オンラインゲームの使用が使用者に与える心理的影響 Effects of Online

ゲーム学会誌
Vol.1, No.1
論 文
オンラインゲームの使用が使用者に与える心理的影響
平井大祐* 葛西真記子**
*徳島県精神保健福祉センター
**鳴門教育大学
抄録:本研究の目的は,オンラインゲームの使用が使用者に与える影響を明らかにすることである.そのため,インターネット上の
ホームページにおいて,オンラインゲームについて調査を行い,自由記述形式で回答を求めた結果,調査期間中に 451 名からの回答
を得た.KJ法により詳細にカテゴリー分類した結果,特に,ポジティブな影響として「交流」
「気分転換」
「交友関係の増加」
,ネガ
ティブな影響として「睡眠不足」
「身体」
「学業」
「人間関係の悪化」への影響があることが明らかとなった.
キーワード:オンラインゲーム,心理的影響,身体的影響,対人関係,自由記述
Effects of Online Games on their Players
HIRAI, Daisuke* KASAI, Makiko**
* Tokushima Prefectural Mental Health and Welfare Center
** Naruto University of Education
Abstract: The purpose of this study was to clarify the effects of the use of online games on their players. The investigation was
conducted by posting information about the research on the homepage of a website for online game players. Four hundreds and
fifty-one people answered questions asking their thoughts and behaviors that were influenced by the online game. We
categorized the descriptions by using the KJ method. The results revealed that online games had both positive and negative
effects on their players. Examples of positive effects included “interpersonal exchange,” “refreshment,” and “enhanced
interpersonal relationships.” On the other hand, typical negative effects included “lack of sleep,” “health problems,” “school
work problems,” and “deterioration of interpersonal relationships.” Based on this result, the need for further research on this
topic was discussed.
Keywords: online game, psychological effect, physical effect, interpersonal relationship, free description.
1.研究の目的
2つは逆の相関が出たとしている.また,残りの相関が出
近年,テレビゲームは,もはや一家に一台と言われるほ
た4つについても親が回答している,分析に問題があるな
どに普及した.テレビゲームの誕生は 40 年前にさかのぼる
どの疑問点により,坂元は「世間が騒ぐほどの強い影響は
が,今日のようなテレビゲームの浸透は,1983 年の「ファ
ない」と概観を示している.さらに,木村(2003)もまた,
ミリーコンピューター」の発売に始まるものである.これ
テレビゲームを新奇な遊び道具として受け止めたテレビゲ
により,誰でも家庭で簡単にテレビゲームを楽しめるよう
ーム第一世代と,テレビゲームが生まれたときから存在す
になった.それ以来,テレビゲームは,ハード,ソフト共
るテレビゲーム第二世代を分け,第一世代の視点で行われ
に多様化し,より洗練され,社会に浸透し続けている.
てきたこれまでの研究の盲点を突いている.また,ゲーム
これまでに,テレビゲームに関しては悪影響論が世論に
を繰り返し行うことによって,前頭前野の活動が低下し,
おいて定説化,常識化しているところがあった.視力の低
ゲームをしていないときにも機能しなくなってしまうとい
下を招く,社会的不適応を招く,暴力性を高めるといった
う,いわゆる「ゲーム脳」(森,2002)については,調査方
ものがその代表格といえる(坂元,1993).しかし,坂元が
法の不備等が指摘されており,いまだはっきりしない点が
指摘しているように,テレビゲーム悪影響論については,
多い.こういった中で,テレビゲーム遊びを教育,あるい
その実証研究が十分に行われているとは言えない.特に,
は心理臨床などに,有効に利用できるのではないか,とい
社会的不適応については,テレビゲームと社会的不適応の
う期待も持たれている(天野・福島,1998;伊藤,1994;香
相関関係を調べた 10 の研究の内,4つは相関がないとし,
山,1996).
ゲーム学会誌
また,テレビゲーム同様急速な普及率の伸びを見せてい
Vol.1, No.1
慢性的な時間的切迫感,攻撃性と敵意などにより,
るのが,インターネットである.ADSL や光ケーブルとい
不登校・ひきこもりになることは少ないと言える
った技術により,音楽や映像など,大量の情報のやりとり
Type A 行動パターンをもつ者が,オンラインゲー
が可能になり,E-mail をはじめ,様々な面で恩恵を受けて
ムに過度な依存を起こすことで,本来関連性が少な
いる.
いはずの潜在的な不登校・ひきこもりの心性を持つ
しかしその反面,新しい技術は影の部分も持つこともわ
傾向があることも報告した(平井ら,2006)
.さらに,
かってきた.インターネット協会によるインターネット白
武久ら(2005)は学生相談に訪れたオンラインゲ
書(2005)では,インターネット犯罪や悪質な広告メール,
ームがやめられない不登校大学生の心理療法につ
ポルノ画像の問題,コンピューターウィルス等様々な被害
いて事例を報告しており,心理臨床的な視点からも
状況が報告されている.
オンラインゲームの与える影響については注目さ
このような中,ゲーム機自体をインターネット回線と繋
れてきている.
いで遊ぶオンラインゲームが登場した.オンラインゲーム
しかし,国内におけるオンラインゲームが使用者に与え
にはオセロや将棋などを,Chat(リアルタイムの文字会話)
る影響に関する研究報告や実態調査はほとんどなされてい
をしながら楽しむものから,インターネット上のサーバー
ないのが現状である.国内のオンラインゲームユーザーは
に構築された,数十万人のプレイヤーが同時接続する仮想
今後さらに増加すると考えられ,その日常生活に与える影
世界の住人となって,世界中の人と同時に,冒険や生活,
響を整理しておくことが,使用者の心身の健康のみ成らず,
会話を楽しむものまである.コンピュータエンターテイン
オンラインゲーム市場の健全な発展にも寄与すると考えら
メント協会(2006)によると,国内だけでも利用者数は 524
れる.
万人に上るとされている.
国内における実証的な研究結果はいまだ報告されていな
いが,ひきこもりに関する多数の自験例より,牟田(2003)
そこで本研究では,オンラインゲーム使用者におけるオ
ンラインゲームの影響を,使用者自らが,どのように捉え
ているかについて明らかにすることを目的とする.
は,急速にインターネットが普及しつつある中で,オンラ
インゲームがひきこもりの状態を長引かせる最大の要因の
2.研究の対象と方法
一つとして注目されつつあると指摘している.さらに,そ
インターネット上のオンラインゲーム関連ホームページ
の理由として,インターネットを使って世界中の人とゲー
内の掲示板にて,インターネット上のホームページにおけ
ムができる双方向性,毎日更新される内容,終わりのない
る調査を依頼し,調査期間中(2003 年 7 月上旬)に 993 人
ストーリー,サイトによっては無料でゲームができるなど
の回答を得た(有効回答数 932 名)
.有効回答のうち,451
の特徴をあげている.オンラインゲームは,不登校・ひき
人から自由記述への回答があった.
こもりの子どもたちの孤独で寂しく,むなしい心を埋めて
質問項目は,ポジティブ,ネガティブ両サイドからの回
くれる道具として,最高の条件を備えているとし,その依
答ができるよう「ご自分でオンラインゲームが日常生活に
存性も訴えている.さらに,坂元(2003)も,東京大学ゲー
影響を与えていると感じられていることがあればご自由に
ム研究プロジェクトの講演の中で,オンラインゲームにつ
お書き下さい」という自由記述(1項目)とし,得られた
いては,対人コミュニケーション能力が下がるかどうかに
データをもとに分析を行った.
関して,慎重に研究結果を待つべきとしている.
記述の内容として,使用者自身が受けている影響につい
では,オンラインゲームの普及は,私たちの生活にどの
ての記述と,使用者全体が受けている影響についての意見
ような影響を及ぼしているのだろうか.アメリカでは,オ
の記述に分かれた.よって,事実として受け止められる前
ンラインゲームへの依存傾向について,神経症的傾向との
者のみを分析に用いることとした.
相関が見られたとの報告があり(Yee,2002),筆者も抑うつ
傾向との関連でオンラインゲーム依存について着目してい
3.結果と考察
る(平井ら,2006)
.また,競争性や精力的な達成活動,
3.1 結果の処理について
ゲーム学会誌
Vol.1, No.1
自由記述によって得られた回答を,ポジティブな影響と
一致)×100]を算出するという方法をとった.この結果,
ネガティブな影響に分類し,さらにそれぞれについて,KJ
それぞれ 83%,84.5%の高い一致率を得,妥当性が確認さ
法によりカテゴリー分類した.このカテゴリー分類の妥当
れたといえる.尚,一致しなかった回答については,再検
性を確かめるために,筆者と同様に臨床心理学を学ぶ第三
討した結果,筆者のカテゴリーを採用することとした.
者(2名)により検証を行った.検証方法は全回答から 50
3.2 ポジティブな影響について
ポジティブな影響についての 229 回答(複数回答を含む)
回答を無作為抽出し,第三者がその回答に最も適するカテ
ゴリーを選び,筆者との一致率[一致率=一致/(一致+不
について,カテゴリー別に分類した(表1・図1)
.
表1 自由記述に見られたポジティブな影響の分類
カテゴリー
度数(%)
交流
62(27%)
気分転換
44(19%)
交友関係の増加
41(18%)
対人関係の練習
17(7%)
技術・知識
14(6%)
節約
11(5%)
ふれあい
10(4%)
活力源
8(3%)
コミュニケーションツール
7(3%)
きっかけ
7(3%)
やり直し
3(1%)
その他
5(2%)
内容
距離・言語・世代を越えた交流(情報・意見交換・相談)ができる.
社会勉強となり,視野や価値観が広がる.
ストレス発散・気晴らしになる.
なにより楽しいし,いい暇つぶしになる.
ゲーム内・外で友人が増えた.
友人や家族との共通の話題が増えた.
コミュニケーションスキルが向上した.
対人関係のリハビリ・練習・シミュレーションになる.
タイピング技術やパソコンに関する知識を習得することができた.
他国の使用者と遊ぶことで英会話が上達し,語学力がついた.
外出しないので,あまりお金を使わなくてすむようになった.
何本もゲームソフトを買わないので,毎月のゲーム代が節約できる.
人のやさしさに触れることができる.
人のぬくもりや安心感を感じることができる.
少しの時間を見つけてゲームをすることで,日常生活がより楽しいものとなる.
ゲームで珍しいアイテムを拾ったりすると,日常生活においても楽しい気分になる.
コミュニケーションツールの一つとして便利.
遠距離恋愛している相手とオンラインゲームで遊んでいる.
ゲームのために早起きになった.早く宿題を終わらせようと思うようになった.
オンラインゲームの友達と競うことで,料理やお菓子づくりに張り合いが出る.
子どもの頃思い描いていながら果たせなかった職業を楽しめる.
汚点や後悔を白紙に戻して,もう一度人生をやり直せる.
ボケ防止には絶対よいとおもわれる
任意の時間に行える
ゲーム学会誌
Vol.1, No.1
結果より,オンラインゲームから受けるポジティブな影
じたりする「気分転換」の中には,日常生活を楽しいもの
響としては,大きく「交流」(以下の「 」内はカテゴリー
とする「活力源」としての影響も含まれるであろう.また,
名)と「気分転換」に分かれていると考えられる.
「交流」に
オンラインゲームで「気分転換」をしたいために,やるべ
ついては,オンラインゲームが「コミュニケーションツー
きことを早く済ませようとしたり,オンラインゲームを始
ル」としての機能も持ち合わせるために,情報や意見の交
めたことで「技術・知識」を習得し始めたりしているとも
換が行われると言える.
「交流」をすることで,
「交友関係
考えられ,オンラインゲームが何かの「きっかけ」となっ
の増加」や人と人との「ふれあい」が生まれる.また,
「交
ていることも示唆された.
流」は様々な「技術・知識」の習得につながり,中でも「交
他のカテゴリーとの関連性は見出せなかったが,何本も
友関係の増加」は日常生活を楽しいものとする「活力源」
ゲームソフトを購入していた使用者にとってはゲーム代の
となり,人との「ふれあい」は対人関係を苦手とする使用
「節約」になることもポジティブな影響の一つと考えられ
者にとっては「対人関係の練習」となることが考えられる.
る.
一方,
「気分転換」については,現実生活での汚点や後悔
を白紙に戻しオンラインゲームの世界で「やり直し」がで
3.3 ネガティブな影響について
きることが「気分転換」につながっていると考えられる.
ネガティブな影響についての 424 回答(複数回答を含む)
オンラインゲームによって気晴らしをしたり,楽しさを感
について,カテゴリー別に分類した(表2・図2)
.
表2 自由記述に見られたネガティブな影響の分類
カテゴリー
度数(%)
睡眠不足
87(21%)
身体
55(13%)
学業
42(10%)
人間関係の悪化
39(9%)
生活リズム
25(6%)
時間感覚の麻痺
19(4%)
閉じこもり
18(4%)
精神面
18(4%)
仕事
17(4%)
不登校・ひきこもり
16(4%)
後回し
16(4%)
コミュニケーション不安
10(2%)
思考の偏り
10(2%)
現実逃避
9(2%)
食事
7(2%)
趣味の減少
7(2%)
出費
7(2%)
情報不足
5(1%)
内容例
睡眠時間が著しく削られた.慢性的な睡眠不足により,疲労が回復しない.
寝不足で事故を起こした.
眼・肩・腰・脳・尻の疲労.視力の低下.運動不足.体調疲労.肌荒れ.
猫背になる.集中力・記憶力が低下した.
成績低下.学習意欲の低下.学習量の減少.遅刻をすることが多くなった.
定期試験の時にもゲームをしてしまい,悲惨な結果を招いた.
家族・恋人とのコミュニケーションが大幅に減った.周囲と疎遠になった.
人との会話が出来なくなってきている気がする.
時間のめりはりがつかない.ゲームをする時間に合わせて生活するようになった.
日常生活のサイクルが不安定になっている.
やめようと思っていてもついつい長時間やってしまう.楽しくないのに続けてしまう.
思ったよりも長時間してしまって自己嫌悪に陥る.
外出しなくなり,まるでひきこもりのよう.
部屋にひきこもりがちになる.
ストレスがたまる.イライラや怒ることが多くなる.感情の起伏が激しくなる.
意識が混濁する.精神的に消耗する.
仕事への意欲の低下.能率の低下.納期・締切りに間に合わない.
作業をしようとパソコンを開いても,気がつけばオンラインゲームをしている.
半年ほどひきこもって仕事せずにオンラインゲーム漬けになった.
学校にほとんど行かなくなった.オンラインゲームのせいで辞職・留年・退学した.
他のことは放っておいてオンラインゲームだけをやってしまう.
掃除や洗濯,買い物などをかなり後回しにするようになった.
ゲーム内でのコミュニケーションに不安を感じるようになった.
オンラインと現実での人間関係の作り方に違和感を感じる.
ゲームをしていない時にも,ゲームのことばかり考えてしまう.
オンラインゲームに思考を乗っ取られているかのように感じる.
時々現実で嫌な壁に当たってしまうと,ゲームの世界へ逃げ込みたくなる.
人との会話が嫌で,オンラインゲーム(文字表現の世界)に逃げ込んでしまう.
食事も取らずに黙々とオンラインゲームをしているときがある.
家族と食事時間がずれてしまう.食事をする時間が不規則になった.
散歩や読書など,他の趣味ができなくなった.
ピアノをあまり弾かないようになった.
電気代が増えた.
無料だからと思っているが,課金されてからもやり続けるとなると不安になる.
TV・新聞・ラジオを使用しなくなり,世間知らずになった.
音楽の流行がわからなくなった.
ゲーム学会誌
言葉づかい
4(1%)
現実感覚が薄れる
4(1%)
人間関係の束縛
3(1%)
その他
6(1%)
Vol.1, No.1
オンラインゲーム中に使うような言葉を普段の生活で使ったりするようになった.
話し方が普段にも反映されてしまうようになった.
ゲームとわかっていても現実として感じてしまうことがある.
リアルとゲームの境目がわからなくなる.
ゲーム内の人間関係があるためにやめられない.
ゲーム内でリーダーになると,やりたくない時でもやらなければいけない時がある.
色気がなくなってきてる気がする.
ゲームを終了するとその後は退屈で仕方がない.以前はそんなことなかったのに.
ネガティブな影響としては,オンラインゲーム上の「人
ズム」については,
「時間感覚の麻痺」により,オンライン
間関係の束縛」などの要因によって,やるべき物事を「後
ゲームをする時間が生活の中心となることで「生活リズム」
回し」にすることが,
「生活リズム」
「学業」
「仕事」の3つ
が狂うと考えられる.この「生活リズム」の乱れの中には
の主要な影響と関連していると考えられる.まず,
「生活リ
「睡眠不足」や「食事」が不規則になること,外出の機会
ゲーム学会誌
Vol.1, No.1
が減る「閉じこもり」が含まれるため,疲労の蓄積による
オンラインゲームはポジティブにもネガティブにも影響す
体調不良などの「身体」への悪影響が引き起こされると考
ると考えられる.
えられる.次に,
「学業」
「仕事」については,勉強や業務
を「後回し」にしたり,
「睡眠不足」により,能率の低下や
3.5 オンラインゲーム固有の影響
遅刻などを招いたりすることで,
「学業」や「仕事」にネガ
オンラインゲーム固有のネガティブな影響の位置づけに
ティブな影響を与えていると考えられる.さらに「学業」
ついては,コンピュータープログラマーやシステムエンジ
や「仕事」を後回しにしたり,オンラインゲームをするた
ニアといった特定の職業人の病であったテクノ依存症が,
めに外出の機会が減る「閉じこもり」が起こったりする中
インターネット技術の革新と普及により,今や誰の身にも
で,
「現実逃避」をし始め,家族や恋人など現実場面での「人
起りうるものとなり,そしてゲームという娯楽的な要素が
間関係の悪化」を招いていると考えられる.また,
「現実逃
加わることで,さらに一般化し,低年齢化が進んで行く中
避」をすることで,
「現実感覚が薄れる」とも考えられ,そ
で,オンラインゲームへの依存という新しい問題が生まれ
の結果として,ゲーム上での「言葉づかい」を現実場面で
てきたと考えられる(図3).
もしてしまったり,ゲームをしていない時にもゲームのこ
とばかり考えてしまったりするといった「思考の偏り」が
生じると考えられる.さらに,
「現実感覚が薄れ」たり,
「人
テクノ依存症
コンピューター操作への依存
間関係の悪化」が生じることで,イライラしたり,感情の
起伏が激しくなったりするといった「精神面」への悪影響
が起こると考えられる.
これらの中でも,
「身体」への影響,
「人間関係の悪化」
,
「精神面」への悪影響は辞職,留年,退学を含む「不登校・
インターネット依存
ネットワーク(関係性)への依存
オンラインゲーム依存
ゲーム性への依存
集団内での共依存
ひきこもり」の誘因となっていると考えられるのである.
また,
「後回し」に関連するカテゴリーとして,いままで
図3.オンラインゲーム依存の位置
持っていた趣味が,オンラインゲームをすることで,
「後回
し」になる「趣味の減少」も見られた.
また,インターネット依存症者がアプリケーションの中
他のカテゴリーとの関連性は見出せなかったが,文字で
でも Chat とオンラインゲームを非依存者に比べて頻繁に
のコミュニケーションに不安を感じる「コミュニケーショ
用いる(Young,1998)ということは,これらにより大きな依
ン不安」になることや,ゲームに没頭することで世間知ら
存性があるということを示唆している.ではオンラインゲ
ずになるといった「情報不足」
,さらに電気代や課金制ゲー
ーム固有の依存性とは何であろうか.インターネットのホ
ムの支払いによる「出費」もネガティブな影響の一つと考
ームページ閲覧などは,こちらからの操作はできても相互
えられる.
交流はない.Chat はその点,相互交流があるが,それゆえ
相手がいないと成り立たない.しかし,オンラインゲーム
3.4 対人関係への影響
は相互関係のみではなく,ゲームで1人遊びをすることも
結果より,特に対人関係への影響については,ポジティ
できる.つまりサイバースペースとのコミットメントの幅
ブ,ネガティブの両面に影響があることが明らかとなった.
が広く,例えば,人間関係に依存しながら,閉じこもりた
これは,使用者がコミュニケーションツールのひとつとし
いときには1人でゲームに打ち込むといったように,仮想
てオンラインゲームを使用した場合,対人関係の交流を目
世界に居続ける動機が他のどのアプリケーションよりも数
的として積極的に利用され,ポジティブな影響があるが,
多く用意されているということである.
使用者の現実逃避のために用いられた場合,オンラインゲ
さらに,テレビゲーム使用とオンラインゲーム使用の形
ーム外での人間関係を悪化させる可能性があることを示唆
態を比べて見ると,図2のようになる.このように見ると,
していると言える.つまり,使用者の認識や状態によって,
テレビゲームでは同一空間で複数人数が使用することで,
ゲーム学会誌
Vol.1, No.1
ゲームを通して直接的なかかわりを持つことができるため,
者のそばにいる人が関わろうとすることは,ゲーム内での
関係性を深めることができる(天野・福島,1998;伊藤,
関わりを妨害することとなるため,非常に関わり難い.こ
1994;香山,1996;木村,2003).
の状況で直接的な関係をつくることは,家庭で単独使用す
しかし,オンラインゲームでは,1人で画面と向き合う
ることが多い国内のオンラインゲーム使用者に対しては,
こととなり,ゲームを通して関係を作ったとしても,それ
困難になると考えられる.特に先ほど述べた現実逃避のた
はインターネットを通した間接的な関わりでしかない.さ
めにオンラインゲームを使用する使用者に関わろうとする
らに使用者がゲーム内で関わりを持っているために,使用
ことは非常に難しくなる.
テレビゲーム使用による関わり
オンラインゲーム使用による関わり
間接的な関わり
GAME
直接的な関わりへ
直接関わりにくい
図4 テレビゲームによる対人関係とオンラインゲームによる対人関係
オンラインゲームの世界とそれ以外の社会との行き来が
4.まとめ
柔軟にでき,楽しむことができる健康さが損なわれ,オン
本研究から,ポジティブな影響,ネガティブな影響とも
ラインゲームの世界にだけリアリティを感じるようになっ
にオンラインゲームの使用は,使用者に対して多様な影響
てしまった時,家庭や職場,学校といった社会の中での様々
を及ぼしていることが示された.本研究におけるポジティ
なトラブルが生じてくる.オンラインゲームは楽しさや豊
ブな影響はオンラインゲームの魅力である.使用者がオン
かさに加えて,依存という問題も与えうるメディアである
ラインゲームを安心して使用するためには,その魅力と共
という十分な認識が必要なのではないだろうか.
にネガティブな影響を明確にする必要がある.
本研究ではそれぞれの記述を整理し,その関連を考察す
ゲーム学会誌
Vol.1, No.1
るに止まったが,今後の課題として,それぞれの影響につ
依存傾向が引き起こす心理臨床的課題
いてより実証的な研究を進めることにより,ネガティブな
研究,24,4(印刷中).
影響のより少ないオンラインゲームや,ネガティブな影響
伊藤研一 1994 現代的ハードウェアの治療的意義と活用
を予防しオンラインゲームと上手くつきあう方法が見出さ
精神療法,20,13-20.
れていくことが望まれる.
香山リカ 1996 テレビゲームと癒し 岩波書店.
本研究に関連した社会の動きとして,エヌ・シー・ジャ
心理臨床学
木村文香 2003 テレビゲーム使用と子どもの対人関係
パン,ガマニアデジタルエンタテインメント,ガンホー・
ゲーム学会第2回大会講演論文集 39.
オンライン・エンターテイメント,ゲームオン,NHN Japan
森 昭雄 2002 ゲーム脳の恐怖 NHK 出版.
のオンラインゲーム 5 社は 2004 年 4 月 16 日,ユーザーが
牟田武生 2003 “ネット廃人”がひきこもりに 教育新聞.
オンラインゲームを遊ぶ際に留意してもらう「健康ガイド
坂元 章 1993 テレビゲームは子どもの社会的不適応を
ライン」の内容について合意したことを発表している.こ
招くか 季刊・子ども学 福武書店,106-117.
の「健康ガイドライン」は,オンライゲームへの正しい認
坂元 章 2003 テレビゲームと子どもたち:社会心理学
知の啓蒙と,市場の健全な成長の促進を目指すという点で
の立場から 東京大学ゲーム研究プロジェクト第1回公開
評価できる.さらなる内容の検討と多くのゲーム会社への
講座.
普及がなされることを期待したい.
武久美奈子・石元康仁・大森哲郎 2005 不登校大学生の
一症例;インターネット中毒との関連について 第 46 回中
<付記> 本稿は,平成 15 年度鳴門教育大学大学院学校教
国・四国精神神経学会論文集.
育研究科学校教育専攻教育臨床コース臨床心理分野修士論
Yee,N. 2002 ゲーマーの間で蔓延する,“ヘロインゲー
文の一部を加筆修正し,ゲーム学会第2回合同研究会及び
ム”中毒 ZDNet 米国記事.
ゲーム学会第3回大会において口頭発表したものであるこ
Young, K.S. 1998 Internet addiction: The emergence of a
とを併記致します.また,調査にご協力下さった皆様に,
new clinical disorder. Cyber Psychological Behavior, 11,
心より感謝申し上げます.
25-28.
<引用文献>
財団法人インターネット協会 2005 インターネット白書
天野奈緒美・福島章 1998 心理療法におけるテレビゲー
2005 インプレス.
ムの活用可能性に関する試論 上智大学心理学年報,22,
社団法人コンピュータエンターテインメント協会 2006
25-31.
2006CESA 一般生活者調査報告書~日本・韓国ゲームユー
平井大祐・葛西真記子 2006 オンラインゲームへの
ザー&非ユーザー調査~