大阪透析研究会 - 一般社団法人 京都府臨床工学技士会

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一般社団法人京都府臨床工学技士会ニュース
2010年4月号
一般社団法人
京都府臨床工学技士会ニュース
第74回
大阪透析研究会
去る3月14日大阪国際会議場にて第74回大阪透析研究会が開催されました。朝9時から夕方5
時まで、5会場に分けて多くの演題が発表され、全国学会さながらの多くの参加者が集うなか盛大
に開催されました。その中の特別講演「透析患者予後向上への方策」と題して、秋澤忠男先生(日
本透析医学会理事長・昭和大学腎臓内科教授)による講演の一部を紹介いたします。
世界の慢性腎不全患者の数は283万2452人に1一人にあたる。人口100万人当たりで見ると、
2000年から台湾が1位、続いて日本が2位で、米国が3位になっているが、透析患者の導入数で見る
と、台湾が1位、米国が2位、3位が日本となっている。米国は日本より沢山の患者を透析導入して
いるが、透析の予後が悪かったり、移植によって全体の患者の数は減っている。米国は全体の維持
透析患者数は増えているが、導入患者数はここのところ、横ばいになっており、導入患者数はピー
クを迎えている。これは米国のCKD(慢性腎臓病)対策が
効果を上げて透析導入患者数が横ばいになっていると言う
楽観的な見方もある。しかし2万8000人のCKD(慢性腎臓
病)患者のその後のデータを見た研究があるが、そこには
透析に導入される患者の何十倍もの患者が死亡している。
92万人のカナダの研究をみると、GFRの低い患者で、透析
に 入 る 患 者 は 年間 1200人 中 64 人、死 亡 する 患者 は 年 間
1200中10人くらいで、必ずしも米国のデータと一致するも
のでは無い。
DOPPSのデータを見ると、日本の透析患者の亡くなる
確立を1.0とすると、ヨーロッパは2.5、米国は3.8となり、
日本の透析患者の予後が最も良いことが分かる。しかしな
がら世界で最もよいと言われる日本においても、日本透析医学会の統計調査によると普通の人の半
分くらいの生命予後しかないというのが現状で、そこを何とか改善していかなければいけないと言
うのが私たちに強いられた大きな課題である。
透析患者の死亡の原因は、心不全・感染症・脳血管障害・心筋梗塞と続く、心脳血管系の死亡は
全体の40%にも達する。日本人全体の28%よりもずっと高い、透析患者の予後を改善するには、循
環器病の死亡に対する対策が重要であり、透析導入後の患者だけでなく、慢性腎臓病の保存期から
しっかり治療をしていかなければいけない。慢性腎臓病での心血管系のリスクファクタにはどんな
ものが紹介されているかと言うと、AHAでは、昔から言われている高齢・男性・喫煙、それに加
えてCKDに特異的なファクタがある。貧血、Ca、Pなどは治療できるが、ホモシスティンやアルブ
ミン尿症、リポタンパク(a)、アポ(a)アソフォーム、リポタンパクレムナント、エンドセリ
ンなどは介入が難しい。
貧血については、椿原先生(大阪府立急性期・総合医療センター)たちがまとめた日本透析医学
会の貧血ガイドラインが出来上がった。ヨーロッパや米国のガイドラインとほとんど同じで、通常
Hbは11から12g/dl、13g/dlを超えないようにとなっている。日本のガイドラインも透析患者は10か
ら11g/dlで、活動的な人は、11から12g/dlで保存期とPD患者では11から13g/dl、心疾患を合併して
いる患者は、11から12g/dlとほぼ同じ値となっている。昔から観察試験によると、高いHbの患者
は予後が良いという報告がされている。DOPPSのデータでもHbが11-12g/dlの患者に比べて、Hb
の低い患者では予後が悪い。この間には有意の逆相関関係がある。
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2010年4月号
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去年の11月にもう一つ新しいスタディ(TREAT study)の結果が報告された。糖尿病性腎症に限定
して、24カ国623の施設で2重盲検法によって、プラセボとダルベポエチンαを投与する群とに分け
て予後を評価するスタディが行なわれた。ダルベポエチンαを投与する群の目標Hbは13g/dl、プラ
セボ群のHbは9.0g/dl下回らない程度に維持するよう設定された。エンドポイントは死亡、心筋梗塞
などのthromboembolic(血栓塞栓症)、心不全、脳卒中などが4年間に渡り評価された。死亡と透
析導入について有意差は認められない。また心臓血管系の予後につい見ても有意差は認められない
が、脳卒中につて見ると、Hbが13g/dlの方が2.6%高い、発症率が2倍になり有意に高い。全体の副
作用については差が認められ無かったが、ESA(エリスロポエチン製剤)であるダルベポエチンα
を使用した脳卒中のリスクが高いので、注意する必要がある。血行再建術はESAを投与した群の方
が少ないなどのデータもあるが、静脈でのthromboembolicの発症はESAを投与した方が、有意に多
い。TREAT studyでは、保存期CKD患者にESAを投与するメリットが明らかにならなかった。世界
的に注目されている。
日本のデータはどうか、CKDの患者で、クレアチニンが2から6mg/dl、GFRが30ml/min以下の患
者さんを2つの群にランダムに分類、一つはダルベポエチンαを
投与して、Hb:11から13g/dl(高Hb群)、もう一つの群はダル
ベポエチンαを週に1回投与してHb:9から11g/dl(低Hb群)に
分類して3年間の予後を見た。その予後は、腎移植、死亡、透析
導入、LVMI(左室心筋重量係数)、QOL score、安全性など、
低いHb群では40%透析導入やクレアチニンの倍化、LVMIでは
増加するなど有意差がある。高いHbではLVMIは低下し、心臓
肥大を防ぐ、または心臓肥大を改善していると作用があること
が分かってきた。高いHbと低いHbでの有害事象の発症につい
ても差は認められず、高いHbにすることによって腎保護効果や、心臓肥大の抑制または改善の効果
が期待できる結果となっている。
米国と日本のデータは何が違うのか?米国のCHIORスタディと日本のJETスタディ(透析導入時
のデータ9000件)では患者背景が明らかに違う。米国の方が患者さんの合併症がひどいことが分か
る 。ESAの投与量は、日本と米国では違う。CHIOR試験では10952IU/週、TREAT試験では、
8800IU/週と日本のJET試験の上限6000IU/週よりもはるかに多い。
保存期を中心に行なわれてきた試験により最近ガイドラインが変ってきた。透析患者ではどう
か。今年、4500施設、269,717例の膨大な透析導入患者さんを対称に行なわれた観察試験が報告さ
れた。米国で1997年から2007年に導入した患者の貧血治療パターンを解析して年間のESAと鉄剤投
与を調べて、1年間の全死亡リスクにどのような影響を及ぼすかを調査したものである。
この試験では、①Ht:30%未満、②Ht:30-33%、③Ht33-36%、④Ht:36%以上の4つに分類し、
死亡率を見た場合、①死亡率:2.1%、②死亡率1.3%、③死亡率:0.9%、④死亡率:0.7%とHtが高
い方が死亡率が低い。またHt:30未満の患者をESA投与量を5段階に分類して評価するとESA・鉄剤
投与量の増やす方が予後が良い。Htが高い患者は、ESA・鉄剤投与量を増やすと予後は悪くなると
ういう結果が出ている。HtのデータにあわせてESAや鉄剤の投与量をコントロールする必要があ
る。この試験ではESAの1日あたりの投与量は3744IUが最も良い結果が出ている。日本のデータと
は大きな差があり、参考にはなるが我が国の実態とは少し違うことを念頭に入れる必要があるとの
ことでした。
この後も講演は、リン・カルシウムに対する対策へと続きますが、紙面の都合上割愛させて頂き
ます。透析患者の予後向上のために大変分かりやすく内容の濃い講演でした。毎回この大阪透析研
究会は勉強になる要素がたっぷりで大変ためになる学会です。みなさんも次回は参加してみては如
何でしょうか。次回75回開催は9月5日大阪国際会議場で開催される予定です。
(記事:川端診療所 藤井 耕)
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