逗子市 ‐Press Release2006 年 12 月 7 日 逗 子 市 シナリオ大賞 2006 受賞作品が決定いたしました。 中編、短編各部門の大賞受賞者は、シナリオを映像化し、来年の映画 祭で上映することが求められます。映像作品を初公開後、中編大賞受賞 者に 100 万円、短編大賞受賞者には 30 万円が贈呈されます。 賞 中編 短編 1 大賞 ブルータングサージョンフィッシュの腐敗過程 恋のポロロン 2 審査委員長賞 期間限定人魚姫 拾う男 3 審査委員奨励賞 風紋 Take it easy 4 逗子フィルムコミッション特別賞 プライベート・ランナー ●審査委員の総評および各作品コメント <中編の部> 審査委員 坂井昌三(シナリオ・センター講師) 【中編の部 総評】 第1回目ということや応募総数の割には力作ぞろいで、真剣に且つ愉しんで審査に臨みました。実を言う と僕自身、短篇シナリオや映画(ショートフイルム)に偏愛的な位入れ込んでいる。ですから大きな期待を抱 えて短篇から先に読んだ。結果を先に言うと中篇のほうに佳作が多く、映画にして観たいと望んだシナリオ が短篇に2本、中篇に4本あった。入選作に関しては作品評を読んでいただき、ここでは惜しくも入選を逃し、 気になった作品を各1篇ずつ取り上げます。 中篇の部では、若い後継者が営む商店街の酒屋に個性豊かな訪問者がひっきりなしに来る。そんな愛す べき人々の群れを鮮やかに描き、ある審査員は「逗子商店街活性化作品」と評した『夏に集う人』。短篇の 部では、男を活性化させる薬はどうも浮気らしく、そんな浮気な夫に業を煮やし女はふと街で見かけた妖し げな『女のくすり』屋に駆け込む。女の腹の虫を抑える特効薬はなさそうで、インチキくさいカクテルで酔っ ぱらう。そして腹いせなのか女は夫の前で焦げた秋刀魚を手づかみでかぶりつく。リアルで幻想的なシーン が怖くゾッとした。 このコンクールは、作者の名前と履歴を伏せて純粋にシナリオだけで審査を進めた。最終的に一抹の不 安があって、大賞候補者達がどれほど映画化への覚悟と情熱と計画性があるのか担当スタッフに尋ねた 所、既に事前調査を済ましており、全員問題なしと聞き、安心して授賞者を決めることができた。 このコンクールは、映像化して初めて賞金がでる。その独自性から考えて、大賞授賞者が己のシナリオの 映像化に向かってその力が試され、実力を発揮して行くのはまさにこれからです。今後、多くの人々が授賞 シナリオを読み、そして映画作りに参加し、最大限協力を惜しまないだろう。その結果、2人のシナリオが来 年の映画祭では、どのような映画となって我々の前に出現するのか心から期待している。今から楽しみで なりません。 【中編の部 各評】 「ブルータングサージョンフィッシュの腐敗課程」 学生のレポートのような題名は別にして、このシナリオのファストシーンとラストに強く引き込まれた。キザ なカメラマンと美しいが反抗的な図書館勤務の女。斜に構えた生意気な恋だ。魂を吸い取られるから人間 は撮らないと嘯く彼が突然死ぬ。女は恋人の死を目の前にして涙一つ流さない。流れないのだ。彼を本当 に愛していたのか、彼に愛されていたのか判断がつかないからだろう。愛を確かめるためか熱帯魚が腐敗 していくプロセスを撮り続ける奇妙な行動。恋人の遺品を整理していて彼の裏切りを知る羽目に。不信感が つのる。やがて女の誕生日が来る。思いがけず亡き恋人から大きなプレゼントがあった事が明らかになる。 そこではじめて恋人を失った悲しみと愛情を痛感し、ぽろぽろ泣き始める。新人には不可欠な生意気さと新 鮮さを感じたラブストーリーである。 作者の才気走った映像センスは映画の中でどのように発揮されるのか。それ以上にこの女と男に早くス クリーンで会ってみたいぞ、と心ときめいたのはこのシナリオだけでした。 「期間限定人魚姫」 入水自殺未遂の若い女を助けた父親と6歳の娘は同時に女に恋をした。失恋後生きる気力をなくした女 は失語症のふりをして、しばらくの間、親娘の優しさに甘えて過ごす。絵本好きな娘は、女を魔法使いに声 を盗られた人魚姫だと信じる。女は2人の優しさに堪えきれずに、ある日突然家を出る。そして過去を清算 して初めて自分の声で謝罪と感謝の気持ちを親娘に伝える。父親は「声……魔女に返してもらったんだっ て」と微笑みながら娘に伝える。人の持つべき優しさが生きる気力をなくした女性を再生させていく心温まる シナリオ。愛と優しさに溢れたセリフが秀逸。 「風紋」 熱い青春への思いを忘れかけた頃、かつて駆け落ちまでした元恋人が夫の転勤をきっかけに街(逗子) に戻って来る。お互い家庭があるが、恋心と未練はたっぷり残っている。地元のロックフェステバルに出場 するため昔のようにバンドを組み練習を始めると2人の間に昔みたいな恋が再燃するにはそんなに時間は 要らないものだ。「青年後期」の揺れ動く心の機微や人間関係がきめ細かく、それも陰湿になることなく明る く描けている。特にヒロインの女性と、彼の妻とタイプの違う2人の女性の心理がきめ細かく描けていて魅 力的だ。妻の魅力と本音が昔を思い出にし、2人はそれぞれの日常の中で何事もなかったように挨拶を交 わす旧友になる大人の恋物語。 17 「プライベート・ランナー」 青春と恋とユーモアを乗せて、 歳の少女は全速力で逗子の街を突っ走る。親友は自転車であるいは パン屋の軽トラに便乗して、将来の長距離ランナーの後を追う。部室に忘れた携帯に人に知られたくない 片思いの先輩の名前と絵文字の秘密が人手に渡る。メールの指示に従い、携帯を取り返したくて必死に走 る少女が爽やかこの上ない。これは陸上部のコーチの粋な計らいと練習であった事がすぐに分かる。青春 とは一心不乱に目標に向かって走ることなのだろう。良く見かける題材とテーマだが、好感度は抜群で、 人々を元気にさせるシナリオである事に間違いない。爽やかさいっぱいの青春前期物語が春風のように体 内を吹き抜け心地よい。 <短編の部> 審査委員長 佐々木史朗(株式会社オフィス・シロウズ代表) 【短編の部 総評】 長編と短編とではシナリオの作り方の前提が違うように思うのです。 長編に「起承転結」とか「序破急」とかが必要なのだとすると、短編の場合は「転結」または「破急」でありた い。一度イメージとして組みたてられた長編の前半を捨て、後半だけでシナリオが成立しているかどうかを シュミレーションしてみる。これは実はなかなか難しいことですが、リズムがつかめるとあざやかな味わいの 短編になったりするものです。映像的にイメージできたことを書き上げるだけでなく、そんなふうに検証して みるのはシナリオを作るための有効な手段だと思いますし、そういう試行錯誤は楽しいことだろうと考えま す。 【短編の部 各評】 「恋のポロロン」 女の子の片思い(と本人は思っている)からはじまるファンタジィです。 作品全体を包むあったかさがすばらしい。極力、セリフでの説明を排して感情の流れで表現しようとした点 も高く評価したいと思います。「悲観的な人間」「君の行く末」など、通常の映画では避けたいと思う観念的 な言葉もファンタジイの形式で見せていくことで、むしろユーモラスな効果を生ませることに成功しています。 ラストの男の子の気持ちと主人公の女の子の気持ちの間にズレがあることを短く見せた手際も優れている と感じました。 「拾う男」 主人公の男のかかえる人生のヒトコマを切り取って見せる手法は見事だと思います。三人の男の性格を短 い時間でわからせているのもうまいと感じます。これは役名の設定(温水洋一、真木蔵人、山崎ツトム)に 助けられてもいますが、作者としてはこれらの俳優さんで映像化したいというクッキリした人物の性格のイメ ージがあったということでしょう。 ラストシーンに迷いがあったように思いました。指輪に気づかないというのは、作者が何を伝えたかったか がぼやけているように感じられて少し残念でした。 「Take it easy」 ナンパ塾という設定はタイヘン面白いですね。同時に危険でもある。映像化されたときにこのシーンに観客 がスッと入れるかどうかがこの作品の勝負どころになるでしょう。 あとラストで男の子が勇気を出して女の子に声をかけるところで終わっていますが、何かもうひとつあれば と思います。 声をかけるが急に臆病になって走り去っていくのか、女の子が答えるのか、答えるとすれば男の子には好 意的と感じとれる反応なのか逆なのか。ごくみじかい何かがあればもっと鮮やかなラストシーンになったの では、と思いました。 本件に関するお問い合わせ先: 逗子市教育委員会文化プラザホール 電話:046-872-6622 内線 102 阿部
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