金融論B 資料3 8 決済と信用秩序

金融論B 資料3
担当:楠美 将彦 e-mail:[email protected]
http://www.takachiho.ac.jp/˜mkusumi/index.html
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決済と信用秩序
キーワード
インセンティブ・コンパティブル・アプローチ
インターバンク市場
外為円決済制度
オブリゲーション・ネッティング
金融 EDI
業務分野規制
可変的預金保険料率制度
決済システム
健全経営規制
最後の貸し手機能
市場規律
システミック・リスク
時点ネット決済
信用秩序の維持
セーフティ・ネット
早期是正措置
即時グロス決済
代理モニタリング
手形交換決済制度
電子マネー
内国為替決済制度
ナローバンク制度
日銀ネット
日本の決済システム
ヘルシュタット・リスク
部分準備銀行制度
プ リコミット メント・アプローチ
モラル・ハザード
100 %準備銀行案
BIS 規制
プルーデンス・ルール
預金保険制度
8.1
8.1.1
決済システム
決済と決済手段
決済( 資金決済)財・サービ スの取引あるいは金融商品の取引によって生じる債権・債務を代金の支
払いによって清算( 解消)すること
資金決済 代金による決済
証券決済 証券の受け渡しによる決済
決済手段
決済のために用いられる支払いの手段
決済システム 決済を円滑に行うための仕組み
• 経済社会を支える重要なインフラストラクチャー
• 一種の公共財
主な決済手段
1. 現金通貨 最も基本的な決済手段
• 法貨としての強制通用力
• 汎用性
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• ファイナリティ( 支払い完了性)
• 小口の取引手段
2. 預金通貨( 要求払預金)
• 小切手、手形、銀行振替( 為替)、口座振替、クレジットカード など 利用
• 企業間の資金決済、遠隔地の送金、給与の支払いなどを行う
• 企業間の大口の取引手段
• 決済ネットワークが機能しているなら 、現金通貨より低コスト・安全・効率的な決済手段
( 信頼が基本)
3. 日本銀行当座預金
• 金融機関相互の資金の移転を行う
• 授受の差額のみを集中決済するクリアリングが行われている
8.1.2
日本の決済システム
( 1)手形交換決済制度
一定の地域内に所在する金融機関が一定の時間( 午後 0 時半以降)に手形交換所と呼ばれる場所に
持ち寄り、交換決済を行う。
ほとんどの金融機関が直接、間接的に参加している。
(2)内外為替決済制度
振り込みなどによって生じる債権債務の差額を日本銀行本支店の当座預金口座の振り替えを通じて
決済される仕組み
相手が決済不能の時は、日銀が代理払いをする
( 3)外為円決済制度
外国為替関係の円資金決済のための制度であり、債権債務の差額を日本銀行の当座預金勘定で振り
替えて、集中決済をする
( 4)日銀ネット
日本銀行当座預金を用いて振り替えるコンピューター処理システム
民間決済の差額を決済している。
即時処理方式で行われる。
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政府に対しても決済サービ スを提供している。
( 日銀当座預金と銀行券がファイナリティを有している。この 2 つの手段を利用して、決済システ
ムの根幹を支えている。)
8.2
8.2.1
決済システムの新たな展開
決済システムの変化
1. 決済金額の飛躍的増加
2. 決済のペーパーレ ス化、エレクトロニクス化、ネットワーク化( 決済システムの効率性と利便性
が向上)例.ネットバンキング
3. 異業種の決済サービ スへの参入
4. 電子マネーや EDI などの新しい決済方法
8.2.2
電子マネーの登場
電子マネー
経済取引の対価としての金銭的価値を電子機器や通信機器を用いる電子的な方法によって表示した
り、蓄積したり、移転したりすることによって決済手段として用いるもの
IC カード 型 価値を IC カード の保管し 、IC カード の読み書きのできる専用端末などを利用して価値
情報の移転を行う
ネット ワーク型 価値を利用者のパソコンの上に保管し 、インターネットを介して移転を行うもの
「ネット ワーク外部性」の増大
製品・サービ スの利用者数が増大するほど 、個々の利用者がその製品・サービ スから得られる便益
が増大するという性質
( ネットワーク普及率の増大が 、それ自体の便益を増大させる)
デビットカード :金融機関のキャッシュカード で商品代金を顧客の預金口座から即時決済
するシステム
8.2.3
金融 EDI(Electronic Data Interchange)
金融 EDI 異なる企業間で商取引のためのデータを標準的な規約を用いてコンピュータ間で交換する
こと
企業間の大口決済分野における効率化の進展
受発注から資金移転、決済までを一貫して電子的に交換するニーズが高まってきた
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それぞれの取引ごと決済ではなく、一定期間の取引を相殺した上で、差額のみを決済すると決済手
数料を減らすことができる。企業は総資産の圧縮と金利負担を軽減できる。
銀行の決済機能が「中抜き」にされてしまう可能性を示している
→決済機能のアンバンド リング
8.3
信用秩序の維持と公的介入
8.3.1
金融システムの安定性
金融は公的介入が強い分野であった理由
• 経済社会のインフラストラクチャーである決済システムの担い手
• 貯蓄と投資を効率的につなぐ 金融仲介の担い手
金融システムの動揺が起きる場合
ある特定の金融機関に対する預金者の信任が崩れ 、預金者がその金融機関に対して一斉に
預金の払い戻しを求める事態、いわゆる「取り付け」という形で表面化する
部分準備銀行制度
預金のご く一部だけを預金に対する支払準備として保有し 、残りの大部分を貸し出しや有価証券投
資という非流動的な収益資産の形で保有する
※
大数法則:多くの預金者がいるとその動きは平均的である
• 健全な金融機関が支払不能になるリスク( 流動性リスク)が顕在化しやすい
• 影響が他の金融機関にも伝染する( 預金者が十分な情報を持っていないため )
• 決済システム全体が機能不全に陥る危険(システミック・リスク)が顕在化しやすい。
8.3.2
システミック・リスク
決済リスク:何らかの理由で決済が予定通り履行されないリスク
決済システムのエレクトニクス化、ネットワーク化、グローバル化の進展とともに拡大
※ ヘルシュタット・リスク:一方の債務不履行が他方の債務不履行を誘発する
決済システムには、
「伝染効果」とも呼ばれる一種の外部効果がある。
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8.3.3
時点ネット 決済と即時グロス決済
決済リスクの決定要因
1. 債権債務が発生してから最終的に決済されるまでの時間的長さ
2. 決済金額
これらを掛けた積に相当する未決済残高が大きいほど 、決済リスクも大きい。
リスクの累増を防ぐ方法
• 与信額に一定の上限を設ける
• 重複した債権・債務はそのつど 相殺して、新たな債権・債務に置き換える
• 即時グロス決済
時点ネット 決済 一日の特定の時点を決めて、差額を日銀口座の振り替えによって行う( 資
金効率のメリット、決済リスクの累増のデ メリット )
即時グロス決済 発生するつど 、日銀口座で振り替えを行う( 資金効率は落ちるが 、システ
ミックリスクが小さい)
1982 アメリカで導入
2001 日本で導入
ラファルシー基準( 時点ネット 決済のリスク管理基準)
• 各参加者が信用リスクの上限を設ける
• 流動性のバックアップ メカニズムを導入する
• 客観的、公表された参入基準を設ける
8.4
8.4.1
プルーデンス政策
事前的対策と事後的対策
プルーデンスルール
公的当局の介入等によるシステムの安定性を確保するための対策
信用秩序の維持( 決済機能と金融仲介機能の維持)を目的としている
事前的対策
• バランスシート規制( 金融機関の過度のリスク負担の制限)
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• 競争制限規制( 護送船団方式)
• 金融機関検査・考査( 基本は2〜3年に1度の考査)
• 公的資金の投入
• 市場によるチェック
• 業界の自主規制
事後的対策
• 中央銀行貸出
• 預金保険
• 公的当局による救済
• 相互援助制度
8.4.2
セーフティ・ネット と市場規律
セーフティネットは危機の連鎖を防ぐ 役割がある
一方、セーフティネットが充実すると、モラルハザードがおきやすくなる
( 市場規律の働きを阻害する)
( 1)最後の貸し 手 (LLR) 機能
バジョット ・ルール
金融機関の流動性不足が発生し 、システムの混乱を招くおそれがあるときのルール
1. 中央銀行は銀行の連鎖的破綻の防止を狙いとして、ペナルティ・レートによって無制限に緊急貸
し出しを実行すべき
2. 銀行の過大なリスク・テイキングを防止するため、LLR 機能の具体的な発動条件を事前に明らか
にしておくこと
日本では、1965 年の証券不況、1990 年代の銀行の経営破綻の時に実施されている
→
信用制度全体の安定を目的( 個別の金融機関の救済が目的ではない)
(2)預金保険制度
預金保険制度への公的機関の介入
それでも正当化される理由
1. セーフティネット
2. 金融機関と預金者の間に大きな情報の非対称性があるため( 代理モニタリング機能)
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目的
• 一定限度内で保険金の支払い(ペイオフ)を行う
• 合併する金融機関に資金を援助
• 不良債権の買取、回収を行う
問題点
1. 健全な金融機関の負担において不健全な金融機関に事実上補助が与えられる( 保険料率がリスク
にかかわらず一定であるため ) → フリー・ライダー
2. 不健全な金融機関のモラルハザード を招き、保険基金の負担増加になる
可変的預金保険制度
いくつかのグループに分類し 、健全性が劣るほど 料率が高くなるようにする
→
預金者も保険料率から健全な金融機関を選択できる
( 3)公的救済措置
金融機能再生緊急措置法( 金融再生法)
金融再生委員会を設置し 、以下の 3 つの処理法を行う。
1. 金融整理管財人による清算
2. 国が株式を強制取得する特別公的管理( 一時国有化)
3. 受け皿金融機関に営業譲渡するまで破たん金融機関を一時的に国の管理下に置くブ リッジバンク
制度の創設
借り手保護を主目的としている
( 預金保険制度は預金者保護を目的としている。)
8.5
8.5.1
代替的な制度改革案
100 %準備銀行案
銀行が預金の 100 %を自行の金庫ないし 、中央銀行の支払い準備として保有していること。
しかし
• 預金で集めた資金を貸出や有価証券投資に使えない。
• 金融仲介活動もできない。
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• 収益の確保ができない。
8.5.2
ナローバンク制度
銀行の業務をコア業務( 決済業務)とリスクのある与信業務とに完全分離して、コア業務のみを行
う新たな金融機関を設置すること。
金融持ち株会社の下に 2 社を作る。
コア銀行 預金を受け入れ 、政府の債券などで運用
リスク業務を受け持つ銀行 CP などで資本市場から資金を調達し 、貸出を行う
8.6
8.6.1
金融監督政策と国際的規制
BIS 規制
国際決済銀行( Bank for International Settlements )で「銀行の自己資本比率規制に関する国際統
一基準」を承認( 1988 年)
国際業務に従事する各国金融機関の健全性、安定性の強化と競争条件の平等化を狙いとする
自己資本比率 =
自己資本
≥ 8.0 %
リスク・アセット
自己資本
基本的項目 Tier1:株式や準備金など
補完的項目 Tier2:有価証券の含み益( 45 %)や貸倒引当金および劣後債など( T ier1 >
T ier2 )
リスク・アセット 総額
リスク・ウェイト付けされた資産合計額( リスク資産の分類:ウェイトは、0 %,10 %,20
%,50 %,100 %の 5 段階)
0 % 国債
50 % 住宅貸し付け
100 % 民間向け商工業貸出
他の特徴
• オフバランス取引も含める
• 子会社を含めた連結決算ベースで算出する
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BIS2 次規制(バーゼル 2 )
• 信用リスク以外のリスク( 金利リスク、為替リスクなどの市場リスク)を考慮する
• リスク量と同じだけの自己資本を保有する
• リスク量の測定( VaR )は、各銀行のモデルを利用できる( 内部モデル方式)[最大損失額を考
える]
8.6.2
インセンティブ・コンパティブル・アプローチ
BIS の問題点
1. 現実のリスクを反映したリスクウェイトになっていない
2. 個々の金融機関の自己責任を前提とする市場規律とは必ずしも整合的ではない
プリコミット メント ・アプローチ
1. 一定期間に必要な自己資本額を推定し 、当局に申告し 、その分の自己資本を積む
2. 最大損失額が自己申告額を上回らないようにリスク管理を行う
3. 万一、上回ってしまったなら、何らかのペナルティーを課す( 自己資本が不足した場合には、そ
の情報を開示する)
特徴
• 金融機関の自主性が最大限に尊重
• 当局の介入は最小限
• 市場規律を最大限に活用
インセンティブ・コンパティブル・アプローチ
規制対象先の金融機関のインセンティブと矛盾しない( 誘因整合的な )規制のあり方
( 自由度を高めつつ、規定外の時のペナルティを重くする。)
8.6.3
早期是正措置
自己資本比率に基づいて金融機関の安全性を判断し 、これを大きく下回った金融機関に対して、監
督当局による業務改善命令や閉鎖命令が発動される。
( 1998 年)
この算定基準となる情報のディスクロージャーも義務づけられている
( 金融庁が代理モニタリングを実施していると見ることができる。)
自己資本比率の基準
第 1 区分 国際基準が 4 %以上 8 %未満( 国内基準は 2 %以上 4 %未満)
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第 2 区分 国際基準が 0 %以上 4 %未満( 国内基準は 0 %以上 2 %未満
第 3 区分 国際基準が 0 %未満( 国内基準は 0 %未満
措置内容
第 1 区分 経営改善計画の提出の求め及びその実行の命令
第 2 区分 個別措置に関わる命令( 配当・役員賞与の禁止または抑制、自己資本充実に関
わる計画の提出・実行、総資産の圧縮または増加の抑制、一部営業所の廃止等)、
第 3 区分 業務の全部または一部停止の命令
倒産前に何らかのハード ルを設定して次善策を講じる
裁量からルールに基づく金融政策への転換
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