ゼミ紹介 - 椙山女学園大学 国際コミュニケーション学部

卒業論文準備科目・卒業論文の自己点検について(概観)
本年度のゼミ・卒論の担当者全員に、以下の項目について自己点検を行っていただくよ
うお願いした。前記の科目の担当者は 22 名である。ただし年度途中でご逝去された柴田正
教授、およびその代行として短期間ゼミを担当された八田玄二教授、および教育学部から
兼坦の武山隆昭教授には依頼していない。本調査結果を今後学生がゼミを選ぶ際の参考資
料としても活用する予定であり、退職などのために今後担当から外れる方は除外させてい
ただいたためである。したがって対象者は 20 名となる。2 月 20 日の段階で未提出者が一
名あり、最終的な提出者は 19 名である、不断の自己点検こそが授業の改善や自己研鑽につ
ながる。ほとんどの教員が自己点検を真摯に行っていることは、本学部教員の意識の高さ
の表れであろう。
1.
「卒業論文準備科目・卒業論文」について
(1)各ゼミ 4 頁の自己点検をお願いします。
内容としては以下の内容項目を必ず含むこと
1)教員による自己点検(例)
*準備科目における指導内容・テキストなど
*積極的に受講させるための工夫、指導内容
*学年ごとの目標設定、指導方針
*受講者の態度、感想など(教員の視点から)
2)卒業論文の指導の具体的内容・方法・プロセスなど
3)ゼミ生の声(3 年・4 年それぞれから適宜)
・目安として、1)に 2 頁、2)
、3)に各 1 頁程度。
・締め切り:2009 年 1 月末
・ 提出先: 長澤(FD 報告書編集担当者)[email protected] にメールで
添付ファイルで送るか、CD あるいはフロッピーで提出してください。
注)1の項目で、4 頁 X 19 ゼミ=76 頁が作られるが、別途、卒業生からの声を掲載す
るページも予定しています。卒業生とコンタクト可能な教員を通じて、ゼミで学んだこ
とが社会でどのように役に立っているか(あるいは役に立っていないか)という文章を
寄せてください。
ゼミ、卒論とも各担当教員にその内容や方法は任されている。したがって報告書でもき
っちりとしたフォーマットを作らず、大まかな枠組みだけを示した。たとえばテキストを
使用する・しない、発表形式・輪講形式・講義形式などの違いは、そのまま指導の内容や
方針と直結する。また重視する項目が担当教員毎に異なり、それに従って分量の割合も変
化することも予想された。提出された報告書を拝見するかぎり、やはり事前の予測通り同
じ 4 ページでも項目ごとの割り当てが異なる、あるいは自分で必要な項目を立てる例もあ
り、各教員の個性が指導内容に反映していることが見てとれる。
その中で、担当者が最も重要と考えているのが、
「ゼミ生の声」の項目であった。もちろ
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ん本来の目的は、教える教員の側の一方的な判断ではなく、受講する学生の意見も反映さ
せことで自己点検をより実りあるものにする、というものである。だが実際にアンケート
をとって分かったのは、ふだんから学生とどの程度コミュニケーションをとり、どの程度
信頼関係を築いているかが、この項目を見れば一目瞭然となる、ということである。この
報告書の執筆依頼が 12 月から 1 月にかけて行われたため、学生の側も試験などで忙しく、
また学生への依頼も授業では間に合わず、メールなどの手段に頼らなければならないケー
スも多かったようである。そのなかでどの程度学生が協力してくれるか、あるいは協力し
てくれる学生をどの程度確保できるかが、そのままゼミの教員と学生の間の関係を示す指
標となる。この点に関しては、分量や人数の差はあれ、ある程度学生の声のサンプルをと
れていることから、大方の教員は問題なさそうである。ただ一部の教員は、最初から「ゼ
ミ生の声」を集めることを放棄しており、この姿勢は問題と考える。該当者はこの項目が
いかに重要かを、もう一度考え直してほしい。
各教員の自己点検の内容に細かく触れることはできないので、ここからは全体的な傾向
と思われるものに焦点を絞る。まずゼミと卒論の関連付けについてであるが、大きく分け
て二つの考え方がある。まず(1)ゼミを本来のタイトル通り、卒論を書くための準備に
充てる、あるいは卒論指導の具体的な場とする、という考え方、そして(2)ゼミは卒論
を書くための基本的な知識やスキルの習得の場であり、卒論指導そのものは「卒論」の時
間に行う、というものである。それぞれの考え方は各教員の自己点検報告をお読みいただ
きたいが、お互いの立場にとって大いに参考になるはずである。ただいずれの場合でも、
卒論そのものについてきめ細かな指導が行われているゼミほど、学生が高く評価している
のは間違いない。
次にゼミの運営方針について。学生の意見を聞き反応を確かめながら、年度によってテ
キストや内容を変えているゼミもあれば、最低限これだけは必要だ、という信念に基づい
て同じ内容を貫く教員もあり、これも優劣をつける類のものではない。お互いの立場を理
解しながら、良いところを少しずつでも取り入れていけば、よりよい指導ができるはずで
ある。ただしいずれの場合も、抽象的な理念ではなく具体的な達成目標を示すことで、学
生はより意欲をもって課題に取り組むことができる、というのも共通した反応である。
最後に、学生の能力や意識を見極め、卒業論文の執筆に関して的確な指導を行えている
かどうかについては、教員間の認識の違いがあるように見受けられる。本学部には高い潜
在能力をもつ学生が多いが、それを引き出して充実した卒論に結実させられるかどうかは、
卒論のテーマ設定やその処理、必要なリサーチの内容やその方法など、教員の指導による
ところが大きい。学生のやる気や能力に全ての原因を負わせるのではなく、個々の学生と
どう向き合い、その学生のよいところをどう引き出すか。この点については、短い報告書
の中からでもそれぞれの教員の意識や取り組みの違いがはっきりと見きわめられた。この
点も教員同士で学びあうことが必要であろう。
(2008 年度 学部FD委員
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長澤 唯史)
日米比較社会研究(塚田)
日米比較社会研究Ⅰ・Ⅱ(塚田 守)
はじめに
この報告では、国際コミュニケーション学部になってからの 4 年間のゼミについて、ど
のようなことをやってきたかまとめ、この 3 年生、4 年生の「声」を掲載し、自己点検を行
っている。
ゼミの基本的スタンス:ゼミという授業を行う上で、基本としたことは「学生主導型」の
形式をとることであった。
「日米比較社会研究」という一般的な枠組みで、日本とアメリカ
についてのテーマであれば、どのようなテーマで卒業論文を書いても良いというスタンス
を取っている。基本的に研究方法あるいは分析方法が「社会学的」であればよいというこ
とで卒業論文指導をしている。結果として、きわめて多様なテーマについての卒業論文が
書かれている。自分が選んだテーマを卒論研究として扱うと、それぞれの学生の個性が表
現され、意欲的に完成された卒業論文が多い。
2 年間のゼミで習得してほしい目標として以下のようなことを学生に伝え、3 年生ゼミを始
めている。
1)
社会科学的な文献の読書力(理解力、批判力)
2)
社会学的分析力(分析する能力、論理の能力)
3)
自己表現力(①口頭で、②文章で)
4)
分析+構想力⇒卒業論文作成
5)
専門的知識(ある一定の分野に関する体系的知識)
6)
英語力(社会で使える資格、能力として)
1.1
3 年生のゼミで行ってきたこと
前期
2005 年-2006 年度:学術雑誌に掲載された日米の教育比較に関する英語論文を読み、その
内容把握と論理構成などについて授業を行った。その後、博士論文をベースにした渡辺雅
子の研究書『納得の構造』を章ごとに担当者を決め、発表させて、批判的に検討を行った。
この発表形式の授業を通して、学生の読書力、分析力、専門的知識、および英語力の向上
を目指した。担当者 2 名ずつがレジュメを作成し発表した内容について、他のゼミ生が質
問するという形式で、ディスカッションを通して自己表現力をつけるのに役立ったのでは
ないかと思われる。
2007 年度:社会で格差問題・不平等問題が話題になっていたので、山田昌弘『新平等社会』
とそのテーマに」関連する新聞記事などを批判的に読むことを目的として、章ごとに担当
を決め発表させて、批判的検討を行った。話題が現代日本社会の問題であったので、いろ
いろな意見が活発に発言された。著者が議論していた不平等社会論に関して、学生の視点
からの批判が多く述べられた。
9
日米比較社会研究(塚田)
2008 年度:学生主体の授業を全面的に行う授業を実験的に行うために、
「ゼミの学生が何を
やりたいか」の希望をとったところ、全員一致して、英語力、具体的には TOEIC 得点の向
上がしたいということであったので、担当者の英語学習の経験を生かし、最初の 4 回は
TOEIC の授業を行った。その結果、6 月末に受験した TOEIC の結果は 1 年生の 12 月に受
験したものと比較して、平均 150 点ほどの伸びがあった。伸びの程度は個人で異なったが、
ある程度の英語力の基礎をレビューするのに役立ち、英語で卒業論文を書くことへの準備
になったと思われる。その後は、前年度までのゼミとは方式を変え、研究方法論について
学ぶために、樺島忠夫『文章構成法』戸田山『論文の教室:レポートから卒論まで』を読
み、卒業研究をするプロセスについて授業を行った。また、批判的読書の養成のために『超
バカの壁』
『むなしさの心理学』新書 2 冊を読み、批判的検討を行った。一般的に読まれて
いる新書をいかに批判的に読めるか、どこまで議論できるかが課題であった。
後期
2006 年-2007 年度:3 年の後期は、卒業研究に取り掛かる時期であるので、それぞれの卒
業論文テーマを考えるために準備として、さまざまな事例に言及し、研究方法(インタビ
ュー調査、アンケート調査、文献研究など)について講義した。研究方法についての講義
が終わった段階で、それぞれに卒業研究テーマを具体的にどのように設定するかにつて授
業を行い、それぞれの学生が興味を持っているテーマについて発表した。その時に、テー
マに関連した文献を 1 冊は読むことを必須としていた。発表後、そのテーマについて発展
させるために、担当教員がコメントした。
2008 年度:学生たちの自己表現能力を身につけたいという希望に従い、赤ちゃんポスト、
死刑制度、小学生に携帯、人口中絶などの是非についてディベート形式のディスカッショ
ンをしてした。自分の意見をいうことになれるよい訓練になったように思える。その後は、
卒業論文作成を意識し、議論を文章の書き方、英文の書き方について講義をして、卒論テ
ーマについて個人発表会を行った。この段階でテーマを真剣に考える機会としては良かっ
たように思える。
1.2
4 年生ゼミで行ってきたこと
2006 年卒業生:学生自身が選んだベストセラーを批判的に読み続ける(週 1 回のペースで、
計 22 冊)という授業を行った。全員があらかじめ読んできて、担当者のまとめに対して、
質問・コメントをすることを義務づけた。最初は意見が出にくかったが、そのうちによく
意見が出るようになった。卒業しても新書を手にして読んでいるということを 2007 年の同
窓会で言っていたほどである。
2007 年度卒業生:前年度と同じように、学生が選んだベストセラーを読むという方式で行
ったが、毎週 1 冊のペースは困難だと判断し、2 週間に 1 冊のペースにしたが、結局、その
ようにスローダウンしたことで、緊張感がなくなり、前年度と比較すると活発な議論が展
開できなかったことが反省的である。
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日米比較社会研究(塚田)
2008 年度卒業生:批判的読書だけではなく、文章の書き方、論理的批判の方法などについ
て学ぶだめに、2 冊の本をテキストとして使った。前期は『大学生のためのレポート・論文
術』を読み、
『複眼的思考法』を読み批判的読書法と文章の書き方について考えた。また、
プレゼンの練習として、ビデオの前での 2 分間スピーチも行った。後期には、3 種類のエッ
セイを書き、授業で発表し相互に批判的にコメントする機会をできるだけ多く作った。
2.1
2008 年度 3 年ゼミ学生の主なコメントの抜粋
・初めてディベートをやってテーマによっては非常に難しいものもあったが、楽しくでき
たし、ゼミの子の名前を少し覚えられてよかった。TOEICの勉強は毎週、先生の話を
聞いてやる気が出せたので、成績も上がり、嬉しかった。初めてTOEICの勉強をちゃ
んとできた。
・前期はTOEIC、後期はディベートなど、参加する私たち学生のやりたいことに沿っ
た内容を学ぶことができたので、意欲を持って取り組むことができて良かったと思います。
後期のディベートでは、全員で積極的に討論を行うことができ、テーマはどれも難しいも
のだったけれどすごく楽しかったです。ゼミのみんなが突っ込んだ内容まで話し合える雰
囲気も良かったと思います。
・ディベートは、とても自分のためにもなったし、楽しむことができました。しかしもう
少し時間があれば、より完璧な内容でディベートできたのではと思います。あと、抜き打
ちでのディベートはあまり意味がないように感じました。
・1年を通して全体的によかったと思いますが、1番良かったのはディベートでした。自分
で調べてきたことをまとめて発表し、さらに相手の意見を聞いてそれをまとめて反論する
というのは難しかったです。本の記述に対する反対意見を見つけ出すというのも同じよう
に難しかったです。でも、反対意見をもつことは自分の意見を持つことになり、それをま
とめる力をつける訓練にもなったと思います。また、ディベートは説得力のある主張をし
なくてはいけないので、自分の意見が何に重点をおいたものなのかを考えながら発言する
訓練になりました。卒論を書く上でも重要な授業だったと思います。
2.2
2008 年 4 年ゼミ学生の主なコメントの抜粋
・他のゼミに比べ、卒論の発表をちょくちょくやらせてくれたのは良かったと思います。
その都度、やらなきゃいけない感に迫られながらも少しずつでも進めることができたので。
また、自分の発表作に皆からアドバイスをもらうのは良い勉強になったし、皆の発表作を
聞くのも楽しかったです。
・発表の中で疑問に思ったことをあげ、論を展開したり、発表内容から批判的に考えたり
することは難しかった。やっと「少し批判的に本を読むことができるようになったかな」
と思えたのは、試験として『新平等社会』の書評を書いた時だった。
・エッセイをかくことが難しいと知った。自分がよく使う言い回しとか、他人が使う効果
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日米比較社会研究(塚田)
的な言い回しを新たにしることができて、よかった。
・ひとつの本を細かく読んでいくスタイルが良かった。ディスカッションできる授業がこ
れまでになかったので、いい経験になった。エッセイを書くのは初めてだったけれど、意
外に楽しかった。自分の書いた文章を人に読んでもらって意見をもらうことが、いい刺激
になった。
・格差社会の本を集中的に読んで、議論できたのは、いい訓練になったと思う。皆のエッ
セイを読むのは面白かった。でも、
『知的複眼思考法』ではなく、もっと別の授業がよかっ
た。皆と 3 年の時より打ちとけられて、本当にいいゼミメンバーだったと感じた。合宿や
ったのは、本当によかった。
2.3
卒論指導等についての主なコメントの抜粋
・私の場合は急にテーマを変えることにしてしまったので、先生にはご迷惑をおかけして
しまったと思っています。でも、先生も怒ったり反対せず、それなりにアドバイスしてく
れたので、寛大な先生でよかったと思います。
・よかったです!!
合宿があったので、ある程度進めることができたし、残りの数日と
なった自らの集中力を知ることができたと思います。個々のペースに合わせて、先生も指
導してくださったので、大変だったと思いますが、やりやすかったです。
・合宿があったことで、少しやる気がでた。そして、10 月から 12 月、先生が少しずつ期限
を設けて、対談(面談)する機会があったことがすごく良かった。先生と話すことで筋道
が明確になり、不思議なくらいやる気がでた。
・合宿楽しかった。テーマが限定されていなかったから、自分のやりたいことを調べるこ
とができ、最後までやりきれたのだと思う。
・私の中で卒論が 4 年間の集大成と思えるような良い出来になったと思う。自分のやる気
しだいで、いいものにするか、中途半端なものにするのかを身をもって知った。すごく大
変だったけれど、本当に一生懸命やってよかった。
3.自己点検のまとめ
ゼミで目標としたことがどれだけ実現できたかは客観的に検証することはできないが、2
年間のゼミの授業と卒業研究指導のプロセスで、目標としたことについて学生たちがある
程度学んだという実感はある。特に「学生主導型」の授業で、発表、ディスカッション、
ディベートなどをすると学生たちはそれを楽しんでいたように思える。また、卒論指導で
は、9 月上旬に毎年行う「ゼミ合宿発表会」は学生同士交流の場としてだけでなく、この時
期に締切りを設けて研究を促す方法としては十分機能しているようなので今後も続ける予
定である。また、個々の学生の卒論指導では、それぞれのペースに合わせて指導すること
が効果的であると思える。学生自身が興味を持ったテーマについては本当に一生懸命やる
ようである。ここでもやはり「学生主導型」が基本ではないかと思えた。
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日米比較社会研究(横家)
日米比較社会研究Ⅰ・Ⅱ(横家 純一)
〈指導内容・テキスト〉
2008年度の3年ゼミ前期は、「文化や社会の境界に立つ人びとについて理解を深め
る」、「体験学習により他者理解を深める」、
「自分が理解したことを他者に対してきちんと
表現する」ことを目標とした。まず、KJ法による問題関心(テーマ)の発見をしたのち、
ややかたい論文、小熊英二「『植民政策学』と開発援助」〔稲賀繁美『異文化理解の倫理に
むけて』名古屋大学出版会〕をテキストとした。
後期は、
「質の高い情報の共有により豊かな理解力と自己表現力を身につける」
、
「日米の
社会事象を題材としそこにみられる固有性と普遍性とを記述する」という目標を立て、映
画研究をテーマとする本格的な学術論文、飯岡詩朗「
「アメリカ」をフレーミングする――
ヒッチコック『救命艇』に見る黒人」
〔立教アメリカン・スタディーズ、第22号〕を輪読
した。まずは、書かれていることを忠実に理解することで、その研究成果はもとより、そ
のような研究活動の存在意義を、より具体的にイメージすることを目指した。
前後期とも後半の6~7週は、個人研究の発表にあてた。前期は、自由にテーマと題材
を選び(たとえば、スターバックス・コーヒーの戦略、テーマパークの意義、温暖化の防
止策など)、調べてきたことを発表・討論した。とにかく、みんなの前で緊張しながらも、
自分の主張をしたわけだが、その内容はというと、やや平凡だった。後期は、社会性のあ
るテーマ(たとえば、中学生のいじめ、家族関係、交通事故をめぐる人間模様など)で、
絵と台本を創作し、ときにはBGMも使いながら、紙芝居風にそれぞれ発表・討論した。
〈積極的に受講させるための工夫、指導内容〉
個人研究の発表のさい、みんながそれぞれコメントを紙に書き、発表者に渡し、発表者
がさらにそれに対するフィードバックをするという、ややめんどうな作業をくり返した。
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日米比較社会研究(横家)
これにのめり込んだ学生は大作を、そうでない学生はありきたりの作品を呈示した。当然、
前者の学生の存在は、後者の学生を圧倒した。
〈学年ごとの目標設定、指導方針〉
3年生は、おもに、自分の課題・テーマを自由に見つけ出すこと、4年生は、いったん
決めた研究課題にトコトン付き合ってみることを目標とした。どちらも、指導方針をスロ
ーガン的に言えば、
「自分の思考のそして時代の知の限界に行ってみる」
(小林康夫)
、およ
び、
「人間の知的財産に対する好奇心と敬意があれば、いい文章が書きたくなる」というも
のである。
〈受講者の態度、感想〉
3年生(13人中、10人が「表現」)は、はじめから積極的な態度を示し、クラス運営
上の苦労はなにもなかった。これに対し4年生(10人全員が「言語」
)は、出席すること
すら困難な学生が多く、授業以前の苦労が絶えなかった。これはたぶん、こちらからの働
きかけ以前の問題であろう。4年生の場合とくに難しいのは、就職活動による欠席が多く
なり、授業の継続性が保てないことである。ためしに、簡単な就活の報告書をそのつど提
出してもらったが、積極的な意味を見いだせないまま終わってしまった。
〈卒業論文指導の具体的内容・方法・プロセス〉
2008年度の4年生ゼミは、夏休み前までは、先輩たちの書いた卒論〔たとえば、吉
田治子『伝えないことで伝わってしまうもの――新聞コラムにおける「書く」欲求の喪失』
、
濵口あゆみ『そのとき、人は泣いた――CMが人の“いのち”を揺らすとき』
〕を読むこと
で、そのテーマ選択の意義とデータ収集・分析の方法を学ぶことを目標とした。その後、
自分の研究テーマ(問題関心)をリセットし、夏休み中の研究計画を立てた。夏休み後は、
個人研究の発表と討論、および、個人指導にあてた。
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日米比較社会研究(横家)
工夫としては、中間発表とか下書きの提出のさい、ほかの学生がコメントを書き、それ
を教員が評価するという方法をとった。今回はどういうわけか翻訳研究が多く(10人中
5人)
、ゼミとして同じ課題を扱うことができない場合は、2時間あるうちの1時間を、関
係者のみの英語研究の時間とした〔もしかすると、3年生のとき、ポケモンについての文
章“Beware of the Poke mania”
(TIME: Asia Edition, 1999/11/15)を英語で読んだこと
が原因かもしれない〕
。
なお、卒論提出後、3つのグループにわけ、口頭試問という、やや古風な場面を3回演
出し、学生たちの研究成果をそれぞれ総合的にふり返った(その最終回に懇談会を兼ねた
昼食会をしたところ、学生たちからの寄せ書きと花束という、はじめての経験をした。年
をとるのはステキなことですね)
。
翻 訳 ( 英 文 和 訳 ) を 選 ん だ 学 生 た ち は 、 The Worst Witch ( Jill Murphy )、 The
Witches(Roald Dahl)、Doris-Time Machine(Hilary Hayton & Fiona Dickson)、Jonathan
Livingston Seagull(Richard Bach)、Ghost Town at Sundown(Mary Pop Osborne)を訳出
し、余裕のある者は、その翻訳研究として、翻訳で学んだこととか作品論を収めた。とり
わけ、最後の「Ghost Town…」は、あの「千と千尋の神隠し」のように、こどもの時間(体
験)とおとなの時間(体験)の濃度に差があることを指摘していて、すぐれた作品論とな
っている。なお、これらのテキストを選ぶにあたっては、児童書がいいと言うので、小川
先生に相談に行くよう指導した。
翻訳以外で目立った卒論としては、女性向けのファッション雑誌「Cancam」の中の化粧
品広告をデータとした「戦略としてのイメージ継承―雑誌広告の研究―」
、および、10年
前と現在の中学校の英語教科書を比較した「NEW CROWN の分析―教科書が伝えたいこ
ととは―」がある。どちらも、自分で選んだ題材をとことん分析していて、指導者として
も満足できる作品に仕上がっている。なお、後者については、八田先生の助言をお願いし
た。
これに対して、たとえば、
「資生堂「MAQuillAGE」商品のTVCMについての研究」は、
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日米比較社会研究(横家)
学生自らテレビCMの分析を課題としたわけだが、
「トコトン追求する」姿勢をもてず、中
味のうすい卒論になってしまった。教員としては、映像を分析し文章で表現するという、
ややスリリングな作業のノウハウと歓びを十分伝授し得なかった、という反省もしなけれ
ばならないだろう。
〈ゼミ生の声〉
最終テストの前に実施した3年生のアンケート結果(無記名)を、一部抜粋してみる。
○「自分だけでなく他の人の意見を聞いたり、作品を見ることで自分にはなかった発想に
驚き気づかされることが多くありました」
○「あまりやった事がない事をやったので、新鮮でした。前期・後期合わせてあまり人と
関わらなかったので、そこは何かしら改善したいです」
○「何かを作品にして、発表することが多く、みんなが何を考えているのか、何をもとに、
それをつくったのかが、わかったから、楽しかった」
○「ドラマの発表に関しては、各々の価値感(ママ)を聞くことができ、各々を表面から
ではなく、内面的な世界間(ママ)を感じることができ、とても楽しかったです」
どれも明らかにプラスの評価であり、ゼミとしての出来は良かったと言える。がしかし、
最後の文章の誤字には、啞然とするしかない。ここには、われわれ教員が直面する現実的
な課題の深刻さと、さらには、文字を媒介とした、学生たちとのコミュニケーションの困
難さがみてとれるはずである。
アンケートの機会がなかった、4年生の寄せ書きには、
「私を見放したりしない優しい先
生」とか「口では冷たいことばかり言ってもホントはやさしい」とかあるが、途中で3人
がゼミからいなくなったわけで、決して平坦な道のりではなかった(あの3人を指導して
くださった先生には感謝したい)
。
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英語学研究(深谷)
英語学研究Ⅰ・Ⅱ(深谷 輝彦)
1. 卒業論文準備科目(通称「ゼミ」
)について
深谷ゼミで実施している「英語学研究 IAB, IIAB」について、その授業目標、内容、教科
書、方法、評価等について、現状を表でまとめ、その後に点検する。そして最後に今後の展
望を示す。
英語学研究 IAB (3 年生対象)
英語学研究 IIAB (4 年生対象)
英語が実際にどのように使われている このゼミクラスでは、
「日英語と文化
のか、language of everyday life を知る 研究」を年間テーマとする。具体的に
ことが目標である。中高で習ってきた は、文化の視点から日英語比較を行
科目としての「英語」から、生活する い、「水」=”water”のような等式が成
目標
ための「英語」の感覚を身につけるこ 立しない点を納得する。また異文化コ
とをねらっている。私たちの母語であ ミュニケーションというコンテクス
る日本語においても、日々多種類の日 トで母語、外国語使用時にいかに文化
本語変種にさらされていることを意識 が表出するか、ゼミ生の留学経験と共
する。
に理解を深める。
前期では、日常生活の中で使用される Words in Context という教科書名が示
英語の変種(e.g. 新聞、スポーツ解説、 すように、ことばの使用には常に文化
雑誌、広告)の特徴を学ぶ。同時に、
「英 という文脈が伴う、さらにことばがこ
語」の中に実に多様な変種があり、そ の世界を作り出している見方を検討す
れらに日々大量に触れている事実に驚 る。後期には、異文化接触時に、異文
内容
きたい。後期では、テレビでどのよう 化話者の文化がそれぞれのことばを通
なことばが視聴者に提供されているの じてどのように表現されるのか、を議
か、つまり番組の種類、その構成、番 論する。日本語話者であれば、このよ
組によることばの違い、テレビことば うに発話するだろう、という読者自身
と友人とのおしゃべり会話のちがいを にひきつけた読み方を大切にしたい。
扱う。
教科書については、英米の大学教養レ 一回の授業で読むページ数を最大 15
ベルのものを選び、70%から 80%ぐら ページを目標に読みやすさを意識した
教科書
いの理解をめざす。
教科書選択を行う。
前期:The Language of Everyday
前期:英文版「ことばと文化」
Life
Words in Context
後期:The Language of
後期:Communication Across
Television
Cultures
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英語学研究(深谷)
授業方法
次のような流れを想定している。
基本的に 3 年次と同じ流れで授業を進
1) 前回の授業の疑問点解消
行する。
2) 予習確認クイズ
1) 前回の授業の疑問点解消
3) ゼミ生の発表(毎回 8-10 頁)
2) 予習確認クイズ
4) 発表者に対する内容質問
3) ゼミ生の発表(毎回 12-15 頁)
5) 授業関連活動(日英語を素材
4) 発表者に対する内容質問
にディスカッションと報告)
5) 授業関連活動
クイズ(25%)、発表(25%)、Essay (50%) クイズ(25%)、発表(25%)、中間、期末
評価
という割合で評価する。特に Essay は の理解度確認試験 (50%)という割合で
4 年次の卒論執筆の練習という意味も
評価する。卒論を書いているので、あ
込めている。
えて Essay を課していない。
ゼミ生の親睦を図るために、前後期末 前期末、卒論完成時の親睦会、そして
その他
にゼミ会を持っている。ボーリングな 後期末のゼミ旅行を実施している。3,
どの軽いスポーツと飲み会の組み合わ 4 年生のゼミ交流が課題である。
せも時々ある。
【点検】
毎回の授業でやや手強い教科書を 10 ページから 15 ページぐらいをカバーしたいという目
標と、学生の理解度を 70%-80%まであげるという目標を両立させるために、次のような
方策を講じている。
1) 発表者のハンドアウトを事前に読み、不明部分の解消を助ける。
2) 内容確認クイズと Vocab Notes を授業前に配布し、予習を促す。
3) 発表後に発表者ごとに小グループを作り、学生同士で気軽に質問しあう時間を設ける。
4) 疑問が解決しない場合、次回の授業最初に解答する。
しかし、これでも十分とは言えず、学生から教科書が難しいというコメントが帰ってくる。
授業の満足度をあげるためには、もう一段の理解度向上策が求められている。
【展望】
3 年次の半期を使って、ゼミ生全員が同じテーマのプロジェクトに取り組み、それを学
期末に報告書にまとめるという授業形態に取り組みたい。そういうプロジェクト型の授業
は、ゼミ生の間の絆を深める、対外的にゼミの成果を発表できる、日英語調査を体験する
ことで卒論の準備になる、などの授業効果を期待できる。
4 年次については、授業内容に加えて、4 年生ならではの授業方法の開発に取り組みたい。
例えば、発表部分で日本語実例を探して加える、教科書の内容に批判的コメントを加える、
などが考えられる。また発表方法について、パワーポイントの利用など、まだまだ改善の
余地はある。
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英語学研究(深谷)
2. 卒業論文について
【テーマの決め方】
卒論テーマは、英語または日本語の語学的研究としている。ゼミ名の「英語学研究」を
考えると、英語学研究だけとしたいものの、language of everyday life を研究対象とする
と、日本語環境での英語調査には限界がある。日本語であれば、多様なデータを扱うこと
ができるので、研究に厚みでるし、日英語比較も可能になる。本年度の 4 年生が扱った題
材は以下の通りである。
日本語
日英語比較
●絵本
●漫画
●歌詞
●アニメ映画
●スポーツ・インタビュー
●SNS サイト
●会話
●歌詞
●インタビュー番組
●化粧品広告
今年は日本語研究が多いが、通常は、英語、日本語、日英語比較が三分の一ずつである。
そして語学的研究という枠組みは維持している。これはゼミの一体感を保つためにも、今
後も継続したい。
【指導の流れ】
4 月:Proposal 1 の提出(英文 1~2 枚)
6 月:Proposal 2 の提出(英文 2~3 枚)
9 月:Work in Progress の提出(英文 5 枚以上)
11 月:First Completed Draft の提出(英文 10 枚以上)
12 月:完成原稿の提出(英文 10 枚以上)
Proposal の執筆を通してテーマを固める。夏休みに参考文献の情報整理とリサーチの実施。
秋に 10 枚の原稿執筆完成。11 月から 12 月にかけて英語の加筆修正を行う。
【指導方法と内容】
上記の提出物が出る度に、個人面談を繰り返している。4 回の個人面談に加えて、各自
の進捗状況に応じて面談を追加する。Proposal の提出時期に、グループ面談を実施したこ
ともあったが、あまり成功していない。個人面談の方がどうも有効である。
指導内容については、
Proposal 1 & 2 がテーマと研究材料・方法の確定、
Work in Progress
ではリサーチの報告、First Draft 以降は英語の修正が中心である。
現在でも Work in Progress 及び完成原稿提出後にそれぞれ発表会を実施している。しか
し、一人 10 分前後と時間が短く、その発表内容についてコメントし合う場面がない。土曜
日に授業振り替えを行うなどの案をゼミ生に提案してみたい。
3. ゼミ生の声
19
英語学研究(深谷)
3 年生対象の英語学研究 IAB、4 年生対象の英語学研究 IIAB、卒論の順番でゼミ生の声
を聴く。以下の引用符内では、ゼミ生のコメントを直接引用している。
【英語学研究 IAB】
<教科書>
「やりがいがありますが、時々難しすぎる。
」
「読み切ることができ、達成感がある。
」
「あ
まり見たことがないような単語が出てきたので、少し難しい印象を受けました。
」
<授業の流れ>
「流れは良かったと思います。
」
「疑問点があればその場で発表者に質問できるので、疑問
がすぐに解決できてよかった。
」
「Activity にもうすこし時間があると良い。
」
「Activity に
よっては浅く改善の余地がある。
」
<発表>
「回数(学期につき 2 回)は適切だったと思います。
」「Vocab Notes は … 大変参考にな
っています。
」
「ハンドアウトの事前確認は役立っています。
」
<その他の希望>
「4 年生との交流会をしてほしいです。」
「ビザパーティーを開きたい。
」
【英語学研究 IIAB】
<教科書>
「前期よりも後期の教科書が難しかったので、結構大変でした。
」
「内容は少し難しいとこ
ろがありましたが、おもしろかったと思います。
」
<授業の流れ>
「発表→クイズでもいいと思います。
」
「Q&A で質問が浮かばない時を考えて欲しい。
」
「Activity も楽しかった。
」
<発表>
「ハンドアウトの事前確認は発表
「回数(学期につき 2 回)はちょうど良いと思います。
」
の参考になったので、大変良かったです。
」
【卒論】
<長さ:英文 10 枚>
「丁度良い。
」
「もうすこし長くても良い。
」
<提出物スケジュール>
「これで大丈夫です。
」
「現在のままでちょうどいいと思います。
」
<面談時間、内容、卒論へのコメント等>
「ワードのコメント機能活用が分かりやすかったです。
」
「良いと思います。
」
20
英語コミュニケーション論研究(笠原)
英語コミュニケーション論研究Ⅰ・Ⅱ(笠原 正秀)
卒業論文準備科目(
「研究Ⅰ」・「研究Ⅱ」
)と「卒業論文」のねらいと指導内容
本節では、卒業論文準備科目(「研究Ⅰ」・
「研究Ⅱ」)と「卒業論文(以下、卒論と記す)
」のねら
いとその指導内容について、2009 年度シラバスに基づき提示する。また、併せて、各学年の到達目標
としているところや積極的にゼミにかかわってもらうための工夫等についても触れていく。
研究Ⅰのねらいと指導内容
「研究ⅠA」
(3 年次前期)では、異文化間における対人コミュニケーション研究の射程および研究
視座等について、体系的に理解を深めさせることを目標にしている。テキストも専門書(Gudykunst, W.
B. & Nishida, T. Bridging Japanese/ North American Differences SAGE Publications)を使い、より学術的な
視点から異文化コミュニケーション研究のあり方にアプローチしている。「研究ⅠB」(3 年次後期)
では、異文化および対人コミュニケーション研究で使われている諸理論とその実際について取り上げ、
各自の卒業論文の中で活用できるよう指導している。
3 年次における到達目標として、前期中に各自が興味・関心の持てる題材をできるだけたくさん見
つけさせること、を掲げている。そのために、各授業で触れる内容とからめ、新聞や雑誌の記事等を
利用し、実社会の中で起こっているコミュニケーション現象(摩擦・軋轢・誤解等)を具体的に提示
するようにしている。時には TV 番組である場合もあるが、それもまた興味・関心をかきたてる一助
となっているようである。学期末には、課題(10 点分)として、題材案をブレーン・ストーミング的
レポートとして提出させている。
また、後期には、前期中に見つけた題材案を絞り込むことを課題として課している。その際、研究
題材に関係する文献(書籍や先行研究等)が潤沢にあることをキーポイントとして指導している。そ
のため、学期中盤(10 月下旬から 11 月上旬)に「図書館ガイダンス」を行い、図書館で文献検索の
方法を指導している。そして、後期末には、研究題材案を 2~3 案にまで絞り込ませている。絞り込
み残った案については、自分の卒業研究の核になるような主要な文献に関してはリビュー(10 点分)
をし、その他にもどれくらい研究に関連する文献をみつけたのか、文献一覧(10 点分)の形で課題レ
ポート(計 20 点)として提出させている。これをもとに、2 月~3 月の時期に題材案を 1 本に絞り込
ませ、4 年次、4 月当初に提出する Proposal(研究計画書)に間に合うよう指導している。
研究Ⅱのねらいと指導内容
「研究ⅡA」
(4 年次前期)では、実際の異文化コミュニケーション状況で求められる、
「スキル」
をとりあげている。「研究Ⅰ」で取り扱ってきたような、様々な知見や諸理論をもとに構築されてい
る「異文化適応トレーニング」について理解を深めることを目的にしている。「研究ⅡB」(4 年次後
期)では、最終学期ということもあり、2 ヵ年継続して学んできた内容の総まとめをしている。出て
くる用語や内容は、すでに学習済みのことばかりであるため、卒業研究や論文作成の過程で出てきた
ことの整理・確認といった位置づけの講座となるようにしている。特に、テキストに一貫して登場す
る「マインドフル」という概念については、再三再四、確認の機会を持っている。
4 年次の到達目標は、最終的には卒論の完成であるが、そこに至るまでの、それぞれの時間的到達
目標(作成スケジュール)は、以下のように設定している。前期中は、就職活動も忙しい時期ではあ
るが、3 年次後期後半から続いている文献収集を 5 月末まで集中して行わせ、6 月~7 月の 2 カ月をか
け、集めた文献をもとに卒論の詳細な設計図(アウトライン)を描かせている。その際、この 2 ヶ月
21
英語コミュニケーション論研究(笠原)
間は随時面談を受け付け、アウトラインをいっしょに検討しアドバイスする機会を持っている。また、
こうした面談の積み重ねによりできあがったアウトラインを、前期の課題レポートとして提出させる
ことにより、評価の一部(10 点分)として取り扱っている。
周知のとおり、夏季休暇が卒論執筆の勝負どころである。私のゼミでは、夏季休暇中に本論部分
(Body)を完成させることを目標に指導しているため、夏季休暇中も随時、研究室で面談・添削指導
にあたっている。直接、研究室に来られないような場合も、メールにファイルを添付したものを送ら
せ、ワードの添削機能を使い、英語の誤りの訂正やコメントを書き込んだものを送り返し、参考とさ
せている。
上述のように、夏季休暇の終了と同時に、卒論の主だった箇所は形になっているため、後期に入る
と、指導の中心は、導入(Introduction)と結論(Conclusion)の作成となっている。英語で卒論を執
筆する場合、そのチェック機能として、11 月上旬に完成作品をゼミ担当者とは別の教員が目を通す、
いわゆる‘関所’が設けられているため、9 月下旬に後期が始まり、11 月上旬にはそうしたチェック
があることを考えると、‘導入’と‘結論’部分だけとはいえ、指導にかけられる時間としてはギリ
ギリのところである。その後、約 1 ヶ月の期間に微調整・微修正を行わせ、12 月 15 日(卒論提出締
切日)に間に合うよう指導している。
「卒業論文」のねらいと指導内容
この講座の目的は、いうまでもなく、卒業研究の実施および論文執筆に関する技術面での指導であ
る。前項で述べているように、「研究Ⅱ」と連動し、まずは、研究計画(論文のアウトライン・スケ
ジュール等)を十二分に練らせている。前期後半からは、お互いの進捗状況の報告および議論・論評
の機会を持つようにしている。後期に入ってからは、基本的に個別指導の形をとり、論文の完成を目
指している。卒論提出までの時間的到達目標(作成スケジュール)については、前項を参考にしてい
ただきたい。
本ゼミの場合、卒論執筆言語が‘英語’、と限定されているため、英語論文を作成するための諸ル
ールに関してもこの時間中に取り扱っている。研究分野の性質上、APA(American Psychological
Association[アメリカ心理学会]
)を採用している。APA の諸ルールについては、
『APA 論文作成マニ
ュアル』
(江藤裕之、前田樹海、田中健彦訳、医学書院、APA Publication Manual の翻訳版)を利用し、
理解を深めている。かつては、APA Publication Manual をゼミ生全員に購入させたこともあったが、な
かなか自由に使いこなすまでには至らなかったこともあり、本年度からの試みであるが、
『APA 論文
作成マニュアル』をゼミからの貸し出しとし、日本語で読み、理解できるようにしている。
こうしたことのメリットとして、まずは、学生に経済的負担を強いることがなくなった、というこ
とがあげられる。また、翻訳版であるため、調べたい項目をすばやく見つけたどり着ける。次に、日
本語で書かれているため理解し易い。また、指導の一環として、書き込みや線引き等、すべて許可、
むしろ推奨しているため、本人が使い込めば使い込むほど、後輩にとっては、よく使うルールや注意
しなければいけないルール等がすぐに目に飛び込むようになってくるため、使うほどに使い易くな
る!というわけである。
平成 19 年度後期と平成 20 年度前期の授業評価リビュー
本節では、過去 2 カ年(平成 19 年度後期と平成 20 年度前期)の「授業アンケート調査」結果を振
り返り、学生のニーズに応える授業が提供できていたのか、検討してみたい。
22
英語コミュニケーション論研究(笠原)
「研究Ⅰ」に対する授業評価
平成 19 年度後期、
「研究ⅠB」の「授業満足度」は、
「その通りである」と「どちらかといえばその
通りである」への回答で 100%となっている。また、
「理解のしやすさ」
「毎回の授業の関連性」
「授業
の工夫」
「学生の理解度への配慮」「学生の視野の広がり」・・・等々、ほとんどすべての項目におい
て、
「その通りである」と「どちらかと言えばその通りである」で 100%の回答を得ている。ゼミ生の
卒論で取り扱いたいテーマの関連性とも合致した内容を提供できていた、と言えそうである。
この講座を履修している学生は、2 年次のゼミ選択のガイダンス等を経て来ているため、比較的評
価が高くなるのは、ある程度、当然であるのかもしれないが、改めてこの結果を見てみると、ガイダ
ンスで語った内容やゼミ紹介プリントに書いてきた内容と実際の授業内容とが大きくぶれてはいな
かった証と理解している。
平成 20 年度前期、
「研究ⅠA」の「授業満足度」は、
「その通りである」が 87%、
「どちらかといえ
ばその通り」が 13%、計 100%であった。平成 19 年度と同様の結果である。また、
「この授業に興味
があった」に対しては、93.8%が「その通りである」、6.3%が「どちらかといえばその通りである」
に回答しており、やはり 100%の回答を得ている。こうした結果から、受講者の期待に応える内容の
授業を提供できていた、と判断できそうである。
その他の設問項目で、90%以上が「その通りである」と回答しているものとして、「この授業を通
して視野を広げることができた」「教員による解説がわかりやすかった」といったところがあげられ
る。授業実施者としては、喜んでよいポイントではないかと考える。
「研究Ⅱ」に対する授業評価
平成 19 年度後期、
「研究ⅡB」に対する「授業満足度」は、
「その通りである」と「どちらかといえ
ばその通りである」への回答で 100%となっている。また、
「興味関心」
「授業の理解し易さ」
「視野を
広げることができた」「解説のわかり易さ」
「資料の集め方やまとめかたの指導」・・・等々、ほとん
どすべての項目において、「その通りである」と「どちらかと言えばその通りである」への回答のト
ータルが 100%という結果であった。
「研究Ⅰ」同様、ゼミ生にとって、満足のいく内容であったと理
解している。特に、「資料の集め方やまとめ方の指導」については、私自身も相当時間を割き、また
熱を入れて指導してきた、という自負もあるため、学生からの評価が非常に高かったのは、うれしく
思っている。
学生にとっては、前年度、「研究Ⅰ」を経験しているので、授業の進め方等、心得ている部分も多
く、ある程度高い評価になるのは当然なのかもしれないが、私の場合、4 年の就職活動真っ只中にあ
っても一切妥協することなく、「授業への出席」
「中間テスト」
「レジュメの作成とプレゼンテーショ
ン」
・・・といったことをしっかりやるように指導してきた。相当厳しい!と感じたであろうと思う。
しかし、そこには、2 カ年のゼミを通して培われたお互いの信頼関係があったからこそできたこと、
と理解している。
平成 20 年度前期、「研究ⅡA」の「授業満足度」は、100%が「その通りである」と回答している。
また、
「この授業に興味があった」に関しても、100%が「その通りである」に回答している。この授
業もゼミ生の期待に十分に応えられる内容の授業を提供できた、と理解している。その他、全員が「そ
の通りである」と回答したものとして、
「この授業を通して視野を広げることができた」
「学生が理解
しやすいように授業に工夫していた」
「学生の理解度に配慮した進め方をしていた」
「教員による解説
はわかりやすかった」
「授業に真面目に参加する雰囲気であった」
「学習する成果を発表する機会があ
りよかった」
「学生が話し合い易い環境作りがされていた」
「課題は適切であった」といったところが
23
英語コミュニケーション論研究(笠原)
あげられる。これらの点も、授業実施者としては喜んでよいポイントではないかと思う。
ゼミ生の声
本節では、過去 2 カ年(平成 19 年度後期と平成 20 年度前期)の「授業アンケート調査」の自由記
述用紙に書かれていた内容と平成 20 年 12 月下旬から平成 21 年 1 月下旬にかけて「研究Ⅰ」および
「研究Ⅱ」の授業を通じてゼミ生に依頼した、ゼミに関するコメントのいくつかを抜粋し、以下にと
りあげる。
「研究Ⅰ」について
・テキストから様々な知識を学びながら、実際にゼミ生が異文化で経験したことを聞くことができ、とて
も興味深い授業でした。
・発言の機会が多いので、意欲的に取り組めました。
・専門科目で学んできた内容が、この時間を通して 1 つにつながりました。
・ニュースや新聞記事の中から、コミュニケーションの問題、文化レベルの摩擦の問題等を毎回のように
取り上げてくれたので、身近なところに、こんなにもたくさん、そうした問題があることに気づかされ
ました。
どのコメントも、授業実施者として、こちらが授業の際、意図していたことでもあり、こちらの意図した
内容が、学生にしっかりと伝わっているのはうれしいことである。
「研究Ⅱ」について
・テキストに沿った内容だけで授業を進めるのではなく、学生自身が何か話題を提供し、話し合う機会が
あり、受身的な授業にならず、よかった。
・学生が自由に発言できる雰囲気が良かった。
・ニュースや新聞記事の中に潜むコミュニケーションの問題、文化レベルでの摩擦の問題等を毎回取り上
げ、そうした事例として、映像を見る機会を提供してくれたのは、大変良かったと思います。
・先生の熱意にゼミ生全員が刺激され、卒論に取り組んでいたように思います。テストや課題が多く、大
変ではありましたが、そうしたものが基礎となり、完成度の高い卒論に仕上がったように思います。
・大学生活最後の年に、こんなにも授業に意欲的にのぞめたのは、先生の熱意のおかげだと思います。
ゼミである以上、講義のような受け身的な形での授業とならないように配慮したつもりだが、そうした意
図は学生にも十分伝わったようである。また、ニュース、新聞記事、雑誌記事、インターネットの記事等、
学生でも簡単にアクセスできる媒体から研究のヒントとなるものを紹介したり、議論のネタとして提供し
たりしてきたが、これも功を奏したようである。最後に、ゼミ生には各種課題やテストを含め、いろいろ
と頑張らせたが、そうした私の期待に十分応えてくれた。振り返ってみると、こちらがかけたエネルギー
と同等のものをきちんと返してもらったように思う。ゼミ担当者として感謝する次第である。
本稿では、3 年生・4 年生の「研究ⅠA・B」
「研究ⅡA・B」
(卒業論文準備科目)と「卒業論文」に
ついて、
「各科目のねらいと指導内容」、
「学生からの授業評価のリビュー」
、
「ゼミ生から寄せられた
声」の 3 側面から点検してきたが、学生からは肯定的な評価を得ており、内容的にも充実したものが
提供できている、と判断できるものであった。しかし、毎年、毎年、対象となる学生はちがうので、
今、目の前にいる学生を大切にし、学生主体の、学生のニーズを意識した授業を提供していくように
心がけたいと感じた。学生が知的に楽しみながら参加できる、そんな授業を常に意識していきたいも
のである。
24
独語圏文化思想研究(鈴木)
ドイツ語圏文化・思想研究Ⅰ・Ⅱ(鈴木 仁子)
1)教員による自己点検
★準備科目における指導内容・テキストなど
本ゼミは「ドイツ語圏文化・思想研究」との名称通り、言語圏への興味から
集まってくる学生が多いため、関心領域が多岐に亘ってしまう。そのため、例
年3年生のゼミでは「グリムと近代」という共通テーマを設け、主としてグリ
ム童話について書かれたさまざまな批評・論文をとりあげて読んでいる。近年
グリム童話は文芸学・心理学・物語論・社会学・ジェンダー理論などから多角
的に論じられており、おなじみの話が批評的な視点から思いがけぬ相貌を示す
ことが多い。とりわけ、童話集が成立した19世紀はドイツが逸散に近代化に邁
進した時代であり、当時の歴史的・社会的状況が昔話の収集保存の動きや作品
の表現に大きな影響を与えている。グリム童話の語りのなかにそうした近代化
の側面がいかに刻印されているか、近代的価値観とはいかなるものかを知るこ
とによって、なによりもわたしたちの思考や行動において当たり前になってい
る価値観を相対化できるようにすること——ゼミではこれを狙いとし、この趣旨
から歴史や社会を論じた論文をも含めてひろく題材を選んでいる。教員が選ん
だ諸論文(日本語)を各人の興味にそって割りふり、毎時間2人ずつに発表し
てもらうことで、資料の読解・分析・レジュメの作成・口頭発表・議論・まと
めのレポート作成などの練習を積んでもらっている。
4年生は卒業論文執筆の準備を兼ねた発表の場とし、3年生で培った力をベ
ースとして、各人の興味と関心にしたがって研究発表を行っている。
3年生の共通基礎資料
新書)
鈴木晶『グリム童話/メルヘンの深層』
(講談社現代
★積極的に受講させるための工夫、指導内容
・3年生について
毎回発表者には参考資料を渡して準備してもらうが、日本語論文であっても
内容を充分に把握していないことが多く、また見当違いのレジュメを書いてい
ることがままある。そのため発表の数日前に発表者を研究室に呼んで事前の打
ち合わせをし、作成したレジュメと発表内容を確認するともに、効果的な発表
になるようにプレゼンテーションの方法を検討している。その際、論文だけで
なくかならず原典に当たって検討できるように準備すること、および聞き手が
議論に参加できる方法を工夫することを念頭に置いて指導する。また教員が指
25
独語圏文化思想研究(鈴木)
定する資料だけではなく、図書館などで関連資料を調べて発表を充実させるよ
うにお願いしている。
発表は1時間に2人、ときにはチームを組んで行ってもらい、司会も学生に
依頼する。発表後に内容をもう一度文章化して、レポートとして提出してもら
い、学年末に文集としてまとめている。また定期試験の課題レポートも文集に
まとめて適宜発行し、学生に配布する。
・4年生について
4月の学期初めにまず図書館に行って論文資料の探し方を実地に見た上で、
その後論文の書き方についての参考図書( 戸田山和久著『論文の教室—レポー
トから卒論まで 』)を全員で読み、レポートする。このあと各人の研究発表に
入る。前後期あわせて2回の中間発表を行っている。
★受講者の態度、感想など(教員の視点から)
3・4年とも欠席者はほとんどなく、全員がまじめに取り組み、意見や質問
も比較的よく出ていたと思う。今年度の3年生は自分から積極的に調べて充実
した発表をする学生が多く、後半に入るほど内容が深化し、教員自身も新しい
発見ができて面白かった。また4年生は3年次のときから活発に発言し、自由
に議論できる雰囲気を持ったクラスで、非常にまとまりがよかった。ただし仲
がよすぎて、4年のゼミではだらだらしたシーンもみられた。
反省点としてはつぎのとおり。教員の反省に加え、学年末に学生から採った
授業アンケートの回答も参考にしている。
・発表者が資料の事前講読(予習)を課すことはあまりないので、授業はどう
しても聞くことが主体になってしまう。もう少し全員が積極的に取り組める方
法はないか模索中である。
・発表が長くなり、質問や議論の時間が限られる傾向にある。聞き手からの質
問や意見が内容理解を深めてくれることが多いので、時間的な点は何とか改善
したい。また授業が延長傾向になることに批判もあった。
・3年生は論文を読み発表することが中心になっているが、夏休み明けぐらい
を目途として、グリムについて学生が独自に研究したものを発表し、相互批評
する時間をできれば設けたい。
・上記の点から、ゆとりをもった運営にするために、3年のゼミの全体構成に
おいて取りあげる論文や内容を今後はもっと絞る予定である。
・4年のゼミでは、個人の卒論をゼミで随時発表し、相互批評できたことがよ
かったという感想を多くもらっているので、この方法を引き続き採るつもりだ
26
独語圏文化思想研究(鈴木)
が、口頭発表だけでなく学生が書いたものを相互批評させるなどの機会を設け
ることができるよう、来年度の課題としたい。
2)卒業論文の指導の具体的内容・方法・プロセスなど
・3年生の冬休み明けまでに卒論の方向性について考えてもらい、後期レポー
トに添えてテーマを提出してもらう。テーマの設定についての相談は随時乗っ
ているほか、学年末に個別指導する。またそのさいに参考文献を提示してもら
い、春休み中に参考文献を読んでレポートする宿題を課す。
・すでに述べたように、4月に図書館を利用し文献検索の方法について案内す
る。論文執筆の要諦についてはレポーターを決めて参考図書をまとめ、最後に
具体的に論文を読んで検討する機会を設ける。
・その後ゼミの通常時間帯を利用して、前期の中間発表を行う。また同時に「卒
業論文」の時間を利用して個別に面談を進める。
・夏休み前にアウトラインを提出し、おおまかな見通しをつけた上で、夏休み
に書きはじめてもらう。
・9月末までに初稿を書いて提出。しかし現実にはここまでもっていける学生
は多くないので、書けたところまでを提出してもらう。論理的な展開がきちん
とできているかを主としてチェックするが、細部にわたってかなり細かく注意
を与え、改稿を要求している。現実には後期以降に内容が深まり、当初のアウ
トラインからさらに発展する場合が多いので、教員にとっても学生にとっても
大変な時期である。また夏休み明けから2コマ連続で1回につき2名、第2回
の中間発表を進める。
・10月末ないし11月第1週までに完全原稿を提出。数回のリライトを経た上で
12月の提出となる。
・不十分な原稿については提出後にも再検討してもらい、最終的に1月中旬に
制作開始する卒業論文集のための原稿として完成させる。
3)ゼミ生の声
3・4年に対し学年末に実施したアンケートよりピックアップする。
グリム童話を学ぶと思っていたので、グリム童話からいろいろな広がりがで
きると知って驚きました。グリム童話を様々な角度から読み取る授業はとても
面白かったです。物事の多様性を学べたと思います。また、発表等の授業をあ
まり履修してきていなかったので、ゼミで発表の仕方などを知ることができま
した。
27
独語圏文化思想研究(鈴木)
他の授業では1つのことで深く追求しないので、しっかり調べることの楽し
さも知れたし、1つのことについて深く知れたので良かった。文学は個人的に
苦手だったが、文学は1つの時代だけの物ではなく、いろんな時代を通して(社
会的に)影響を受けて作られていく物でもあるとわかり、面白いと感じること
ができた。
毎回誰かが発表し、それについて意見交換するのは良かったと思います。人
から指摘されることで、違った角度から物事が考えられるようになり、物事を
考える視野が3年の間にだいぶ広がったと思います。毎回レポートが文集にな
るのもよかったです。
4年次の前期に行った論文の書き方は、3年次の終わりにやってもいいので
はないかなと思いました。4年のゼミも、発表し意見交換をする形式でとても
よかったと思います。みんなの卒論内容を知ることができるだけでなく、自分
が発表した時にはみんなからアドバイスがもらえ、新しい見方が出来るように
なり助かりました。
ゼミの雰囲気はとてもよかったと思います。仁子ゼミは個性豊かな生徒が集
まっていて、初めはまとまりがないのかなと思っていました。しかし話し合い
が始まると、それぞれきちんと意見を持ち、またそれから話が発展し、話が脱
線することも多々ありましたが、お互いに良い刺激を受けられる話し合いがで
きよかったと思います。また、お互いに褒め合うだけでなく、分からないこと、
疑問に思う事を気兼ねなく話し合える雰囲気がとてもよかったです。
卒論の書き方や自分の卒論内容を発表することは、論文を書く上でとてもた
めになりました。みんなの意見を卒論の参考にすることができました。先生の
指導はとてもうれしかったです。いつも気にかけてもらえたり、どんな質問に
も的確なアドバイスをくれたり、先生の懸命な指導がなくては全く書けなかっ
たと思います。途中提出などは大変だけどそれが後のためになって、先生の指
導にとても感謝しています。優しそうで厳しい指導が魅力です。
そのほか、要望点については、1)に記した「反省点」に組み入れてまとめ
た。
28
仏語圏文化思想研究(藤江)
フランス語圏文化・思想研究Ⅰ・Ⅱ(藤江
泰男)
1)
教員による自己点検
ゼミ(卒論準備科目)のねらいとテキスト
まず「卒業準備科目」
、私の場合は「フランス語圏文化・思想研究」について
であるが、まず3年次には、
「フランス語のテキストを通してのフランス文化・
思想の理解」をゼミの中心に据えている。基本的には、フランス語を2年間履
修しフランス文化や思想にとくに関心を寄せる学生を念頭においているので、
フランスの歴史や文化全般にわたる解説や分析の文章、フランスが関わる限り
でのヨーロッパ全般に関して述べられた文献や資料をテキストにして、語学的
修練をも含めたゼミ内容となっている。そのテキストにしても、ゼミ生の卒論
作成に向けて役立つようなものを選んでいるつもりである。
(年度によって幾分
かは異なる内容となっているにしろ、
)フランスの地理や歴史などについては当
然のところであるが、フランス人の生活・習慣、経済・教育システムの現状、
映画や芸術の流れなどが論じられた文章を選んでいる。
そうしたフランス語を通した文化・思想の理解を通して、ゼミ生各自の最終
課題である卒論のテーマを少しずつ限定し、具体化していくことも、この授業
のねらいである。前期の後半には、各自に関心あるテーマでリサーチし、授業
の中で発表してもらいことにしている。各自の思いとそれを支える技術なり能
力なりを、そのなかで確認して欲しいと思っている。
ゼミでの発表
さらに、われわれのゼミは3年生・4年生合同のゼミでもあるので、前期の最
後には、4年生に卒論の報告を課している。中間発表として、卒論についてゼ
ミで発表し、他の学生からコメントや批判を受けることで、あるいは質問に答
えることで、各自の卒論をさらに膨らみのある、さらに具体的な内容にして欲
しいと願っている。
4年生の発表を聞く他の学生は、その発表内容について理解や知識を得るのは
もちろんだが、3年生であれば、これからの自身の卒論作成についてのヒント
をそこで見出して欲しいし、他の4年生であれば、自身の卒論内容と比較しつ
つ、批判的に自己の完成度を吟味して欲しいと願っている。
ゼミの流れあるいはスケジュール
すでにある程度説明してきたように、まずは授業の冒頭で、それぞれの関心、
卒論のテーマにからむであろう関心事項について確認したのち、それらに極力
対応するようなフランス語のテキストを編集し学生に配布する。
29
仏語圏文化思想研究(藤江)
ついで、そのようにして作成されたフランス語のテキストを読解しつつ、それ
ぞれに個人のテーマをリサーチし 400 字詰め原稿用紙で 10 枚程度の原稿にまと
めるよう指導する。それを、前期(および後期)の授業のなかで各自発表し、
課題として最後に提出することになる。
また、フランス語の検定試験を受けるゼミ生が多いので、春・秋の試験の直前
は、その種のアドバイスなり対策の授業になることもある。いずれにしろ、語
学抜きの、つまりフランス語抜きのフランス理解はない(あるいはきわめて弱
い)、という基本認識に基づき、この授業を運営しているつもりである。
さらに後期では、前期のテキスト(あるいはさらに別に選択したテキスト)を
読み進めるとともに、各自のテーマについてもそれぞれ発表してもらうことに
している。12月になれば、4年生は卒論提出の時期でもあるので、その最終
的成果をゼミの中で口頭発表してもらうことにしている。3年生については、
ゼミの中で発表したものを、1月の試験期間中に文書化して、課題提出とする。
これが1年間の成果であり、それがそのまま、4年次からの卒論作成の具体的
核となるように、じっくりと取り組んでもらうようにしている。
問題点ないし今後の課題
まず技術的な問題としては、ゼミ生のフランス語の能力が必ずしも向上しない、
ということ、向上したにしても、必ずしもフランス語の文献を使用できるほど
には向上できない、ということである。もっともこれは、われわれのゼミ生に
限ったことではなく、大学入学以降に初めて学んだ外国語を卒論に使用する大
学生について、あまねく指摘されている欠陥ではあろうが……。いずれにしろ、
フランス語自体を論文の中に生かす卒論がまださほどでていないことがまず第
一の、そして最大の課題である(もちろん、幸運な例外はあるが……)
。
おそらくこれは語学能力の問題というよりも、問題意識のレベルでの問題かと
も思われる。フランス語の文献以外に頼るべき資料がないような主題を、そう
した卒論のテーマに選ぶかどうか、あるいは自身の語学能力に見合ったテーマ
を選ぶかどうかの問題である。しかしそれは、フランス語との関係でのみ問題
なのではなく、卒論のテーマの選択そのものに関わる根本的問題でもある。自
身の技術的能力、関心の範囲内にあるテーマを選びえているかどうか、これこ
そが問題であり、このレベルで問題がクリアーされていれば、半分以上、卒論
は完成したようなものである。
卒論指導の授業だけでなく、卒論準備科目の段階での最大の課題、少なくとも、
私にとって最大の課題は、語学および語学能力と卒論テーマとの有効で具体的
な関係(いわば両者の有機的関係)をどう作り上げるか、ということに尽きる
のかもしれない、と最近はよくよく思うところである。
30
仏語圏文化思想研究(藤江)
卒業論文の指導の具体的内容・方法・プロセスなど
1. 卒業論文の作成については、その前段階から、つまり卒論準備科目の段階
からテーマの選択や卒論の表現形式について周知させたのち、まずはそのサン
プルとして 10 枚程度の文章を準備させる。そのなかで、卒論としての形式的条
件について整備したり、注意を喚起したりしつつ、最終的な卒論テーマや文献、
資料について4年次の早い段階で確認する。中心は引用の仕方(作法)の確認
であり、これがなかなかゼミ生には納得されない。しかしこれが納得されてい
ないと、いつまでたっても論文にはならないので、具体的に該当箇所を吟味す
る形で、その必要性を何度も説明することにしている(本人の個性を主張する
ためには、他人の個性について十分な敬意が払われていなければないない、と
いう当然の前提の確認でもある。このレベルでのやり取りは、しかし、卒論提
出のぎりぎりまで続くことがある)
。
2. 以後は、その出発点としての 10 枚程度の作品(レポート)を、順次本格的
な卒論へと仕上げていく作業へ移行する。ほぼ月一回のペースで全員をコント
ロールする。前期の最後には、他のゼミ生の前で中間発表ができる程度の完成
度に仕上げるようにと、ゼミ生を促すことになる(そもそも、意見や考えとい
うもがなかなか他人に理解されないものである、という初歩的にして根源的な
事実を自覚するためにも、こうした発表は、発表者のみならず発表を聞く者に
とっても悪くない経験だろうと私は考えている)
。
3. 中間発表のなかで指摘された問題点や欠陥、あるいは表現力の欠如に留意
しながら、夏休み、およびそれ以降、依拠する文献や資料をさらに広く、さら
に深くてリサーチし、論文の展開をさらに豊かなものにするように努力する。
要は、本人の関心と能力に見合ったテーマであるかどうか、他人のデータの活
用だけでなく、自身でも具体的リサーチや検討を加えているかどうかが、論文
の善し悪しの分かれ目となる。単なるパッチワークでは卒論となりえないこと
を、なんどか繰り返し語ることにもなる。
4. 12 月の卒論提出とあわせて、その口頭発表(最終報告)を、これもゼミの
なかで行うことを恒例にしている。自身の論文のできについて本人にも確認で
きる機会であるとともに、後輩への教訓(メッセージ)にもなりうる場であろ
うと、私自身はこの発表を捉えている。
31
仏語圏文化思想研究(藤江)
3) ゼミ生の声
ゼミ生の声について、ここで記述する勇気は私にはない。卒論の内容がその答
えであろうと信じて、よりよい卒論が仕上がるよう、助言に努めるだけである。
それぞれの人生と学問との集大成(ないしは中間報告)として卒論がある、と
私は思っているので、その幾分かの手助けができていれば、私としては、それ
だけで十分満足である。毎年度、ゼミの『卒論集』を印刷しているので、御希
望とあれば、いつでも閲覧していただきたい。
まだ、必ずしもできのいい卒論が揃っているとは言えないが、それぞれにとっ
ての最大限の自己表現であったろうと思う。ここで終わるのではなく、ここか
らが本格的自己表現の始まりだと思えば、そのできの悪さも含めて、卒論作成
の一連の作業は意義深いものである、とむしろ考えたい。
32
アメリカ大衆文化研究(小澤)
アメリカ大衆文化研究Ⅰ・Ⅱ(小澤 英二)
1)教員による自己点検
① 準備科目における指導内容
・ アメリカ大衆文化研究ⅠA
3年生前期に開講する本授業では、ゼミ生へのイントロダクションとしてお決まりかもしれな
いが、自己紹介から始め、ここでは意見や情報の交換を行う場所として、発言が求められること
を意識づける。5回目までの授業では、大衆文化にまつわる何らかのテーマ(たとえば「映画」
や「音楽」
、
「コマーシャル」
、
「本」
、
「お笑い」
)を与えて毎回1分ほどのスピーチを課した。話す
ことへの抵抗を無くすことと、その人となりが理解できるようにするためである。ゼミ生それぞ
れの趣味や嗜好がある程度理解され、またそれをリスペクトする姿勢を常に持ったうえで、それ
ぞれが意見を言い合うようにすることを心がけさせた。
前半週は、大衆文化研究の対象となるようなものや、その対象への研究視点・方法など基本的
なことがらを講義する。後半は具体的に比較的大きな(今年は「音楽」
)テーマを設定し、各自で
調べ、プレゼンしてもらう。1 昨年に行ったゼミ生の報告に対するコメントが以下のものである。
アメリカ大衆文化へのアプローチ ―卒論執筆への第一歩-
今年度のゼミ3年生を対象とした授業(アメリカ大衆文化研究ⅠA)では、アメリカ大衆文化の諸ジャンルにおける具体的な
事例を 10 年スパンで捉えて調べ、それぞれできるだけ何らかの視点を持ってまとめたうえでの報告を課題づけた。何をどうや
ってよいか具体的な指導の無いままこのような難題を課されたゼミ生たちは、たいそう狼狽したことであろう。いきなり「アメ
リカ大衆文化」の世界という大海に放り込まれ、アップアップしながらも自力で泳ぎ始めて、なんとか溺れて沈むことなく乗り
切ってくれた。本稿に続く 16 篇はその成果である。
卒業論文を書くことの大きな意味として、自立してものを考えることのできる能力を得ることがある。その考えにしても、他
の誰からも理解されない独りよがりなものではなく、誰をも納得させることの出来るような根拠を持つ論理的な説明を伴ったも
のでなければならない。そのような自立した思考ができるようになるための第一歩として、今回の無謀ともいえる課題を受け止
めてもらいたい。まずは自力で泳ぐ意志を持つこと、それが『明日のジョー』の段平風に言えば、「明日のためのその1」であ
る。そしてどうやって泳ぐのがよいのか、それを手っ取り早く見つける方法は、上手く泳いでいる他人の技や要領を盗むこと、
それが「明日のためのその2」である。では「その3」は何なのか? 実はもう「その3」はなくて、あとはもう「打つべし!
打つべし!打つべし!」なのである。打ったパンチがまったくヒットせず、逆にカウンターをくらって何度もダウンを繰り返し
ては立ち上がり、最終ラウンド終了のゴングを聞いた後には真っ白に燃え尽きてその判定など無意味かのごとく微笑みを浮かべ
ながら卒業していく、それが私の抱く卒論を書き終えたイメージである。私自身はそこで不完全燃焼に終って、いまだに論文執
筆というリングから去ることができないでいるのだけれども。
本題から少し外れてしまったが、ゼミ生たちのテーマに対する視点や原稿の書き方に統一性がない点は、このような指導方針
(?)に伴う、私の説明と指導(力?)不足からくるものであり、決してゼミ生たちの力不足からきたものではないことをお断
りしておきたい。
今回それぞれのゼミ生が選んで報告したテーマとその年代は、下の表の通りである。16 篇それぞれは独立した一篇として読
むことが出来る。しかし、表にしたがってその縦軸や横軸のそれぞれの関連を考えながら何かを読み取っていくことはできない
だろうか。
たとえば、音楽のジャンルにおける「ジャズ」から「ビートルズ」
「カーペンターズ」「マイケル・ジャクソン」「マライア・
キャリー」「ブリトニー・スピアーズ」にいたる縦軸のラインを「人種」的な音楽の推移として捉えなおすことも可能なのであ
る。「ジャズ」が持つ「黒人的」な要素は、「白人的」なロックとして 60 年代にビートルズによって書き換えられた。そのビー
トルズの曲を何曲かカバーしていた 70 年代のカーペンターズは、
「白人的」なカントリーを基調としての音楽性を持って大衆に
受け入れられた。マイケル・ジャクソンは、黒人でありながら「白人的」なダンス・ビートを模索しながら白人有名ミュージシ
ャンとコラボし、「ホワイト」に傾倒したブラックミュージックを全世界のヒットチャートのトップへと躍進させた。彼がなし
た功績は、それまでマニアックな領域にあったブラックミュージックを誰もが抵抗なく近づける音楽へと位置づけたことであっ
た。そしてマライア・キャリーは、そのまま圧倒的な力を持つブラックな歌唱法やリズム・アンド・ブルースなどの音楽性をマ
イケル・ジャクソンによってブラックに対する抵抗がなくなったヒットチャートのトップに位置づけた。その後ブリトニーズ・
スピアーズは典型的な白人アイドルを出発点に、マドンナからの流れともいえるセクシー路線と様々な音楽的要素を持ったアー
ティストとして次世代を担っている。そこに感じられるのは、ジェニファー・ロペスにも共通するラテン的フレーバーである。
横軸に見てみよう。アメリカにおけるサッカーの普及とラティーノ(ヒスパニック)の増加との関連が指摘されているが、ブ
リトニーのラテン的フレーバーとそれが期を一にしていることは決して偶然ではない。90年代のスポーツ界におけるマイケ
ル・ジョーダンのスーパー・スターとしての地位と音楽界での黒人の躍進もまた偶然ではない。いずれも「黒人的」な様式その
ものを持ったまま、それが人種的な価値観(文化性)を超えて広く大衆にとって「クール」になったのである。
33
アメリカ大衆文化研究(小澤)
他にも様々な事象がそれぞれのテーマを連関させていくことによって見えてくる。また、縦軸や横軸に限らず斜めに、あるい
はジグザグに捉えても様々な局面が見えてくるであろう。単独では見えなかったものが、周りにある状況を見ることで同一化あ
るいは差異化され、可視化されてくる瞬間である。多分無限にこの世界は広がっていくことであろう。
読者諸氏には、16 人のゼミ生たちが泳いだほんの小さな距離を一緒に楽しんでいただきたい。そしてその間を様々な想像力
を働かせながら、縦横無尽に闊歩していただきたいと思う。執筆者 16 人には、他の人が泳いだところと見比べることで、自分
の泳いだところがどんなところであったのかを今一度考えてもらいたい。海面をアップアップしながら見た世界でも十分に満足
できたかもしれないが、落ち着いて海に顔を浸けて下を覗いてみたら、そこには無限の広がりを持った漆黒の海底があることを
知るであろう。卒業研究は、その漆黒の闇に光を当てて見て、そこにどんな世界が広がっているかを自分の言葉で説明する作業
である。
これから卒業論文に向かって真っ白に燃え尽きてください。でないとこのリングから出られない不幸(?)な境遇に陥ること
になります。
年代
映画
音楽
スポーツ
舞台
ファッション
テーマパーク
20
30
40
50
60
70
80
90
00
ミュージカル映画(~00)
Audrey Hepburn(~90)
Jazz(~00)
Cheerleading(~80)
ブロードウェイ・ミ
ュージカル
ディズニー
Steven Allan Spielberg
スター・ウォーズ
Audrey Hepburn(30~)
ミュージカル映画(20~)
The Beatles
Carpenters
Michael Jackson
Mariah Carey
Britney Spears
ヒッピー
マイケル・ジョーダン
サッカー
・ アメリカ大衆文化研究ⅠB
3年生後期は、ゼミ生個々の卒業論文の題材探しを目標としている。
大衆文化を読み解くためのキーワードとなるコンセプトをいくつか提示し、具体的にどのよう
な事象からそれぞれのコンセプトが読み取れるかを講義した上で、具体的な研究を紹介して解説
する。
ゼミ生には個々に卒論で扱う題材を決定してもらい、その題材に関する文献のピックアップと、
それらの文献を眺望したときに、どのようなテーマでアプローチしていくことができるかを報告
させる。
2)ゼミ雑誌の刊行
ゼミ生を中心として、年に数回の雑誌の刊行を手作りで行っている。雑誌は主に何らかの特集
と自由テーマで構成されているが、各学期でのプレゼンで報告した内容は人に読ませられる原稿
にまとめて、この雑誌への投稿を義務付けている。またそれが各学期での最終のレポートになる。
雑誌刊行の主な目的は、人に読ませられる文章のトレーニングと情報交換である。また各号交
代でゼミ生に編集委員になってもらい、雑誌を作り上げる経験をつませる。それによって、ゼロ
から創りあげるセンスを磨いてもらうのである。先にあげた「アメリカ大衆文化へのアプローチ」
と題した文章は、その雑誌に私が寄稿したものである。また、それぞれのゼミ生が他のゼミ生の
良い部分を吸収できるような媒体としてもこの雑誌が機能していけるのではないかと期待してい
る。同年代から学びあうことは、時には教師よりもずっと良い刺激になり、最も良い結果が引き
出せるのではないだろうか。
3)卒業論文について
卒業論文作成に当たって3年生の後期に以下のようなフローチャートをゼミ生に示している。
ただし、このフローチャートはあくまでもガイドラインで、そこに示されている期間はそれぞれ
の作業のデッドラインと理解して、できるだけ早めに進行していくように指導している。就職活
34
アメリカ大衆文化研究(小澤)
動と平行していくことの困難さがあり、集中して卒業論文に取り組める時間が思うように確保で
きないことも懸念され、それぞれの作業の区切りには、その進行状況をチェックできるように、
何段階にもわたって成果を提出させている。☆を付けてあるものが提出を義務付けているもので
ある。それを先に紹介したゼミ雑誌に掲載し、同学年間での進行状況の情報開示を行う。3年生
については1年後にどのように卒論が進行していくかを見ることができる場としてゼミ雑誌を機
能させている。
卒業論文執筆のフローチャート
3 年生
後期:テーマの選択と発想
・ テーマに関わる文献の検索と収集
・ 文献の流し読み
・ 「論文の展望」執筆☆
4 年生
前期4月~6 月:思考の溜め込み
・ 重要文献の講読
・ 研究ノートの作成
・ トピックの書き出し☆ →
本論の各章
6 月~7月初め: 論文ラフスケッチの作成☆
・ 論文での自己の主張
・ その主張が出た理由の分析
・ 主張を展開する論述順序 → 章立て
7 月下旬~9 月中旬(夏休み)
・ 新たな文献収集とノートの作成
・ テーマについての先行研究のまとめと分析☆ → 第1章
・ 「章立て」の見直し☆
後期
9月中旬~11 月:最終文献収集と本格的論文執筆
11 月下旬 小澤への提出
12 月 最後の手直し
12 月 15 日 論文を教務課に提出
今年度は 4 年生を担当していないため卒業論文の指導はなかったが、一昨年の卒論では、最後
に論文集を編集し、ゼミ生に配布した。この論文集は、下級生の卒論執筆はもとより、2 年次後
期のゼミ選択の折に参考になる資料として利便性が高い。
4)ゼミ生の声
本年は 4 年生を担当していないため、卒業論文準備科目を履修した 3 年生のみを対象に、
「1 年
間の履修を終えての感想」をメールで寄せてもらった。以下に修正なしでそのままの文章で貼り
付けておく。
・ 3年生のゼミの授業を終えてみて、一つの事を深く追究していく楽しさ、難しさ
35
アメリカ大衆文化研究(小澤)
を学びました。また、授業以外にもゼミ生のみんなで交流する場が設けられ、仲
を深めることができ、大変良かったと思います。これからもこの良い雰囲気の中
、納得のいく論文が書けるように頑張りたいと思います。
・ 仲のよいクラスで、とても楽しく授業ができました。
みんなの関心もさまざまで、たくさんの刺激を受けることができました。
・ はじめは音楽についてのプレゼンを各自でやり、自分の興味があることを調べたりみんな
に聞いてもらったり意見をもらうことの楽しさが分かってきました。雑誌も作ってみんな
の文章を読めたり、とても楽しいゼミです。卒論に向けてみんなと意見出し合ったり協力
したりできそうです。
・ 私の知らない世界について皆の発表を通して知ることができたのでとても勉強になりまし
た。ゼミ生は皆まったく違う世界や文化について興味を持ち、疑問を持っているのでいろ
いろな視点からあらゆる世界、文化をかいま見ることができおもしろかったです。後、授
業の最後に毎回まとめのようなものをしたらめりはりがついて良いと思います。
・ 先生の知識の豊富さには驚きました。
発表で困ったときに、的確なアドバイスで発言を導いてくれたので、とても助かりました。
おおむね好意的な声が多いのは、メールでの提出であったため無記名にならず、忌憚のないネ
ガティブな感想や意見が書きにくかったのかもしれない。私自身の手ごたえからしても、ゼミ生
に対して卒論に取り組む姿勢や私や他のゼミ生からの発言に対する反応等に満足がいかないよう
に、多分ゼミ生たちも少なからず不満を持っていることが予想される。ここにあるコメントは、
優等生的なまじめなゼミ生の少しよそよそしげな声であるように思われる。教員に対してもある
いは他のゼミ生に対しても、もう少し率直に意見や感想が言いあえる環境づくりが必要であろう
36
アメリカ大衆文化研究(長澤)
アメリカ大衆文化研究Ⅰ・Ⅱ(長澤 唯史)
1.卒業論文準備科目および卒業論文について
(1)3 年次ゼミ「アメリカ大衆文化研究ⅠA・B」
3 年次のゼミの目標と、その達成のための方策は以下のとおりである。
① ポップカルチャー研究とは何かを理解させる。
学生は1年次の国際教養演習以外にはゼミ形式の授業を経験しておらず、ゼミとは何か、研究とは
何をどう調べるものなのか、論文とはどのように読んだらよいのかなど、卒業論文の執筆に必要な基
礎的な知識や技能はほとんど修得していない状態で、ゼミを履修しなければならない。
とくにこのゼミの主題であるポップカルチャー研究には、漠然としたイメージしか持っていない場
合がほとんどで、学生は音楽・映画・TV・マンガなどの研究対象を分析する視点や手法を一から学
ばなければならない。そこで 3 年次のゼミでは徹底して専門分野の論文を読み、併せて関連作品を紹
介しながら分析を実践するなどして、ポップカルチャー研究への理解を深めることを目標としている。
②
卒論の核となる、自分自身の分析の手法・視点を確立させる。
ポップカルチャー研究でもっとも重要なことは、ただの作品鑑賞で終わらないように、社会的・政
治的・歴史的状況などとの関連を理解し分析するための視点を獲得することである。そのためにメデ
ィア論やジェンダー研究、ポストモダニズム、ポストコロニアリズムなどに基づいた理論的分析をで
きるだけ紹介し、また①の場合と同様に参考資料を用いた分析の実践例を示している。
次に、実際の授業の運営方法と、使用したテキストの例を紹介する
③
専門的な文献を読み、的確に要約する発表
半期ごとに使用するテキスト(研究論文)を、最初の時間に全てプリントで配布し、その場でざっ
と目を通させて、自分が担当したい論文を決めさせる。これはゼミの性格上、各人が興味関心を持つ
分野が異なるため、できるだけ自分の関心に近いものに触れさせるためである。
次に発表の順番を決め、次週から各人が担当する論文の要約を発表させる。一回に原則一本ずつ、
長い論文については二人で分けて発表することもある。発表者は必ず A4 で 1~2 枚のハンドアウト
を用意し、全員に配布する。発表時間は一人 10 分から 15 分を目安とし、この時間内で終わるように
準備を促す。発表後は教員や他の学生からの質疑応答を行い、残った時間は教員が用意した参考資料
を用いて関連する作品や分析の実践例の紹介を行う。
④
学生の幅広い関心に合わせてテキストを選択
上記③でも触れたように、受講する学生の興味関心は映画、音楽、TV、マンガ、アニメ、アミュ
ーズメントカルチャー、etc と多岐にわたっている。そのため、基本的な論文以外はそれぞれのジャ
ンルに特化したものを使用している。後期はできるだけ英語の文献も使用するようにしているが、ポ
ップカルチャー研究の英語文献は高度に理論的なものが多く学生には理解が困難なため、大学学部用
の英語テキストなどから抜粋している。以下にその一例をあげる(著者名とタイトルのみ)
。
・川端 茂「ミュージック・ビジネスの《六十年代》
」
・佐藤良明「屈曲知らずのポップ・パワー 60 年代の動力学」
・ジョン・フィスク「ポストモダニズムとテレビ」
・ローラ・マルヴィ「視覚的快楽と物語映画」
・加藤幹朗「サイコアナリシス 映画を見る(聴く)とはどういうことか」
37
アメリカ大衆文化研究(長澤)
・スーザン・ネイピア「なぜアニメなのか?」
・Chris Mosdell, “The Real Dreamworld: Where Superman Meets Tora-san”
最後に、積極的に受講させるための工夫、指導内容、受講生の反応について記す。
まず二学科にまたがりお互いに面識のない学生同士を馴染ませるために、教員から積極的に名前を
呼んで話しかけ、少しずつでも全員に発言させることを心掛けている。発表やハンドアウトへのコメ
ントも、できるだけ「ほめる」ポイントを見つけながら、以降の発表者に参考になるように、具体的
なアドバイスポイントを指摘する。その結果、学生が委縮せずに発表できる雰囲気はできているよう
に思われる。またコミュニケーションを深めるために、授業外での食事会なども効果的である。
またできるだけ、「発表の前に分からないことがあれば相談に来るように」と、学生の研究室への
来訪も促している。また後期の最後は、卒業論文のテーマの発表に充て、その前にかならず教員と相
談することを求めている。こうした学生への指導の際にも、できるだけ相談だけで終わらずにさまざ
まな話題を引き出し、学生と教員の心理的な距離を縮めることも心掛け、結果としてゼミへの学生の
関与度も高くなっているように思う。
学生からの声は最後にまとめるが、全体として反応は上々であった。
(2)4 年次ゼミ「アメリカ大衆文化研究ⅡA・B」および「卒業論文」
4 年次のゼミは「卒業論文」の授業と連動し、各人の卒業論文の中間発表に主眼を置いている。し
たがって、ここでは卒業論文の指導と併せて記述することとする。
まず卒論のテーマ決定については、本人の希望に NO を言うことは絶対にせず、そのテーマを卒論
にするにはどうしたらよいかを一緒に考える、という形で指導している。授業では、前期・後期にで
きるだけ一人 2 回ずつは発表させることを心掛けている。ただ 4 年生は前期のうち、就職活動等で授
業を休むことが多くなるので、発表の順番などは臨機応変に変更できるようにしている。また例年、
ゼミ生の人数が 15 名を超えており、発表の時間の確保には頭を悩ませている。
ゼミおよび卒論の指導にあたって、以下の点に注意している。
①
自分の卒論についてのイメージを持たせる。
原稿用紙数十枚にのぼる文章を書くのは、ほとんどの学生にとって初めての経験である。また 4 年
生の前期は就職活動に忙しく、卒論がほんとうに書けるのか不安を感じている学生が多い。その不安
をできるだけ払拭するために、英語・日本語いずれの場合もできるだけ早い時期にアウトラインを提
出させることで、全体像を予め把握させる。執筆段階での方針変更はもちろん認めているが、早い段
階でのイメージ構築によって、文献や資料の収集に専念できるようになる。
② 個別指導の時間を多く取る。
教室での指導には限界があり、やはり卒業論文の指導に個別指導は欠かせないと、経験上感じてい
る。そのため発表の前に必ず、「卒業論文」の時間とオフィスアワー、またそれ以外の空き時間を利
用して、研究室での個別指導を行っている。時間は一人最低 30 分とるようにしているが、ゼミ担当
教員が指導教員も兼ねている関係上、卒論指導以外にもさまざまな相談にのることも多くなり、平均
1 時間以上はかかるようになってきている。だが卒論内容の指導以上に、就職活動で精神的に不安定
になっている学生の心理的ケアが、結果的に卒論執筆にプラスに働く場合が多い。
授業内容、指導方法については以下のとおりである。
③ 最低年 3~4 回の中間発表
前後期ともに、一回に 2~3 名、質疑応答も含めて一人 30 分の時間を与えて中間発表を行っている。
38
アメリカ大衆文化研究(長澤)
この段階になると調べた内容が増え、発表時間が超過することもあるため、一回に 2 人がベストであ
るが、上述のように受講者の人数増のためにままならない状況が続いている。
発表へのコメントの際には、最初に同様の分野で卒論を書いている他の受講生に意見を求めるよう
にしている。その後で全体に対して自由に発言を求めるが、その際には発表内容そのものに対する意
見や質問よりも、発表者の参考になりそうな関連情報や作品などを挙げ、それについての意見を自由
に発言してもらう。そうすることでその分野に詳しくない学生にも発言してもらうためと、一見繋が
りがなさそうに見えても自分の研究に役立つことはたくさんある、ということを実感してもらうため
である。
授業終了後もできるだけ、その日の発表者に個別にコメントをするようにしている。その場合は今
後の進め方や発表内容、レジュメの不備の指摘などの細かな指示と併せて、全体的な印象をできるだ
け肯定的につたえる。学生の力のなさや準備不足を指摘するのは簡単だが、それよりも卒論執筆への
モチベーションを下げないことの方が、その後の指導がやりやすくなるかどうかの重要なカギとなる。
④ 第一校提出と添削、提出
例年 12 月 15 日前後が卒業論文の締め切りであるため、日本語執筆者でも遅くとも 11 月末には第
1 校を提出させている。12 月の第 1 週のうちに添削して返却し、教務課への提出に際しては完成した
論文となっているようにしている。可能な場合には 10 月末くらいから、書き上がった章から順次提
出させ添削しているため、早い学生の場合は 12 月 1 日の受け付け開始日に、提出を済ませる場合も
ある。
最後に、大まかな卒論指導のスケジュールを示しておく。
・4 月:
題目提出(所定の期日)
、アウトライン提出(順次)
・4 月~7 月:
中間発表(一人 2 回、一回 30 分以内)
・8 月~9 月:
夏休み(文献収集、調査期間)
・9 月~11 月:
中間発表、卒論執筆
・11 月末:
第 1 校提出
・12 月第 1 週:
第 1 校添削、返却→卒論仕上げ、要約集原稿執筆
・12 月 15 日まで: 教務課へ提出(順次)
2.受講生の声
本年度の 3 年次、4 年次それぞれのゼミ生の感想を、以下に抜粋して掲載する。
①
3 年生の声
・ ゼミ生、全員が前向きで、「自己」を持っているなと強く感じ、皆、長澤先生のことを尊敬し、ついて行こうと頑張っているなと
いう姿勢が感じられました。1年経過した今も皆のモチベーションの高いままなので、「私もやらなくては!」という、いい意味
でいつも緊張して、課題に取り組むことができました。一つだけ、リクエストをするならば、授業中、先生→ゼミ生への質問だ
けでなく、ゼミ生→ゼミ生へのコメント、質問が飛び交うような授業になれば、もっと飛躍できるのではと思っています。
・ 学期ごとに、最低一人一回の論文発表があることによって、“読む力”をトレーニングするだけでなく、いろいろな課題に関心
を持たせる、リサーチする意欲を促す効果を感じました。毎回のゼミで、先生の用意する映像や書籍などは、論文を理解す
るうえで重要なツールだったし、授業が退屈にならない良い刺激だった(聴覚だけでなく、視覚も)と思いました。改善点は…
個人的な考えなんですが、他の人への意見や質問やアイディア?の出し合いの際に、なんだか発言しにくい雰囲気であると
感じます。
・ 論文を読んだことがなかったので、一人ひとり論文を読んで発表をすると聞いた時は、かなり不安でしたが達成感がありまし
39
アメリカ大衆文化研究(長澤)
た。しかし論文が難しかったです。あと映画を見たり、音楽を聞いたりするのは良かったです。論文に書いてあるだけではイメ
ージがわかないので。後期は前期よりも発言しやすくなったと思います。
・ ゼミに入るまで自分の好みの作品ばかり観たり聴いたりしていたので、他の子達の興味のあるものや、先生が毎回持ってき
て見せてくれる DVD は私にとってとても新鮮で自分の視野が広がりました。映画の見方もすごく変わりました。
・ ジェンダーや黒人問題にも一層興味が沸き、プロモーションビデオとかにもそういった社会問題を織り交ぜて作られた作品も
あると言うことを知って、奥が深いんだなと関心した時もありました。先生のゼミではたくさんの文献を読む機会があって、本を
読むことが好きな自分にとってはとても楽しむことができました。発表は毎回緊張しましたが、自分が担当した箇所や興味の
あることを先生やゼミのみんなに紹介することができて楽しかったです。
・ 論文にあわせて先生が色々な DVD をみせてくれたのでとてもおもしろかったです。映像も、みたことないものばかりで、それ
に解説をつけてくれるので知識が広がって良かったです。個人の発表で、自分が興味がなかった分野でも、皆さんがわかり
やすくレジュメにしていて、毎回関心したし、たくさんのことを知ることができたで楽しかったです。
・ ゼミ生みんなに問いかけをして発言する参加型ゼミのようなところ。毎回飽きない授業であり、発言することが苦手だった私も
徐々に慣れていき先生がみんなに問いかけをする時に自ら積極的に発言することができるようになりました。
・ 前期早い時期にみんなで集まってご飯を食べに行って打ち解けやすかったと思います。授業スタイルも他の人の発表を聞
いてその人の考え方や感じ方など新たな発見ができるのでとてもおもしろかったです。途中教室変更があって、席の形が離
れてしまって、みんなが遠くなったので発表後の話し合いはやりにくくなってしまったかと思います。
・ 今年一年は様々な分野を勉強出来て、楽しかったです。あと飲み会も比較的多かったので良かったと思います。
②
4 年生の声
・ とても卒論が書きやすかったです。無理にテーマを決めないで興味あることを自由に調べることができ、内容の幅が広がっ
たので本当によかったです。また、似たテーマの人のプレゼンは情報交換でき、いい刺激になりました。先生が見せてくれた
映画(映像)や音楽など、その時に先生が映像の解説をしてくれたことが、卒論やプレゼンでの分析の参考になりました。
・ このゼミの良いところは、みんなひとりひとりの個性が強いところだと思います。授業で行ったプレゼンテーションからわかるよ
うに、卒業論文のテーマがみんなユニークで、完成した論文を読むのが楽しみです。
・ 自分の考えていることとは別に、全く違ったテーマの発表を聞くのが毎回楽しみでした。
・
「大好きな監督と大好きな映画のことだから大丈夫だろう。」と思っていたら、大間違いでした。調べれば調べるほど、映画の
こと、監督のことがどんどんわからなくなり、期限ぎりぎりまで、どうやって文章にまとめればよいか悩みました。だけど、論文を
書き終えた今、そんな悩んだ時間も、徹夜の毎日もすべて、自分の力を出し切ったと誇れる思い出の 1 つになっています。
・
長澤先生のゼミは、3年生で論文を読むことやまとめ方を、4年生では自分たちの卒論の内容について発表するよう授業を
進めてくれ、とてもよかったです。最終的に卒論を書く際にも、授業で発表し、毎回先生が適切なアドバイスをしてくれてい
たので、慌てることなくじっくりと自分のテーマについて考えることができました。
・
卒業論文のテーマも好きなものにさせて頂いたので嬉しかったです。以前に先生が言っていたように、自分の興味が惹か
れるものではないと書けないと思いました。1年前の自分は本当に卒業論文が完成出来るかとても不安だったので、生徒の
意見を否定せずに受け入れてくれる先生にはとても感謝しています。
以上のように、3 年生は論文を読み分析の手法を学んだこと、発表を通じて刺激を受けたこと、さま
ざまな資料に触れたことが肯定的に評価されている。4 年生にとっては、自分の選んだテーマを無事
卒論に仕上げた達成感や満足感が最大の収穫である。3 年生から指摘のある、授業中の意見交換に関
する指摘(下線部)については、後期の教室変更が大きな影響であったのだが、今後はできるだけ意
識して意見交換を促すよう心掛けたい。また上記の感想はメールでの提出となってしまったため匿名
とはならず、学生の本音がなかなか引き出せていないように思う。その点は残念である。
40
欧米文化研究(水島)
欧米文化研究Ⅰ・Ⅱ(水島 和則)
A ゼミの指導内容
1)ゼミの特質と指導内容・テキスト
ゼミの指導内容、テキストは試行錯誤が続いており、現4年生と現3年生とでは内容が
異なっている。そのうえ現2年生からはカリキュラムも変わり、一方で「映像制作」
(担当、
洞谷先生)の授業が、他方で私自身が担当する「アメリカ映画論 AB」の授業が受講可能と
なったため、来年度からも内容は変わる予定である。現2年生からは、ようやく授業内容
を前提にしてゼミ指導をおこなう見通しがついたということだが、今回の自己点検の対象
となる二学年については、とりわけ映画製作について何の基礎知識も持たない学生もゼミ
に入ってきたため、指導はきわめて難しかった。
予備知識がないことに加えて、ゼミ指導のもうひとつの難しさは、このゼミでは卒業論
文の代わりに映像作品を製作して卒業制作とする学生と論文を書く学生が混在する点にあ
る。4年次になると、製作組の学生と卒論執筆組の学生とを分けてゼミをおこなうが、3
年次には両者がまだ未分離(それぞれの学生が、自分は製作と卒論どちらに向いているの
かを見極める期間)のため、限られた時間で映画分析の手法を身につけるのと映画製作の
基礎知識を身につけるのとを平行して進めなければならない事情がある。
2)テキストと指導内容
上記にふれたとおり、来年度からこのゼミの指導内容・テキストは再び変わることにな
っているが、それを前提としたうえで、ゼミの指導内容をふり返る。ゼミには、映画製作
の基礎知識を教える、映画を題材にして論文を書く技術を授けるという大きく分けて二つ
の目標があるが、論文を書く場合についても学習内容がさらに二つに細分化される。ひと
つは純粋な意味での映画研究であり、もうひとつは映画を題材とした文化研究(アメリカ
文化研究や比較文化研究)である。このゼミに入ってきた学生には後者の関心を有する学
生もいるので、文化分析の手法を無視することはできなかった。したがってゼミでは、製
作/映画の分析/映画を題材にした文化分析という三つの技法を扱わなくてはならない。
しかし実際にはこの三つを3年次のゼミだけで習得するのは難しく、映画の製作と文化分
析の手法については、4年次に入って映像製作を卒業作品とするか卒論を書くか、各自の
意志が固まってから引き続き深めていくことになる。
映画の分析について現4年生に対して3年次のテキストにしたのが、トマス・エルセサ
ーとウォーレン・バックランドの著書、Studying Contemporary American Film: A Guide
to Movie Analysis, Arnold Publishers, 2002 である。原書をそのままゼミの教科書とする
のは学生の語学力からして困難であったが、二年前に私が翻訳の出版を前提として日本語
の訳原稿を作成したため、日本語だけでこの本をテキストとして用いることが可能になっ
た。この本は、理論や方法論の部分も含めると学部学生の理解度を超える内容ともいえる
が、映画の分析篇は一本の映画を具体的に分析・解釈していく内容であり、分析篇にしぼ
ってレジュメを作成することを許容する限り、各ゼミ生の分担と発表に大きな支障は生じ
なかった。ただし、エルセサー執筆の章は教科書というよりは独立した論文といえる内容
で難易度が高く、ゼミでは主にバックランドの執筆した各章を扱った。
一方、現3年生に対しては、新たに訳の出たデイヴィッド・ボードウェルとクリスティ
ン・トンプソンの『フィルム・アート 映画芸術入門』
(名古屋大学出版会)を主たるテキ
ストに用い、エルセサーらの本の数章だけを補完するために扱うことにした。
『フィルム・
アート』の方も網羅的には扱わず、映画産業、物語分析、カメラワーク、編集の各章だけ
にとどめた。
現4年生に対する4年次のゼミでは、ハリー・ベンショフとシーン・グリフィンの教科
書、America on Film, Blackwell Publishing, 2004 のジェンダー、セクシュアリティをあ
41
欧米文化研究(水島)
つかった後半を中心として、いろいろな論文集から(たとえば四方田犬彦他編『男たちの
絆、アジア映画 ホモソーシャルな欲望』
)
、各学生の関心ある論文を選び出してゼミで扱う
という形式をとった。America on Film は大学でのテキストなので英語は平易だが、それで
も内容に踏み込むには学生の語学力が今ひとつという印象だった。映画研究には日本語で
使えるテキストが圧倒的に不足している。そのうち自らでテキストを編纂して本にしたい
が、それまではフラストレーションは解消されないだろう。
3)映画製作をどう教えるか
映画製作については、実践して学ぶしかない性格のものなので前期、後期それぞれの数
コマずつをショートフィルム製作にあてた。夏休みの映画製作にはできるだけ多くのゼミ
生に参加してもらった。3年次のゼミでは現4年生は「途中道」、現3年生は「代返」「バ
トルロワイヤル」という短編映画作品を製作した。また現4年生については、同年度から
開講された「映像制作」の講義を担当している洞谷先生のご厚意で何度か制作にかかわる
レクチャーを開いていただいた。しかし、製作にかんするスキルを授業時間内に習得する
のは難しく、現4年生の映画製作は個人的にミュージック・ビデオなどを作成していた学
生が独学で学んだスキルに依存していた面は否めない。また、正規の授業時間外でのミー
ティングも少なくなかった。現3年生については、2年次からゼミの映画製作の現場に合
流していた学生や、市民対象の映画作りワークショップで映画製作のノウハウを学んだ学
生が数名いるため、それらの学生がイニシャティブをとってくれて制作を進めることがで
きた。いずれにしても綱渡り的なやり方で、上述の映像製作の講義が設けられるまでの過
渡的措置であった。
B 卒業論文の指導のプロセス
3年生の春休み(2月~3月)には個別面談をおこなって主に文献検索の指導をしてい
る。4年次には『授業内容一覧』のシラバスに掲載したスケジュールにしたがって学生の
指導をおこなっている。メールの添付ファイルでのやりとりが鈍い学生がいるのが問題点
である。9月上旬に、大学の教室に集まって2日間にわたる中間発表会を実施した。これ
はゼミ旅行と別個におこなった。映画製作は夏休み中までに撮影を終えるのが理想だが、
構想に時間がかかってこの二年間、いずれも秋以降の撮影となっている。こうしたスケジ
ュールの遅れは現3年生からぜひ改善したい。
C 積極的に受講させるための工夫、指導内容
1)時間割の工夫
この学年から、4年ゼミをそれ以前の金曜日2限、3限から水曜日の2限、3限に移し
た。水曜日は水島に何の用事もないので、結局のところ終日が卒論指導の時間に当てられ
るようになった。また3年ゼミは金曜日の3限とはいえ、学生の大半は午前中から集まっ
てゼミをおこなっており、一部の学生とは3限終了後も引き続きゼミをおこなっている。
このように、私のゼミに関しては、3年生が1コマ、4年生が2コマという時間の制約は
あまり意味をもっていない。
2)課題を出す
これまで数年の経験から、上記のようにテキストと実習を組み合わせるだけの授業では
ゼミが事実上機能しない(必要な技能を身につけられない)ことがわかってきたので、ア
サインメントとグループワークを取り入れ、学年が下るごとにその比重を高める工夫を試
みている。現3年生に対しては、毎月課題を課している。たとえば、好きな洋楽の歌を選
んでその音楽に歌詞をつけた映像ファイルを作成する、という簡単な課題である。アサイ
ンメントは後期になると、学生自らが自分自身の月間の課題を作成して、その課題の遂行
42
欧米文化研究(水島)
状況を報告する、という形式をとるようにした。実際の遂行状況は芳しくないが、学生は
自分の手持ちの時間がいかに制約されているか、一ヶ月というタイムスパンで自分に実行
可能な課題は何かを反省する姿勢を身につけるというメリットがある。
3)議論の対象を共有する
過去のゼミの最大の改善点として、テキストを分担すると発表者(担当者)だけが該当
箇所を読んできて残りのメンバーが読んでこない、映画について各自に自由発表を行うと、
分析対象になった映画をメンバー全員が見ているわけではない、という点があった。いず
れの場合も分析対象が共有されていないためにディスカッションは盛り上がりようがない。
このため現3年生のゼミでは、全員がテキストの該当箇所を読む、全員が同じ映画を見る
ということを最優先にした。DVD を複数枚コピーして全員に回すようにして鑑賞を確実に
するのに加えて、金曜日3限に設定されたゼミの前、金曜日の午前中に該当する映画を上
映して全員が見るという方針を打ち出した。金曜日午前に別の授業が入っている学生がい
るので、ある意味では無茶苦茶なやり方であったが、大半の学生が参加したのには驚いた。
このやり方は思ったよりもはるかに効果的で、ゼミのディスカッションの密度が飛躍的に
高まった。このため現3年生のゼミは冬頃になると、教員の存在が必ずしも必要ではない
ほどに活性化するようになった。
他方、テキストを全員が読むことを徹底させる点については、未だに成功していないと
考えている。
4) その他、運営にかかわる工夫
このゼミでは映画製作をおこなうが、映画製作は集団作業なので団結することが不可欠
である。過去には、映画企画をめぐる対立から学生が他のゼミに移るなど、苦い経験を何
度もしてきたほどである。そのため、ゼミの「ユニフォーム」というべきポロシャツを製
作することまでして、学生のまとまりをつくりだそうとしてきた。飲み会も何度か実施し
ているが、授業(3限目)を昼から続くピザパーティーにしたことも何度かある。ゼミメ
ンバーの交流は授業と同等に重視している。
また、小澤先生のゼミにならって簡単なゼミ誌を出す努力をしてきたが、なかなか継続
させることができずにいる。いったん出ると学生はかなり読んでいるようなので、ゼミ誌
作りをもう少しシステマティックに進める体制を確立したい。さらにもう一つの工夫とし
て、現3年生からゼミの役割分担を設けた。その役割はゼミ長、副ゼミ長から始まって映
像編集室の機器の管理、リクリエーション係という、直接の授業とは関係ない範囲まで及
ぶ。たまたまリーダーシップを発揮できる有能な学生に恵まれたせいかもしれないが、こ
のやり方もきわめて効果的であった。
さらに、懇親会の開催を含めて3年生と4年生の相互交流を進めた。なかでも4年生が
三年ゼミに顔を出して映画分析のやり方について解説する、というやり方は下級生に大き
な刺激を与えるもので、やはり予想外の効果をもたらした。映画製作のチームに下級生を
誘って加えると、自然に学年を越えたつながりが醸成されるので、タテの関係を利用した
ゼミ運営はきわめて効果的である。
C ゼミ生の声
4年生
良かったこと
□映画に関する知識が深まった。それまで見なかったジャンルの映画にも興味がもてた。
みんなの発表を聞いて様々な着眼点を知った。特に○○ちゃんや○○ちゃんの発表はカル
チャーショックだった。
43
欧米文化研究(水島)
□いろんなタイプの子がいて、いい意味でごった煮のようなゼミだったこと(笑)。このおか
げでハミダシ者の私でもそんなこと気にせず思ったことをバンバン言えました。
□三年のとき、他に取りたい授業がなく金曜はゼミだけのために学校に来ていた。最初は
それが嫌だったけど、いま思うと授業後も余韻冷めやらぬときはそのまま延長したり先生
の研究室に遊びに行けたので、非常によかったと思う。
□ゼミで飲み会や旅行に行けたこと。2回で廃刊になってしまったけどゼミ誌を発行でき
たこと。
改善の余地のある点
□司会役というか、クラス委員みたいなものを決めればよかった。せっかく才能豊かで個
性的なキャラがたくさん在籍していたのに、それを統制して引率していく人がいなかった
ため結果的にそのアクの強さが裏目にでてしまい、結束力に欠けてしまった。
→ この意見を容れて、3年次からは委員を設けた。
□自分らが三年だったときの四年生との合同授業なんかあったら楽しかっただろうな~
→ この意見も採用し、3年生からは合同授業を開催している。
□Tシャツ作れませんでしたね…
→ この意見にならって、現3年生ではポロシャツをつくった。
3年生
□ゼミ全体にすごくまとまりがあって、皆で映画を見て分析し積極的に討論ができ、とて
も充実した濃いゼミになったと思います。後、これは個人的な意見ですがみんなの映画分
析力がかなり向上していると感じました。
□自分達がやりたい事を突き進められた。
□先生は生徒の自主性を重要視してくれた。
□ゼミ生で一本の映画を観て討論を何回かおこなったが、複数の人との作業には、お互い
に足りないものを補ったり新しい視点が増えたり、自分の考えへの反応が知れたりできる
という、たくさんの利点があることに気づけた。
□前期は何をすればよかったのかうまく検討がつかず動けなかったので、もったいなかっ
たなぁ…、というのが心残り。もっとあれこれしとけばよかったなぁ…と後悔。具体的に
は、もうカメラワークや編集を実践しておけば、と。
□私達のゼミにはうまく場を仕切って進めてくれる人、意見をポンポンいってくれる人が
いたから後期はスムーズに動けたが、他の代にこういう人達がいないと水島ゼミが成りた
たないかも、と思うと心配。
□みんなで集まって映画をみて、ゼミの時間に話し合えたことが良かったと思います。
自分一人では気がつかなかったこと、
「こう思った」の違いを知ることができて、1 つの映
画を真剣にみて話し合うことの楽しさを感じられました。
□前期後期どちらかでもう少し撮り方等基礎を固めてもよかったかなと思いました。
44
アメリカ文化研究(小川)
アメリカ文化研究Ⅰ・Ⅱ(小川 雅魚)
「卒業論文準備科目・卒業論文」について
1)教員による自己点検
*1年目つまり3年次の演習では、アメリカの小説を素材にして英文および
翻訳文を読み、まずそこに書いてあることを把握する力をつけさせる(これが
個人の格差がおおきくて、なかなかにムツカしい。しかも読解力の平均値は年々
低下して当節の株価のごとくである)。小説の細部に拘りながら、日米の文化比
較、いかに我が国がかの国の(悪)影響下にあるかを見ていく。
平成18年度は、J.D.Salinger の The Catcher in the Rye を教材とした。
40年以上前に出た野崎孝の翻訳と、出たばかりの村上春樹の翻訳とを比較
しつつ、半世紀前の「青春」と現代の「青春」との違い、日本語の変化、日本
人のアメリカを見るまなざしの変化を語ったが、むしろブレーク・タイムに話
す雑多な事柄の方が学生の興味を引いたようである。
平成19年度は、前年とおなじく The Catcher in the Rye を教材とした。
平成20年度は、T.Capote の”The Breakfast at Tiffany’s”を教材として、半
世紀前の橋本福夫の訳と、やはり出たばかりの村上春樹訳を用いた。また、映
画も参照して、メディアの違いによる表現の相違を検証した。
*3年次には、ともかくこの世界の事象に興味をいだかせることを旨として
いる。まったくとるに足りないと思われる事柄でも、人間がかかわることはす
べて文化であり、卒論の対象になりうることを知ってもらう。たとえば昨年、
歯列矯正を卒論でとりあげたいと言い出した学生がいた(結局資料不足で断念)。
歯列を針金で被った少年少女の姿は、30年前にはアメリカのドラマの中でし
か見られなかったものだが、いまでは我が国の普通の光景である。ここにもア
メリカ文化の知らぬ間の深い浸透を見ることができるだろう。資料さえ揃えば
面白い研究になっただろうに、残念である。
あるテーマについて、数十名の人々にインタヴューしてそれを網羅的に並べ
る、Studs Terkel の仕事のような卒論を勧めているが、残念ながら応じる学生
はまだ出ていない。
*4年次には卒論を早めに書きはじめるよう指導しているが、就職活動もあ
って夏休み前に着手するものはほとんどいない。もう2ヶ月はやく書きはじめ
ていたら素晴らしい出来になっただろうという論文が多々ある。
45
アメリカ文化研究(小川)
学部完成年度以来3カ年で計51編の卒業論文・卒業制作が提出された。
+平成18年度
初年度ということもあって、学生はもちろん教師としても手探り状態での取
り組みであった。
19編の提出論文のなかで「視線の政治学:映画 SAW について」と「チョコ
レートの歴史」は出色の出来映えであった。前者は、鋭い感性と精緻な論理構
成に支えられた大学院級といえるほどの完成度であり、作者はこの作品のほか
にも、短編アニメ映画を製作するなどあふれんばかりの才能をもっていた。後
者は、春から数ヶ月かけて大量の資料にあたって完成させた100枚を優にこ
す大作で、眼を見張らせたり、眼から鱗を落とさせたりする箇所が随所にあっ
た。
+平成19年度
18編の提出があったが、この年の最高作は「ホームレスの実態:名古屋編」
である。3年次に地理の講義で見たビデオに衝撃を受け、是非ホームレスにつ
いてやりたいと言い出したのだが、女性特有の無鉄砲さで現場に飛び込み、書
物のみからでは得られない貴重な知見にとんだ奥行きのある論文を提出してく
れた。ほかには、吹き出しのない絵だけで表現されたストーリー漫画の提出が
あったが、これにもおおいに感心させられた。
+平成20年度
14編の提出があった。そのなかでユニークなのは「ちょい悪ジジイとちょ
い悪介護士 奮闘記」。小学1年の時の赤の他人のおばあさんとの出会いから、
15年にわたる濃やかな交情、おばあさんの病気、死をへて介護士として生き
る決心をし、現場に飛び込んで奮闘している姿がユーモアをまじえて描かれ、
時代への的確な批評もあってじつに爽やかである。ほかには「春画と性」が、
題材をつきぬける語り口の軽やかさで出色の出来であった。
2)指導方法など
テーマの選択もふくめて自主性を重んじる、つまり一種の放任主義である。
好きこそものの上手なりというが、自分の興味が向く事柄をテーマに選べば、
おのずともっと知りたくなり、調べたくなると考える。テーマの選択にあたっ
ては、何回もやりとりして個々の学生の資質などを見ながら、希望するテーマ
が適当かどうかを判断していく。そして行き先、つまりテーマが決まったら、
46
アメリカ文化研究(小川)
パイロットボートのように、出だしだけ先導するようにしている。大洋に出た
ら、あとは寄港するまで待って、収穫を点検し、捨てるべきは捨て足らぬとこ
ろは足すよう指示して、再度大海に送り出す。
もう一つはテーマにもよるが、現場主義。書物から得られる知識を絶対視し
ないという態度を涵養する。しかし、もちろん、読書を軽んじるということで
はない。書かれたことの向こう側をあれこれと考える力。つまり想像力。行間
を読むこと。
本年度「老人介護」について書いた学生がいるが、ともに施設の見学にいっ
たりして、知見を共有できるようにした。昨年度はホームレスについて調べた
学生がいた。そのほか、多様なテーマをみずから設定していて、むしろこちら
が知見を拓かれることの方が多い。
「春画と性」では数多くのことを教えられた
し、
「アイドルという彼らの存在」では、この30年ほどの若者文化の一端を垣
間見せてもらった感じである。
指導といったら、究極的には文章添削くらいであるが、放任主義をとってい
るので、11月からのひと月半は、友船が大海で難破しやしないかとおおいに
気をもむ日々である。
卒論という航海をおえると、学生たちは明らかに成長した姿を見せる。一種
の通過儀礼である。そしてほとんどの学生が、取りかかっていた数ヶ月を大変
ではあったが、じつに楽しい時間だったという。もっとも、もう一度やってみ
るかというと、もちろん答えは、NO ではあるが。
3)ゼミ生の声
3年生 A)
なんでもやれるって聞いたので、このゼミにしました。いろいろ考えたんで
すが、一番好きなラーメンをやることにしました。もうすでに十数枚書いて提
出してあります。面白いと言って頂いたので調子に乗って、この春、九州博多
に取材にいきます。楽しみです。
3年生 B)
何やって良いか、わかりません。テディベアにしようか? それとも旅行が
好きなので、そっち関係にしようか、迷っています。先生は「東方見聞録」み
たいな大旅行記を書けと言うけど、そんな、ねえ。読ませて頂いた去年の卒業
生の「ホームレスの実態:名古屋編」はすごいと思いました。ああいう風に書
けたら良いですね。
47
アメリカ文化研究(小川)
3年生 C)
小説を書きます。ぶっとんだやつ。
4年生 A)
最初はブレイクダンスをやるつもりでこのゼミに入ったんだけど、結局介護
をやりました。前期に卒論以外の単位全部獲って、就職決めた東京の介護施設
で十月からバイトで働きながら、卒論書きました。大変だったけど充実。
4年生 B)
春画やったよ。ワッカルかなあ、江戸時代のエッチな絵。ものすごく本読ん
だし、先生といろいろやりとりして、私の方が教えたことも結構あったし、自
信作です。ま、読んで下さいって感じ。
4年生 C)
野島伸司をやったんだけど、もうちょっと時間が欲しかった。あっ、もっと早
く始めればいいわけか(笑い)。
48
近代日本文学研究(松田)
近代日本文学研究Ⅰ・Ⅱ(松田 良一)
(1)準備科目における指導内容・テキストなど
(A)
3年生の「近現代日本文学研究ⅠAB」の指導内容
外国にも十数カ国語で翻訳されるなど現在目覚ましい活躍をしている吉本ばななと、事故
死以後も多くのファンをもち、小説の芥川賞に匹敵する優れたテレビドラマ作品に与えら
れる向田邦子賞が制定されているなどテレビドラマの草分け的存在の向田邦子の文学、そ
して現代女性の担い手の一人である江國香織の文学を考察する。とりわけマンガとホラー
の世界と吉本ばなな作品の関係に注目し、現代文学の基本的性格について研究する。また
向田邦子文学はテレビドラマとの関係に注目し、その感性、小説作法と文体を考察する。
江國香織文学では絵本との関係を含めて、その世界観を考察する。
(前期)Aは主に吉本ばなな作品を中心に、マンガやホラー世界との関係性に注目して、
研究する。
「キッチン」「哀しい予感」「白河夜船」などを演習形式で研究する。
(後期)Bは主に江國香織、向田邦子の文学をテレビドラマとの関係性に注目して研究す
る。「かわうそ」「隣の女」「りんごの皮」「きらきらひかる」「デューク」な
どを演習形式で実施する。
(使用したテキスト)
吉本ばななの『キッチン』(角川文庫)『哀しい予感』(角川文庫)『白河夜船』(角
川文庫)、向田邦子の『思い出トランプ』(新潮文庫)『隣の女』(文春文庫)、江國香
織の『きらきらひかる』(新潮文庫)『つめたいよるに』(新潮文庫)『こうばしい日々』
(新潮文庫)など文庫をテキストとした。
(B)
4年生の「近現代日本文学研究ⅡⅠAB」の指導内容
現代日本文学をリードしている村上春樹、宮本輝、山田詠美の文学を考察する。彼らの
感性、小説作法と文体を考察。彼らの文学は日本にとどまらず、翻訳されて海外の読者に
も愛されている、その理由を検討する。
(使用したテキスト)
『海辺のカフカ』(新潮文庫)、『蛍川・泥の河』(新潮文庫)、『五千回の生死』(新
潮文庫)、『ベッドタイムアイズ・指の戯れなど』(新潮文庫)、『晩年の子供』(講談
社文庫)、『風葬の教室』(河出文庫)など文庫をテキストとした。
49
近代日本文学研究(松田)
(2)積極的に受講させるための工夫、指導内容
ゼミでは毎回、二名から三名で各自のレジュメ(B4用紙で10枚から20枚)を作成し
て、研究成果を発表し、それに基づいて演習ゼミの出席者全体で双方向的に質疑応答しな
がら授業を進めている。発表担当者は2週にわたって担当し、第1週目に作品の解題、梗
概、作中人物関係、人物分析、語句、風俗、作品空間、これまでの研究の水準、発表者が
見つけ出した問題点とその試論、作品評価、作家のモチーフなど基本発表する。
そのあと、基本発表の中身について、発表者以外のゼミメンバーから疑問が出て疑義応
答する。担当教員は次週までに調査すべきことを示し、発表者以外のゼミメンバーから疑
問点を提出させる。
第2週には、発表者以外のゼミメンバーから提出された問題点を、検討した結果を文章
化したレジュメをつくり発表し、それにもとづいて議論する。担当教員はそのやりとりを
聞きながら、コメントを入れていく。
この場合、第1週の時点で発表者以外のゼミメンバーから必ず一つ以上の疑問点を提出さ
せ、出席者の参加意識を醸成する。
(3)学年ごとの目標設定、指導方針
3年の演習では、文学テキストをきちんと読め、文脈をきちんと解釈できるようにすると
いうのが目標になっている。文学研究の基本である調べたことに基づいて仮説を提出する
重要性を体感させる。
4年の演習では、個々の文学テキストの精緻な解釈のほかに、抽象度の高い問題にも試論
が提出できる力を育てるのを目標としている。たとえば、村上春樹の音楽性、宮本輝の語
り、山田詠美の性の思想、といった難題にも自分なりの定見を提出できるような文学力の
涵養につとめている。その力が、やがて卒論に反映されて、濃密な文体をつくりあげてい
く。
(4)受講者の態度、感想など(教員の視点から)
3年の初めは、自分たちで資料調査し、それを検討して発表することに馴れていないた
め、とまどいや負担を感じる学生もいるが、2,3人の仲間と共同研究するうちに、研究
することの苦労だけではなく、何かしらの達成感も味わっているようである。また、共同
研究のため、互いに仲間意識も生まれ、ゼミ生たちの間には信頼関係が育っている。
さらに、他の発表者に迷惑をかけてはいけないという意識もあり、脱落者もなく真剣に
発表準備をしている。
4年になると完全に文学ゼミの学生という意識が育ち、いい発表をしなければと思うら
しく、かなり水準の高い発表もできるようになった。
(5)卒業論文の指導の具体的内容・方法・プロセスなど
まだ、3年生の段階では卒論のことがわからないので、3年の12月に卒論とは何か、
卒論を書くためにはどんな力を育てなければならないかを説明する。
具体的には文学関係の卒論は、作品や作家について新しい事実や新しい解釈を、証拠を
50
近代日本文学研究(松田)
提示しつつ筋道を立てて論証したものであること。また、研究対象は世評の高い文学作品
に限らずマンガも、歌詞なども現代詩と捉えて対象にしてもよい。すぐれた論文は、作家
や作品の新しい価値を掘り起こし、それ自体が一級の文芸批評となることなどを説明する。
そして論文を書くには、とくに次の三点が求められることを説明する。
①
分析力
(鋭い文章読解能力)
②
考証力
(フットワークよく資料を広く深く調査する能力)
③
文章表現力 (論理的な文章で表現する能力)
一方、文学研究論文として価値の低いものとは何かを次のような点をあげて説明する。
イ、他人の論文をそのまま引き写したもの、または他人の論文の一部を変えただけのも
の。インターネットから引き出した資料を組み立てたもの。
ロ、単に作品や作家について従来述べられてきたことを整理し、解説しただけのもの。
ハ、独自性(オリジナリティ)はあるが、証拠をあげて仮説を証明していないもの。
ニ、逆に従来の論考をよく調べ巧みに整理しているが、独自性(オリジナリティ)に乏
しいもの。
ホ、現在の研究水準を全く無視し、先行論文について触れる事無く書きすすめたもの。
ヘ、作品の「あらすじ」をきめ細かく記し、引用を必要以上に長くし冗漫な内容になっ
ているもの(基本的に粗筋は、論理展開上やむえない場合を除いて書く必要はない)。
次に研究計画をたてさせるが、一応、次のような計画であることを説明する。
三年の12月 卒論・卒研題目の検討(1月題目提出)
1月 作品ノート作成、先行論文一覧表の作成。
2月 作品ノート作成、先行論文の複写。
3月 作品ノート作成、主要先行論文の要旨把握。
四年の4月 論点を追求し、整理する。
5月 論点に関する基本調査をしつつ、論点を明確化する。
6月
同
7月
同
8月 論文のあらすじを構想する
9月
同
10月 第一草稿をつくる。この頃に原稿の書き方説明。
11月 第二草稿をつくる。
12月 清書し、提出期限7日前には完成し、3日前には提出する。
なお、中間報告の日程は以下のようにする。
5月 第一回中間報告では問題意識について報告
9月 第二回中間報告では論文の粗筋(ストーリー)について報告
11月 第三回中間報告では論文の目次の提出とその趣旨の報告
51
近代日本文学研究(松田)
(6)ゼミ生の声(3年・4年)
2009年1月16日に実施したアンケートには次のような言葉が記されていた。
3年生の「声」
○「吉本ばなな、向田邦子作品に、詳しく触れることができ、作品を読んで『疑問を
もって見る』ということが出来て、読む上でたのしさを知りました。疑問には
それなりの意味があるということ、それが深いということを知ることが出来たの
で、これから読むモノもおもしろく受けとる事ができそうです」
○「自分の発表の前は、とにかく大変でした。だけど、この授業で初めて作品や作家
について深く調べることを知ったので勉強になりました。他の人の意見を聞いて、そうい
う考えもあるのか、と思うことも楽しかったです」
○「自分がレジュメ作成の順番になるとすごく大変だけど、やりがいがあります。今、
受講している授業の中で一番楽しいです。なんといっても、ゼミメンバーが楽しい子ばか
りなので、」
○「ゼミの内容も濃いので、他のゼミと比べて『ゼミで研究しているなぁ』という実
感もわき、とても充実したゼミだったと思う」
4年生の「声」
○「2年間、ゼミで自分達が発表したり、発表者の発表を聞いて1人では考えつかな
い視点から作品を読むことができました。また、今まで自分では読もうと思わなかった作
品にも触れることができて、楽しみも増えたのでよかったです。ゼミの時間が大学の授業
のなかで自分が能動的に取り組むことができ、楽しかったです」
○「どの作品、どの作家の発表に当たっても大変だったことに変わりはないですが、
それ以上に、たくさんの作家、それも今まで縁がまったくなかった作家さんの作品にふれ
ることができ、本当に良かったと思います。このゼミに入らなければ、こんなに文学の神
髄(?)に近づくことはできなかったのではないでしょうか。大学生活のいい思い出がで
きました。」
○「このゼミに参加した事により、主体的に学び考えるという活動が大学生活にお
いて、はじめて体験できたような気がします」
○「はじめは自分にこんなことができるかと大変不安でしたが、あっという間に二
年間経過してしまいました。本を読むことは好きだったけれど、ゼミに参加して一層『文
学』というものが好きになれました。ゼミの中で自分が一番上手く発言や問題点を思いつ
くことができなかったけれど、同じものを志す人たちと一緒に学べて本当によかった」
○「毎週、ゼミが楽しみでした。みんなの意見を聞いたり、マニアックな話が出来、
とても楽しかったです」
○「自分の読解力のなさを実感するばかりでしたが、ゼミメンバーの発表するレジ
ュメが毎回楽しみでした。誰かと一冊の本について奥深くまで話し合ったりすることはな
かったので良い経験になりました」
52
中世・近世日本文学研究(杉戸)
中世・近世日本文学研究Ⅰ・Ⅱ(杉戸 清彬)
(1)自己点検
① 準備科目における指導内容・テキストなど
私の担当する卒業論文準備科目は「中世・近世日本文学研究」であり、3年次に
ⅠA・ⅠB、4年次にⅡA・ⅡBが置かれている。それぞれの時間に行う授業内容
は次の通り。
・ⅠA(3年生の前期) 「百人一首選読」
テキストは角川ソフィア文庫『百人一首』
。
百人一首は、平安から鎌倉への過渡期に藤原定家が選んだ王朝の秀歌選であり、
できれば暗記しておきたいものである。そうしないとカルタ取りにも強くなれ
ない。後世の文学にも大きな影響力を持ち、以後の文学作品には必ずと言って
よいほど引用される。和歌は難しいという先入観を捨て、語釈や口語訳を読ん
で、古文入門としたい。
同時に、漱石や一葉さんまで使っていた変体がなを読む練習も行う。展覧会な
どで昔の書物や手紙などが少しでも読めると楽しさが倍増するかもしれない。
・ⅠB(3年生の後期) 「
『菅笠日記』講読」
テキストは和泉書院刊の活字本。
『菅笠日記』は、江戸時代の中期から後期にかけて天才的な古典研究を多方面
う
し
において成し遂げた、かの有名な本居宣長大人40歳の頃に、花の吉野山と、
古代の都があった飛鳥・大和を旅して廻ったときの紀行文である。
吉野は天武天皇や持統天皇、いや、それ以前から歴史に深く関わる「ふるさと」
でもあった。歌枕としては「雪」と「桜」がすぐに想起される都人憧れの地で
あり、飛鳥・大和は古代王朝のさまざまな出来事の舞台であった。
『菅笠日記』の文章は読みやすいと思う。宣長はこの紀行文を『源氏物語』な
ど王朝のかな文学の文体で書いている。だから原則として漢字の熟語も江戸時
代の俗語も使わない。その苦労のあとを偲ぶのも目的の一つである。
ここ何年かは少人数の受講者しかいないので、授業はほとんどが対話のような
ものになっており、意思の疎通には不自由しないという極めて恵まれた時間で
あり、ゆっくり古文を勉強できると思う。
53
中世・近世日本文学研究(杉戸)
ちく さい
・ⅡA(4年生の前期) 「
『竹斎』講読」
テキストは入手できれば岩波文庫本にしたいが、売り切れ再版準備中の可能性
もある。だめだったらプリント配布。
く すし
『竹斎』は江戸時代初期の仮名草子の1冊で、藪医師で狂歌が大好きな竹斎さ
んに関する話である。江戸時代後期の滑稽本にも通じるような、突飛な言動が
記され、ふざけすぎだよと思うところが無くもない。だから気楽に読めるのだ
が、この本は芭蕉なども愛読していたらしく、大変人気があった。
この本を読むのはそのナンセンスとも言えるユーモアを楽しめるのと同時に、
『伊勢物語』などのパロディが随所に見られ、道行文という伝統的文体も登場
するからである。要するに古典を読む応用編への入り口になると思うのです。
・ⅡB(4年生の後期) 「芭蕉の発句と連句」
テキストはプリントで配布。
日本文学から俳諧を消したら、世界に類例のない貴重なものが嘗て日本に存在
したということさえ誰も思わないだろう。明治以後は西欧に学んだ個の文学、
それに対して、近世の俳諧は座の文芸。何人かが集まってその場でワイワイや
りながら?作っていく文芸(
「文学」とはあえて言わない)である。
発句は五七五の1句のみで完結するが、連句は、中世においては 100 句続ける
のが基本で、芭蕉の頃(西暦 1700 年より少し前)には 36 句続ける例が多い。
これを歌仙という。芭蕉以前の俳諧として、貞門や談林の俳諧があるが、芭蕉
はその両方を時代の流行に流されつつ潜り抜けてきた。そして40歳を前にし
て江戸深川に隠棲し、41歳から、亡くなる51歳までを旅人として生き、い
わゆる蕉風を作り上げていった。日本の文学史から俳諧ははずせないと思うの
で、卒業論文と同時進行で気楽に俳諧を読んでみたいのである。
② 授業に対する工夫など
ともかく少人数なので、互いに話し合いながら楽しい時間を過ごしたい。そう
は言っても日本古典文学の豊かさのいくらかは理解してほしい(この言い方は
好きではありません。皆さんの自由です)ので、その線からはあまり離れない
ようにしたいと考える。
③ 受講者の態度など
何回も言って恐縮ですが、極めて少人数のクラスであるせいか、授業態度につ
いては何も言うことはありません。むしろ、もっといろいろなことを教え込ま
ねばならないと思うこともしばしばです。互いの状況を理解し合いながら授業
を進めたいと思っています。
54
中世・近世日本文学研究(杉戸)
(2)卒業論文の指導について
① 3年次、4年次を通じて古文に少しでも慣れること。
② 卒業論文で何を書くか、3年次と4年次の間の春休みに十分考え、対象になる作品
をともかく読んでおくこと。最近は良質の入門書が出版されているので、そのよう
な本から入っていくと良い。たとえば、角川書店の文庫本の中にある「ビギナーズ・
クラシックス」など。事前に連絡をくれれば相談の時間を設定します。
③ 4月以降は関連資料の探索と収集に努力すること。大学に来ている間に図書館を利
用して資料を探し、できればコピーしておくと良い。コピーした場合はその資料の
奥付もついでにコピーしておけば手間が省ける。論文を書く時の参考にしたり、直
接引用した場合には必ず注が要るが、その注を書く時、あちこち探さないで済む。
④ コピーした資料を丹念に読むこと。夏休みまでには、自分にとって大事だと思われ
る所に、おおよその見当をつけて資料をまとめておきたい。
⑤ 7月の初旬に中間発表できるよう準備すること。
自分が何をテーマとして論文を書こうとしているか。
その課題に関係する資料にはどんなものがあるか。
自分はそれに対してどのような考えをもったか。
少し書いてみたがこんなところでどうでしょうか?・・・・・等々。
⑥ 夏休み中に全体の草稿を一応書いてみること。
後期が始まる頃、指導教員に提示することができるよう汗をかいてください。
⑦ 10月以降、11月末までは推敲、補訂、部分的な書き直しなどに時間を使い、少
しでも良いものにするよう努力すること。
⑧ 12月は最終的な推敲期間とし、論文が決められた様式にあっているか、論文要旨
を忘れていないかなど、万全を期すること。
⑨ 題目提出期限、論文提出期限は厳守すること。締め切りの前の週に提出するように
自分で決心しておいてほしい。
⑩ 教育実習や就職活動にもかなりの時間を割かなければならないことを頭に入れて
おくこと。
55
中世・近世日本文学研究(杉戸)
⑪ 卒業論文の時間は金曜日1限に設定されているが、4月の初め頃に論文や資料の探
し方などを指導する外は、杉戸は研究室にいるのでそちらに来てほしい。
その他の時間でも、事前に連絡があれば相談して適当な時間を指導にあてたい。
自分の進み方が遅いからなどと思ってためらっている間に時間が過ぎていく。
⑫ 上に記した事以外にわからないことがあったら、メールでもいいのでともかく連絡
をすること。アドレスがわからなければ聞いてください。
(3)ゼミ生の声
あまり聞こえてこない。しかし、どうも古文にはなじめない、難しいという声ならぬ
声が聞こえてくるような気がする。そのあたりも正直に相談に来てほしい。ただし、何
をやったらいいでしょうかという質問には多分答えられない。課題は自分で見つけて、
こんなことをしようと思うんですがというような尋ね方をしてほしい。課題がはっきり
すれば、論文の半ばは書けたと言えるのではないかと思う。私の声ばかりになってしま
ったが「ゼミ生の声」をいろいろ聞かせてほしいと希望しておきます。
以上
56
古代日本文学研究(大浦)
古代日本文学研究Ⅰ・Ⅱ(大浦 誠士)
1)
教員による自己点検
① 古代日本文学研究ⅠAB
本学部、特に表現文化学科の特色は、様々な地域、時代、形態の文化・表現につい
て学び、広い視野を持って専門研究へと進むところにあり、それは視野が狭くなりが
ちな専門研究においても非常に重要な意味を持つことである。しかしその反面、専門
研究についてのノーハウや基礎知識があまり身につかないまま専門のゼミに進んで
くるという弱点を持つことも否定できない。それゆえ、3年生のゼミでは、
『万葉集』
を素材として、古代日本文学を専門的に読むための基礎的な訓練に重点を置いている。
前期は講義形式を基本として、時折学生自身に作業を行わせる形で進めている。高
校までの古典の授業では、すでに定まった活字の本文があり、それに対する一つの解
釈が教員によって準備されているが、専門的に読もうとした場合、定まった解釈など
ないこと、それどころか定まったテキストすらないことを理解させること、それゆえ
今後の学習・研究では、すべてを自分の頭で考える必要があることを伝えるのが出発
点となる。その後、校本による本文校訂の方法、注釈書の種類・特徴・読み方、索引
の用い方、辞書の種類、先行論文の探し方などの、研究に必要な方法を若干の演習を
交えながら指導・伝授している。また、最近に書いた論文や執筆中の論文がある場合
は、それを素材として、問題の立て方、研究史のまとめ方、用例の扱い方、文献引用
の方法などの実践的な論文作成の過程を見せるように心がけている。
後期は前期に身につけた方法を用いて、演習形式で『万葉集』の歌を自力で読み解
く実践を行っている。3年生の段階では、解釈を深めるところまではなかなか進まな
いが、漢字本文の検討や訓読の検討を中心として、歌を解釈し論を組み立てるための
基礎作業の訓練を行うことに重点を置いている。
積極的に受講させるために特に工夫しているところはないが、受講生は非常にまじ
めに出席している。おそらく一回でも休むとついて行けなくなるのではないかという
思いが強いのだろうと考える。内容が専門的なので、なかなか学生の発言を引き出す
のが難しいが、後期も終わりに近づくと、歌の解釈などについて発言が見られるよう
になってくる。
後期の演習では、はじめの頃は準備のために集める資料も少なく、また資料の作り
方も分からず、つたない発表からはじまるが、ゼミの中で資料作成の注意点や発表内
容の問題点を指摘するにつれて、回を追うごとに資料、発表内容ともに充実してゆく
様子には、目を見張るものがある。私自身はそう厳しく指導はしていないが、発表者
が非常に努力して発表を行うことが、他の受講生の意欲や努力につながっているとい
う面が強いように思われる。
57
古代日本文学研究(大浦)
② 古代日本文学研究ⅡAB
4年次のゼミでは、3年次のゼミで身につけた専門的調査・研究の方法を用いて、
より高次な歌の解釈・研究を目指して演習を行っている。
前期は『万葉集』の歌の中からテーマを決めて、受講者が分担して読み解くという
形で演習を行っている。卒業論文の作成のために必要な力、歌を解釈する力や独自に
調査する力などを養うことを目的としている。3年次のゼミでは、どうしても注釈書
や論文などの先行論を比較検討することが中心となるが、4年次のゼミでは、先行す
る説をふまえた上で、発表者自身が問題意識を持って、万葉集中の歌の用例調査、古
辞書類の調査、漢詩文の調査など独自な調査研究によって、新たな歌の解釈を考える
という、さらに高次元な発表が行われている。3年次の発表と比べると、資料の分量
もはるかに増加し、発表内容も非常に充実している。中には、90分の授業時間では
発表の時間が足りないほど調査を行ってくる学生も見られるようになる。
後期に入ると、卒業論文の作成が焦眉の急となってくるため、学生の要望もあって、
自由テーマによる研究発表という形で演習を行っている。もちろん学生たちは卒業論
文のテーマについて発表を行う。卒業論文指導と連携して、論文指導の時間を利用し
て進めた調査・研究を、ゼミの時間に発表するという形である。後期の早い時期には
1時間に2~3人ずつの発表で卒業論文完成への方向付けを行い、その後1時間に1
人ずつの本格的な研究発表を行っている。後期も終わり頃になると、卒業論文の文章
化も進んでくるため、かなり本格的な研究発表の様相を呈してくる。
年明けのゼミは、卒業論文の提出が終わっているため、提出した卒業論文の内容を
あらためてゼミ生全員の前で発表する形をとっている。文章化を経て完成した論文の
エッセンスを発表するので、かなり充実した発表の時間となる。3年生にも時間が合
う学生には出席を促して、次年度の卒業論文作成に向けた動機付けとなるようにして
いる。
4年次のゼミでも、積極的に受講させるための工夫は特に行っていないが、熱心な
学生が多いため、受講生同士が切磋琢磨し合い、時にはライバル心を持って研究を進
めている様子が見える。卒業論文の作成が目の前に迫っているため、受講生のゼミに
参加する姿勢は概して積極的である。
万葉集に関する研究は、就職活動や卒業後の社会活動に直接的に役立つものではな
いが、自ら問題を発見し、それを解決する道筋を自分で見つけ、地道な調査とやわら
かな発想によって問題を解決へと導くという作業は、学生の知力や調査能力だけでな
く、表現力・忍耐力・集中力等も鍛えるものと見え、ゼミに積極的に参加し、研究を
精力的に進めている学生ほど、就職活動も有利に進め、早い段階で内定を得てくるよ
うである。
58
古代日本文学研究(大浦)
2)
卒業論文指導
卒業論文の完成に向けて、様々な指導を行っている。
はじめの数回は全員出席で指導を行う。学生と教員との対話の中で学生の本当の関
心事を探り出し、テーマを確定させる。テーマが決まると先行論や用例を集めさせ、
短い発表を行わせ、調査・研究の方向性を決定する。このあたりまでのプロセスは全
員が他の学生の問題意識や研究方法を見ることで、自分の研究に生かしてゆくために、
ゼミ全体ですすめている。
その後は指導の時間に集まることを原則とはしつつも、学生個々人の調査・研究の
時間とし、必要に応じて調査・研究についての相談を受け、指導を行う形をとってい
る。
卒業論文指導において最も効果を発揮しているのが、夏休みに行う合宿である。本
ゼミの学生だけでなく、8大学の万葉集研究者が合同で行っている合宿であり、8大
学の万葉集を専攻する学生たちが卒論の内容を発表するという大きな合宿である。例
年3年生、4年生含めて70名ほどの参加者があり、40名ほどの4年生が発表を行
っている。発表の人数が多いため、一人の持ち時間は15~20分と短いが、他大学
の学生がとのような問題についてどのような水準の研究を行っているかを見ることは、
学生にとって非常に刺激となっているようである。また、発表資料の作り方の点でも、
非常に勉強になっているようである。何よりも、自分のゼミの教員や学生だけでなく、
他大学の教員や学生の前で発表しなければならないということは、学生にとって大変
大きなプレッシャーであるようで、卒業論文に積極的に取り組む大きな動機付けとな
っている。また、他大学の教員による質問は、学生にとって試練でもあるが様々な研
究の視点を提供してもらえる機会でもある。この合宿では、4年生は原則全員参加、
全員発表を義務としており、3年生も希望者が参加する形にしているが、参加した3
年生は皆、参加してよかったと言っている。
上記の合宿が卒論作成の大きな中間目標となるため、夏休み前には数回にわたって
中間発表の時間をとっている。特にここ2年は中京大学の万葉集ゼミと合同でプレ発
表会を行う形をとっているため、そのプレ発表会自体が合宿前のもう一つのハードル
の役割をしており、中京大学とのプレ発表会に向けた学内でのプレプレ発表会を行う
ような形となっている。
後期にはいると、前記の合同合宿を経ているため、調査・研究はかなり進んでおり、
10月頃からは文章化の指導が中心となる。論文全体の構成、論文の文体、文献引用
の方法、注の付け方などの指導が中心となる。考えを文章化しようとすると、自分の
認識が明確でなかったことが顕わになるようで、学生が最も苦労する時期である。
例年、比較的少人数で指導が行えているため、テーマの決定から、最終的な文章化
まで、かなり丁寧な指導が行えている。
59
古代日本文学研究(大浦)
3)
ゼミ生の声
【3年生】
少人数だからこそできるていねいな指導により、今まであまり経験のない物ごとを
深めるということと、その道すじを学ぶことができました。私はまだ万葉集の用語な
どになれておらず、他の人の発表に理解が追いつくまでに時間が足らず、発言にまで
なかなかいたれませんでした。ゼミの時間以前に資料に目を通すことができればよい
のですが。
私は元々古典嫌いでしたが、古典文学を深く掘り下げて考えていくことの面白さを学びまし
た。難しくて投げ出したくなることもたくさんあります。でも、数多くの本や先生の指導などか
ら、はじめには考えもつかなかったようなよみが生まれることを知りました。他のゼミに比べる
とちょっと堅いみたいですが、楽しいゼミだと思っています。
一人一人の発表を聞いて、自分の発表につなげています。マニュアルはなくても、実際に自分
で調査することで深めていく力がつきました。参考書をただうのみにするのではなく、常にアン
テナをはって読み解くことを学びました。
【4年生】
私の所属するゼミは、大浦先生をはじめとし、皆のほほんとしています。しかし、卒
論や発表資料の作成にとりかかる時は、それぞれペースは違えど、皆、一生懸命取り組
みます。私はゼミ長で皆を引っ張らなくてはいけない役割なのですが、私以上に皆の方
がしっかりしていたように思います。授業では、万葉集について深く学んでいくのです
が、先生のお話がおもしろかったり、自分たちで資料を読みこんだりすることで、楽し
く勉強ができたと思います。社会に出たら当たり前になるかもしれませんが、
「自ら問題
を追及し、結果を導き出す」という作業を繰り返し行ってきたことは、とても自分のた
めになったと思います。
何より卒業論文を無事提出できてよかったです。文章化が上手く進まず焦った時期も
ありましたが、大浦先生のご指導の元、満足できる卒業論文を書き終えることができま
した。3年次のレポートを読み返してみると、ゼミを通して自分がいかに成長したかが
よくわかります。一つの論を述べるのには多くの努力と根拠・時間が必要であると学び
ました。これからは、この学んだことを頭に置いて、社会人一年生を迎え、役立てたい
と思います。
60
西洋歴史研究(石川)
西洋歴史研究Ⅰ・Ⅱ(石川 勝二)
授業の方針
受講者6名(3年生のみ。4年生はこの自己点検の対象としなかった)
授業の方針
前期では、将来の卒業論作成を目指して、受講者に研究法の指導とテーマの選択を述べ、
実際にテーマを選ばせ、研究材料を集める指導を基本とした。論文作成にはまったくの諸
学者であるので、授業者が書いた者を読ませるなどして、テーマ選定や研究法のアドヴァ
イスをした。前期には、作成したものをレポートとして提出させた。後期は前期のレポー
トをさらに発展させるよう指導し、また新たに研究の方向を見いだした受講生にはそれに
沿った草稿を提出させた。
授業の実際と評価
6名の受講者はまだ題目を決定できるところまでいかなかったが、各自それぞれがテー
マを選び、史料を集め、最初の段階のものを書いた。それらをもとにして論文の題名とし
てふさわしいものを選ぶと、おおよそ次のようになるだろう。
A:古代エジプト人の墓とミイラ(仮題)
B:フェニキア人およびカルタゴ人の植民活動と通商(仮題)
C:ハンニバルとローマとの戦い(仮題)
D:カエサルの生涯と女性(仮題)
E:アングロサクソン朝時代のイングランド史(仮題)
F:ハプスブルグ家の女性たち(仮題)
各受講者の関心はまちまちであるため、少人数ながら指導は困難なところもある。分野
によっては日本語で読める研究資料が多くなく、受講生も指導者も苦労する。また外国語
がほとんど使えない点も問題である。英語にしてから読むことはなかなか難しい。それ以
外のヨーロッパの言語を使うことは全く望めない。それでも受講者の関心は大いにあり、
関心を持続してもたせるには、絶えず要望や意見を聞くしか方法はないが、それには多く
の時間が必要である。
卒業論文
授業の方針
受講者5名(内1名は卒業延期のため、未提出)は、3年生の時の西洋歴史研究の授業
を1年間を通して受講し、その成果に基づいて論文の作成を指導した。ドイツ中世史の最
大のテーマの一つとも言うべき叙任権闘争を扱ったもの、通商湖かヴェネチアの商館建築
の発展と特色を扱ったもの、フランス史の中の女性を恋愛や結婚の面から取り上げたもの、
紅茶を好みとするイギリス人の生活や紅茶をめぐる国際関係を扱ったもの、4編の卒業論
文の提出があった。
61
西洋歴史研究(石川)
授業の実際と評価
前期では3年生のときのレポートを発展させることを主眼に指導したが、就職活動もあ
って、十分できなかった。後期は、多少余裕もできてきたけれども、最後の詰めになると
集団指導では不十分で、一人一人個別指導になった。各受講生は当初の目標をほぼ達成で
きたのではないかと思う。以下に感想文を掲げるが、1年生や3年生とはまた違った感想
が聞けるのは、卒業論文という関門をくぐった者ならではの感想だと思う。
受講生の感想文
*三年生
A:ユリウス・カエサルについて知っていくことで、私が興味のある男女間の格差やコミ
ュニケーションについて知ることが出来た。最初は知識が無い状態で始まったのでどのよ
うに進めたら良いのかわからず、レポートを書くことが出来ませんでした。特に難しかっ
たのは一人での資料集めでした。しかし、先生が本を紹介してくださったり、コピーをく
ださったりするのでとても助かっています。この授業では全員が異なる議題について研究
しているから、先生と1対1で話すことが多いので、他の人が先生と話をしているときな
どに図書館に行って調べたりできたらいいと思いました。あと先生のヨーロッパへ行った
時の体験話はすごく楽しいのでもっと聞きたいです。
B:卒業論文のテーマが歴史の分野ということもあって、人数的に見ると他のゼミと比べ
て圧倒的に少なかったですが、個人的にはあのような少人数単位のゼミでよかったと今振
り返って感じます。やはり、人数が少ないぶん、先生の指導を多く仰げるので、卒論を書
く上では最適な環境であると思うし、同じゼミ生同士ということで、結束力も生まれやす
いのではないかと思うからです。また、先生は常に熱心に指導してくださり、資料集めも
積極的に手伝ってくださいます。本当に良い先生だと思います。改善点としては、卒論指
導が始まってすぐにそれぞれ卒論のテーマとして取り上げたいことについて資料を読んで
調べるということをしたので、個人的には最初はちゃんと授業的なことをしたかったと思
いましたし、他のゼミで行われている他のゼミ生の前での発表なども機会があったらして
みたかったです。また、後期に入って、特に先生は一人一人に指導してくださっていまし
たが、自分の指導以外の時は、ただ他の人の指導を聞いているだけでしたので、あの時間
は無駄ではなかったかと思います。私は、もうすでに後期から個人指導に入っても良かっ
たのではないかと感じます。
C:史料をたくさん用意していただけたので、やりやすかったです。フェニキア人に関す
る史料は少ないと言われていたのでどうなるかと思っていたのですが、今ある史料を読み
込んで使っていこうと思います。フェニキア人について興味を持ったきっかけの小説を今
読み直しています。これは物語(フィクション)なので卒論に役に立つかどうかは分かり
ませんが、時代の流れをもう一度確認してみようと思います。
来年度もまた引き続きカルタゴについて調べていき、やはり最終的にはフェニキア本土
との関わりを中心に書いていきたいと思います。
62
西洋歴史研究(石川)
D:西洋歴史研究の授業を受けて、非常にためになりました。論文の書き方がいまいちわ
からなかった時に、先生の書いた文章を読んで勉強することが出来ました。又、最初から
論文のテーマを決めてレポートを書くというのも、何回も自分でレポートを書き直す度に、
表面的な知識だけではなくて資料をもっと深く理解することができたように思います。そ
れに、早めにレポートを書けるので、分量にそこまで悩むこともないように感じました。
特に先生に早い段階から論文の書き方を教えていただいていたお陰です。
ただ、先生と生徒が論文について相談している間、他の生徒は特にやることもないと感
じることがしばしばあったので、あの時間を有効に使って三年生に四年生がアドバイス出
来たらなと感じていました。三年と四年で論文のテーマについて西洋歴史研究の時間内に
話し合いを持てたら良かったかなと今更ながらに感じました。
来年、自分自身に余裕が持てたら、自分なりに現三年生やこれから入ってくる新三年生
にアドバイス出来たらいいなと考えてます。又一年宜しくお願いします。
*四年生
A:先生にも手伝って頂き、論文を無事書き終えることができ、ありがとうございました。
まず、卒業論文とは、どういうものなのだろうという所から始まり、書き方も分からず、
テーマも何にしようかとても悩み、字数を知り、書き上げることができるのだろうか、完
成するのかと、とても不安でいっぱいでしたが、ゼミの子同士で相談し合ったり、先生に
手順など色々な事を教えてもらい、書き上げる事ができました。やはり、自分が興味のな
い事では調べる気力も起きなく、進んで論文を書いていこうという気持ちにはならないと
思ったので、最終的に、自分が楽しく学べて深く追求したいと思えるものにしようと思い、
よく飲み、好きな「紅茶」について調べる事に決めました。
興味のあるものは勿論、ないものでも調べていくと、とても面白い事に気付き、はまっ
てしまい、好きになる事もあると思います。なので、何にでも興味を持ち、調べていき、
知れたらとても世界観が変わると思います。知って損する事はないので、これからも色々
などんな小さな事でも興味を持ち、調べ、学べていけたらいいと思いました。論文のペー
スも、まずテーマについての本を見つけるまでに時間がかかり、また読むのもとても遅い
ので、時間がかかってしまい、そこから考え理解しまた調べてと、行なっていたので一つ
一つ出来上がるまでのペースも遅く、とても時間がかかってしまいました。字数が足りな
く困った時もありましたが、ゼミの子達や先生から授業中や授業以外でもアドバイスを頂
き、優しくサポートしてもらい卒論を完成させる事ができ、皆にも先生にもとても感謝し
ています。卒論が完成して本当によかったと安心していますが、卒論を書くのも、またこ
んなにも多い量の文を書くのも初めてなので、内容や書き方、まとめ方などのできはとて
も悪いと思います。でも一生懸命やれたので、自分ではとても満足しています。二年間と
いう短い期間でしたが、後半の方からあまり授業に出る事ができなく、色々と迷惑をかけ
てしまいましたが、今までお世話になりありがとうございました。厳しく授業もピリピリ
なゼミもあると聞く中、私達のゼミは、論文のテーマも自由で皆好きな事について調べる
事ができ、人数が少ないからか、とても皆仲が良く、授業ものんびり伸び伸びと楽しくで
63
西洋歴史研究(石川)
き、授業以外でも集まって話せたりでき、とてもよかったと思います。石川ゼミになれて
とても嬉しかったです。ありがとうございました。
B:西洋歴史の論文を書いていて難しさも感じたが、それ以上に書き上げたことへの達成
感が大きかった。また概要しか知らなかった事件が歴史に与えた影響や、それによって変
化した国王の立場や当時の宗教観など歴史をさらに深く知ることができ、またそれらが現
代にどのような影響を及ぼしたかなど考えることができる。歴史を深く調べることで、全
く関係ないと思っていた現代の世界が昔の世界と繋がり、今までとは全く違う角度から歴
史書や年表を見ることができるようになった。苦労は多かったものの得るものは多く、書
き上げることができて本当にできてよかったと思っている。
D:卒業論文を書いて……、感想文は大の苦手です。でもまずは、完成出来たことと無事
に提出出来たことに安堵しました。振り返ってみると、卒業論文の準備を始めたのは3年
からの卒業論文準備科目で、もう2年も前の事かと思うと、もっと有意義に2年間を使い
たかったと今更に思った。初めはやっぱり、自分が何を書きたいのか、何に興味を持って
いるのか、が漠然としすぎていて3年前期の終わるギリギリまで兎に角、興味のあるヨー
ロッパ圏内の事柄を調べ回っていた。どこまで調べれば良いのか、どこで調べる事を止め
れば良いのかの区切りが分からないで、実の所、卒業論文を提出するギリギリまで四苦八
苦し続けていた。もっと早くから、調べておけば良かった、資料を見つけておけば良かっ
た、と思うことが本当に多かった。特に3年生の時は資料収集に必死で、その資料を読み
込む事はあまり出来ていなかった。今思えばもっと、時間には余裕があった筈なのに、資
料を読み込むという作業を少しサボってしまっていた自分に卒業論文提出が間近になった
4年の後期になって後悔したし、怒りを感じたりもした。本当に、もっと早く資料収集だ
けじゃなく読み込み、自分の意見を明確にしておけば、もっと何か調べられて、もっと有
意義な物を書くことも出来たんじゃないかと思うと、3年生の時の自分を少し腹立たしく
思った。でも、本当に最後の最後まで先生やゼミの友達と話し合いをして、討論して貰え
た事で、十分納得のいく卒業論文が出せたと思う。一人で考えているだけじゃ不明瞭な点
も見えて来なかったし、口に出してみたり、討論してみたり、疑問に答えることで、自分
の意見もちゃんと見えたし、書きたいことや、何が分かっていて何が分かって無いのか、
何を調べれば論文の不十分さを補えるのかを知ることが出来た。人と話をする事は私にと
っては、卒業論文を書くのに不可欠な要素だったんだと、今になって思った。何より、本
当に完成させることが出来てよかった。それが一番の喜びでした。
64
哲学研究(北岡)
哲学研究Ⅰ・Ⅱ(北岡 崇)
(Ⅰ)
「哲学研究ⅠAB、ⅡA」に関する自己点検。
以下、各見出しの項目に即して、担当科目「哲学研究ⅠAB」及び「哲学研究ⅡA」の
自己点検をおこなう。
〔テキスト、テキスト選択の理由、ゼミの進め方。
〕
「哲学研究ⅠAB」から「哲学研究ⅡA」にかけて、つまり3年次から4年次の前半にか
けて、ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』
(岩波文庫版)を、メインテキストとし
て使用している。この作品には、優れた哲学作品には必ず認められる高度な論理性、文学
性、倫理性の三者が備わっている上に、さらに強い現代性と批判性が認められ、本物の哲
学的関心を持つ学生にとって最高のテキストだと思う。他にも、3、4年次のいずれかに
おいて、メインテキストに対する解読がより豊かなものとなるよう、デカルト『方法序説』
と新約聖書の『マタイ福音書』を読解させ、これらについてのレポートを提出させるよう
にしている。具体的には、
『ツァラトゥストラはこう言った』の第一部から第三部まで物語
的に展開する60編ほどの詩ないし歌から思想の展開の基本線を把握するに十分な30数
編を選び、毎週1編(文庫版で6頁ほど)につき、ゼミ生のうち1名がレポート(A4用
紙4~5枚)を作り、テキストとそのレポートを用いながら、ゼミ生全員で解読を進める
というやり方を採用している。最初に、当日扱う1編を朗読(10分)
、次いでレポート発
表(30分)
、最後に、レポーターと私と他のゼミ生との間の質疑応答(50分)という時
間配分。
〔時間外授業―ゼミへの積極的参加を促す方法。
〕
テキストは気安く理解できる類のものではない。それだけに、毎週のゼミにおいて、レ
ポート担当者は、自分以外のゼミ生とテキストの間の距離を埋めるという容易でない、し
かし極めて重要な役割を果たさなければならない。必ず私は、ゼミ当日の前の週に、レポ
ート作成指導の時間を設け、一定水準のテキスト理解を反映したレポートが完成するに至
るまで、レポート担当者を指導する。2時間ほどのこの指導を介し、レポート担当者のテ
キスト理解は、15~20名のゼミ生の中の一人としてゼミに参加する場合に比して、格
段に深くなり、他のゼミ生とテキストの間の距離を埋めるという役割を相当程度、果たす
ことができるようになる。また、この個人指導において、初読の段階では理解不能と思わ
れたニーチェの詩や歌や言葉の意味が解きほぐれていく経験には目の醒める思いがする、
65
哲学研究(北岡)
と感想を漏らす学生も少なくない。学修と研究への積極的な参加を促す上で最も効果的な
方法は、知ることの喜び・認識の快楽を体験させることである。ゼミ・レポートの準備の
手伝いというこの時間外授業は、指導教員がその労をいとわなければ、レポート担当者に
とっても、そのレポートを聞く他のゼミ生にとっても、学修と研究の王道に適った、ゼミ
への積極的参加を促す最善の方法ではないだろうか。他の工夫として、例えば、現代性を
持ったテキストの選択、テキストの丁寧な解説、各ゼミ生に授業中に最低1回の発言を義
務付ける、時事的な問題を考察する、等々、の工夫があるが、私のゼミでは、ゼミへの積
極的な参加を促す方法の中心に位置するのは、上記の個人指導ではないかと思う。
〔ゼミの発展段階に応じた教育目標。
〕
時間外授業を含む上記のゼミ運営が、どのような教育目標を持ってなされているのか、
3年次から4年次の前半にかけて、それぞれの発展段階の教育目標を、順に説明する。ゼ
ミ生には、第一段階で、テキストを丁寧に読み解く力、つまりテキストに内在する思考に
歩調を合わせて思考する力を修得させる。第二段階で、テキストから読み取った内容を要
約的に記述し、他のゼミ生に向け表現し、思索的な対話の場を拓く力を修得させる。以上
の段階で哲学的な思考に可能な限り馴染ませる。次いで、第三段階では、自ら拓いた、ま
た目の前に拓かれたその思索的な対話の場に身を置いて、各ゼミ生が、他者の思考に触れ
ることを介し、自分の思考をより強く、より豊かなものへと高めていくよう自己訓練する
ことを目標とする。こうして獲得された哲学的思考を、具体的なテーマに即して実践する
のが、後述する「哲学研究ⅡB」及び「卒業論文」における指導の目標である。
〔私が見たゼミ生の様子。
〕
半年、一年、とゼミでの思考を重ねる内に、各ゼミ生とも、ある程度、当初は難解と感
じたテキストの思考に馴染んでくる。同時に、レポート担当のゼミ生とその他のゼミ生と
の間にあるテキスト理解の水準の差も、個人差はあるが、徐々に小さくなっていく。特に、
勘がよく、また毎回よく予習するゼミ生の場合は、そのときどきのレポート担当者よりも
優れた理解を示すことさえある。こうしたゼミ生が多くなればなるほど、その分、ゼミ運
営は成功していると言えるのだが、一年あるいは一年半経過した後になっても相変わらず
というゼミ生も、毎年、小人数ではあるが、認められる。テキスト理解の重要性が最後ま
で納得できなかった学生であり、概して欠席日数も多い。これは、何よりも本人にとって
とても残念なことであるから、私個人の手に余ることかもしれないが、何らかの方策を考
えるべきであると思う。
66
哲学研究(北岡)
(Ⅱ)
「哲学研究ⅡB」及び「卒業論文」の指導方法
に関する自己点検。
「哲学研究ⅡB」と「卒業論文」において、メインテキストは、ゼミ生各自の体験を措
いて他にない。これらの科目では、各ゼミ生とも、
「卒論準備科目」で学び納得した限りで
の思想空間を背景に据えて、自分にとって一番大切な体験に対する哲学的考察を試みる。
すなわち、哲学的思考(Philosophieren)の実践である。
具体的には、―①「卒業論文」の前期クラスにおいて、ゼミ生各自が論文のテーマとし
て考察したいと思う事柄につき、そのテーマを卒論テーマとして選んだ理由、そのテーマ
のもとですでに考察している内容、そのテーマを哲学的思考の課題として取り扱う際の切
り口、等について、3000字程度にまとめた文章を、ゼミ生全員の前で発表し、その内
容について全員で議論する。これが、論文指導の第1ステージである。テーマは、単語を
挙げるなら、自由と運命、愛、幸福、舞踏、身体、生と死、永遠、記憶、想像力、宗教、
言葉、孤立と繋がり、人生の意味、等々が関わる実存的なテーマが多く、扱い方は、すで
にこの段階から、小説創作、哲学書研究、哲学的エッセイ、比較研究など、実に多様であ
る。4月になされる発表と7月になされる発表との間には、テーマの熟成期間の差に起因
する質的な相違があるが、それ以上に、テーマに対する各自の思考の集中度に由来する質
の差の方が大きい。ゼミの場での議論をクリアできたテーマは、その議論から学ぶべきも
のは学び、第2ステージに進む。その際、私のコメントと注文を添え、読むべき文献を指
示する。―②最も早いゼミ生は5月下旬に遅い学生でも7月中旬には、第2ステージに進
む。各ゼミ生にとってこの段階が最もよく勉強する必要のある期間である。この時期に、
指示された文献を読んだ上で、第Ⅰステージでの議論から学んだことを活かす方向に、ま
た私の注文に応答できるように、思考を進める。各ゼミ生には、7月20日から8月20
日までの間に6000字ほどの下書きを提出させる。今回は、夏休みに入るため、各々の
下書きについて、ゼミの場での議論はおこなわず、私だけがコメントと注文をつけて執筆
者に返却し、その注文に応える12000字以上の論文草稿を、9月10日から10月1
0日までの間に提出させる。この論文草稿を提出した順に、夏休み明けから第3ステージ
に入る。―③私の場合、
「哲学研究ⅡB」と「卒業論文」は連続する時間帯に配置されてい
るので、夏休み明けから11月中旬までの間、これら二つの授業時間をともに論文指導に
当て、改めて毎週2名ずつ、各ゼミ生12000字以上の論文草稿をゼミの場で論評し、
67
哲学研究(北岡)
完成した姿の輪郭を可能な限り鮮明にする。―④ゼミ生は、第3ステージを終えた順に、
各自、論文の完成に向けて最後の努力をおこなう。私は、論文の完成に至るプロセスの最
後の期間は、すべての時間を、ゼミ生からの相談に応えられるように態勢を整える。
(Ⅲ)ゼミ生の声
〔今回、アンケート等によるデータ収集を怠ったため、この項目は、記載できません。
〕
68
イギリス文学研究(岡田)
イギリス文学研究Ⅰ・Ⅱ(岡田
1.
宏子)
教員による自己点検
1)
準備科目における指導内容・テキストについて
指導内容:三年生のゼミでは、卒論を次年度に書くことを念頭において、4年次に自分
の好きなテキストを選んで、自分で読んだ結果を思考し、自分の解釈が論理的に構築でき
るためのイントロ的な授業を、新歴史主義、コロニアリズム、ジェンダーの視点からフラ
ンス文学教授法で言う explication of text とでも言うべき方法で行っている。従来の解釈
にとらわれず、新しい視点からテキストを眺める時、どんなテキストとの意味が立ち上が
るかを探る試みを目指している。最近の流行の理論的方向をシステマティックに消化する
には、ゼミが週一時間では足りず、やはり、テキストの生産される土壌は無ではなく、如
何に人間が制度や歴史の産物であるかを射程に入れての読みに限定せざるを得ないと考え
ている。
テキスト:学生の英語学力のレベルを考慮しつつ、文学的な価値があり、テーマには現代
的問題性があり、学生達が身近に感じ共感できるテキスト。かつ女性作家による新しいテ
キスト(主に小説のジャンル)を選んでいる。また、特に 3 年次は訳本という、いわば言
葉の缶詰に頼らず、多少の誤読はあっても、生きた言語で書かれた外国語のテキストの表
現力の深さ、力、ストーリーの世界観や人間観に学生が感動し、テキストの内容を自分で
把握できるよう容易な文体のものを選択基準とする。4 年生は、論文作成を考慮し、勿論、
内容は深いが理解しやすいテキストを選択している。
2008 年度の 3 年生用テキストは、Helen Dunmore, A Spell of Winter,1996(女流作家に
のみ与えられる英国のオレンジ賞受賞作、ゴシック的な難解さはある。)
4 年生は Jean Rhys、 Wide Sargasso Sea、 1966(コロニアリズムで再び脚光を浴びた。
ノートン社のこのテキストは、本文とその後に歴史的な文献、この作品の元となった Jane
Ayre からの抜粋、主な批評論やキー・タームの文献が掲載されて、卒論の資料集めの良い
モデルになる。)
2)積極的に受講させるための工夫、指導内容
文学の場合、論文を書く上では、テキストを読むことが即書くことに繋がる。限られた
数の文学の専門科目開講という状況においての指導であるので、3 年生では、文学概論的
にテキストを読む基本的な作法や、語学的に正確な読みに加えて、広く政治・経済・社会
文化史的な見地から内容をいかに理解するかを、具体的なテキスト読解の場面で指導する。
グループに分けて担当を決め、ハンドアウトを作成し、解釈の発表形式をとり、学生主導
型で、理解できた部分とそうではない部分を明確にする予習をするように指導し、工夫し
ている。少人数ゼミなので、個人的に丁寧な指導が可能となり、それぞれの成長に必要な
アドヴァイスを与えることができている。
69
イギリス文学研究(岡田)
テキストを読み終わる3年生後期には、たとえ最後まで読了しなくても、ミニ・論文の
ようなレポートを書くことにより、自分のテキストの読みについて、考える機会ができる
ので、一度レポートを書いてみると、次には学生達の読みへの姿勢に大きな変化が生まれ
てくる。学生達の自覚が本当に自分のものになる機会を作ること、努力した結果には、正
当な評価をして、インタヴューなどによりそれを理解させて、よりよいものが次に書ける
ような次のスタート地点を示し、そこへ到達させることが大切である。英語でレポートを
書く場合の諸注意を、少しずつ理解させる機会を作ることが、地道ではあるが、良い卒論
へ繋がる。
3)学年ごとの目標設定、指導方針
3 年生では、英語文学の読み方の指導と、卒論で 4 年次に何を勉強するかについて、おぼ
ろげながらイメージを掴み、自信をもつことを目標とする。授業ではリーディングを中心
に、次のプロセスで行なう。
①
文学への入門的な読解の方法のイントロダクション、
②
論文の書き方の指導、テーマの作り方、論文の構成、パラグラフ・ライティングの重
要性の説明、論旨の一貫性とはどういうことか、などの解説
③
短いミニ・論文的なレポートを書かせる、
④
人的にインタヴューをしてレポートを批評(同じテーマで書く学生が同席
⑤
批評に基づく書き直し。
学生達は、小グループに分かれて、毎時間割り当てられた部分を読んで、ハンドアウトを
作成し、それに従って授業を自主的に進める。授業において、単に受身で教員の意見や解
釈を聞いて鵜呑みにするのではない。授業の前に、英語と向き合ってテキストの内容を自
分で読んで解釈し、それをプレゼンすることで、テキストへの関わりが深まり、文学を読
む楽しさを発見する。その積み重ねで、少しずつテキストによって、多少異なる読みのテ
クニックを身につける。
長期の休暇前には、テキストを全部読む宿題を出し、そのリーディング・チェックのテス
トを行い、自分の読みについて反省する機会を作る。続く授業時間に読む部分のテキスト
全体との関連が、捉えやすくなる。
学生のハンドアウト作成項目は、以下のように、英語で書かれた小説入門書に必ず書いて
ある普通のものである。
*
担当の部分のストーリーの要約
*
5W1H と言われる文章の構成要素でもある、小説の登場人物、場所、時間、出来事、
その原因などについて、項目ごとにまとめる。
*
プロットの展開についての説明
*
反復される言葉、イメージの意味と役割
*
重要なパッセージの日本語訳
70
イギリス文学研究(岡田)
*
ストーリーの他の箇所と担当部分との関係
*
テキストのタイトルと担当部分の関係
*
ストーリー全体と担当部分の関係
4 年生は、論文で取り上げる作品も読んでいるので、ゼミのテキストの読解では、文系の
学問における証明とは何かについて少しでも認識できるように、テキストの具体例で読み
方、解釈の仕方を示している。この意味で、ゼミと論文指導者が同じであることの意義は
大きい。
4)
受講者の態度、感想など(教員の視点から)
ゼミの人数は、06 年度生 13 名であったが、現在は一桁代であるので個人教授的なゼミ。
09 年度の 3 年生は 10 名と前年度の留学生 1 名。同じクラスに違う学年が混じって参加す
ると、お互いに良い知的刺激を与え合う現象は、予期せぬことであった。ゼミのメンバー
の構成の妙を知らされた。どの学年も、真面目な文学好きで個性豊かな学生が集まり、悩
みが無いとは言えないが、それぞれの成長に教員冥利を感じる時がある。英文学の全体を
サーベイする科目か無いというカリキュラム上の不備についての一人の学生からの指摘な
どは、傾聴に値する。
2.卒論文指導の具体的な内容
指導のプロセス
①
前年度、1 月に論文で取り上げる作品について話し合い、2 月ごろまでに取り上げるテ
キストの決定。教員も同じ版のテキスト購入。4 月の最初の論文指導日までに、テキスト
のサマリーを日本語で A4 一ページにまとめて提出する。
②
4月より、①に基づいて、論文のテーマの設定の相談
③
資料の収拾方法の指導:英文書誌目録の読み方
④
③を生かした Bibliographyの作成
⑤
Bibliographyに基づいた文献の集め方:インターライブラリーなどの紹介、実際に夏
(5月)
休み前までにテキストを精読し、文献を収拾する。(7月までに)
⑥ノート・カードの作成指導、特にキーワードを複数つける指導。(4月~7月)
⑦ノート・カード作成の点検とテキスト解釈のディスカッションを頻回行なう。
⑧論文作成年間スケジュールを作る。その提出(4月)。
⑨英語論文の途中経過の学部スケジュールに合わせて、提出する枚数を増やす。
6 月:3 ページ程度
9 月:8 ページ程度
11 月:10 ページ+表紙+書誌目録。
各回、批評と書き直しの再提出。12 月は最終稿に向けインタヴューを頻回行なう。
⑩後期以後は、原稿を中心に、論文完成にむけてテキストの解釈ついての具体的なディス
カッションをしながら、ファイルでのやり取りも含めて指導を密にする。
⑪新 4 年生、3 年生に卒論の発表を行なう。(3 年生のレポート発表も兼行なう。)
2.
ゼミ生の声(試験以後、ゼミ生のメールによる送信)
‘08年度4年生
①
一冊の洋書について、みんなで理解し、意見を言いあう機会は大学でしかできない
71
イギリス文学研究(岡田)
ことだと思います。ゼミのメンバーが皆、仲が良かったので励ましあいながら、一年間や
ってきました。特に家父長制やジェンダーの視点、女性の生き方など普段はなかなか考え
ないようなことを考えさせてくれる素敵な授業だと思いました!やっぱり大学って、私達
に「こういう風に考えることもできるよ?」っていう提案とかきっかけを与える場所なん
じゃないかなぁと思います。それを今後どういかせるかはみんな違いますが。先生の授業
はそれを例え専門的な分野(英語)で今後生かせなくても、これからの生活には何か役にた
ちそうな気がします☆
②
岡田ゼミに入って、実際に洋書を原文で読んだので英語の力が伸びたように感じま
す。ゼミが少人数だったため、当番が回ってくるのが早くとても大変でしたが、その分自
分を鍛えられて良かったです。そして、その発表をするためにゼミの友達と集まる機会が
多く、深い友達を得ることが出来ました。皆で論文の読み合いをしたことは、自分の論文
の駄目なところがわかり、これは大変良い試みだと思いました。また、卒業論文は自分で
考えて論を立てなければならなかったので、考察力が身に付いたように感じます。物事を
前よりもよく考えるようになりました。イギリスの歴史を知り、思考力がつき、大切な友
達が得られたのは岡田ゼミのおかげだと思います。こんなに濃い一年はありませんでした。
このゼミに入って良かったと心から思います。
③
先生のゼミはイギリス文学研究ということで、何から何までしっかりとイギリスを
学べます。論文指導においては、社会にでてもきっと大切になるであろう「人に自分の伝
えたいことを論理的に順序立ててしっかり文章に表す。」ということを学びました。まだ不
十分なところはありますが、先生の、段階をふんで丁寧に指導して下さる方法は、自分で
試行錯誤する時間もありとても良かったと思います。じっくり学べる先生のゼミは満足で
した。
‘08年度3年生
①
大学生活で英語を読む力・感じる力・書く力をつけたいと思って、岡田ゼミでチャ
レンジしています。英語の力は決して簡単に手に入るものではないけれど、英語に向かう
根気と忍耐があれば絶対に身につくということを、先生は厳しく、そして熱心に私たちに
教えてくれます。岡田ゼミは厳しいかもしれませんが、ゼミ生同士で助け合いながら頑張
れば、自分自身と文学作品にしっかり向き合う力が必ずつくと思います。先輩や後輩の繋
がりも大切にする岡田ゼミではパーティーなども行われ、とても楽しいひと時が過ごせま
す。一緒に読んで、一緒に笑って、一緒に文学の世界を楽しんでいます。
②
岡田先生は一人一人にきっちりと指導して下さるので、このゼミは自分の英語能力
や読解力など力を試せるところでもあり、それらを成長させる場でもあると思います。と
てもやりがいのあるゼミだと私は思います。
③
私は岡田ゼミでの授業やレポートを通して、テキストを丁寧に読むことの大切さを
学びました。そしてテキストの疑問をゼミ生と話し合い、意見を聞くことで、より理解を
深めることができました。また、単語のバリエーションも広がったので、本当に充実した
一年だったと思います。
72
アメリカ文学研究(戸田)
アメリカ文学研究Ⅰ・Ⅱ(戸田 由紀子)
1) 準備科目における指導内容
I
準備科目における指導内容・テクストなど
ゼミの内容:
このゼミでは英語圏の現代女性作家の小説を中心に精読し、どのよう
な世界観、人間像、人生観を描き出しているのか、人種、ジェンダー、階
級をどのように表象しているのか、といった歴史的、社会的な側面を中心
に一緒に考えながら読んでいきます。普段の英語の授業ではあまり出合う
ことのない、英語の方言や文学的な表現に慣れることからはじまり、物語
のプロットや登場人物の描写の仕方を味わいながら英文を読む力をつけま
す。また、批評論文を読むことによって、情報を分析したりまとめたりす
る力、そして自分の考えを論理的に表現する力をつける練習を行います。
4年生の卒論は英語で書くことになっていますので、3年生はその土台作
りとなります。
今年度の3年ゼミ:アリス・ウォーカーの『カラー・パープル』
批評論文
今年度の4年ゼミ:ミュリエル・スパークの『ドライバー席』
批評論文
II
積極的に受講させるための工夫、指導内容:
積極的に授業中にディスカッションを行うことになれていない日本
の学生をどのように自分の意見をいいやすい環境を作ってあげることが
できるかは、毎年いろいろと工夫しております。引き続き今後の課題で
もあります。
本年度から、担当者を一人ではなく、3~4人づつのグループにして、
そして質問・ディスカッション担当グループも 3~4人づつ決めました。
授業では担当グループが毎回の授業の担当箇所をレジュメにまとめ、発
表し、その後質疑担当のグループがあらかじめ準備した質問や議題にそ
って授業で話し合います。授業の半分は文学作品を読むことに、もう半
分は批評論文を読む時間に当てられます。毎回論文を一つとりあげ、そ
の読み方や書き方をみていきます。これも文学テクストと同様、発表担
当グループと質疑担当グループがレジュメを作成し、授業で発表し、担
当します。3年生の授業では日本語で書かれた論文、4年生では英語で
書かれた論文を読みます。
73
アメリカ文学研究(戸田)
テクストと批評論文のそれぞれに担当するグループが二つあるので、
毎回参加者全員がなんらかの担当を担い、なんらかの形で積極的に準備
をし、参加するという形式で進めました。質問担当者も読まなければ質
問が準備できないので、必然的に全員が予習することになり、分からな
いところも明確になったと思います。前年度より具体的な質問が多くな
ったこと、質問に対する答えを学生たちが対応できるようになったこと
などがとてもよかったと思います。なるべく私の一方的な答えを提示す
ることはせず、多少沈黙があっても学生たちが考え、自発的に発言でき
る場をこれからも作っていきたいと思います。
III
学年ごとの目標設定、指導方針
3年生のゼミ:
3年生はとりあえず洋書を読むことに慣れ、楽しむことを重視する。
小説に関しては、次のようなこと中心に読み進め、そのレジュメをもとに
授業の進行もお願いしている。
担当箇所の概要、登場人物の主な動き、主な出来事
印象に残った場面はそこを英文で読み上げ、説明できるようにする。選
んだ箇所がどうして重要だと思ったのか、小説全体のテーマや人物描写
やプロットなどをどう関係しているのかを考える。
わからなかったところをテクストに沿ってみんなで確認していく
他のメンバーの意見を聞きたいところをピックアップする。
質問担当グループは、グループで話し合い、授業で発表担当グループに
聞く質問やみんなで話し合いたいテーマについてまとめる。
また、授業の半分は批評論文を読むことによって、情報を分析したりまと
めたりする力、そして自分の考えを論理的に表現する力をつける練習を行
います。毎週一つの論文を取り上げ、担当グループは次のようなことをレ
ジュメにまとめて授業を進行する。
テーマは何か?トピック・センテンスは何か?
どのような枠組み、構成になっているか?どのように論じているか?
結論は何か?
論文の説得力のあった点、欠けていた点とその理由
わかりにくかったところ、疑問点など
論文に対する自分の意見や感想
4年生のゼミ:
基本的には3年生と同じ。英文を読むことに少しなれてきているので、一
回の担当箇所を多くしている。
74
アメリカ文学研究(戸田)
IV
受講者の態度、感想など(教員の視点から)
今年の 3 年生はとても真面目で優秀でした。グループ担当ということもあ
り、また毎回全員が担当するということもあり、欠席者はゼロでした。準備も
しっかりとしてきてくれたし、授業内でも活発とまではいかずとも、いろんな
質問がでて、お互い教えあったり、意見を述べ合ったりしてとても楽しかった
です。グループで担当するので、グループ内で仲良くなり、また、全体の雰囲
気もとってもよかったと思います。
4 年生も3年生に負けないくらいとても真面目でした。毎年 4 年生は就職活
動で欠席しがちですが、今年は大丈夫かしら、とこちらが心配するほどみんな
出席してくれました。英語を読むのに慣れてきたせいか、物語自体を楽しんで
いる様子がうかがえてとても嬉しかったです。4 年生のゼミには欠席しがちな学
生が二人いたのですが、その二人にはより積極的に声をかけるよう心がけた結
果、卒論もとても頑張って書き上げ、本人たちも達成感があったようで、とて
も嬉しかったです。
とても残念だったことは、昨年も単位不足で卒業できなかった学生が卒論
を今年も提出しなかったことです。途中までは真面目に授業にも出席し、卒論
も提出できるよう指導しており、今年こそは大丈夫と思っていたので本当に残
念です。来年前期卒業に向けて、引き続き指導したいと思います。
2) 卒業論文の指導の具体的内容・方法・プロセスなど
卒論指導の流れ
3 年の春休み中に卒論のテーマを決めてもらう。決めるときの相談は随時研
究室で休み中に行っている。
参考文献や資料探しの指導。テーマによってはなかなか資料集めが難しいも
のがあり、毎年一緒に頭をかかえることがあります。
4 月に具体的なテーマを提出してもらう
前期の授業では、英語の論文の書き方のレトリカルな部分の指導を全員一緒
に行います。英文の書式やビブリオやカバーページの書き方など。
6 月にアウトラインを提出してもらいます
夏休みに入る前に、トピックセンテンスとアウトラインのOKを出すまで休
み中も連絡をとってもらいます。その後各自で夏休み中に論文を書き始めて
もらいます。
9 月後期の始めに論文のファーストドラフトを提出。このときにはこまかい
英語のグラマーなどはあまりなおさず、トピックセンテンスをもとにしっか
りと論点がずれることなく発展しているかどうかをチェックし、必要であれ
ば大幅な変更もしてもらいます。
11 月第一週目に完全原稿提出。アブストラクトも書いてもらいます。この後
12 月の提出までは英語のレトリカルな部分の修正をします。
75
アメリカ文学研究(戸田)
12 月の提出後は交換留学生や特別な事情でまだいろいろと論文の書き直し
が必要な学生に個人指導します。
3) ゼミ生の声
ゼミ生のコメントを授業中に書いてもらうのを忘れていたため、一人はメー
ルで送ってもらって、他のコメントは最後の授業でゼミ生からもらったアルバ
ムからのコメントです。
4年生:
アメリカ文学を通して、アメリカ社会の歴史や文化、さらには人種や性につ
いて学びました。黒人女性が黒人という人種差別だけでなく、女性であると
いう性差別をも受けていることを知りました。同じ人間であり、女性として、
そのような黒人女性がさまざまな問題を抱えながらも社会に立ち向かい強
く生きている姿に大変関心を持ちました。ただ教科書や資料を読むのではな
く、文学作品、物語を通して学ぶほうがより深く理解できると思いました。
先生ゼミを専攻してよかったと思いました。希望であった英語で卒論も書く
ことができましたし、授業で扱う洋書のおかげで英語力も少し伸びたかなっ
と感じます。実際、私は本を読むことが苦手で、1ページ読む前にあきらめ
て本を閉じてしまう人でした。でも、先生の授業では必ず読まないと内容が
わからず、ついていけなかったので毎回何時間もかけて一生懸命読み続けた
結果、文学が好きになりました!本当です!!今まで優しく、時に厳しく指
導して下さり、ありがとうございました。
先生、2年間ありがとうございました!!ゼミ、すごい楽しかったです!卒
論もちゃんと書けるか不安でしたが、先生のおかげでちゃんと書いて提出す
ることができました!!戸田先生のゼミに入ってほんとによかったと思い
ます。
先生の授業はいつものほほんとしていて、毎回癒されていました。先生の雰
囲気好きです!学生の最後に先生のゼミに入れてよかったです。卒論など本
当にお世話になりました。ありがとうございました。
まずはこの2年間本当にお世話になりました。私は戸田先生と出逢うことが
できて良かったと心から思っています。戸田先生がいたから、楽しく授業を
受けることができたし、ほとんどゼミを欠席することがなかったんだと思い
ます!!私は、そんな優しい戸田先生が大好きです。今まで、本当にありが
とうございました。
76
ジェンダー論研究(影山)
ジェンダー論研究Ⅰ・Ⅱ(影山 穂波)
1)教員による自己点検
* 準備科目における指導内容・テキストなど
演習ⅠA
学会誌、あるいは紀要を探し、読む訓練を行う。
雑誌記事索引の使い方を覚え、各自の関心に基づき論文を探す。
順番に発表する。
演習ⅠB
前半は前期に引き続き論文を読む。
後半は卒業論文のテーマを考える。
演習ⅡA
卒業論文に関する報告を順に行う。
知識を広げるために受講生の関心のある新書を取り上げ全員で読む。
演習ⅡB
卒業論文に関する報告を順に行う。
卒業論文
前期は全体で卒業論文の経過報告。
後期は個別指導
* 積極的に受講させるための工夫、指導内容
ゼミ生が自分の意見を持ち、自由に発言できるような環境作りに心がけている。
最初は教員が指名して発言させるが、学生が自発的に発言できるように指導し
ている。発言することに慣れるよう、なるべく多くの学生が発言できる機会を持
つようにする。
ゼミ内容はジェンダー問題から地理的問題まで多岐にわたる。そのため学生の
関心も広くなっている。
演習ⅠAB では各自の関心で論文を探してくるが、発表者以外も論文を必ず読ん
でくることで、相互に興味関心を共有するようにしている。
発表者は内容紹介とともに、自分の意見、疑問点、課題をレジュメにまとめる。
発表者以外も、読んだ論文に関しては必ず疑問点を持ち、それを発表者に問い
かけるようにしている。
中間発表と最終発表会には 3 年生も出席するよう指導している。当初、3 年ゼミ
に 4 年生が出席し、先輩・後輩の関係を築けるように試みたが、授業や就職活動
などの関係上、なかなか難しい。学年を超えた関係を作ることが課題である。
* 学年ごとの目標設定、指導方針
3 年生
多くの知識を学ぶとともに、
自分自身の意見を持つようにすることを目標
77
ジェンダー論研究(影山)
とする。
論文等を読むにあたり、内容を把握し、まとめる力を養う。またその内容
に関する疑問を持つようにさせる。知識が不足している面に関しては、身近
な問題に引き寄せることで、現実感のある問題設定をさせる。
4 年生
自分の意見を説得力のある表現で、まとめることができるようにすること
を目標とする。
学生自身が納得のいく卒業論文の執筆ができるようにする。
プレゼンテーションの機会は、経過報告、中間発表、最終発表会の 3 段
階である。プレゼンテーションでは、自分の問題意識と研究内容を明示でき
るようにする。研究に関しては自信を持って発表、質疑応答ができるように
する。
聞き手が理解できるかどうか確認しながら発表ができるようにする。
質疑応答を通して考え方の違いを学ばせる。
* 受講生の態度、感想など
質疑応答を通して考え方の違いを学ばせる。
3 年生の間は、自発的に発言できる学生は限られている。しかし例年、4
年生になるとリラックスして発言できるようになる。学生に聞くと、ゼミの
メンバーの間で人間関係が形成されると、
緊張せず自分の意見を述べるよう
になるようだ。
3 年生の出席率はいいが、4 年生になると就職活動もあり、出席率は悪く
なる。出席し続ける学生とそうでない学生との間に差が広がる時期である。
演習では全員ゼミ生が集まり、卒業論文の時間は個別指導を行っている。
身近な問題を取り上げる学生が多いため、
相互のコメントが有益であるよう
だ。
卒論を進めるにあたり、十分に本を読まず HP に頼る学生が多いことが今
後の課題である。HP の活用に際しては裏付ける資料を集めるように指導し
ているが、現在以上に読書量を増やす必要がある。
2)卒業論文の指導の具体的内容・方法・プロセス
・ 参考文献の探し方を学ぶ。
・ 研究論文を読み、論文とはどのようなものであるか理解する。
・ 自分の研究テーマを絞る。
・ 研究目的を明らかにし、研究テーマのオリジナリティを探る。
・ 文献を参照しながら章立てを考える。
・ 論文の書き方を学ぶ。
・ 既存研究の現状を示す。
78
ジェンダー論研究(影山)
・ 関連資料の収集と事実関係を記述する。
・ 自分の研究の立場を定める。
・ 実際に執筆を進める。
・ ゼミ生全体で発表する際に、学生相互で内容に関する指摘をしあう。
・ 個別に指導し、事実関係とオリジナリティのある研究を進めるようにする。
3)ゼミ生の声
4 年生
・ お互いの卒論について資料を交換し合うことができた。
・ 個性の強い人が集っているから、自分と違う人の意見を聞くことができて参考に
なった。
・ 権力構造があらゆる世界で見られることを学んだ。それらが原因でたくさんの人
が苦しんでいることを知った。
・ 「ジェンダー」は自分が一番かかわらない分野だったので、どうしようかと思っ
ていたが、その時点で私の頭には「ジェンダー」という言葉を意識していたんだ
と今は思う。
・ みんなで意見を言い合う事が楽しかった。それにより、いろいろな考え方がある
ということを学んだ。
・ 自分の中に偏見があることを改めて知った。
・ もともとジェンダーに興味があったため、知識を深めることができた。
・ 文献を読むことで、これまでとは違う視点からジェンダー捉えることができ、討
論することで、異なる意見を知る機会となった。
・ ゼミは楽しかった。
・ 卒論は大変だけど、自分の納得するものができたと思う。
・ ジェンダーを身近に感じられた。
3 年生
・ 文献を用いてまとめる力が身に付いたと思う。
・ 文献の集め方、探し方など準備作業についても詳しく学び、参考になった。
・ ジェンダー論に限らず幅広く学べた。
・ 先輩との交流が少ないと感じた。
・ 前期・後期の内容が同じだったと思う。
・ 「あれをやれ」
「これをやれ」と指示する形ではなく、生徒に何がやりたいか聞い
てくれたり、
「これをやろうと思うけどどう?」と聞いてからはじめるところ。
・ 堅苦しいでゼミではない。
・ 「聞くだけ」のスタイルじゃなく、発言しやすい環境がよかった。
・ 軽い感じだけどしっかり話し合えた。
・ 4 年生の卒論の発表会に参加して聞けたのがよかった。
・ よく授業を延長することは良くなかった。
・ ジェンダーについていろいろと知ることができて面白かった。
79
ジェンダー論研究(影山)
・ ジェンダーに興味がある子が多いため、あまり地理について勉強できなかったの
で少し残念。
・ 意見の押し付けがなくてよかった。
・ いろいろな考え方ができた。
・ もっといろいろなところに調査しに行きたかった。
・ 東山遊歩道に調査に行ったとき、学校の近くを知っているようで知らないことが
たくさんあった。
・ 地理をやりたい子には調査の参考になったと思う。
・ 飲み会をやって、みんなが仲良くなれた。
・ 前期の発表を通して、自分の興味が分かった。
・ 発表の仕方、レジュメの作り方が身に付いた。
・ 明るくて楽しくて、時には真剣なクラスだった。
・ みんな明るいし、それぞれ個性があって面白いゼミだった。
・ 先生の話は難しかったけど、いろいろ勉強になった。
・ 先生はいつも笑っていたし、なんかちょっと抜けてるところがあって面白かった。
・ 固い先生じゃなかったからみんなものびのび発言できたと思う。
・ 自分の考えや意見をちゃんと持っている人たちばかりで、それをしっかり先生が
まとめてくれていたからとてもよかった。
・ 全員が自分から意見を述べる感じではなかったけど、先生がうまく引き出してく
れた。
・ このゼミは先生も学生もフレンドリーな雰囲気で、とても居心地が良かった。
・ 先生がいなくなるのは嫌だけど、勉強になる良いゼミだった。
・ 3・4年のゼミが 3 年だけで解散になってしまったことが寂しい。
・ せっかくみんなと仲良くなれて、これからって時にお別れはつらい。
80
中世近世日本研究(加藤)
中世近世日本研究Ⅰ・Ⅱ(加藤 益幹)
1.教員による自己点検
私の専門は、日本史の中でも中世から近世への移行期に当たる戦国・織豊期であるので、
指導できる分野を考慮して、卒業論文準備科目(卒論ゼミ)の科目名を「中世・近世日本
研究」とした。長らく一般教養に属し教養教育を主に担当してきたので、卒業論文を担当
するのは、現学部に改組されてからが初めての経験であった。そのため当初自分の経験し
た史学科の卒論をイメージしてかなり専門的に狭く考えていたが、実際に卒論指導を経験
して学生の多様な関心に触れてもっと柔軟に対応する必要性を感じ、改組から 4 年たった
来年度の 3 年生から卒論ゼミの科目名を「日本歴史研究」と改め、卒論のテーマを日本の
歴史に関わることなら時代や分野を問わず幅広く選べるようにした。
私のゼミを選択した学生は、表現文化学科の学生を主として 1 年目9人、2年目4人、
3年目(現4年生)9人と少人数であり、現3年生は2人であるが、来年度は柴田・影山
ゼミから4人が加わり6人となる予定である。歴史を難しく考えず、自分自身につながる
生きた歴史としてとらえられるように、学生の関心を引き出し一緒に学んでいけるよう努
力していきたいと思っている。
3年生のゼミでは、歴史資料(史料)を分析して史実を読み取る歴史学の基礎を養うた
め、
『太閤の手紙』
・
『信長公記』や『愛知県史・資料編』などの活字史料をテキストにして、
長篠の戦い、本能寺の変、小牧・長久手の戦いなど、興味の持てそうな事件や東海地域の
歴史に関わる古記録や古文書を読んでいる。学生には『角川日本史辞典』を貸与し、人名・
地名・度量衡・年表など歴史の用語や基礎知識を調べる手段としている。
3年の始めには図書館ツアーを行い、日本史関係の参考図書による調べ方や図書の所在
を説明する。その時に、中央公論社・小学館・講談社の各『日本の歴史』シリーズの中か
ら、興味のある時代や分野のものを最低一冊は読みレポートにまとめるのを前期の課題と
することを伝え、前期の終わりにはその発表会を行った。後期の課題は卒論のテーマを徐々
にしぼりこむこととし、個々に関係する本を紹介しながら、夏休み明けと後期の終わりに
発表会を行った。このように普段の授業では史料を読み取る力をつけるとともに、一年か
けて3年の内に卒論テーマをしぼっていけるようにと考えている。
日本史に何らかの興味をもって集まったゼミ生であるが、漢字中心の旧い文体の史料を
解読するのは、初心者の学生にはなかなか難しく苦労している。私も高校時代に日本史に
もっていた興味と大学で専門的に日本史を研究し始めてからの歴史に対する認識は、大き
く異なるものとなった。過去の史実を明らかにする歴史のおもしろさを伝えるためには、
史料を通して歴史を考えることが不可欠と思われる。3年のゼミでは一緒に史料を読みな
がら、日本史の基礎を分かりやすく伝授できたらと思う。このことは4年になって卒論で
文献を調べていくときに、必ず役に立つものと思っている。
81
中世近世日本研究(加藤)
4 年生のゼミでは、卒論の構想発表と誰かの卒論に関わる史料を読むようにしている。し
かし、前期は就職活動の影響もあって出席率も半分程度となり、後期は卒論の作成にかか
りきりになるので、ほぼ個別指導に近くなる。これはゼミ生が少人数であることと、卒論
のテーマが多岐にわたるので、共通の史料や文献を読むことができにくくなるためである。
そのため 4 年のゼミは卒論指導と一体となったものとなるので、次の卒論指導の所でまと
めて書こうと思う。
2.卒業論文の指導の具体的内容・方法・プロセスなど
3 年生の終わりにほぼ卒論のテーマがしぼられているので、3 年から 4 年にかけての春休
みに、関係する文献を調べたり調査に行ったりすることを指示している。その上で 4 年の
初めに卒論テーマを提出するに当たり、その段階での卒論の題目、構成案(章立て)
、関係
文献などをレジュメにさせて、卒論の構想発表会を行っている。その後、日本史の論文の
書き方、例えば年月日、漢数字、注、参考文献、年表などの表記の仕方などを指示する。
1期生の時には、この点について試行錯誤であったが、今年度は3年目であるので過去の
卒論や要約集が役に立ち、例として見せたり貸与したりできた。卒論は縦書きで 40 字×30
行であるので、3 年のレポートの段階からこの書式で書かせ、文章指導を始めるのがよいと
考えている。
4 年の前期は、就職活動などでなかなかはかどらず、ゼミで卒論に関係する史料や文献を
読み合ったり、個別指導で進捗状況を確認しているが、1~2 度中間発表会を開く。前期の
ゼミの課題は、卒論の「はじめに」にあたる部分と構成案(章立て)をレポートとして提
出することとし、7月に発表会を開く。こうした全員による発表会は、卒論の進捗状況や
取り組み方・分析方法などをお互いに確認したり刺激しあえるので、時期をみて定期的に
開くのがよいと思う。
夏休み中には、関係する文献や史料をさらに調べて構想をまとめたり、関係する地域の
現地に行って調べたりして、少しでも文章化できるところからまとめ始めるよう指示する。
土地勘のある地元を対象とする場合はもちろん、多少遠方であっても現地に行って史跡や
史料館を調査して写真に撮ってきたりするフィールドワークは、卒論のイメージをふくら
ませる上でも重要である。夏休み中の9月1日頃に、一度全員を集めて発表会を開いてい
る。なかなか構想をまとめるのに苦労するようで、進捗状況はこちらが思うほどよくない
が、少しでも進めさせる意味とその後に指示を与える上でも、この時期に発表会を持つ必
要がある。
後期が始まり10月になると、個人差もあるが少しずつ原稿が出てくるので、文章の添
削と歴史の論文としての形式を整える個別指導に終始する。12月15日の提出までの1
ヶ月が、各自の文章量も増えこの作業が最も忙しくなる。全員の原稿を期限までにチェッ
クできるのが理想であるが、一部の学生は途中までで最後は本人の自力に任せたのが現実
である。それでも今年度までの3年間、全員無事何とか卒論を形にして提出できた。私も
82
中世近世日本研究(加藤)
含めて期限に追われないとなかなか本気で文章化できないのであるが、自分の構想を文章
にし始めて、初めてその問題点や方向性がみえてくる。卒論指導の中でも、この時期の個
別の文章指導が最も重要と考えるので、原稿添削の時期を少しでも早められることが今後
の課題である。
提出された卒論と要約は、冬休み中に読んで誤りや誤字・脱字などを鉛筆で添削し付箋
を貼っておく。冬休み明けのゼミの時間に、卒論のデータを持ってこさせ、卒論と要約を
返却し大学のパソコン室で誤りを訂正させる。修正された卒論と要約を印刷し保存用とし
て提出させ、卒論データはパソコンに取り込み保存する。1期生の時は9人のうち7人が
手書きの卒論を選択したのでデータは保存できなかったが、2年目からは以上の方法をと
るようになった。そしてゼミの後期の課題は、
「ゼミ・卒論を振り返って」をレポートとし
て提出させることにしている。以上が、この3年間をかけてできあがってきた卒論指導の
プロセスである。
卒論のテーマ選びに関しては、アドバイスはするが本人の興味に従って自分で決めさて
いる。自分が選んだテーマのほうが関心が持続するからだが、それだけ時代も分野も多岐
にわたり、私も学生のテーマに合わせて勉強せざるをえなくなった。史学科の論文では、
史料に基づいた分析力や実証力が問われるが、本学部の学生の卒論は史料を十分に使える
わけではないが、その自由な発想力や表現力から教えられることも多い。年とともに関心
が専門の領域に偏ってきたが、卒論を担当し始めてから学生に合わせて幅広い分野の本を
読むようになった。
卒論のテーマは多様であるが、それでも3年間の論文のなかでいくつかの傾向が見られ
るので紹介してみたい。(1)中学・高校時代に興味をもった人物を取り上げたもの。大河ド
ラマの影響か戦国時代の武将の人気は高く、また淀殿・建礼門院・天璋院篤姫と女性の生
涯をたどったものも毎年出ている。(2)自分の住んでいる地域史に関わるもの。城下町や宿
場町などの歴史をたどったり、地域でおこった合戦や出身の人物を取り上げたり、土地勘
もあり、史跡も身近に見ることができて、地域史を中心に文献も集めやすい。東海地域は
東西の文化が混ざり合う位置にあり、こうした地域の視点にたって歴史をとらえてみるの
もおもしろい。(3)自分の苗字のルーツを調べながら、歴史上の系譜をたどったもの。歴史
上の人物につながれば興味深いし、そうでなくても自分の家系がたどれれば、歴史を身近
なものと感じることができる。(4)戦国期や明治期には西洋人が来日し、外国人の視点で日
本の文化を記録しているが、それを分析して日本側の記録では気づかない日本の姿を明ら
かにしようとするもの。そうした記録は多く翻訳されており、日欧の文化比較にもなり、
本学部にふさわしいテーマでもある。
83
中世近世日本研究(加藤)
3.ゼミ生の声(ゼミ生の反省文を読んでの反省文)
卒論を提出してから、最後に「ゼミ・卒論を振り返って」と題するレポートを出させて
いる。卒論を書き上げた充実感からあまり否定的なことは書かれてないが、過去3年分を
読み直してみて、印象に残った点を書き出してみよう。
3年生のゼミで古記録や古文書など史料の解説を続けたことについては、難解で意味を
読み解くのに苦労したが、卒論で文献を調べていて史料を扱うのに役に立ったとの声が多
い。特に1期生の時は史料の厳密な読みにこだわっており、その影響か卒論のテーマも私
の専門に近い戦国・織豊から近世にかけての武家社会をとりあげる場合が多く、史料や典
拠にこだわったものとなっている。2期生は4人と少なかったが、卒論のテーマも平家物
語・松尾芭蕉・明治の外国人女性と時代も分野も多岐にわたった。なかでもSさんは自分
の苗字をとりあげ、平安から明治までの他の3人の時代を縦横に飛び交った。何れの卒論
の出来もよく、この経験から卒論のテーマ選びは、柔軟に対応していこうと思うようにな
った。ただ1期生の時のように史料に厳密にこだわっていこうとする姿勢も大切なので、
この兼ね合いが難しい。2期生には卒論を書き終えてから、3年生(3期生)の前で卒論
の反省会をしてもらった。これは次の学年に引き継がれるという意味で効果があったので、
今後も続けていきたい。
2年間同じゼミで過ごし卒論を仕上げることは、少人数ということもありゼミ生の間に
仲間意識を育てるようだ。史料を読むのを助け合ったり、卒論の中間発表会でよい意味で
刺激し合ったりと、学年によって濃淡はあるが、多くが仲間と出会えて一緒にやれてよか
ったとしている。こうした連帯感は大切であるので、時には教室外でお茶でも飲みながら
発表会をするなど、普段からこうした学生の本音を聞けるようにしていけたらと思う。
ゼミ生の多くは、それまでレポート以上に長い文章を書いたことがなく、卒論の構想を
練るのに苦労し、それ以上にそれを文章化するのに更に苦戦するようだ。文章化してくれ
ないと本格的な指導も始まらないので具体化の作業をできるだけ早めたいが、言うは易く
行うは難しい。例年「もっと早く始めておればもっと指導を多く受けられたのに」という
声は多い。こちらもそうした苦労が分かるので、なかなか強く言えないが、個々の可能性
をできるだけ引き出していくしかない。こうした苦労を経てなんとか卒論を書き上げた時、
相当な充実感に満たされるようである。やはり、卒論は大学4年間の総仕上げとして欠か
せないものだと思う。
84
教員による自己点検
―
Ⅱ.国際教養演習 ―
国際教養演習についての自己点検(概観)
数年前、在学生に FD アンケートを実施したところ、授業、イベントなど本学部の提供す
るさまざまなサービスのなかで、満足度が最も低かった項目が国際教養演習であった。こ
の授業に対して肯定的な見方をしている学生は3割にも満たなかった。この低評価の要因
としては、クラスが自動的に割り振られるために自分の関心と演習の内容とがマッチしな
い、アンケートが実施された 12 月が一年生にとって多忙な時期であり、そのなかで必ずし
も意義のはっきりしない国際教養演習にとりわけ厳しい目が向けられる、といったことが
挙げられる。いずれにしても三割という数字は憂慮すべきものである。新一年生を対象と
した国際教養演習は大学での勉強の導入として開講されている授業なので、この授業の満
足度が低いということは大学での勉学に消極的となるきっかけともなりうるからである。
そうした事情から、国際教養演習が来年度から大幅に改変されることになった。まず、
後期の方が撤廃され、前期だけとなった。名称は「教養演習」に変わった。国際教養演習
という名称は、たんに国際コミュニケーション学部のフレッシュマン・セミナーという意
味で命名されたものだが、しばしば「国際教養」演習と受け止められ、国際的な素養が教
われるものと学生が期待するという、出発点でのすれ違いが生じたからである。また、二
年時に国際教養演習(応用)が設けられ、こちらの選択は任意となった。
とはいえ、演習の内容に変化がなければ、以上のような改編も小手先だけのものに終わ
るだろう。そこで今年度の FD では、国際教養演習を実際に担当してこられた先生方に、こ
の演習の自己点検をお願いすることにした。以下、各先生の文章をそのまま再録するが、
そのなかで注目すべき点、教養演習の担当者全員が共有する価値のある点と私が考えた部
分について、以下簡潔にまとめてみたい。もちろんこの選択は私の恣意にすぎないので、
もっと重要な点を看過しているとか、趣旨を誤解しているといった批判についてはご容赦
いただきたい。
ところで本論に入る前に付け加えておきたいが、悲しむべきことに国際教養演習の担当
者の一人だった柴田先生が昨年、急逝された。ここで柴田先生の経験を共有できないこと
が残念でならないが、伝え聞いたところでは柴田先生は新聞記事を学生に選んでこさせ、
それを深めるかたちで演習を進めておられた。複数の受講学生から、
「新聞に目を通す習慣
がついて、就職活動の時にも役立った」という声を聞いたこともある。先生の国際教養演
習が好評だったことと合わせて付記しておきたい。
●要約:
石川先生の演習は翻訳を軸に進められているが、たんなる訳だけではなく、学
生が全体をどれだけ理解しているかをみるために全訳を4分1程度に要約させている。
これによって学生の作業が単調にならず、学生に頭を使うことを強いる状況が設定され
ているように思われる。
87
●文献資料の批判:多くの先生方は、インターネット情報の不正確さについて学生に伝え
ていると思われるが、大浦先生はそれにとどまらず、活字となって出版されているもの
であっても、それが絶対的に正しいわけではないことを認識し、書かれてあることの正
否は自分で考えなければならないという資料批判に演習の重点を置いている。こうした
トレーニングは「教科書=正しい」という受験勉強の図式のなかでしか勉強をしていな
い学生に対して有効であると思う。
●朗読:小川先生は、最初の自己紹介から始まって、演習のなかで朗読を重視しておられ
るようだ。とくに自作の文章を前に出て他の学生の前で朗読するという訓練は、文章力
上達の方法としても注目される。
●映像:岡田先生、加藤先生、影山先生、長澤先生は、演習のなかでも映像作品を用いて
いる。岡田先生の演習の場合にはイギリス文化への興味の導入という目的からであった
が、やはり見知らぬ土地の異文化に親しみをもたせる場合には、
「百聞は一見に如かず」
という教訓には意味がある。
●「科学的」思考法: 小澤先生は、ダイエットという身近なテーマを糸口にしながらも、
「このダイエット法ってどうなんだろうか?」という疑問を抱かせ、説明されている内
容に説明不足な点や矛盾点、ごまかしはないかなどの検証を行うように指導することを
通じて、科学的なものの見方になじんでもらうように配慮している。
●グループワーク:何人かの先生が演習のなかにグループワークを取り入れておられるが、
影山先生が指摘するように受講者全員が自分の意見を言い合うことのできる状況を作り
出すためにはグループワークが有効である。その際影山先生の演習では、基本的に毎週
グループのメンバーを入れ替え、まとめ役を設定した。メンバーも無作為に教員のほう
で分けることにより、好きな学生同士が固まるのを避けるように配慮している。
●文章の規格統一:レポートの文章を添削して返す方法は有効と思われるが、学生の提出
したレポートの形式が不統一の場合、直し方が難しいうえじゅうぶんな効果が上がらな
いかもしれない。加藤先生は授業で扱った映像作品ごとに 40 字×30 行の 1,000 字程度と
規格を統一したレポートを提出させ、
「である体」による文章の統一、段落の区切りから
誤字・脱字にいたるまで、レポートの書き方の基礎を指導している。分量をしぼり込む
ことで徹底した添削が可能となり、大きな効果をあげているように思われる。
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●テキスト:
国際教養演習で基礎的な知的訓練について指導する場合、どのようなテキ
ストを使用できるだろうか。テキストを使用しているのは笠原先生と長澤先生で、笠原
先生は田中共子編著、『よくわかる学びの技法』、ミネルヴァ書房を、長澤先生は戸田山
和久著、
『論文の教室』(NHK ブックス)
、日本放送出版協会を用いて、共に「読む」と
「書く」という基礎に重点を置いた指導をおこなっている。
●先輩学生を招いての座談会:
笠原先生は、授業一回分を先輩学生を招いての座談会に
あてているようだ。これは数年前、国際教養演習で共通して行おうとした企画だが、主
に先輩学生を集めることの困難から、なし崩しに消滅してしまっている。私自身も実施
しているが、入学時の学外オリエンテーションだけではじゅうぶんではないところから、
先輩学生の話を聞ける機会は学生たちにきわめて好評である。
●内容・テーマ:杉戸先生はご自身の教養演習について厳しい総括をしておられるが、先
生がテキストとして使用している高島俊男著、『漢字と日本人』、文春新書が提示して
いるテーマは、難易度こそ高いにせよ、国際コミュニケーション学部に学ぶ学生にとっ
て、きわめて適切なタイプの本ではないだろうか。日本語力の低下が言われる古今、漢
字について意識を高めることは「ことば」そのものと、ことばをとりまく環境への理解
を深めることにつながるからである。
●コメントの毎回提出とフィードバック:戸田先生は、
「自分の発表も重要だが、他の人の
発表を聞くことも同じくらい重要である」という観点から、発表者以外にも、各人の発
表に関する critical comment を毎回提出させている。私も含めてコメントの毎回提出を
行っている先生は複数いると思うが、横家先生はさらに、提出させたコメントを報告者
にフィードバックするやり方をとっている。たしかに、クラスメイトのことばの方が、
教員のそれよりも時に重いことがある。加えて、他人にことばを贈ることの重要性を認
識させることにもつながる。フィードバックは教員の方としてもなかなかたいへんであ
るが、その有効性は小さくないと思う。
●自分の意見と他人の意見を分ける訓練:
教養演習で必ず教えなければならない項目の
ひとつに、インターネットのコピー&ペーストを含む他人のアイディア、意見の剽窃は
カンニングと同じ、という認識の徹底が挙げられる。戸田先生のように、この点を根気
強く説明し、繰り返しきつく注意することは担当者にとっての義務だろう。
●学生の名前を覚える、呼ぶ:
長澤先生は、できるだけ学生を呼んで指名し、意見を引
き出すことを意識している。学生にとって教員に覚えてもらうことは授業参加への意識
を変える大きな要因となり、教員との心理的距離が近くなることで、満足度も高くなる
89
からである。その反面、怠業(欠席、発表の準備不足など)に対しては厳格に対応する
ことで、まじめに参加している学生に不満を抱かせないことは、上級学年での授業態度
にまで大きく影響していく、という指摘は妥当だろう。
●ほめる:
長澤先生は、学生の発表について問題点を指摘しながらも、かならず肯定的
なコメントをすることを心掛けている。この点は私も同じである。
。
●資料探索、引用の方法:松田先生は、
「研究の基本は資料の調査と分析である」という立
場から、とにかく我慢強く、資料収集と資料分析に努めることの大事さを教えている。
そのため、どんな資料があるか、また所蔵場所など資料探索の方法、文献引用の方法な
どを教えているが、この点も教養演習の担当者にとって欠かせないものであろう。
●正解は一つではない:横家先生は体験学習を軸にして、
「聞く」姿勢を育成することも含
めた指導をおこなっているが、同時に「正解はひとつではない」ことを教えることも狙
いとしている(詳しくは横家先生の文章を参照)
。受験体制のなかでは、問題を考えるの
はもっぱら教師の役目であって生徒の仕事は正解探しでしかなく、しかも「問題があれ
ば必ずひとつの正解がある」というルールのもとに筆記試験は運用されていたが、これ
では知的活動は大幅に狭められてしまう。大学に入った新入生を受験体制の常識から解
き放つ指導は、なかなか大変とはいえ必要なことではないだろうか。
(2008 年度 学部FD委員
90
水島 和則)
石川勝二
国際教養演習の自己点検報告
石川
勝二
授業の方針
一年生の演習と言うことで受講者全員に同じことをやってもらうために以下のことを課
題とした。まず、ギリシア神話「ヘラ」を英語で読み、全訳を作る。これによって英語が
どの程度読めるかを知ることができる。次に英語とラテンの関係を受講者に知ってもらう
ことを意図した。
「ヘラ」の英文は、意識的にラテン語起源の語彙(否定や反対を表す接頭
辞のついた語を含む)を多く使って書かれていて、その説明を行った。さらに、全訳した
「ヘラ」の内容をどこまで理解しているかを見るために全訳を4分1程度に要約させた。
最後に全訳、要約、授業の感想を提出させて成績評価を行った。
授業の実際と評価
まず、英語が読めないことがわかる。その原因は多くあるが、1 つは、英語が多義語であ
る(英語だけでないが)ことを知らないために、第2は、冠詞の用法を知らないために、
辞書を引いても適訳の語を探せない。また辞書を引くのに時間がかかり、その結果不十分
な訳しかできず、理解も不足すために、受講者は課題に取り組む意欲をなくし、ひいては
欠席者が多く出るのではないかと思う(欠格者5名)
。成果を生んだ授業となったかどうか、
疑問である。たぶん受講者は不十分な理解しかできずに授業をを終わっただろう。以下に
受講者の感想文を原文のまま掲げる(名前は省略し、アルファベットのみにした)
。感想文
の内容を額面通りに受け取ってはいけないが、感想文によって受講者ができたこと、出来
なかったこと、こうして欲しかったなど要望が聞けるし、授業の評価の目安になると思う。
(学生の感想は多大な分量をもつため、一部のみここに収録した)
D:私は、この国際教養演習を受けて思ったことは、HERA の訳をやってみて、英文を日
本文に訳すのは難しいと思いました。自分だけで、辞書を使ってどの単語の意味が正しい
か判別して訳し、いざ授業で先生の訳を聞いてみると、自分が訳したのとは全然違う、な
んてこともありました。でも、国際教養演習を受けたおかげで、単語にはいろんな意味が
あってその文章によって意味を使い分けるという練習ができたと思います。また、そのお
かげで、自分の単語力もアップしたかと思います。それと、私はギリシャ神話を読んだこ
とがなかったので、この授業で読むことができてよかったと思っています。すごく難しか
ったけど、やりがいはありました。国際教養演習で、いろんな課題が出ましたが、普段(コ
ミニカティブ イングリッシュ)の課題が多くあり、十分に国際教養の課題が出来ない、と
いうときもありました。
E:私はこの授業で初めて本格的な翻訳作業をしましたが、翻訳がここまで難しく、大変
91
石川勝二
なことだとは思っていませんでした。それは、文法や単語をそのまま訳しては意味が通じ
ない、と言うことです。授業の最初のほうでは、辞書に頼るのはもちろん、辞書に最初に
出てくる意味ばかりをそのまま訳していましたが、しかしそれでは意味がおかしくなると
言うことを学びました。特にギリシア神話を訳すことはとても難しく感じました。毎回の
授業で少しずつ翻訳のコツを学び、訳し方にもだんだん慣れてきましたが、その時には、
1文1文を訳すことにとても慎重になっていた気がします。翻訳作業はとても時間がかか
り、大変でしたが、半期を振り返ると、的確に翻訳をする能力は大きく変わったと思いま
す。この授業でのギリシア神話の翻訳は、私にとって、翻訳する力とともにギリシア神話
の背景についても学べたと思っています。
F:最初、ヘラの翻訳をするのはとても難しいと思ったが、やっているうちにはまってい
ったからです。なぜなら、ギリシア神話に私は魅せられたからです。ヘラがセメルに行う
服襲撃はなんとも恐ろしく、身を奮い立たせるものでした。しかし、ヘラが結婚、多産の
女神であると分かり、共感がもてました。ゼウスはとても罪な神だと思いました。また、
語句ひとつひとつを上手く訳すのにはとても苦労しました。Heven を天空と訳すのには、
分かりそうで分かりませんでした。1つの語に的確な意味を当てはめるのはとてもむずか
しかたったです。まだまだ、先生のように自然な翻訳をするのには程遠いけれど、これか
らいろいろな神話に出会い、上手く翻訳できるようになれたらな、と思います。この授業
では、私の専攻科目である、英語についても、また私にとって新鮮であるギリシア神話に
触れられて、とても充実したと思います。ゼウスとヘラの子供たちの神話も調べてみたい
と思いました。1年間ありがとうございました。
(注:服襲撃は復讐劇)
G:この Unit 5 HERA で呼んだ神話に出てくるヘラ、ゼウス、ヘルメスなどは、一度は耳
にしたことがある名前でしたが、彼らの具体的な神話、何をどうしたどんなものの象徴な
のかはまったくと言っていいほど知らなかったので、この授業で読み深められて、とても
有意義なものと感じました。英語の原文を和訳という作業も、大学に入学し英語から離れ、
ドイツ語に親しんだこのごろではとても久しく、戸惑うこともありましたが、何かを学ぶ
ために一番効率がよいことはその手で調べることだと改めて思い返しました。まるで英語
の授業のようにひとつひとつの単語から熱心な説明をされていたので、とてもためになる
講義だったと思います。私は代表的なナルキッソスなどギリシャ神話を少し耳にしたこと
があるのみですが、そんな私でもギリシャ神話を読み深めることが出来ました。ひとつの
お話に時間をかけて読んだことによって、意味やまつわる話なども理解したように思いま
す。ありがとうございました。
(後略)
92
大浦誠士
国際教養演習に関する教員の自己点検
大浦
1)
誠士
どのようなことを中心に教えてきたか。
具体的な内容としては、
『万葉集』の歌の中から2首の歌を選び、注釈書類を参考としながら解釈
を深め、400字程度の解説文を作成して発表するという形式をとっている。初めの3時間ほどを
利用して、索引の引き方、注釈書の種類と特徴、辞書の使い方などを講義し、資料作成の方法を指
導する。資料には、①歌番号
考文献
②漢字本文 ③読み下し文
④語釈 ⑤現代語訳
⑥解説文
⑦参
の要素を必ず載せることとし、少なくとも5冊の注釈書を比較検討するように指導してい
る。その後学生の発表に入り、国際言語コミュニケーション学科の学生1名、表現文化学科の学生
1名の計2名が1時間の発表を担当する形をとっている。
国際教養演習は、大学での学習・研究への導入としての性格を持っているため、上記のような内
容によって、以下のような事柄を指導している。
1.
文献資料の相対化
高校までの学習とは異なり、活字となって出版されているものであっても、それが絶対的
に正しいわけではないことを認識し、書かれてあることの正否は自分で考えなければならな
いということ。
2.
インターネット情報の不正確さ
インターネットは非常に便利ではあるが、そこに氾濫している情報は、多くの場合、専門
的な研究のレベルでは信じるに足らぬものであること。
3.
根拠ある独自の考えの形成
何かに書いてあったからではなく、自分の頭で考えた解釈を導き出すことが重要であると
同時に、それは確かな根拠に基づいて導き出されたものでなければならないこと。
4.
発表の方法と資料の作り方
人が見てわかりやすい資料を作成し、人が聞いて分かる発表をすることを心がけることの
大切さ。また、文献を引用する際のマナーなど。
その他、大学での学習・研究において必要な姿勢や心構えをできるだけ伝えるようにしている。
2)
どのような点を工夫して教えてきたか。
発表後の質疑応答では、専門的な内容に偏らないように注意し、万葉集を素材とはしているが、
上記のような大学での学習・研究にとって必要なことを伝えようとしているのだということを強調
するように心がけている。
3)
この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
学生の興味・関心によるクラス分けではないために、必ずしも関心のある学生ばかりではないの
で、なるべく学生が関心を持つ内容とすることが必要で、その点に最も難しさがあるが、回を追う
に従って学生たちの発表資料や発表内容が充実してゆく様子を見ることは、最大の喜びである。
93
小川雅魚
「国際教養演習」
小川
雅魚
1)日本語での表現
選択式の解答方式が蔓延しているせいか、あるいは IT 機器に慣れ親しんで読書や作文が
おろそかになっているのか、入学者の文章読解力や作文能力がこのところ著しく低下して
いるように思われる。読むにしろ、書くにしろ、とにかく文章に親しませるようにしてい
る。
まず、授業のはじめに自己紹介の文章を書かせて、一人ずつ前に出て書いたものを朗読
させている。とおり一編の事実らしきものを伝えるにとどまらず、相手にどう生き生きと
印象的に訴えることができるか。伝達と表現の違いについて、先達の様々な文章を紹介し
つつ考察し、趣味や好物など、身の回りのことを自分の言葉で伝えられるよう、数回のレ
ポートを課している。
2)言語表現は一種のパフォーマンスである。
身体を動かすことがスポーツとしてある種の快感であるように、言葉を発することも快感
になりうること(まさに言語芸術の基礎である)
。
言語の基本はリズムにあるといえるので、詩の朗読を時々させている。また、自作の文章
を前に出て他の学生の前で朗読させている。
3)運動能力に人それぞれ大きな差があるように、言語運用にも持って生まれた能力の違
いがある。腕立て伏せのできない子とバク中もお茶の子サイサイの子とを一緒に教える困
難。体育の教師とおなじもどかしさがある。しかも近年は、驚くほど訓練の出来ていない
新入生がいて魂消ることがしばしばある。
しかしお察しのとおり、腕立てのできない子がやがて逆上がりができるようになって、
まあ読めるレポートを提出してくれたりするのはちょっとした快感ですね。至極稀なるこ
とではあるが、1)で述べたように文章を書かせそれを辛抱強く添削していくと、これま
でいわば白紙状態であるゆえに、長足の進歩を見せることがある。編入生(教養演習の例
ではないが)で初年度は「てにおは」も怪しかった学生が、論文の添削を繰り返すうちに
みるみる表現力を獲得し、卒業後雑誌記者になって活躍している。はじめて活字になった
のを持ってきて見せてくれたときは、これが教師冥利と思いました。
94
岡田宏子
「国際教養演習」に関する自己点検について
岡田
1)
宏子
どのようなことを中心に教えてきたか。
最初の三つの教材は失敗例である。1番目、当時流行の『ハリー・ポッター』のシリーズ
から第二巻。英文学の領域しか教えることはできないと思い、英語の教材使用こだわりが
捨てきれず、
『ハリー・ポッター』の英国版の原作と映画を併用し、読んだ結果を映像で確
認する方法をとった。しかし児童文学は、日常用語や日常のイギリスの習慣が頻繁に出て
きて、受験英語的な英語教育を受けたばかりの1年生には英語が難解で、残念ながら中止。
次には、クラスが言語、表現の両学科の学生であることを考慮し、日本文学から女性作家
の短編を少し、英文学から英文学科時代に人気のあったイギリス現代女性詩人の詩集の抜
粋を教材として、母の表象の二つの国の文学におけるあり方を比較検討したが、英詩への
拒否反応は強く、これも中止。このクラスからイギリス文学ゼミを志望する人が出たのは、
思いもかけなかった。最後は、最近まで130年間の日本の家の間取りが如何に変遷した
かを跡付けて、日本の近代史を読み解いた文庫本をテキストに、女性史も射程に入れて論
じたが、これも不評。英文学における空間表象研究の日本版を目指したが、授業は敢え無
く失敗。
当たり前ながら、この2年余り、関心を少しでも学生達に持ってもらえたのが、
『概説 イ
ギリス文化史』というミネルヴァ書房からのテキストである。教える期間が半期であるた
め、一冊全部を網羅できず、英国文化の典型的なテーマを扱う数章に限って、クラスで読
むことにした。明治維新以来、日本の文化は様々な面で英国の影響を受けている。清教徒
革命と明治維新を比較するまでは無理としても、日本に入っているイギリス的なものにつ
いて、少なからず歪曲されたイメージもあるし、そのオリジナルを知らずに、不思議な誤
解をしている面もある。そこで、①英国の国家自体の成立、②ジェントルマンという或る
イメージにまつわる私達の誤解を正す英国の教育制度とその歴史的変遷、③マンションと
いう日本で流布する言葉が英国に行くと一体何を指すのか、驚くほどの意味の落差に注目
するために、英国独特の建築の特徴と階級制度、④マザーグースや『不思議の国のアリス』
にまつわる子供のイメージが英国では歴史的に一体どんな変遷をとげているのか、⑤第三
波のファミニズムなどと言われる時代、最初のフェミニズ運動が英国でどのようにして起
きたのか、女性のどんな歴史的立場があのような運動になったのか、⑥現代の産業社会の
元となった、産業革命とはどんなものであったのか、⑦イギリス帝国における帝国主義と
はどんなものであったか等に関する章を取り上げている。
2)
どのような工夫をして教えてきたか。
日本ではアメリカがポピュラーな外国であり、ヨーロッパ諸国は余り馴染みがないのが実
情である。政治的な関係からも無理からぬ現実であるので、テキストに入いる前に、イギ
リスについて具体的なイメージを持つために、日系イギリス人作家として活躍するカズ
95
岡田宏子
オ・イシグロのブッカー賞作品、
『日の名残り』の有名な映画作を鑑賞した。最初の2時間
を使って、場面の解説をしながら映画を見た後、典型的な英国の階級社会、カントリー・
ハウスの建築、庭園、その生活様式、身分制社会などについて、感想文などを書いてもら
った。それを読むと、
「百聞は一見に如かず」という諺はまさにその通りで、映画は見知ら
ぬ国、イギリスの文化への興味の導入として成功であったようだ。
学生の関心のある章ごとに担当を決めて、ハンドアウトを作成し、グループ発表を中心に
して授業を進めた。発表の後に、教員がハンドアウトの誤りを訂正し、重要な点をまとめ
て解説し、現代や日本の事情と比較した。テキストのまとめすらできないグループ、テキ
スト以上の調べものをしてハンドアウトに付け加えるグループなど様々なでき具合の資料
である。驚くことには、この2年余り、自分の作成したハンドアウトの漢字の読みができ
ない人たちが複数同じクラスに存在する事実であった。ハンドアウトの読みが、突然止ま
るので、何事かと待っていると、漢字が読めないことが判明する。大学生とは何かと問う
瞬間である。しかし、友達の作ったハンドアウトの友達による発表。
」聞くのが友達では?」
という教員のコメントには、全員が発表の話しを聞く流れに自然になっていく。クラスで
私語がない。
3)
この演習をおしえることの難しさと楽しさは何か。
このテキストは、最初はとっつき難い様子であるが、慣れるにつれて自分達の予測とは
違ったイギリスの文化的事実に驚き、面白そうだと思う受講生が増えてくる。その人たち
が、2年生になるとイギリス文学関係の授業に顔を見せて、最後はゼミにやってくると言
うつながりが、大変細くても確実に一、二本でもあることは、心強い。その人達の成長は、
目覚しいものがあるからである。
(2009年度のゼミ生は、11名のうち半分近くが国際
教養演習のクラスの元受講生であり、この演習と専門科目のつながりが見えてくる。
)
専門科目、イギリス文学においては、専門とする17世紀のテキストを使用できないた
め、無理をしつつ現代文学を読んでいるので、実際に17世紀のイギリスについて語るの
は、矛盾するようであるが、教養科目のこの時間である。その点は、教員が教えることを
楽しめるため、それが学生にも伝わるのかもしれない。
難しい点は、現在の学生達には、学術的な或る程度の入門書ですら読みこなす忍耐が少
ないことである。視覚的なメディアの情報は操作が得意でも、文字情報、書かれた文字で
ある本を読むことに抵抗を感じる人が多い。高校時代に世界史を学んでいない学生達にと
っては、不可解な歴史的用語が在るに違いなく、見当ちがいなまとめをする場合もある。
2008年の4月は、海外出張のため、休校にする時間の無駄を惜しんで、資料を前以
て作り、映画の上映を4年生のゼミ生に頼んで『日の名残り』を鑑賞した折、感想文の結
果は、解説つきで時々DVD をとめながら上映した時のそれと比較すると、内容に具体性が
乏しく、理解の程度が芳しくなかった。映画とは言え、資料を渡しても唯見ているだけで
は受け止め方にこのような差が出ることを、図らずも知ることとなった。
96
小澤英二
「国際教養演習」の自己点検
小澤
1)
英二
授業のテーマ
「ダイエット」についての科学的な理解
2)
授業内容
人間にとってもっとも身近な関心事のひとつに「身体」の問題がある。
「身体」なくして
自分の存在がありえないにもかかわらず、そのメカニズムや組成について意外に多くのこ
とを知らないのが現状である。この授業では「身体」における「太る」基本的なメカニズ
ムを学習したうえで、次に「痩せる」ためにはどのようにすればよいかを具体的に考えて
いけるようにしていく。
具体的には次のような内容で前半の週は講義を行い、受講生に共通の理解を得させる。
1.「太る」ことのメカニズム
2.脂肪について
3.脂肪細胞について
4.肥満の判定法について
5.「痩せる」とは
6.減量法の基礎知識
7.減量法の具体例
講義に引き続いて受講生に具体的なダイエット法について個々に調べさせ、報告を行っ
てもらう。
3)
授業のねらい
「身体」にまつわる「健康」や「疾病」、「食事」、
「運動」といった問題は主に自然科学
の領域で扱われている。国際コミュニケーション学部は、その学術領域としてはクロスオ
ーバーな複合的領域を扱うところではあるが、社会科学や人文科学が中心となり、少なく
とも自然科学についてはその対象や方法としてはいない。しかし、理論的な「科学的」思
考を行う場合には、自然科学的なものの見方や考え方を提示することによって、非常に単
純に捉えることができる。すなわちすべての現象を数式上の計算に置き換えて説明するよ
うに、また条件が限定され環境が整えられた試験管の中での実験のような状況での現象で
あることによって説明が可能になるようなものの見方や考え方は、より条件の限定が困難
な社会や人間の心性を扱う領域でも十分に応用することができる。
本授業では、若い女性が比較的関心を持っている「ダイエット」を例にとって、それを
実施することによって身体にいったいどのような変化が起きるのかを考えさせる。巷のダ
イエット法の説明には、商品として売られているものを中心として様々なごまかしがある
97
小澤英二
ため、単純な科学的物差しをあてると、その説明の矛盾点が浮かび上がってくる。もしダ
イエットによって実際に体重の変化があったとすると、そこで減少したものは狙い通りの
脂肪であるのか、もしくはそうでなければそれはいったい何なのかを説明できるようにす
る。それによって、現在巷にあふれている「ダイエット」の情報を「科学的」に理解し、
「自
立」して捉える力を養うことをねらいとしている。
4)
授業の工夫
これまで自ら思考して物を捉え分析し、その現象が起こることのメカニズムをみきわめ
る作業などしたことのない1年生は、具体的なダイエット法を調べて発表を課しても、単
にそのダイエット法を書かれているままに紹介するだけに終わってしまう。そうではなく
「このダイエット法ってどうなんだろうか?」という疑問を持って分析したうえで、説明
されているような内容に説明不足な点や矛盾点、ごまかしはないかなどの検証を行うよう
に指導する。しかし、そのような発表がうまくできる学生と、できない学生があらわれる。
できていない学生に対しては、質疑応答でそのような部分をできるだけ引き出す作業をし
ていく。
また発表も一人でやるのではなく、二人ないし三人で共同して行っている。時間の関係
もあるが、プレゼンに慣れていない1年生にプレッシャーをあまり与えないことと、共同
で調べていく過程で共同発表者とある程度議論していくことで、様々な疑問点を発見して
もらいたいためである。
また最後に、試験に代えて、個々が発表したダイエット法について、前半の講義で共通
して認識させていた脂肪の減少が起こる「負のエネルギーの収支決算」の観点から説明す
る課題を出し、自分の言葉で書くことをさせる。
5)
この演習を指導して
テーマが比較的関心を持ってもらえるものであるだけに、受講生の反応はいいように感
じられる。今年前期に行った授業評価をみても、この授業の満足については、ネガティブ
な回答は0になっている。おおむねこちらのメッセージは理解され受け取られているので
はないかと自負している。
また今年の後期は2年生以上の再履修者の受講が多く、1年生の半分の数にいたってい
た。1年生用の授業であるために、2年生以上の学生がいることで上記のような授業を行
うことにこちらとしても最初は不安があったが、上級生はプレゼンではお手本となるよう
なこちらが期待するような良く分析された内容のものを行い、1年生にも良い刺激となっ
たように思う。学年をまたいだこのような授業も良いものだなと感じた。
私としてはこの授業は全く苦にするようなものはなく、今後とも継続して担当していけ
ればとも思うが、残念ながら今年をもって最後となる。
98
影山穂波
「国際教養演習」
影山
穂波
1)どのようなことを中心に教えてきたか。
教科書:上野千鶴子編『女の子に贈るなりたい自分になれる本』
この教科書は、中学~大学 1、2 年生という 10 歳代の女性を対象に書かれたもので、ワ
ークシート形式のものである。この教科書の内容を中心に演習を進めている。
授業では、各自が記入したワークシートを元に 4~6 人ずつの小グループにわけ、ディス
カッションをする。その後、それぞれのグループでまとまった内容を発表するという形式
を基本としている。
教科書の内容は、自分の将来設計、自分史、自分の価値観、労働について、自立するこ
とについて、希望を実現するために、人間関係の形成、といったものである。ワークシー
トそのものは、中学生でもできるようにしているので、内容を検討した上で、それぞれが
関心を持ったことについて意識を深めるように指導している。
教科書に加え、日本の女性解放にかかわるビデオと、世界食糧危機に関する映像を見た。
日常生活と照らし合わせた上で、感想を書かせ、内容に関するディスカッションを行い、
相互に理解できるよう進めていった。
また、教科書の内容のひとつである女性が働く環境にかかわる法的現状に関してグルー
プごとに調べて発表した。
以上、この授業では、
① 身近な問題が研究の対象として存在していること、
② 自分が当然だと思っていること、たとえば男性と女性の役割分業などが実は作られた観
念であり、当然のこととは限らないことを理解すること、
③ 文献の探し方、調査の仕方、レジュメの作り方などを指導すること、
④ 自分の意見をはっきりと述べること、
この 4 点に特に重点を置いて教えてきた。
2)どのような点を工夫して教えてきたか。
国際教養演習の人数は、20~30 人とゼミ形式としては非常に多い。そこで、受講者全員
が自分の意見を言い合うことのできる状況を作り出すことに授業のポイントをおいた。そ
の工夫のひとつがグループワークを中心に進めることである。
グループは、基本的に毎週メンバーを入れ替え、まとめ役を設定した。メンバーは無作
為に教員のほうで分け、好きな学生同士が固まることは避けた。実際に授業を進める中で
は、グループごとに進行状況が異なり、話し合いが早く進んだグループが雑談をしてしま
99
影山穂波
ったり、遅いグループではまとまらずに終わったりといった問題点は生じてしまった。し
かし、全員が必ず発言する場を持つことで、
「人と同じ」ではなく自分の意見を持つ習慣を
身につけさせるように工夫した。
3)この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
すでに述べたように、国際教養演習の人数がゼミとしては多すぎるため、全体を把握す
ることが難しい。また学籍番号で割り振られるため、まったく興味関心を示さない学生も
少なからず存在している。
一方で、女性の問題をテーマとして取り上げたことで、学生は身近な問題ととらえるこ
とができたようである。女性問題とは何であるか、それが自分の経験とどのようにかかわ
っているのかについて、お互いに話し合いをさせると、学生がどんどんと意見を述べるよ
うになっていった。日常生活や自分の将来と密接にかかわる問題であり、それが研究とも
結びつくことに気がついた学生が、関心を深めている様子は興味深い。
学生がグループワークを進めている際に、それぞれのグループの話し合いにコメントを
して回っているが、身近な問題であるために、プライベートな問題に立ち入ることになる
場面もあり、注意が必要であると感じている。ただし、率直な意見を直接聞くことのでき
る機会ともなっている。
女性問題をテーマに進めるこの演習を通じて、学生にとっての性別役割分業意識のとら
え方がいかに作られているのかをあらためて実感することができる。柔軟な学生が自分の
生活を社会的な観点から見直すようになっていく例をみると、国際教養演習の意義を感じ
る。本来興味のない問題を自分のものとしてひきつけていくことができる感覚を育てるこ
とができるように心がけていきたいと考える。
100
笠原正秀
「国際教養演習」に関する自己点検
笠原
正秀
ねらいと授業内容
この科目のねらいとして、中学や高校の頃とは異なる‘学びのあり方’や‘大学という
場で求められる学びの姿勢’を知ってもらう、という点に置いている。つまり、この講座
で学んだことが、他の科目でも使えるような、まさに大学生活では必要不可欠な、その基
盤となる内容をとりあげるように心がけている。具体的には、以下に平成 20 年度の授業計
画を掲載したので、ご覧いただきたい。
1. 授業内容・授業計画・評価方法等
・学期末試験の傾向と対策
の説明および確認
・米国版「大学での学び方」
2. 大学での学び方入門
9. 書く技術①
・大学で何を学ぶのか
・レポートの種類
・大学でどう学ぶのか
・レポートの構成
3. 聞く技術
10. 書く技術②
・講義の聞き方
・ノートの取り方
・レポートの書式とマナー
11. 書く技術③
・ノートの作り方
4. 読む技術①
・レポートの書き方:実践編
12. 書く技術④
・本の読み方
・表現を洗練させる方法
5. 読む技術②
・引用のしかた
・詳読のしかた
6. 読む技術③
・文献を使いこなす
13. 学びの道具としての「英語」
・文献の探し方
・英語“で”勉強する
・研究論文の読み方
・英語の論文を読む
7. 図書館利用のしかた
14. 先輩学生もしくは OG を招いての
(図書館ガイダンス)
8. コラム
座談会
15. 学期末レポート提出
上記、授業計画をご覧いただくとわかるように、
‘読む’と‘書く’という点に重点を置き
指導している。これは、
‘大学’あるいは‘大学生’という、ごく限られた‘場’や‘時期’
だけに求められている技能ではなく、社会が大卒者に対し、最低限期待している能力では
ないか、と考えるためである。それがゆえに、「企業が採用時重視するもの」
(週刊ダイヤ
モンド編集部(編)
(2000)
『2002 年版 就職に勝つ!』ダイヤモンド社)として、
‘コミ
101
笠原正秀
ュニケーション能力’というものが必ず上位にあがってきていることがあげられる。この
‘コミュニケーション能力’とは、単に口頭でのものだけでなく、情報収集のために活字
を‘読み’、得た情報を処理し文字という目に見える形で‘書く’(企画書や報告書等)と
いった部分も含めてのものと理解している。特に、本学部のような性質の学部の場合、企
業からの期待はより大きいのではないかと思う。
大学生となり、どのようなものを、どのように読み知識を広げていくか、そして、どの
ような日本語を使い、どう自分の考えをまとめ、活字という形あるものにしていくか、を
テキスト(『よくわかる学びの技法』田中共子編著ミネルヴァ書房)に沿い、各自に担当箇
所を持たせ、プレゼンテーションさせる形で授業を進めている。
平成 19 年度後期授業アンケート結果と学生の声
この科目への「授業満足度」は、27.8%が「その通りである」、72.2%が「どちらかと言
えばその通りである」と回答しており、トータル 100%となっている。この結果は、1 年生
向けの大学入門ゼミの内容として、私が授業で取り扱ってきたことが、概ね、受講した学
生には受け入れてもらえた、ということではないだろうか。
また、以下に、自由記述用紙に書かれていたコメントのいくつかを抜粋し載せているが、
これらのコメントを読むと、彼女たちが大学に入り、学びの面で何に戸惑いを感じている
のか、より明確に見えるのではなかと思う。
・大学生活を見直す、いいきっかけになりました。
・レポート等、大学に入ったものの、どう書いたらいいのかもわからず戸惑っていまし
たが、今回、この授業を受けて、レポートの書き方も少しわかったような気がします。
・勉強に対する意欲がわきました。本当に良かったと思います。
・レポートの書き方は、本当に教えてほしいかったことだったので助かりました。
・先生の全身を使っての授業。熱意が伝わりました。
・とてもわかり易く、興味のわく授業でした。なかでもレポートの書き方はためになり
ました。
私も、改組 1 年目の時は、自分の専門分野の入門書的な啓蒙書をテキストとして使い、
そういった内容の授業もやってみたが、この科目のコンセプトが、
‘大学入門講座’である
ことを考えると、‘読む’
‘書く’といった、どの授業でも求められる技能を教えるべきで
あろうと思うし、また、社会に出てからも使える技能として、
‘読み’
‘書き’は 1 年生の
時にしっかりと身に付けさせておくべきではないかと考える。
‘コミュニケーション’と名
の付く学部出身者が、‘読む’‘書く’といったコミュニケーション技術に劣っていたので
は、恥ずかしいことこの上ないと考えるが、いかがであろうか。
102
加藤益幹
「国際教養演習」に関する自己点検
加藤
益幹
(1)どのようなことを中心に教えてきたか
両学科の1年生を対象とする入門的な演習であるので、あまり専門的にならずいろいろ
な角度から自由に議論できるように考えて、映画を鑑賞しながらその背後にある歴史や社
会を大きくとらえるテーマを与え、討論したりまとめさせるようにした。
国際教養演習Aでは、アメリカ映画「シェーン」と日本映画「七人の侍」を素材として、
日米の一国史の中で、それまでの自力救済による私的解決の社会から、国家統一が進み法・
秩序に基づく公的解決の社会へと、時代の変化をテーマに検討した。ともに流浪するガン
マン・侍が、法・秩序の行き届かない時代に暴力にさらされた農民の村を守る物語である
が、アメリカ史においては西部のフロンティア社会が消滅する 19 世紀末、日本史において
は戦国~織豊期に全国統一が実現される 16 世紀末の社会変化を時代背景にしている。こう
した時代背景を説明しながら映画を鑑賞し、どうして対立が起こったか、なぜ武器(自力)
で戦わねば解決できなかったのか、平和が実現したのちガンマンや侍はなぜ村を去らねば
ならなかったのか、などについて討論させた。また日米両国の国家の歴史を踏まえ、戦争(武
器)や平和に対する国民性の違いについても考えさせた。
国際教養演習Bでは、小津安二郎の①「生まれてはみたけれど」・②「晩春」・③「東京
物語」の三作品を素材として、家族(親子)の絆をテーマに検討した。①は大人の社会を自覚
し始めた小学生の男の子と父親、②は娘を嫁がせる父子家庭の父と娘、③は独立した子た
ちを訪ねる老親と母親の死を描いている。三作品を鑑賞し、各世代の親子が迎える自立・
結婚・死別など人生の転機を通して、家族の絆の在り方について討論させた。戦前から戦
後にかけての旧い映画であるが、都会の核家族の問題として、現代の家族の置かれた状況
と共通する点も多く、当時と現在の家族に共通する点や異なる点についても考えさせた。
また柳美里『家族の標本』や新聞の家庭欄から、各テーマに関わるエッセイを選んで読ま
せ、現代の家族を題材にしたエッセイ「家族の現風景」を書かせ合評会を行った。
(2)どのような点を工夫して教えてきたか
高校までの試験のように知識や正解を求めるのではなく、いろいろな見方や考え方がで
きることや、自分の考えや見解を他人に分かるように論理的に説明したり、文章化する能
力を養うことを目標とした。そのため映画を 2~3 回に分けて見せて、重要な部分の台詞は
シナリオから抜き出して示し、いくつかの論点について各自の考えをまとめさせた。その
上で 4 グループに分けて討論させたのち、各論点について各グループから 1 人ずつ考えを
発表させた。他の人達の意見を聞いた上で、改めて自分の見解を文章としてまとめさせた。
映画の作品ごとにこの方法を繰り返し、そのつど文章化したものを提出させてきたが、
しっかり書けているものからメモ程度のものまで個人差が大きく、最後に提出させるレポ
103
加藤益幹
ートについても近年文章として不十分なものが増えてきたように感じた。そこで後期の演
習Bでは、作品ごとに 40 字×30 行の 1,000 字程度と規格を統一したレポートを提出させ、
「である体」による文章の統一、段落の区切りから誤字・脱字にいたるまで、レポートの
書き方の基礎を指導するようにした。この方法はかなり効果があったと思われるので、今
後とも続けていきたい。
共通の映画を素材に議論し文章にするのであるから、映画をしっかり見ないことには始
まらない。そこで映画を見る回は休まないように促すが、遅刻や欠席した学生にはビデオ
を貸し出すようにした。1 限目ということもあり鑑賞中に居眠りをしたり、語学の予習をす
る学生もいて、できるだけ注意をしたが、映画の鑑賞中ということもあり徹底できなかっ
た。
(3)この演習を教えることの難しさと楽しさは何か
世界的に評価を得ている映画を素材にしていることから、学生の興味を引くことができ
ると思うが、それでも(2)の最後に記したように全員にしっかり見させることは難しい。ま
た何年も繰り返すうちに、テーマの設定や授業の進め方は確立してきたが、逆に教員側で
説明しすぎたりして、学生の自由な発想を引き出したり、それは何故かと考えさせたり、
掘下げた議論に発展させるのは難しい。また5~6人のグループ討論も、なかなか活発に
はならない。それでも時々興味深い見方が出てきたり、その意見に触発されてお互いに影
響しあっているようなので、グループで自由に議論させたり、個別に意見を発表させたり
する形式は維持していきたい。多少マンネリ化してきたので、もう一度初心に返って学生
の興味を引き出したり、刺激できるように工夫していきたい。
来年度からは前期だけになるので、演習Bの小津作品による家族の絆をテーマにしてみ
たい。家族観は個々の置かれた環境によって多様であり、プライバシーの問題もあって、
なかなか深く議論しあう機会は意外と少ない。共通の作品を鑑賞し同じテーマで議論しあ
うことにより、お互いの家族観もみえてくるし、現代の家族の置かれた状況や自分の家族
の絆を見直すことにもつながる。(2)でも書いたが、特に授業中の文章指導や添削にも力を
入れていきたい。最後に書かせる家族をめぐるエッセイは、例年個性的なものやおもしろ
い作品が多い。大学の授業では他人の論理や見解に学びながらも、自分なりの捉え方や発
想力を養うことが大切であることを、少しでも伝えられたらと思う。
104
杉戸清彬
国際教養演習に関する自己点検
杉戸
清彬
(1) どのようなことを中心に教えてきたか。
高島俊男著『漢字と日本人』をテキストとして、日本語の中での漢字の問題点につい
て授業を進めた。問題点は次のようなものである。
① 日本語の音韻数の少なさに起因する同音異義語の多さ。
② 漢字の受容と、ひらがな、カタカナの誕生。
③ 漢音、呉音、唐音、および四声や韻について。
④ 明治維新に伴う新しい漢語の氾濫と、それとは相反する漢字廃止の動き。
⑤ 第二次世界大戦敗戦時の漢字廃止の動き。
⑥ 当用漢字は漢字の廃止を前提としていたという問題。
⑦ 当用漢字字体と正漢字体の区別。
⑧ 漢字やかなを使う自分なりの基準について。
⑨ 諸言語の中における現代日本語の特質。
⑩ 日本語の将来について。
受講生は、入学以前、国語の教科書に従って漢字を学んで来た。何の疑いもなく素直
に・・・。しかし新字体以前にいわゆる正字体があったことも知らされず、その結果、
多数の学生はそれが読めない。読めなくてもいいのかも知れないが、これまで積み重ね
られて来た日本の伝統はそこで断ち切られる。明治維新において多くの日本人が日本古
典の世界と縁を切ったことと同断であろう。
日本語力の低下が言われるようになって久しい。日本人のアイデンティティがこれま
での蓄積の上に立つものであるとすれば日本語の学習はもっと重視されるべきだと思っ
たので、上記のようなことを教えてきた。
(2) どのような点を工夫して教えてきたか。
工夫に値するようなことはしてこなかったと反省せざるを得ない。その時間に関係し
そうな新聞記事の特集などをプリントして渡したようなこともあったが、「焼け石に水」
の域を出なかっただろう。テキストとした『漢字と日本人』は文春新書の一冊であり、
これを受講者が分担して、その日に割り当てられた部分の要点を報告しながら全員でこ
の一冊を読み切る。これが困難なこととは全く思いもしなかった。ところが受講生のみ
ならず、このテキストを読まれたらしい母親まで父母の会の席で「この本は難しい」と
直接私に言われたのだった。その方は出版にかかわる仕事をしていたという。この時、
私がいかに現在の学生を知らないかということを知り、当惑せざるを得なかった。
105
杉戸清彬
新年度はテキストも、より理解しやすいと思われるものに替え、可能な限り受講生が
興味を持てるような方策を考えたいと思っている。
(3) この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
演習の割り当てが番号順ということもあってか、全く興味を持てない学生が半数以上
はいたことは「難しさ」の要因の一つであろう。しかし、おそらくは授業の進め方に大
方の原因があったと思う。日本語への興味は私にとっては自明のことに属しており、今
でも受講生の多くが基本的には興味の持てる対象だろうと考えている。この点をこそ考
え直すべきだと言われればそうせざるを得ないが、私には少々難しい課題である。
楽しさは私にも受講生にもあまりなかったと思う。数人の受講生は理解してくれてい
たようにも感じられたのが僅かな救いだったと思うが、これにも確証はない。
日本語に関する新しい知識の獲得を「楽しさ」と感じてくれることが願いであり、そ
れを良い空気に包まれた教室で行っていくよう心懸けたいと思う。
106
戸田由紀子
「国際教養演習」に関する自己点検
戸田
4)
由紀子
どのようなことを中心に教えてきたか。
この授業では基本的な発表の仕方やレポートの書き方を学ぶことを中心に指導した。実際
に毎回行われる授業で担当者がテーマを選び、それについて調べ、発表することによって、
資料の集め方、図書館の使い方、レジュメの作成方法、レポートの書き方の基本的なこと
を学ぶ。発表テーマは、日本の外ではどのようなことがおこっているのか、どのようなこ
とが問題となっているのかを中心に選んでもらった。
発表者以外の学生には、発表内容の要約とそれに対するコメントを毎回書いてもらうこ
とによって、さまざまなテーマに対する自分の意見と位置付けを把握してもらえるように
した。
国際教養の最大の目標はゼミ生全員が(感想文ではなく)基本的なレポートの書
き方を理解することにある。これからの大学 4 年間でさまざまなレポートを書くことにな
るが、その際レポートの書き方について知っているのと知らないのでは評価が大幅に変わ
ってくるので、critical thinking の仕方を指導することは非常に重要だと感じる。
5)
どのような点を工夫して教えてきたか。
1 年生は説明だけではどのように発表すればよいのかが分からないので、最初の 2
回の授業は必ず私が発表をします。このとき、レジュメを配布し発表するのですが、実際
の発表原稿にいたるまでの経緯も同時にできるだけこまかく説明します。トピックセンテ
ンスは何か、どうしてこのトピックを選んだのか、ここで考察し、主張したいことは何か、
それをどのような順序で論じていくのか、結論は何か。発表に使った資料や文献はどのよ
うなものがあったか、探すときに苦労した点はどんなものがあったか、自分の考えをまと
めるときに大変だったことはどのようなことだったか、それぞれの段階で生じた問題にど
のように対処したか、など具体的に説明する。発表のレジュメの作り方、参考文献のメン
ションの仕方、絶対してはいけないことの注意(plagiarism など)の説明もする。
一度の説明では把握できないので、学生が発表するたびに、繰り返し説明するよ
うにした。自分の発表も重要だが、他の人の発表を聞くとことも同じくらい重要である。
自分以外の発表を聞き、その発表がよかったか、悪かったか、どのようによかったのか、
悪かったのか、筋が通っていたかどうか、主張するポイントがクリアであったかどうか、
などを客観的に考え、評価することを通して、自分の書くものや発表するものにも役立つ
ことをたくさん学べる。ということで、発表者以外にも、各人の発表に関する critical
107
戸田由紀子
comment を毎回提出させた。
6)
この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
感想文とレポートや論文の違いを理解してもらうことが最も難しい。説明してすぐ
に理解できる学生もいるが、多くの場合自分の選んだテーマに感情移入し、感想発表で終
わってしまうことがあり、どのように指導したら理解してもらえるのかに困ることがある。
また、plagiarism に対してあまりきつく注意しない日本の教育で育ってきた学生
に対して、他人の意見や述べたことをあたかも自分が考えたように cut and paste は絶対し
てはならないとい伝えても、なかなか実践してもらえないので難しい。学生のなかには、
他人の意見と自分の意見の区別ができていない場合もあり、それもやはり critical thinking
の不足によるものであるため、根気強く説明するように心がけている。
国際教養のゼミは毎回とても楽しい。回を増すごとに学生とのキョリも近くなり、
発表も良くなり、コメントや質問も出てくるようになる。発表もユニークなもの(例えば
今回は「笑い」についての興味深い発表があった)があり、それぞれの興味あるテーマに
関する発表を聞くのも楽しい。
108
長澤唯史
国際教養演習に関する自己点検報告
長澤
唯史
2007 年 4 月に本学部に着任してから 2 年間、国際教養演習 A および同 B を担当してき
た。短い経験ではあるがそこから感じたこと得たことなどを、同様の 1 年生ゼミを他学部
で担当した経験と照らし合わせ、反省を行いたい。
1)どのようなことを中心に教えてきたか。
前任の文化情報学部での「フレッシュマンゼミ」では、大学の学習への導入という点が
強調されていたため、内容よりも授業への参加を重視していた。そのためグループワーク
や自由なテーマ設定による発表を主としてきた。それが功を奏したかどうか分からないが、
私が担当した 6 年間、私の「フレゼミ」からは、その後も退学者や卒業延期者、長期欠席
者などが一人も出ていないのが嬉しい限りである。
2007 年度、本学部の「国際教養演習」を担当するにあたり、初年度は学部の性格も考慮
して、(1)英文の講読を行うこと、(2)内容に興味が持てるような物語を題材に選ぶこ
と、この 2 点を意識した。その結果選んだのが The Wonderful Wizard of Oz(オズの魔法
使い)である。この本は全 24 章からなり、その年の受講者もたまたま 24 名だったため、
一人一章ずつを割り当て、内容の要約を発表させることにした。また今後の専門分野の研
究に多少なりとも資するように、2 本の異なる映画版も授業中に紹介し、比較と分析を行う
ようにした。
2 年目の本年度(2008 年度)の授業計画を立てるにあたり、以前の「フレゼミ」形式に
戻すことを試みた。目的は(1)発表や資料準備の指導をより充実させること、
(2)学生
の自由なテーマ選択から、各人の興味関心のある分野を明確にしてもらいたい、というこ
とである。その発表と並行して、『論文の教室』というテキストを用いて、レポートや論文
とはどのように書くべきかを指導することも心掛けた。
2)どのような点を工夫して教えてきたか。
まず、かならず全員参加させることを目的とした。少なくとも半期に 1 回、できれば 2
回は発表が回ってくるようにして、教室の前で発表をすること、かならず資料を用意する
ことを義務付けた。1 年目はテキストの性格上、2 回発表を割り当てるのが難しかったこと
も、2 年目の方向転換の理由の一つである。また 2 回の発表を通じて、学生の名前と顔をよ
り覚えやすくなる、というメリットもある。学生にとって教員に覚えてもらうことは授業
参加への意識を変える大きな要因となり、また教員との心理的距離が近くなることで、満
足度も高くなる。それと合わせ、できるだけ学生を呼んで指名し、意見を引き出すことも
意識した。
次に怠業(欠席、発表の準備不足など)には厳格に対応した。準備を怠った者、自分の
109
長澤唯史
担当当日に理由なく欠席した場合は、全員の前で理由を問いただし、必ず課題を与えて穴
埋めをさせた。こうすることでまじめに参加している学生に不満を抱かせない、あるいは
その態度を維持させることができ、上級学年での授業態度に大きく影響する。また注意す
る場合も、あくまで冷静に行うことで、学生を萎縮させないよう、その後授業に出てきに
くくなるような雰囲気にはしないことも心掛けた。
また学生の発表については、問題点を指摘しながらも、かならず肯定的なコメントをす
ることを心掛けた。全員の前で褒められることで発表に対する心理的抵抗が少しでも弱ま
れば、3 年次以降のゼミでの積極的な参加が期待できるであろう。また発表内容を補足する
コメントもできるだけ付け加えて、一つの話題、テーマをさらに発展させることがどう可
能かの実例も示すようにした。
3)この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
〈難しさ〉
言語、表現の学生が半々であり、それぞれに興味関心があるため、共通に使用できるテ
キストの選定が難しい。初年度の『オズの魔法使い』はまだ学生の関心は高い方だったと
思うが、それでも本を読みなれていない学生、英語に苦手意識を持っている学生には苦痛
だったようだ。そのため、英語の苦手な学生は翻訳を参照してもよい、という指導をした。
また概して、前期よりも後期の方が、授業がやりにくくなる印象を持った。前期の担当
教員との指導方法の違いや、学生が大学に慣れてきて緊張感がなくなることも一因であろ
う。ただしこれは国際教養演習だけの問題ではない。
〈楽しさ〉
まだ大学に入学したてで戸惑いの大きい 1 年生を、いかに授業に引き込めるか、それを
通じて大学の授業が高校とどう違うのかを伝えるのは、こうした初年度ゼミの難しい部分
でもあるが、醍醐味でもある。本学部に入学してくる学生は、最初から積極的に教員に話
しかけるタイプは多くないようだが、それでも徐々に授業の内容や作品などについて、質
問やコメントを授業終了後にしてくる学生がでてくる。こうした学生の声を聞きながら授
業にすぐ反映できるのも、少人数ゼミの利点である。
また順番に発表が回ってくるため、後の方の学生は前の学生の発表やハンドアウトを参
考にして、よりよい発表を行うことができる。最初に発表した学生もそうした後の学生の
より sophisticate された発表を聞いて、その後の授業やゼミの参考にできる。学生の成長
を実感できるのも、発表形式のゼミの楽しさである。
来年度の教養演習(入門)は、2007 年度方式に戻すことにしている。これは 2 年生にな
った複数の元受講生から「楽しかった」という肯定的な意見を聴いたためである。
110
松田良一
国際演習ゼミに関する自己点検
松田
良一
(1) どのようなことを中心に教えてきたか。
一年生で大学に馴れていない面はあるが、文学の楽しさ、奥深さ、人間的な意味
を具体的な文学作品を分析するなかで、実感させる。
具体的には太宰治の小説の分析を通して、文学作品を深く読む基礎力をつけさせ
る。太宰研究は幅広く、精密になりつつあるが、本演習ではそれらの先行研究を踏
まえ、新しい作品研究をめざす。
その結果、太宰治の文学世界だけではなく、他の作家の文体、文学世界について
も研究できる力をつけさせる。そうしたことを通して、学生たちに大学での研究の
面白さを味あわせたい。
世界が注目している日本文化は現代日本文学であり、アニメやマンガであること。
国際性を身につけるためにも、自分のアイデンティーを知るためにも日本文化・現
代文学を学ぶことの重要性を考えさせる。
(2) どのような点を工夫して教えてきたか。
研究の基本は、資料の調査と分析であるから、対象を丹念に調べていくうちに、新
しい事実が見えてくるので、とにかく我慢強く、資料収集と資料分析に努めること
の大事さを教える。そのため、どんな資料があるか、また所蔵場所など資料探索の
方法、文献引用の方法などを教える。
素直に、作品に向き合って作中人物たちの内なる声をきちんと聞くことの大事さを
体感させる。
(3) この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
(難しさ)
演習参加者が自らの選択ではなく、学籍番号で決定しているため、必ずしも
文学志向ではない点。また、中学生・高校時代に小説をあまり読んでいなく、
基本的な読みさえできない点。自分の意見を人前で言うことに馴れていなく、
自分の考えを披露することができない点。
(楽しさ)
最初の頃、発表のために労力を使わねばならない負担の大きさや、人前で意
見を言うことに恥ずかしがったり、躊躇を覚えていたような学生が、次第に
111
松田良一
明るくなっていくこと。
また、発表するためのレジュメ作りという共同作業をするためか、ゼミメン
バーが仲良くなり、ゼミの雰囲気が和やかになっていくのが分かるのもいい。
それ以上に、授業が進むに従って研究発表の内容がよくなっていき、学生の
成長を実感できた時は嬉しかった。
(4)ゼミ生の声(2008年度)
2009年1月14日に実施したアンケートには次のような言葉が記されていた。
○「はじめて大学らしい授業が受けれて良かったと思いました」
○「この授業が終わるたびに、他の授業では味わえない満足感とかに包まれました。
一時間半が短く感じた。このクラスをとれて、良かったし、ラッキーだったと思いま
す」
○「太宰治について深く調べたのは初めてで、初めは太宰という人物がどういう人な
のかよくわからなかったが、自分も調べてみたり、人の発表を聞いたりして太宰に興
味を持った。小説ってこんなに深いんだなと思った」
○「調べること、やることが多くて大変なこともあったけど、それを含めて楽しかっ
たし、勉強になった」
○「最初は大変そうだし、面倒くさいと思っていたけど、いざやってみると楽しくで
きた。良い経験になったと思う。先生の話が面白いし、為になるので、話を聞いてい
る時が一番楽しめた」
○「最初は他の国際教養のクラスと違って大変な内容だと思っていたし、正直いやで
した。でも、終わってみると、達成感があったし、理解力がついたと感じた。今は頑
張って良かったと思う。」
○「私はそんなに本を読んできてないし、どっちかっていうとファンタジー系の小説
ばかり読んできたので、最初はとまどいました。でもやってみて、もちろん大変だっ
たけど、達成感があったし、背景を知ったりして楽しかったです」
○「とにかくきつかったです。レポートがとくに辛かったです。でも、文学の奥深さ
を知るとても良い機会でした。本を読むことがとにかく嫌いだったのですが、この授
業を受けて、文学に興味がもてたことが、私の財産になりました」
○「小説を読むのは勿論のこと、その話をここまで深く考え、発表するのがとても楽
しかったです。相手の話や意見を聞くことで、そういう考えもあるんだと感心させら
れましたし、自分達が著者の気持ちになり、思いをくみとるのことも新鮮でした。発
表までの道のりは大変でしたが、とても充実した教養演習になりました」
112
水島和則
「国際教養演習」の自己点検
水島
和則
1) どのようなことを中心に教えてきたか。
教養演習のテーマは例年変えており、同じテーマを繰り返したことは一度もない。この
数年のテーマをふり返ってみると、
平成 20 年度「国際コミュニケーション」にかかわりのある内容の新書を一冊選び、その
内容を要約、自分の意見を入れて発表する。
平成 19 年度 日本を紹介する英語の本を一章づつ割りあてて、
分担者が担当箇所を読み、
その内容を要約、自分の意見を加えて発表する。
平成 18 年度 3つのグループに分かれ、雑誌の製作、映画の製作を通して「編集」とい
う考え方を理解する。
平成 17 年年度 『アメリカ映画に現れた「日本」イメージの変遷』
(増田幸子著、大阪
大学出版会)を分担して内容要約、発表と討論をおこなう。
もっともうまく運営できたのが本年の平成 20 年度。新書くらいのレベル、分量だと読む
ことにそれほどの抵抗がないうえ、自分の興味ある内容の本を探せるのでうまくいったよ
うだ。平成 19 年度は、英語を学習する意欲のある学生にとっては充実した演習になったと
思うが、英語に苦手意識のある学生を完全に疎外してしまった。あと、積極的に参加した
学生にとっても、この程度のレベルの英語でも毎週読んでくるのはやや負担になるようだ
った。平成 18 年度は、相対的にみて失敗に分類されるだろう。グループワークを主体にし
たが、まず一冊の雑誌・映像作品を製作するという課題が一年後期の教養演習としては高
負担すぎて、成果を出せたのが3つの班のうちのひとつだけだった(粘土アニメ作品)
。グ
ループごとに課題を設定することにより、教養演習が事実上グループ単位に分解してしま
ったのも失敗だった。平成 17 年度は、取り上げた本がいまひとつという内容だったため、
ゼミの議論に発展性をもたせられなかった。
もちろん、上記のようなテーマ設定はひとつの手段にすぎず、この教養演習の目的は資
料の探し方、本の読み方、発表のやり方、レポートの書き方を教えることにあるので、こ
の4つの作業の進め方についての指導が授業内容になっていた。
2) どのような点を工夫して教えてきたか。
初対面の学生同士のため、たとえ学外研修でのスキット準備などを経て多少は打ち解け
たとしても、緊張した雰囲気のなかで発表や議論をおこなうことは学生の負担になる。そ
のため、自己紹介を一冊に綴じた小冊子を配布し、クラスのリラックスした雰囲気作りに
務めている。まずは学生が安心して話せる「居場所」となるようにできるだけの配慮をし
ている。
113
水島和則
また、学生には手本といわぬまでも見本が必要だと思うので、最初の数回は担当者の私
自身が今年度でいえば新書を一冊選び、発表をし、その新書にもとづくレポートの文章を
作成して配布している。この発表を二回繰り返して、学生の参考にしてもらっている。
また、これはおそらく異論のあるところだろうが、私は自分の「専門」を一切、棚上げ
にして演習をおこなっている。何らかの「専門知識」をこちらから学生に教え込むことは
まったくない。学生はほぼ全員、高校と大学の勉強の違いは大学の方が「狭く」
「深い」専
門知識を身につけることだと考えている。それに対して私はこの考え方が一面的で、大学
での勉強は他人から与えられた知識をありがたがって受け取ることではなく、自分自身で
新しい「問い」を立てることだ、という一点を教えることを目的としているからである。
3) この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
上にふれたように国際教養演習は、高校までの勉強と異なる、大学での研究とは何かを
学ぶ入り口になることを目的としてやっているが、とても大きな壁を感じる。6年間担当
したが、率直に言ってこの壁を乗り越えたことはないように思う。最大の「壁」となって
いるのは、やはり高等学校までの教育だろう。自分の頭でものを考え、自分自身で情報を
収集したり取捨選択したりし、論理的な議論を組み立てるという「構え」がまったくでき
あがっていない。高校までは、教科書に載っていないことは試験問題として出題されない
というルールがあるので、情報を自前で探したりその質を判断したり、という訓練自体が
与えられていない。国語は既成の文章を「鑑賞」する場になっており、
「感想文」と呼ばれ
る文章は論理性を要求されていない。
このため、どちらかといえばレクチャー形式になると学生の士気が高まるのに、肝心の
論理性やQ&Aを自前で組み立てるトレーニングになると盛り下がるという、演習の趣旨
と正反対の展開を例年、繰り返してきた。このあたりが最大の難しさであろう。ただ、本
年度の演習で堂々めぐりから一歩前進するヒントを得たように思う。
114
横家純一
「国際教養演習」の自己点検
横家
純一
1) どのようなことを中心に教えてきたか。
前年度は文章を書くことに力を入れたが、今回は、その前段階としての、他人の文章を
読むことに力点をおいた。具体的には、
「中期留学報告書」や生活史の作品を輪読し、その
内容についてみんなの前で口頭報告してもらった。どちらも体験記であることから、読み
やすいはずなのに、表面的な読み方しかできない学生に対しては、さらに深く読むように
指導をした。留学や生活史に興味がない学生に対しては、ひとの体験を記述する意義とい
う、やや抽象的な問題設定を行い、ある程度の理解をえたと思う。
ちなみに、最終テストを下に載せておく。
(A)は体験学習、
(B)は体験記、
(C)は生
活史についてのものである。いずれも、「正解は一つ」という常識から自由になることが、
そのねらいである。
(A)、
(B)
、
(C)のうち2つを選び答えなさい。
(A) Reef knot、コクリ、24本の楊枝、Back to back、フレデリック、君の白
い羽根、
「ドロボー」――これらの作業のうち2つを選び、その教育的効果について
比較考察しなさい。
(B) 「この夏の体験」
、
「中期留学報告書」、
「冬の体験」などを参考にし、自分の
過去を振りかえる文章を書くことの意味を指摘しなさい。
(C) 「至福のとき」を題材にして、他人(ひと)の話をふかく訊くための条件を
指摘しなさい。
2) どのような点を工夫して教えてきたか。
20人のクラスだが、お互いの報告について自由に討論することはできないので、その
代わりに、全員コメントを紙に書き、報告者にフィードバックをするという方法をとった。
これは、クラスメイトのことばの方が、教員のそれよりも時に重いことがあるからであり、
さらにまた、相手にことばを贈ることの重要性を伝えたかったからでもある。
ほぼ毎回、グループまたは個人で体験学習を行った。あるテーマで絵をかいたり、詩を
読んだり、ゲーム的なのりでからだを動かしたりした。テキストの輪読という、やや単調
なゼミの流れを変え、学生同士の相互作用に働きかけをしたかったからである。
3) この演習を教えることの難しさと楽しさは何か。
115
横家純一
難しさの一つは、高校で同級生だったりすると、そのときの遺恨を教室にまで持ち込ん
で、授業とは別の次元で緊張している場合があること。他方、楽しさの一つは、体験学習
的な活動に対して、あまりシラケ感がなく、素朴なのめり込みを見せてくれることである。
授業後のアンケートでは、
「内容が実際の生活と深く関係している」とか「普段はそんな
に深く考えて読まないので、勉強になりました」というプラスの評価がある反面、
「先生の
質問は漠然としすぎていて何をしたらいいか分からない時も」というマイナスの評価もあ
った。
20人中3人が最終テストに欠席をしたことは、教える側としては、すこし反省すべき
かもしれないが、
「くやしいけど楽しかったです!!」というような反応には、仕掛人とし
ては、やはりニンマリするしかない。
116
第 6 回 国際コミュニケーション学部 FD 報告書―平成 20 年度(2008 年度)―
発行日
平成 21 年(2009 年)3 月 15 日
編著者
発行者
長 澤 唯 史
国際コミュニケーション学部 FD 委員会
連絡先
〒464-8662 名古屋市千種区星が丘元町 17-3
国際コミュニケーション学部 長澤唯史
Tel. 052-781-1186(代)椙山女学園大学
E-mail. [email protected]
印刷所
株式会社ダイテック
〒461-0003 名古屋市中区錦三丁目 22 番 20 号
Tel. 052-971-6618