本講義のスタンス • 本授業では、業績向上のための「秘策」「即 効薬」を教えるものではない。 第一回 戦略とは何か • 経営戦略に関する「論理」あるいは「ものの考 え方」について紹介する。 – 正解はない – とはいえ、場当たり的もない – 経営現象を理解するための 「概念レンズ」を身に着ける ことが大切 1 2 戦略という言葉の語源 「なぜ、あの企業は儲かるのに、 この企業はもうからないのか?」 リーダーが 優秀だから? 政府や規制に保 護があるから? 技術力が あるから? 顧客のニーズ をつかんで いるから? 資金調達が うまいから? 立地が いいから? • 2500年ぐらい前 ギリシア語にさかのぼる。 Strategy =「アテネの軍隊指揮官」を指す • 「戦略」という言葉が軍事用語としての意味をもつよう になったのは、18世紀半ばから19世紀初頭のこと。 →クラウゼヴィッツ「戦争論」 →局所的な戦いを「戦術」、継続性を帯びる戦争の中 で上位概念を満たすことを「戦略」 • 経営の分野に「戦略」が導入されたのは、20世紀半 ばぐらい。 →「巨大企業の多角化」とそれに伴う「事業部制組 織の導入」がきっかけ。 協力なライバル の有無? 取引先を 囲いこんで いるから? 3 4 戦略とはなにか?多様な見解 経営と戦略の違い • 経営とは「後ろ向きの営為も含めて、すべて の業務を対象としたもの」 • 戦略とは「長期収益性の最大化に直接関与 する営為だけを切り出したもの」 • 戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。(孫子) • 戦術より広範な作成計画。各種の戦闘を統合し、戦争を全局的に運用する方 法。転じて、政治社会運動などで、主要な敵とそれに対応すべき味方との配置 を定めることをいう。(広辞苑) • そのプレーヤーが、全ての可能な状況の下でどのような選択肢を選ぶかを明 示する包括的計画。(フォン・ノイマン&モルゲンシュタイン) • いかに競争に成功するか、ということに関して一企業が持つ理論 (バーニー) • 無数の行動と意思決定の中に見いだされるパターン(ミンツバーグ) • 組織の目標を達成するための方法(ハッテン&ハッテン) • コア・コンピタンスを活用し、競争優位を獲得するために設計された、統合かつ 調整された複数のコミットメントと活動(ヒット、アイルランド、ホスキッソン) » 三品(2005) 5 6 戦略の7つの側面(Chafee,1985) 戦略について いろんな人が、 いろんな立場から、 いろんな定義を している。 7 経営戦略論の主なトピック:時代によって変わる内容 時代 環境・課題 不確実性への適応 1960年代 主要論者 アンソフ 企業の成長 1970年代 1980年代初頭 「戦略」に含まれる含意 トピック 戦略計画 多角化、シナジー A.チャンドラー 多角化 多角化のマネジメント ボストン・コンサルティング・グルー プ(BCG) 、マッキンゼーといったコ ンサルタント SBU 資源配分(PPM)、 PIMS 多角化企業の成長 レビット ドメイン 日本型経営の成功 ボーゲル TQM. 論点1:望ましい結果を求める意思とそれを 実現する方法 • 「競争で勝ちたい」、「利益を得たい」、「~したい・な りたい」、といった成果を求める意思。多くの場合、 組織全体を繁栄させたいという意思がある。 ミンツバーグ プロセス型戦略 コングロマリットの進展 事業単位の競争力強化 ポーター 競争戦略 1990年代初頭 内部資源と組織能力 (日本企業の成功) ハメル&プラハラッド ストーク&エヴァンズ コアコンピタンス ケイパビリティ(組織能力) 1990年代後半 学習する組織 センゲ 組織学習 知識創造理論 野中 知識創造理論 ITの普及 ハンディ、加護野 バーチャルコーポレーション 事業システム 技術革新・イノベーション 製品開発・アーキテクチャー クリステンセン 藤本、クラーク 破壊的技術、イノベーションの ジレンマ、アーキテクチャー オープンイノベーション グローバル化 クラスター チェスブロー、 ゴシャール、ビジャイ、 ポーター オープンイノベーション リバースイノベーション クラスター 2000年代 2000年代後半~ (1)戦略は組織と環境の双方に関与する。 ―― 企業は変わり行く環境に対処するために戦略を活用する。 (2)戦略は組織全体の繁栄に影響を与える。 ――― 戦略がない企業はビギナーズラックがあるかもしれないが、長期的に利 益を維持し続けるとは限らない。 (3)戦略にはヒエラルキーが存在する。 ――― 企業には、全社戦略、事業戦略という階層がある。 (4)戦略の本質は複雑である。 ――― 現代社会において、同じことは二度繰り返すことはありえない。 ――― よって戦略の本質は、構造化されない、プログラム化されない、ルーティ ン化されない、反復性が乏しい状態にある。 (5)戦略は内容とプロセス双方に関係する。 ――― 戦略は事前に作られるものから、実際に実行に移されたプロセスをも含む。 (6)戦略は完璧に計画的ではない。 ――― 意図された戦略、創発的な戦略、実現された戦略は異なる。 (7)戦略には様々な思考プロセスが関係する。 ――― 戦略には分析的思考や、概念的思考など多様な思考プロセスが関係する。 8 • ただしそこにたどりつくための方法を考えるとき、着 眼点は複数ある。 →「視点」の重要性 9 ビジョンとシナリオ 10 経営戦略のイメージ • 経営理念 経営理念 – 自社が社会に存在する意味や自社の持つ価値基準、事業への基本的考え方 • ビジョン ビジョン – 企業が「かくありたいこと」、そして広い意味で、企業が究極的に達成したいと願 っていることを描いたイメージ。 • 「我々のビジョンは、世界で最高のクイック・サービス・レストランであること」 • 「自動車をあらゆるアメリカ人が手にすることができるようにすること」 想像 試行錯誤 戦 略 論理 シナリオ • シナリオ – 目的と手段の連鎖が時間とともに展開されていくストーリー – 企業が競争しようとしているビジネスと、その企業が対象としようとする 顧客を明確に特定すること。 – 誰に奉仕しようとしているのか、どのようにしてそれらの個人やグルー プに奉仕しようとしているのか。(ビジョンより具体的) 現状 • 「世界のそれぞれの地域で人々の最高の雇用者たれ、そしてそれぞれのレストランで顧 客に最高のサービスを提供せよ。 11 12 経営理念・経営哲学 • • • • 松下幸之助 稲盛和夫 鳥居信治朗 小倉昌男 キヤノン株式会社 「水道哲学」 「アメーバー経営」 「やってみなはれ。」 「ヤマトは我なり」 • 経営理念 「世界の繁栄と人類の幸福のために貢献し ていくこと」 • 企業DNA: 「人間尊重」「技術優先」「進取の気性」 • 行動指針: 三自の精神「自発」「自治」「自覚」 – 「全員経営」「サービス第一」 13 本田技研工業株式会社 セブンイレブンジャパン ローソン • 創業の理念 • 基本理念 – 人間尊重(自立、平等、信頼) – 三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び) – 既存中小小売店の近代化と 活性化 – 共存共栄 • 社是 – わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために質の高い商 品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。 • 企業理念 私たちは「みんなと暮らす マチ」を幸せにします。 • 行動指針 • 社是 – 私たちは、お客様に信頼され る誠実な企業でありたい。 • 運営方針 – – – – – 14 常に夢と若さを保つこと。 理論とアイディアと時間を租調すること 仕事を愛しコミュニケーションを大切にすること 調和のとれた仕事の流れを作り上げること 不断の研究と努力を忘れないこと – 私たちは、株主、お取引先、 地域社会に信頼される誠実 な企業でありたい。 – 私たちは、社員に信頼される 誠実な企業でありたい。 • 行動理念 – そこに、みんなを思いやる気 持ちはありますか。 – そこに、今までにない発想や 行動へのチャレンジはありま すか。 – そこに、何としても目標を達 成するこだわりはありますか 。 – 三現主義(現場に行く、現物(現状)を知る、現実的であること) 15 16 戦略の事業観パラダイム • 論点2:不確実性のもとでの意思決定 事業観 • 不完全な情報と知識に囲まれていることを前 提として、企業は推量をしている。結果や因 果関係が不明瞭。 • 「戦略とは部分的無知の下で行う意思決定」 (Ansoff, 1965) 判断 判断 「混沌とした日常の喧騒の中 で無秩序にやってくる、ひと つひとつは小さな判断の、 長い期間にわたる積み重ね」 17 判断 判断 判断 判断 結果 三品(2004) 18 プロセス型戦略における 意図的戦略と実現された戦略の関係 論点3:計画としての戦略、プロセスとしての戦略 • 分析型戦略論 – 論者:H.アンソフ、ボストン・コンサルティング・グループ、 マッキンゼー、M.ポーター – 環境を事前に分析→戦略的代替案を提示→それを実行 – 「計画としての戦略」。演繹的。 時間→ 慎重に選択された 意図した戦略 戦略 実現した戦略 • プロセス型戦略 – 論者:クイン、ミンツバーグ – 経営戦略は「一連の意志決定の流れ」であり、プロセスで ある – 小さな個別意思決定→相互作用しながら一つの大きな意 思決定の流れ→企業の戦略行動の形成 – 戦略の「策定」と「実施」は分かれていない。帰納的。 実現されない 戦略 (ミンツバーグ、1985) 20 19 事例)ホンダの米国進出 事例)ホンダの米国進出 • ホンダの米国進出。 – 1959 年には米国のオートバイ市場は英国企業が49 %のシェア、しかし1966年にはホンダが1社で63% のシェアを占めるまでになった。 – それではホンダの成功は合理分析の結果、成り立っ ていたのか。 – 分析型戦略での説明 • 新しいニッチ市場の開拓 – 中流消費者への小型オートバイ(スーパーカブ(50cc))の販売 • 量産効果による低コスト(低コスト戦略)の実現 – 小型に特化し「経験曲線効果」 創発戦略 「米国で何が売れるか見てみようという考え以外、 戦略は持っていなかった」(ホンダのマネジャーの弁) プロセス型戦略での説明 – ホンダの当初の意図は「大型車で参入」 • 長距離・高速による故障頻発。米国市場に適しない品質 。 • 選択の余地がなくなり、スーパーカブ(50cc)を市場投入 ⇒予想外の成功 • 中流階級がホンダに乗り始めた。 • スーパーカブに続き、大型車にも乗るようになり、ホンダ のシェア向上。 21 論点4:戦略の階層性 22 論点5:思考プロセスの介在 • 戦略には、概念的および分析的思考が関 係する。 全社戦略 • 思考プロセスには、分析的側面、および概 念構想が含まれる。 事業戦略 (競争戦略) 機能別戦略 それぞれの階層で時間軸、視野の違い →統合の必要性 あなたは戦略的 に人生を生きて いますか? 23 24 競争優位 本講義で扱う「戦略」とは • 優れた価値を創造し、顧客をめぐり競合企業 よりも優位な立場に立っている状態、あるい は自社製品を顧客によって競合企業の製品 より選好されて購入される状態をいう。 「環境適応のパターンを 将来志向的に示す構想であり 企業内の人々の意思決定の 指針となるもの」 • 競合他社が複製することが不可能か、または 模倣に費用がかかるような戦略を実行してい るとき、「持続的な競争優位」をもつという 25 ステークホールダー 26 戦略に正しさはあるのか? • ハンガリー軍のアルプス山脈でも軍事練習 • 企業のビジョンとミッションに影響を与える主体、グル ープと組織のことで、達成された戦略的成果によって 影響を受け、そして企業業績に対し影響を及ぼす権 利を有している人。 – ハンガリー軍の偵察隊が豪雪で遭難。しかし3日後、帰還。 – 彼らが持っていたのはアルプスの地図ではなく、ピレネー山 脈の地図であった。 • ナスカピ族はなぜトナカイ狩の成功率が高いのか。 • 資本市場のステークホールダー – ナスカピ族は、トナカイ狩にたけている。 – 株主、銀行、ベンチャーキャピタルなど – 彼らはトナカイの肩甲骨を火であぶり、ヒビが入った方向に トナカイ狩に出かける。 • 製品市場のステークホールダー – 主要顧客、サプライヤー、地元地域社会、労働組合など • 組織のステークホールダー 「行為は思考に先行する 」 – 非管理職、管理職、従業員) 27 経営政策論の大枠 各論 全社戦略 事業ドメイン イノベーション・ 技術革新 多角化、資源配分(PPM) 事業戦略 競争戦略 グローバル化 企業家精神 etc… 事業システム 29 (Weick,1984) 28
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