第42号

vol.42
2009年6月30日
APPROACH
編集責任者:総務部長 大嶋 巖
http://www.jodc.or.jp/approach/
▲バックナンバーが閲覧できます。
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中川 和也専門家(エジプト)
榊 秀樹専門家(タイ)
久保田 繁一専門家(マレーシア)
赤沢 丹専門家(マレーシア)
理事長からのエール
APPROACHは、海外各国で専門家として活
躍されている方々の指導現場での貴重な体験
談を掲載しております。
エジプトでの生活
中川 和也専門家
Mr. Kazuya NAKAGAWA
毎日の食事は自炊で、昼は弁当を作っています。自炊
エジプト・カイロ
経験がないことから、妻に米の炊き方から簡単な料理を
派遣期間: 2008/5~2009/6
教えてもらっていました。
指導内容: 発電所等大型ボイラーの耐圧部製作・組立作業に関
する技術指導
買い物は仕事帰りに大型スーパーへ立ち寄っていまし
た。ここなら生活用品から、食材までほとんど手に入りま
す。しかしどこかの本で読んだ「カイロ名物大渋滞」という
着任して
言葉同様、レジ待ちも30分かかることがしばしばあり、順
エジプトのカイロに赴任して約11ヵ月が経ちました。指
番待ちで口論しているのをよく見かけました。店員は焦る
導という立場での仕事は今回が初めてで、不安だらけで
訳でもなく、マイペースで愛想も悪く、日本では考えられな
着任しました。案の定何処から指導を行えば良いのかと
い光景でした。
悩むありさまで、図面や資料を抱え走り回る毎日でした。
移動手段はドライバー付きのレンタカーでした。ドライバ
また作業者は英語が通じず言葉はアラビア語なので喋れ
ーがいないととても車の運転が出来る状態ではなく、逆
る筈もなく、身振り手振りや絵を書くなどして説明をしてい
走、追い越し等、交通ルールはないといった感じでした。
ました。
車線等関係なく隙間があればどんどん割り込みます。車
指導開始当初は、なかなか受け入れてもらえず、腹が
間を開けて走行しているとクラクションの嵐で、毎日のよう
立ち一人イライラしていました。そこで、こちらの考えや作
にミラーが接触し助手席の私がミラーを元に戻していまし
業方法等を説明し、まず思うように作業させることにしまし
た。また追突もこれまでに4回あり、ケガはありませんでし
た。失敗等を自分達で確認させるようにし、専門家がこう
たが新車がキズだらけになっています。
言っていたなと考えてもらえるよう指導を行うことで、徐々
また、不思議なのが車をぶつけられても、口論を気のす
に専門家として受け入れられるようになりました。また、言
むまでしたらそれで終わり。修理代は?警察は?直さない
っていることを理解しコミュニケーションが取れるようにな
の?と何時も思っていました。
り、今では何かあれば相談してくれる関係になれたと思い
ます。
▲工場での様子(右から2番目が中川専門家)
▲ピラミッドにて
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度の講習と、加えて中級レベル者に対しては実務を通し
て指導を行いました。講習は通訳をつけてもらい、全員が
理解することをモットーに繰り返し指導することで理解度も
上がっていきました。
タイの風習
バンコク市内にはあちこちに小さな祠があり、通り掛か
りの人が手を合わせます。同様に派遣先工場の入り口に
▲アレキサンドリア地中海にて
も祠があり、手を合わせる社員を多く見かけます。驚いた
ことは20代の若い技術スタッフの机に仏像の写真やミニ
ストレス解消
チュアの仏像が置かれていることです。タイ人の仏教に対
エジプトに来て初めてゴルフを始めました。何を言って
する信仰心の深さには感心させられます。
いるかわからないキャディーが私の先生です。思うように
また、着任して間もなく派遣先工場近くのタイレストラン
いかずストレス解消というよりストレスになっているような
でウエルカムパーティーをしてもらったのですが、タイでは
気がしますが、終わった後のビールは最高です!
目上の人がお金を出すのが常識らしく、歓迎を受けた本
また、エジプト日本人会の方に声を掛けて頂き、ソフト
ボールのチームに参加させて頂いています。年2回の大
人が支払うはめになってしまいました。タイの珍慣習には
驚かされました。
会で、私のチームは月1回の練習、大会前は毎週練習を
行って汗を流しています。皆ソフトボールにかける意気込
みが尋常でないくらい熱く、昨年は優勝し、現在2連覇に
向け猛練習中で士気が上がっています。これが私の唯一
のストレス解消となっています。
榊 秀樹専門家
Mr. Hideki SAKAKI
▲講習風景
タイ・バンコク
派遣期間: 2008/9~2008/11 (EPA型による派遣)
指導内容: 穀類調整加工機械の設計・製図に関する技術指導
指導について
私は、海外での技術指導や長期滞在は初めての体験
であり、任期の3ヵ月間でどの程度の指導ができるのか不
安を抱えながら現地に赴きました。派遣目的は、現地技
術スタッフの設計・製図に関する技術指導ということで、赴
任前に指導に使用する資料や専門書を自分なりに準備し
て持参しましたが、ほとんどが日本語版のため、英語に訳
▲初級クラスのスタッフ(中央濃い色のシャツが榊専門家)
したり、バンコク市内の泰日経済技術振興会(TPA)に行
きタイ語の製図の専門書を探したりで日本での準備不足
空港の閉鎖
を痛感させられました。
派遣期間が終わる3日前の11月26日にバンコクのスワ
指導の方法は、タイ人技術スタッフの設計・製図に関す
ンナプーム国際空港が反タクシン派の市民団体に占拠さ
る力量評価を行い、その力量により初級レベルと中級レ
れるという異常事態が発生しました。タイ随一の国際空港
ベルにわけます。次にそれぞれ週2回、60分から90分程
なので政府がすぐにでも鎮圧するだろうと高を括っていま
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したが、帰国前日になっても空港は閉鎖されたままで好転
悔いが残るところではありますが、指導効果は上がった筈
の兆しは見えません。悪いことに派遣先工場は社員旅行
と自負しています。
中で誰もいないし、旅行会社に連絡しても埒が明かず不
派遣先でまず感じたのは、意外に組織的には整ってお
安な時間を過ごしていると、バンコク出張中の同僚からウ
り、日本の会社とあまり変わらないのではと思ったのです
タパオ空港から出る臨時便チケットを一緒に電話予約した
が、徐々に明らかになっていく実態は、やはり日本とは違
との朗報が入りました。翌日、大勢の予約待ちの人がいる
うぞということでした。具体的には、退社率が高い中での
中で、運良くチケットを受け取ることができ、12月1日に全
管理・教育の難しさ、ISO等を取得しているがシステムが
日空の成田行き臨時便で帰国することができました。
旨く機能していない、末端の作業員管理までは徹底され
ウタパオ空港には全日空がチャーターしたバスで向か
ていない、などなどです。そういった中での指導で重要と
いました。テレビニュースで「空港はまるで難民キャンプの
感じたのは、「信頼とコミュニケーションが基本」ではない
よう」とインタビューに答えた人がいましたが、まったくその
かということです。
通りで、あの混乱の中、出国手続きを無事終え定刻に出
指導をしていく中で、信頼は基本であると感じました
発できたのは、現地全日空職員のそつのない誘導による
が、実際1年間かけて信頼がいつ頃から出来てきたのか
ものと感謝しました。
を考えると、大分後半になってからなのかもしれません。
信頼は簡単には出来るものではなく、指導をしていく中
で、結果や効果を現地スタッフ達へ何度も示してやっと手
に入るものだと思います。また、指示したことを確実に実
施してもらうには、二度三度と繰り返し指導していくことが
当たり前だと思いながらやっていくしかありません。
そういった中で、解決が困難であった不良品対策を克
服したときや、顧客サイドがやっと認めてくれたときなど
は、現地スタッフと一緒に喜んだことを思い出します。
また、コミュニケーションについては、私の場合予期して
▲搭乗前のウタパオ空港での様子
いた通り言葉で苦労しました。こちらはカタコトの英語で喋
り、会話の中心にはマレー語がありという状況だったの
で、最初はどうなるのかと思いましたが、身振り手振りを
交えつつ、時には絵を使い、字を紙に書いたりなど、とい
久保田 繁一専門家
Mr. Shigekazu KUBOTA
マレーシア・シャーラム
派遣期間: 2008/1~2008/12
指導内容: 半導体・電子部品のメッキ品質向上に関する技術指導
信頼とコミュニケーションが基本
うことで何とかなるものです。要はどれだけ本気になれる
かということだと思いますが、そこに気付いたのは半年過
ぎた頃だったように思います。
この企業は2009年にISO/TS16949を新たに取得し、更
なる飛躍へ頑張っています。この不況下でも生き残りを掛
け前進しており、今後が楽しみです。
私の赴任先であるマレーシアにおける指導期間は、
2008年1月からの約1年間でした。赴任前2007年末に通い
始めた英会話学校の倒産により、殆ど英会話レベルが上
がらず渡馬したのを懐かしく思い出します。
私の派遣先は、電子・半導体部品の1プロセスである電
気メッキを専業とする会社で、指導内容は、鉛フリー化の
環境的背景から純錫メッキラインの立上げが中心でした。
昨今の世界的な不況の前兆が出始めており、顧客サイド
の動きも鈍ってきたようで、新ラインの評価及び稼動も当
▲5S活動中の社員の様子
初の計画より遅れたものとなってしまい、この点では多尐
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らえないでしょう。焦って、いらいらしても彼らは決してつい
赤沢 丹専門家
Mr. Akashi AKAZAWA
マレーシア・クアラルンプール
派遣期間: 2009/1~2009/6 (EPA型による派遣)
指導内容: 日馬経済連携協定締結に基づく中小型の自動車用プ
レス金型設計・製作技術向上、同技術者育成に関する同国産業標
準化センターに対する技術指導
て来ないのです。
現地スタッフ達
我々から見て彼らの行動が理解できないことは、
1.自由に休みを取り、遅れを気にしない。
2.指図すること、されることを嫌う。
3.待つことは仕事のうち、待ち時間が大好き。
4.自分の仕事以外は無関心。
受入企業の特色
受入企業の金型部門は約20年の歴史があります。しか
し金型の製作会社ではなく、技術研究所として活動してき
ているので、金型は作ったことがありません。現地スタッフ
の技術力はCAD/CAMが出来、NC加工は得意なため、や
…その他。このようなことは彼らにとって決して問題で
はないのです。これが文化の違いだと、だんだん慣れてき
ます。
向上心はあります。大らかで、素直で、真面目な性格は
好きになれます。だがもう尐しガッツをだせ。
さしい金型であれば削って作るまでは出来ます。しかし金
型は削った後の仕上げ調整や、トライアウトの対策が最も
重要な技術なのに、その技術がほぼゼロであるため、型
理事長からのエール
をまとめることまでは出来ないのです。こんな現状です
~専門家の皆様へ~
が、今この企業に求められていることは、「民間メーカーを
指導しマレーシア金型業界のレベルアップを図る」ことで
小林 惇
す。
指導の方法
新型インフルエンザが発生したメキシコに、JODCでは4
現地スタッフ達は教科書を何冊も読んでいます。長期
人の専門家を派遣中です。発生直後に4名に連絡したとこ
間、座学独学はたっぷり経験しています。しかし、これだ
ろ、4名全員が事務繁忙により帰国はしないということでし
けが彼らの金型技術なのです。そうなると指導方法は当
た。緊急事態なので、公費での帰国も可能でしたが、これ
然のことながら、現物での実習指導(型作り)が主となりま
までどなたも帰国はされていません。
す。新車開発の金型を受注して、作りながら教えていくこ
4名の専門家は、業務の都合のほか、インフルエンザの
とにします。リスクは大きいですが方法はこれしかありま
発生地から遠いアメリカとの国境付近に派遣されていたこ
せん。失敗は許されないので適当な難易度の金型を受注
とも、帰国しなかった理由の一つとしてあるのかもしれま
し、金型製作を開始します。納期遅延の不安はあります
せん。
がやるのみです。設計、製造、トライアウトと順を追い、現
物の型作りを通しての技術指導をしていきます。
インフルエンザの専門家の方々が心配しているのは、
冬場にはこの新型インフルエンザが再度流行するだろうと
いうことです。これから派遣されるJODC専門家の皆様
指導の要点
は、冬場に暑いところから寒い日本へ帰国される方が多く
「押し付けない」が最大の急所です。無理矢理やらせる
なりますから、ご帰国される際には対策が必要です。国も
のは絶対禁物です。打ち解けあって和気あいあいと友達
ワクチン製造促進、発熱外来の廃止、全ての医療施設で
のような雰囲気での教え方が大切です。これでは高度な
の対応、自宅療養のすすめなどの戦術転換を図る構えで
レベルの技術指導はかなり無理があります。だが忍耐を
す。
持って、まずは解けこみ指導内容を納得するまで説明し
ます。
「焦らない、気長に」も必要。日本人はどうしてそうせわ
指導中も、デング熱等派遣先の地域特有の病気も有り
ますので、現地で活躍されている諸先輩のアドバイスを聞
くなどして、健康には十分注意をして下さい。
しいの、と平気で言ってきます。多分説明しても理解しても
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