アドバンスIPニュース第78号

アドバンス国際特許事務所
2016 年 6 月 1 日発行
Contents
第78号
目次
○トピックス○
〔特許〕
カンボジアで特許が取得しやすくなります……………………………… 2
○審決情報○
〔商標〕
不服2015-764
(商願2013-98030拒絶査定不服審判事件)………………… 3
○判決情報○
〔特許〕
平成26年( ワ )第 1690 号
特許侵害差止等請求事件…………………………………………………… 6
〔著作権法〕
平成27年( ワ )第18469号
ブログ記載の新聞記事への無断引用事件………………………………… 9
〔商標〕
平成27年(行ケ)第10058号
審決取消請求事件……………………………………………………………11
○海外情報○
〔韓国〕
商標法の大幅改正(商法)……………………………………………………14
〔中国〕
北京市裁判所司法保護に関する10大判例(四法)………………………15
○特許紹介○
特許第5898126号
「クラウドコンピューティングによる仕訳解析サービスを提供する
仕訳解析センターシステム」のご紹介 ……………………………………20
カンボジアで特許が取得しやすくなります
トピックス
とプノンペンにて会談し、本協力を開始するため
1.概要
の覚書に署名しました。
経済産業省ホームページ平成28年5月9日更
新記事によりますと、日本国特許庁は5月4日、
3.特許の付与円滑化
カンボジア工業手工芸省と会談を行い、日本国特
今般、合意された特許の付与円滑化に関する協
許庁と工業手工芸省との間で、カンボジアにおけ
力(CPG:Cooperation for f
る特許の取得を容易にするための協力を開始すべ
acilitating
く覚書に署名しました、とのことです。この協力
nt)は、カンボジアは、日本で審査を経て特許
は、日本で審査を経て特許となった出願に対応す
となった出願に対応する出願について、出願人か
る出願について、カンボジアでは実質的に審査無
らの申請により、実質的に無審査でカンボジアで
しに早期に特許とするものです。
も特許を付与するというものです。
Patent
Gra
今後、同様の協力を、審査体制が十分に整備さ
これにより、出願人は、日本で登録された特許
れていない他の新興国にも拡大させることで、我
と同様の特許をカンボジアでも早期に取得するこ
が国企業のより円滑な国際事業展開を支援します、 とが可能となります。
としております。
2.背景
アセアン諸国は我が国企業の今後の事業展開先
として有望視されており、日本国特許庁としても、
我が国企業の円滑な事業展開のために、投資環境
を整備する観点から、アセアン諸国の知的財産制
度の整備・強化を支援しています。
4.今後の展望
本協力を7月1日に開始すべく、日本国特許庁
カンボジアは、2011年より4年連続で7%
はカンボジア工業手工芸省との間でガイドライン
を超える高成長を維持しており、2016年1月
の公開に向けた調整を進めます。また、今後、同
末時点で200社以上の日系企業が進出するなど、 様の協力を、審査体制が十分に整備されていない
投資額も増加しています。また、経済発展に伴い、 他の新興国にも拡大させることで、我が国企業の
カンボジアにおける特許出願件数も増えており、
より円滑な国際事業展開を支援していきます。
今後も増加することが予想されます。
しかしながら、カンボジアに出願された300
上記トピックスにつきましては、経済産業省ホー
件以上の特許出願のうちほぼ全てが未着手状態と
ムページの下記該当ページをご参照下さい。
なっていました。日本国特許庁は、カンボジア工
「カンボジアで特許が取得しやすくなります」
(同
業手工芸省に対して特許の取得を容易にするため
省2016年5月9日更新ニュースリリース)
の協力を行うべく協議を行ってまいりました。
URL
そして、日本国特許庁の伊藤長官は4日、カン
ボジア工業手工芸省チャム・プラシット上級大臣
2
ADVANCE
http://www.meti.go.jp/press/2016/05/20160509
001/20160509001.html
IP NEWS
Vol.78
審
情
決
報
不服2015-764
(商願2013-98030拒絶査定不服審判事件)
1.事案の概要
4.当審の判断
本件は、出願人が販売する照明器具(ランプシ
(1)商標法第3条第1項第3号該当性
ェード)の商標(立体的形状の商標)について、
「本願商標は、これに接する取引者、需要者が、
単に商品の形状を普通に用いられる方法で表した
当該商品の形状をカーブした4枚のシェード等で
にすぎないもの(商標法第3条1項3号に該当)
デザインされた構造からなる立体的形状のランプ
といえるが、その使用により出願人の業務に係る
シェードとして理解し、商品等の機能又は美感を
商品であることを認識できるとして(商標法第3
より発揮させるために施されたものと認識すると
条第2項に該当)
、商標登録が認められた事例です。 いうのが相当であ」って、
「未だ商品の形状を普通
に用いられる方法で表示するものの域を出ないと
2.争点
解するのが相当であり、
『ランプシェード』の形状
商標法第3条第2項該当性
本願商標は使用を
された結果需要者が本願出願人の業務に係る照明
として、需要者の予測可能な範囲内のものという
べきである。
器具(ランプシェード)であることを認識するこ
したがって、本願商標は、これをその指定商品
とができるか(本願商標が識別力を有しているか
に使用しても、単に商品の形状を普通に用いられ
否か)
。
る方法で表示したにすぎないものであるから、本
願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
」
3.本願商標
(2)商標法第3条第2項該当性
(使用による識別力)
出願番号:商願2013-98030
商
(ア)本願商標に係る商品形状の完成等
標:
第1図
「出願人は、1874年にデンマークで設立さ
第2図
れた照明器具メーカーであり、1924年に「近
代照明の父」と呼ばれるデンマーク生まれのポー
ル・ヘニングセン(以下「ヘニングセン」という。
)
と協力を開始した(甲5、6、40、193)
。そ
して、本願商標は、ヘニングセンが1958年に
第3図
デザインし、出願人が、現在に至るまで55年以
第4図
上、ヘニングセン及び同氏の子息との協約に基づ
き、世界中の市場において、本願商標に係る立体
的形状のランプシェード(以下「出願人製品」と
いう。
)に独占して使用してきたものである(甲6、
66、197等)
。
出願人製品の形状は、上下方向にカーブした大
第5図
第6図
きさの異なる4枚のシェード、内部に組み込まれ
た2枚の反射板並びにこれらのシェード及び板を
つなぐ3本の線によって構成されている。各々の
シェードのカーブには、光源の光を光が必要とさ
れる方向に効率良く反射させるために、ヘニング
センがシェードの形状に採用した「対数螺旋」と
呼ばれる曲線が用いられており、メインシェード
指定商品:第11類 ランプシェード
出 願 人:ルイス ポールセン エイ/エス
ADVANCE
の直径が50cmであることから、
「PH5」と名
IP NEWS
Vol.78
3
付けられた。出願人製品は、デンマークにおいて、 のみならず世界のスタンダードの座に、21世紀
「国民性ランプ」と称されるまでになり、海外で
もおそらく君臨するのだろう。』
(甲15)・・・。
知られる最初のデンマーク製品の一つとして、5
また、出願人製品は、高校の教科書「工芸I」
5年以上を経た今も、日本を含め世界各地で人気
(平成24年3月5日検定済)において、
『ライテ
を博している(甲6、8、19、40)
。
ィングデザイン』の項で、
『モダンデザインの代表
出願人製品は、電球型蛍光灯への対応等の理由
的ペンダント
PH5』及び『ポール・ヘニング
から、1994年に、塗装をオフホワイトから純
セン(デンマーク・1894-1967)
』と記載
白に近い白色に、また、2枚の内の1枚の反射板
され、同製品の写真と共に採り上げられている(甲
を金属製からフロストガラスに変更されているが、 1)
。
基本的な形状に変更はない(甲66)
。
」
さらに、出願人製品は、
『名作といわれる器具の
(イ)本願商標の使用の実情
形を変えることなく内部構造の見直しを図り、よ
◆a:使用開始時期及び使用期間
り適応性の高い商品に仕上げたことが評価』され、
「日本においては、出願人の販売代理店であっ
平成9年通商産業省選定グッド・デザイン外国商
た株式会社YAMAGIWA(名称変更時の『株
品賞を受賞している(甲3)
。
」
式会社ヤマギワ』の時期を含む。
)が、1972年
◆e:証明書等
から2007年までの定期的に発行する商品カタ
「出願人は、同社が日本において40年以上に
ログ(甲158~178、180~182)並び
わたりランプシェードに本願商標に係る立体商標
に2014年及び現在の同社のインターネット販
を使用してきた結果、日本全国において需要者が
売サイト(甲66)で紹介し、輸入販売してい
出願人の業務に係る商品であることを認識できる
る。
・・・」
旨の国内及び外国の照明器具の著名なデザイン関
◆b:使用地域
係者並びにデンマーク国駐日大使の証明書又は陳
「・・・出願人の『顧客リスト』
(甲157)には、
述書を提出している(甲70~74、219、2
全国の建築設計事務所、住宅メーカー、インテリ
23、224)
。
アコーディネーター、インテリアショップ、百貨
なお、出願人製品は、デンマークの切手のデザ
店、インテリア雑誌及びプレス等の約5千社(人)
インに採用されるほど、デンマーク国民に親しま
が掲載されている。
」
れている(甲218)
。
」
◆c:販売数量
(ウ)まとめ
「出願人製品は、世界で50万台を超すセール
「上記(ア)及び(イ)によれば、出願人は、
スを記録しているロングセラー商品であり(甲6)
、 本願商標とほぼ同一の形状からなる立体的形状を
日本においては、1999年から2014年の間
商品『ランプシェード』について、1958年か
に、約7万5千台が販売されている(甲217)
。
」
ら使用し、日本においては、遅くとも1973年
◆d:広告宣伝等
から現在まで約42年継続して使用したことが認
「・・・出願人製品は、1995年から201
められる。また、出願人製品は、定期的に作成さ
4年に発行された、家具に関する書籍、照明に関
れた出願人の販売代理店や日本法人等の商品カタ
する雑誌・カタログ、インテリア雑誌、ファッシ
ログに、その写真と共に掲載されて、全国的に配
ョン雑誌、経済雑誌等の数多くの出版物で紹介さ
布され、さらに、照明又はインテリアの書籍、雑
れており(甲2、4~63、69)、例えば・・・
誌及びカタログのみならず、高校の教科書並びに
58年に販売を開始。
・・・以降の照明デザインの
ファッション及び経済関係の雑誌にも、近代照明
歴史を変えた名作とされており、世界中で数多く
の父といわれるデザイナーのヘニングセンにより
の模倣品を生んだ。」
(甲6)
、
『ペンダント型の照
デザインされ出願人の販売に係る名作のランプシ
明器具といえば、すぐにヘニングセンのデザイン
ェードとして、その写真と共に、長期にわたって
した一連の器具が想起されるほどに、彼のデザイ
採り上げられていることに照らせば、出願人製品
ンは、世界中で最も長く使われてきている。
』(甲
に係る立体的形状は、照明器具を取り扱う業界に
8)
、『デンマークの国民的ランプと称され、北欧
おいて、ランプシェードの代表的な立体的形状と
して、取引者、需要者に認識されているといえる。
4
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
なお、出願人製品は、電球の変化等の時代的事
情から、1994年に塗装及び反射板の1枚の材
料が変更されているが、塗装の変更は同系色内で
方法等を客観的な証拠資料により証明する必要が
あります。
本件においては、200以上の証拠資料により、
の僅かな変更であり、材料の変更も基本的な立体
本願商標の「使用開始時期及び使用期間」
、
「使用
的形状に変更を加えるものではないことから、1
地域」
、「販売数量」
、「広告宣伝等」、
「証明書等」
973年から約42年間、ほぼ同一の形状を維持
などが立証されています。
しているものといえる。」
本願商標はポール・ヘニングセン氏のデザイン
「そうすると、本願商標は、その指定商品『ランプ
した照明器具として、本件において提出された資
シェード』について、出願人により、長年の間、
料のように住宅・インテリア関係の雑誌、書籍等
継続的に使用をされた結果、需要者が出願人の業
には必ずといってよいほど掲載されているもので
務に係る商品であることを認識するに至ったもの
すので、住宅・インテリアの関係の取引者はもち
と判断するのが相当であるから、本願商標は、商
ろん、インテリアに興味のある需要者にとっては
標法第3条第2項の要件を具備している。
」
人気のあるなじみ深い商品であることが窺い知れ
ます。また、1958年にデザインされ、日本に
5.コメント
おいては1973年から現在まで約42年間の長
商標法は、商品の形状を普通に用いられる方法
きにわたり継続して使用されている点や、周知性
で表示する標章のみからなる商標は他者の商品等
を獲得していることについて、著名なデザイン関
と識別する機能を有していないため(識別力がな
係者並びにデンマーク国駐日大使の証明書又は陳
いため)
、そのような商標の登録を認めていません
述書が提出されている点も法3条2項の判断にお
(法3条1項3号)
。しかしながら、識別力のない
いて大きな影響を与えるものと考えます。
商標であっても、長年の商標の使用により、商標
なお、本願商標は出願時においては、
「照明用器
に付された商品(商標が商品の形状の場合にはそ
具及びその付属品,照明装置,電球類,白熱電球,
の商品)が需要者において商標使用者のものであ
ランプ用ガラス,ほや,ランプのかさ,天井灯,
ると認識されている場合には、他者の商品等と識
シャンデリア,蛍光灯,ガスランプ,石油ランプ」
別する機能を獲得しており、そのような商標は登
を指定商品としておりましたが、審判請求時に「ラ
録が認められています(法3条2項)
。
ンプシェード」に補正しております。これは、周
商標が商品の形状(立体的形状)の場合には、
知性の対象者を住宅・インテリアに関連する照明
特徴的な部分を有しているにせよ、そのような特
器具であるランプシェードに係る需要者・取引者
徴は販売のために通常行われる範囲であり、その
に特定する意図があったと思われます。
商品自体を示しているのでありますから、一般的
余談になりますが、住宅・インテリア関係の雑
にその商品の形状を普通に用いられる方法で表し
誌、書籍等には必ずといってよいほど、ポール・
ている商標に該当し、法3条1項3号により拒絶
ヘニングセン氏のデザインした照明器具(本願商
されることになります。
標)と共に、ハンス.J.ウェグナー氏のデザインし
本願商標は、特徴的な形状を有するランプシェ
た椅子(いわゆる「Y チェア」
)がどこかに掲載さ
ードであるとしても、需要者においてはランプシ
れています。この「Y チェア」も立体的商標とし
ェードとしての形状と認識され、法3条1項3号
て、本件と同様に拒絶査定不服審判において法3
に該当することになりますので、登録が認められ
条2項該当性の主張が認められ、商標登録が認め
るためには法3条2項に該当する必要があります。 られています(登録第5446392号、登録日:
法3条2項に該当することが認められるために
平成23年(2011)10月28日)
。本件は「Y
は、需要者に広く認識されていることを示す事実、 チェア」の審決が、法3条2項該当性の判断に影
例えば、出願商標の構成及び態様、商標の使用態
響していた可能性もあるかもしれません。
様・使用数量・使用期間・使用地域、広告宣伝の
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
5
判
情
決
報
平成26年(ワ)第1690号
特許侵害差止等請求事件
各製品の購入者を道具として被告支持構造を実施
1.標題
するものとして本件特許権2を侵害する行為であ
構成要件の充足性だけでなく間接侵害について、
る、
(ⅲ)被告各製品は、被告支持構造の生産にの
原告の訴えが認容された事例。
み用いる物であるから、被告が被告各製品を輸入、
(平成28年3月28日 東京地裁判決言渡)
使用、譲渡又は譲渡の申出をする行為は、本件特
許権2を侵害するものとみなされる(特許法10
2.関連キーワード
1条1号)
、
(ⅳ)被告各製品は、被告支持構造の
構成要件の充足性、
生産に用いる物であって本件発明2による課題の
間接侵害(のみ品侵害)
、
(明確性要件)
解決に不可欠なものであるから、被告が、本件発
明2が特許発明であること及び被告各製品が本件
3.関連特許法規
発明2の実施に用いられることを知りながら被告
100条、101条1号および2号、
各製品を輸入、使用、譲渡又は譲渡の申出をする
102条2項
行為は、本件特許権2を侵害するものとみなされ
る(同条2号)と主張して、被告に対し、①本件
4.事案の概要
特許権2の侵害を原因として、特許法100条1
本件は、発明の名称を「建築用パネル」とする
項に基づき、被告各製品の輸入、使用、譲渡及び
特許権(以下「本件特許権1」といい、その特許
譲渡の申出の差止めを求めるとともに、②本件特
を「本件特許1」という。
)及び発明の名称を「壁
許権2の侵害を原因として、同条2項に基づき、
パネルの下端部の支持構造」とする特許第345
被告各製品及びその半製品の廃棄を求め、併せて、
5669号に係る特許権(以下「本件特許権2」
③特許権(本件特許権1及び同2)侵害の不法行
といい、その特許を「本件特許2」という。
)を有
為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の
する原告が、別紙被告製品目録記載の各製品(以
一部である7370万9039円及びこれに対す
下、同目録記載の番号〔請求の減縮があったため
る平成26年1月23日(原告の主張に係る遅延
番号が連続していない。
〕に従い「被告製品1-1」 損害金の起算日)から支払済みまでの民法所定年
などといい、被告製品1-1、同1-2、同4-
5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(な
1及び同4-2を併せて単に「被告各製品」とい
お、本件特許権1の侵害による損害賠償請求と、
う。
)は、本件特許1の特許請求の範囲の請求項1
本件特許権2の侵害による損害賠償請求とは、侵
記載の発明(以下「本件発明1」という。
)の技術
害期間並びに損害額及び遅延損害金が重複する範
的範囲に属するから、被告が被告各製品を輸入、
囲につき、選択的請求の関係にある。
)事案である。
使用、譲渡又は譲渡の申出(譲渡のための展示を
含む。以下同じ。
)をする行為は本件特許権1を侵
5.本件発明1及び2について
害する行為であり、さらに、被告各製品を使用し
ア
本件発明1(本件明細書1の特許請求の範囲
て生産される壁パネルの下端部の支持構造(以下
の請求項1記載の発明)を構成要件に分説すると、
「被告支持構造」という。
)は、本件特許2の特許
次のとおりである(以下、分説に係る各構成要件
請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発
を符号に対応して「構成要件1A」などという。
)
。
明2」という。
)の技術的範囲に属するところ、
(ⅰ) 1A:金属薄板材からなる方形の表面材と裏面材
被告が被告各製品を使用する行為は、本件特許権
との間に断熱用芯材を挟持したパネルであって、
2を侵害する行為である、
(ⅱ)被告が被告各製品
1B:パネルの一端側には芯材端部より突出した
を輸入、譲渡又は譲渡の申出をする行為は、被告
雌型係合部が形成され、対向する他端側には表裏
6
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
両面材が内側に屈曲して形成される屈曲段差部に
争点1
続く雄型係合部が形成され、隣接するパネルと嵌
被告各製品は本件発明1の技術的範囲に属するか
合接続が可能とされた建築用パネルにおいて、
ア 被告各製品は構成要件1Aを充足するか
(争点1-1)
1C:この嵌合接続方向に直角な方向の表面材の
両端部が芯材の側面に沿ってL型に折り曲げられ
ると共に、更にその先端が芯材厚みの中間部から
パネルの表面方向と平行になるように再度L型に
折り曲げられて、全体としてパネルの嵌合方向と
直角方向の側面から表面材の先端が突出された接
合部材を有し、
1D:芯材の側面に沿ってL型に折り曲げられて
なるパネルの側面の表面材が内側に屈曲して形成
イ 被告各製品は構成要件1Dを充足するか
(争点1-2)
争点2
本件発明1についての特許は無効理由(記載要件
違反)が存在するとして特許無効審判により無効
にされるべきものと認められるか
争点3
被告支持構造は本件発明2の技術的範囲に属する
か
される屈曲段差部を、雄型係合部の屈曲段差部を
争点4
設けた位置のパネルの側面に形成してなる
被告が被告各製品を輸入、使用、譲渡又は譲渡の
1E:ことを特徴とする建築用パネル。
申出をする行為は、本件特許権2を侵害し、又は
イ
侵害する行為とみなされるか
本件発明2(本件明細書2の特許請求の範囲
の請求項1記載の発明)を構成要件に分説すると、 争点5
次のとおりである(以下、分説に係る各構成要件
本件発明2についての特許は特許無効審判により
を符号に対応して「構成要件2A」などという。
)
。
無効とされるべきものと認められるか
2A:壁パネルの上端部に嵌合凹部もしくは嵌合
ア:無効理由1(記載要件違反)は認められるか
凸部の一方を形成するとともに下端部に嵌合凹部
もしくは嵌合凸部の他方を形成し、壁パネルの下
端に下位の壁パネルの上端部の表面部を覆う覆い
片を垂下した壁パネルの下端部の支持構造であっ
て、
2B:スタータを、覆い片の背部の凹所に係入す
る係入片と、凹所よりもパネル背方のパネル下端
面を受ける受片と、受片より下方に垂下されて壁
下地に取付ける取付け片と、取付け片より前方に
(争点5-1)
イ:無効理由2(乙第32号証を主引例とする進
歩性欠如)は認められるか(争点5-2)
争点6
本件特許権1又は同2の侵害により原告が受けた
損害の額
そして、当裁判所は、各争点について判断し、
争点1、3、4については原告の主張を認容し、
争点2および5については、被告の主張を退けた。
なお、本稿では争点4における判断を次に示す。
延出されて覆い片の下端と家屋構造部との間に充
填するコーキング剤をバックアップするバックア
7.当裁判所の判断(争点4について)
ップ片とで構成し、
(1)被告が、壁パネルである被告各製品の販売
2C:壁下地にスタータを取付け、スタータの受
に際し、これを建物等の基礎に施工するために必
片にて壁パネルの下端部を支持し、
要な数量分のスタータ(同スタータが被告製品説
2D:スタータのバックアップ片と家屋構造部と
明書2に記載の形状であることは、被告も争って
の間にバックアップ材を装填して成る
いない。
)と併せて販売していることは、被告も認
2E:ことを特徴とする壁パネルの下端部の支持
めているところ、上記スタータを用いて建物等の
構造
基礎部に被告各製品を施工すると、上記のとおり
6.争点
本件発明2の技術的範囲に属する被告支持構造が
原告が言わんとする争点は、以下の6点である。
なお、各争点についての原告及び被告の主張は本
稿では割愛する。
ADVANCE
生産されることとなるのであるから、被告各製品
は、被告支持構造の「生産にのみ用いる物」と認
められる。したがって、被告が、業として被告各
IP NEWS
Vol.78
7
製品を輸入、使用、譲渡及び譲渡の申出をする行
というべきであり、そうである以上、被告各製品
為は、本件特許権2を侵害する行為とみなされる
は、被告支持構造の「生産にのみ用いる物」と認
というべきである(特許法101条1号)
。
めるのが相当である。
(2)被告は、本件発明2における壁パネルは、
本件発明2が対象とする「支持構造」
、具体的には
8.コメント
スタータにより支持される対象にすぎないから
上記争点4において、
「…基礎に接する一番下の
「支持構造」を構成するものではなく、同様に、
パネルに限って被告各製品を使用しないという使
壁パネルである被告各製品も、被告支持構造を構
用態様は、社会通念上、経済的、商業的又は実用
成するものではないと主張するが、本件発明2は、 的に想定し難いのであるから、被告各製品を用い
特定の形状を有する壁パネルと(構成要件2A)
て建築物の壁面を施工すると、当然に被告支持構
と、特定の形状を有するスタータ(同2B)とが
造が実施されることになるというべきであり、そ
嵌合され、かつバックアップ材を装填してなる(同
うである以上、被告各製品は、被告支持構造の「生
2D)支持構造とされているのであるから、壁パ
産にのみ用いる物」と認めるのが相当である。
」と
ネルが本件発明2の対象たる支持構造を構成しな
判示して、特許法101条1号の規定に相当する
いということはできない。
としました。この101条の間接侵害に係る判例
また、被告は、被告各製品は、その全てが建物
としては、例えば「食パン器事件」
(大阪地裁平成
等の基礎部に直接スタータとともに設置されるの
12年10月24日判決。平成8年(ワ)第12
ではなく、当該基礎部に直接設置された被告各製
109号。
)があります。最も「食パン器事件」は
品パネルの更に上部に設置されることのほうが多
101条4号(平成12年当時は101条2号)
いから、被告支持構造の「生産にのみ用いる物」
の所謂「方法の使用のみに用いる物」に係る判例
には当たらないと主張する。しかしながら、被告
ですが、101条1号の所謂「のみ品」侵害と考
各製品を用いて形成された建築物の壁面において、 え方は似ているかと思います。合わせてご覧いた
基礎に接する一番下のパネルに限って被告各製品
だくといいかもしれません。
を使用しないという使用態様は、社会通念上、経
本件の詳細は、下記のURLをご参照下さい。
済的、商業的又は実用的に想定し難いのであるか
URL:
ら、被告各製品を用いて建築物の壁面を施工する
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/
と、当然に被告支持構造が実施されることになる
840/085840_hanrei.pdf
【本件発明2の図1】
【被告製品の壁の開口部の構造を分解した
概略断面図(被告製品説明書2に記載の図2)
】
8
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
判
情
平成27年(ワ)第18469号
ブログ記載の新聞記事への無断引用事件
決
報
1.標題
あるところ,これらの記事中には別紙対照表「本
新聞社である被告が、原告が執筆したブログの
件記事1」及び「本件記事2」欄の各記載(それ
記載の一部を新聞記事に引用したことが著作権侵
ぞれを「本件被告記載1」
,
「本件被告記載2」
)が
害と不法行為に当たるとして、原告が著作権法違
ある」ということです。
反等を理由に損害賠償等を請求したものの、請求
また、被告は、
「記者が自らの行動を判断する際
が棄却された事案。
の指針として「A新聞記者行動基準」を定めてお
平成28年4月28日 東京地裁 民事第46部
り,これ(本件記事1及び2掲載当時のもの)に
2.関連法規
よれば「記事で批判の対象とする可能性がある当
著作権法第2条第1項第 1 号、著作権法第21条、 事者に対しては,極力,直接会って取材する」も
民法709条
のとされている。
(乙1)
」ということです。
3.事案の概要
(ウ)また、上記別紙対照表の内容は次の通りで
(1)判決文によると、
「本件は,原告が,新聞社
す。
である被告に対し,被告が発行する新聞の記事に
原告の執筆したブログの一部を引用したことが原
告の複製権(著作権法21条)及び同一性保持権
(同法20条)の侵害に当たるとともに,原告を
取材せずに記事を掲載した行為が不法行為に当た
ると主張して,①民法709条に基づく損害賠償
金352万円及びこれに対する最終の不法行為の
4.本件の争点
日である平成24年7月11日から支払済みまで
争点1
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払, 本件被告記載1及び2が原告の複製権又は同一性
②著作権法115条及び人格権に基づく名誉回復
保持権を侵害するか。
措置として謝罪広告の掲載を求める事案」です。
争点2
(2)当事者及び事実関係
原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載した行
(ア)本件の原告は,琉球大学名誉教授であり,
為が不法行為に当たるか。
有用微生物群(EM)の研究者です。
5.裁判所の判断
また、原告は,
「新・夢に生きる」と題するイン
ターネット上のブログに記事を連載しており、
「同
本件判決では、次のように原告の主張をいずれ
も否定して、原告の請求を否定しています。
ブログの平成19年10月1日付けの記事中には, 争点1
別紙対照表「原告のブログ記事」欄の記載(
「本件
本件被告記載1及び2が原告の複製権又は同一性
原告記載」
)があるということです。
保持権を侵害するかについて
(イ)一方、本件の被告は,A新聞の発刊等を目
裁判所では、
「著作権法において保護の対象とな
的とする株式会社です。そして、
「被告は,A新聞
るのは思想又は感情を創作的に表現したものであ
青森版において,平成24年7月3日付けで「E
り(同法2条1項1号参照)
,思想や感情そのもの
M菌効果『疑問』検証せぬまま授業」と題する記
ではない。本件において本件原告記載と本件被告
事(
「本件記事1」
)を,同月11日付けで「科学的
記載1及び2が表現上共通するのは「重力波と想
効果疑問のEM菌 3町が町民に奨励」と題する記
定される」
「波動による(もの)
」との部分のみで
事(
「本件記事2」
)をそれぞれ掲載した。本件記
あるが,この部分はEMの効果に関する原告の学
事1及び2は原告を取材せずに作成されたもので
術的見解を簡潔に示したものであり,原告の思想
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
9
そのものということができるから,著作権法にお
及び2)は,公にされていた本件原告記事を参考
いて保護の対象となる著作物に当たらないと解す
にして執筆されたものであって,その内容はEM
るのが相当である」と認定し、
「したがって,被告
の本質的効果に関する原告の見解に反するもので
による複製権侵害を認めることはできず,また,
はないと認められる(甲6,7,乙2,3,4の
これを前提とする同一性保持権侵害の主張も採用
1・2)
。そうすると,本件記事1及び2によって
することができない」と判断しています。
原告の見解が誤って報道されたとは認められず,
争点2
したがって,これにより原告が実質的な損害を被
原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載した行
ったとみることもできない」と判断しました。
為が不法行為に当たるかについて
そこで、裁判所では、以上を総合し、
「被告が原
(1)原告は、
「被告が原告を取材していないにも
告を取材せずに,また,本件原告記事を参考にす
かかわらずあたかも原告を取材して得たコメント
るに当たり出典を明記せずに本件記事1及び2を
を掲載したと読まれる記事(本件記事1及び2)
掲載した行為は不適切であったということができ
を掲載した行為が不法行為に当たる旨主張」して
るとしても,不法行為と評価すべき違法性があっ
いました。
たとはいえないと判断するのが相当である」とし、
(2)この点につき、裁判所は、
「本件被告記載1
「したがって,被告の上記行為が不法行為に当た
及び2は,
「重力波と想定される波動による(もの)
」 る旨をいう原告の上記主張は採用することができ
との原告の見解をかぎ括弧内に記載した上,これ
ない」と結論付けました。
に続けて,
「と主張する」又は「と説明する」と記
6.コメント
載したものであるが,かぎ括弧は発言内容を示し,
本件は、原告が自己のブログに記載した記事の
又は他の文献等の記載を引用する場合の表記方法
一部を新聞社が無断で新聞記事に掲載したとして
として用いられることからすれば,これに接した
訴訟になった事件です。ブログに掲載された記事
一般の新聞読者の普通の注意力に照らすと,本件
や、ネット上に投稿された記事が無断で転載され
記事1及び2は被告が原告を取材して得られたコ
たとして、訴えられる事件はたまに見かけますが、
メントを掲載した記事として読まれる可能性があ
ほとんどは、著作物性が否定されて請求が棄却さ
るというべきである。また,本件記事1及び2は
れる例が多いようです。
EMの科学的効果が疑問と指摘されていることを
本件の場合も、対照表を見ると、引用された部
報道するものであり(甲1,2)
,EMの効果を説
分は、思想又は感情を創作的に表現した部分と言
く原告を批判の対象としているとみることができ
うよりは、学術的な思想そのものに関する部分で
るから,被告の上記行為は被告が作成し,公表し
あり、著作物に該当しない事を根拠に、原告の主
ている「A新聞記者行動基準」
(乙1)が規定する
張が否定されています。
取材方法(
「出来事の現場を踏み,当事者に直接会
また、本件では、原告の主張に応じて、裁判所
って取材することを基本とする。特に,記事で批
でも、原告が執筆したブログの記載の引用が新聞
判の対象とする可能性がある当事者に対しては,
社の社内規定に抵触する可能性を指摘しています。
極力,直接会って取材する。
」)に抵触しかねない
しかし、こうした社内規定違反が、直ちに違法性
行為であったと考えられる」としました。
に結び付くものでもないため、原告の主張が否定
しかし、裁判所では、
「上記基準は記者が自らの
行動を判断する際の指針として被告社内で定めら
されています。
なお、本件判決文の詳細につきましては、下記
れたものであり(乙1)
,これに反したとしても直
URLをご参照下さい。
ちに第三者との関係で不法行為としての違法性を
【判決文等URL】
帯びるものでない。これに加え,本件記事1及び
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/
2における原告のコメント部分(本件被告記載1
863/085863_hanrei.pdf
10
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
判
情
決
報
平成27年(行ケ)第10058号
審決取消請求事件
第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務におい
1.事案の概要
て行われる顧客に対する便益の提供,酒類の小売
本件は、無効2014-890023号事件の
審決取消訴訟です。
又は卸売の業務において行われる顧客に対する便
益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務に
被告Yと被告エノテカイタリアーナ エス.アー
おいて行われる顧客に対する便益の提供,ワイン
ル.エル.
(以下「被告会社」という。
)は、商標
グラスの小売又は卸売の業務において行われる顧
登録第5614496号(以下「本件商標」とい
客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売
う。
)の商標権者です。
又は卸売の業務において行われる顧客に対する便
原告は、商標登録第5136985号及び商標
益の提供,タオル及びハンカチの小売又は卸売の
登録第2357005号「ENOTECA」
、商標
業務において行われる顧客に対する便益の提供,
登録第1860159号「Enoteca」
(以下、 エプロンの小売又は卸売の業務において行われる
「引用商標1~3」とする。
)の商標権者で、原告
顧客に対する便益の提供,陶器製の食器類の小売
は本件商標の商標登録を無効にすることについて
又は卸売の業務において行われる顧客に対する便
審判を請求しました。
益の提供,ガラス製食器類の小売又は卸売の業務
特許庁は、本件請求について、無効2014-
890023号事件として審理を行い、平成27
年2月9日に「本件審判の請求は,成り立たない。
」
との審決(以下「本件審決」という。
)をしました。
において行われる顧客に対する便益の提供」
3.引用商標
1 登録第5136985号商標
原審においては、本件商標は、
「Enoteca」
の文字部分と「Italiana」の文字部分と
商標の構成
に分離分断して看取されるよりも、むしろ全体を
もって一連一体の店舗名を表したものとして認識
登録出願日 平成19年4月3日
し把握されるものであるから、
「Enoteca」
設定登録日 平成20年6月6日
の文字部分を分離判断すべきでないので非類似で
指定役務 第35類「飲食料品の小売又は卸売の
あるとの判断を示しました。
業務において行われる顧客に対する便益の提供,
原告は、これを不服として本件審決取消訴訟を
電気機械器具類の小売の業務において行われる
顧客に対する便益の提供,手動利器の小売の業
提起しました。
務において行われる顧客に対する便益の提供,
詳細は、裁判所 HP にてご確認下さい。
台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売の業務
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/
において行われる顧客に対する便益の提供,印
640/085640_hanrei.pdf
刷物の小売の業務において行われる顧客に対す
る便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売の業
2.本件商標
務において行われる顧客に対する便益の提供,
木製の包装用容器の小売の業務において行われ
本件商標:
る顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物
の小売の業務において行われる顧客に対する便
出 願 日:平成24年12月13日
益の提供」
登 録 日:平成25年9月13日
指定役務
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
11
2 登録第2357005号商標
文字であることからすると,本件商標の外観上,
『Enoteca』の文字部分と『Italia
商標の構成
na』の文字部分とを明瞭に区別して認識するこ
とができる。…『enoteca』の語は,
『貴重
登録出願日 平成元年6月27日
なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲の
設定登録日 平成3年11月29日
できるワインの販売所,ワイン屋』を意味するイ
指定商品の書換登録日 平成14年5月22日
タリア語であること,ワインに関連する書籍,イ
指定商品 第24類「布製身の回り品,かや,敷
タリアの事情等を紹介する書籍には,
『エノテカ』
布,布団,布カバー,布団側,まくらカバー,
(Enoteca)が上記意味合いを有する語で
毛布」
あることの記載があること,日本国内において,
第25類「被服」
『エノテカ○○○』との名称のレストラン等の飲
食店が相当数存在することからすると,ワイン愛
3 登録第1860159号商標
好者や,イタリア料理,イタリア事情,イタリア
への旅行等に関心のある者の間においては,本件
商標の構成
商標の登録査定当時(登録査定日平成25年7月
29日)
,
『Enoteca』が,
『エノテカ』と称
登録出願日 昭和59年4月16日
され,
『試飲のできるワインの販売所』
,
『ワイン屋』
設定登録日 昭和61年5月30日
(ワイン店)などの意味を有するイタリア語であ
指定商品の書換登録日 平成18年12月20
ることを相当程度認識されていたものと認められ
日
る。…認定事実を総合すると,原告が,ワインの
指定商品
輸入販売,直営のワインショップ及びインターネ
第32類「ビール」
ット販売による小売,卸売,ワイン文化と知識の
第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,
普及などの事業活動において,
『ENOTECA』
薬味酒」
及び『エノテカ』の各標章を継続して使用した結
果,本件商標の登録査定当時には,
『ENOTEC
4.争点
A』又は『エノテカ』は,原告及び原告が行うワ
本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の
インの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業
誤り
を表示するものとして,日本国内において,取引
者,需要者である一般消費者の間に,広く認識さ
5.裁判所の判断
れ,周知となっていたことが認められる。以上に
本件商標の要部抽出の可否について
よれば,本件商標の『Enoteca』の文字部
「本件商標は,別紙本件商標目録記載のとおり,
分から,取引者,需要者において,原告の周知の
縁取りして図案化されたワインレッド色の『En
営業表示としての『ENOTECA』又は『エノ
oteca Italiana』の欧文字を横書き
テカ』の観念が生じるものと認められる。また,
に書して成り,
『Enoteca』の文字部分と『I
需要者のうち,ワイン愛好者や,イタリア料理,
taliana』の文字部分とから構成される結
イタリア事情,イタリアへの旅行等に関心のある
合商標である。本件商標は,その構成全体から『エ
者においては,
『Enoteca』の文字部分から,
ノテカイタリア-ナ』の称呼が自然に生じる。
『試飲のできるワインの販売所』
,
『ワイン屋』
(ワ
一方で,本件商標は,その構成中の『Enote
イン店)などの観念が生じるとともに,原告の周
ca』の文字部分と『Italiana』の文字
知の営業表示としての『ENOTECA』又は『エ
部分との間に空白があること,それぞれの文字部
ノテカ』の観念も生じるものと認められる。
『it
分の冒頭の文字が大文字で,冒頭以外の文字が小
aliana』の語は,
『イタリアの』の意味を有
12
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
するイタリア語の形容詞である。また,イタリア
語の知識を有しない者にとっても,
『italia
6.コメント
na』の語は,その構成文字及び『イタリアーナ』
知財高裁は、本件商標については「Enote
の称呼が生じることから,国名の『イタリア』に
ca」を要部として抽出可能であるとの判断を示
関連することを示す語であることを容易に認識で
しました。
きるものといえる。そうすると,本件商標の『I
「つつみのおひなっこや」最高裁判決が出てか
taliana』の文字部分から,
『イタリアの』
らしばらくの間は、類否判断においてかなり全体
という観念を生じるものと認められる。以上のと
観察を重視する傾向が強かったのですが、最近は
おり,本件商標は,
『Enoteca』の文字部分
また要部抽出して類似とする審判決が増えてきた
と『Italiana』の文字部分とから構成さ
ように思います。
れる結合商標であるが,その外観上,それぞれの
本件商標「Enoteca Italiana」
文字部分を明瞭に区別して認識することができる
については、
「Enoteca」のEと「Ital
こと,それぞれの文字部分から別異の観念が生じ
iana」のIの文字が大文字になっており、
「I
ることに鑑みると,本件商標の『Enoteca』
taliana」の語は、指定役務との関係にお
の文字部分と『Italiana』の文字部分は,
いて役務の提供の場所、提供の用に供される物等
それを分離して観察することが取引上不自然であ
がイタリアに関連することを示すものと認識され
ると思われるほど不可分的に結合しているものと
るのにとどまるものであるので、この部分は識別
認められないというべきである。
」として本件商標
力が弱いので、
「Enoteca」の部分が要部で
については「Enoteca」部分を要部抽出す
あるとしました。
ることが可能であるとしました。
その上で、本件商標の要部「Enoteca」
その上で、本件商標の要部と引用商標1~3は
と引用商標1~3は、外観が異なるものの称呼及
外観が異なるが、称呼及び観念が同一であり類似
び観念が同一であるので類似商標であるとしてい
する商標なので商標法4条1項11号に該当する
ます。
と判断しました。
要部観察か、全体観察かについては、商標の態
様や、称呼の長さ、識別力の強弱等様々な要素か
ら判断がされますが、商標調査をして、要部が同
一又は類似する商標が抽出されたときにどういう
判断をするかというのは悩ましい問題です。
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
13
海
情
外
報
〔韓国〕商標法の大幅改正
過去 3 年余りの間、特許庁で各界の意見を取り
また、現在は出願人が商標を出願する当時、同
まとめて準備してきた商標法全面改正の法律が、
一又は類似する先登録商標があれば、審査過程で
今月公布される予定です。改正商標法は、公布後
先登録商標が消滅した場合であっても、登録を受
6 ヶ月が経過した 9 月 1 日から施行されます。こ
けることができず、不利益な面があります。しか
れに先だって、商標法全面改正の法律は、2 月 4
し、今回の改正を通じ、最終的な登録可否を決定
日に国会の本会議を通過しました。今回の商標法
する際、該当先登録商標が消滅していれば、登録
全面改正は、1990 年の全面改正以降 26 年ぶりに
を受けることができるようにしました。また、商
行われたものであり、その意味が大きいと言えま
標権が消滅した後、1 年間は他人の同一又は類似
す。1990 年以降は 23 回の改正があり、それによ
する商標の登録を排除していた規定を削除して、
り条文が過度に挙げられる等、体系の統一性がな
出願人が新たに出願することにより、発生する時
く、内容もまた日本式表現が多かったため、韓国
間と費用を節減し、迅速な権利化を可能にすべく
国民が法を理解するのに困難がありました。
規制を緩和しました。
今回の全面改正の法律は、①商標の定義を国際的
さらに、商標が最終的に登録されると、登録事
なトレンドに合うように簡潔に整備、②使用して
実を商標公報に公告するようにして、国民が商標
いない商標に対する商標登録の取消審判を、誰で
に関する情報に容易に接することができるように
も請求することができるように請求人の範囲を拡
しました。また、出願人の記載ミスを審査官の職
大、③先出願登録商標の類似可否の判断時点を登
権で訂正することができるようにすると共に、不
録可否決定時点に変更する等、出願人の便宜を高
可避な事由で手続きができなかった場合、救済期
めると共に、商標法の国際的調和に焦点を合わせ
間を 14 日から 2 か月に延長する等、これまで出願
ています。
人から提起されていた苦情を解消するための改善
先ず、現行の限定的な商標の定義を例示的に表
事項も全面改正に反映しました。
現し、商標が何なのか分かりやすくしました。こ
特許庁商標デザイン審査局長は、
「今回の商標法
れは、米国・欧州等の表現方式と同じものであっ
全面改正の法律は、学界、企業体及び専門家から
て、商標が商品の出所を示す本然の機能をする場
意見を取りまとめて、法制処(日本の内閣法制局
合、その表現方式に制限を置かず、全て商標にな
に相当)及び国会等で 3 年余りの間準備したもの
り得るようにしました。次に、これまで使用して
である」とし、
「国民の商標選択の機会を拡大する
いなかった商標に対する商標登録の取消審判を、
等の規制緩和と出願人の便宜を高めることに重点
「利害関係人」のみが請求できていたものを「誰
をおいて推進しただけに、国民の商標法に対する
でも」できるように拡大し、取消審判の審決が確
理解を高めると共に企業の営業活動の支援に寄与
定されると、その審判請求日に遡及して商標権を
することを期待している。
」と述べました。
消滅させることで、登録のみ受けたまま実際には
(ソウルの河
使用せず、他人の商標選択権と企業の営業活動を
に拠ります)
合同特許法律事務所からのレター
制限する問題点を解消しました。
14
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
海
情
外
報
〔中国〕北京市裁判所司法保護に関する 10 大判例(四法)
1.瓊瑤と于正との間の著作権侵害事件
原告:陳喆(ペンネーム:瓊瑤)
完成し、1993 年 9 月 15 日より台湾で公開発行さ
被告:余征(ペンネーム:于正)
れ、同年から中国でも公開発表され、主なプロッ
湖南経視文化伝播有限公司
トは脚本「梅花烙」と基本的に一致していた。小
(以下「湖南経視公司」という)
説「梅花烙」の著作者署名は陳喆であった。
東陽歓娯影視文化有限公司
余征は、脚本「宮鎖連城(全 20 話)
」に明記され
(以下「東陽歓娯公司」という)
ている作者で、その創作の完成時期は 2012 年 7
万達影視伝媒有限公司
月 17 日で、初めて発表されたのは、2014 年 4 月
(以下「万達公司」という)
8 日であった。テレビドラマ「宮鎖連城」は脚本
東陽星瑞影視文化伝媒有限公司
「宮鎖連城」を基に撮影されたものであり、その
(以下「東陽星瑞公司」という)
署名脚本家は余征で、エンドクレジットにおける
【事件の経緯】
制作者は順に湖南経視公司、東陽歓娯公司、万達
陳喆はペンネームを瓊瑤といい、1992 年 10 月、 公司及び東陽星瑞公司であった。テレビドラマ「宮
脚本「梅花烙」の創作を完成したが、紙版での公
鎖連城」の完成作品には、インターネット放送用
開発表はしなかった。その後、脚本「梅花烙」を
の未削除バージョン(全 44 話)とテレビ放送バ
基に怡人伝播有限公司によって撮影されたテレビ
ージョン(全 63 話で、2014 年 4 月 8 日より湖
ドラマ「梅花烙」が、1993 年 10 月 13 日から台
南テレビ局で放送開始)の 2 つのバージョンがあ
湾で、1994 年 4 月 13 日からは中国で放送され、 った。脚本「宮鎖連城」と比べて、脚本「梅花烙」
そのドラマのストーリーは、脚本とほぼ一致して
は、人物関係が複雑で、ストーリーの手がかりも
いた。また、脚本「梅花烙」を基に改編された小
多かった。陳喆が侵害を主張した内容は、主に脚
説「梅花烙」は、1993 年 6 月 30 日にその創作が
本「宮鎖連城」の前半部分に集中していた。
2.「中国飲料第 1 缶」に係る虚偽宣伝紛争事件
原告:広州医薬集団有限公司
出資により設立された加多宝(中国)公司と広東
(以下「広薬グループ」という)
加多宝公司は、2012 年 5 月から「加多宝」商標
原告:広州王老吉大健康産業有限公司
を涼茶に使用し始め、
「統計によると、貴社製造の
(以下「王老吉大健康公司」という)
缶飲料『王老吉』は 2007 年、2008 年、2009 年、
被告:加多宝(中国)飲料有限公司
2010 年と 2011 年の全国缶飲料市場の売上№.1 に
(以下「加多宝(中国)公司」という)
被告:広東加多宝飲料食品有限公司
輝いた」
「統計によると、
、
貴社製造の缶飲料は 2012
年の全国缶飲料市場の売上№.1 に輝いた」
、及び
(以下「広東加多宝公司」という)
「統計によると、貴社製造の缶飲料『家多宝』は
【事件の経緯】
2013 年の全国缶飲料市場の売上№.1 に輝いた」と
広薬グループと王老吉大健康公司は、
「王老吉」に
いう中国業界企業情報公布センターより発行され
係る登録商標の商標権者と使用権者である。
「王老
た 2007 年から 2013 年の 7 年の受賞証明に基づ
吉」商標の使用権は 1995 年、香港鴻道グループ
き、各種メディアの広告宣伝において、
「
『家多宝』
に許諾され、当該商標は、赤い缶入りの涼茶に使
涼茶は 7 年連続『中国飲料第 1 缶』に輝く」など
用されるようになった。2012 年、香港鴻道グルー
の6種類の類似する広告用語を使用した。そのた
プに対して、当該商標の使用の差止めを命じる仲
め、両原告は、両被告の係争広告用語が虚偽宣伝
裁裁定が下された。その後、香港鴻道グループの
に該当するとして、訴訟を提起した。
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
15
3.「チャットロボットシステム」発明特許の無効審判に係る行政事件
原告:
許権者である。
アップル社は 2012 年 11 月 19 日、
アップルコンピュータ貿易(上海)有限公司
本件特許について特許審判委員会に無効審判請求
(以下「アップル社」という)
を提起した。特許審判委員会は、
「本件特許は 2013
被告:中国国家知識産権局特許審判委員会
年 9 月 3 日、
『特許法』及び『特許法実施細則』
(以下「特許審判委員会」という)
の関連規定に合致するので、有効を維持する」と
第三者:上海智臻ネットワーク科技有限公司
いう第 21307 号の無効審判請求の審決を下した。
(以下「智臻公司」という)
アップル社は、当該審決を不服として、行政訴訟
【事件の経緯】
を提起した。
智臻公司は、
「チャットロボットシステム」という
名称の発明特許(以下「本件特許」という)の特
4.「滴滴打車」に係る商標権侵害紛争事件
原告:広州市睿馳コンピュータ科技有限公司
ルインターネット及びクライアントソフトウェア
(以下「睿馳公司」という)
を利用し、情報を収集してバックグラウンド処理、
被告:北京小桔科技有限公司
選択、スケジュール及び突合せをすることにより、
(以下「小桔公司」という)
運転手と乗客が携帯のオンライン地図を通じて相
【事件の経緯】
手の場所を確認でき、タイムリーに連絡してサー
睿馳公司は、第 35 類及び第 38 類の「嘀嘀」及び
ビスを提供することができる典型的な通信類のサ
「滴滴」文字商標の商標権者で、
「嘀嘀」の指定役
ービスで、かつ、タクシーの運転手の代わりに販
務は商業管理、組織コンサルティング、販売促進
売促進、商業管理及び情報伝達をするといった役
のための企画及び実行の代理などで、
「滴滴」の指
務にも関連していた。睿馳公司は、小桔公司の経
定役務は情報の伝送、コンピュータを利用したメ
営する「滴滴打車」の役務が、自社の 2 つの登録
ッセージ及び映像の伝送交換などであった。小桔
商標の指定役務と重なっており、自社の登録商標
公司が経営する「滴滴打車」(当初は「嘀嘀打車」 専用権を侵害しているとして、小桔公司に対して
であった)について、プログラムに「滴滴」とい
当該名称の使用の差止め、及び影響の解消のため
う文字が顕著に示され、その役務内容は、モバイ
の声明発表を要求していた。
5.「清祥」商標異議不服審判に係る行政紛争事件
原告:安国市金泰副食品有限責任公司
2001 年の改正『商標法』第 41 条第 1 項に規定の
(以下「金泰公司」という)
「欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で登録を
被告:中国国家工商行政管理総局商標審判委員会
得た場合」に該当し、法に従い、登録を許可すべ
(以下「商標審判委員会」という)
きではないことを主な理由として、商標審判委員
第三者:湖北稲花香酒業股份有限公司
会に不服審判を請求した。商標審判委員会は、
「金
(以下「稲花香公司」という)
泰公司による大量の商標登録行為には、他人の知
【事件の経緯】
名度の高い商標を明らかに複製し、剽窃しようと
稲花香公司は、金泰公司がビールなどを指定商品
いう故意があり、正常な商標登録の管理秩序を乱
として出願していた第 8078350 号の「清祥」商標
し、公平競争の市場秩序を損ない、
『商標法』第
(以下「被異議申立商標」という)に対して、商
41 条第 1 項に規定の『欺瞞的な手段又はその他の
標局に異議申立てをした。商標局は、被異議申立
不正な手段で登録を得た場合』に該当する。
」と認
商標の登録を許可する裁定を下した。稲花香公司
定し、被異議申立商標の登録を許可しない審決を
は、金泰公司より出願された被異議申立商標が
下した。
6.『紅色娘子軍』に係る著作権侵害紛争事件
原告:梁信
たもので、その改編過程において梁信の承諾や協
被告:中央バレエ団
力が得られたことが明確にされていた。梁信は、
【事件の経緯】
当時の法律規定に基づき、著作権の使用許可契約
上海天馬映画製作廠は 1961 年、梁信が創作した
の有効期限は 10 年を超えてはならないとして、当
映画文学脚本『紅色娘子軍』を基に、同名の映画
該合意書は 2003 年 6 月に期間満了し、失効して
を撮影し、公開上映した。その後、中央バレエ団
いると主張した。従って、梁信は、裁判所に対し
は 1964 年、当該映画脚本をバレエ『紅色娘子軍』
て、中央バレエ団に権利侵害行為の差止めを命じ
に改編し公演した。1993 年 6 月 26 日、梁信と中
ることを求めた。即ち、梁信は、別途合意書が更
央バレエ団との間で、1991 年 6 月より施行され
新されない以上、自身の作品を基に改編されたバ
た『著作権法』に基づき、合意書が締結された。
レエ『紅色娘子軍』の公演を中止し、公の場で謝
当該合意書にはバレエ作品『紅色娘子軍』は、梁
罪し、経済的損失 50 万元及び弁護士費用 5 万元
信の映画文学脚本『紅色娘子軍』を基に改編され
を賠償することを要求した。
7.『超級 MT』に係る著作権侵害及び不正競争紛争事件
原告:北京楽動卓越科技有限公司
用する権利を享有し、キャラクターイメージにつ
(以下「楽動卓越公司」という)
いて美術著作物の著作権を享有していた。楽動卓
被告:北京昆侖楽享網絡科技有限公司
越公司は、3 被告が許諾を得ずに、
『我叫 MT』の
(以下「昆侖楽享公司」という)
ゲーム名称、キャラクター名称、キャラクターイ
被告:北京昆侖在線網絡科技有限公司
メージの類似する名称及びキャラクターをゲーム
(以下「昆侖在線公司」という)
『超級 MT』に使用したことで、自社の著作権が侵
被告:北京昆侖万維科技股份有限公司
害されたと、訴訟を提起した。また、3 被告が、
(以下「昆侖万維公司」という)
ゲーム『超級 MT』にゲーム『我叫 MT』の名称を剽
【事件の経緯】
窃したことで、両ゲームのキャラクター名称も類
楽動卓越公司は、モバイル端末ゲーム『我叫 MT on
似していた。さらに、ゲームの宣伝過程において、
line』
、
『我叫 MT2』
(以下 2 つのゲームを『我叫 MT』
ゲーム『我叫 MT』に関する宣伝用語も使用してい
と併称する)の著作権者である。当該モバイル端
た。3 被告の行為は、不正競争行為に該当し、不
末ゲームは、シリーズ 3D アニメ『我叫 MT』を基
正競争防止法第 5 条第(2)項及び第 9 条第(1)
に改編されたものであった。楽動卓越公司は、ゲ
項の規定に違反すると判示された。
ーム名称、キャラクター名称について独占的に使
8.旅遊衛星テレビ局ロゴマークの著作権侵害紛争事件
原告:海南海視旅遊衛星テレビ伝媒有限責任公司
マークを商標として使用し、かつ、そのトランク
(以下「旅遊衛星テレビ」という)
製品を京東公司のプラットフォームを通じて販売
被告:浙江愛美徳旅遊用品有限公司
していた。旅遊衛星テレビは、そのロゴマークが
(以下「愛美徳公司」という)
享有する著作権が両被告の行為によって侵害され
被告:北京京東叁佰陸拾度電子商務有限公司
たとして、両被告に対して、権利侵害行為の差止
(以下「京東公司」という)
め、及び経済的損失と合理的な費用 200 万元の賠
【事件の経緯】
償を求めて提訴した。
愛美徳公司は、その製造・販売する旅行用トラン
愛美徳公司は、その使用する商標が独自のデザイ
ク製品に旅遊衛星テレビのロゴマークと類似する
ンで、かつ先に使用していたことを証明するため
に、数十点の証拠を提出した。裁判所は、本件審
業標準化技術委員会と中国国家皮革製品質量監督
理において、
「数件の販売契約に記載の幾つかの連
検査センターに赴いて調査を行った結果、同産業
絡先の電話番号が契約書に明記されていた契約日
標準化技術委員会の秘書長趙氏及び同質量監督検
において使用されていなかったこと、又は電話番
査センターの副主任田氏は共に、当該トランクが
号の桁数が 7 桁から 8 桁にバージョンアップさ
2003 年に実施された検査の後、同質量監督検査セ
れていなっかたことが明らかに不合理である。
」と
ンターの倉庫に確かに保管されていたと主張した。
認定した。それについて、愛美徳公司は、一部分
しかし、裁判所が、この保管されていたトランク
の契約について、その契約日がバックデートされ
製品に対して更なる検査を実施したところ、当該
ていたことを認めた。当該問題の発覚後、愛美徳
トランクの隠し部分に付いた係争商標マークには
公司は、全国皮革工業標準化技術委員会及び中国
「?」の符合が記され、愛美徳公司の係争商標の
国家皮革製品質量監督検査センターより発行され
登録出願、登録許可の年はそれぞれ 2005 年と
た証明書を提出した。当該証明書には、2003 年に
2008 年であったことが明らかになった。さらに、
中国国家皮革製品質量監督検査センターが検査し
後続調査において、田氏は、その前の証言は趙氏
た愛美徳公司のトランク製品のうち、係争マーク
に教唆されたもので、本事件に係るトランクが趙
の付いたトランクのサンプル 1 点が当該センター
氏より 2014 年に中国国家皮革製品品質監督検査
の倉庫に保管されていたことが証明された。当該
センターに渡され、当センターの倉庫で保管され
時期は、旅遊衛星テレビがロゴマークの使用を始
たものであることを白状した。同センターの担当
める時期より以前であった。裁判所が全国皮革産
者も証人として法廷に出頭した。
9.「アボット米粉缶」に係る意匠権侵害紛争事件
原告:アボット貿易(上海)有限公司
製品の米粉缶のデザイン、製造を興華プラスチッ
(以下「アボット社」という)
ク公司に委託し、9 種類の缶詰米粉製品に当該米
被告:湖南英氏栄養食品有限公司
粉缶を使用した。楽友達康公司は、これらの米粉
(以下「英氏栄養食品公司」という)
製品を販売していた。アボット社は、イ号製品の
被告:江西楓樹生態科技食品有限公司
米粉缶の意匠が自社の係争意匠と同一であると主
(以下「楓樹食品公司」という)
張した。裁判所は、本件の提訴前に、アボット社
被告:湖南英氏乳業有限公司
の請求に応じて、係争意匠の権利侵害行為の差止
(以下「英氏乳業公司」という)
めについての民事裁定書を作成し、
2014 年 6 月、
被告:北京楽友達康科技有限公司
4 被告にそれぞれ当該民事裁定書を送達した。ま
(以下「楽友達康公司」という)
た、アボット社は 2014 年 7 月と 8 月に、天津や
被告:邵陽市興華プラスチック有限公司
北京の複数の営業場所において公証人の立会いの
(以下「興華プラスチック」公司という)
もと、イ号製品を公証付購入した。公証証書には、
【事件の経緯】
淘宝網では、イ号製品を展示の上、販売している
アボット社は、名称が「容器」である意匠権(特
店舗が依然として多くあることがはっきり示され
許番号:ZL200730158176.0)の実施権者で、自分
ていた。アボット社は、各被告が自社の係争意匠
の名義で提訴する権利を有していた。英氏栄養食
権を侵害したとして、経済的損失 100 万元及び合
品公司、楓樹食品公司及び英氏乳業公司は、イ号
理的費用 10 万元の賠償を要求した。
10.コンピューターソフトウェア暗号化製品の販売に係る著作権侵害事件
公訴機構:北京市海淀区人民検察院
【事件の経緯】
被告人:霍紅偉、劉奕斐、段玉亭、郝麗蒙、申玲、
被害者である広連達公司は、ソフトウェア開発メ
呉素梅
ーカーで、その公式ホームページでは、公衆に対
18
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
して正規ソフトウェアのダウンロードサービスを
売することで、広連達公司が享有する著作権のソ
無料で提供していたが、ユーザーはそのソフトウ
フトウェアを販売する実質的な目的を達成でき、
ェアをダウンロードした後、広連達公司からソフ
不法経営額が 27 万 5000 元に達していた。さらに、
トウェア暗号化製品を購入しなければ使用できな
被告人劉奕斐は 2013 年 6 月から、前述の犯罪に
かった。被告人の霍紅偉は、安陽偉傑電子商務有
参画し、不法経営額が 18 万 9000 元に達していた。
限公司の法定代表者兼実際の責任者で、2013 年 4
2013 年 10 月 28 日、被告人の霍紅偉、劉奕斐、
月から、被告人の段玉亭、郝麗蒙、申玲、呉素梅
段玉亭、郝麗蒙、申玲と呉素梅は公安機関に逮捕
と劉奕斐を雇用し、著作権者の許諾を得ずに、著
され、裁判にかけられた。その結果、被告人劉奕
作権を享有するソフトウェア暗号化製品及びソフ
斐は、被害者の広連達公司に対して、50 万元の賠
トウェアクラックドライバをインターネットで販
償金を支払うことで、広連達公司が示談に応じた。
(北京のリンダグループからのレターに拠ります)
アルジェリア
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
19
特許第5898126号 クラウドコンピューティングによる
特許紹介
仕訳解析サービスを提供する仕訳解析センターシステム」のご紹介
財務会計作業を支援するためのアプリケーション
ーザに提示することが可能なシステムを提供する
ソフトウェア(会計業務ソフト)は、従来から法
ものです。
人や個人において活用されています。会計業務ソ
仕訳解析センターシステム100(図1)は、ク
フトは、例えば、各種の帳簿・伝票やユーザ定義
ラウドコンピューティングによる証憑・仕訳解析
の帳簿などの取引入力用画面や入力補助画面を表
サービスを提供する機能を備えたシステム(仕訳
示して、会計データの入力を支援するための「会
解析センター)であり、仕訳解析サービスの処理
計データの入力支援機能」
、取引入力用画面などか
を実行するクラウドサーバ10(仕訳解析サーバ)
ら入力された取引を自動的に仕訳ける自動仕訳機
と、仕訳処理に用いる全ユーザ共用の仕訳パター
能、入力した取引のデータを基に各種の財務会計
ンの情報などが格納された仕訳アドバイザーデー
用書類の電子データを作成する「会計書類作成機
タベース20とを備えています。仕訳解析サーバ
能」など、各種の会計業務支援機能をコンピュー
10(図2)は、1以上のコンピュータから構成
タに実現させるためのプログラムやデータで構成
されるデータ処理装置であり、ユーザ1が所有す
されています。
るユーザ端末2とはインターネット4を介して相
会計業務ソフトでは、実際に行われた簿記上の
互に通信可能に接続されます。仕訳アドバイザー
取引についての仕訳データを生成する際には、取
データベース20は、複数種類のデータベースか
引入力用画面から入力された取引データを得て、
ら構成され、主要なデータベースとしては、証憑
その取引データを基に仕訳処理を行い、その処理
の仕訳処理に用いる全ユーザ共用のデータベース
結果である仕訳データに基づいて各種の財務会計
と、本システムへの利用者登録を行った登録ユー
用電子書類を作成するようにしています。ユーザ
ザ1bに関する情報をユーザIDに関連付けて格
のデータ入力形態としては、取引入力用画面とし
納する登録ユーザ用のデータベースとを備えてい
て表示された取引の種類(現金,預金,売掛,買
ます。Webサイト30は、仕訳解析サービスの
掛等)
,取引タイプ(売上・回収,仕入・支払,借
他に、ユーザの質疑に対する応答・アドバイスな
入・返済等)及び取引名を順次選択し、その取引
どのオペレータ(財務会計の専門家)による支援
日付と金額を入力することで、当該取引のデータ
サービスを提供するためのポータルサイトであり、
を入力する形態と、標準で予め用意されている各
実施形態では、そのWebサイト30を提供する
種の帳簿や伝票、又はユーザがカスタマイズした
Webサーバを介してユーザ端末2と仕訳解析サ
帳簿等の画面上で必要な情報を入力する形態と、
ーバ10とが接続されています。
全ての取引を記録する帳簿である仕訳日記帳の画
ユーザ端末2は、ユーザ1(一般ユーザ1a又
面上で各項目の情報を入力する形態とがあります。 は登録ユーザ1b)が所有するWeb端末であり、
本特許は、レシートや領収書などの会計作業にか
その端末としては、スマートフォンや携帯可能な
かわる証憑の電子データを、ブラウザ機能を備え
タブレットPCなどの携帯端末21、及び据置型
た携帯端末等の任意のWeb端末から仕訳解析セ
のPC22など、ブラウザ機能を備えた任意の情
ンターシステムに送信するだけで、その証憑に示
報処理装置が利用可能です。ユーザ1が携帯端末
される簿記上の取引についての仕訳の結果をユー
21で写真撮影したレシートや領収書などの証憑
ザがリアルタイムに参照することが可能なクラウ
データD1を仕訳の対象として、その証憑データ
ド型のコンピュータシステムを提供するものであ
D1を仕訳解析センター100に送信するだけで、
り、更に、レシートや領収書を仕事場や自宅に持
証憑の仕訳結果D2(証憑に表記された取引の仕
ち帰ってデータ入力する作業が容易になると共に、 訳明細情報を示す仕訳データ)を即時にWeb画
全国多数の個人や企業の使用人数の多い仕訳をユ
20
ADVANCE
面上で確認できるようにしています。また、登録
IP NEWS
Vol.78
ユーザ1bに対しては、履歴データベース25に
仕訳データの取込サービスを利用できるようにな
蓄積された当人の仕訳の過去履歴を閲覧可能にす
ります(ステップS11)
。ユーザ1は、所定のデ
ると共に、証憑データD1から生成した仕訳ファ
ータ取込手段を用いて証憑データを取得し(ステ
イルD3の会計ソフト3への取込みを可能として
ップS12)
、その証憑データの仕訳解析サービス
います。
を仕訳解析センター100に対して要求する場合
仕訳解析サーバ10は、Webサイト30を通じ
は、ユーザ端末2の記憶部に記憶されている証憑
てユーザ端末2からの仕訳解析サービスの要求を
データをWeb30経由で仕訳解析サーバ10へ
受け付けるサービス要求受付手段11と、Web
送信します(ステップS13)
。仕訳解析サーバ1
サイト30を通じて送信された証憑データをリア
0のサービス要求受付手段11では、ユーザ端末
ルタイムに解析して証憑に示される取引の仕訳に
2からの証憑データを受信し、本人認証情報を用
必要な仕訳要素情報を抽出する仕訳要素抽出手段
いたログインによる仕訳解析要求の場合には、以
12と、その仕訳要素情報を解析して当該取引の
降、登録ユーザ1bによる仕訳解析要求として処
仕訳を行う際に全ユーザ共用の仕訳パターンの情
理します(ステップS21)
。続いて、仕訳解析サ
報(商品名、購入先等の仕訳を確定するための情
ーバ10は、仕訳要素抽出手段12によって証憑
報)を用いて仕訳を行う機能を有すると共に、全
データを解析して仕訳要素情報をテキスト形式の
ユーザの使用人数の多い科目を推奨仕訳(推奨科
データとして抽出します(ステップS22)
。
目)としてユーザに提示する機能などを有する推
推奨仕訳提示手段13は、先ず、利用者データ
奨仕訳提示手段13と、仕訳の際に新たな仕訳パ
ベース26に利用者情報が登録されているか否か
ターンを検出した際にその仕訳パターンの情報を
を判定し(ステップS23)
、登録されていると判
全ユーザ共用のノウハウ情報として学習する学習
定した場合には、抽出した仕訳要素情報と履歴デ
手段14とを備えています。仕訳解析サーバ10
ータベース25に記録されている仕訳解析要求元
は、登録ユーザ1bを対象として仕訳結果のデー
の登録ユーザ1bの過去履歴とを比較して、過去
タを過去履歴としてユーザIDに関連付けて履歴
履歴に類似証憑が有るか否かを判定します(ステ
データベース25に蓄積記録する仕訳履歴蓄積手
ップS24)
。過去履歴に類似証憑が有ると判定し
段15と、ユーザ端末2に搭載されている会計ソ
た場合には、推奨仕訳提示手段13は、類似証憑
フト3に取込可能な仕訳ファイル(複式簿記の仕
の仕訳(本人が過去に使用した仕訳のうち、類似
訳フォーマットのファイル)を仕訳解析サービス
する証憑の全ての仕訳)を履歴データベース25
による仕訳の結果を基に生成してユーザIDに関
から抽出し(ステップS25)
、一方、類似証憑が
連付けてデータストレージに保管すると共に、ユ
無い判定した場合、或いは利用者データベース2
ーザ端末2側の取込操作に応じて上記仕訳ファイ
6に利用者情報が登録されていないと判定した場
ルをユーザ端末2に送信して会計ソフトに取込ま
合には、仕訳パターン毎の仕訳処理人数を示す前
せる会計ソフト連携処理手段16とを備えていま
述の「人数」の情報に基づいて、利用者がよく使
す。
う仕訳を抽出します(ステップS26)
。推奨仕訳
利用者登録を希望するユーザ1aは、Webサ
提示手段13では、抽出した仕訳の内容を仕訳結
イト30にアクセスした後、Web画面上の「ユ
果(仕訳データ)D2として要求元のユーザ端末
ーザ登録」のボタンを押下し、ユーザ登録画面の
2のWeb画面G上に表示します(ステップS2
案内に従って利用者情報を入力し、利用者登録を
7)
。仕訳解析サービスを要求したユーザ1は、仕
行います。利用者登録を行ったユーザ1aは、以
訳結果D2を見て証憑の仕訳の内容を確認し(ス
降、登録された本人認証情報(利用者ID,ログ
テップS14)
、修正がある場合は、Web画面G
インパスワード)を用いてログインすることで、
上で仕訳データを修正してその修正内容を確認し、
登録ユーザ1bとして扱われ、仕訳の過去履歴の
操作を終了したい場合はログアウトする若しくは
閲覧サービスや当人が所有する会計ソフト3への
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
21
Web画面Gを閉じることで、ユーザ端末2側の
キャナなどの任意のデータ取込手段を用いて証憑
操作を終了します(ステップS15)
。
を電子化した証憑データのファイルを証憑1枚毎
一方、仕訳解析サーバ10側では、仕訳データ
に作成します(ステップS42)
。仕訳解析サービ
がユーザ1によって修正されたか否かを判定し
スを利用する場合は、ユーザ端末2から仕訳解析
(ステップS28)
、仕訳データが修正されて確認
センター100のWebサイト30にアクセスし
が終了したと判定した場合は、学習手段14が、
(ステップS43)
、登録ユーザ1bの場合には、
修正された仕訳要素が仕訳アドバイザーデータベ
Web画面上のログインダイアログから認証情報
ース20に登録されているか否かを検索し、登録
を入力してログインします。ログイン認証が通る
されていない場合には、その仕訳要素の情報を仕
と、登録ユーザ専用のマイページが表示されるの
訳アドバイザーデータベース20内の該当のユー
で、以降、そのユーザ用の情報が表示されるマイ
ザ共用テーブルに追加登録することで、新たな仕
ページのWeb画面上で操作します(ステップS
訳要素情報を学習します(ステップS29)
。続い
45)
。
て、仕訳解析サーバ10は、要求元のユーザ1が
Web画面上に設けられているアップロード用
登録ユーザ1bの場合には、仕訳結果D2を基に
のタブをユーザ1がクリックすると画面が切替わ
仕訳履歴を生成し、当該登録ユーザ1bの利用者
るので、ユーザ1はそのアップロード画面G1上
IDに対応付けて履歴データベース25に蓄積記
で証憑データのアップロードを指示します。アッ
録します(ステップS30)
。仕訳解析サーバ10
プロード画面G1 上にはアップロードボタン B11
は、利用者データベース26に利用者情報が登録
と送信ボタン B12 と仕訳参照ボタン B13 が設けら
されているか否かを判定し(ステップS31)
、登
れており、ユーザ1が、ユーザ端末2の記憶部に
録されていない場合には仕訳解析サービスの処理
記憶されている1又は複数の証憑データのファイ
を終了します。
ルを選択指定してアップロードボタン B11 を押下
一方、利用者情報が登録されていると判定した
すると、指定された証憑データが専用のWebペ
場合には、仕訳解析サーバ10は、利用者データ
ージにアップロードされます。ユーザ1は、証憑
ベース26に登録されている情報を参照して、そ
データのアップロード操作が終了したのであれば、
のユーザ1bが会計ソフトの利用者か否かを判定
アップロード画面G1上の送信ボタン B12 を押下
し(ステップS32)
、会計ソフトの利用者と判定
します。この送信ボタン B12 の操作によって、ア
した場合は、会計ソフト連携処理手段16が、ユ
ップロード済みの証憑データが仕訳解析センター
ーザ端末2からのデータ取込要求に応じて(ステ
100内の仕訳解析サーバ10に送信され、仕訳
ップS16)
、当該証憑の仕訳データの取込データ
解析サーバ10による仕訳解析処理が実行されま
を生成し(ステップS33)
、生成した取込データ
す。
(仕訳ファイルD3)を要求元のユーザ端末2に
証憑データの送信済/未送信の区別は、アップ
送信し、仕訳解析サービスの処理を終了します(ス
ロード済みの証憑データのファイル名一覧が表示
テップS34)
。
されているアップロード画面G1上で視認可能で
一方、ユーザ端末2側に搭載されている会計ソ
あり、仕訳解析センター100のサービス要求受
フト3は、仕訳解析サーバ10から送信された仕
付手段11では、色分けや状況表記等で、それら
訳ファイルD3を記憶部に取込み、当該証憑の仕
のステータスを区別可能に画面G1上に表示する
訳データの取込処理を終了する。その後、会計ソ
ようにしています。また、それぞれのステータス
フト3は、上記仕訳ファイルD3を用いて財務会
毎に検索可能としており、その検索操作によって
計用書類の電子データ等を作成する。
送信済みの証憑データや仕訳完了済みの証憑デー
次に、仕訳解析サーバ10では、ユーザ1は、
先ずレシートや領収書などの紙媒体の証憑を取得
タを一覧で確認できます。
(特許権者:弥生株式会社)
し(ステップS41)
、カメラ機能付携帯端末やス
22
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
図2
図1
図3
図4
2.
3.
ADVANCE
IP NEWS
Vol.78
23
後
記
技術の発達の契機になる理由はいろいろあって、直接的には、個人の強い意志や願
望などが多いと思いますが、国が集中的に資金を投入すると、その資金を使って各研
究機関などが事業として技術開発を行うため、そこから生まれる発明も多くなるもの
と思われます。
人類が月面に最初に到達したのは、1969年7月の事ですが、その契機となった
のは、当時のソ連の宇宙計画に対抗し、米国大統領が1961年に行った10年以内
に人類を月に到達させるという演説で、米国が国の威信をかけて多額の資金を投入し
技術開発を開始した事であり、その背景には東西の冷戦がありました。
米国の月面着陸計画が終了した1972年以降は人類が他の惑星はおろか月に行
く事も無くなって、宇宙開発も、「宇宙には行っても見ているのは地球」というもの
が多くなっているようです。宇宙開発はお金がかかるので、国が主導の計画が無いと、
この分野の技術開発もなかなか進まないというのが現状のようです。
ところで、米国にはエックスプライズという、特定の技術的課題を解決する事に賞
金を出して、技術開発を促進しようとする財団があるそうです。過去には、同財団に
よって、ゲノム解読や、最初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテストが行われています
が、最近では、グーグル・ルナ・エックスプライズというものが行われているそうで
す。
グーグル・ルナ・エックスプライズというのは、基本的には民間による最初の月面
無人探査を競うコンテストで、月面に無人探査機を着陸させ、着陸地点から500m
以上の距離を走行させて地球に高解像度の動画を含む画像データを送信するという
もので、日本からも「HAKUTO」というチームが参加しています。
「HAKUTO」の代表らは、勤務していた会社も辞めて私財を投じて活動してい
たものの、資金が底を尽きかけて頓挫しそうになっていたところ、エンジェル(投資
家)の資金援助やエックスプライズの中間賞の受賞で、現在も活動を継続できている
そうです。
エックスプライズでは、軌道エレベータ(静止衛星軌道上から上下にケーブルを延
ばして、それに沿って移動するエレベータ)に関するコンテストもあるらしいですが、
基本的には宇宙への安価な輸送手段が開発されれば、民間による宇宙活動も活発化で
きるのではないかと思われます。
いろいろなアイデアや発想を持っている人は多いと思いますが、エックスプライズ
の活動も、こうしたアイデアの実現を支援するような契機や仕組みの一つになるのか
もしれません。
「アドバンスIPニュース」第78号
発行日:2016年6月2日
編集・発行
アドバンス国際特許事務所
〒107-0072
東京都港区赤坂2-5-7NIKKEN赤坂ビル8階
TELL 03-5570-6081 E-Mail
[email protected]