マーケティング15回目 講義 人的セールスとPR(イベント) Ⅰ 人的セールス 1アメリカにみるセールス(営業)の歴史 NCR(ナショナル金銭登録)のパターソン(近代セールスの父と呼ばれる) NCRとは http://www.ncr.co.jp/library/who/index.html パターソンが 1884 年に米国オハイオ州デイト ン市でナショナル・キャッシュ・レジスター・カンパニーを設立し た。 パターソンは、会社設立をした当初において、セールスが組織化されなくセ ールスパーソンの訓練もされていない現状に対する問題をもつようになる。 そこで以下のようなセールスに関する革新的なことを行った。 ① まず、セールスの教本をつくる。 パターソンはセールス・エージェント(代理店)の訪問を続け、16 ページの 手引書について質問を行い、手引書の学習を拒んだり、手引書を暗記していな いエージェントを厳しく叱責しました。 ② 会社のなかにセールス学校をつくる。 1893 年、パターソンはアメリカで最初のセールス訓練学校を開設しました。校 舎は NCR の工場の近くの小さな建物で、 「ニレの木の下の小屋」と呼ばれ、セ ールス・パーソンに「営業」を教える。これは、当時テイラーの工場などにお ける「科学的管理」の進行と軌を一にしているといえる。 その科学的管理法とは。1878 年頃にフィラデルフィアの ミッドベール・スチ ール社(Midvale Steel Company)に作業者として就職。6 年の間に "Taylor Shop System" と呼ばれる科学的管理法の実践する。 テイラーの主張した科学的管理法の原理の3つ ・課業管理 ・作業の標準化 ・作業管理のために最適な組織形態 ★なかでも重要なのが課業管理の内容である。 つまり、課業の概念がテイラー・システムの中核を成している。その原理は、 課業の設定 諸条件と用具等の標準化 成功報酬 不成功減収 最高難易度の課業 の 5 つ。 「課業の設定」とは、1 日のノルマとなる仕事量の設定である。これは、次節 で解説する作業研究に基づいて設定される。 「諸条件と用具等の標準化」とは、使用する工具や手順などの諸条件を標準化 [3]することで、熟練工も未熟練工も関係無く同条件で働かせるようにすること。 このようにして“唯一最善の作業方法”を確立し、それを労働者全員に習得さ せ作業能率を向上させようとした。次節で解説する「作業研究」とは密接に関 係する。 2 「成功報酬」、「不成功減収」とは、出来高制賃金システムを改良したもので、 ノルマを達成した場合は単位あたりの賃金を割り増しして支払い、未達成の場 合は単位あたりの賃金を割り引く。こうすることで労働意欲を高める。 「最高難易度の課業」とは、課業を優秀な工員の仕事量に基づいて決める、と いうこと。 ③ 1890 年代にパターソンは、「THINK!(考えよ)」という標語を書いたポスタ ーを、全世界の営業所や工場のあらゆる壁に張りました。そして社員の考え や提案を仕事の手順や製品決定に反映させるために工場内の随所に提案箱 を設置し、社員の個性を育成する。 ④ セールスパーソンはテリトリーをもち、その地域での売上に対しては、必ず 報酬が保証されました。また責任額を定めることによって、販売の能率と業 績をはっきりと測る。テリトリー制の確立。 ⑤ セールス・エージェントを支援するため、会社は『アウトプット』という名 の片面刷りのパンフレットを発行し、販売成果とレジスターの利点を紹介し、 ユーザーの感謝状を掲載し、セールス活動を支援した。 ⑥ 『アウトプット』の郵送部数は 1888 年には 135,000 部に達していました。 これはダイレクト・メールの"はしり"といわれている。そしてその後「商店 向け」や「飲食店向け」などに編集された『ハスラー』誌が発刊されました。 『ハスラー』には見込み客用に、「詳しい説明書を送れ」と記入した返信用 はがきを入れてありました。1894 年までには『ハスラー』をはじめとする ダイレクト・メールは 50 万通に達し、NCR の郵便物を扱うだけのために デイトン郵便局は局員を 1 人余計に雇わなければなかったほどです。 2 営業活動の実際と特徴 3 セールスは大きくは3つに分かれる。①販売活動、②サービス活動、③情報 活動 ・ 正確に予想顧客を発見し、アプローチできる。広告は魚をとる「釣り人」と すると、セールスは獲物を自ら得るための「ハンター」に例えられる。 ・ 商品を実際に提示しながら営業ができる。 ・ 顧客と人的信頼関係を結ぶことが出来る。ここから属人的な営業が可能にな る。 ・ 取引契約の締結と完結。 ★ セールスの最大の特徴は、活動の対象が「人間」であるということ。工 場などの労働の対象が「モノ」である。そこに大きな違いがある。 4 購入顧客 顕在顧客 潜在顧客 一般顧客 5 6 3セールスの抱える今日的な課題 ・ 顧客の商品知識などが向上している。したがって、顧客のニーズが多様化し 複雑になっている。 ・ 競争相手や自社の商品ラインが広がり、顧客の選択肢が広がっている。 ・ 製品のライフサイクルが短縮され、次々に新製品が発売される。 以上の問題は、これまでの属人的な営業に大きな変化をもたらしている。 属人的営業VS組織営業 ① 属人的営業とは・・・・個人的な経験や人間関係を軸に営業を行う。つまり、 個々の営業パーソンの資質に頼る営業。 ② 組織営業のメリット ・ 計画や調整が行われるために営業の無駄が省ける。 ・ 営業の仕事がモジュール化(分解)され、営業マンの能力が目に見えるよう になり、向上する。 ・ どのような顧客に対しても一定のレベルの専門的な問題解決サービスを提 供することが出来る。 ・ 顧客に対して、「売り込み」よりもソーリューション(問題解決)を目指し た営業ができる。 (石井淳蔵『営業が変わる』p103) 7 4 これからの営業 営業プロセスマネジメントの重要性 ・ 顧客との関係の維持・構築 関係性のマーケティングの重要性 ・ 問題解決型・提案型営業 ・ 組織でやる営業 ・ 案件の進捗度を客観的にマネジメントする ・ 営業の結果でなく営業のプロセスの評価 ★ 会社が組織的かつ体系的に収集した消費者(顧客)情報や知識の蓄積を もとに、顧客に対してさまざまな提案と問題解決を進める営業。 (石井前掲書p203) PR(広報)Public Relations 5 今日における広告よりPRの重要性 企業の場合、Public Relations は、一般大衆、消費者、従業員やその関係者、 8 販売業者、仕入先の関係業者、株主、債権者、銀行などの金融関係、政府諸機 関、教育機関、その他あらゆるステークホルダーがその活動の対象となりうる。 パブリシティの意義 パブリシティとはスポンサーが媒体に代金を払うことなく、企業や製品を記 事や番組に掲載・放送するように媒体に働きかける活動である。PR活動は様々 な活動からなるコミュニケーション活動であるから、その意味ではパブリシテ ィPR活動の下位概念であり、PR活動の有力な手段であるといえる。 販売競争が激しく広告や人的販売にも予算や効果からみて限度がある以上、 パブリシティを活用することは、マーケティング戦略上、非常に意義のあるこ とである。パブリシティは原則として無料ではあるが、一度とりあげられれば、 パブリシティの性格上、受け手に与える信頼度や注目度、そしてインパクトは 広告以上のものがある。問題は、広告と違って無料であるために媒体にとりあ げられるという保証がないこと、とりあげられたとしてもその日時、場所、内 容、量、頻度などについてスポンサーに裁量権がないことである。 9 『The Fall of Advertising and the Rise of PR』は、成功を収めた PR キャンペ ーンと、それと対置される不成功に終わった広告キャンペーンとの詳細な事例 史を使って、マーケターにとって価値あるアイデアを提供している。と同時に、 なぜ広告はブランド構築の重大な要素である信頼性を欠くのか、どうして PR だけがそうした信頼性を供給することができるのかを証明し、広告業界の人間 が推奨するビッグバン・アプローチを放棄して、ビルドアップ(ゆっくり積み 上げること)を支持すべきであること、広告は、ブランドがパブリシティーに よって確立されてから、ブランドを維持するためにもっぱら用いられるべきで あることも説明している。 10 2PRの使用媒体 広告が使用する媒体は新聞、雑誌、テレビ、ラジオを中心としたその他のマ スメディアであるが、PRはそれらに加えて社内報、会社案内、各種イベント、 従業員、モニターなど、使用可能なあらゆるものが媒体として使われる。 東ハトの例 http://tohato.jp/company/ サッカーの中田が東ハトの役員に就任する。 http://tohato.jp/news/news20030714.html これは、中田を端にCMに起用するよりも、大きな効果を生む。 http://www.1101.com/editor/2004-05-14.html 11 6 狭義の販売促進(SP・・・・セールス・プロモーション) 消費者向けのセールス・プロモーション 消費者向けのセールス・プロモーションは、消費者に特定の小売店へのパト ロネージ(愛顧心)を植えつけたり、特定の製品を購入・使用させたりするこ とを狙ったものである。 【消費者向けのセールス・プロモーションの方法】 【消費者向けのセールス・プロモーションの方法】 ①サンプリング サンプリングとは、試供品や見本を供与することで、一般には新製品を紹介 したり、既存のライバル製品のロイヤルティを弱めたりするために使われる。 サンプリングは特に新製品の販売促進に有効である。それによって消費者が 気に入れば、他のブランドから自社ブランドヘの変更が期待できるし、店内で 12 の試供品の提供は、その店舗の売上げの増加や顧客の動員に効果的である。サ ンプリングの欠点としては、コストがかかること、対象となる製品の種類が限 られること、さらに既存製品ではその効果が期待できないこと、などがあげら れる。 ②プレミアム プレミアムは「景品付販売」と訳され、景品を無料もしくは割引価格で提供 するものである。その目的は、消費者にある特定の製品の購買を促したり、店 舗やショールームヘの来訪を求めたりすることで、実施方法には次のような方 式がある。 プレミアムの種類 実施方法 ・応募プレミアム 指定する商品のラベルなどを指定の場所へ送付することを条 件に景品を提供する方式。 ・商品添付 ある商品を買えば、かならず景品がもらえるように、景品が商品に 添付してある方式。 ・店頭プレミアム 小売店の店頭で製品に景品をつけて渡す方式。 ・クーポン 商品に添付されたクーポン(割引券)を集め、これがまとまれば、 それと引換えに景品を渡す方式。 ③クーポン クーポン(coupon)は「ディール」 (deals)とも呼ばれ、クーポンと呼ばれ る割引券を媒介とした一種の値引きである。クーポンの配布方法には広告への 貼付、ラベルヘの印刷、包装への封入、消費者への郵送、店頭配布といった方 法がある。 ④コンテスト コンテストは「懸賞販売」と訳され、抽選などの方法によって当選者に賞を 与えるものである。これによって消費者に製品や企業に対する関心や好意をも たせることを狙っている。その性質上、消費者の獲得欲や所有欲など人間の心 理を巧みに利用したものが多く、放置すると懸賞にゆきすぎがみられ社会的に も好ましくないので、今日では景表法によってその上限が規制されている。多 数の消費者の参加が得られるように、広告とのタイ・アップなどさまざまな工 13 夫がなされている。 ⑤消費者教育 消費者教育は、消費者に対して製品の特性を伝え、使用方法を教育・啓蒙す ることによって、販売の促進を図ろうとするものである。消費者教育は実演(デ モンストレーション)と講義(セミナー)による方法がある。東京ガスの料理 教育、ヤマハ、カワイの音楽教室などが有名である。 ⑥スタンプやポイント スタンプは、プレミアムの特異な形態である。消費者は買物の金額に応じて、 台紙にスタンプを受けたり、切手の半分ほどの大きさのクーポン券を受け取っ たりして、それを所定の枚数に達するまで集めて、商品や現金と取り換える。 ほとんどの場合、小売店が顧客を集めたり維持したりする目的で使用している。 14
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