ADVANCE INTERNATIONAL PATENT OFFICE 3SFyrIP 3SFyrIPi( IPi(¥ i(¥r 第47号 〒107-0052 東京都港区赤坂 2-5-7 NIKKEN 赤坂ビル8階 TEL 03-5570-6081 FAX 03-5570-6085 MAIL [email protected] 2013年11月1日 Contents 1.トピックス 〔特 許〕タイと「特許審査ハイウェイ」を開始します…………………………………………… 2 〔特 許〕第4回テゲルンゼイ会合の結果概要……………………………………………………… 3 2.判決情報 〔特 許〕平成23年( ワ )第8085号及び第22692号 各損害賠償等請求事件…… 4 〔特 許〕平成25年(行コ)第10001号 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件…… 7 〔特 許〕平成25年(行ケ)第10034号 審決取消請求事件………………………………10 〔特 許〕平成24年(行ケ)第10433号 審決取消請求事件………………………………13 〔著作権〕平成24年( ワ )第33525号 書籍の電子ファイル化代行差止等請求事件…16 〔商 標〕平成24年(行ケ)第10352号 商標登録取消決定取消請求事件………………20 3.海外情報 〔特許〕遺伝子特許の帰趨(アメリカ)………………………………………………………………23 4.特許紹介 特許第3554684号 「竹エキスの抽出方法、竹エキスとハーブ等を配合した調味液及びその製造方法」のご紹介…27 タイと タイと「特許審査ハイウェイ 特許審査ハイウェイ」 ハイウェイ」を開始します 開始します[ します[特許] 特許] ――概 要―― 経済産業省ホームページ2013年9月25日付け更新記事によりますと、日本国特許庁とタイ商 務省知的財産局は、平成26年1月1日から「特許審査ハイウェイ(PPH)」を開始することに合 意しました、とのことです。 ――背 景―― 経済のグローバル化に伴い、世界の特許出願件数は増加傾向にあります。我が国企業等の海外への 出願件数も増加しており、中でも新興国への出願件数の増加は著しいものがあります。 しかしながら、新興国においては、特許審査官の不足など審査体制が不十分であることにより、審 査の遅延が課題となっています。我が国産業界からは、我が国企業の重要な生産拠点であるタイにつ いても、出願から最終処分までに要する期間の短縮を求める声が上がっています。 ――タイとのPPH試行プログラムについて―― 特許庁は、9月24日に、タイ商務省知的財産局との間で、平成26年1月1日より「特許審査ハ イウェイ(PPH) 」を試行することに合意しました。 これにより、日本で特許になりうると判断された出願については、出願人の申請により、タイにお いて簡易な手続で早期審査が可能となります。 なお、今回の合意により、我が国がPPHを締結した国・地域は27となります。また、アセアン では、シンガポール、フィリピン、インドネシアに続く4か国目です。 ――今後の展望―― 今後も特許庁は、PPHの対象国拡大を図るとともに、海外の特許庁との間で申請手続の共通化・ 簡素化に努めることによって、我が国出願人の海外における迅速な権利取得を支援して参ります。 ※上記トピックスの詳細は、下記のURLをご覧下さい。 http://www.meti.go.jp/press/2013/09/20130925001/20130925001.html(経済産業省ホームページ) 2 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 第4回テゲルンゼイ会合 テゲルンゼイ会合の 会合の結果概要[ 結果概要[特許] 特許] ――概 要―― 特許庁ホームページ2013年10月9日付更新記事によりますと、2013年9月24日(スイ ス現地時間)にスイスのジュネーブにて、日、米、及び欧州主要国(英、仏、独、デンマーク)の知 的財産関連官庁の長官等並びに欧州特許庁(EPO)の長官等による、第4回テゲルンゼイ会合※1 がEPO主催で行われた、とのことです。 ※1:「テゲルンゼイ会合」とは、停滞していた先進国間の特許制度調和の議論の今後について検討 すべく、日、米と欧州主要国(英、独、仏、デンマーク)の特許庁が集まり、その第1回目の会合が 行われた独国ミュンヘン郊外の都市テゲルンゼイに由来しています。 ――出席者―― 日 本 国 特 許 庁:羽藤秀雄長官他 デンマーク特許商標庁:コングスタッド長官他 ド イ ツ 特 許 庁:ルドルフシェファー長官他 フ ラ ン ス 産 業 財 産 庁:ラピエール長官他 英国知的財産庁:アルティ長官他 米 国 特 許 商 標 庁:レア長官代行他 欧 州 特 許 庁:バティステリ長官他 ――結 果―― まず、4項目(グレースピリオド※2、衝突する出願、18カ月全件公開、先使用権※3)に関して、 各庁が実施したユーザー協議の結果概要が報告されるとともに、その結果を外部に公開することに合 意がなされました。 あわせて、今後のテゲルンゼイグループにおける作業の進め方について議論を行い、各庁のユーザ ー協議結果について、各庁の専門家グループが事実ベースで一致点及び相違点を分析し、サマリーと してまとめる点について合意がなされました。 そして、2014年の春に次回の長官会合を開催し、当該サマリーを報告する点についても合意が なされました。 引き続き、日本国特許庁は、テゲルンゼイ会合を含めた様々な国際的な議論の場に積極的に参加し、 特許制度調和の議論を推進してまいります。 ※2:発明の公表から特許出願するまでに認められる猶予期間のことを言います。例えば、日本では 特許法第30条に規定されている「新規性喪失の例外」が関連しています。 ※3:他人の出願前に、その他人の出願を知らないで若しくはその他人の出願を知らないで実施して いた人から知得して、その発明を実施若しくは実施の準備をしていた場合には、当該他人が特許権を 取得しても、その発明を継続して実施できるという権利(通常実施権)であります。日本では特許法 第79条に規定されています。 ※上記トピックスの詳細は、下記のURLをご覧下さい。 http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/4_tegernsee.htm (2013年10月9日特許庁ホームページ更新記事) ADVANCE IP NEWS Vol. 47 3 平成23 平成23年 23年(ワ)第8085号及 8085号及び 号及び第22692号 22692号 各損害賠償等請求事件[ 各損害賠償等請求事件[特許] 特許] ――標 題―― 技術的範囲に属するか否かの判断に際し、均等論が引用され、原告の請求が認容された事例。 (平成25年9月12日 東京地裁判決言渡) ――関連特許法規―― 第100条、(68条、70条、101条、104条の3) ――事案の概要―― 本件は、洗濯機等に関する6の特許権を共有する原告ら(後述する原告甲及び乙の総称。以下、本 稿では単に「原告」とする場合あり。)が、被告ら(後述する被告A、B、C及びDの総称。以下、 本稿では単に「被告」とする場合あり。)による洗濯機の製造、譲渡又は譲渡等の申出がその特許権 を侵害するとして、不法行為による損害賠償請求権又は不当利得による利得金返還請求権に基づき、 1)被告A、被告B及び被告Cに対し、損害金又は利得金合計75億4763万3750円のうち1 7億円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成24年10月2日から支払済みまで民法所 定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払、2)被告A、被告D及び被告Cに対し、損害金又は 利得金合計3億7621万円のうち5000万円並びにこれに対する上記と同様の遅延損害金の連 帯支払を求める事案である。 ――本件発明4の構成並びに要件4Gに対比した被告製品4の構成4gについて―― 本判決文では、原告らの6の特許権をそれぞれ「本件特許権1ないし6」とし、さらに本件各特許 権の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を、番号に対応させて、「本件発明1ないし6」としてい る。また、被告製品について、本判決文では「被告製品1ないし6」としている。本稿では、発明の 名称を「洗濯機用水準器」とする本件特許権4に係る本件発明4の内容及び本件発明4の構成要件4 Gに対比した被告製品4の構成4gについて、次に示す。 (1)本件発明4について (文中の符号4A~4Hは構成要件を示す。) 4A 円筒状のケースと、 4B このケースに密に結合された蓋体と、 4C これらの内部に気泡と共に封入された液体と、 4D 前記ケースに一体に形成された係合部を具え、 4E この係合部により洗濯機上面部の取付部に取付け られると共に、 4F ケースの外方に、ケース及び蓋体よりも下方へ突出 する外部ケースを一体に有し、 4G この外部ケースの下端面を取付部の内底面に当接させて基準面とする 4H ことを特徴とする洗濯機用水準器。 (2)本件発明4の構成要件4Gに対比した被告製品4の構成4g ◆原告らの主張◆ 被告製品4は、外部ケースの下端面の4点を取付部の底から立ち上がるとともに側壁と接続し一体 に成形された4つのリブのそれぞれの上端部に当接させて、これら4つのリブの各上端部が属する単 一の仮想面を基準面として位置決めを行った(4g)洗濯機用水準器を有する。 4 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 ◆被告らの主張◆ 被告製品4は、外部ケースの下端面の4点を取付部の底から立ち上がるとともに側壁から突出させ た4つのリブのそれぞれの上端部に当接させて位置決めを行った(4g)洗濯機用水準器を有する。 ――争 点―― 本件の争点は次の5点である。 (争点1)被告製品1ないし6の構成 (争点2)被告製品1ないし6がそれぞれ本件発明1ないし6の技術的範囲に属するか (争点3)本件発明1、2及び5に係る各特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認め られるか (争点4)被告Aの責任 (争点5)損害又は利得の額 なお、争点1ないし5についての当事者の主張については割愛する。本稿では当裁判所の判断とし て、争点2における被告製品4の本件発明4の構成要件4Gの充足性について取り上げる。 ――当裁判所の判断(被告製品4の本件発明4の構成要件4Gの充足性について)―― ア 被告製品4の洗濯機用水準器における外部ケースの下端面の4点は、構成要件4Gの「外部ケー スの下端面」に当たる。 (中略) したがって、被告製品4は、構成要件4Gを充足しない。 イ 特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする製品と異なる部分が存する場合であ っても、①当該部分が特許発明の本質的部分ではなく、②当該部分を上記製品におけるものと置き換 えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③そのように 置き換えることに、当業者が上記製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであ り、④上記製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時 に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤上記製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の 範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、上記製品は、特許請求の 範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当で ある(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決) 。 (ア) そこで、以下、これについて検討する。 a ①の要件について 特許権は、従来技術では達成し得なかった技術的課題を解決する手段を公開した代償として付与さ れるものであるから、このことを考慮すれば、特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載さ れた特許発明の構成のうち、公開された明細書や出願関係書類の記載から把握される当該特許発明特 有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分をいうと解するのが相当である。 証拠(甲24)によれば、本件発明4は、取付けに別部品を必要とせず、当接面に凹凸があっても、 安価に精度良く取り付けることができ、視認性にも優れる洗濯機用水準器を提供するという従来技術 では達成し得なかった技術的課題を解決するために、ケースと係合部を一体に形成するとともに、ケ ースの外方にケース及び蓋体よりも下方へ突出する外部ケースを一体に備えさせたものであり、これ が本件発明4特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分であると認められる。そうであるから、構 成要件4Gの「取付部の内底面」という構成は、本件発明4の本質的部分でないというべきである。 被告らは、本件発明4が外部ケースの下端面を取付部の内底面に当接させて基準面とすることによ って取付けの水平度の精度を良くするという課題を解決したものであるから、本件発明4の実質的価 値が「取付部の内底面」という構成にもあるとして、本件発明4の本質的部分であると主張する。し ADVANCE IP NEWS Vol. 47 5 かしながら、前記のとおり、取付部の内底面は、凹凸があることによって取付けの精度が悪くなると いう問題点があるために、技術的課題を生じさせていた構成であって、課題を解決した構成ではない。 被告らの上記主張は、採用することができない。 b ②ないし⑤の要件について ②構成要件4Gの「取付部の内底面」という構成を被告製品4の4つのリブの各上端部に置き換え ても、当該各リブが取付部の側壁と一体に成形されているとともに、側壁から突出しており、取付け に別部品を必要としない上、当接面に凹凸があっても、安価に精度良く取り付けることができ、視認 性にも優れるから、本件発明4の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する。そして、③上 記のように置き換えることは、取付部の補強目的で行うなど、当業者が被告製品4における洗濯機用 水準器の製造等の時点において容易に想到することができたものである。また、④被告製品4におけ る洗濯機用水準器が、本件発明4の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出 願時に容易に推考できたことは窺えない。さらに、⑤被告製品4における洗濯機用水準器が本件発明 4の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情 があることは認められない。 (イ) したがって、被告製品4における洗濯機用水準器は、本件発明4の構成と均等なものとして、 その技術的範囲に属する。 ――主 文―― (1)被告A、同B及びCは、原告らに対し、連帯して、それぞれ4193万3727円及びこれに 対する平成24年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)被告A、同D及び同Cは、原告らに対し、連帯して、それぞれ170万8707円及びこれに 対する平成24年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 (4)訴訟費用は、原告甲に生じた費用の40分の39と被告らに生じた費用の80分の39を同原 告甲の負担とし、原告乙に生じた費用の40分の39と被告らに生じた費用の80分の39を 同原告乙の負担とし、原告ら及び被告らに生じたその余の費用を被告らの連帯負担とする。 (5)この判決は、第1、第2項(上記(1)及び(2))に限り、仮に執行することができる。 ――コメント―― 争点2に関して、上記に取り上げた判断以外の当裁判所の判断につきましては、「構成要件を充足 するから(しないから)、技術的範囲に属する(属さない)。」というオーソドックスな判断でありま した。しかしながら上記の判断では、当裁判所は、最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月 24日第三小法廷判決「ボールスプライン事件」の判旨事項、いわゆる日本における「均等論」の代 表判例を説示しながら、 「構成要件(4G)は充足しないが、技術的範囲に属する」と判示しました。 ここで「均等論」とは、特許権などの権利侵害事件の局面において、一定の要件を満たしていれば 特許権の効力が及ぶ範囲を拡張することを認める理論をいいます。日本では、特許法に明文化されて おりませんが、「ボールスプライン事件」以降、特許権の効力が及ぶ、即ち技術的範囲に属するか否 かの判断の際にしばしば用いられます。 なお、 「均等論」を取り扱った判例としては、 「ボールスプライン事件」以外に「生海苔の異物分離 除去装置事件」 (平成12年(ネ)第2147号)や「徐放性ジクロフェナクナトリウム製剤事件」 (平 成8年(ワ)第14828号・第14833号等)等があります。 本件の詳細は、下記のURLをご参照下さい。 URL:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130924143327.pdf 6 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 平成25 平成25年 25年(行コ)第10001号 10001号 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件[ 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件[特許] 特許] ――原 審―― 東京地方裁判所平成24年(行ウ)第383号 ――標 題―― 分割可能期間についての法解釈が争われ、原告の控訴が棄却された事例。 (平成25年9月10日 知財高裁判決言渡) ――関連特許法規―― 第44条第1項、(184条の2) ――事案の概要―― 控訴人(原告)は、平成12年2月15日、ドイツ特許庁を受理官庁として、同日にされた特許出 願とみなされる国際出願(本件原々出願)をした後、平成22年6月8日、本件原々出願の一部を新 たな特許出願(本件原出願)とし、さらに、本件原出願の特許査定の謄本の送達があった後である平 成23年2月10日に至って、本件原出願の一部を新たな特許出願とする出願(本件出願)をした。 本件出願につき、特許庁長官は、平成18年改正法による改正前の特許法44条(旧44条)1項 に規定する期間の経過後にされた出願であるとして出願却下の本件却下処分をした。本件は、控訴人 が本件却下処分の取消しを求めるものである。 原判決は、本件却下処分に違法はないとして、控訴人の請求を棄却した。 ※:本事案は、特許性については争われておりませんので、本件出願等に係る発明の内容は割愛しま す。 ――争 点―― 本件の争点は、本件出願が本件原出願からの分割出願として可能な期間内にされたか否かである。 すなわち、この分割可能期間を平成18年改正法後の特許法44条(新44条)1項によって律する のか、同改正法前の旧44条1項によって律するのかが争点である。 ――争点に係る当事者の主張(要旨)―― [控訴人の主張] 平成18年改正後の特許法44条(新44条)は、分割出願をするには、改正前には、原出願の願 書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正できる期間内である必要があったのを、 原出願の特許査定の謄本の送達があった日から30日までとした。 本件原々出願は、平成18年改正法の施行より前にされているが、本件原出願と本件出願のいずれ も現実の出願は、同年改正法の施行より後にされている。控訴人は、以下の根拠により本件出願には 新44条が適用されると主張するものであるところ、本件出願は本件原出願の謄本の送達があったと みなされる平成23年1月28日から起算して30日以内である同年2月10日にされたので、適法 にされたものである。 平成18年改正法附則3条1項に定める「この法律の施行後にする特許出願」とは、その文理上、 平成18年改正法の施行後にした「現実の出願」をいうものと解釈するのが素直である。そして、新 44条1項は、特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる要件を定めたも のであり、分割出願は同項に基づいてなされる独立した特許出願であることからすると、当該出願が 分割出願である場合には、「この法律の施行後にする特許出願」とは、平成18年改正法の施行後に なされた分割出願を指すと解すべきである。 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 7 百歩譲って、平成18年改正法附則3条1項にいう「この法律の施行後にする特許出願」は、分割 に係る「もとの特許出願」をいうと考えたとしても、本件においては、本件出願に係る「もとの特許 出願」が平成18年改正法施行後になされた本件原出願であるから、本件原出願は同項にいう「この 法律の施行後にする特許出願」に該当することになる。そうすると、さらに、 「分割出願は、当然に、 あるいは新44条2項(または旧44条2項)により、原出願の時にしたものとみなされる。そして、 現実の出願が平成18年改正法施行後になされた特許出願であっても、その出願が同法施行前になさ れたとみなされるものであれば、附則3条1項にいう『この法律の施行後にする特許出願』にあたら ない。 」ことが成り立たねば、本件却下処分はやはり違法とされるべきである。 [被控訴人の主張] 本件原出願は、平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)前にされた本件原々出願からの 分割出願であるから、特許法44条2項により本件原々出願の時にしたものとみなされる。そして、 平成18年改正法附則3条1項の規定により、本件原出願からの分割出願の時期に関しては、新44 条1項の規定は適用されず、旧44条1項の規定が適用される。 親出願、子出願、孫出願の手続がそれぞれ別個独立の手続であるとしても、孫出願の出願日の遡及 の利益の享受は、あくまで子出願の出願日の利益の享受であって、子出願が分割要件を満たして分割 が適法に行われることを前提とするものであり、孫出願の出願日が子出願と無関係に本来の分割可能 な時期から離れて無限定に親出願の出願日まで遡及するものではない。それゆえ、本件出願の出願日 が本件原々出願の出願日まで遡るかどうかが問題となっている本件において、本件出願の分割要件の 適用法が、新44条1項となるのか旧44条1項となるのかが、本件原出願が分割要件を満たすか否 かによって左右されるとしても、何ら不合理とはいえない。実際、本件のような改正法をまたがない 一般の親出願、子出願、孫出願のなされている事案についてみても、出願人は、孫出願の出願日を親 出願の出願日まで遡及される効果を欲して、子出願を原出願とした分割出願(孫出願)を特許出願す るのであるから、子出願が親出願との関係で、分割要件を満たしているかどうかを出願人自ら判断し た上で、分割出願として特許出願することには変わりないから、本件の場合において殊更、出願人が 不安定な立場に立つなどとはいえない。 ――当裁判所の判断(要旨)―― 当裁判所も、本件原出願から分割出願をすることができるのは、時期的制限を緩和した平成18年 改正法によるのではなく、平成14年改正法によるべきであって、本件原出願についての特許をすべ き旨の査定の謄本の送達前に限られ、当該送達後になされた分割出願である本件出願は時期的制限を 徒過した不適法なものであるから、本件出願を却下した本件却下処分に違法はなく、控訴人の本訴請 求は理由がないものと判断する。 控訴人は、本件原々出願の出願日の遡及の利益を求めて本件出願をしているものであり、本件原出 願が本件原々出願の時に出願したものとみなされて特許査定されたことを当事者双方とも当然の前 提としているところ、本件原々出願が、平成12年2月15日にしたものとみなされる国際出願であ り、平成18年改正法の施行前にした出願であるから、本件原出願は本件原々出願のこの出願の時に したものとみなされる。したがって、本件出願は、平成18年改正法の施行後にする「特許出願」か らの分割ではないので、結局、本件出願について同改正法は適用されないことになる。 本件原出願の出願日が遡及するか否かについて、控訴人は、分割出願の実体的要件の有無如何によ って、改正後の手続規定の適用の有無が決まるのでは、著しく手続の安定を欠き、出願人に不利益を 負わせる等と主張する。しかし、本件は、子出願と孫出願がともに平成18年改正後にされた特殊な 事例であり、本件出願(孫出願)は、子出願(本件原出願)が親出願(本件原々出願)からの分割出 願として実体的に適法であることを前提にしている。平成18年改正法附則の上記解釈によれば、子 8 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 出願である原出願には平成18年改正による新44条の時期的な制限緩和の適用はないのであるが、 原々出願からの分割についての実体的要件が具備している結果として、原出願の出願日が原々出願の 出願日に遡ってしたものとみなされたことになるにすぎない。 よって、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がな いのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 ――コメント―― 本件では分割出願について、本件出願(孫出願)、本件原出願(子出願)及び本件原々出願(親出 願)の関係性に係る趣旨と、平成18年改正法の特許法第44条に係る趣旨とを判示しながら、判断 を下しています。分割出願に係る実務の参考としては如何でしょうか。 本件の詳細は、下記のURLをご参照下さい。 URL:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130924091245.pdf (キプロス・パフォス) 世界遺産として登録されているパフォスは、 アプロディテがこの地に降り立ったとされる 伝説が残っています。 「ヴィーナスの誕生」として知られる 愛と美を司るアプロディテは、海の泡からうまれ キプロス島に降り立ち、 以来この地を守護していると伝えられています。 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 9 平成25 平成25年 25年(行ケ)第10034号 10034号 ――標 審決取消請求事件 [特許] 特許] 題―― 引用発明と刊行物2発明は、技術分野が異なるだけでなく、その解決課題も隔たっており、引用発 明に刊行物2を適用する動機付けを見出すことは困難であるので、相違点に係る本願発明の構成は、 引用発明及び刊行物2発明並びに周知の技術手段に基づいて当業者が容易に想到できたものとはい うことができないと判示され、審決が取り消された事例。 (平成25年9月3日 知財高裁判決言渡) ――関連特許法規―― 特許法第29条第2項 ――事案の概要―― 原告は、発明の名称を「継手装置」とする下記のとおりの発明につき特許出願をし、その後、特許 請求の範囲等を補正したが、拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判を請求したところ、本 件審判の請求は成り立たないとの審決を受けた。本件は、この審決取消訴訟に係るもので、争点は進 歩性の有無である。 ――本願発明の要旨―― (括弧内の参照番号は、説明上、筆者が付したものである) 【請求項1】 接続対象物と接続される継手装置(1)であって、前記継手装置(1)は、前記接続対象物と溶接で 接続される溶接性の良好な第1の継手部材(2)と、該第1の継手部材(2)の一部を露出した状態 で鋳包むことにより、前記第1の継手部材(2)と一体的に形成されている鋳鉄製の第2の継手部材 (3)とを備え、前記第1の継手部材(2)は、前記第2の継手部材(3)内に埋め込まれた端面と、 前記端面の周方向に間隔を存して配置され、前記端面の外側縁から中央に向けて延び、かつ、前記端 面の周方向に離間した内壁面(7)を有する複数の切欠き部(6)とを備え、前記内壁面(7)間の 間隔が前記端面の外側縁に近づくにつれて拡開されていることを特徴とする継手装置(1)。 ――本願発明―― ――引用発明―― 10 ――刊行物2発明―― ADVANCE IP NEWS Vol. 47 ――審決理由の要点―― (1)本願発明は、下記のとおり、刊行物1に記載された引用発明及び刊行物2に記載された刊行物2 発明、並びに周知の技術手段に基づいて、本件出願当時、当業者が容易に発明することができた もので、進歩性を欠くものである。 (2)本願発明と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。 【一致点】 接続対象物と接続される継手装置であって、前記継手装置は、前記接続対象物と溶接で接続 される溶接性の良好な第1の継手部材と、該第1の継手部材の一部を露出した状態で鋳包むこ とにより、前記第1の継手部材と一体的に形成されている鋳鉄製の第2の継手部材とを備えて いる継手装置。 【相違点】 本願発明は、「前記第1の継手部材は、前記第2の継手部材内に埋め込まれた端面と、前記 端面の周方向に間隔を存して配置され、前記端面の外側縁から中央に向けて延び、かつ、前記 端面に対して垂直に形成された前記端面の周方向に離間した内壁面を有する複数の切欠き部 とを備え、前記内壁面間の間隔が前記端面の外側縁に近づくにつれて拡開されている」のに対 し、引用発明は、そのような構成を備えていない点。 (3)引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに複数の部品を鋳包み鋳造によって一体 的に形成する技術に関するものであり、刊行物2には、鋳包み金属内に埋め込まれた端面と、端 面の周方向に間隔を存して配置され、端面の外側縁から中央に向けて延び、かつ、端面の周方向 に離間した内壁面を有する複数の凹凸面とを備えるとともに、内壁面間の間隔が端面の外側縁に 近づくにつれて拡開するように形成されていることが記載又は示唆されている。 (4)複数の部品を鋳包み鋳造によって一体的に形成する複合部品に関する技術分野において、鋳包み 部品の抜けや空回りを防止するために、鋳造時に溶融した材料が流入する部分の形状を端面に対 して垂直に形成することは、従来周知の技術手段にすぎない。 (5)本願発明が奏する効果も、引用発明及び刊行物2発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞ れの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 ――原告が主張する審決取消事由の要点―― 審決は、引用発明及び刊行物2発明の技術分野や課題の共通性についての認定を誤り、引用発明と の間の相違点に関する容易想到性についての判断を誤った違法がある。 (なお、この詳細は判旨に近似するので割愛する。) ――被告の反論の要旨―― (1)以下のとおり、審決の進歩性の判断には十分な根拠があり、その判断は妥当であるから、原告 主張の取消事由には理由がない。 (2)引用発明の複合継手部材には、捻り力(トルク)に対して本体1と筒状部20との一体化をよ り強固なものにするという、本願発明が解決しようとする課題と共通する技術的課題が内在する。 (3)刊行物2発明は、超硬リング2とロール本体3の一体回転を保障することを目的としたもの、 裏を解すれば、超硬リング2とロール本体3との間には相対的に捻り力が作用しており、リング 端面の凹凸面21はかかる捻り力に対抗して、2つの部材を回転方向に一体化せんとするもので ある。 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 11 ――当裁判所の判断の要旨―― (1)引用発明は、第1部材(筒状部20)と第2部材(本体1)との一体性をより強固なものにする という点においては、本願発明と共通の課題を有している。 (2)しかしながら、本願発明は、継部に溶接された部材の捻り力等の荷重が加わった場合に、継部が 溶接部本体から抜けたり、継部が変形したりすることを防止することを目的とするのに対し、引用発明 に係る刊行物1にはそのような記載はない。 (3)また、刊行物1には、筒状部20(第1の継手部材)は、鋳鉄製の本体1(第2の継手部材)内 に埋め込まれた端面と、・・・(中略)・・・の外側縁に近づくにつれて拡開されているという、本願発 明の相違点1に係る構成は、記載も示唆もされていない。 (4)他方、刊行物2には、超硬リング2が、鋳包み金属内に埋め込まれた端面と、端面の周方向に間 隔を存して配置され、端面の外側縁から中央に向けて延び、かつ、端面の周方向に離間した内壁面を有 する複数の凹凸面21とを備えるとともに、内壁面間の間隔が端面の外側縁に近づくにつれて拡開する ように形成されていることが記載されているが、刊行物2発明は、鉄鋼線材、棒材等の圧延に使用され るロールに関するもので、本願発明や引用発明が継手装置に関するものであるのとは、技術分野を異に している。 (5)また、刊行物2発明の超硬リング2とロール本体1との配置構造は、本願発明や引用発明の第1 部材と第2部材との配置構造とは異なり、ロール本体1から超硬リング2が抜けることのない構造であ り、本体と筒状部の一体化を求める引用発明とは解決課題を異にしている。 (6)そうすると、引用発明と刊行物2発明が、複数の部品を鋳包み鋳造によって一体的に形成する複 合部品に関する技術という点で共通するとしても、引用発明に刊行物2発明を適用することが、当業者 にとって容易に着想し得るとはいえない。 (7)また、複数の部品を鋳包み鋳造によって一体的に形成する複合部品に関する技術分野において、 鋳包み部品の抜けや空回りを防止するために、鋳造時に溶融した材料が流入する部分の形状を端面に対 して垂直に形成することが従来周知の技術手段であるとしても、引用発明に刊行物2発明を適用した上 で、かかる技術手段を適用して、波状に連続した凹凸面を端面に対して垂直な凹凸面に変更することの 動機付けがあるとはいえず、そのような構成を採用することが当業者にとって容易に想到し得ることと はいえない。 (8)以上のとおり、引用発明と刊行物2発明は、技術分野が異なるだけではなく、その解決課題も隔 たっており、刊行物2の記載事項から、複数部材間に相対的に作用する捻り力に抗して、2つの部材を 回転方向に一体化するという技術課題において共通していると認識するのは当業者にとって容易では なく、引用発明に刊行物2を適用する動機付けを見出すことは困難であり、容易に発明することができ たものということはできない。 ――コメント―― 本件は、容易性判断の誤りに関するもので、詳細には、当該発明と主たる引用発明との相違点に相当 する構成が、従たる引用発明において認められない場合には、(その構成が設計的事項にすぎないと認 められる場合を除き)、各引用発明から容易に発明することができたとはいえないとされる事例である と思います。本事案では、当裁判所は、当該発明(本願発明)、主たる引用発明(刊行物1に記載の発 明)、及び、従たる引用発明(刊行物2に記載の発明)のそれぞれの技術分野、解決課題(目的)、構 成(第1部材と第2部材との配置構造)等につき(さらには周知技術についても)検討を加え、最終的 には、主たる引用発明に従たる発明を適用する動機付けを見出すことは困難であると結論付けています。 この裁判所の結論に至る論理は、引用例同士の組合せに基づく進歩性の判断をする上で、大変参考にな るものと思います。 なお、本件の詳細は、下記のURLをご参照下さい。 URL:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130912102008.pdf 12 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 平成2 平成24年(行ケ)第10433号 10433号 ――標 審決取消請求事件[ 審決取消請求事件[特許] 特許] 題―― 本願発明と先願基礎発明とは、課題が異なり、共通の技術的思想に基づくものとはいえないと判示 され、両発明は実質的に同一と認定した審決が取り消された事例 (平成25年9月19日 知財高裁判決言渡) ――関連特許法規―― 特許法第29条の2 ――事案の概要―― 原告は、発明の名称を「太陽電池用平角導体及びその製造方法並びに太陽電池用リード線」とする 原告の特許出願が拒絶理由を受けたため、特許請求の範囲を変更する(いわゆる除くクレームの)補 正をしたところ、拒絶査定となった。そこで、原告は、この不服の審判を請求したが、本件審判の請 求は成り立たないとの審決を受けた。本件訴訟は、この審決取消訴訟に係るもので、主な争点は、本 願発明と先願基礎発明との相違点に関する審決の判断の適否である。なお、本件訴訟では両発明の一 致点に関する審決の判断についても争われているが、本稿では割愛する。 ――本願発明及び先願基礎発明の要旨―― 【本願発明】 体積抵抗率が50μΩ・mm以下で、かつ引張り試験 における0.2%耐久値が90MPa以下(ただし、 49MPa以下を除く)であることを特徴とする太陽 電池用平角体。 (下線部は補正で追加された事項:筆者注) 【先願基礎発明】 体積抵抗率が2.3μΩ・cm以下で、かつ耐 力が19.6~49MPaである芯材(2)と、 前記芯材(2)の表面に積層形成された溶融は んだめっき層(3A)(3B)を備えた太陽電 池用電極芯材(1) 。 ――本件審決理由の要旨―― (1)本願発明は、以下のとおり、先願基礎発明と実質的に同一のものである。 (2)先願基礎発明は、「体積抵抗率が2.3μΩ・cm以下で、かつ耐力が19.6~49MPa である太陽電池用芯材。」を要旨とするもので、本願発明との対比における一致点及び相違点は下記 のとおりである。 <一致点> 体積抵抗率が50μΩ・mm以下で、かつ引張り試験における0.2%耐久値が90MPa以下 (ただし、49MPa以下を除く)であることを特徴とする太陽電池用平角体。 <相違点> 本願発明は、引張り試験における0.2%耐久値について、「(ただし、49MPa以下を除く)」 とされている点。 (3)先願基礎発明は、芯材を低耐力材とすることにより、半導体基板にはんだ付けする際に生じる ADVANCE IP NEWS Vol. 47 13 熱応力を軽減解消することができ、半導体基板にクラックが生じ難くするもので、芯材の耐力につい て、半導体基板にクラックが生じない範囲として49MPa以下に特定したものである。上記耐力の 範囲は、中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計的事項である。 (4)そうすると、前記相違点に係る本願発明の構成である「(ただし、49MPa以下を除く)」と される点は、先願基礎発明において適宜決定されるべき設計事項の相違にとどまるものであって、技 術的思想すなわち発明として格別の差異を生じるものとは認められない。 ――原告の主張―― (1)本願発明は、シリコンセルの反りを生じ難くすることを解決課題としたもので、「0.2%耐 久値が90MPa以下(ただし、49MPa以下を除く)」とする課題解決手段を採用することによ り、太陽電池モジュールの生産性や信頼性の低下を抑制するという効果を奏するものである。 (2)本願発明と先願基礎発明とでは、発明の本質的部分である耐力に係る数値範囲が互いに相容れ ないものであり、これに加えて、両者における課題及び効果に関する数値限定の技術的意義も互いに 異なっているから、両発明が実質的に同一の発明であるということはできない。 ――被告の反論―― (1)本願発明及び先願基礎発明は、いずれもシリコン結晶ウェハを薄板化した際に生じる問題を解 決するために、平角導体(芯材)を塑性変形させることによって、はんだ付けする際の熱応力を低減さ せる点において、共通の技術的思想に基づく発明である。 (2)本願明細書において、0.2%耐久値として49MPa以下を除くことの技術的意義に関する 記載はなく、本願発明の耐力に係る数値範囲について、90MPa以下から49MPa以下を除くこ とに格別の技術的意義を見だすことはできないから、当該事項について設計的事項を定めた以上のも のということはできない。 ――当裁判所の判断の要旨―― (1)本願発明と先願基礎発明とは、体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角導体で ある点で一致するが、体積抵抗率が50μΩ・mm以下で、かつ引張り試験における0.2%耐久値 が90MPa以下で一致するとする本件審決の認定は相当ではない。 (2)本願発明は、耐力に係る数値範囲を90MPa以下(ただし、49MPa以下を除く)とする ことによって、はんだ接続後の導体の熱収縮によって生じるセルを反らせる力を、平角導体を塑性変 形させることで低減させてセルの反りを減少させるものである。これに対し、先願基礎発明は、耐力 に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとすることによって、半導体基板にはんだ付けする際に 凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消させて、半導体基板にクラックが 発生するのを防止するというものである。 (3)本願発明は、先願基礎発明の耐力に係る数値範囲(19.6~49MPa)を排除しているの で、先願基礎発明とは、耐力に係る数値範囲について重複部分すら存在せず、全く異なるものである。 したがって、本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構成(耐力に係る数値範囲の相違)が、課題 解決のための具体化手段における微差であるとはいうことはできない。 (4)以上のとおり、本願発明と先願基礎発明とは、はんだ接続後の熱収縮を、平角導体(芯材)を塑 性変形させることで低減させる点で共通しているものの、本願発明がセルの反りを減少させることに 着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのに対し、先願基礎発明は、半導体基板に発生するクラ ックを防止することに着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのであって、両発明の課題は異な 14 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 り、共通の技術的思想に基づくものとはいえないから、被告の主張は、その前提自体を欠くものであ る。 (5)よって、本願発明と先願基礎発明とは、実質的に同一の発明であるということはできないから、 本件審決の認定及び判断には誤りがある。 ――コメント―― 本件事案は、「両発明が実質的に同一」のケースに係るものです。審査基準(第Ⅱ部第3章3.4) では、両発明が実質的に同一であるとは、2つの発明間の相違点が課題解決のための具体的手段にお ける微差であり、その微差が、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏 するものではない旨定義されています。 この点に関し、本件審決は、両発明間の微差は、適宜決定されるべき設計事項にとどまるものであ って、技術的思想すなわち発明として格別の差異を生じるものではないと認定しています。これに対 し、当裁判所は、両発明は課題が異なり、共通の技術的思想に基づくものとはいえないと判示して、 本件審決が認定する前記微差を真っ向から否定しています。かかる判示事項は、発明の実質的同一に ついて考える上で、大変参考になるものと思います。 また、本件事案は、いわゆる「除くクレーム」に係るものです。すなわち、本願発明では、出願時 の請求項における「90MPa以下」なる数値範囲が「90MPa以下(ただし49MPa以下を除 く)」と補正されたものです。 この「ただし・・・除く」の点に関し、被告は、「本願明細書において、0.2%耐久値として4 9MPa以下を除くことの技術的意義に関する記載はなく、本願発明の耐力に係る数値範囲について、 90MPa以下から49MPa以下を除くことに格別の技術的意義を見だすことはできない旨主張 していますが、当裁判所の判断は上記のとおりです。 この「除くクレーム」とする補正については、大合議判決(*)では「補正事項自体が明細書等に 記載されていないからといって、当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという 性質のものではない」と述べられ、この判決により、従来、「例外的」な取り扱いとされていた審査 基準が、平成22年に改訂され(取り除かれ)、現在に至っている経緯があります。この「除くクレ ーム」による補正の適否あるいは考察については、知財関連誌等に数多く執筆されています。 (*)平成18年(行ケ)10563号「ソルダーレジスト事件」判決 なお、本件の詳細は、下記のURLをご参照下さい。 URL: http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130919164414.pdf ADVANCE IP NEWS Vol. 47 15 平成24 平成24年 24年(ワ)第33525号 33525号、書籍の 書籍の電子ファイル 電子ファイル化代行差止等請求事件 ファイル化代行差止等請求事件[ 化代行差止等請求事件[著作権] 著作権] ――標 題―― 被告が顧客の求めに応じて書籍を電子ファイル化する行為が、顧客による私的利用のための複製に 当たらないとして、被告の行為が著作権を侵害するものと判断されて、その行為の差止と損害賠償金 等の支払いが認められた事案。 (平成25年9月30日 東京地裁民事第47部) ――関連法規―― 著作権法第21条、著作権法第30条第1項、著作権法第112条第1項 ――事案の概要―― (1)本件は,いわゆる自炊(個人が自分の携帯端末などで書籍が読めるように、書籍をスキャナー などを用いて、自分で電子化する行為)を代行する業者に対して、著作権者が訴えた事案です。 (2)更に具体的には、判決文によりますと、「小説家・漫画家・漫画原作者である原告らが,法人 被告ら(法人S、法人D及び同法人の代表者である自然人Y1、Y2)は,電子ファイル化の依頼が あった書籍について,権利者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイル を作成し(以下,このようなスキャナーを使用して書籍を電子ファイル化する行為を「スキャン」あ るいは「スキャニング」という場合がある。) ,その電子ファイルを依頼者に納品しているから(以下, このようなサービスの依頼者を「利用者」という場合がある。) ,注文を受けた書籍には,原告らが著 作権を有する別紙作品目録1~7記載の作品(以下,併せて「原告作品」という。)が多数含まれて いる蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれている蓋然性が高いとして,原告らの著作権(複 製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し,①著作権法112条1項に基づく差止請求として, 法人被告らそれぞれに対し,第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により 複製することの禁止を求めるとともに,②不法行為に基づく損害賠償として,㋐被告Sらに対し,弁 護士費用相当額として原告1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔被告Sにつき 平成24年12月2日,被告Y1につき同月4日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による 遅延損害金)の連帯支払,㋑被告Dらに対し,同様に原告1名につき21万円(附帯請求として訴状 送達の日の翌日〔被告Dにつき平成24年12月2日,被告Y2につき同月7日〕から支払済みまで 民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求めた事案」です。 ――本件の争点―― 本件では、次の点について争われました。 (1) 著作権法112条1項(差止請求権)に基づく差止請求の成否 (争点1) ア 法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるか (争点1-1) イ 法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるか(争点1-2) ウ 原告らの被告Sに対する差止請求が権利濫用に当たるか (争点1-3) (2) 不法行為に基づく損害賠償請求の成否 (争点2) (3) 損害額(争点3) 16 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 ――裁判所の判断―― 裁判所では次のように判断して、損害賠償金の額を除いて、原告の請求の大部分を認容しました。 (1)著作権法112条1項に基づく差止請求の成否(争点1)について 裁判所では、最初に、法人被告の事業内容や、本件訴訟提起前の原告らによる被告らへの質問書や 通知書、並びに警告の送付が有った事実等、について認定を行い、これに基づいて、次のように判断 しました。 ◆(1-1)法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるかについて。◆ ア.複製の 複製の主体について 主体について。 について。 (ア-1)裁判所では次のように判断して、複製の主体は法人被告らであると認定しました。 すなわち、裁判所は、「著作権法2条1項15号は,「複製」について,「印刷,写真,複写,録 音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義している。 この有形的再製を実現するために,複数の段階からなる一連の行為が行われる場合があり,そのよ うな場合には,有形的結果の発生に関与した複数の者のうち,誰を複製の主体とみるかという問題が 生じる。 この問題については,複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが 相当であり,枢要な行為及びその主体については,個々の事案において,複製の対象,方法,複製物 への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である(最高裁平成21年(受)第78 8号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁参照)。 本件における複製は,上記(1)ア及びイで認定したとおり,①利用者が法人被告らに書籍の電子フ ァイル化を申し込む,②利用者は,法人被告らに書籍を送付する,③法人被告らは,書籍をスキャン しやすいように裁断する,④法人被告らは,裁断した書籍を法人被告らが管理するスキャナーで読み 込み電子ファイル化する,⑤完成した電子ファイルを利用者がインターネットにより電子ファイルの ままダウンロードするか又はDVD等の媒体に記録されたものとして受領するという一連の経過に よって実現される。 この一連の経過において,複製の対象は利用者が保有する書籍であり,複製の方法は,書籍に印刷 された文字,図画を法人被告らが管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化するというもので ある。電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容,程度等 をみると,複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが,その後の書籍の電子 ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり,利用者は同作業には全く関与して いない。 以上のとおり,本件における複製は,書籍を電子ファイル化するという点に特色があり,電子ファ イル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ,その枢要な行為をしているのは, 法人被告らであって,利用者ではない。 したがって,法人被告らを複製の主体と認めるのが相当である。」として、複製の主体を被告らと 認定しました。 (ア-2)また、被告らは著作権法第30条1項(私的使用のための複製)の適用を主張していまし たが、これについて裁判所は、「著作権法30条1項は,複製の主体が利用者であるとして利用者が 被告とされるとき又は事業者が間接侵害者若しくは教唆・幇助者として被告とされるときに,利用者 側の抗弁として,その適用が問題となるものと解されるところ,本件においては,複製の主体は事業 者であるとされているのであるから,同項の適用が問題となるものではない。」として、その主張を 退けました。 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 17 イ.被告法人らの 被告法人らの著作権 らの著作権を 著作権を侵害するおそれについて 侵害するおそれについて 被告法人らの著作権を侵害するおそれについては、本件訴訟に至る経緯や、被告Sのウェブサイト では,会員専用ログイン画面の最下部に,原告らの書籍のスキャンには対応していない旨が記載され ている等の対応が見られるとしても,実際は原告らの作品のスキャンが行われていることなどの事実 認定に基づいて、被告らが「原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるのが相当である。」ま た,被告らに対する「差止めの必要性を否定する事情も見当たらない。」と認定しました。 ◆(1-2)法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるかについて。◆ ア.被告らは,法人被告らのスキャニングについて,そのスキャン事業の利用者が複製の主体であっ て,法人被告らはそれを補助したものであるから,著作権法30条1項の私的使用のための複製の補 助として,法人被告らの行為は適法である旨を主張していました。 しかし、裁判所は、上記複製の主体についての判断で示したように、「本件において著作権法30 条1項の適用は問題とならないし,また,本件における書籍の複製の主体は法人被告らであって利用 者ではないから,被告らの主張は事実関係においてもその前提を欠いている。したがって,被告らの 主張は理由がない。」と判断しました。 イ.また、被告Sらは、「本件は,法的に見ても,社会的に見ても,評価や将来の制度設計について 多様な意見があり得る問題といえるなどとして,仮にスキャン代行が私的使用に該当しないと判断さ れる場合であっても,権利の濫用に該当する旨」を主張していました。 しかし、裁判所は,「被告Sらの主張によっても権利の濫用に該当する事情は見当たらないし,上記 (1)において認定した事実に加え,本件記録を精査しても,同様に権利の濫用に該当する事情は見当 たらないから,被告Sらの主張は理由がない。」として、被告らの主張を退けました。 (2)不法行為に基づく損害賠償請求の成否(争点2)及び損害額(争点3)について。 原告らは、「本件においては,被告らの対応によって発生せざるを得なくなった原告らの弁護士費 用の支出について賠償を求める。」と主張していました。 これについて裁判所は、「著作権者が,その著作権を侵害する者(又は侵害するおそれがある者) に対し,著作権法112条1項に基づく差止請求をする場合には,著作権侵害を理由とする不法行為 に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その著作権者において,具体的事案に応じ,著作権取得に 係る事実に加え,著作権侵害(又はそのおそれ)に係る事実を主張立証する責任を負うのであって, 著作権者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるとこ ろがない(損害賠償請求では,故意又は過失に加え,損害の発生及びその額を主張立証する責任を負 う点が異なる。)。そうすると,著作権法112条1項に基づく差止請求権は,著作権者がこれを訴 訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請 求権であるということができる。 したがって,著作権者が,著作権法112条1項に基づく差止めを請求するため訴えを提起するこ とを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易その他諸 般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,著作権侵害(又はそのおそれ)と相 当因果関係に立つ損害というべきである。」としました。 また、原告らの、被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求の成否については、事実認定に基 づき、訴訟提起前の被告法人らの対応によって、原告らは被告法人らに対する差止請求を余儀なくさ れ、訴訟追行を弁護士に委任したものと認められるし、被告法人らの過失も認められるというべきで ある、とされ、被告Y1、Y2についても、被告法人の代表者であると共に、スキャン事業の責任者 であったことが認められるとして、同様に、不法行為を行ったと認められると認定されました。 以上の結果、裁判所では、「法人被告らに対する差止請求に係る弁護士費用相当額が因果関係のあ 18 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 る損害である。」と認定され、損害額として原告1名につき10万円が相当であると認定されました。 ――コメント―― 本件は、上記のような自炊(個人が自分の携帯端末などで書籍が読めるように、書籍をスキャナー などで読み取って、自分で電子化する行為)を代行する業者に対する著作権者らによる裁判として、 話題になった事件です。 著作権法では、第30条第1項で、著作物を個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲 内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、一定の場合を除いて、 私的使用のための複製として認めています。そこで、業者による上記自炊代行行為が、どの程度まで なら、上記個人による私的使用のための複製として認められるかについては議論がありました。 自炊の代行を行う業者は、一時は沢山ありましたが(原告側資料によると23年9月には約100 社)、著作権者側から警告を受けたり、本件のように裁判を提起されたりした事もあって、現在は少 なくなっているようです。また、自炊代行業者が行う自炊代行の内容も様々なものがあり、現在営業 している業者では、上記著作権法第30条第1項の私的利用のための複製の範囲内と認められるよう に、書籍の裁断等を利用者に代わって行い、利用者にスキャナー等の設備は提供するものの、裁断し た書籍をスキャナーにかけるのは利用者自身に行わせるようにして、違法とされるのを防ぐような業 態を採っている所もあるようです。(なお、上記のように裁断された本が流通して、電子化に使用さ れるという事もあるようです。) 本件の被告は、利用者から書籍を送ってもらって、当該書籍を利用者に代わってスキャナーで電子 ファイル化していましたが、正にその部分が複製における枢要な行為と認定されて、被告業者が複製 の主体であり利用者が個人的に行っているものではないとして、著作権侵害が認定されています。著 作権法上は、特に新たな判断が示された判決というものではないと思われますが、被告らのような営 業方法が違法である事が判示された点は、当業者の指針の1つとなるものと思われます。 なお、電子書籍リーダーのような携帯端末を持っていても、読みたい本が電子化されていないとい う不満は有りがちと思われ、蔵書を自分で電子化したり、業者を利用して電子化したりという事も無 理からぬ事とも思われます。これに対して、最近では、著作権者側は、「Myブック変換協議会(蔵 書電子化事業連絡協議会)」という組織を作り、事業者側も「日本蔵書電子化事業者協会」という組 織を作って、蔵書の電子化におけるルールの策定などの検討を行っているようです。 また、本件の原告らは他にも4社について訴訟を提起しているとの事で、10月30日に判決が予 定されているそうです。 なお、本件判決文の詳細は下記URLをご参照下さい。 【判決文URL】http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20131001115316.pdf ADVANCE IP NEWS Vol. 47 19 平成24 平成24年 24年(行ケ)第10352号 10352号 商標登録取消決定取消請求事件[ 商標登録取消決定取消請求事件[商標] 商標] ――標 題―― 本件はカルピス株式会社(以下「原告」とする。)の第5427470号「ほっと\レモン」に対 して、サントリーホールディングス株式会社と、キリンホールディングス株式会社が登録異議を申立 てた異議2011-900380号事件について、特許庁が「本件商標は,商標法3条1項3号に該 当し,また,本件商標について使用により自他商品識別力を獲得したものと認められないから,同条 2項に該当しないとするものである。」として取消決定をしたことに対し、カルピス株式会社がこれ を不服として訴訟を提起した事件です。 詳細は裁判所HPにてご確認ください。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130829114918.pdf ――事案の概要―― 原告は第32類「レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」を指定商品とする登録 第5427470号商標の商標権者です。訴外サントリーホールディングス株式会社は、商標法3条 1項3号、6号を理由に、訴外キリンホールディングス株式会社は商標法3条1項3号を理由として 登録異議の申立てを行いました。上記2件の登録異議申立ては、異議2011-900380号事件 として特許庁で審理され、平成24年9月4日に本件商標の登録を取り消す旨の決定(以下「決定」 とする。)がされました。知財高裁は原告であるカルピス株式会社の請求を棄却しました。 ――本件商標―― ――実際の使用態様―― ・第5427470号「ほっと\レモン」 ・平成21年12月1日出願 ・平成23年7月22日登録 ・指定商品:レモンを加味した清涼飲料, レモンを加味した果実飲料 ――争 点―― 本件の争点は以下の2つになります。 1 争点①商標法3条1項3号該当性についての判断の誤りがあるか否か 2 争点②商標法3条2項の該当性についての審理不尽及びに判断の誤りがあるか否か ちなみに、商標法3条1項3号というのは「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、 数量、形状(包装の形状を含む。) 、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務 の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しく は時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録できない旨を規定するもの であり、商標法3条2項というのは、「前項第3号から第5号までに該当する商標であつても、使用 をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものに ついては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」というものです。 ――裁判所の判断―― 1 争点①商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り 知財高裁は、「本件商標は,本件文字部分を上下二段に横書きし,これを本件輪郭部分で囲んだ構成 からなり,これらの文字と輪郭線とを同じ赤系色で彩色したものである。本件文字部分のうち,片仮 名「レモン」部分は,指定商品(第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」) 20 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 を含む清涼飲料・果実飲料との関係では,果実の『レモン』又は『レモン果汁を入れた飲料又はレモ ン風味の味付けをした飲料』であることを意味し,また本件文字部分のうち,平仮名『ほっと』部分 は,上記指定商品との関係では,『熱い』,『温かい』を意味すると理解するのが自然である(上記1 (3)及び同(4)参照)。また,本件輪郭部分については,上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲 み枠を設けることは,清涼飲料水等では,比較的多く用いられているといえるから(上記1(6)参照) , 本件輪郭部分が,需要者に対し,強い印象を与えるものではない。さらに,『ほっとレモン』の書体 についても,通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。この点,原告は, 『ほっと』は, 『人をほ っとさせる』 『人がほっとしたいとき』を意味し, 『温かい』を意味するものではないかのような主張 をする。しかし,①『温かいレモン風味の味付け等をした飲料』を総称する名称(称呼)としては, 『ほ』 『っ』 『と』 『れ』 『も』 『ん』があり,それ以外の名称(称呼)を一般的に確認することはできないこと, ②『温かいレモン風味の味付け等をした飲料』としての『ほ』 『っ』 『と』 『れ』 『も』 『ん』の表記は, 『ホットレモン』のみならず片仮名と平仮名の組合せである『ほっとレモン』も用いられていたこと (上記1(3)参照) ,③『レモン』以外の果実等の風味を付加し,温かい状態で飲まれることを想定し た清涼飲料水等においても,平仮名『ほっと』の文字が使用される例は,少なくないこと(上記1(4) 参照)等に照らすならば,原告の上記主張を採用することはできない。すなわち,本件に現れたすべ ての証拠によるも,本件商標について,『熱い』,『温かい』との観念が生じることを否定する事実は 認められない。そうすると,『ほっとレモン』との文字及びそれを囲む輪郭部分の組合せからなる本 件商標は,本件商標の指定商品( 「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)との関 係では,商標法3条1項3号所定の『商品の・・・品質,原材料・・・を普通に用いられる方法で表 示する標章のみからなる商標』に該当するというべきである。」と判示しました。 2 争点②商標法3条2項の該当性についての審理不尽及びに判断の誤り 知財高裁は、「認定した事実に基づいて検討すると,本件商標が使用されたことにより,需要者にお いて,何人かの業務に係る商品であるかを認識することができたと判断することはできない。」と判 示しました。 その理由について知財高裁は以下の通り説明しています。 「(1) (1) 本件商標の 本件商標の各部分及び 各部分及び全体について 全体について 本件商標は,本件輪郭部分と『ほっとレモン』との本件文字部分から構成されている。 ア 使用商標における『輪郭部分』は,右上隅以外の隅がレモンの図形等により隠され,その全体の 形状を確認することができない。したがって,輪郭部分の形状が長く使用され,その特徴によって, 商品の出所識別機能を有するに至ったと解することは到底できない。 イ 使用商標における『レモン』の文字部分については,以下のとおりの理由から,商品の出所識別 機能を有するに至ったとすることはできない。すなわち,①使用商標には,レモンの図柄が描かれて いること、 ・・・『レモン』の文字部分は,当該商品が,果実の『レモン』又は『レモン果汁を入れた 飲料又はレモン風味の味付けをした飲料』であることを端的に示したものと合理的に理解されるから, 『レモン』の文字部分が長く使用され,その特徴によって,商品の出所識別機能を有するに至ったと することは到底できない。 ウ 使用商標における『ほっと』の文字部分は,以下のとおりの理由から,商品の出所識別機能を有 するに至ったとすることはできない。すなわち,①使用商標では, 『輪郭部分』及び『ほっとレモン』 の文字部分は,いずれも『温かさ』,『暖かさ』を連想させる赤色に彩色されていること(この点は, 本件商標も同様である。),②使用商標では,上段に『ほっと』,下段に『レモン』が,丸みを帯びた 赤く彩色された書体により,まとまりよく表記されていることから,一連の意味を持つものとの印象 を需要者に与え,そうであるとすると『温かいレモン飲料』を容易に想起させ得ること・・・⑤原告 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 21 商品それ自体も,『温かいレモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料』であること 等の事実を総合すれば,使用商標における『ほっと』の文字部分は,温かい状態で飲まれることを想 定した清涼飲料等であることを示す表記であるといえる。したがって,使用商標中の『ほっと』の文 字部分が長く使用され,その特徴等によって,商品の出所識別機能を有するに至ったとすることは到 底できない。 (2) 『ほっとレモン ほっとレモン』 レモン』,『ホットレモン 『ホットレモン』 ホットレモン』等の名称に 名称に関する調査結果等 する調査結果等について 調査結果等について 同調査結果によれば,『ほっとレモン』の文字,及び同文字の一部である平仮名『ほっと』が,調査 時点において,『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』との品質,原材料等を説明的に示すも のとして使用されており,それを超えて,特定の出所識別機能を有するものとして使用されていると いうことはできない。なお,原告は,本件訴訟において,本件商標中の平仮名『ほっと』との文字部 分は, 『人をほっとさせる』、 『人がほっとしたいとき』との観念を需要者に与えるものであって, 『温 かい(レモン飲料)』との観念を需要者に与えるものではないと主張する。 しかし,上記調査は, 『 【缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料】と聞くと何という商品名やメー カー(会社名)が思い浮かぶか』など,温かい飲料を前提とする質問から構成され,本件商標の指定 商品を対象とするものではない。その調査結果から,原告の主張に沿った結論を得ることはできない。 同調査結果は,その他の質問回答もされているが,本件商標が,その使用によって,特定の出所識別 機能を有するものとなったことを認定するに足りる調査結果を見出すことはできない。」 以上のような理由から、知財高裁は3条2項に該当しないと判断しました。 ――コメント―― 争点①において、原告は「原告は,本件訴訟において,本件商標中の平仮名『ほっと』との文字部 分は, 『人をほっとさせる』、 『人がほっとしたいとき』との観念を需要者に与えるものであって, 『温 かい(レモン飲料)』との観念を需要者に与えるものではない。」という主張をしていますが、知財高 裁は「本件に現れたすべての証拠によるも,本件商標について,『熱い』,『温かい』との観念が生じ ることを否定する事実は認められない。」としています。本件商標の指定商品である第32類「レモ ンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」との関係においては、やはり普通に考えたら「熱 い」、 「温かい」を意味する「ホット」を思い浮かべる人が大半だと思われますので、原告の主張には 無理があり、知財高裁の判断は妥当だと思います。 争点②において、知財高裁は「使用商標における『輪郭部分』は,右上隅以外の隅がレモンの図形 等により隠され,その全体の形状を確認することができない。したがって,輪郭部分の形状が長く使 用され,その特徴によって,商品の出所識別機能を有するに至ったと解することは到底できない。」 と判示しています。特許庁の運用でも、商標法3条2項における商標の同一性はかなり厳格に判断さ れており、「商標が使用により識別力を有するに至ったと認めるためには、出願された商標が、実際 に使用されている商標と同一のものである場合に限る」としています。商標全体が見えないよう状態 で使用により識別力が発生しているというのはやはり認められ難い言えるでしょう。 22 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 遺伝子特許の 遺伝子特許の帰趨 (アメリカ) アメリカ) [特許] 特許] ――合衆国最高裁判所が重要な遺伝子特許訴訟の判決を下しました。―― 女優アンジェリーナ・ジョリーは、先日、約 3,200 米ドル を投じて、Myriad Genetics 社が行っている数ある乳がん診断 検査のうちの1つを受診しました。この検査により、ジョリ ーの第17染色体について見つかっている、81,000 のヌクレ オチドから成る配列のどこかに変異が存在することが明らか になったため、彼女は、積極果敢な決断を下しました。彼女 は、自身の乳房組織を完全に除去するために、両乳房切除手 術を選択しました。こうすることで、彼女は、BRCA1/BRCA2 配列に変異を持つ女性が、乳がん若しくは卵巣がんを発症す るとされる 50-80%の危険性を大幅に低下させました。 合衆国最高裁判所は、先日、 Association for Molecular Pathology 対 Myriad Genetics の間で争われている注目の訴訟 において、全員一致の判決を下し、ヒトDNAの単離セグメ ントは、特許保護の対象とされないことを明確にしました。合衆国最高裁判所は、乳がんの検出及び 診断に不可欠な2つの遺伝子について、Myriad Genetics 社が単独の使用者かつ分析者となるための 権利を有していなかったことを示しました。遺伝子関連企業は”何も創造しておらず”、むしろ天然 に存在するDNAのセグメントをただ単離しただけであるため、合衆国最高裁判所は、特許法第 101 条のサブジェクトマター要件に基づいて、Myriad 社のクレームが無効であると判断しました。 合衆国最高裁判所は、特定の遺伝子セグメントを単離するという単なる行為が、特許保護を受ける には不十分であるとしました。合衆国最高裁判所は、合成された人為的な遺伝子の特許性を認めると 共に、何らかの変換を条件として、天然の遺伝子配列に特許保護を与える可能性を残しました。この 判決は、同様に、糖質や脂質といった他の生体分子を、クレームに記載した特許を起草するためのガ イドラインをもたらしました。 Myriad 社の特許が無効とされることにより、他の遺伝子関連企業が、診断検査を競争力のある価格 で提供できるようになる可能性が広がりました。”ヒト遺伝子には特許性があるか?”、という問いか けに対する最終的な答えを合衆国最高裁判所が与えたかどうかは、これらの論点が下級審により詳細 に検証されるまで不明です。 ――BRCA1 及び BRCA2 遺伝子の単離―― 1994 年に、ソルトレイクシティーに本社を置く Myriad Genetics 社の研究員が、乳がんの危険性を 増大する変異を隠し持っている可能性のある、正確な遺伝子配列を特定して特許を取得しました。数 千人に及ぶ女性の遺伝子配列の研究により、Myriad 社は、変異を保因する遺伝子 --- すなわち、BRCA1 及び BRCA2 を示している 81,000 のヌクレオチドから成る特異的な配列 --- を突き止めることができ ました。この知見を用いて、Myriad 社は、研究開発に投入された5億米ドルが反映されている費用を 要するものの、乳がんの予測検査を数多く提供することができました。 ヒトゲノムは、二重らせん鎖でよく知られているDNAにより構成されています。DNAは、細胞 の形成に役立つ種々のタンパク質の設計図として、あらゆる既知の種類の生命並びに機能の中で見ら ADVANCE IP NEWS Vol. 47 23 れます。DNAは、コード・セグメントと非コード・セグメントの両方から成り立っているにも拘わ らず、DNAのコード・セグメントのみが新化合物の創生に関連しています。DNAを2本のらせん 構造に分割し、非コード部分を切除することにより、体が結果として生じた遺伝コードを使用できる ようになり、タンパク質の構成要素となる様々なアミノ酸が生み出されます。このようにして、人体 は、遺伝子として知られているDNAの離散セグメントを基にして、膨大な数の様々なタンパク質を 絶えず創り出しています。 これと同じ複製プロセスは、研究室内でも行うことができます。それに加えて、研究技術者は、遺 伝子配列のコード部分のみが含まれているような合成DNAを創生することができます。これらのよ く知られている手順を利用することで、Myriad 社は、同社の研究員により、事前に特定済みの正確な 変異保因遺伝子を単離して再創生しました。患者の BRCA 遺伝子を正常な BRCA 遺伝子と比較して、 何らかの食い違い --- 変異として知られている --- を特定することで、Myriad 社の検査は、遺伝学 的見地から判断して、乳がんを患う危険性の激しい増大傾向が個人にあるか、どうかを彼女らに知ら せることができます。 Myriad 社は、BRCA1 及び BRCA2 に関する組成特許を取得し、これにより、他のあらゆる企業が診断 検査目的で遺伝子を再創出できないようにしました。ペンシルヴァニア大学の遺伝子分析研究所(G DL)が、女性に対して遺伝子検査サービスの提供を始めた際、Myriad 社は、同社の特許権を行使す るために訴訟を起こしました。GDLが検査の終了に同意し、また、これ以外の侵害とされている全 ての活動を停止したことにより、この訴訟は終結しました。同様にして、Myriad 社は、他の数多くの 事業体が BRCA1 及び BRCA2 の遺伝子検査を行えないようにしました。 2009 年に、ニューヨーク大学医学部の研究者であり、自身の患者のDNA試料を検査のためGDLに 定期的に送付していた Ostrer 博士は、特許無効の審決を得るための宣言的救済を求めました。 ――一部は められ、 、一部は覆されました―― 一部は認められ Myriad 社は、合衆国最高裁判所に対し、殊にまさしく複雑科学 であるにも拘わらず極めて根本的な問いかけ、即ち天然と人為の 間の境界線はどこに引かれるのか、 を提示して答えを求めました。 合衆国最高裁判所及びCAFCは、 ”人間により作られた、ありと あらゆるもの”の保護が認められていると特許法を解釈していま すが、一方でまた、例えどれほど画期的、革新的或いは卓越した ものであっても、自然法則(laws of nature)、自然現象(natural phenomenon)及びこのような自然法則の発見に対する特許独占権 の付与を否定しています。 2010 年 3 月 29 日に、ニューヨーク州南部地区の Sweet 判事は、単離されたDNA分子が特許性を 有するサブジェクトマターには当たらないとした 152 ページの意見書を公表しました。CAFCは、 クレームに記載されている単離されたらせん構造は、単独では自然界に存在せず、長いDNA鎖の一 部としてのみ存在し得ると説明し、これを覆しました。CAFCは、DNA及び合成DNA組成物の 両方に関するクレームだけでなく、さらに発がん性のある変異を診断するための方法クレームについ ても支持しました。 合衆国最高裁判所の代理として、Thomas 判事は、DNAクレームに関するCAFCの判決を覆し ましたが、合成DNAに関する判決の一部を支持しました。Myriad 社が行った、天然に存在してい る遺伝子配列の発見及び単離は、特許保護を受けるために十分なほどの変化を伴っていない、と Thomas 判官は説明しました。これとは反対に、合成DNA --- DNAの複製物からコード・セグメ ントを取り除いただけのもの --- は、天然には決して存在し得ないものであり、従ってこれは特許保 24 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 護の対象とされます。 この判決は、合衆国最高裁判所による生体工学発明に関連した従前の判例に適合しています。 Diamond 対 Chakrabarti の間で争われている訴訟において、合衆国最高裁判所は、今まで自然界には 決して存在していなかった人工的に創り出された細菌が、クレームに記載されている特許を承認しま した。447 U.S. 303 (1980)。しかしながら、Funk Brothers Seed Co.対 Kalo Inoculant Co.の間で 争われている訴訟において、合衆国最高裁判所は、いかなる方法によっても、細菌を改変することの ない混合可能な細菌の組み合わせに関する発見が、特許保護の対象とするためには十分でないという 判決を下しました。333 U.S. 127 (1948)。 ――結 び―― 合衆国最高裁判所による判決の影響は、BRCA1 及び BRCA2 遺伝子の診断検査を、より手頃な価格で 直ぐに購入可能となるであろう女性が、最も強く感じ取れると思われます。10人に1人を上回る女 性が乳がんを発症しているため、この技術の社会的重要性が、合衆国最高裁判所の構成員の心に重く のしかかっていたと考えることに無理はありません。 しかしながら、Myriad 社は、BRCA 遺伝子検査における自社の独占権を争いもせずに、諦める積り はまだありませんでした。合衆国最高裁判所の判決を受けて、Ambry Genetics 社から安価な乳がん検 査の提供開始が発表された際に、Myriad 社は、合衆国最高裁判所が手付かずのまま残している数多く の特許クレームに関する特許侵害訴訟を起こしました。Myriad 社は、合衆国最高裁判所が、合成DN A及び検査方法を対象とした同社のクレームの有効性を支持していると主張しています。Ambry Genetics 社は、同社の検査が、合成 DNA 或いは Myriad 社の検査方法を利用しているとされている点 に異議を唱えまし。Myriad 社の残存する特許クレームを上手に避けつつ、競合会社が遺伝子診断検査 を提供できるかどうかは、時間が経てば明らかになると考えられます。 最終的に、DNAについてのみ言及している --- 合衆国最高裁判所の判決が、その他のバイオテ クノロジー産業に対し、特に例えば脂質や糖質のような他の単離された有機化合物の特許に関して、 どのような影響を及ぼすのかは不明確です。合衆国最高裁判所が判決を下した同じ日に、米国特許商 標局(USPTO)は、特許審査官に対し、 ”単離されているか否かを問わず、天然に存在する核酸又はその 断片を単に記しているだけの製品クレームを拒絶する”よう説示する内容の覚書を公表しました。こ の決定は、バイオテクノロジー産業に対して、ヒト遺伝子に関する特許を別のやり方で、創生方法及 び天然に存在している生体分子型との非類似性を強調して、起草するよう促していると考えられます。 (ロスアンジェルスに本拠を置く quinn emanuel 事務所からのレターに拠る) ――コメント―― 上記で引用している特許法第 101 条の条文は、下記の通りです。 特許法 第 101 条 「新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは組成物,又はそれについての新規かつ有用な改良を発 明又は発見した者は,本法の定める条件及び要件に従って,それについての特許を取得することがで きる。 」 以下は、インターネット(遺伝子工学の技術)によります。 遺伝子 DNA を細胞から取り出し、人工的な操作を加えたり、それを利用して遺伝子産物(タンパク 質)を細胞に作らせる技術を遺伝子工学、遺伝子操作、遺伝子組み換え技術(recombinant DNA technique)などと呼びます。遺伝子工学には幾つかの道具が必要です。1970 年に相次いで発見され た制限酵素と逆転写酵素は、遺伝子工学を現実のものとしました。制限酵素は、DNA の特定の塩基配 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 25 列を認識して切断するため、目的遺伝子の切り出しに欠かせません。逆転写酵素は、mRNA に相補的な 放射能標識した cDNA を作るのに用いられます。cDNA は、目的遺伝子の検出やそれ自体のクローニン グに利用されます。リガーゼは DNA の切れ目を繋ぐ酵素で、組み換え体(recombinant)を作成するの に用いられます。遺伝子を組み込む相手として用いられる DNA をベクターと呼びます。現在広く用い られているベクターとしては、ファージ、動植物ウィルス及びプラスミドなどがあります。プラスミ ドは多くのバクテリアに存在する小型の核外遺伝子で、組み換え体を選別するためのマーカー遺伝子 や複製開始点を持ちます。この他、長鎖の DNA を組み込むため、ファージとプラスミドを基に人工的 に作られたコスミドや酵母の人工染色体などが用いられます。組み換え体を取り込ませ増やすために は、大腸菌、酵母などの宿主細胞が必要です。 組み換え体を宿主細胞に入れ、目的遺伝子を増やして DNA 断片を量的に得る操作をDNAのクロー ニングと呼びます。その塩基配列を決定することによって、遺伝子の構造や遺伝子の制御の仕組みを 知ることが可能となりました。一方、組み換え体を用いて、目的のタンパク質を作らせることもでき ます。ヒトのタンパク質を微生物で作らせる場合、目的の遺伝子をリボソーム結合部位(SD 配列)の 後に組み込む必要があります。このために開発されたベクターを、特に発現ベクターと呼びます。近 年、DNA の新しい増殖法として PCR 法が開発され、微量の試料からでも DNA をクローニングできるよ うになりました。 26 ADVANCE IP NEWS Vol. 47 特許第3554684 特許第3554684号 3554684号のご紹介 のご紹介 先月号(第46号)から、弊所で取得した特許のご紹介をしております。 今月号(第47号)は、その第2回目として、特許第3554684号「竹エキスの抽出方法、竹エ キスとハーブ等を配合した調味液及びその製造方法」(以下、「本件特許」とします。)をご紹介致しま す。 まず、竹エキス(主に孟宗竹のエキス)を抽出する際、従来は、竹を圧搾したり、アルコールを用い て溶剤抽出をしたりしておりましたが、前記圧搾では十分な量の竹エキス成分が得られなかったり、ま た溶剤抽出では溶剤の留去を念頭に置かなくてはなりませんでした。 そこで、本件特許は、特許請求の範囲請求項1に記載の構成を司ることにより、95℃以上に加熱し た水を用い且つ適宜抽出(加熱保持)時間を2時間45分~3時間15分とすることにより、竹に含ま れる所望のビタミン類やミネラル類を多く含んだ状態で竹エキスが簡便且つ安全に得られることを見 出しております。 さらに、本件特許において、前記竹エキスに香草を浸漬させて得られた調味液については、生菌数を 抑制する効果を見出しております。 なお、特許権者(共同出願も含む)は、本件特許の知見を基に、種々の関連出願を弊所から出願して おられます。 (特許権者:株式会社MBC) ADVANCE IP NEWS Vol. 47 27 後 記 このIPニュース第47号が出るのは11月1日です。そろそろ冬が近づいて参りますが、 皆様はインフルエンザ対策をしていらっしゃいますか? 弁理士は庁期限を厳守しなければなりませんので、庁期限日に体調不良で欠席するなどとい う事が無いように私は毎年、インフルエンザの予防接種を受けております。以前に、医師の方 に伺ったところインフルエンザが流行し始めるのが年末頃で、予防接種を受けた後に抗体がで きるまでに2週間~3週間程度かかるので、遅くとも11月中に予防接種を受けた方が良いと のことでした。 今年も先日受けてまいりました。大人になっても注射はやはり嫌なものなのですが、予防接 種のおかげなのか、今まで一度もインフルエンザにかかったことはありません。 これから11月に入り一段と冷え込んでくるかと思いますが、どうぞ健康にはご留意くださ い。 花名刺をご存知ですか? 舞妓さんや芸妓さんがご贔屓さんに渡す 名刺のことをいいます。 普通の名刺の1/3ほどの大きさで、名前と 四季折々の絵柄が刷られています。 舞妓さんの花名刺は、 「舞妓/まいこ」から「舞い込む」を 連想させるため、縁起がいいと言われています。 芸妓さんの花名刺は「元・舞妓/もと・まいこ」なので 「もっと舞い込む」とされ、 さらに縁起がいいとされているとか?! (京都にて) 28 ADVANCE IP NEWS Vol. 47
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