Title 米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人による

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米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人による側
貌の審美評価
野村, 真弓; 茂木, 悦子; 山口, 秀晴
John P, Hatch; John D, Rugh
歯科学報, 107(1): 69-75
http://hdl.handle.net/10130/37
Right
Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
6
9
原
著
米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人による
側貌の審美評価
野村真弓1)
茂木悦子1)
John P. Hatch2)
山口秀晴1)
John D. Rugh2)
抄録:顔貌の審美観における人種差や性差を評価す
などがあり,これらは主として鼻,口唇,オトガイ
るために調査した。
など下顔面の均衡を評価するものである1∼5)。側貌
評価資料として Angle Class ⅠおよびⅡである米
の審美観を研究する際には,評価する側(評価者)
と
国白人,日本人,米国アフリカ人患者各々1
0名と
評価される側(被験者)
の両者にある。被験者の資料
し,口唇の位置を Ricketts の E-Line を基準として
として用いられるのは,本人,顔面規格写真,規格
前後に7段階に変化させた側貌シルエットを用い
化した側貌外形線,コンピューターイメージングを
た。評価者は米国白人,米国在住ヒスパニック,日
用いる場合6∼18),あるいは側貌19)や咬合の良否を基
本人,アフリカ人を用いた。評価者には,まず最も
準として選択する場合などがある。評価者はその主
好ましい側貌を選択し,残りの6枚については好む
観的判断の集束性や再現性を考慮する必要があり,
か否かについて回答を求めた。
評価者の構成が側貌の調和を扱う芸術家,歯科,医
その結果,すべての評価者は E-Line より後方位
科関係者などの専門家9,14)や一般人6∼8,10,15,18,19),
あるい
にある口唇位を最も好ましいとし,ヒスパニック評
は専門家と一般人の両者11∼13,16,17)を採用する場合など
価者がアフリカ人より後退位(p<0.
0
1)
を好み,日
がある。評価者の人種間について比較検討している
本人評価者がアフリカ人より後退位を好む(p<
報告6,7,12,18)がいくつかあるが,評価者ならびに被験
0.
0
0
1)
ことが示された。米国白人は他人種との有意
者として多人種にわたる側貌の評価について報告さ
差は認められなかった。評価者の性差は認められな
れた研究はほとんどみられない。今回,評価の簡便
かった。この結果から,側貌の審美観には人種差が
な Ricketts Esthetic Line(以下 E-Line と略す)
を基
あり,居住地,社会的背景が要因として考えられ
準として上下唇を変化させたシルエットを用いて,
た。
評価者の審美観の人種差を知るために本研究を行っ
た。
緒 言
材料および方法
側貌を評価する基準は,Ricketts Esthetic Line,
Steiner Line,Holdaway Line,Merrifield Z angle
被験者は米国白人,日本人ならびにアフリカ系ア
メ リ カ 人 の Angle ClassⅠまたは ClassⅡ患 者 各 々
キーワード:審美評価,プロファイル,人種,軟組織,
E-Line
1)
東京歯科大学歯科矯正学講座
2)
テキサス大学ヘルスサイエンスセンターサンアントニ
オ校歯科矯正学講座
(2
0
0
6年1
1月8日受付)
(2
0
0
6年1
2月2
6日受理)
別刷請求先:〒2
6
1−8
5
0
2 千葉市美浜区真砂1−2−2
東京歯科大学歯科矯正学講座 野村真弓
男女5名で,米国白人,日本人ならびにアフリカ系
アメリカ人各々1
0名(総計3
0名)
とし,評価資料とし
て彼らの初診時側面頭部X線規格写真を用いた。側
貌シルエットはコンピューターソフトウエア
(Adobe Illustrator! software)
を用いて E-Line を基準
とし,上下唇の位置を−8,−6,−4,−2,0,2,
4mm の各7種類に変化させて作成し,米国白人,
― 69 ―
7
0
野村,
他:米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人評価者
表1
評価者の内訳
Age(y)
n
Mean
European Americans
Male
Female
Total
Hispanic Americans
Male
Female
Total
Japanese
Male
Female
Total
Africans
Male
Female
Total
SD
Range
1
5
1
5
3
0
2
7.
7
2
9.
9
2
8.
8
4.
7
2
4.
4
3
4.
6
4
2
1−3
5
2
1−3
5
1
5
1
5
3
0
2
8.
4
3
1.
0
2
9.
7
5.
4
6
4.
1
9
4.
9
6
1
9−3
5
1
9−3
5
1
5
1
5
3
0
1
9.
8
1
9.
5
1
9.
7
1.
0
3
0.
8
5
0.
9
2
1
8−2
2
1
8−2
0
1
6
1
7
3
3
2
5.
4
2
5.
6
2
5.
5
6.
4
4
4.
7
4
5.
5
4
1
8−3
5
1
8−3
4
女性平均年齢1
9.
5歳)
,アフリカ人男性1
6名,女性
1
7名(男性平均年齢2
5.
4歳,女性平均年齢2
5.
6歳)
を
図1
用いた(表1)
。米国白人,ヒスパニック評価者は米
アンケート調査に用いた7種類の変化させ
たプロファイルの一例
国,日本人評価者は日本,アフリカ人評価者はケニ
アにて回答を得た。評価方法はまず最も好ましい側
日本人ならびにアフリカ系アメリカ人各々1
0名に各
貌を選択し,残り6パターンについては好むか否か
7種類のシルエットを作成した(図1)
。評価者は米
についての回答を求めた。統計処理は SPSS ソフト
国白人男女各1
5名(男性平均年齢2
7.
7歳,女性平均
ウエアにて多重比較検定を行った。
年齢2
9.
9歳)
,ヒスパニック(スペイン語系アメリカ
成 績
人)
男女各1
5名(男性平均年齢2
8.
4歳,女性平均年齢
3
1.
0歳)
,日本人男女各1
5名(男性平均年齢1
9.
8歳,
表2
被験者の SNA,SNB,ANB 角を計測した結果を
被験者の人種ならびに性別における SNA,SNB,ANB 計測結果
SNA (Degrees)
Mean
SD
p
European Americans
Male(n=5)
Female(n=5)
Total(n=1
0)
Japanese
Male(n=5)
Female(n=5)
Total(n=1
0)
African Americans
Male(n=5)
Female(n=5)
Total(n=1
0)
8
4.
0
8
4.
8
8
4.
4
3.
5
5
3.
3
0
3.
2
6
8
4.
3
7
9.
4
8
1.
8
2.
7
7
3.
6
6
4.
0
2
8
2.
3
8
6.
9
8
4.
6
2.
0
5
0.
6
5
2.
7
8
SNB (Degrees)
Mean
SD
p
n. s.
n. s.
*
n. s.
*
n. s.
7
8.
3
7
9.
9
7
9.
1
2.
5
7
4.
0
3.
2
9
7
9.
3
7
4.
1
7
6.
7
1.
8
5
1.
9
7
3.
2
6
7
6.
9
8
1.
1
7
9.
0
2.
9
8
1.
4
7
3.
1
3
n. s.
n. s.
**
n. s.
*
n. s.
ANB (Degrees)
Mean
SD
p
5.
8
4.
8
5.
3
1.
3
6
1.
6
2
1.
4
9
n. s.
5.
0
5.
3
5.
2
3.
2
2
2.
8
3
2.
8
6
n. s.
5.
5
5.
8
5.
6
2.
8
3
2.
0
2
2.
3
3
n. s.
n. s.
n. s.
n. s.
The differences among the racial and gender groups were studied by ANOVA.
There were no significant differences among the Total EA, the Total J, and the Total A A patient’
s
groups for each SNA, SNB, and ANB angles. EA:European Americans;HA:Hispanic Americans;
J:Japanese;AA:African Americans
n. s. : non significant difference ; *indicates P<.
0
5; **indicates P<.
0
1
― 70 ―
歯科学報
Vol.1
0
7,No.1(2
0
0
7)
7
1
表2に示す。日本人女性被験者ならびにアフリカ系
は,好ましい口唇位の審美観が類似していた。ヒス
アメリカ人男性被験者において上顎骨は有意に後退
パニック評価者はアフリカ人より後退位を好み(p
を示し(p<0.
0
5)
,日本人女性被験者(p<0.
0
1)
な
<0.
0
1)
,日本人評価者はアフリカ人より後退位を
らびにアフリカ人男性被験者(p<0.
0
5)
において下
好んでいることが認められた(p<0.
0
0
1)
。
顎骨は有意に後退を示した。しかしながら,上顎骨
評価者各群における許容できる前方限界口唇位
ならびに下顎骨の位置において男女合計した各被験
は,E-Line から上下唇の平均値が米国白人0.
5
4±
者群間では有意差が認められず,また上下顎骨の前
1.
8
3mm,ヒスパニック−0.
5
7±2.
1
1mm,日本人
後的位置において米国白人,日本人,アフリカ系ア
−0.
9
6±1.
9
9mm,アフリカ人0.
3
1±2.
0
1mm であ
メリカ人の男女別ならびに男女合計した各群間では
り,日本人,ヒスパニック,アフリカ人,米国白人
有意差が認められなかった。(表2)
評価者の順により前方位を許容した。すなわち,米
評価者各群における最も好まれた側貌は E-Line
国白人評価者はヒスパニックより前方位(p<0.
0
5)
から上下唇の平均値が米国白人−2.
5
8±1.
9
2mm,
を許容し,米国白人評価者は日本人より前方位(p
ヒ ス パ ニ ッ ク−3.
2
8±2.
2
6mm,日 本 人−3.
4
5±
<0.
0
1)
を許容し,さらにアフリカ人評価者は日本
1.
9
2mm,アフリカ人−2.
1
3±1.
9
5mm であった。
人より前方位(p<0.
0
1)
を許容した。
評価者各群における許容できる後方限界口唇位に
すべての評価者は E-Line より後退した口唇を好ん
だ。日本人評価者は,最も後退位を好み,アフリカ
おいては,有意差が認められなかった。
人,米国白人,ヒスパニック評価者の順により後退
評価者各群における許容できない前方限界口唇位
した口唇を好んだ。ヒスパニックと日本人評価者
は E-Line か ら 上 下 唇 の 平 均 値 が 米 国 白 人2.
3
6±
表3
Upper & Lower Lips
Ideal
9
5% Confidence Interval
米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人評価者の結果
European Americans Hispanic Americans
mean±SD
mean±SD
−2.
5
8±1.
9
2
Upper Bound −2.
1
1
Lower Bound −3.
0
4
−3.
2
8±2.
2
6
−2.
8
2
−3.
7
5
Japanese
mean±SD
Africans
mean±SD
−3.
4
5±1.
9
2
−2.
9
9
−3.
9
3
−2.
1
3±1.
9
5
−1.
6
8
−2.
5
7
Japanese v African***
Hispanic v African**
Anterior limit
(acceptable)
9
5% Confidence Interval
0.
5
4±1.
8
3
−0.
5
7±2.
1
1
−0.
9
6±1.
9
9
0.
3
1±2.
0
1
Upper Bound1.
0
5
Lower Bound0.
0
2
−0.
0
6
−1.
0
9
−0.
4
4
−1.
4
7
0.
8
0
−0.
1
8
European v Hispanic*
European v Japanese**
Japanese v African**
Posterior limit
(acceptable)
9
5% Confidence Interval
−5.
1
7±1.
8
1
−5.
3
6±1.
9
3
−5.
1
8±1.
7
7
−4.
6
5±2.
1
1
Upper Bound −4.
7
0
Lower Bound −5.
6
5
−4.
9
0
−5.
8
4
−4.
7
1
−5.
6
6
−4.
2
0
−5.
1
0
2.
5
7±1.
7
4
n. s.
Anterior limit
(unacceptable)
9
5% Confidence Interval
2.
3
6±2.
2
2
2.
9
9±1.
9
6
3.
4
0±1.
2
2
Upper Bound2.
7
9
Lower Bound1.
9
3
3.
4
2
2.
5
6
3.
8
3
2.
9
8
European v Japanese
2.
9
7
2.
1
6
**
Japanese v African*
Posterior limit
(unacceptable)
9
5% Confidence Interval
−5.
1
4±2.
7
9
−4.
5
8±2.
6
6
−4.
9
3±2.
7
9
−5.
7
8±2.
5
8
Upper Bound −4.
4
4
Lower Bound −5.
8
5
−3.
8
8
−5.
2
9
−4.
2
2
−5.
6
3
−5.
1
1
−6.
4
5
n. s.
There were no significant differences among the judge groups except as noted above.
n. s. : non significant difference ; *indicates P<.
0
5;**indicates P<.
0
1;***indicates P<.
0
0
1.
― 71 ―
(Unit : mm)
7
2
表4
野村,
他:米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人評価者
米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人評価者
における男女別の結果
Ideal
Anterior limit
(acceptable)
Posterior limit
(acceptable)
Anterior limit
(unacceptable)
Posterior limit
(unacceptable)
Male
mean±S. D.
Female
mean±S. D.
−2.
8
6±2.
0
9
−2.
8
6±2.
0
6
n. s.
−0.
0
0
4±1.
9
7
−0.
3
4±2.
1
0
n. s.
女各々2名の Class Ⅰ顔貌写真のコンピューター
シュミーレーションを行い Class Ⅱ,Class Ⅲ,long
face を作成し,白人一般人と白人矯正医を評価者
とした結果,最も好ましい顔貌として Class Ⅰ顔貌
が好ま れ た が,白 人 矯 正 医 は 白 人 一 般 人 よ り も
Class Ⅰ顔貌を選んだと述べている。De Smit ら13)
−5.
1
5±2.
0
3
−5.
0
4±1.
9
2
n. s.
は,側貌の深型および高径に関して Angle ClassⅠ
2.
8
1±1.
8
6
2.
8
4±1.
9
0
n. s.
で正常被蓋を有する顔型が最も好まれ,Angle Class
−4.
9
5±2.
7
4
−5.
2
7±2.
6
5
n. s.
Ⅲで開咬を有する顔型が最も好まれなかったと報告
n.s. : non significant difference
している。このため今回,Class Ⅰならびに Class
(Unit:mm)
Ⅱ患者を被験者として,その頭部Ⅹ線規格写真を基
にしてコンピューターソフトウエアにより上下唇バ
リエーションを作成し,評価資料とした。
2.
2
2mm,ヒスパニック2.
9
9±1.
9
6mm,日本人3.
4
0
評価者について
±1.
2
2mm,アフリカ人2.
5
7±1.
7
4mm であった。
評価者としては,専門家や一般人などを用いて報
許容できない前方限界口唇位についてアフリカ人評
告がなされている6∼19)。Cox ら11)や De Smit ら13)は,
価 者 は 日 本 人 よ り 口 唇 の 突 出 を 許 容 せ ず(p<
評価者が矯正学の知識を有する者と一般人では判定
0.
0
5)
,さらに米国白人評価者は日本人より口唇の
結果に差異がなく,さらに De Smit ら13)は評価者の
突出を許容しないこと(p<0.
0
1)
を示した。(表3)
男女別による差異もなかったと報告している。Peck
評価者各群における許容できない後方限界口唇位
and Peck19)は,美人コンテスト優勝者のセファログ
については,有意差が認められなかった(表3)
。
ラム分析結果は白人の矯正治療目標値よりも骨格,
評価者の男女別各群における最も好まれた側貌に
歯系ともに突出を示したと報告しており,これは評
ついて E-Line からの上下唇位は男性−2.
8
6±2.
0
9
価者が一般人であることや髪型,目の大きさ,化粧
mm,女 性−2.
8
6±2.
0
6mm で ほ ぼ 同 様 な 値 を 示
等の差異によるものではないかと考えられる。ま
し,最も好ましい側貌ならびに許容できる,あるい
た,Foster12)は側貌判定が矯正歯科医と他のグルー
はできない前方限界,後方限界口唇位は,有意差が
プの評価者により異なると報告しており,今回は評
認められなかった(表4)
。
価者として一般人を採用し男女ほぼ同数としたので
知識の有無による偏りは避けられたと考える。
考 察
結果について
Sushner8)は,黒人顔貌写真を用いて異なった社
被験者および評価資料について
Spyropoulos ら17)は髪型,目の大きさ,化粧など
会的レベルの一般人に最も好ましい顔貌を選択させ
側貌外形線以外の影響が顔貌の審美性に影響を及ぼ
た結果,黒人男性は黒人女性よりさらに口唇の突出
していると述べている。今回は,これらの要因を除
を選択し,黒人男性は E-Line から下唇2mm,黒
外するため評価資料としてシルエットを用いた。軟
人女性は E-Line から下唇1.
1mm を示す側貌を選択
組織分析には各種基準線が使用されているが1∼5),
したと報告している。Thomas9)は,黒人女性シル
評価するための側貌外形線のバリエーション作成に
エットを用いて白人や黒人矯正医を評価者として最
は側貌を評価するために臨床的に簡便であり一般的
も好ましい顔貌を選択させた結果,白人と黒人矯正
に使用されている E-Line を基準とし,上下唇の位
医とでは差異が認められず,両者ともに E-Line か
1
2)
置を変化させたシルエットを用いた 。
ら下唇4mm,上唇1mm を示す側貌を選択したと
側貌外形線を基本として顔面各部を変化させた
報告している。これらの報告では,黒人顔貌として
り,異なった顔型に再構成し,側貌の評価を行う研
は口唇突出が好まれていることを示している。今回
1
2∼1
8)
究が報告されている
1
6)
。Cochrane ら は白人男
の結果では,米国白人とアフリカ人評価者は類似し
― 72 ―
歯科学報
Vol.1
0
7,No.1(2
0
0
7)
7
3
た顔貌を好ましいと選択し,受け入れられる前方口
び,成人男性顔貌は女性よりも有意に後退した口唇
唇位も両者ともに E-Line から突出している顔貌を
が好まれ,すべての評価者は成人男性顔貌として E
選択したが,被験者群別の顔貌については報告して
-Line から下唇−8mm,成人女性顔貌として E-Line
おらず,今後の検討課題である。
から下唇−4.
5mm を示した顔貌を好んだと報告し
1
8)
Mejia-Maidl ら は,メキシコ人男女各々につい
ている。今回の結果では最も好まれた E-Line から
て顔貌写真のコンピューターイメージング画像を用
の上下唇位は米国白人評価者−2.
5
8±1.
9
2mm,ヒ
いて白人,米国メキシコ人を評価者とした結果,と
スパニック評価者−3.
2
8±2.
2
6mm,日本人評価者
くに米国メキシコ人女性は白人よりもより後退した
−3.
4
5±1.
9
2mm,アフリカ人評価者−2.
1
3±1.
9
5
上下唇を好んだと報告している。また,女性顔貌で
mm であり,ヒスパニックとアフリカ人評価者なら
はどれくらい E-Line から後方位が許容されるかと
びに日本人とアフリカ人評価者において有意差が認
いう点において,上唇は白人−1.
6
1±1.
1
0mm,メ
められ,米国白人とその他の人種とでは差異を示さ
キシコ人−3.
2
3±2.
0
3mm,下唇は白人1.
9
0±1.
3
1
なかった。
mm,メキシコ人0.
2
0±2.
0
5mm であったとも報告
米国2
0
0
6年人口統計では白人約7
0%,ヒスパニッ
している。今回の結果では,E-Line からの許容で
ク1
2.
5%,黒人1
2.
3%,アジア系約4%と報告され
きる後方限界口唇位は米国白人評価者−5.
1
7±1.
8
1
た。ヒスパニック評価者は白人優位社会ではある
mm,ヒ ス パ ニ ッ ク 評 価 者−5.
3
6±1.
9
3mm で あ
が,米国在住者であること,また日本の若者は欧米
り,米国白人ならびにヒスパニックともに Mejia-
志向が強いと思われるのではないか考えられた。許
Maidl らの結果と比較すると後方位を好むことが示
容できる前方限界において米国白人,アフリカ人評
された。また,許容できる前方限界口唇位はヒスパ
価者はわずかに E-Line より前方の口唇を前方限界
ニックの方が米国白人評価者よりも後退した口唇を
としたが,ヒスパニック,日本人評価者はわずかに
好んだ。さらに,許容できない前方限界口唇位では
E-Line より後方の口唇を前方限界となったことも
ヒスパニックの方が米国白人評価者よりも突出した
同様の理由と考えられた。また,許容できない前方
口唇を好まなかったことは白人願望のあらわれのひ
限界において米国白人,アフリカ人,ヒスパニッ
とつとも考えられた。
ク,日本人評価者の順に大きな値を示し,日本人評
6)
Martin は,黒人顔貌写真を用いて 米 国 白 人 男
価者はアフリカ人より突出した口唇を受け入れず,
性,黒人男性,アフリカ人(ナイジェリア人)
男性を
さらに米国白人より突出した口唇を受け入れないこ
評価者として最も好ましい顔貌から最も嫌いな顔貌
とは,多人種社会の白人は他人種を受け入れようと
までを選択した結果,白人とアフリカ人評価者にお
しており,ヒスパニック,日本人は強い白人願望の
いて差異はなく人種による差異は認めなかったが,
片鱗がうかがわれた。このことから,評価者の人種
アフリカ人評価者は米国白人よりも白人顔貌を好ま
により理想的な顔貌があり,口唇突出度の許容範囲
なかったと報告している。さらに,異なった社会的
が異なるものと考えられた。
地位の科学者を評価判定者として,白人あるいは黒
結 論
人として最も好ましい顔貌から最も嫌いな顔貌まで
選択した結果,米国社会では白人顔貌は黒人顔貌よ
米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人を
りも好まれたとも報告している。また,Cross and
評価者として側貌シルエットを用いて最も好まれた
Cross7)も Martin の報告と同様な結果を報告してい
側貌を選択した結果
6,
7)
る。これらの結果
1.すべての評価者群は E-Line から後退位を好
では,白人と黒人評価者におい
て人種による差異は認めず,今回の結果と一致して
んだ。
12)
いた。Foster は,上下唇の位置を変化させた7種
2.ヒスパニックがアフリカ人より後退位を好んだ。
類のシルエットを用いて米国白人,黒人,中国人を
3.日本人がアフリカ人より後退位を好んだ。
評価者として最も好ましい顔貌を選択した結果,黒
以上のことから,側貌の審美観について評価者の
人評価者は白人よりもわずかに後退した口唇を選
人種により差異があることがわかった。
― 73 ―
7
4
野村,
他:米国白人,ヒスパニック,日本人,アフリカ人評価者
本研究の要旨の一部は,第2
8
1回東京歯科大 学 学 会 例 会
(2
0
0
6年6月3日,千葉)
ならびに 84th General Session & Exhibition of the International Association for Dental Research,
( June28∼July1, 2006, Brisbane)
において発表した。なお,
第281回東京歯科大学学会例会の座長推薦を受けたものである。
謝 辞
稿を終えるにあたり,アンケート調査資料採取にご協力を
いただきました東京歯科大学歯科矯正学講座 小泉儀明先生,
櫻井雄太先生,夫馬明日香先生に深謝いたします。本研究に
あたり種々ご協力いただきました歯科矯正学講座諸兄に感謝
いたします。
文
献
1)Ricketts, R. M. : Planning treatment on the basis of the
facial pattern and an estimate of its growth. Angle Orthod,2
7:1
4∼3
7,1
9
5
7.
2)Ricketts, R. M. : Cephalometric Synthesis. Am J Orthod,4
6:6
4
7∼6
7
3,1
9
6
0.
3)Merrifields, L. L. : The profile line as an aid in critically
evaluating facial esthetics. Am J Orthod, 5
2:8
0
4∼
8
2
2,1
9
6
6.
4)Holdaway, R. A. : A soft-tissue cephalometric analysis
and its use in orthodontic treatment planning. Part Ⅰ.
Am J Orthod,8
4:1∼2
8,1
9
8
3.
5)Erbay, E. F., Caniklioglu, C. M. : Soft tissue profile in
Anatolian Turkish adults : Part Ⅱ. Comparison of different soft tissue analyses in the evaluation of beauty. Am J
Orthod Dentofac Orthop,1
2
1:6
5∼7
2,2
0
0
2.
6)Martin, J. C. : Racial ethnocentrism and judgment of
beauty. J Soc Psychol,6
3:5
9∼6
3,1
9
6
4.
7)Cross, J. F., Cross, J. : Age, sex, race and the perception of facial beauty. Develop Psychol, 5:4
3
3∼4
3
9,
1
9
7
1.
8)Sushner, N. I. : A photographic study of the soft-tissue
profile of the Negro population. Am J Orthod, 7
2:3
7
3∼
3
8
5,1
9
7
7.
9)Thomas, F. G. : An evaluation of the soft-tissue facial
profile in the North American black woman. Am J Orthod,7
6:8
4∼9
4,1
9
7
9.
1
0)Alcalde, R. E., Jinno, T., Gabriela, O. M., Sasaki, A., Sugiyama, R. M., and Matsumura, T. : Soft tissue cepholometric norms in Japanese adults. Am J Orthod Dentofac Orthop,1
1
8:8
4∼8
9,2
0
0
0.
1
1)Cox, N. H., van der Linden, FPGM. : Facial harmony.
Am J Orthod,6
0:1
7
5∼1
8
3,1
9
7
1.
1
2)Foster, E. J. : Profile preferences among diversified
3:3
4∼4
0,1
9
7
3.
groups. Angle Orthod,4
1
3)De Smit, A., Dermaut, L. : Soft tissue profile preference. Am J Orthod,8
6:6
7∼7
3,1
9
8
4.
1
4)Czarnecki, S. T., Nanda, R. S., Currier, G. F. : Perceptions of a balanced facial profile. Am J Orthod Dentofac
Orthop,1
0
4:1
8
0∼1
8
7,1
9
9
3.
1
5)Polk, M. S. J., Farman, A. G., Yancey, J. A., Gholston, L.
R., Johnson, B. E. : Soft tissue profile : A survey of
African-American preference. Am J Orthod Dentofac Orthop,1
0
8:9
0∼1
0
1,1
9
9
5.
1
6)Cochrane, S. M., Cunningham, S. J., Hunt, N. P. : Perceptions of facial appearance by orthodontists and the
general public. J Clin Orthod,3
1!:1
6
4∼1
6
8,1
9
9
7.
1
7)Spyropoulos, M. N., and Halazonetis, D. J. : Significance
of the soft tissue profile on facial esthetics. Am J Orthod
Dentofac Orthop,1
1
9:4
6
4∼4
7
1,2
0
0
1.
1
8)Mejia-Maidl, M., Evans, C. A., Viana, G., Anderson, N.
K., Giddon, D. B. : Preferences for Facial Profiles Between Mexican Americans and Caucasians. Angle Orthod,7
5:7
6
3∼7
6
8,2
0
0
5.
1
9)Peck, H., Peck, S. : A concept of facial esthetics. Angle
Orthod,4
0:2
8
3∼3
1
8,1
9
7
0.
― 74 ―
歯科学報
Vol.1
0
7,No.1(2
0
0
7)
Esthetic judgement of profiles by European American,
Hispanic,Japanese and African
Mayumi NOMURA1),Etsuko MOTEGI1),Hideharu YAMAGUCHI1)
John P. HATCH2),John D. RUGH2)
1)
Department of Orthodontics, Tokyo Dental College
2)
Department of Orthodontics, The University of Texas Health Science Center at San Antonio, USA
Key words : Esthetic, Profile, Race, Soft Tissue, E-Line
Objectives:The purpose of this study was to determine whether observer sex and race/ethnicity determined esthetic preferences for soft tissue profiles.
Methods:Four independent panels,each lay-person judges viewed silhouette profiles of 10 European
American,10 Japanese and 10 African American,Angle Class Ⅰ and Ⅱ orthodontic patients. The panels of judges comprised the following racial/cultural groups:! European Americans," Hispanic Americans,# Japanese,and $ Africans. Profiles were traced from lateral cephalograms and manipulated so
that the 7 types of lip profiles lay on Ricketts’
E-line. Judges selected the profile they considered the
most attractive,and then classified the remaining 6 profiles as either acceptable or unacceptable.
Results:All judge groups selected as the most attractive lip positions when the lips were posterior to
the E-line. For the most attractive profile the Africans differed significantly from the Hispanic Americans(p<0.
0
1)
and the Japanese(p<0.
0
0
1)
. The Hispanic Americans preferred retruded profile than the
Africans,the Japanese preferred retruded profile than the Africans. There was no significant difference
between the European Americans and other three races. There was no significant difference between
male and female judges. It was thought that their factors were domicile,social backgrounds.
Conclusions:Racial/cultural group significantly influences esthetics preferences with regard to soft tis(The Shikwa Gakuho,1
0
7:6
9∼7
5,2
0
0
7)
sue profile.
― 75 ―
7
5