TV会議システムの教育利用の在り方

TV会議システムの教育利用の在り方
目
【
研究主題
次
】
TV会議システムの教育利用の在り方
Ⅰ
研究の背景と目的 ……………………………………………………………………
1 指導方法の改善 ……………………………………………………………………
2 ITで築く確かな学力 ……………………………………………………………
3 インターネットTV授業推進事業 ………………………………………………
4 研究の目的 …………………………………………………………………………
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
研究の方法
1
1
1
2
2
……………………………………………………………………………
2
研究の内容
1 利用方法の類型 ……………………………………………………………………
2 利用に当たっての手立て …………………………………………………………
3
3
3
利用に当たっての配慮事項
………………………………………………………
4
4
類型別の利用回数
…………………………………………………………………
4
5
利用内容別の実践例
………………………………………………………………
5
6
アンケート調査結果に基づく利用内容別の効果,利点と課題
7
TV会議システムの利用のポイント
まとめ
………………
8
…………………………………………
10
…………………………………………………………………………………
12
Ⅰ
研究の背景と目的
1
指導方法の改善
小学校
(学級)
1∼6
7∼12
40.4%
37.5%
中学校
(学級)
1∼3
4∼6
18.0%
30.3%
16.9%
13.5%
4.5%
6.7%
4.5%
5.6%
0%
本県における平成15年度の学級数別学校
7∼9
13∼18
13.0%
10∼12
数と教員数別学校数の割合は,秋田県教育
19∼24
13∼15
6.5%
委員会発行の学校統計一覧の値を基に整理
16∼18
25∼30
2.0%
19∼21
すると図1,図2のようになります。ただ
31∼36 0.7%
22∼24
37∼42 0%
し,学級数は特殊学級を除いた数です。
25∼27
約40%の小学校では学級数が6学級以下
0% 25% 50% 75% 100%
0% 25% 50% 75% 100%
で,中学校では約18%で3学級以下となっ
図1 学級数別学校数の割合
ています。これでは,学年の学級数は,1
小学校
中学校
(人)
学級以下となり,集団が固定化されること (人)1∼5 0.7%
1∼5 0%
6∼10
6∼10
33.6%
4.5%
や,児童生徒の思考や発想が広がりにくこ
11∼15
11∼15
36.8%
35.3%
とが予想されます。異学年や他校の児童生
16∼20
16∼20
9.4%
23.3%
21∼25
21∼25
7.5%
15.8%
徒とのグループ別学習など指導形態を工夫
26∼30
26∼30
5.9%
7.5%
する必要があります。
31∼35
31∼35
3.6%
6.0%
36∼40
36∼40
1.3%
3.0%
次に,教員数別学校数の割合は,約34%
41∼45 0.7%
41∼45
3.8%
46∼50 0.7%
46∼50 0.8%
の小学校において教員数が10人以下で,約
0% 25% 50% 75% 100%
0% 25% 50% 75% 100%
40%の中学校においては15人以下となって
います。これらの学校では,校内で同じ教
図2 教員数別学校数の割合
科の免許をもっている教員は少なく,専門
的なことを相談したくても難しい状況にあります。そこで,学校や校種の枠を越えて互い
に授業を見合ったり,TT等の授業を行ったりして,授業の質を高めるような指導体制を
工夫する必要があります。
2
ITで築く確かな学力
情報通信ネットワークなどのITを活用した学習指導は,児童生徒の学習意欲を高める
ことができ,分かる授業の実現に役立つといわれています。そして,これらによって児童
生徒の学力を向上させることが期待されています。表1は,初等中等教育におけるITの
活用の推進に関する検討会議が,平成14年8月28日に報告した「ITで築く確かな学力」
に記載されている「ITを学習指導で活用する教育効果」です。教員には,このような効
果を得るようにITを活用して指導することが求められています。そこで,各教科でIT
をどのように活用すると効果的なのか具体的な実践研究が求められています。
表1 ITを学習指導で活用する教育効果
基礎・基本の確実な習得, 子ども一人一人の力の伸長, 学ぶ楽しさの実感と自ら学ぶ意欲の向上,
思考力,判断力,表現力の育成, 学び方,問題解決能力の育成, 創意工夫を生かした質の高い授業
づくり, 障害のある子どもの障害に基づく種々の困難の改善・克服,社会とのコミュニケーションの
拡大
- 1 -
3
インターネットTV授業推進事業
秋田県では,平成15年4月からインターネットTV授業推進事業を始めました。この事
業は,TV会議システムで総合教育センター(以下 ,「センター」と略します 。)の人材
と教育資源を活用して,児童生徒がセンターの指導主事などとリアルタイムに対話しなが
ら学習を進めたり,学校間で交流したりするなどして,児童生徒の学習意欲や知的好奇心,
探究心を引き出すとともに,個に応じた多様な学習活動を展開し ,「分かる授業 」「楽し
い授業」を実現することを目的とした調査研究事業です。また,学校の教員間やセンター
の指導主事と教員間で,指導技術などについてリアルタイムに情報交換できるなど研修に
も活用できます。
この事業は,平成15年4月から平成18年3月までの3年間にインターネット授業推進校
(以下,「推進校」と略します。)として指定を受けた,鹿角市立十和田小学校,本荘市
立鶴舞小学校,大曲市立東大曲小学校,横手市立栄小学校の4つの小学校と能代市立東雲
中学校,男鹿市立男鹿南中学校,湯沢市立湯沢南中学校の3つの中学校で進めていきます。
4
研究の目的
本県の学級数と教員数の状況から,ITを利用した学習指導の推進が必要と考えます。
そこで,本研究は,インターネットTV授業推進事業の研究実践に基づいて,児童生徒
の学力と教員の指導力の向上のために,TV会議システムをどのように利用したら効果的
であるかを研究し,その教育利用の在り方を提案することを目的にしています。
Ⅱ
研究の方法
1
インターネットTV授業推進事業(以下 ,「本事業」と略します 。)で整備されたT
V会議システムの利用方法を接続パターンと対象,内容に視点を当てて類型化します。
2
本事業において,TV会議システムの効果的な利用のためにとった手立てと配慮事項
をまとめます。
3
本事業で整備されたTV会議システムの平成15年9月から12月における利用につい
て,1の類型別に実践をまとめます。
4
平成15年12月に「TV会議システムの利用に関するアンケート調査」を授業推進校の
教員とセンターの指導主事に行い,その結果を分析します。
5
3,4の実践内容とアンケート調査結果から,TV会議システムの利用類型別の効果
的な利用の在り方をまとめます。
- 2 -
Ⅲ
研究の内容
1
利用方法の類型
鹿角市立十和田小学校
View
モデム
Station
能代市立東雲中学校
ルータ
ADSL
男鹿市立男鹿南中学校
総合教育センター
2システム
グループ
アクセス網
(1) 本事業で整備されたTV会議システム
① 接続形態
View Station128と多地点接続装置を
利用すると,1対1または多地点接続
が可能です。
② ネットワーク構成
データセンター
ウィルス対策 多地点装置
サーバ
TA
ルータ
光ファイバー
ADSLと光ファイバーによるアク
大曲市立東大曲小学校
横手市立栄小学校
湯沢市立湯沢南中学校
本荘市立鶴舞小学校
セス網を構築しています。(図3)
(2) 利用方法の類型
当事業のねらいとTV会議システムの
図3
ネットワーク概念図
構成から,表2にある接続パターンや対象,利用内容を組み合わせることにより利用方
法を類型化できます。
表2
利用方法の類型
接続パターン
A
B
C
D
E
2
センターと1学校
センターと複数学校
1学校と1学校
3つ以上の学校
センターと全学校
対
①
②
③
④
象
児童生徒
教師
保護者や地域の人々
指導主事等
利用内容
ア
イ
ウ
エ
支援
相談
指導助言・講評
交流
※指導助言・講評
は,授業や活動
の最後または事後
に行うものとしま
す。
利用に当たっての手立て
(1) インターネット授業推進会議
平成15年度は4回に渡り,義務教育課や推進校,センターの関係者でTV会議システ
ムの利用方法や内容などについて協議しました。会議では,「センターの専門性を生か
した授業であること」「学校からの授業に対する希望内容を検討して実施すること」「授
業を行う主体は学校,センターは支援であること」などの共通理解を図りました。
(2) 推進校における操作研修会
推進校のほとんどの職員は,TV会議システムを利用して授業を行うことが始めてで
した。そこで,推進校の全職員を対象にしてTV会議システムの操作方法の研修会を行
いました。TV会議システムの操作の簡便さを理解することと授業で活用するイメージ
を把握することをねらいにしました。
- 3 -
(3) センター指導主事の教科等群の体制
教科研修を担当する指導主事を中心に,全指導主事が免許教科の群に所属する教科群
の体制を利用し,推進校からの多くの希望に対応できるようにしています。また,教科
の他に情報教育と特殊教育・相談の専門分野も学校から授業や研修などの希望があった
場合には対応できるようしています。
(4) インターネット授業推進室
平成15年4月に本事業のために開室したインターネット授業推進室では,学校の教員
とセンターの指導主事との授業や相談の連絡,調整を行います。
(5) TV会議システムを利用した授業等の打ち合せ
授業の打ち合せは,できる限りTV会議システムを利用して行い,授業で使用する教
材や資料などを実際に見ながら互いのかかわり合いを確認して,分かる楽しい授業にな
るように綿密に打ち合せを行いました。
3
利用に当たっての配慮事項
(1) TV会議システムの特性に配慮した利用
TV会議システムの双方向性や対面性,マルチメディア性などの利点を生かし,遅延
や音質,画面からの情報量などTV会議システムの限界を考慮して,効果的な利用にな
るように十分に検討する必要があります。
(2) 著作権,肖像権
センターに蓄積しているビデオ映像やテレビ番組の録画映像,ホームページの画像を
利用する場合には,電話やメールで著作権者から利用許諾を得ました。なお,平成16年
1月1日より著作権法が改正となり,授業過程で授業が行われる場所以外において条件
を満たした著作物を利用できるようになりました。詳しいことは,著作権法を確認して
ください。また,児童生徒の肖像権にも配慮し,保護者からTV会議システム利用に関
して理解と協力を得られるようにお願いすることを推進校に依頼しました。
4
類型別の利用回数
平成15年9月10日からTV会議システムを利用した授業や相談,研修などを開始しまし
た。12月22日までのおよそ4月間で238回の利用があり,そのうちセンターの研修講座で
の利用を除いた233回を利用類型別にまとめたものが表3です。その利用のほとんどが,
センターと1学校を接続した授業への支援と教師との相談です。
- 4 -
表3
類型別の利用回数
類型の項目
接続パターン
対
象
利用内容
利用回数
120※1
A
センターと1学校
④
指導主事等
,①
児童生徒
ア
支援
A
センターと1学校
④
指導主事等
,①
児童生徒
ウ
指導助言・講評
A
センターと1学校
②
教師
,④
指導主事等
イ
相談
A
センターと1学校
④
指導主事等
,②
教師
ウ
指導助言・講評
1
B
センターと複数学校
①
児童生徒
,④
指導主事等
エ
交流
2
B
センターと複数学校
②
教師
,④
指導主事等
イ
相談
2
C
1学校と1学校
①
児童生徒
,①
児童生徒
エ
交流
5
2
101※2
※1 教科等別回数:国14,社5,算・数12,理44,生2,音8,図・美8,保体9,技・家6,英4,総5,特殊3
※2 教科等別回数:国13,社5,算・数9 ,理28,生2,音9,図・美3,保体5,技・家6,英4,総7,特殊6,他4(う
ち授業の打ち合せを兼ねた利用は89)
5
利用内容別の実践例
(1) 支援
指導主事等が,授業で資料を提示したり質疑応答をしたりなどする児童生徒の学習へ
の支援です。表4に,各教科の実践例をまとめました。各教科でTV会議システムを利
用するに当たり,利用する必要性があることが大切です。
表4
各教科別の実践例
教 学
科 年
単元名
学習内容
支援内容
TV会議システム利用の必要性
詩を楽
しもう
言葉のリズム
や情景,作者の
思いが声に表れ
るように工夫し
ながら個々やグ
ループで音読し,
読み深める。
グループの代表の児童が
音読するのを聞いてアドバ
イスする。
授業のねらいに沿った詩
を提示し,興味・関心を喚
起する。
直接に音読の個別指導をする。
教材に適した指導を提示する。
学校以外の人と会話をすること
によって,コミュニケーション能
力を育成する。
明治維
新をつ
くりあ
げた人
々
明治政府の諸
改革や若い武士
たちの働きにつ
いてまとめ,自
分の考えをもつ
ことができる。
教科書,資料集,インター
ネットと同様に調べ学習の
一つの手段として利用す
る。児童の質問に答えたり,
逆に問いかけたり,調べ学
習のアドバイスをする。
時代背景などを踏まえた専門的
な立場からの話を聞き,理解を深
める。
児童の疑問に,その内容や程度
に応じて答える。
分数の
かけ算
とわり
算
真分数÷真分
数のわり算の仕
方を理解し,計
算ができる。
自力で計算の仕方を見付
けることを選択したグルー
プの児童に,助言をしなが
ら解決の方向へ導く。
担任とのTTで少人数学習を展
開する。
対話や教材提示を通しながら,
多様な数学的な考え方を引き出す。
国 小
語 2
社 小
会 6
算 小
数 6
- 5 -
教 学
科 年
単元名
学習内容
支援内容
TV会議システム利用の必要性
天気と
その変
化
雲のでき方を
資料や実験など
から理解する。
人工衛星からの雲画像や
動画で,雲の動きと日本の
天気の関係を説明する。
雲の発生の仕方を実験を
交えて紹介する。
学習に効果的な画像を提示し,
センターにある資料で分かりやす
く説明する。
教室では演示しにくい実験をし,
生徒の疑問に分かりやすく答える。
あきと
あそぼ
生 小 う
活 1
秋の自然物を
使ったいろいろ
な遊びに関心を
もって,楽しく
遊ぶための簡単
な計画を立てる。
落ち葉や木の実などを使
ってできる遊びやおもちゃ
をプレゼンテーションソフ
トウェアで紹介する。
児童が見付けてきた自然
物について対話をする。
蓄積した画像を提示して,児童
の発想を豊かにし,次の体験活動
を充実させる。
対話により個に対応した支援を
する。
けしき
音 小 を歌お
楽 2 う
情景を想像し
ながら歌う。
声の出し方や伸ばし方な
どの歌い方を一人一人また
はグループごとに指導す
る。
グループごとに違う「さわやか」
などのイメージにあった歌になる
ように,グループの歌を聞いて,
その場でアドバイスをする。
どうぐ
ばこ
作りたいもの
をイメージして
はさみを使って
いろいろな切り
方をした飾りを
作る。
はさみを使ったいろいろ
な切り方を演示する。
色紙を使って色から受け
る感じを説明する。
制作中に児童と対話をす
る。
児童の活動の様子を見て,発想
を豊かにしたり,気付きを促した
りすることができるように,担任
と協力して適切に指導する。
一人一人の興味・関心に応じた
技能を指導する。
電子メ
ールの
活用
電子メールの
マナーを知り,
安全なインター
ネットの利用を
知る。
グループの質問に複数の
指導主事が電子メールで返
答する。メール利用の配慮
事項などを最近の動向を踏
まえて説明する。個々の質
問に対話しながら答える。
体験的な学習ができるように,
リアルタイムにメールの送受信を
する,。
新しい情報を入手する。
体つく
りの運
動とマ
ット運
動
体つくり運動
で体の柔らかさ
や巧みな動きを
身に付け,目当
てのマット運動
の技に取り組む。
マット運動の前段でいろ
いろな体つくり運動を紹介
し,演示する。
マット運動を苦手とする
グループの児童の演技を見
て,アドバイスをする。
体を動かす喜びや楽しさを味わ
えるような新たな運動を紹介する。
児童の要望に応じて模範を何度
も演示することにより,個々の運
動能力を向上させる。
スキッ
トを作
ろう
日常生活につ
いて会話をする。
自分たちで作
ったスキットを
発表する。
グループごとの発表に対
してアドバイスをする。発
表内容について質問する。
発表に対して学校外の専門家が
評価する。
直接に生徒と会話をしてコミュ
ニケーション能力の育成を図る。
年賀状
をつく
ろう
自分らしい年
賀状を作り,お
世話になった人
や友だちに送る。
年賀状の作成を通して児
童と交流をする。
学校外の人と交流する機会を拡
充する。相手を画面に表示するこ
とにより,安心感を与える。
理 中
科 2
図
画 小
工 1
作
技
術
・ 中
家 3
庭
体 小
育 5
英 中
語 1
生
活
単
元
小
1
2
3
- 6 -
表5
(2) 相談
授業の打ち合せを兼ねた相談
相談内容
分野
相談内容
や,研修を目的とした学校の教
国語
・研究会で行う授業の内容と指導法
師と指導主事等との相談がほと
理科
・アルコールランプやガスバーナーの使い方を
指導する際の留意点
音楽
・発声の指導に当たり腹式呼吸の効果的な指導法
・音楽科の評価の在り方
・他推進校の授業の進め方(DVD録画視聴)
図画工作
・読書感想画の指導のポイント
英語
・当日行った授業の指導法
生徒指導
・不登校傾向児童に対する指導法
プ,学校全体から事前に出され
特別支援
教育
・自閉症の児童を指導するに当たっての留意点
・LD傾向をもつ児童の指導法
た相談内容です。
情報教育
・TV会議システム機器の活用
んどです。授業の打ち合せの多
くは,単に授業の内容だけでは
なく,単元構想や教材観など授
業に深くかかわることまでを話
し合いました。表5は,研修を
目的とした相談で個人やグルー
(3) 指導助言・講評
学校の教師が,一般授業をTV会議システムを通して提示し,後日センター研修の際
に直接会って指導助言を受けた例があります。その後も,その教師はTV会議システム
を通して授業の相談などを継続的に行いました。
また,児童生徒の発表や討議に,指導主事が全体講評を依頼されたときがありました。
(4) 交流
交流は,総合的な学習の時間や特別活動,理科で行われました。表6の例は,総合的
な学習の時間において福祉をテーマとして行われた交流と理科「地球と宇宙」において
で発表と意見交換を行った交流です。
表6
交流の実践例
交流相手
交流内容
TV会議システム利用の必要性
A小5,6年生
B小4年生
・総合的な学習の時間:
A校の児童が,学習した手話付きの歌を披露
する。その後,福祉事務所の職員が両校に手話
指導をして,数名の児童がTV会議システムを
通して名前や天候などについて会話をする。
学習成果を他校の児童へ発表
する。
コミュニケーション能力を育
成する。
離れた場所にいる児童と共同
で学習する。
C中3年生
D中3年生
・理科:
県出身の国立天文台ハワイ観測所の助教授を
センターに招き,地球と宇宙について情報交換
をする。
C中の生徒が研究発表して,D中の生徒と助
互いにもっている情報をリア
ルタイムに交換する。
専門家からのアドバイスを聞
く。
教授が質問や意見をする。
- 7 -
6
アンケート調査結果に基づく利用内容別の効果,利点と課題
(1) 「TV会議システムの利用に関するアンケート調査」の調査方法
①
調査期間
平成15年12月15日(月)∼平成15年12月25日(木)
②
調査対象
推進校教員150名,センター指導主事31名
③
回収率
推進校教員84.7%(回収数127),センター指導主事100%(回収数31)
(2) 調査結果の考察
支援など利用内容別にかかわった教員と指導主事の回答を集計し,分析を行いました。
①
支援(回答数:支援としての利用にかかわった教員63名と指導主事31名)
指導主事が児童生徒を支援した授業の学習効果として,教員と指導主事の約80%は,
学習への興味・関心・意欲の向上を挙げています。しかし,課題としてTV会議シス
テムの効果的な利用の検討の必要性を65%以上の教員と指導主事が挙げています。こ
れまでの実践から効果がある利用とない利用を整理する必要があります。
課題
学習効果
30.2%
①学習内容の理解の深化
①授業担当者同士の打合せの機会の確
保
50.0%
9.5%
16.7%
③学習内容の定着
79.4%
83.3%
④学習への興味・関心・意欲の向上
23.8%
16.7%
⑤コミュニケーション能力の向上
0%
⑦その他
25.4%
20.8%
6.3%
4.2%
25%
50%
75%
12.7%
12.5%
指導主事
1.6%
0%
0%
100%
教員
4.8%
16.7%
⑦その他
⑧課題はなかった
0%
②
④授業日時の調整
教員
指導主事
12.5%
図4
25.4%
25.0%
⑤校内の協力体制の強化
1.6%
0%
⑧効果はなかった
③TV会議システムの操作の習得
⑥児童生徒のTV会議システム活用能力
の育成
12.7%
4.2%
⑥情報手段の活用能力の向上
65.1%
70.8%
②効果的な利用の検討の必要性
49.2%
62.5%
②学習の幅の拡大
42.9%
45.8%
25%
50%
75%
100%
指導主事が支援した授業の学習効果と課題
相談(回答数:相談としての利用にかかわった教員63名と指導主事31名)
教員の約62%,指導主事の約96%がリアルタイムな相談を利点として挙げています。
しかし,課題として教員の約35%は実施日時の調整を,指導主事の約42%は十分な時
間の確保を挙げています。事前の打ち合せを行い,実施日時を十分に話し合う必要が
あります。また,事前に資料を交換して,時間の効率化を図る必要があります。
課題
利点
61.9%
①リアルタイムな相談が可能
②多くの情報が入手可能
③指導力の向上
31.7%
14.3%
④出張時間の短縮
⑤教員のTV会議システムの操作の習
得
95.8%
③TV会議システムの操作の習得
37.5%
19.0%
0%
14.3%
50%
75%
図5
30.8%
教員
教員
指導主事
1.6%
0.0%
25%
19.2%
④その他
7.9%
16.7%
0%
34.9%
②実施日時の調整
50.0%
6.3%
8.3%
⑥その他
⑦利点はなかった
33.3%
42.3%
①十分な時間の確保
31.7%
16.7%
12.7%
26.9%
⑤課題はなかった
100%
0%
相談の利点と課題
- 8 -
25%
指導主事
50%
75%
100%
③
指導助言・講評
指導助言・講評としての利用は,あまりありませんでしたので,調査項目には入れ
ませんでした。ただし,利用に関する意見や感想には,指導助言・講評について,
「指
導力の向上に役立った。」と記載がありました。有効な利用方法と思いますので,校
内授業研修など様々な機会をとらえて利用することが肝心であると思います。
④
交流(回答数:交流としての利用にかかわった教員25名)
教員の約72%は,学習効果としてコミュニケーション能力の向上を挙げています。
しかし,教員の約52%は,課題として打ち合せの時間の確保,効果的な利用の検討を
挙げています。FAX,電子メールなど非同期的な通信手段を利用する必要があるこ
とが分かりました。本事業には,インターネット上に専用の掲示板がありますので,
今後はこの利用も考えていきたいと思います。
学習効果
①学習内容の理解の深化
課題
①授業担当者同士の打合せの機会の
確保
4.0%
②学習の幅の拡大
16.0%
③学習内容の定着
52.0%
52.0%
②効果的な利用の検討の必要性
4.0%
③TV会議システムの操作の習得
④学習への興味・関心・意欲の向上
48.0%
32.0%
④授業日時の調整
⑤コミュニケーション能力の向上
28.0%
72.0%
8.0%
⑤校内の協力体制の強化
⑥情報手段の活用能力の向上
16.0%
⑦視野の拡大
⑥児童生徒のTV会議システム活用能
力の育成
56.0%
⑧その他
0%
⑨効果はなかった
0%
12.0%
⑦その他
8.0%
教員
教員
0%
⑧課題はなかった
25%
50%
図6
⑤
75%
100%
0%
0%
25%
50%
75%
100%
交流の学習効果と課題
効果のある具体的な利用
TV会議システムを活用して効果のある具体的な利用方法について,推進校の教員
が記述した内容を表7にまとめました。
効果がある利用の多くは,専門的な立場からの支援やTV会議システムの特性を生
かした交流など,TV会議システムを利用する必要性のあるものになっています。
表7
効果のある利用方法
授業
利用
プレゼンテーションソフトウェアによる要点の提示,準備に時間のかかる実験の提示,理解
を助けるビデオ映像や資料の提示,入手困難なビデオ映像の提示,専門性の高い助言や話,
リアルタイムな交流,発表練習時のアドバイス,コース別学習のTT,専門的な技術指導,
発展的な学習時の教材提示,電子顕微鏡などセンターの施設を利用した実験や観察,数時間
連続したコースの担当,ALTの活用,交流によるディベートや討論会,総合的な学習の時
間や特別活動での交流,生徒会の交流
研修
利用
リアルタイムな相談,生徒指導など専門の指導主事に聞くこと,指導主事との教材研究,指
導主事からの資料や教材の提示,各校に居ながらにしての会議,小規模校どうしでの教材研
究や情報交換
- 9 -
7 TV会議システムの利用のポイント
本事業におけるTV会議システムの利用実践とアンケート調査の結果を基にして,T
V会議システムを支援や交流として授業で利用する場合と,相談や指導助言のために研
修で利用する場合のポイントを示します。
(1)授業で利用する場合
①
利用の在り方
1)
必要性のある利用
・児童生徒の実態や教科等の特性を考慮し,ねらいと方法が児童生徒や教師にとって必要性がある
利用となるようにする。
・実際に体験が困難であったり,相手が来校不可能であったりするときに利用する。
・逆に,直に見たり触れたり体験できるときや,担当の教師が指導できるときは利用しない。
2) 能動的な授業展開のある利用
・見るだけ聞くだけなく,意欲が向上するように意見交換など参加型の利用となるようにする。
・交流では1校当たりの活動時間が保障されるように参加校数も考慮する。
3) メリットがデメリットを上回る利用
・TV会議システムは多くのメリットがある。しかし,遅延など特性上の限界もあり,教科の分野
によっては逆効果のときがあるので,メリットとデメリットを考えて利用する。
②
事前には
1)
ねらいと内容を明確にした授業の立案
・児童生徒にどのような力を付けたいか授業のねらいと内容を明確にする。ねらいを達成するために
相手とのかかわりも明確にする。ねらいは両者で一致しなくてもよい。
・ねらいに沿った児童生徒の活動を考えて授業を立案する。なお,児童生徒が画面を凝視する時間が
長時間にならないように配慮する。
2) TV会議システムを利用した相手との打合せ
・児童生徒の交流の前に,担当者どうしの交流が大切である。対面して率直に意見を交わす。
・電子メールやFAXで略案を送付して授業の過程等を把握した上で打合せに臨み,時間を短縮する。
・授業で使用するプレゼンテーションやビデオなどを画面を通して見て,効果があるかを確認する。
・授業時間を確認する。また,授業が伸びる場合があるので,延長できる時間も確認する。
3) 予定の授業以外でもTV会議システムを利用
・昼休みや放課後もTV会議システムを利用し,児童生徒や指導者どうしで意志の疎通を図る。
・一つの単元で数回利用したり,別の教科や単元で利用したりして,利用が継続的になるようにする。
4) 児童生徒への事前指導
・相手を紹介し,今までの経緯,そして,主体的な授業になるように授業のねらいや内容を説明する。
・相手の気持ちを損なわないように,利用のマナーを指導する。
5) 校内の協力体制
・TV会議システムの機能や操作方法を理解する。また,機器のトラブルなど緊急時の対応や協力体
制を確認する。
6) TV会議システムの動作と実施場所の環境をチェック
・相手との接続や音声,画像状況をチェックする。明るさに対して補正機能のあるカメラは天候や照
明により画像の明るさが変わるので.できる限り一定した明るさを保てるカメラ位置や環境にする。
・授業内容によっては,映像のとぎれより音声のとぎれの方が気になるときがある。マイクは教師や
児童生徒の声がはっきりと伝わる場所に設置する。
- 10 -
③
授業中は
1)
TV会議システムを通したTT
・TV会議システムの利用は,画面を通したTTである。しかし,画面からの情報は限界があるので,
全児童生徒の動きは把握ができない。そこで,相手に任せっきりでなく,連携をとって授業を進め
る。
2) 授業形態に応じた座席配置
・できる限りふだん行っているような授業形態に応じた座席配置をして,発表者の体の向きなど児童
生徒がとまどいを感じないようにする。授業内容に応じてTV会議システムの設置場所を考え,必
要であればカメラを2台にして切り換える。
3) TV会議システムの対面性を考慮
・カメラとモニターの方向と高さをできる限り同じくして互いの目線が合うようにし,相手に安心感
を与える。
・児童生徒を緊張させたり集中力を削いだりしないように,必要なとき以外はモニターの電源を切る
などし,相手の情報が入ってこないようにする。
4) 授業の雰囲気に合わせた態度と言葉遣い
・授業中に予想外のことがおきた場合には相手の状況を確認し,その状況に応じた態度と言葉遣いで
臨ませる。ときには児童生徒に任せることも必要である。
・その場の様子が映像と音声でストレートに相手へ伝わるので,失礼な態度など相手の学習の妨げに
ならないような態度をとらせる。特に,多くの学校との交流では連鎖反応的に雰囲気が伝わること
があるので配慮する。
5) 資料の提示の仕方
・画面提示資料と印刷資料のもつ役割に留意して,効果的な資料提示の仕方をする。
④
授業後には
1)
相手へのお礼
・次の授業につながるように児童生徒の感想を送るなどして,感謝の気持ちを表す。
2) 授業の反省
・児童生徒に反省させ,よかったところと悪かったところを認識させる。
・授業について相手と一緒に意見交換し,次回に生かす。
(2) 研修で利用する場合
① 利用の在り方
1)
必要性のある利用
・研修に専門性が要求されたり研修内容に関する情報がなかったりして,校内では解決できないとき
に利用する。
・校内に相談する人がいないときに利用する。
2) 手軽な利用
・職員室で隣にいるように手軽に自分から進んで利用できるような体制を組む。
・TV会議システムの対面性と双方向性を生かし,情報を交換する場として利用する。ただし,セキ
ュリティが確保されていないネットワークでは,個人情報を含む話は避ける。
3) 継続性のある利用
・出向く必要がないので,短時間に相談を行うことが可能である。実践的な指導力を付けるためにも,
研修後の実践結果に基づいた研修を行い継続的に利用すると有効である。
4) 合同の研修
・共通の課題を抱える複数の学校や教員と同時に研修を行い,意見を交換する。
- 11 -
②
事前には
1)
相手との打合せ
・研修を空き時間や放課後にできるように日程調整を行う。
・研修内容や現状,個人か全体かなどの研修の形態を知らせる。
2) 研修時間の短縮
・質問に対する細かな説明資料は,事前に電子メールやFAXで送信する。
3) 研修に使用する教材の著作権
・授業とは違い複製には許諾が必要な場合があるので,著作権へ十分に配慮する。
4) 研修内容に応じた場所の選択
・実験の研修であれば,すぐに必要なものを取り出せる実験室で行うなど研修にあった場所にする。
・他人に聞かれて支障のある内容の研修は,場所やモニターの音量を考慮する。
③
研修中は
1)
双方向で情報交換
・研修の進行者は,研修が一方的にならないように互いに情報や意見を交換するように進める。
2) 気軽に質問できる雰囲気
・理解できなかったことや疑問に思ったことを気軽に質問できるような雰囲気を保つ。
3) 情報手段を活用する分かりやすい説明
・コンピュータやビデオの画面を提示してもらったり,ネットワークでファイルを転送して実際に見
てもらうなど分かりやすい説明になるようにする。
④
研修後には
1)
実践と評価
・研修したことを実践し,評価を行う。
2) 他研修との連携
・校内やセンター,地区の研修と連携を図り,研修を深める。
Ⅳ
まとめ
本研究の成果は,学校の授業と研修におけるTV会議システム利用のポイントをまとめ
ができたことです。今後は,今年度実践の少なかった学校間交流と共同学習,さらには保
護者や地域の人々の利用に力点を置き,その利用の在り方をまとめていきたいと考えてい
ます。
参考文献
秋田県教育委員会.(2004).『平成15年度学校統計一覧』.秋田.
秋田県教育委員会.(2004).『平成15年度学校教育の指針』.秋田.
秋田県総合教育センター.(2001).『情報通信ネットワークの活用による学校間や学校と
地域との交流の在り方』.秋田.
初等中等教育におけるITの活用の推進に関する検討会議.(2002).『ITで築く確かな
学力∼その実現と定着のための視点と方策∼』.文部科学省.
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秋田県総合教育センター 所員研究(個人研究)
インターネット授業推進室 指導主事 稲 荷
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一
清