公的組織の効率性とインセンティブ:日米大学比較

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公的組織の効率性とインセンティブ:日米大学比較
- カルフォニア大学サンタバーバラ校におけるインタビュー -*+
筑波大学社会工学系
西條辰義++
1993年5月
* 本研究は日本証券奨学財団研究調査助成金の補助を受けた。記して感謝したい。なお、本稿はカルフォニ
ア大学サンタバーバラ校で実施したインタビューのうち約半分であり未完成のままである。残りのインタ
ビューおよび日本の大学におけるインタビューの結果を完成させる予定である。
+ 本稿を完成させる予定ではあったが,未完のまま今日までに至ってしまっている。時間的および資金的に
に余裕があれば,再びこの調査を継続したいと願っている。(1999年11月12日記)
++ 現在の所属:大阪大学社会経済研究所 電子メールアドレス:[email protected]
ホームページ:http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~saijo 電話:06-6879-8571
UCSB インタビュー
T. Saijo
UCサンタバーバラにおける人事
大学における人事には2つの種類がある。一般(Non-academic)職と教育・研究(Academic)職と
である。この2つの職種の雇用、解雇などの様子を見ることにしよう。
一般職
一般職人事局(Personnel services)の最高責任者であるホセ・エスカビィード氏は副学長補佐(A
ssistant Vice Chancellor)で、この部局の9つの部署を統括している。エスカビィード氏はもと
もとスペイン語学部の非常勤講師でUCSBに就職したのだが、教育よりも行政職に興味をもち、
数年の教職の後、人事局に入り、それ以来人事局で23年間勤めている。
一般職で人員を雇用する際には、連邦法による制約がいくつかある。まず移民法により合衆国市
民以外を雇うことはできない。勿論、例外があって働けるビザを持っている外国人、市民権(Green
card)を得ている外国人は雇用の対象になる。仕事に応募する人は、ソーシャル・セキュリティ・
ナンバーおよび運転免許証を持っていればその番号を雇用者に知らせなければならない。新たに人
員を雇用する際には、職種、雇用の条件などを広告することも連邦法で義務づけられている。秘書、
清掃担当者、帳簿係などの仕事は、地元の新聞であるサンタバーバラ・ニュースプレスやロスアン
ジェルス・タイムズに広告をのせる。もう少し専門的な仕事の場合は、教育関係の仕事を広告して
いるクロニクル(The Chronicle)にのせることになる。学内でもジョブ・ブリテンを発行し、各部
局に配布している。一般職人事局では年間7万ドル(910万円)の広告費を支出している。
新たな人員が必要かどうかは人事局で判断がなされるのではない。勿論、ある部局で雇える人員
には制限がある。かりに、たとえば経済学部が学部長付きの秘書を解雇し新しい秘書を雇用しよう
としているとしよう。経済学部は仕事の内容、資格などを人事局に提出する。人事局は経済学部が
提出した情報に基づいて広告をだす。1992年の夏に実際にサンタバーバラ・ニュースプレスに
出された広告をみてみよう。
学部長付きアシスタント 経済学部 (--アシスタントII) 再募集
仕事番号:92-07-003 SC $1966.00/月 8/7/92. 補充されない場合は再募集
注意:
注意: 以前応募したものは応募書類の必要無し。
義務: 教官の新規雇用、昇進の分野において学部長およびに事務処理の補助を提供。教官人事
に関する処理手続きについて学部長および管理統括者にアドバイス。リポート、データ、通信、
企画書の作成においてパーソナル・コンピューターを使用。教官の新規採用と選択におけるあ
らゆる側面における調整。教官の昇進の検討に関する資料集め。雇用、昇進、夏の給与、休暇、
サバティカルに関する人事書類の準備および給与の記録カードの維持。
資格: 事務処理能力および計画能力。自主的に仕事をこなし繊細かつ機密情報を扱う能力。細
部にわたり注意を払う能力と正確さ。同時進行のプロジェクトを調整し順序づける能力。パー
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UCSB インタビュー
T. Saijo
ソナル・コンピューターの操作能力; マイクロソフト・ワードおよびdBase III+の知識が望ま
しい。
この広告を見て要件を満たすと思う候補者は履歴書を添えて応募する。応募の際の書類は連邦法に
よりすべてマイクロフィルムにして5年間保存しなければならない。これらの記録は数年に一度州
ないしは連邦政府によって査察を受けるとともに、何がしかの差別があるとの訴えがあった場合に
もう一度用いられることになる。また連邦法は身体的な特徴によって差別をしてはならないことを
うたっている。仕事が遂行可能ならば、その雇用者に便宜をはかり環境を整えねばならない。
候補者はアポイントメントをとりインタビューを受けることになる。インタビューがどのように
行われるのか、また意思決定がどのようになされるのかは部局にまかされている。上記の広告の場
合は経済学部がすべてを決める。経済学部はインタビュアーとして経済学部長と経済学部における
管理統括者の2人があたり、意思決定もこの2人がする。インタビューに際してはインタビュアー
は候補者の宗教、家族関係など私事に関することはこれも連邦法で聞いてはならないことになって
いるし、候補者は聞かれても答える必要がない。
各部局の意思決定は人事局に伝えらえる。通常、各部局の意思決定に人事局が介入することはな
いが、50件に1件ぐらいの割合で人事局が意思決定の根拠を問うことがある。アプリケイション
を見るとある候補者のほうが明らかに適切であるにも関わらず、別の候補者が選ばれている場合な
どである。芸術学部で予算を管理する事務官を雇用する予定があり、それに基づいて広告がなされ、
ある候補者が選ばれた。人事局でどうみると別の候補者が優れている。学部長に問い合わせてみる
と、選ばれた候補者は現在芸術学部で事務職をしており、同じ学部の中で彼女は高い給与体系と責
任のある職種に応募したのだそうだ。彼女はヨーロッパの美術館に非常に詳しく芸術学部の利益に
なると学部長は判断した。しかし、職責は予算の管理で芸術とは直接関係がない。人事局は芸術学
部の決定を不可とし、再考を要請した。その結果、別の候補者が選ばれた。このようなケースは約
200人に1人ぐらいの割合でおこるようである。以上のような人事局の役割は2つの意味を持つ。
将来有り得る監査から芸術学部を守ることができるし、選ばれなかった候補者からの訴訟に備える
ことができる。かりに選ばれなかった候補者から訴訟がある場合、学部・部局が直接対処するので
はなく、人事局が対処し、情報は人事局からのみ発せられることになる。これは、学部・部局が直
面する障害をできるだけ最小限にすることにつながる。人事に関する情報を集権化することによる
メリットの一つである。もうひとつは、同じ職場で働いているが故に「ノー」が言いにくい学部長
に代わって「ノー」を伝えることができる。
UCSBには約4000人の正規の一般職職員とともに一時雇用の一般職職員が雇用されており、
そのうちの約10%強にあたる410人ぐらいが毎年新たに雇用されている。正規の一般職職員に
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UCSB インタビュー
T. Saijo
は4つのカテゴリーがある。(1) スタッフ(1662人) (2) 行政・専門職(Administrative and Prof
essional Staffs, APSと略, 550人) (3) 管理・専門職(Management and Professional Staffs, M
APと略, 91人) (4) エグゼクティブ(Executives 13人)。職員は600ほどの職種に分類されてお
り、分類ごとに給与と昇級が異なっている。2、3の職種を例にとってみよう。
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
----------------------------------------------------------------------アシスタントII
1996
2041
2085
2129
2172
2221
2266
2391
2371
消防士
2666
2725
2794
2854
2918
2987
3058
3133
3205
会計士II
3808.33 - 5716.67
表の左端は職種(Title)を示し、数値は月の給与を示す。表の上の数字は昇進のステップで、ス
テップ1から5まである。昇進するにつれてより高いステップに移動する。職種によりかなり給与
が異なっていることがわかる。余談だが、キャンパスに消防署があるので、消防士という職種もあ
る。会計士の場合はステップがきまっておらず、職員の資格とパフォーマンスによって給与が上記
の範囲内で決まる。給与の額はどのように決めているのだろうか。人事局の仕事の分類を行うセク
ションが大学以外で同様の職の給与を調べ、ほぼその平均を給与表に用いている。
行政・専門職(APS)の場合には6段階の階級があり、階級1の最低給与は年収28,400
ドルで階級6の最高給与は年収68,600ドルになっている。各部局の副ディレクター、副マネ
ジャー、コーディネイター、看護婦などがこれにあたる。さらに管理・専門職(MAP)の場合に
も6段階の階級があり、階級1の最低給与が年収45,700ドル、階級6の最高給与が年収11
0,400ドルである。この範中には各部局のディレクター、マネジャー、ディーンなどが入って
いる。イグゼクティブにも6つの階級があり、最低が年収70,900ドル、最高が254,80
0ドルとなっている。プロボスト、副学長、学長クラスがこれにあたる。
スタッフ以外の職員、とりわけセグゼクティブの職員は、彼らの上司により解雇されることがあ
る。例えば、学長がかわったときなど副学長、プロボストなどが総入れ替えになったりする。テ
ニュアのある教官がディーンになっている場合は、ディーンをやめると元の学部に帰り教鞭をとる
ことになる。教官でない場合は、新たに仕事を探さねばならない。プロボストクラスの仕事の全国
マーケットができているようである。高い給与と十分な保証とは裏腹に雇用そのものが保証されて
いないのである。給与の低いスタッフは毎年上司により評価を受ける。この評価に基づいて給与体
系のステップが上昇したり昇級がなかったりする。3日間連絡無しで欠勤した場合は、自動的に解
雇される。パーフォマンスがよくなかったり、欠勤が多かったり、上司の命令に服従しなかった場
合は解雇される。勿論、解雇をいいわたされた職員は弁護士を雇って法廷で争ったり、仲介者をた
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てたりする。UCSBでは毎年10人から15人のスタッフの職員を解雇しているが、そのうちの
半数が弁護士をたてるのだそうだ。
スタッフの職員は仕事や資金がないという理由で一時解雇されることがある。通常はその職種に
何年勤めているのかが基準で、長く勤めていればいるほど一時解雇されにくくなる。勿論、ある職
員が特殊任務についており、その人しかその仕事ができない場合は一時解雇の対象外になったりす
る。UCSBでは昨年度30人一時解雇をし、今年度は40人の一時解雇を予定している。
アカデミック・アポイントメント
アカデミック・アポイントメント
学務担当副学長が夏期休暇中だったので、副学長のもとで働いているシニア・アドミニストラ
ティブ・アナリストのボビー・フェンスキさんにインタビューをお願いした。彼女の経歴を伺った
ところ、まずケミカル・エンジニアリング学部の学部長付きの秘書を2年ほどした後、アシスタン
ト・アナリストに昇進した。このポジションにつくためには、雇用、昇進などに関する大学の細則
に習熟する必要がある。フェンスキさん自身の昇進の意思決定はアナリストの長であるプリンシパ
ル・アナリストが行う。このポジションで2年半ほど過ごした後、アカデミック・アポイントメン
トのエキスパートとみなされる現在のポジションを得ている。彼女の給与表はAPSである。まだ
大学卒の学位をとっていないので夜間の学校に通っているそうだ。MAPの給与体系に移行できる
のも近いのではないかと尋ねると、「もちろん」という返事がかえってきた。
ある学部で新しく正規の教官を雇用する場合には、まずポストを確保しなければならない。学部
長は新たなポストの要求をカレッジに行う。カレッジはアカデミック・セネットの委員会のひとつ
であるCEPAP(Committee on Educational Policy and Academic Planning)に諮問する。ここ
での結果が学務担当副学長に報告される。副学長が最終意思決定をするという手順である。ここで
ポストが確保できると求人を行う。ポストにふさわしい人材が見つかると、学部長は再びカレッジ
に書類を提出する。カレッジはCEPAPに諮問をするが、CEPAPではその候補者の是非を決
定するために学内から数人の専門家を選び小委員会を作る。その小委員会の決定が副学長、学長に
報告され、ここで最終意思決定がなされる。学部での意思決定がCEPAPないしは副学長レベル
で覆されることがある。このような場合はあまり多くなく、7%前後である。
助教授で採用されると、約6年の後にテニュアと呼ばれる終身雇用の権利を授与されるかどうか
の意思決定がなされる。テニュアの意思決定とは別に2年ごとに査察(Review)があり、これにより
給与のステップが上がったりする。この査察による給与の上昇のことをメリット・インクリース(M
erit Increase)と呼んでいる。研究業績が著しくよい助教授は6年以下でテニュアをとることがあ
る。テニュアの決定のために、以下の5つを準備しなければならない。その研究者は、彼(女)の雑
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誌論文などを添えて研究業績のリストを作成する。2つ目に、その助教授の専門分野における専門
家による業績評価が必要である。学外から6人の専門家が選ばれ、その助教授の業績が詳細にわ
たって評価される。その評価はCEPAPにより諮問された委員会に報告される。この評価の内容
は当事者である助教授が見ることはできるが、誰が書いたのかはわからないようになっている。3
つ目に、その研究者の教育評価が必要となる。主には、学生による教育評価が重要である。4つ目
に、学会における活動記録を作成しなければならない。学会における論文発表、学会における役職、
雑誌論文のレフリーの仕事の記録などである。5つ目には、大学や学部における委員会などの活動、
地域社会における活動があげられる。4つ目と5つ目は、最初に述べた研究業績とともに履歴書の
中で述べることになっている。テニュアを得る教官の割合は、年によって異なるが3人に2人ぐら
いの割合らしい。もっともテニュアの意思決定に至るまでに、テニュアがとれないと判断した助教
授は、もっとランクの低い学校に早い時期に職を探すことになる。それゆえにテニュアの意思決定
のまな板に上るということは、学部内でほぼとれるであろうとの何らかの了解があったと考えて良
い。それ故に3人に2人ぐらいの比率でテニュアが与えられるということは決して比率が高いとい
うことではない。
教官の給与は給与表によって決まると思うかも知れないが、決してそうではない。業績はあるが、
給与が低いと考える教官は、教官のマーケットにでる。すなわち現在の大学をやめて他の大学に変
わる用意があることを示すのである。他の大学から給与を含めて研究条件、居住条件のよいオ
ファーがあると、その教官は、その旨、学部長に知らせる。学部長は、その教官を残しておきたい
のならCEPAPを通じて副学長にカウンター・オファーを出すことをすすめる。カウンター・オ
ファーに対し、また別の学校に打診をし、何度かの繰り返しを経て、どこの大学に行くのかを決め
るのである。給与のインフレーションが起こるわけである。カルフォニア大学の現行の仕組みでは、
外部からのオファーをもらわないことには大幅な給与の上昇は見込めない。UCサンタバーバラに
は750人ほどの正規の教官がいるが、給与表の上限をこえてしまっている教官が約40人いる。
各々の分野でトップ・クラスと考えられている人たちである。
ジョイ・ウイリアムズさんの場合
ジョイ・ウイリアムズさんの場合
ジョイさんを訪ねて化学部の受付に行き、「ロング夫人をお願いします。3時からアポイントメ
ントをとっております」といったところ、受付の年配の御婦人はきょとんとした顔をされ、そんな
人はここにはいないとおっしゃる。「L−O−N−Gとつづるんです」といっても、ここに15年
以上勤めているが、そんな人は化学部にいなかったとおっしゃる。そんな騒ぎを奥で聞いていた彼
女が、「私がロング夫人です」とでてこられた。彼女の夫であるロング氏からジョイさんを紹介さ
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T. Saijo
れていたので、てっきりジョイ・ロングさんだとばかり思っていたのが間違いだった。彼女は旧姓
を職場で使っているのである。
ウイリアムズさんは、化学部における管理・行政の頂点に立つ。彼女のもとに直属の職員が7人
いる。その配下の職員を含めると正規の職員約30人の指揮官である。化学部における彼女の役割
はと聞くと、教官が管理・行政に煩わされることなく研究・教育に専心できる環境を作ることであ
るという答が返ってきた。39才の彼女は電気・機材、機械、財務、グラス器具作製、学部事務、
大学院、学部学生などの部局を統括している。
化学部には28人の教官、約100人の大学院生、約60人のポスト院生、約250人の専攻学
生がいる。化学を専攻しない学生も教育の一貫として化学の授業・演習をとる。約3000人の専
門外の学生である。化学部の年間予算は、約700万ドル(9億1千万円)でそのうち、300万
ドルが大学を通じて州政府から支給され、残りの400万ドルは全米科学財団や民間から支給され
た研究費である。アメリカでは各専門分野で学部のランキングをつける。教官の質、大学院プログ
ラムの充実度、学部の充実度など様々なランキングがある。教官が論文を書けば、その論文を引用
して新たな論文が生産される。論文1本あたり、何回その論文が引用されたのかによってランキン
グがつけられる。ある期間、その学部の教官によって生産された論文の数とそれらの論文が引用さ
れた回数を数えることによって学部の1本の論文あたりの平均引用数が計算できる。これによって
世界の化学部の引用度数によるランキングができあがる。1984年から1990年までの間に生
産された論文の引用度数によるとUCSBは世界第4位にランクされいる。ちなみに50位以内に
ランクされた日本の大学はない。このランクだけでUCSBの化学部の質を決めるのは危険ではあ
るが、他のランクなどを見ると、アメリカでトップ10ないしは20に入っている学部であること
には間違いがないようである。州財政の破綻ゆえに教育費の大幅な削減が見込まれている中でも、
化学部ではむこう数年のうちに教官を10人ほど増やし、弱い分野を補強する計画が実行されつつ
ある。さらには物理・化学系の新しいビルが建築中でもある。化学部はUCSBを代表する学部の
ひとつで、しかも大学が財政的に困難な状態になっても十分学長からの支持が得られる学部である。
ウイリアムズさんはかなりの勢いで拡張しつつある学部の管理・行政のトップなのである。
彼女は1971年にUCSBに入学し、社会学を専攻しつつ教職もとり75年に卒業した。大学
3年のときから中央購買部で週20時間のアルバイトを始めた。中央購買部というのは大学の各学
部、部局を顧客にした店で、一般客は扱っていない。このアルバイトはワーク・スタディと呼ばれ
ており、成績などのよい学生に対して与えられる一種の奨学金の役割を果たしている。彼女に支払
う賃金の半分は連邦政府、残りの半分は彼女の場合中央購買部が持つのである。正規には週20時
間の仕事ではあるが、それほどは仕事をしなくとも良かったようである。
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-need further information for work study - 卒業後、小学校の先生をし、6年生を担当したが、学校の先生に向いていないことを知った彼女は、
学生時代アルバイトをした中央購買部で一時的な事務の仕事があることを聞き、これに応募しフ
ル・タイムではあるが一時的な事務官の仕事についた。UCSBの事務職では出発点の仕事で、大
学卒であるからといって初任給が高いわけではない。ここで半年ほど仕事をした後、正規雇用の職
員になり、秘書の仕事を始めた。ここでは主に予算関係の仕事に携わった。77年に教育学部大学
院のディーン付きの秘書(Administrative Assistant I)になり、主に人事の仕事を覚えた。こ
こで1年半ほど過ごした後、約半年の休暇を取り、彼女の夫と共に世界の各地を旅行したのだそう
だ。この半年間、給与はでないが、帰ってきたときにも元の仕事が保証されていたのだそうである。
事務官も半年単位で給与なしのリーブ(leave)が取れるのである。この旅行後、79年に大学本
部の研究・開発局に秘書(Adminstrative Assistant II)として移動し、ここでは主に研究費・
契約の仕事をした。ここで半年過ごし、数学部において学部の管理・行政の責任者を募集している
のを知り、これに応募し管理統括者(Management Service Officer I, MSO I と略)となった。
ここで学部全体の管理・事務全般の仕事を覚え、それと同時に学部に付随している研究組織である
線形代数研究所(Institute for Linear Algebra)などの管理・事務も統括するようになり、MSO
I から MSO IV へと昇進を重ねた。学部における意思決定は教官によってなされるが、その決定
を実際に実行するのが管理統括者の役割である。管理統括者の責任分野は学部のすべてにわたる。
予算、人事、計画などである。この管理統括者なしではカルフォニア大学の学部は機能しない。数
学部の管理統括者の仕事を90年までした後、1年間休職し、数学及び科学教育の推進団体である
カルフォニア・コアリション・フォ・マス・アンド・サイエンスの管理統括者に就任した。 UCSBには約2200人の正規の職員がいる。そのピラミッドの頂点にたつのが学長(chance
ller)で、彼女のもとに副学長、副学長補佐などのトップ・エグゼクティブが12人、その次のM
APに属する人が91人である。ウイリアムズさんは、MAP-Iとして化学部を管理・統括して
いる。UCSBには副学長クラスの職員が5人(そのうち4つがノン・アカデミック・ポジショ
ン)、副学長補佐クラスが7人(そのうち4つがノン・アカデミック・ポジション)である。ウイ
リアムズさんにこの調子で昇進を続ければ、10年以内に副学長、ないしは副学長補佐になれるの
ではないかと聞いたところ、そういう可能性があるのは承知しているが、現在、副学長クラスの責
任ある役職につこうとは考えていないという答が返ってきた。彼女とロング氏には子供が2人いる。
一人はロング氏の前の結婚での子供さんで彼女は高校に在学中である。もう一人は韓国からの養女
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で、今5才になる。ウイリアムズさんいわく、副学長クラスの地位につくと、常にサンタバーバラ
にいられなくなり、カルフォニア大学機構の中でのビジネス・トリップが増え、家族、とりわけ次
女との接触が少なくなる。向こう10年は次女の成長にとって一番大切な時期だから、彼女と一緒
に過ごしたいのだそうである。ファミリー・バリューを再優先したいというところであろうか。
ジーン・アワクニさんの場合
ジーン・アワクニさんの場合
アワクニさんは、ハワイ出身の日系三世である。UCSBでは学長のもとに4人の副学長がいる。
各々アカデミック・アフェアーズ、スチューデント・アフェアーズ、行政サービス、大学振興(Ins
titutional Advancement)である。4人の副学長のうち、アカデミック・アポイントメントはアカ
デミック・アフェアーズ担当の副学長だけで、残りの副学長は一般職である。スチューデント・ア
フェアーズの副学長はマイケル・ヤング氏で、彼を補佐するのがアワクニさんである。アワクニさ
んはスチューデント・アフェアーズの副学長補佐(Assistant Vice Chancellor)である。
アワクニさんにお会いしてまず驚いたのは彼が非常に若く見えるのである。お年をお伺いしてみ
ると42才だそうだ。カルフォニア大学全体で眺めてみても最も若い副学長補佐だそうだ。彼はハ
ワイ大学を卒業した後、ハーバード大学の心理学部でカウンセリング・サイコロジーの分野で博士
号(Ph.D.)を取得した。博士号を取得するとほぼ同時にカルフォニア大学アーバイン校の社会科学
学群(School of Social Sciences)のサイコロジストとして就職した。このポジションはアカデ
ミック・アポイントメントではなく、一般職であったが、心理学の講義も担当し、ここで6年間過
ごした。サイコロジストとして、大学の学生寮におけるコンフリクトの解決、仲介などを担当した
ようである。彼の専門であるコンフリクト解決の知識と経験を買われ、アーバインのスチューデン
ト・アフェアーズの副学長のスペシャル・アシスタントとなった。ここで彼はスチューデント・ア
フェアーズにおける経験を積んだ。ここで数年過ごした後、郷里のハワイ大学で、サイコ・サービ
ス・センターのディレクターを募集しており、彼にこないかと声がかかった。同じ頃、アーバイン
の副学長からUCSBでスチューデント・アフェアーズの副学長補佐を募集していることを知らさ
れ、応募してみることを薦められた。UCSBのスチューデント・アフェアーズでは人事・人間関
係や内部構造に問題があり、コンフリクト解決の能力のある人ということで160人の候補者の中
から彼が選ばれ、彼はハワイ大学のディレクターよりもUCSBの副学長補佐の職を選んだのであ
る。
職員のトレーニング
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UCSB インタビュー
T. Saijo
大学のある部局に雇用され、そこで仕事を学ぶ。たとえば学部長付きの秘書の仕事ならば、主に
教官の人事に携わる。新規の正規教官の雇用、正規の教官の昇進、休暇、一時的な教官の雇用、研
究職の教官の雇用、教官の福利厚生などである。仕事の手続きは、大学での規則と共に州の法律、
連邦レベルでの法律に則ってなされなければならない。これらの仕事の手続き、ルールは仕事をや
りながら覚えることもできるが、講義があればもっと効率的に体系的に仕事を把握できるに違いな
い。また新しい部局の仕事に応募する前にそこでどのような仕事がなされているのかを知っていれ
ば後で後悔するようなポジションに応募することもないであろう。以上のような要求を満たすのが、
人事局にある職員啓発・トレイニング課(Development and Training)である。教官になるのはそ
の仕事を熟知した職員と共に外部のコンサルタントである。現在、職員の教官が37名、コンサル
タントが9名雇用され、80あまりの講義が開講されている。各々3時間から7時間の間の講義で、
ひとつのテーマに限った講義もあれば、たとえば契約およびグラントの修業証書を出す一連の講義
のシリーズもある。講義要項を見せて頂いたが、1ページがレーター・サイズ(ほぼA4サイズ)
で60ページ近くの冊子になっている。UCSBの中に職員用の大学があると思うほどである。
講義のひとつに「UC展望」があり、これを例にとってみよう。管理者の仕事を遂行するために
は単にUCSBだけの範囲にとどまらず、9つの大学の連合体であるカルフォニア大学全体の仕組
みを知らねばならない。これらの知識を提供するのが「UC展望」の講義である。講義時間は4時
間、講師は4人で、テキストは80ページあまりである。勿論、この講義をとるには授業料が必要
で、この講義の場合40ドル(5200円)である。たいていの場合、職員個人が授業料を払うこ
とはまれで、その職員が所属する部局が払ってくれる。その職員がその講義をとる資格があるかど
うかはその部局の長が判断する。ウイリアムズさんに職員トレイニングのことを聞くと、ここで開
講される講義はほとんどすべて取ったとのことであった。
大学の職員が正規の講義を聴講する場合、もちろん授業料を払わなければならないが、実は学生
の1/3の授業料ですむのである。極端なことをいうようではあるが、高校を卒業し、最低の職種
であるクラークから始めたとしても、将来副学長になれる可能性がある。仕事の合間ないしは長期
休暇をとりUCSBないしは周辺の大学で学び大卒の資格をとり、また職員トレイニングの講義を
とったりして、大学の中でより責任のある職種に空きポジションがあれば応募することによりピラ
ミッドの頂上を目指すことすらできる。
UCSBエクステンション
あなたが市役所の企画課に勤めており、市の土地利用計画に携わっているとしよう。土地利用は
様々な利害が対立する場であり、環境問題とも深くかかわり合いがある。さらには法律の問題や計
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UCSB インタビュー
T. Saijo
画をどのようにファィナンスするのかといった問題にも直面するであろう。様々な分野にまたがっ
た知識が要求される。もちろん、仕事で経験を積んで独学すればよいのだろうが、これらの知識を
総合的に教えてくれるところはないのだろうか。また仕事をしつつ、たとえばコンピューター・サ
イエンスの学位を取れないのだろうか。このような教育需要をみたすのがエクステンディド・ラー
ニイング・サービス(Extended Learning Services)である。以下ではエクステンション(Extensio
n)と省略しよう。
地域教育サービス - エクステンション
カルフォニア大学システム(UC System)ではカルフォニア州を8つの地域にわけて各々の分校が
地域への教育サービスを提供することになっている。UCSBはその中でサンターバーバラ郡、サ
ンルイスオビスポ郡、カーン郡、ベンチュラ郡の4つの地域を担当している。エクステンションの
主要な構成要素は以下の3つである。
・UCSBエクステンション: 学位を提供しない二つのプログラムがある。一般プログラムと英語
プログラムである。一般プログラムでは地域社会に密接したコース・訓練をUCSBのキャンパス
で提供する。英語プログラムでは、英語を母国語としない学生に英語の教育をするとともに彼らを
教育する教師を養成している。運営は学生からの授業料ですべてまかなわれる。
・オフ・キャンパス・スタディズ: UCSBから80kmほど離れたベンチュラ市で学士と修士の
学位が出せるプログラムを提供している。サンタバーバラでは修士のプログラムがある。このプロ
グラムは州からの補助を受けている。
・UCSBベンチュラセンター: ベンチュラでの学位を提供しないプログラムおよび学位プログラ
ムのヘッドクオーター。
エクステンション全体で、38人の正規職員、16人分の非正規職員、13人の教官、さらには
数百人のパートタイムの教官を雇用している。毎年、約14,000人の学生が講義に登録する。
事業規模は450万ドル(5億8,500万円)である。
マーケテイングと新しいプログラム
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UCSB インタビュー
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UCSBエクステンションの一般プログラムの統括者であるジュディ・ワイズマンさんにお話を
うかがった。彼女はまずマーケットの話から始めた。エクステンションがターゲットとしている顧
客は、同じようなコースがほかでオファーでされたなら、安い方を選ぶ。エクステンションの競争
相手であるサンタバーバラ・シティ・カレッジでは市当局からの援助を受けて安い授業料でさまざ
まなコースをオファーしている。これに対処するためには、(サンタバーバラ・シティ・カレッジ
よりも)ブランド・イメージの高いUCSBの名前を使うという戦略、シティ・カレッジでは供給
できないようなコースを作るという戦略が考えられる。さらにはUCSBの通常の学位プログラム
にはないプログラムを作らなければならない。UCSBエクステンションでは1987年に環境管
理プログラムを作った。当時、連邦や州のレベルで500に余る法律が制定され、法を守る側、法
を遵守する側、双方にアドバススをする専門家の間で混乱があった。彼らに最新の知識を提供した
のが環境管理プログラムである。学位は出せないが、所定の32単位を取得した聴講者には修業証
書を発行する。この修業証書を取得していることを履歴書に書いたほうが環境関係の仕事を得やす
いとのことである。聴講者は週に1回の割合で講義を受け、約2年かけて修業証書を手にする。顧
客の大半が別の分野で修士を持っているのだそうだ。また常に何が現在ホットなのかと情報を収集
し、タイムリーなプログラムをつくるのも彼女の仕事である。現在の主な修業証書を発行できるプ
ログラムには、
・アルコール/ドラッグおよびカウンセリングプログラム
・教師再教育プログラム
・環境管理プログラム
・グラフィック・デザインおよび視覚コミュニケイションプログラム
・第2外国語としての英語の教師プログラム
などがある。これらのプログラムはサンタバーバラ、ベンチュラ、その他何カ所かで講義が行われ
ている。
不況ゆえに宇宙航空産業や精油会社が職員を一時解雇する際、解雇された職員が他の場所で仕事
を見つけやすいように再教育を職員に保証することがある。この再教育をUCSBエクステンショ
ンがするのである。景気が悪いと学生がこなくなるのだそうだが、景気が悪いが故に発生する需要
をうまくとらえて新しいプログラムを提供するのである。今度の不況は一時解雇などでカルフォニ
アの中流クラスの生活を非常に苦しいものにしている。ワイズマンさん曰く、不況を仕事の種にす
るのは心苦しいが、彼らの新しい仕事を見つける手助けだと思うことにしているのだそうだ。
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UCSB インタビュー
T. Saijo
需要があれば、講義の出前もする。規模が小さいがために社員教育ができない事業所がある。と
ころがそのような事業所が何カ所か集まれば社員教育ができるのである。エクステンションではそ
のような事業所を結びつけるのも仕事のうちである。
彼女曰く、マーケティングの善し悪しでエクステンションの学生の数がかなり変動するのだそう
だ。ダイレクト・メールでこれまでに講義を受けた学生、商工会議所、組合などに情報を提供する。
新しいプログラムを作るとそれに応じた顧客を探すために職業別電話帳を用いる。
ワイズマンさんは、大学の事務官というよりは事業規模6億円のトップ・エグゼクティブのひと
りといった風である。もちろん、彼女も大学の職員の一人なので、大学の給与規定に従わねばなら
ない。金銭的に十分報われているかどうか尋ねたところ、生活するのには十分すぎるほど貰ってい
るとの返事。それよりも彼女のスタッフにもっと仕事に見合った給与が払われるべきとのこと。プ
ライベート・セクターでは事業規模に見合った給与がトップ・エグゼクティブに支払われているよ
うだがというと、"It's just outrageous!"とおっしゃった。
UCSBエクステンションは、UCSBからは金銭的に独立した組織である。ただUCSBの組
織の一部であるがために会計、人事、物品購入、教師への支払い、建物の清掃サービスなどはUC
SBのサービスを受けている。このサービスに対し、エクステンションは年間30万ドル(4,0
00万円)、UCSBに支払っている。ワイズマンさんは、これをUCSBというブランド・ネー
ムを使用するコストであると表現なさった。
イングリッシュ・ランゲージ
イングリッシュ・ランゲージ・プロ
・ランゲージ・プログラム
・プログラム
ワイズマンさんのお話だと、UCSBエクステンションの収入のうち約半分がイングリッシュ・
ランゲージ・プログラム(ELPと略)の授業料であるという。ELPの学生数は年間約2000
人前後だという話なので、ELPでの大幅な黒字でELP以外のエクステンションのプログラムを
補助しているという構造になっているようだ。日本の若者たちが、ELPに払う授業料を通じてア
メリカの社会人教育の援助を行っているのである。これ自体は、同じ組織の中での資金のやりくり
なので非難されるべきことではない。独立した組織のなかでの相互補助に興味を持つとともに大学
の中にある英語の学校がどのように運営されているのかについても以前から関心をもっていた。と
いうのは日本への留学生の日本語教育を大学内部でどのように実行すべきかという問題に関わりが
あるからである。
ELPのディレクターであるテレサ・レインハートさんとのアポイントメントは難渋をきわめた。
ELPのサマー・プログラムが進行中の時期であったせいか、秘書を通じて1時間ほどのインタ
ビューを申し込んだが、彼女がオフィスにいなかったことも災いして、彼女にインタビューの申込
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UCSB インタビュー
T. Saijo
のメッセジを残すよう秘書にお願いした。残念ながら1週間後にも反応がなく、もう一度秘書にお
願いした。これにも反応なしで、数日後、もう一度これが最後のつもりで秘書に電話をかけた。そ
の秘書の話だと約10日後にレインハートさんはバケイションにでかける予定で連絡をとるならそ
れ以前にしなければならないとのこと。さらにELPのオフィスとは別の場所2カ所に彼女はオ
フィスを持っているのだそうで、この2つの電話番号を教えてもらった。こちらに電話をすると片
方に留守番電話があったのでメッセジを残したが、やはり反応がなかった。数日後、念のためにも
う一度電話をしたところやっと彼女と連絡がついた。インタビューを申し込んだところ、質問の内
容をあらかじめ文書にして提出してくれればインタビューに応じるとおっしゃる。しかもお金に関
する質問には一切応じないとのこと。文書にするほど公式なインタビューではないことを説明し、
ありうる質問事項を幾つか話したところ、エクステンション内部における補助構造については答え
ないということでアポイントメントをバケイションに出かける前日にセットアップしていただいた。
後で知ったのだが、インタビューの日時はELPの夏の4週間プログラムの卒業式のすぐ後であっ
た。インタビューのアポイントメントをセットアップした翌日、レインハートさんから電話があり、
もう一度質問事項を確認したいとのこと。ありうる質問事項を説明し、ここで今一度、公立大学の
ある部門のディレクターがその部門の収支に関する情報を公開できないはずはないとくいさがった
が、これに対する答はやはり「ノー」であった。今回のインタビューを通じて収支に関する情報の
提供を拒否されたのはELPだけであり、ほかではお願いすれば直ちにかなり詳細な収支表のコ
ピーをいただいている。かなり緊張するとともに重い気持ちで約束の場所にむかった。
レインハートさんは、エクステンションの生涯教育に果たす役割が非常に重要で、ヨーロッパ・
日本と比べてもアメリカが一歩先んじていることを強調し、UCSBのエクステンションは州政府
からの補助なしで運営されていること、またビジネス風の環境の中で予算編成、計画がなされてい
ることをよどみなく述べられた。ELPにはいくつかのコースがあり、10週間を一つの単位とす
るプログラムが一年を通じて開講されている。そのほか夏用の4週間プログラム、顧客の都合に応
じた短期集中コースなどがある。10週間の授業料はいくらか大ざっぱな数字を尋ねたところ、8
5年当時は1、300ドル、現在は1、900ドルぐらいで安くなっているとおっしゃる。「それ
では高くなっているのでは」と聞くと、笑みを浮かべ、ドルの価値がマルクや円に比べ相対的に減
価したため、かえってドイツや日本の顧客にとっては安くなったと説明してくれた。とりわけ夏の
学生数は毎年20%の割合で増えている。レインハートさんはELPのディレクターというよりは
むしろELPの広告担当者といった風情でUCSBのELPの特色を教えてくれた。
ELPはサービス・インテンシブな事業である。まずハウジングのサービスからはじまる。ホー
ムステイをしたい学生にはステイ先の家庭を斡旋する。大学の寮、大学の内外のアパート情報を提
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UCSB インタビュー
T. Saijo
供するばかりでなく、契約の諸手続きの手助けも行う。到着に際しては、飛行場、バス停などに職
員が出迎えるサービスもしている。ELP専属のステューデンド・サービス・オフィスがあり、日
常生活の諸々からビサの問題まで処理してくれる。例えば、アパートの電話の設置、ケーブルTV
の設置などまで助けてくれるのである。また同じ国の出身者が集まりがちなのを避けるために、異
なった国の学生やアメリカ人の学生の会話パートナー制度も作っている。大学やその周辺に不安な
学生のためにガイドをつけて大学の中のツアー、学生街であるアラ・ビスタのツアー、15kmほ
ど離れたところにあるサンタバーバラ・ダウンタウンのツアーなども提供する。夏の学期の場合、
到着した学生を集めてバーベキュー・パーティをする。地域の情報、例えばお祭などがあると学生
に周知し、希望者とともに職員引率で出かけたりもする。
ELPのサービスは大学とその周辺にとどまらない。ELPがマジック・マウンテン、ディズ
ニーランド、ユニバーサル・スタジオなどへの1日ツアーを企画する。さらには週末、泊まりがけ
でラス・ベガス、サンフランシスコ、サンディエゴなどへの旅行も計画する。学期が終了した直後、
10日前後のバス・ツアーも企画する。グランド・キャニオン、ヨセミテ・パーク、パウエル湖な
どの西海岸の自然に親しむ旅行である。
本来の目的の英語の方は、夏の4週間のコースの場合だと月曜から金曜まで朝の9時から1時ま
でが授業で残りは自由時間となる。ただの観光だけでなく英語も学習したいと考えている若者たち
にアピールするようなプログラム作りをしているのである。もっと進んで顧客の望む商品を提供し
ているといってもよい。観光にせよ英語の学校にせよ日本人が大勢おしかける場所を嫌う風潮のせ
いか、レインハートさんは、夏の英語の学校の場合、30%が日本人、29%がイタリア人、1
4%がスイス人、7%がドイツ人、5%がフランス人で、日本人が全学生の半分を越えるようなこ
とはないとおっしゃった。ただ夏の英語のコースの参加者に聞いてみると、能力別にクラスわけす
ると、能力の低いクラスは日本人が7割をこえ、能力の高いクラスだとほぼヨーロッパ人ばかりに
なるのだそうだ。
日本を含めて9カ国にUCSBのELPのエイジェントがいる。各々のエイジェントはUCSB
ばかりでなく他のUCキャンパスのELPやそれ以外の大学のイングリッシュ・ランゲージ・プロ
グラムを代表して、顧客の要望にあったプログラムをすすめているのである。日本には5つの団体
がUCSBのエイジェントとして機能している。もちろんこれらのエイジェントは公的団体ではな
く、利益を追求する私的企業である。全世界のイングリッシュ・ランゲージ・プログラムが一同に
会するコンファレンスが年に1度行われるが、これにも世界中のエイジェントが集まり、情報交換
や交渉をする。このコンファレンス以外にも世界の各地でランゲージ・フェアといった展示会をす
ることがある。現地のELPの卒業生などがフェアの開催を手伝ってくれたりする。
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UCSB インタビュー
T. Saijo
カルフォニア大学で英語を母国語としない人たちに英語教育を供給するイングリッシュ・ラン
ゲージ・プログラムがあるのは医学が中心のサンフランシスコ分校をのぞいて8校ある。これらの
プログラムの代表者が年に何回か一同に会し、情報を交換するのである。8校のすべてのプログラ
ムが載っているパンフレットも作り学生に配布しているのである。8校で授業料がどれくらい異
なっているのか聞いてみると、ほとんど差がないのだそうた。経済学でいう共謀にあたるのではと
は思ったが、同じ大学システム内の話し合いだと考えているのだろうか。連邦取引委員会の意見を
聞いてみたいものである。8校の中で学生を一番集めているのはバークレィやUCLAではなくU
Cリバーサイドである。レインハートさんによると、よい英語の教育プログラムを供給しているこ
ととともにマーケティング上手ということらしい。
ELPではテーチング・イングリシュ・アズ・ア・セカンド・ランゲージ(TESL)というこ
とで英語の学校の先生の供給もしている。24単位の要件をみたすと終業証書を発行するのである。
レインハートさんによると夏学期は40人前後、それ以外の学期では30人前後の教官を雇用して
いるのだそうだ。ELPで教鞭をとりたい人が大勢いるようで、先生を探すのに苦労はしないそう
である。基本的な要件としてイングリシュ・アズ・ア・セカンド・ランゲージで修士号を持ってい
ること、言語学で修士号をもち上記の終業証書を持っていることなどである。ときには大学院生な
ども雇用している。ELPで雇用している先生方はレインハートさんを含めカルフォニア大学の正
規の教官ではない。正規の教官とはアカデミックな雇用をさすが、ELPの教官はすべてノン・ア
カデミックな形態で雇用されている。すなわち、学位を出すプログラムで教えることのできる教官
ではないのである。それゆえに柔軟な雇用ができるのであるが、正規の教官が教壇に立っていない
という弱みもある。
スチューデント・ヘルス
UCSBには医学部がない。学生がちょっとした病気になったときはどうするのだろうか。実は
キャンパスにスチューデント・ヘルスというクリニックがある。クリニックというのは、入院用の
ベッドを持たない医療施設である。スチューデント・ヘルスの建物自体はかなり大きい。日本流に
いうと小さな総合病院という感じである。
看護婦部門のディレクターであるヘニー・レグニアさんにお会いした。看護婦養成の学校をでて
UCSBの看護婦となり、ここで9年過ごしている。ディレクターなので、給与水準はMAPに分
類さているはずだ。ただ彼女の夫がウイスコンシン大学大学院に入学するので、あと2週間で辞職
するとのこと。
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UCSB インタビュー
T. Saijo
スチューデント・ヘルスの予算規模は約500万ドル(6億5千万円)である。他の部門と同様
に独立採算制をとっている。学部学生・大学院生が収入のほぼすべてを出している。各学期の始め
に授業料と一緒に払うのである。支出の約85%は職員の給与・福利厚生である。
スチューデント・ヘルスでは教官・職員を診ない。というのは、大学がかなり自由度と質の高い
医療保険・デンタル保険を供給しているからである。質の高い医療を受けられ、支払はほぼゼロに
近いのが教官・職員である。無理にスチューデント・ヘルスで診てもらわなくてもよいのである。
目の悪い教官・職員には目の検査とメガネまでカルフォニア大学が支払ってくれる。
職員の構成を見よう。医師免許を持つ職員が9名、看護婦が15名、メディカル・アシスタント
が20名。メディカル・アシスタントは、医師・看護婦の助手であり、高等学校を卒業後、80時
間の訓練を受けた者がなれる。さらには15名の医療記録者、20名の健康教育者がいる。健康教
育者は、健康教育(Health Education)で修士号を得た人たちで、各々の専門分野で、たとえば食
事・栄養、アルコール、ドラッグ、タバコなどの分野で学生にサービスを提供している。例えば、
友人関係や大学の試験などのストレスで食事が取れなくなった学生は、医師と共に食事障害の専門
家である健康教育者に相談することになる。デンタル・クリニックには3名のパートタイムの歯科
医と共に5、6人のアシスタント、目のクリニックには1名の医師と2名のアシスタント、スポー
ツによるけがなどを治療するフィジカル・セラピストが3名、ラボの専門家が5名、薬局・会計に
5名、レントゲンの専門家が4名、事務官が8名という具合である。
1日あたり、約400名の学生がスチューデント・ヘルスにやってくる。治療費は無料だが、薬
代は負担しなければならない。100名強の職員が400名前後の学生を診るのだから、ひとりあ
たりの負担はかなり軽いのではないのかと尋ねると、民間のクリニック・病院と比べるとかなり楽
なようで、スチューデント・ヘルスに職を得たらほとんどがやめないという返事。キャンパスにお
けるHIVビールスの保菌者の数を聞いたのだが、数はわかっているが答えられないとのこと。A
IDS教育はスチューデント・ヘルスの重要なテーマになっているようだ。
UCSBネクサス アメリカの大学を訪問してみると、主なビルディングの入り口に学生新聞の箱があり、誰でもが
自由に無料で取れるようになっている。例えば学生数が6万人前後のオハイオ州立大学の学生新聞
であるランタン(the Lantern)は、日本の新聞とほぼ同じ大きさの日刊紙で10ページから20
ページぐらいの分量がある。日本の地方新聞を思い浮かべてほしい。記事の内容は、国際ニュース
からキャンパスやその周辺で起こった出来事、その週の予定などがある。レストラン、車のディー
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UCSB インタビュー
T. Saijo
ラー、コンピューター、映画などの広告が豊富で、その学校にたとえ数日の訪問であっても、学生
新聞は重要でしかも役に立つ情報源である。キャンパスのすぐそばにあるレストランの割引クーポ
ンなどがあったりする。新聞の最後の数ページはクラシファィドと呼ばれている広告の欄があり、
項目ごとに広告が分類されている。長期の滞在の場合など、アパートをさがさねばならないときは、
この広告が役に立つ。家具付きのアパート、家具無しのアパート、ルームメイトなどに分類されて
いて、これを眺めているとアパートの相場や場所が分かってくる。中古の車の売買の欄やアルバイ
トの広告も目だつ。学生新聞は「役に立つ」のである。学生新聞無しの大学生活など考えられない
のである。
デイリー・ネクサス
デイリー・ネクサス
UCSBにはデイリー・ネクサス(Daily Nexus)という学生新聞がある。秋、冬、春の学期には月曜
から金曜までの日刊、6月中旬から7月の下旬にかけての夏学期の間は月、水、金曜日、8月から
9月の中旬までの夏休みの間は週に1回の割合で発行されている。発行部数は11,500で、大学の主
要なビルディングや学生寮など50カ所、また大学外の書店やスーパーの前など26カ所で新聞が
配布されいる。大きさはA3ぐらいで、12ページから20ページ前後である。
夏学期が終わった直後、ネクサスのエディターのひとりであるダン・ヒルデイル(Dan Hilldale)
さんにインタビューをした。机やパソコン、新聞が散乱する決してきれいとはいいがたい10メー
トルx20メートルほどの誰もいないかなり広い部屋で、彼はあちこちと案内をしてくれた。ダン
はイングリシュ・メイジャーの3年生で、ネクサスでエディターの仕事をはじめて約1年になる。
ネクサスのエディターは30人ほどいるのだそうで、記者と呼んだ方が適切かも知れない。これら
の記者を統括するのがエディター・イン・チーフで彼とは今回のインタビューでは会えなかった。
記事を書きたい学生は基本的に誰でも記者になれる。学年と学年の間の時期、すなわち夏休みの時
期に4回のほどのトレイニング・セッションに参加した後、記事を書きはじめるのである。週に1
回しか新聞を出していないせいもあって、この時期は彼らの練習になる。記者になると月に200
ドルから400ドルぐらいの収入になるのだそうで、投入する時間に比べるとあまりよいアルバイ
トではない。ダンは書くのが好きでこの仕事を学業の傍ら楽しみながらやっているのである。記事
を書くとお金になる。最初の2つの記事は無料だが、3つ目からは、1つの記事で10ドルになる。
学生新聞のエディターたちは卒業後、ほとんど新聞とは関係のない職業につくのだそうで、将来、
ジャーナリズムを目指してネクサスのエディターになるのではないようだ。書きたいから書くのが
本音のようである。ただジャナーリズム学部のある大学では、ジャーナリズム専攻の学生の間で競
争があり、また教師が優れた学生を新聞のエディターに推薦するということもあるのだそうだ。ダ
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UCSB インタビュー
T. Saijo
ンの話だと、1987年、当時のUCSBの学長であったハッチンバック氏の横領事件の糸口を掴
んだのは学生の記者だったのだそうである。その学生がハッチンバック氏の庭師から元学長が私邸
の台所などに大学のお金を使っているのではないかという情報を仕入れた。これが事件の始まり
だった。1991年、カレッジ・オブ・レターズ・アンド・サイエンスを統括するプロボスト(Pro
vost)の数人の秘書に対するセクシャル・ハラスメントの事件を学生に伝えたのもネクサスである。
ネクサスの運営
新聞の作成に大学当局が介入することはない。1万部を超える新聞を発行するのに誰がどのよ
うに資金を提供しているだろうか。この話を持ち出すと、コミュニケイションズ・ディレクターの
ジョー・カボック氏に会うように勧められた。彼のオフィスは、学生新聞の編集室のすぐ隣の一角
にあった。彼の給与の半分はネクサスからサポートを受け、残りの半分は学内の地図の作成、(学
生、職員、教官のすべての電話と住所が掲載されている)電話帳の作成、毎年毎年発行するイアー
ブックの統括の仕事により学生自治会からアポイントメントをもらっている。彼の給与は実質的に
はネクサスと学生自治会からもらっているのだが、実際にはカルフォニア大学の正規の職員として
大学の経理から給与を受け取っているのである。カボック氏は、オレゴン州ポートランドでの高等
学校の先生をやめ、サンタバーバラにやってきた。今年で29年目になるのだそうだ。彼のネクサ
スにおける役割は学生たちが新聞を作成する際に起こる事務手続きが円滑にすむようにすることで、
新聞の中身にはいっさい立ち入らない。
学生新聞の年間収入は約78万ドル(円)で、そのうちの65万ドルが広告収入である。学生自
治会から約4万ドルを得てはいるが、学生新聞への介入があればいつでも返す用意があるとのこと。
ほぼ大半の収入を広告から得ているといってよい。支出のほうはカルフォニア大学の正規の職員9
人分の給与と福利厚生費が25万5千ドル、新聞の印刷代が16万ドル、編集長の賃金が7千ドル、
記者たちの賃金が10万ドル、新聞配達の運転手3人分の賃金が6千ドルなどである。学生新聞が
使用している部屋が幾つかあるが、そのビル自体がサンタバーバラの篤志家であるストーク氏に
よって寄贈されたものである。大学に家賃は払ってはいないが、建物の修繕費、電気代、電話代な
どはすべてネクサスによる収入で賄われている。編集室や事務室にはコンピューター、コピー機器
などがある。これらもカルフォニア大学の備品ではあるが、購入資金を提供したのはネクサスであ
る。
ネクサスの職員
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UCSB インタビュー
T. Saijo
カボック氏のほかに3人の広告担当者、1人の会計担当者、5人の新聞制作担当者がいる。全員
がカルフォニア大学の正規の職員である。重要な点は、彼らの給与、保険、退職のための福利厚生
ベネフィットなどすべてが実質的に学生新聞による収入で賄われているのである。納税者からカル
フォニア大学を通じて供給された資金ではないのである。もちろん、正規の職員であるが故に、職
員の採用、給与体系、昇進などはカルフォニア大学のルールに従わなければならない。9人の職員
の昇進などを含め、学生新聞については、学生、教官、および地方紙であるサンタバーバラ・
ニュースプレスからの専門家から構成される委員会からの諮問を受ける。これが唯一、大学の公式
機関との接点である。
ネクサスの職員はどのように雇用するのだろうか。ポジションに空きができると人事局を通じて
求人が行われる。様々なメディアを通じて広告がなされる。地元の新聞であるサンタバーバラ・
ニュースプレスの日曜版のクラシファイズにも求人広告が載ることになる。今回、ネクサスは図版
作成者(graphic compositor)を募集することなっている。92年8月2日のニュースプレスを見る
と不況のまっただ中とはいえ、UCSBの40cmx10cmの求人広告があり、14人分の求人
があった。ネクサスの広告は次のとおり。
図版制作者
学生新聞ディリー・ネクサスの図版作成の監督。要件:記事の締切から最終版に至るまでの学
生新聞作成のあらゆる段階における知識。複写、見出し、図版作成能力。複写カメラの操作。
学生との協調能力。月∼金の6p.m.-3a.m.ないしは作成終了まで。10カ月。正規雇用。1,829
ドル/月。時間をシフトする場合はプラス55.68ドル。締切8/14/92. #92-07-018SC.
日本風のボーナスはないので、税込みの年収は1,829ドルx10カ月=18,290ドルとなる。雇用が年1
0カ月なので、2カ月は他の場所で働くか、休みになる。正規雇用というのは、医療保険などの福
利厚生が正規の職員として受けられるという意味である。候補者が集まると、各々個人面接が行わ
れる。面接をする側は3人のチームから成る。カボック氏、新聞制作者のなかから一人、学生の編
集長である。雇用するかどうかはこの3人の合議により決まる。すなわち、大学当局は誰を採用す
るかについてはほとんど介入しない。人事に関する分権化がここでも見られる。カボック氏による
と、3人による合議制という人事の意思決定の方式は、人事局によるものではなく、複数による決
定がまちがいが少ないだろうというほどのことらしい。ボスであるカボック氏が一人で決定したと
ころで問題がないのである。人事に関する分権化は意思決定の方式に関する分権化をも含んでいる
のである。カボック氏によると毎年1人前後、仕事をやめる人が出てくるので、求人も毎年1人前
後になるというとのことである。
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UCSB インタビュー
T. Saijo
キャンパス・ポリース
アントニオ・アルバレスさんはUCSBのキャンパス・ポリス・ステーションの副署長である。
カルフォニア大学には9つのキャンパスがある。アルバレスさんは、ポリス・アカデミィを終了し
た後、カルフォニア大学サンタクルツ分校でピース・オフィサー(カルフォニアでは警官のことを
こう呼ぶ)になり、サンタバーバラ分校、デービス分校、サンフランシスコ分校をへてサンタバー
バラに戻ってきたのだそうだ。カルフォニア大学警察に勤めて20年近くになる。
カルフォニア大学になぜキャンパス・ポリスがあるのかと尋ねると、大学の自治を守るためであ
るという答が返ってきた。1947年以前においては、カルフォニア大学は大学以外の郡警察や市
警察から人員を借りたり警備員を雇用していた。それ以降、1968年までのカルフォニア大学警
察局では、郡警察、市警察から人員を供給してもらっていた。大学紛争を経験したカルフォニア大
学理事会はキャンパス・ポリスを再構築するために、2人の元バークレイ市警察署長に諮問をした。
こうしてできあがったのがフォーディング・ホルムストロム・レポートである。このレポートの大
半が実行に移され、現在のカルフォニア大学警察システムの基礎ができたのである。まずカルフォ
ニア大学全体での調整者のポジションが作られた。またキャンパス・ポリース・オフィサーは、近
隣の郡・市から供給してもらうのではなく、カルフォニア州ピース・オフィサーの基準を満たした
人員を独自に雇用するようになった。こうすることにより近隣の警察からは独立した警察ができた
のである。キャンパス・ポリスの守備範囲は大学のキャンパスばかりではなく、キャンパスの境界
から1マイルまでがその範囲になった。UCSBのすぐ隣にアラ・ビスタという学生街があるが、
アラ・ビスタ全体が境界から1マイル以内に入るので、アラ・ビスタはUCSBのキャンパス・ポ
リスの管轄になる。ただ現在ではアラ・ビスタのパトロールはキャンパス・ポリスと郡警察とがシ
フト制で半々になされている。
UCSBキャンパス・ポリスの予算は約250万ドル(3億2千5百万円)である。その予算の
約3/4は州政府から大学を通じて供給され、約1/4は大学で行われるコンサートや講演会、コ
ンベンションなどの警備、学生宿舎で行われる特別行事における警備などによる収入である。予算
の大半は人件費にまわる。32人の警察官、4人の事務官、3人の救急隊員、5人の(警察への電
話に応対する)ディスパッチヤー、また45人から50人前後の学生が雇用されている。これら学
生たちは雇用されるとコミュニティ・サービス組織(Community Service Organization, 略称CS
O)と呼ばれる団体に属することになる。CSOの隊員になるためには、ペーパー試験、口頭試問
を受けることになる。さらには犯罪歴があるかどうかなどの調査を経て、秋学期が始まる約1カ月
前から、2週間の訓練、1週間の実地訓練を受ける。彼らの時間給は平均8ドル前後で、他のアル
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UCSB インタビュー
T. Saijo
バイトに比べると率はよい。週あたりの勤務時間は20時間以下である。主な任務は無線を携えて
自転車でキャンパスとその周辺のパトロール、建物の戸締まり、エスコート・サービス、行事があ
るとその警備などである。パトロールは昼間ばかりでなく深夜も行われる。
UCSBのキャンパス・ポリースが扱う犯罪はどれくらいなのだろうか。殺人は数年に1件、レ
イプが年に2、3件、強盗が年に1件、凶悪な暴行が年に数件程度である。また自転車泥棒が年に
約400件、それ以外の窃盗が約300件、自動車泥棒が年に10件程度である。キャンパスとそ
の周辺1マイルの地域に2万人をこえる人々が集う。2万人程度の町の犯罪としては、自転車泥棒
をのぞいてかなり安全な町のようである。
もしある学生が自転車を盗み、キャンパス・ポリスに逮捕されたとしよう。彼はUCSBの近所
にある郡刑務所に送られる。そこで写真や指紋などをとられ、短くて数時間、長くて1日過ごすこ
とになるが、約500ドルの保釈金を払い、法廷に出頭することを約束して出所する。法廷で有罪
となると、自転車が破損していればその修理費、また罰金を500ドル前後支払うことになる。以
上は大学とはかかわりのないところで決まる罰であるが、大学は学生の代表と何人かの教官で構成
されている学生懲罰委員会にかけられる。アルバレスさんのお話だと、自転車泥棒の場合は約2カ
月から1学期の停学になる。この停学の事実はその学生の記録に残ることになる。
アルバレスさんにインタビューをお願いした頃、図書館の本を100冊以上盗んだ学生の話が
あった。哲学専攻のオナーズ・スチューデントがUCSBをはじめ公共図書館などから152冊の
本を窃盗した。逮捕のきっかけになったのは、アラ・ビスタの書店にその学生が本を売りにきたと
ころ、本にUCSBのマークが入っており、しかも妨盗用のストリップがはずされたあとがあるこ
とに店員が気づいた。その店員はUCSBの図書館でアルバイトをしたことがあり、彼がキャンパ
ス・ポリースに通報した。2週間後、再び、彼が本を売りにきたところをキャンパス・ポリースが
逮捕したという事件である。彼は有罪を認め、そのかわり検察側が軽い刑の容疑にする取引に応じ、
本の修理代に3600ドルの支払い、40日間の刑務所、3年間の保護観察に処された。以上は刑
事上の処罰であるが、それとは別にUCSBの懲罰委員会にかけられる。懲罰委員会での決定は公
表はされない。というのは学生記録は教育の権利とプライバシィに関する法により本人の承諾無し
に公開してはならないからである。アルバレスさんにどのようなペナルティが課せられるのかお聞
きしたが、これには答えられないとのことだった。
学生自治会
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UCSB インタビュー
T. Saijo
学生が年間180万ドル(2億3千400万円)のエンタープライズを運営しているといったらど
んな事業をやっているのか興味しんしんだろう。この180万ドルが学生自治会の年間予算だと
いったらもっと驚くだろう。UCSBの自治会長はこの180万ドルの事業の頂点に立つ。
自治会組織がどうなっているのかは後回しにして、事業の内容を見てみよう。その収入のほぼ9
8%を学生からの自治会費に依存している。毎学期少なくとも6単位分の講義を登録する学生は授
業料を支払うときに自治会費も払わねばならない。1学期分は38.15ドル。学部生が15,5
00人。学期が3学期あるので、15,500x38.15x3=1,773,975ドルという
訳である。
この収入のうち約141万ドルは学生憲法によって決められた方法で支出される。学生新聞・ラジ
オ局・イアブックなどのメディア関係に24万ドル、学生健康管理センターに56万ドル、大学子
供センターに14万ドル、学内スポーツ競技に12万ドルなどである。さらに学生自治会で16人
の専属スタッフを雇用しているのでこの人件費・福利・厚生費やオフィスの維持費で24万ドル。
それゆえ実際に会長の裁量がきくのは15万ドル程度になる。この15万ドルも様々な委員会、団
体に分配されるので、会長の裁量のきく範囲はもっと狭くなる。もっとも会長になる学生は新しい
事業を目指しているのではなく、リーダーシップを試す場所を自治会に求めているのである。
16人の専属のスタッフはUCSBの職員である。それゆえ、職員の雇用・解雇はUCSBの
ルールによってなされる。自治会組織のインタビューにあたって、学生のメンバーをさがしたが、
あいにく夏休みで皆不在であった。そんなときでも職員は出勤している。できるだけ学生に近い職
員をと思い受付をしているデニス・リナルディさんにインタビューをお願いした。自治会関係のオ
フィスは食堂やブックストアのあるユニバーシティ・センターというビルの3階の一角にあった。
受付の部屋でデニスさんにお会いした。受付の部屋を取り囲むように5、6つのオフィスがあり、
会長の部屋をはじめ職員の部屋がある。壁に政治スローガンを殴り書きしてあったり、食べ物やタ
バコで汚れているのが自治会の部屋だと思っていたりするとあてがはずれる。ごく普通のUCSB
の部局のオフィスと変わりない。ただ南の端の方にビルがあるので太平洋が間近にみえるという特
典がある。
自治会の正式名称は the Associated Students of the University of California, Santa Bar
bara であるが、略称でASと呼ばれている。ASは学生憲法とその細則に従う。学生憲法は11
ページ、細則は130ページをこえる。学生による選挙で会長(President)と3人の副会長および
21人の代議員が選ばれる。会長はAS全般を指揮するとともに行政部の長である。3人の副会長
は役割が違う。1人は内務副会長で、キャンパスで起こるすべての事柄を扱う。もう一人は外務副
会長で、大学のキャンパス外、とりわけキャンパスと隣接している学生街であるアラ・ビスタ(Isl
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UCSB インタビュー
T. Saijo
a Vista)とサンタバーバラ郡で起こる出来事で学生に関する事柄を扱う。最後の副会長は外交担当
の副会長で、他大学、とりわけUCシステム全体に関わる事柄を扱う。選挙においては、会長と副
会長の4人が集団で立候補するのではなく、各々のポジションに立候補する。勿論、会長候補Aが
外交副会長候補Bの指示表明をするということはよくある。代議員は立法部を形作りまた一部の代
議員により司法部が構成される。代議員は立候補する際、全学区で立候補するのか、地方学区で立
候補するのかを決めねばならない。約3000人弱の学生がキャンパス上の寮に住んでいる。彼ら
の中から3人の代議員が選ばれる。キャンパス以外で住む約13000人の学生から12人、大学
が所有している家族むけの学生アパートに住んでいる約1400人の学生から一人の代議員が選出
される。住む場所に関係のない全学区の代議員の定員は5人である。会長は学生だけからなる28
のコミッティのメンバーを指名し、50以上ある大学全体にわたるコミィティの学生メンバーを指
名する。ASの組織自体は合衆国憲法、合衆国政府を見習っているようである。学生自治組織それ
自体が興味ある対象ではあるが、組織についての記述はこれぐらいにとどめる。
ASの組織を運営するためにのべ約300人の学生が雇用されている。もちろん雇用されている
からには賃金が支払われている。ASから直接学生に支払われるのではなく、他の大学の職員と同
じように大学の会計を通して小切手で支払われる。日常の事務からコンファレンスの設営など広き
にわたっている。ASの活動で面白く思われたものを2、3あげてみよう。リーガル・サービスで
は弁護士を雇用し、無料で学生の法律問題のカウンセルを行っている。アパートの貸し借りにかん
するトラブルの処理が一番多いそうである。AS・バイク・ショップという小さな自転車修理店を
ASが運営している。UCSBとアラ・ビスタとの主要な交通機関は自転車とスケート・ボードで
ある。ASの自転車修理店は消耗品を供給し、簡単な修理は学生自身でできるように工具をとりそ
ろえている。ただし、中古にせよ新しいのにせよ自転車は販売していない。AS・ノートテイキン
グ・サービスも面白い。主要な講義のノートをとる大学院生を募集する。院生はその講義に出席し、
ノートをとりタイプをする。1ページあたり19ドルぐらいでAS・ノートテイキング・サービス
が買う。これをAS・ノートティキング・サービスが学生に売るのである。インタビューをしたの
は夏学期の終わったあとだったので、どれくらいのビジネスになっているかを担当者に聞くことは
できなかったが、普段の学期中は、一人の専属の職員が事務と簿記を担当し、数人の学生がノート
の制作、販売にあたっている。
理論物理学研究所
70年代後半、全米科学財団(National Science Foundation)のボース・カイザー氏が、理論物
理学における研究、とりわけ理論物理学の各専門分野に特化して互いの領域の交流がない部分の研
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UCSB インタビュー
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究を促進するために、理論物理の研究所を設立することに関して、全米の30の大学に打診した。
これに応じたのが15の大学で、その中でUCSBが選ばれたのである。1979年、こうしして
UCSB理論物理学研究所(Institute for Theoretical Physics, ITPと略)が設立された。
ITPの管理統括者であるボニー・シバースさんにお会いし、ITPの組織についてお伺いした。
ITPの全予算は約231万ドル(3億円)で、すべてNSFから支給されている。このうちの2
2%は大学が間接費として徴収する。外部資金に対する間接費比率は、UCSBの場合、45%で
あるが、ITPは特に優遇されているのである。それゆえ、実際にITPが人件費、機材に使用で
きるのは231万ドルx78%=180万ドルである。
ITPには5年任期のディレクターが一人、2年任期の副ディレクターが一人、専属の研究者の
ポストが4つある。専属の研究者は現在2人しか雇用されていないので、「専任」という意味での
研究者は4名である。これに加えて約30人の客員研究員、約15人の博士号取得直後の研究者(p
ostdoctoral members)がいる。いわゆるポストドッグである。ポストドッグの任期は1年から5年
で、研究業績、研究計画の質に応じて任期が決まる。客員研究員はノーベル賞授賞者を含む著名な
研究者が中心で2カ月から6カ月ぐらい滞在するようである。ディレクターの5年任期というのは、
NSFからの資金供給が5年ごとに(資金をストップするということを含めて)再検討されること
と結びついている。5年間のITPのパフォーマンスの責任者がディレクターという訳である。こ
のほか、16人からなる諮問委員会がある。委員の大半はアメリカの他の大学、研究期間に属して
おり、委員会はITPの活動、目標、将来の方向などについて諮問するのである。
毎年、ディレクターは諮問委員会からのアドバイスをもとに、4つの分野を選ぶ。ちなみに19
92/93の4つの研究プログラムは
1. 惑星の生成(Planet Formation)92年8月から12月
2. 空間における非平衡システム(Spatially Extended Nonequilibrium Systems)92年8月から12月
3. 非摂動超ひも理論(Nonperturbative String Theory)93年1月から6月
4. 空間時間における小規模構造(Small Scale Structure of Spacetime)93年2月から7月
である。各々のプログラムは一人から数人の外部の研究者によって組織されている。プログラムを
組織する研究者はその間ITPで過ごすとともに、その分野の異なったバックグラウンドを持つ研
究者を招待することになる。招待された客員研究員は3カ月から半年にわたって滞在するようであ
る。このほか、数日から2週間程度の期間にわたるワークショップやコンファレンスが年間7、8
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UCSB インタビュー
T. Saijo
回開催される。これらのワークショップやコンファレンスも組織委員は通常その分野でトップとさ
れている研究者が中心となる。
通常、客員研究員となる研究者は大学院生も連れてくるようで、院生は世界のトップクラスの物
理学者とともに日常的に研究をすることができる。さらにはUCSBの教官・ポストドック・院生
とも緊密な関係を維持しているようで、双方のセミナーには多くの研究者が参加する。ちなみにI
TPでは週5、6回のセミナーが開催されるとともに、「黒板ランチ(blackboard lunch)」と呼ば
れているインフォーマルな会合がしょっちゅうある。
シバースさんとのインタビューの途中で突然非常ベルが鳴り、火災訓練ということで全員ビルか
ら退去ということになった。8月25日の午前10時半頃である。ITPはエリソン・ホールの最
上階である6階のフロアをすべて使っている。非常ベルとともに研究室から30人近くの研究者が
飛び出し、秘書達にどうすればよいのか尋ねている。ぞろぞろと非常階段を使って外に出たのだが、
さまざまなお国なまりのある英語で議論を始めた。日本の大学では研究者が大学の研究室に集まら
ないところが多いと聞いているが、ここでは滞在中の研究者がいわば日常的に一同に会しているの
である。
ITPには研究員のハウジングの世話をする事務官やコンファレンスを組織する諸々の雑用を引
き受ける事務官がいる。二人ともフル・タイムの行政補助の事務官である。一年を通して約250
人の研究員が滞在するのである。家族を連れてくる研究員もいれば、単身赴任で数日から数カ月過
ごす研究員もいる。彼らが滞在場所さがしで時間を無駄にせずにすむようハウジング専用の事務官
がいるのである。コンファレンスを組織するというは、ほぼ些細な事務仕事の積み上げであること
が多い。ここでも研究者ではなく専属の事務官が仕事を取り仕切っている。また海外からの研究者
を受け入れる際の旅券発行の事務仕事などを引き受けている事務官もいる。ITPにはフル・タイ
ムの事務官が約12人いるのである。ここでの原則は、「研究者に物理学以外のことを考えさせな
い」ことのようである。
来年度には総工費約500万ドル(6億5千万円)で2階建ての新しい研究所がUCSBのキャ
ンパスに建設される予定である。この工費はNSFによるものではなく、カルフォニア州からの財
源である。カルフォニア州もNSFにサポートされた理論物理研究所がパーマネントにUCSBに
あり続けることを願い、新しい建物を提供し援助をしているのである。
ITPで働いている研究者、職員の給与はどれくらいなのだろうか。シバースさんから91年度
の全職員の給与、福利厚生費が記載されている表をいただいた。カルフォニア州の公務員であるか
ぎり、給与に関する情報は公開されているのである。ITPの所長であるジェームス・ランガーさ
んは10.5カ月で給与が約12万ドル(1,560万円)、福利厚生費が約2万ドル(260万
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UCSB インタビュー
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円)、副所長のマーティン・アインホーンさんは10.5カ月で給与が約7万ドル(910万円)、
福利厚生費が1万8千ドル(234万円)である。ITP専属の研究者であるアンソニィ・ジーさ
んの場合は、9カ月で給与が約9万ドル(1,170万円)、福利厚生費が約1万5千ドル(19
5万円)となっている。給与等は学問上の業績で決まる部分があるので、副所長よりも研究員のほ
うの給与が高い場合もある。ITPの管理統括者のシバースさんの給与は12カ月で約5万ドル
(650万円)、福利厚生費が約1万1千ドル(143万円)である。ハウジング・アシスタント
のブラドックさんの場合は、12カ月で給与が約2万8千ドル(364万円)、福利厚生費が約6
千ドル(78万円)である。
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