とC4 植物(P.99 を見よ)の相対量が影響する アメリカのグレートプレーンズでは気温の高いところで C3 植物の生産が低く、降水量の多い ところで C4 植物の生産が高い(Epstein et al. 1997)。グレートプレーンズでは C4 植物が約 74%優 7 占しており、C3 植物は北部の寒冷地のみに存在する(Fig. 25.19)。 ※C3 植物:CO2 を C3 化合物(PGA)として固定。イネ、コムギなど多くの植物が該当。 C4 植物:CO2 をまず C4 化合物(オキサロ酢酸やリンゴ酸)として固定。C3 植物に比べて光飽 和点や最適温度が高く、強光・高温下で有利。トウモロコシ、サトウキビなど。 Cargill and Jefferies(1984)は亜北極の塩湿地に窒素とリン付加実験を行った(Fig. 25.20)。捕食の ない条件下で、窒素を付加した時一次生産は 2 倍になり、窒素とリンを付加した時一次生産は 4 倍となった。 →この湿地では、窒素が第一の制限要因であり、窒素が十分にある時リンが制限要因となること が分かった。 土から吸い上げられ、植物に利用された栄養分は、植物の枯死によって再び土中へ戻る。陸上 植物群落では植物の現存量と栄養分の備蓄量とが密接につながっている。これは海洋植物プラン クトン群集と大きく異なる点である。 Essay 25.2 木の一次生産は加齢と共に減少するのはなぜ? 森林管理者は、木の加齢と共に成長量や生産量が減少することを知っている。森林の純生産量 は若年でピークとなり、その後加齢と共にピーク時の 76%程度にまで減少する(Gower et al. 1996)。 たとえば、ロシアでは樹齢 140 歳のノルウェートウヒの生産量は 70 歳でのピークの 58%にまで 減少したという報告がある(図)。 なぜこのようなことが起きるのか。3 つの仮説がある。一つ目は、呼吸と光合成のバランスが 変化するためだというものである。成長と共に植物は呼吸する組織を増やし、多くのエネルギー を失う。また、光合成を行う葉の相対量が減少する。しかし、近年、白木質はほとんどエネルギ ーを使用しないため呼吸量は加齢と共に増加しないことが判明し、この仮説では疑問を解決でき ない。二つ目は、加齢と共に窒素分が不足するからだというものである。一般に窒素は木の成長 の制限要因である。森林の加齢と共に土壌には多くの木くずが蓄積する。木くずは葉くずに比べ て分解される速度が遅い。そのため多くの窒素は森林表土の木くずの中に閉じこめられてしまう。 三つ目にして最新の仮説は、加齢と共に気が大きくなると葉への水輸送が制限されるからだとい うものである。木が大きくなると根から気候までの距離が長くなり、水圧の抵抗が増す。木は水 分を保持するために気候からの蒸散量を減らす。光合成量は蒸散量と強く関係しているので、蒸 散量が減ると生産量は減る。実際、樹齢の高い木は低い木に比べて気孔を早く閉じることが観察 されている。 近年の森林成長モデルでは、加齢による生産量減少の原因として栄養分の制限(仮説 2)と水 分輸送の制限(仮説 3)が同程度に重要であることが示されている。呼吸量の増加というのは生 8 産量減少の原因にはなっていない(Gower et al. 1996)。森林の一次生産を制限している要因は何で あるかを知ることは、気候変動が生態系に与える影響を理解する上で重要なことである。 植物の多様性と生産性 「種多様性に富んだ生態系ほど生産力が高い」→種多様性を保全する理由の一つ この仮説は異なるニッチェの植物が補足的に異なる資源を使うという考えにもとづいている。 これに従うならば、種多様性に富んだ植物群落ほど資源を余すことなく使うため、生産性が高い ということになる。しかし、多様性が増しすぎると過度の競争が起こるため、実際多様性は理論 上の許容範囲より低く抑えられる。したがって、陸上植物群落の生産性と種多様性の関係は Fig. 25.21 の様になる。 ・ 一次生産性がある程度以上の場合、生産性と種多様性は負の関係 Silvertown 1980 による長期にわたる実験 イギリスの Rothamsted 実験場内にある牧草地に石灰と肥料を撒き牧草の生産量への影響を調 べた。結果、牧草の生産性と種多様性には負の関係があった。1856 年以降、毎年窒素を付加し たら表のように時間と共に種数が減少した。種数は減少したにも関わらず、肥料を付加したプロ ットの生産性は高く維持された。Fig. 25.21 の右半分と同じ。 ・貧栄養な土壌や厳しい物理的環境下にある陸上植物群落では生産性と種多様性には正の関係 Tilman et al. 1997 の実験 貧窒素土壌である Minnesota 草原で、289 カ所の実験区(13m×13m)に 1、2、4、6、8、16、32 種の多年生植物の種子をまいた。すると、生産性と種多様性には正の関係が確認された(Fig. 25.22)。この植物群落では種数が 10 程度になると生産性が安定する。生産性は C3 植物、C4 植 物、マメ科植物、広葉草本植物(イネ科以外の雑草) 、木本植物の順に高かった。 生産性は優占種によってコントロールされる(Grime 1997)。陸上植物群落の生産性はその群落 の優占種の生態的特徴に関係している。 地球規模で見ると、一次生産は太陽光、気温、降水、栄養分などの物理的環境によってコント ロールされている。植物は厳しい環境に適応し、全ての生物に必要な栄養分を光合成によって作 り出している。 Summary 群集はエネルギーや物質を処理する複雑な装置とみなせる。生態系の物質循環を理解するには、 群集における食物網を同定し化学物質やエネルギーがその中をどのように動いているのかを追 跡する必要がある。多くの生態学者はエネルギーを測定することによって、群集の物質循環理解 9 しようとする。エネルギーは再利用されないので測定しやすいのだ。 一次生産は単位時間に緑色植物の光合成によって固定されたエネルギー量や炭素量によって 測られる。吸収された CO2 量は同位体 14C を用いて直接測定できるし、成長量から間接的に推 定することもできる。 全照射太陽光のうちわずか 1%だけが緑色植物に吸収され光合成に利用される。森林では相対 的に効率よく太陽光が利用されるが、水中植物プランクトン群集では相対的に効率が低い。 地球規模で見ると、一次生産量は地理的変異に富む。生産量は熱帯雨林で最も高く、北極、山 岳地帯、砂漠で最も低い。海洋全体の生産量と陸上全体の生産量はほぼ等しい。単位面積あたり の生産量は海洋より陸上の方が高い(沿岸域や湧昇域を除く) 。海洋では窒素と鉄が絶対的に乏 しいからだ。淡水湖では光、水温、栄養塩が一次生産の制限要因である。栄養塩のうち、リンが 制限要因となっていることが多い。 陸上植物群落の一次生産性は成長期間の長さ、気温、降水量によって決定される。生産性はさ らに栄養分による制限を受ける。腐葉土や木くずによって植物の成長が助長されるということは、 生物群集内の栄養分循環を研究する上で重要な現象である。 衛星リモートセンシング技術の発達によって、大きな空間スケールにおける海洋や陸上の一次 生産量の空間的・時間的変異をとらえられるようになった。一次生産の制限要因が何であるかを 知ることは、気候変動が自然生態系あるいは農業生態系に与える影響を理解する上で重要である。 Key Concept 1. 群集では緑色植物が太陽光エネルギーを処理する。光合成によって固定されたエネルギー によって食物網の全栄養段階の生物が支えられている。 2. 地球表面に届いた太陽光のうち、わずか 1%あるいはそれ以下のみが緑色植物に吸収され利 用される。 3. 一次生産量は地球規模で地理的変異に富む。海洋面積は陸上の倍以上であるのに、全一次 生産量は陸上と海洋とでほとんど変わらない。 4. 水中の一次生産量は栄養塩による制限を受けている。海洋では窒素と鉄、淡水湖ではリン が制限要因となっている。 5. 陸上では、気温、水分量、栄養分が一次生産の制限要因となっている。窒素とリンが主な 制限要因であるが、微量金属が制限要因となっている土壌もある。 6. 今日、衛星リモートセンシングによって陸上・海洋における大きなスケールでの一次生産 量の変化を見てとることができる。 Questions and Problems Overview Question 農業生態系(農地)における一次生産の制限要因は何か。野生植物群落と農地との一次生産制 御の違いを挙げ、安定的な農業生産との関連について議論せよ。 10
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