不動産投資分析 第14章

第14章 不動産投資分析
第14章
不動産投資分析
スク」と、不動産独自の法的リスクと物理的リスクに大別される「リアルエステート・リスト」がある。
⃝不動産投資の利回りのうち「投下資本収益率」は、
「
(年間総収入−減価償却費を含む諸経費支出)÷総
投資額×100」で求められる利回りで、投資の回収も考慮した利回りである。
⃝「総合収益率」は、単年度期首賃貸運用収益利回り(インカムゲイン)と、単年度資産評価損益利回り
(キャピタルゲイン)を合計した利回りである。
⃝「DCF法」は、将来のキャッシュフローを割引率で割引いて投資採算価額を求める手法で、分析の中
心は「正味現在価値法」と「内部収益率」(割引率)である。
1.不動産投資の判断
⑴ 投資判断
投資には、入口と出口がある。入口は不動産を買う、株を買う、社債を買うなど、対象
となるモノに手元資金を変換することで、出口はそれを転売処分することである。転売処
分した時点で投資は終了し、結果としてどれだけ儲かったか(あるいは損をしたか)が確
定する。このように投資は、入口から出口までの一定の期間を前提に、その可否が判断さ
れる。投資の判断には、二つの収益の計算が必要である。
インカムゲイン=Income Gainは賃貸不動産の賃貸収益にあたり、投資期間に対応する
不動産賃貸収支から求められる。
キャピタルゲイン=Capital Gainは、投資期間終了時の対象不動産の売却価格の予想値
として把握される。
⑵ 不動産投資におけるリスク
A.インベストメント・リスク
不動産に限らず、金融投資商品など投資対象資産に一般的に認められるリスクである。
インベストメント・リスクは、マーケット・リスク(市場性リスク)と事業特性リスクに
分けることができる。
a.マーケット・リスク
① 市況リスク
経済情勢や需給バランスの変化が、市場を通じて対象不動産の価格、賃料、空室率
に影響を与える。自由競争の市場経済を前提とする以上、このリスクをゼロにするこ
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事業・実務編
⃝不動産投資におけるリスクには、マーケットリスクと事業特性リスクからなる「インベストメント・リ
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とはできない。
② 流動性リスク
投資資産は必要な時(投資採算性から見て出口に来たと判断した時)すぐに換金
できることが重要である。すぐに換金できなければ、撤退の最良のタイミングを失う。
公開取引市場の不存在、投資家数の限定、時価評価の困難性などが不動産の流動性を
制約しているため、不動産の流動性リスクは高い。これを補完する商品が上場不動産
投信(J-REIT)であり、毎日市場で値が付き取引が可能となることから、流動性リ
スクは低くなる。
b.事業特性リスク
① 事業別リスク
住宅、オフィス、店舗、その他ホテルやスポーツ施設等の特殊なものなど、不動産
賃貸の用途により、不動産収益の変動リスクは各々相違する。通常、住宅が最も事業
別リスクが小さいとされる。
② マネジメント・リスク
不動産賃貸事業においても、個別物件ごとのマネジメントの内容により、収益は異
なる。
事業の運営管理のあり方により、リスクは大きくも小さくもなる。また、地震・火
災などについては保険によりリスクをヘッジすることができるが、そのような措置を
講じているかどうかもマネジメント・リスクの一部である。
B.不動産リスク(リアルエステート・リスク)
不動産には、他の投資資産には見られない不動産独自の投資リスクがあり、これを不動
産リスクという。不動産リスクは大別して、税法を含めた法制度全般に係る法的リスクと、
不動産の個別具体的な物理的要因に起因する物理的リスクがある。
a.法的リスク
① 借地借家リスク
借地借家関係では、借地人、借家人の保護が法制度に組み込まれているため、賃貸
事業を行う側はこれに配慮しなければならない。また、賃料増減額請求権の行使など
により、賃料は不安定性のリスクを抱えざるを得ない。
② 法規制リスク
都市計画法、建築基準法など公法上の規制により土地利用が制限されるリスクであ
る。将来の法改正のほか、いわゆる既存不適格建築物のように建築時には適法であっ
たが法改正に伴い不適格となったものなどもある。
③ 事業開発リスク
事業開発型の不動産投資を行う場合には、開発の許認可に伴うリスクがある。許認
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