自動車シュレッダーダストを含む廃プラスチック分解油の ディーゼル燃料

研究・技術論文
19
自動車シュレッダーダストを含む廃プラスチック分解油の
ディーゼル燃料としてのリサイクル手法の提案
遠
武
佐
藤
田
野
賢 一*1
克 彦*2
慶一郎*3
Recycling Techniques as Diesel Fuel of Waste Plastic Decomposition
Oil Containing Automobile Shredder Residue
by
Kenichi ENDOH
Katsuhiko TAKEDA
Keiichiro SANO
Abstract
The Japanese law for automobile recycling was established in 2005. Recently, reduction of automobile shredder
residue which is called ASR is expected and the recycling techniques for several automobile plastics are
developed. However, the flexible polyurethane foam(FPF)of thermosetting resin used for seat cushion and roof
lining, sound absorption materials cannot be recycled easily. Hence, almost FPF are entered in ASR, the quantities are enormous. The FPF has low density and occupies more than 50 vol% in ASR.
On the basis of the above problem, the pyrolysis behavior of FPF in vegetable oil was confirmed to grope for
reasonable recycling technique of FPF in this study. However, FPF decomposition oil has high kinematic viscosity for diesel fuel. On the other hand, other waste plastic decomposition oil(WPDO)which made from polypropylene and polyethylene has low kinematic viscosity. Therefore, this study was made on the blended fuel of FPF
decomposition oil and WPDO decomposition oil for diesel engines.
In this paper, FPF
decomposition process is declared and FPF decomposition oil was made from rapeseed oil
and FPF. And then it was blended with WPDO in order to improve the properties of it. FPF mixing ratios were
selected 5%, 10% and 20% in volume. Then the density and kinematic viscosity of FPF and WPDO blended fuels
were measured. It can be seen that the FPF addition can improve the properties of WPDO. Finally, FPF blended
fuels were burned in a conventional 219-cc diesel engine. It was found that FPF blended fuels can burn in the general diesel engine without troubles. Although the total hydro carbon(THC)and carbon monoxide(CO)are
increased, particle matter(PM)and nitrogen oxides(NOx)in the exhaust gas of FPF blended fuels were
reduced from the gas oil. Moreover, the brake specific fuel consumption(BSFC)of FPF blended fuels were
almost the same with gas oil.
Key words:ASR, Flexible Polyurethane Foam Decomposition Oil, Waste Plastic Decomposition Oil, Diesel Fuel
* 1 関東学院大学大学院工学研究科機械工学専攻
* 2 関東学院大学理工学部機械学系
* 3 関東学院大学人間環境学部人間環境デザイン学科
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工学総合研究所報
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1 .はじめに
日本では,2005年に自動車リサイクル法が施行さ
れ,プラスチックのリサイクルによる ASR(自動車
シュレッダー・ダスト)の低減化が一層求められて
いる.しかしながら,廃車の座席クッションや天井
材,吸音材などに用いられている熱硬化性樹脂の FPF
(Flexible Polyurethane Foam,軟質系発泡ポリウレ
タンフォーム)の殆どはリサイクルされず ASR に混
入し,その量は膨大である.FPF は密度が低く,容積
率では ASR 成分の大半を占めている.また,FPF は,
Fig. 1 Foamed Polyurethane
自動車のみならず,家庭日用品にも多用されている.
例えば,家具クッション,寝具マットレス,ジュータ
ン裏地,洗浄用スポンジ等が挙げられる.国内におけ
る FPF の総生産量は約30万トン/年で,大半は10年以
内の使用で廃棄されるため,FPF の焼却や埋め立て
処分はかなりの量に上り,環境への負荷は大きい.
そこで本研究では,FPF の適正なリサイクル手法
を模索するため,植物油中での FPF の熱分解挙動の
確認を試みた.FPF を高効率に分解する温度や添加
剤などを検討し,FPF 分解油を製造した.そして,
Fig. 2 TG Curves of FPF and Rapeseed Oil
精製した FPF 分解油をディーゼルエンジンに適用し,
燃料消費率などの機関性能および排気ガス特性を明
らかにした.ここでは,自動車シュレッダーダスト
を含む廃プラスチックをディーゼル燃料としてリサ
イクルする新しい手法を提案する.
2 .2
ポリウレタンの分解実験と考察
実験に用いた反応装置をFig. 3 に示す.まず SUS
製ビーカに150 g の菜種油を入れる.所定の反応温度
まで加熱した後,立方体( 1 cm3)に切断した FPF
2 .FPF の熱分解挙動 1 )
2 .1
発泡ウレタンと菜種油
主剤のポリオール(旭硝子社製)と硬化剤のイソ
シアネート(住友バイエルン社製)を所定の割合で
混合し,発泡成形させた自動車座席用のFPF を Fig. 1
に示す.FPF は連続気泡体であり,構造体の全ての
空孔内に溶媒の菜種油が浸入するため,その分解反
応は効率よく起こる.なお,硬質ウレタンの場合で
は,独立発泡体であるため,構造体の表面のみで菜
種油と接触反応し,その分解性は劣っていた.大気
下における FPF と溶媒の菜種油(日清オイリオ製)
の T G 曲線を Fig. 2 示す.FPF を分解する際の温度
は,FPF の分解が速やかに進行する300℃以上で,か
つ菜種油の熱分解反応がさほど進行しない350℃未
満が望ましいと判断した.
Fig. 3 Outline of the Reactor
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Fig. 4
Relationship of Decomposition Rate and Reaction
Temperature
Fig. 6 FTIR Spectrum of FPF Pyrolyzed Oil
Fig. 5 The Decomposition Rate for KOH Added Amount
(密度45kg/m3)を 3 g 投入し,所定温度を保持しな
Fig. 7 Pyrolysis of Polyurethane in Vegetable Oil
がら,FPF が完全に分解して液化する迄の時間を計
測し,分解速度を求めた.Fig. 4 に反応温度と FPF
℃で30分間反応させたものである.菜種油の脂肪酸
の分解速度の関係(アレニウスプロット)を示す.
やエステル結合,C=C の検出ピークが顕著に認め
温度の上昇に伴い,FPF の分解性は上昇し,高い温
られる.さらに,FPF 由来のエーテル結合やメチレ
度依存性(正の活性化エネルギー)を示している.
ン基,エステル結合,アミド基のピークが確認でき
Fig. 5 に KOH の添加量に対する FPF の分解速度を
る.ポリウレタンのグリコール中での熱分解や加水
示す.ここでの反応温度は280℃と低くした.KOH
分解などの他の研究 2 ,3 )を参考にすると,大気下で
の添加量の増加に伴い,FPF の分解速度は著しく向
加熱された菜種油中では,Fig. 7 に示すポリウレタ
上する.無添加の菜種油中では FPF は約70分で分解
ンの熱分解反応が進行すると推測する.まず,加熱
するが,KOHを 1 wt%添加することにより,分解時
による菜種油の分解反応と重合反応が開始する.同
間を約 4 分の 1 に短縮できた.なお,NaOH の添加
時にポリウレタンも熱せられて分解し,ポリオール
実験では,KOH より分解性の上昇は低かった.アル
類が生成する.次いで,生成したアミド基を有する
カリ金属において,Na は K よりも最外殻電子が原子
ポリオールからカルバミン酸とアルコール類が生成
核に近くイオン化率が低いためと考えられる.
し,さらに反応が進み,カルバミン酸は分解され,
Fig. 6 に FPF 分解油のFTIRスペクトルを示す.こ
の試料は,FPF を100 g,菜種油を150 g を入れ,320
最終的にアミン類が生成し,二酸化炭素も発生する
と推察される.
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3 .ディーゼルエンジン試験
FPF の植物油中での熱分解挙動が明らかとなり,
精製された分解油を燃料油としてリサイクルするこ
とが可能になった.しかしながら,ディーゼル燃料
としては粘度が非常に高いため,ディーゼルエンジ
ンへの適用は困難なものと推察される.一方,ポリ
プロピレンやポリエチレンなどの廃プラスチックか
ら熱分解によって製造した油(WPDO:Waste
Plastic Decomposition Oil)は,粘度が低いため,デ
ィーゼル燃料としては課題が残っている.そこで,
Fig. 8 Density of the Fuels
本研究では,それら両者の混合に着目した.粘度の
高い FPF 分解油を,粘度の低い WPDO に混合して,
両者の欠点を補えるものと考えられる.
3 .1
供試燃料の物性値測定
ディーゼル燃料は,燃料油自体に燃料噴射ポンプ
やインジェクター内部の潤滑を補うことが求められ
る.そのため,適度な動粘度を有していることが,
燃料油として必要とされる.また,燃料噴霧の平均
粒径や貫通力の大小に,燃料油の密度や動粘度は,
多大な影響を与える.したがって,密度と動粘度が
Fig. 9 Kinematic Viscosity of the Fuels
適度なものであることを確認する必要がある.そこ
で本研究では,エンジン試験を行う前に,それらの
る.また,FPF は,FPF の混合割合が増えるにつれ
値を確認した.
密度の値が大きくなることがわかる.密度が高くな
供試燃料には,FPF 分解油をWPDO に 5 %,10%,
るということは,燃料噴射時期において液滴の貫通
20%混合して製造したものを用いた.また,比較対
力に影響する.密度が高くなり,貫通力が増すと,
象として JIS 2 号軽油とニート廃プラスチック分解油
噴霧は燃焼室に広く拡散し,多くの空気と遭遇する
を用いた.それぞれを,Gas Oil,WPDO,FPF 5 %,
ことができる.しかし,密度が高くなりすぎると燃
FPF 10%,FPF 20%と称する.
料液滴は燃焼室壁面に到達してしまい,未燃焼分増
燃料の物性値測定は,各供試燃料を電熱器により
加などの影響を及ぼす.このように,燃料油の密度
加熱し,設定温度に保持しながら,フロート式比重
は燃料噴霧の貫通力に影響を及ぼすが,WPDO の低
計により密度を,音叉型振動式密度計(A & D 製,
い密度は,FPF の混合により増加し,軽油に近づい
SV − 10)により粘度を測定し,動粘度を求めた.
ていることがわかる.つまり,FPF によって密度が
Fig. 8 , Fig. 9 に密度および動粘度の計測結果を示
最適化されているといえる.
す.この図は,横軸に燃料温度をとり,縦軸に密度
と動粘度をとったものである.
また,動粘度を303[K]において比較すると,軽油
,WPDOは,1. 70[mm2/s]と最も
は,2. 50[mm2/s]
測定結果より,303[K]において比較すると,軽
,FPF 10%は,3. 50
低く,FPF 5 %は,2. 18[mm2/s]
,WPDO は,779[kg/m 3]
,
油では,816[kg/m 3]
,FPF 20%は,4. 84[mm2/s]と最も高い値
[mm2/s]
FPF 5 %は,786[kg/m ]
,FPF 10%は,796[kg/
となった.FPF の混合割合を増やしていくにつれ,
,FPF 20%は,813[kg/m ]
,となっている.軽
m]
動粘度の値が高くなることがわかる.動粘度が小さ
油とWPDO では,WPDO のほうが低いことがわか
くなるほど燃料噴霧の粒径が細かくなることを示し
3
3
3
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ている.しかしながら,動粘度が小さくなるほど燃
実験条件は,動力計にて負荷を与えて供試機関を
料油が補う潤滑性が乏しくなり,燃料ポンプなどの
回転数3000[rpm]一定とした.動力計の負荷は,供
損傷が懸念されるようになる.したがって,動粘度
試機関の定格出力付近を最大負荷とし,最大負荷ま
は適度なものであることが望ましいといえ,WPDO
で,5 段階に設定した.そして,それぞれの負荷に
は軽油に比べて動粘度が低いが,FPF の混合により,
て,燃料消費率などの機関性能測定,排気ガス分析,
軽油同等に改善されていることがわかる.つまり,
燃焼解析をおこなった.なお,燃料噴射時期や噴射
FPF によって動粘度が最適化されているといえる.
圧力などは変更せず,機関本体には何も改造を加え
ずに実験をおこなった.
3 .2
実験装置および条件
供試機関には,ヤンマー製空冷 4 サイクルディー
3 .3
結果と考察
ゼル機関(L48V)を使用した.Table. 1に供試機関
Fig. 11 に各供試燃料の窒素酸化物(NOx)測定結
の主要諸元を,Fig. 10 に実験装置の概略図を示す.
果を示す.この図は,各供試燃料の理論空気量が異
実験装置は,供試機関と水動力計(Zöller & Co.,
なることから,当量比(Equivalent Ratio)を横軸に
,層流型空気流量計(司測研製,LFE−10B)
,
1−130)
とり,縦軸にNOxを示したものである.なお,以降
排気ガス分析装置(堀場製作所製,MWXA9100D)
,
の排気ガス測定結果も同様に,横軸を当量比として
,燃
オパシメータ(堀場製作所製,MEXA−600SW)
測定結果を比較していく.
,各種熱電対や
焼解析装置(横河電気製,DL−750)
データロガなどから構成されている.
,
Fig. 11より,当量比0. 6付近では,軽油は685[ppm]
,FPF 5 %は565[ppm]
,FPF 10
WPDO は655[ppm]
%は610[ppm]
,FPF 20%は630[ppm]という値を示
Table 1 Test Engine Specifcations
した.
FPF は菜種油を使用しているため,含酸素燃料で
ある.含酸素燃料は,軽油よりも燃焼が促進される
ため,一般的には NOx が増加する 4 ,5 ).しかし,軽
油とFPF 混合燃料を比較すると,軽油よりもFPF 混
合燃料のほうが最大約18%減少していることがわか
る.この原因は,FPF 混合燃料の着火時期が遅角化
されたためではないかと考えられる.FPF は,発火
点が軽油に比べて高いために,自己着火するまでに
充分な熱を必要とするため,着火遅れ期間が長くな
Fig. 10
Experimental Apparatus
Fig. 11
NOx Emission
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Fig. 12
PM Emission
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Fig. 13 THC Emission
る.そして,着火遅れ期間が長くなったことにより,
燃焼開始時期が上死点の後方に遅角されたため,予
混合燃焼期間の燃焼圧力が低く抑えられ,NOx の生
成が抑制されたものと考えられる 6 ).
Fig. 12 に,粒子状物質(PM)測定結果を示す,当
,WPDO では0. 45
量比0. 6付近で,軽油では1. 67[m− 1]
,FPF 5 %では0. 45[m− 1]
,FPF 10%では0. 64
[m− 1]
,FPF 20%では0. 99[m− 1]という値を示した.
[m− 1]
Fig. 12より,WPDO が一番低い値を示し,FPF の
混合割合が増加するごとに PM の量が増えているこ
とがわかる.WPDO の PM が非常に低くなった原因
Fig. 14 CO Emission
は,WPDO は動粘度が低く,噴霧粒径が小さいため,
完全燃焼が促進されたためと考えられる.そして,
方に遅れたため,燃焼温度が抑制され,THCが増加
FPF の混合割合が増すにつれ,PM が増加している
したものと推察される 8 ).このように,着火遅れの
原因は,分子量の大きいポリウレタンを混合したこ
長期化によって THC は増加してしまったが,前述の
とで,これがスモークの核となり,PM が増加した
ように NOx は低減されたものと考えられる.一般的
のではないかと推察される .しかしながら,最も
には,NOx と PM との間にトレードオフが作られる
増加した FPF 20%においても,軽油に比べて40%低
が,本研究では NOx と PM の同時低減に成功したが,
減されているため,FPF 混合による PM の増加は問
NOx と THC の間にトレードオフを作ってしまった
題ないものと考えられる.
といえる.THC の増加は良いものではないが,酸化
7)
Fig. 13 に,全炭化水素(THC)の測定結果を示す.
また,Fig. 14 に,一酸化炭素(CO)の測定結果を示
す.両者とも,FPF 混合燃料は軽油よりも増加して
触媒を用いることによって低減できるため,問題な
いものと考えられる.
Fig. 15 に,二酸化炭素(CO2)の測定結果を示す.
いることがわかる.特に,未燃焼の燃料から生成さ
当量比0. 6付近において,軽油は8. 3[%]
,WPDO は
れる THC の排出量が高いことがわかる.これは,着
9. 7[%]
,FPF 5 %は7. 7[%]
,FPF 10%は7. 8[%]
,
火遅れ期間の長期化が原因ではないかと考えられる.
FPF 20%は8. 00[%]という値を示した.
着火遅れ期間の長期化により,燃焼期間自体が短く
これらの結果より,FPF の混合によってCO2 排出
なり,完全燃焼が得られなかったためではないかと
量は軽油よりも低減していることがわかる.しかし
考えられる.また,燃焼開始時期が上死点よりも下
ながら,これはエンジンアウトの見かけのCO2 の値
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4 .結論
(1)FPF は大気下の菜種油中で容易に加熱分解でき
ることが確認できた.また,FPF の分解反応は,
高い温度依存性を示した.
(2)菜種油中に KOH を少量添加することで,FPF の
反応温度の低減化と分解速度の向上が顕著に図
られた.
(3)菜種油中で FPF は熱分解され,ポリオールやカ
ルバミン酸となり,分子量の小さいアミン類も
油中に残存していると推察する.
(4)動粘度と密度は,ともに FPF の混合割合が増加
Fig. 15
CO2 Emission
するにつれて値が増加し,WPDO の物性値が改
善されることが確認された.
(5)NOx 排出量では,軽油と比較して WPDO と FPF
混合燃料はともに,全負荷域において低減した.
特に,FPF 5 %では軽油と比較して最大で約40
%低減した.
(6)PM は,軽油と比較してWPDO と FPF 混合燃料
ともに,全負荷域において低減した.特に,高
負荷域では大幅な低減に成功し,FPF 5 %では
最大で約70%低減した.
(7)燃料消費率は,軽油と WPDO ,FPF 混合燃料を
Fig. 16
比較すると,ほぼ同等の値を示した.FPF 混合
Brake Specific Fuel Consumption
燃料の燃焼時期は遅角化されているため,さら
であり,酸化触媒後の真のCO2 は増減していないも
に燃料消費率の最適化は可能であるといえる.
のと推察される.つまり,THCなどの未燃焼物質が
増えたため,それらを酸化触媒で酸化させれば,CO2
は増加するため,CO2 排出量の増減はほとんどない
ものと考えられる.
謝辞
最後に,本研究は,2009年度研究費補助「廃プラ
スチック分解油をディーゼル内燃機関で利用する新
Fig. 16 に,燃料消費率(BSFC)の測定結果を示
規プロセスの研究」を受けたことを記し,関係各位
す.この結果から,FPF 混合燃料は軽油とほぼ同等
に深謝したい.また,エンジン試験のデータ取得に
の燃料消費率が得られたことがわかる.着火遅れが
は,2010年度卒研生である飯田紘嗣氏,石井貴将氏
長期化して燃焼期間が遅角化されると,一般的には
にも協力をいただいた.さらに,2009年度卒研生で
燃料消費率は悪化してしまう 9 ).しかしながら,着
ある村山正晃氏の研究成果も,本研究の基盤になっ
火遅れが長期化しているにも拘らず,燃料消費率は
ていることを記して本稿を閉じたい.
悪化していない結果が得られた.これは,FPF 混合
燃料の低位発熱量が,軽油と同等以上の値を有して
参考文献
いるためであると推察される.したがって,燃料噴
1 )高橋俊一,大嶋剛,佐藤貞雄,佐野慶一郎,高
射時期などの調整によって,燃焼期間を最適化すれ
柳正明:自動車シュレッダーに含まれる発泡ポ
ば,軽油以上に良好な燃料消費率が得られる可能性
リウレタンの植物油中での熱分解,プラスチッ
があるといえる.
ク化学リサイクル研究会予稿集,pp48−49(2006)
26
工学総合研究所報
2 )田中雅夫,村上和美,前川明弘,船木淳夫:廃
FPR のリサイクル技術の開発,三重県科学技術
振興センター工業研究部
研究報告
No. 32,
pp97−100(2008)
3 )中川尚治,卜部豊之,日高優,前川哲也,奥本
佐登志,吉田弘之:亜臨界水分解による FRP リ
サイクル技術の開発,ネットワークポリマー
Vol. 27 No. 2,pp28−35(2006)
4 )武田秀幸,森谷信次:ディーゼル燃料としての
メチルエステルの諸特性,日本マリンエンジニ
アリング学会誌,42巻,3 号,pp455−459(2007)
5 )星岩男,武田秀幸,森谷信次:菜種油メチルエ
ステル燃料のディーゼル機関への適用,日本大
学工学部紀要,47巻,2 号,pp65−71(2006)
6 )鍋谷浩志,岩本悟志:バイオディーゼル燃料に
関する研究開発の動向,日本マリンエンジニア
リング学会誌,40巻,6 号,pp 7 −10(2005)
7 )木下英二,市場真一,池田大樹:短・中鎖飽和
脂肪酸メチルエステルによるディーゼル燃焼特
性,自動車技術会論文集,42巻,6 号,pp1367−
1372(2011)
8 )李鉄,泉洋行,岡部幸弘,首藤登志夫,小川英
之:ETBE混合燃料の低温ディーゼル燃焼特性,
自動車技術会論文集,38巻,4 号,pp127 −132
(2007)
9 )小澤雄哉,吉田幸司,庄司秀夫:多種脂肪酸メ
チルエステル混合燃料が圧縮着火機関性能に及
ぼす影響,自動車技術会論文集,42巻,2 号,
pp539−544(2011)
No. 42,2 0 1 4