イオン液体電析法による鉄族金属の分離 およびネオジム

日本金属学会誌 第 75 巻 第 11 号(2011)607
612
特集「レアメタルのリサイクル技術」
イオン液体電析法による鉄族金属の分離
およびネオジム金属の回収
松 宮 正 彦1
近藤
瞳1,1
倉 知 明 史2,2
綱 島 克 彦3
小玉
春4
1横浜国立大学大学院環境情報研究院
2横浜国立大学教育人間科学部
3和歌山工業高等専門学校物質工学科
4日本化学工業株式会社有機研究部
J. Japan Inst. Metals, Vol. 75, No. 11 (2011), pp. 607
612
Special Issue on Recycling Technologies of Rare Metals
 2011 The Japan Institute of Metals
Separation of Iron Group Metal and Recovery of Neodymium Metal
by Electrodeposition in Ionic Liquids
1, Akifumi Kurachi2,
2, Katsuhiko Tsunashima3
Masahiko Matsumiya1, Hitomi Kondo1,
4
and Shun Kodama
1Graduate
2Faculty
School of Environment and Information Sciences, Yokohama National University, Yokohama 2408501
of Education and Human Sciences, Yokohama National University, Yokohama 2408501
3Department
4Organic
of Material Science, Wakayama National College of Technology, Gobo 6440023
Chemicals R&D Department, Nippon Chemical Industrial Co., Ltd., Tokyo 1368515
It is very important to develop the recycle process for rare earth metals from the standpoint of environmentalfriendly and
savingenergy. We have already demonstrated that an economic recycle process of the rare earths from the waste of neodymium
based magnets. This study in rare earths recycle process was focused on the separation of the iron group metal and the recovery
of the rare earths using a novel ionic liquid. In addition, this phosphoniumbased ionic liquid was adaptable as an electrodeposition
media for the recycle process because this kind of ionic liquid is unique physicochemical properties such as low viscosity and high
electrochemical stability. The electrochemical and the diffusive properties of the iron complex were investigated from linear
sweep voltammetry and chronoamperometry. The diffusion coefficient of Fe() was estimated to be the order of 10-11 m2 s-1 at
100°
C. It was also revealed that the nucleation process of Fe() was proceeded on the instantaneous nucleation from Scharifker
model. The overpotential of the nucleation process for Fe() was decreasing with elevating the bath temperature of the ionic liquid. Moreover, the selective separation of the iron metal was effectively possible for the electrodeposition at the constant potential. Furthermore, the electrodeposition in ionic liquid bath was allowed us to recover the neodymium metal at highly efficient.
(Received May 6, 2011; Accepted July 25, 2011)
Keywords: ionic liquids, electrodeposition, iron group elements, rare earths
の高まりとともに「廃棄物抑制」と「使用エネルギー削減」
1.
緒
言
の観点から経済的な金属リサイクル技術の開発が有望視され
ている.
近年,ハイブリッド自動車の高性能モーター等にはレアメ
このような社会的背景において,本研究では従来の水溶液
タルの中でもレアアースに該当する高機能性元素が多く使用
や有機溶媒とは全く異なる物理化学的特性を有する環境調和
されている.特にこのレアアースについては,中国政府によ
型溶媒「イオン液体」をレアアース回収媒体として適用す
る輸出規制問題が懸念されており,レアアース原料の安定供
ることを検討してきた.本研究では残留磁束密度の高い磁石
給確保の課題に向けて,国家規模で対策を講じる必要があ
材料であるネオジム系希土類磁石からのレアアース回収に着
る.将来的な我が国の持続的発展に伴う循環型社会形成促進
目した.このネオジム系磁石は 2010 年時点で世界生産量が
の観点から我が国独自のレアアースリサイクル技術の開発が
約 45,000 トン/年に達しており,年間生産量はさらなる増加
急務とされている.また,近年の地球規模での環境保全意識
傾向にあるため,将来的な有用資源となりうる.このような
高生産性を維持するネオジム系磁石がその使命を終えた後,
1 横浜国立大学大学院生(Graduate Student, Yokohama National
University)
2 横浜国立大学学生(Undergraduate Student, Yokohama National
University)
再び有用な金属資源として活用するため,本研究では Fig. 1
に示す経済的かつ高効率なレアアース回収を目的とするリサ
イクルプロセス1)を提唱している.本技術はイオン液体を利
608
日 本 金 属 学 会 誌(2011)
Fig. 1
第
75
巻
The schematic illustration of the recycle process for rare earths using ionic liquids.
用し,溶解・分離・濃縮・回収の全工程を電気化学的手法で
sulfonylamide ) は 文 献25) に 基 づ い て 以 下 の 手 順 で 合 成 し
統一している.具体的には,以下の四段階の工程によりレア
株 )および LiTFSA(関
た.まず初めに P2225Br(日本化学工業
アースのリサイクルは進められる.


陽極溶解工程……ネオジム系磁石成分である鉄族元素
とレアアースを溶解させる.


電解析出工程……電位制御により鉄族元素を選択的
に回収する.


臭化物イオンは水洗処理を繰り返すことで除去させた.ここ
で,硝酸銀水溶液を洗浄後の溶液に滴下し,沈殿形成しなく
なることで残留するハロゲンイオンが除去されていることを
電気泳動工程……移動度の相違を利用し,レアアース
を陽極側に濃縮させる.


株 )を 1  1 で複分解反応させることで,水相とイオ
東化学
ン液体相に二層分離させた.次に,イオン液体相に残留する
電解析出工程……濃縮させたレアアース浴塩中でネ
オジムを効率的に回収する.
確認した.その後,真空乾燥処理を 120°
C, 72 h 行い,イオ
ン液体中の水分量を 50 ppm 以下まで削減した.イオン液体
中の水分量はカールフィッシャー水分計( Mettler Toledo,
DL32)で測定した.
本システムにクローズドサイクルを形成できれば,二次廃棄
本研究で使用する鉄族金属塩( FeTFSA2)およびレアアー
物の発生量を大幅に低減させるだけではなく,低温でのレア
ス金属塩(NdTFSA3)は以下の方法で合成した.まず,鉄族
アース電解回収も可能とするため,省エネルギー指向の新規
株 )を HTFSA(関東
金属塩の場合は,Fe 粉末(和光純薬工業
リサイクル技術である.本論文では Fig. 1 に示す一連の電
株 )と 70°
化学
C で反応させた.未反応の Fe 粉末は濾過によ
気化学工程において,特に電解析出法による鉄族元素の分離
り除去し,得られた酸溶液はドラフト中でエバポレーション
およびレアアースの回収に焦点を絞り込み, Fe ()および
を行うことにより,酸成分を除去して鉄族金属塩を回収し
Nd()に対する電気化学的挙動および拡散挙動を調査した
た.ここで,得られた鉄族金属塩が二価でイオン液体中に溶
結果と合わせて報告する.なお,陽極溶解工程では基本的に
解することは, 1,10フェナントロリンを加えて,紫外可視
レアアースイオンの優先的な溶解が進行するものの,イオン
分光測定( PerkinElmer, Lambda 750 )を行うことで確認し
液体中での鉄族イオンの錯形成状態を制御することで磁石成
た.次に,レアアース金属塩の場合は, Nd2O3 (和光純薬工
分である鉄族元素とレアアースの溶解が同時進行し,磁石成
株)を蒸留水中に懸濁させた状態で HTFSA を徐々に加え,
業
分と同程度の組成比までイオン液体中に溶解させることも可
70 °
C に保持することで完全に溶解させた.その後,エバポ
能となる.
レーションにより酸成分を除去することで NdTFSA3 の金属
塩を回収した.ここで, NdTFSA3 の回収率は 95 以上で
実 験
2.
2.1
方 法
イオン液体および金属塩の合成
本 研 究 で は 低 粘 性 の ホ ス ホ ニ ウ ム 型 イ オ ン 液 体 ( P2225
TFSA, triethylnpentylphosphonium bis(trifluoromethyl)
実施可能であった.最終的に FeTFSA2, NdTFSA3 は 120°
C,
48 h の真空乾燥処理で塩中の水分量を十分に除去させた.
2.2
電気化学測定
本研究においてイオン液体系での Fe()の還元挙動に対
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第
号
イオン液体電析法による鉄族金属の分離およびネオジム金属の回収
609
する温度依存性評価には LSV(Linear sweep voltammetry,
ALS660B, BAS Co., Ltd.)を適用した.また,Fe()の核
生成過程における機構解明には CA(Chronoamperometry)を
用いて評価した.本電気化学測定において,作用極には耐熱
性樹脂に埋め込まれた白金電極(q1.6 mm)を使用した.この
作用極の電極表面にアルミナおよびダイヤモンドペーストを
塗布した後,電極研磨パッドを用いて鏡面研磨処理を行っ
た.対極には熱的安定性および電気化学的安定性の高い白金
線(q0.5 mm)を使用した.イオン液体系の参照極(Ag/Ag+)
は 以 下 の 構 成 と し た . 参 照 極 中 の 電 解 液 は EMITFSA
( 1 ethyl 3 methyl imidazolium bis ( trifluoromethyl ) sulfonylamide ) 中 に 0.1 M AgCF3SO3 を 溶 解 さ せ た 溶 液 と し
た.この電解液中に銀線を浸漬させた上で,参照極の先端は
バイコールガラスで密封した構造とした.また,参照極の電
位安定性はイオン液体系で可逆なレドックス反応が実現でき
る Fc/Fc+ 系を対象として評価した後,適切であると判断し
た上で本電気化学測定に適用した.
2.3
Fig. 2 The linear sweep voltammogram of Fe(II)/P2225TFSA
at different operating temperatures, (a) 50°
C, (b) 100°
C, (c)
150°
C.
鉄族金属およびネオジムの電解試験
Fe および Nd の電解試験において,陽極に Nd rod (ニラ
の発生および緩やかな電流ピークは Fe ()/ Fe ()の電荷
株 ,q6.25 mm)を使用し,陰極には Cu 基板を使用した.
コ
移動反応に基づくものであると推測される.この電荷移動
これらの電極材料の中で特に Nd 金属は浴塩であるイオン液
ピークを過ぎた後,- 1.48 V 付近で鋭い還元ピークが観察
体に浸漬させる前に,十分に表面研磨処理を行い,金属導電
されている.このように Fe は電荷移動過程と電解析出過程
性があることを確認した.また,Nd 金属に白金線を螺旋状
の 2 種類の過程が存在する.詳細1)については,電気化学マ
に巻き付けてリードを取った. Fe および Nd に対する電解
イクロバランス法( EQCM )を適用することで明らかにされ
試験ではいずれも電位を一定に維持する定電位電解を試験法
ているため,ここでは言及しないこととする.ここで,Fig.
に適用した.ここで, Fe に対する電解試験では既存のネオ
2 において電解析出過程のみに注目した場合,イオン液体系
ジム系希土類磁石と同じ組成比(FeNd=71)のイオン液
の浴塩温度が上昇するに伴い,還元電流ピークは貴な側にシ
体電解浴中で実施した.具体的には,P2225TFSA 系に 0.7 M
フトしていることがわかる.これは P2225TFSA 系における
FeTFSA2 および 0.1 M NdTFSA3 を溶解させたものを電解
Fe ()の電解析出に要する過電圧が温度上昇とともに減少
浴とした.ここで,イオン液体と同じアニオン種の金属塩を
することを示唆している.すなわち,核生成過程での過電圧
溶解させることで,Fe()および Nd()の錯形成状態の安
が減少するに伴い,より高温領域で電荷移動過程が速まると
定性を向上させた.また, LSV 等の電気化学測定結果に基
同時に電極活物質の移動度が高くなるためであると推測され
づいて電解試験における設定電位を決定した.一方,Nd に
る.また,これは浴塩の温度上昇に伴い,イオン液体自身の
対する電解試験では, Fe よりも電気化学的に卑な元素であ
粘性が低下するため, Fe ()の拡散係数が大きくなること
るため,既存の予備試験結果に基づき,設定電位を卑な側に
も推測される.このようにイオン液体浴の温度を調節するこ
設定した.このように,電気化学測定結果に基づいて電解試
とで鉄族金属の回収の設定電位を制御できることが明らかと
験時の設定電圧を調節し,各金属種に対する定電位条件下で
なった.
の電解試験を実施した.定電位電解試験後の陽極および陰極
の質量変化から電流効率を評価した.最終的に,電解試験後
3.2
鉄族元素の核生成過程
に得られた電析物は,SEM/EDX(JEOL JSM6510LA)で表
次に鉄族元素の拡散挙動および核生成過程を明らかにする
面状態を観察するとともにエネルギースペクトルから元素分
ため, Fig. 2 ( c )の条件下における各設定電位に対するクロ
析を実施した.さらには,電解試験後のイオン液体を有機溶
ノアンペログラムを Fig. 3 に示す.ここで,核生成過程に
媒に抽出した後, ICP / MS ( Agilent, 7700 )により Fe ()お
おいて特徴的な電流ピークが観察されており,これは電気
よび Nd()の定量分析を行った.
二重層が充電された直後に発生している.この電流ピーク
を生じた後,電流密度は時間経過とともに飽和に至ること
結果および考察
3.
3.1
鉄族元素の電気化学的挙動
が確認された.これは Fe ()の還元過程が Cottrell 式9) を
満足する拡散律速過程であることを示唆している.また,
Cottrell 式を適用して求めた 100 °
C での Fe ()の拡散係数
0.1 M FeTFSA2 / P2225TFSA 系における 50 ~ 150 °
C の温
は 7.5 × 10-11 m2 s-1 で あ っ た . な お , P2225TFSA 系 で の
度範囲で LSV 測定したボルタモグラムを Fig. 2 に示す.
25°
C での Fe()の拡散係数はイオン液体の粘性が同程度の
Fig. 2 ( c )において, 0 ~- 0.5 V にかけて見られる還元電流
BMPTFSA 系68)での拡散係数と比較して同じオーダーであ
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第
日 本 金 属 学 会 誌(2011)
75
巻
す.ここで tm は Im が生じる時間に相当しており,実験結果
をプロットで示している.また,金属が析出する核生成過程
では,主として以下の 2 種類について理論式が提案されて
おり,それぞれの理論式に相当する曲線も合わせて Fig. 4
に示す.
(a)
同時核生成
I 2 1.9542
=
{1-exp [-1.2564(t/tm)]}2
Im
t /t m
()
( b)
逐次核生成
2
{1-exp [-2.3354(t/t ) ]}
(II ) =1.2254
t/ t
m
m
2
2
m
このような 2 種類の理論曲線を実験結果から得られる無次
元パラメーターと合わせて判断した結果, P2225TFSA 系で
の Fe()の核生成機構は同時核生成過程に基づいて進行し
Fig. 3 The chronoamperogram of Fe()/P2225TFSA induced
at different potentials, (a) 1.5 V, (b) 1.6 V, (c) 1.7 V.
ていることが明らかとなった.また,イオン液体のアニオン
種が同じ BMPTFSA 系において,鉄族元素である Ni()の
核生成過程7)についても,同時核生成過程で進行することが
報告されている.一方,アニオン種がハロゲンであるイオン
液体種 EMICl 系においては,同時核生成過程はなく,逐
次核生成過程で進行することが報告されている.このよう
に,イオン液体系における金属種の核生成過程は,存在する
金属種の錯形成状態および拡散挙動に関連することが推測さ
れる.
3.3
鉄族元素およびレアアースの電解析出挙動
このような鉄族元素の核生成過程に基づき,イオン液体電
析試験を検討する場合,レアアースが含有している状態から
鉄族元素を分離するため,イオン液体系で適用する電解条件
は適切に選定する必要がある.また,Fig. 1 に基づく本プロ
セスでレアアースを回収する場合,レアアース以外の電気化
Fig. 4 Relationship between t/tm and (I/Im)2 using the
chrnoamperometric data of Fig. 3, (a) instantaneous nucleation, (b) progressive nucleation.
学的に貴な金属は,前処理段階で除去しておくことが望まし
い.予備的試験結果1)から判断した場合,P2225TFSA 系では
Fe()および Nd ()の還元挙動には, 1.7 V 程度の電位差
が生じることが判明しているため,定電位電解ではこの電位
り,イオン液体系のマクロな粘性挙動は電極活物質のミクロ
制御を適切に行うことで,鉄族元素のみを選択的に回収でき
な拡散挙動に関係していることが示唆された.特に, Fe 系
ることが示唆されている.そこで,Nd 系希土類磁石と同じ
錯体としてシクロペンタジエニル基を配位子とする中性の電
組成比(FeNd=71)で Fe()および Nd()を含有する
極活物質(フェロセン)10) の場合,特定の粘性係数の範囲内
イオン液体電解浴を調製し,浴塩温度 100 °
C ,定電位電圧
であれば,イオン液体系の粘性係数 h とフェロセンの拡散
-1.5 V の条件下で電解試験を実施した.この定電位電解試
2)が
験中の電流と電位の経時変化を Fig. 5 に示す.電解試験中
成立することが報告されている.ここで, kB はボルツマン
の通電電流は時間とともに緩やかな減少傾向を示しており,
係数 D の間に Stokes Einstein の関係式 D = kBT / 6phr
定数, T は絶対温度, r は Stokes 半径である.この Stokes
これは電極表面上の電析物の導電性が低下することによる液
半径は溶媒中での金属イオンおよび錯体種の溶媒和構造を判
間抵抗の僅かな増加に起因するものであると推測された.一
断する指標となりうる.イオン液体系でのフェロセンに対す
方,電解試験中の電位は変動することなく一定値を保持する
る Stokes 半径は既報2) に記載しており, r =~ 0.10 nm であ
ことができた.また,電解試験後,陰極側の Cu 基板上に黒
る.本研究で使用した TFSA 錯体である FeTFSA2 の場合,
色の電析物が確認できたので,この電析物表面を SEM で観
ホスホニウムイオン液体中では 25 °
C で拡散係数は 9.6 ×
察した結果を Fig. 6 に示す.電析物は所々に凝集相が観察
10-12
であり, Stokes 半径は 0.21 nm であるため,
され,均一な析出形態ではなく,デンドライト状に近い状態
フェロセンに比べて溶媒和構造が大きいことが確認された.
であった.この電析物表面の EDX 分析結果を Fig. 7 に示
m2
s- 1
次に,クロノアンペログラムの電流ピーク値から
す.このように,電析物中の元素種に対応する鋭い Fe のエ
Scharifker の核生成成長モデル11) を適用して,無次元パラ
ネルギースペクトルが検出されていた.また,イオン液体系
メーターである( I / Im )2 および( t / tm )の関係を Fig. 4 に示
電解浴中には Nd ()が含まれていたが,電析物中に Nd に
第
11
号
イオン液体電析法による鉄族金属の分離およびネオジム金属の回収
Fig. 5 Relationship between (a) potential and (b) current
against the electrolysis time using the ionic liquids including
C.
FeNd=71 at 150°
611
Fig. 8 The photograph of the electrodeposit in Nd()/P2225
TFSA observed by SEM.
オン液体中から鉄族元素を選択的に回収できることが明らか
となった.なお,この電解試験では総電気量682C に対し
て,全電析物の質量 186.5 mg から計算した電流効率は
94.5 であり,イオン液体中の Fe ()初期含有量 218.9
mg の 85.2を分離回収できた.また,電解試験用のイオン
液体を有機溶媒に抽出した後, ICP / MS 分析を行った結
果,電解試験前後において Fe ()濃度は 0.415 M (電解前)
から 0.058 M(電解後)まで減少していたことが確認された.
このようにイオン液体系においても電気化学的に貴な元素で
ある鉄族金属に対して,高効率な選択的分離が実現できるこ
とを明らかにした.
次 に 0.5 M Nd (  ) / P2225TFSA 系 の 電 解 浴 を 調 製 し た
後,この電解浴は真空乾燥処理を行い,イオン液体中の水分
Fig. 6 The photograph of the electrodeposit in P2225TFSA
including FeNd=71 observed by SEM.
含有量を 25 ppm 以下まで低減させた.浴塩温度 150°
C,定
電位電圧-3.2 V の条件下で電解試験を実施した.定電位電
解試験中の電流変化は鉄族元素の電解試験の場合と同様に,
緩やかな減少傾向のある電流曲線12) が得られた.また,電
解試験中の電位は初期状態から変動することなく,一定の値
を保持することが可能であった.この電解試験後,陰極側の
Cu 基板には黒色の電析物が確認された.この電析物に所定
の成膜条件で Pt 微粒子を蒸着させ,表面形態を SEM で観
察した結果を Fig. 8 に示す.本電解試験では粒子状の析出
物が確認され,この粒子の平均粒径は 1.25 mm であった.
また,この粒子状析出物周辺を低倍率にて EDX により元素
分析を行った結果を Fig. 9 に示す.粒子状析出物の部分は
主として Nd のエネルギースペクトルが検出されており,一
方,粒子状析出物を生じていない部分は Cu 基板のエネル
ギースペクトルが検出された.また,現段階では Nd 析出物
および Cu 基板上には炭素および酸素の分布およびエネル
ギースペクトルも観測されており,電解析出過程において,
Fig. 7 The energy spectrum of the electrodeposit in P2225
TFSA including FeNd=71 analyzed by EDX.
電析金属の最表面では酸化反応が進行していることが推測さ
れた.本電解試験において,陽極側の Nd rod から計算した
電流効率は 100.5であり,通電量に対して理論量にほぼ近
対応するエネルギースペクトルは検出されなかった.このこ
い Nd の溶解が確認できた.また,陰極側の Cu 基板上の電
とから,イオン液体系で分離目的の金属種の還元電位に基づ
析物質量から計算した電流効率は 90.2 であり,高効率な
いて定電位電解を実施することにより,レアアースを含むイ
レアアース回収が実現できた.イオン液体中に僅かに生じて
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日 本 金 属 学 会 誌(2011)
第
75
巻
かとなった.また, Fe ()の核生成機構は同時核生成機構
で進行することも明らかにした.これは TFSA 系アニオン
を有する同種のイオン液体系の Ni ()の核生成挙動と同じ
であった.このような鉄族元素の電気化学的挙動に基づき,
電解試験を実施した結果,定電位電解を行うことで鉄族元素
の選択的分離を達成できた.また, Nd ()の電解試験も実
施した結果,電流効率 90程度を維持でき,高効率な電解
回収が可能であることを確認できた.今後,レアアースリサ
イクルの実用化に向けては,イオン液体の長期安定性評価や
イオン液体原料の低コスト化を促進していくことが望まれる.
本研究の一部は平成 22 年度環境省「循環型社会形成推進
科学研究費補助金」による資金援助により遂行した.関係者
各位に深く謝意を表する.
Fig. 9 The energy spectrum of the electrodeposit in Nd()/
P2225TFSA analyzed by EDX.
いた黒色粉末は Cu 基板に密着せず剥がれ落ちた Nd 金属で
あり,これが電流効率 9.8の減少分に相当すると推測され
る.なお,将来的に実用性を考慮に入れてレアアース回収を
検討する場合,電解で得られた電析物中の酸素含有量は少な
いことが望まれるため,イオン液体系の水分含有量や電解条
件等を適切に検討していくことが重要である.
4.
結
論
本論文では近年,様々な分野で研究活動が活発な「イオン
液体」という物質に着目した上で,その応用性をレアアース
のリサイクル技術に適用することを検討してきた.このレア
アースリサイクル技術の要となる電解試験および Fe()の
電気化学的挙動や核生成過程等の基礎研究事項を調査してき
た.その結果, Fe ()の還元過程に対応する過電圧は温度
依存性があり,イオン液体浴の温度が高いほど過電圧が小さ
くなり, Fe ()の析出電位が貴な側に移行することが明ら
文
献
1) M. Matsumiya and K. Tsunashima: Proceeding of Reports for
H22 Research Grant Program on the Promotion a Recycle
Based Society in 2010, MOE (Ministry of the Environment),
(2010) pp. 117
122.
2) M. Matsumiya, K. Tsunashima, M. Sugiya, S. Kishioka and H.
Matsuura: J. Electroanal. Chem. 622(2008) 129135.
3) K. Tsunashima, A. Kawabata, M. Matsumiya, S. Kodama, R.
Enomoto, M. Sugiya and Y. Kunugi: Electrochem. Commun.
13(2011) 178181.
4) K. Tsunashima and M. Sugiya: Electrochem. Commun. 9(2007)
23532358.
5) K. Tsunashima and M. Sugiya: Electrochemistry 75(2007) 734
736.
6) R. Fukui, Y. Katayama and T. Miura: Electrochim. Acta
56(2011) 11901196.
7) Y. L. Zhu, Y. Kozuma, Y. Katayama and T. Miura:
Electrochim. Acta 54(2009) 75027506.
8) N. Tachikawa, N. Serizawa, Y. Katayama and T. Miura:
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Inc., New York, 2001).
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Electrochim. Acta 55(2010) 50635070.
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