ウエディングの演出における調査研究 The Research for the Wedding

ウエディングの演出における調査研究
-婚礼司会者インタビューを通じて-
The Research for the Wedding
- Conduct Interviews on the Master of Ceremonies -
奥正孝・猪池雅憲・阪岡裕貴
masataka OKU・masanori INOIKE・ hirotaka SAKAOKA
≪要約≫
昭和中期頃には、各地域に市民会館が建設
昨今の結婚式・結婚披露宴は様々な演出が
され、市民会館の結婚式やホテルでの結婚式
あり、現役ウエディング司会者にインタビュ
のスタイルが出現。その後、専門の結婚式場
ーを通じて実態調査を行った。
も登場した。当初、これらの結婚式場では、
結婚式、結婚披露宴のバイブルといえば、
形式的に決められた進行で進められていたが、
「ゼクシィ」(リクルートが発行している結
昭和 60(1985)年、神田正輝、松田聖子の結
婚情報誌)であろう。その「ゼクシィ」の影
婚披露宴が行われた時には、一般人も芸能人
響力は、ウエディング業界の牽引役とも言わ
の華やかな結婚披露宴に憧れて、バブル経済
ざるを得ない状況であり、「結婚をしようと
を背景に派手な結婚式・結婚披露宴も行われ
しているカップル」(以後カップルと記載)
た。バブル崩壊後は、お金をかけない結婚式・
の必須のアイテムになっているようである。
結婚披露宴、地味婚がもてはやされた時代に
カップルが好んで結婚式・結婚披露宴で演
出をし、とりわけ特徴がありまたは流行のあ
る事象を取り上げ考察している。
なっていった。
平成 4(1992)年 5 月。現在ではカップル
の「バイブル」となっている「ゼクシィ」が
都市圏で創刊された。発行当初は、結婚費用
≪キーワード≫
で倹約することはタブー視されていたことを、
ウエディング、インタビュー、演出、非日常
「ゼクシィ」は時代の要請にこたえるかのよ
うに費用を抑えるにはどうすればよいのかと
1.はじめに
結婚は時代の背景と共に変化がある。高度
経済成長期には、
「お見合い結婚」
「恋愛結婚」
いう節約術を取り上げ、カップルの圧倒的な
支持を受けた。現在でも「ゼクシィ」はカッ
プルには欠かせない情報誌となっている。
「許嫁(いいなづけ)」と多様な形式があった
が、結婚式・結婚披露宴において自由に選択
2.調査概要
できる時代ではなかったものである。
(1)調査目的
昨今のウエディングの実態を結婚式・結婚
披露宴において進行を務めるウエディング司
の招待客は減少傾向で、来賓の挨拶の方だけ
お招きするということも珍しくない。
会者などからインタビューを行い、昨今の結
全体的には、料理、ウエディングの演出に
婚式・結婚披露宴における演出の実態を調査
こだわりをもち、これらに予算を重点的に配
し報告する。
している傾向がある。そのことは、ウエディ
(2)実施時期
ングフェアーに 1 日で 5、6 会場を回るなどし
・平成 22 年 11 月 22 日(月)元都ホテル支配
ているカップルがいることからもわかる。本
人からヒアリング
・平成 23 年 2 月 22 日(火)ウエディングプ
ランナー、ウエディング司会者からヒアリ
ング
・平成 23 年 5 月 21 日(金)ウエディング司
命は 3 会場程度ではあるが、他も回りつつ決
めているのが現状のようである。
本稿では様々な演出が可能である人前式に
焦点をあて、特徴ある事例を取り上げて考察
する。
会者からヒアリング
(3)調査方法
ウエディングに関わっているホテル関係者、
4.人前式における演出
人前式は、教会式のような形式的に進行で
プランナー、司会者からホテルの対応やカッ
きる要素が多い宗教色を取り入れた結婚披露
プルの志向の動向をうかがいながら、現在の
宴よりも演出の幅が広がる。カップルの私た
ウエディング事情をヒアリングした。
ちだけの、皆と違うものをというような心情
心理を動かしていることが、言えるのではな
3.調査結果からみる特徴
挙式スタイルの人気は教会式であるようだ。
一方で、経済的、宗派を問いたくないという
いだろうか。ここでは人前式での演出を紹介
する。
(1)ダズンロード
理由で人前式(じんぜんしき または ひとま
12 本(1 ダース)のバラを用意し、バージ
えしき)を選択するカップルが増えてきてい
ンロードの内側のお客さんに一輪ずつ渡して
る。人前式を選択する背景には個性的な挙式
おく(両家に 6 本ずつ計 12 本)
。12 本には「感
を望む傾向がうかがえる。
謝・誠実・幸福・信頼・希望・愛情・情熱・真実・尊
結婚披露宴会場については、圧倒的にホテ
敬・栄光・努力・永遠」の意味があり、無作為に
ルが人気。サービスも抜群であるという印象
渡す場合と、新郎新婦から渡す人に思いを込
がカップルの心を惹きつけている。ゲストハ
めてそのバラの言葉の意味を指定する場合が
ウス(ハウスウエディング)も人気があり、
ある。渡し方は始めに新郎が一人で入場する
ぜひとも披露宴会場にと考えるものの、費用
時に一本ずつもらっていき、12 本のバラの花
面でホテルより割高なため断念するケースが
束になったところで花屋がブーケの形に束ね
多い。
る。2~3 年間前からあり、特に京都方面で多
結婚披露宴の招待客数については、平均 60
い。
名程度。従来のように両家半々とはならなく
この演出はブーケ・ブートニア交換時(新郎
ても気にならない様子である。また、勤め先
から新婦へブーケを差し出し、新婦はそのブ
ーケの中から一輪の花を抜き取り、ブートニ
ガールが最後尾に指輪を持っていく。新郎側
アとして新郎の胸に挿す)に行われる。半数
の最後尾には新婦の、新婦側の最後尾には新
(推定)くらいの割合で行われている。
郎の指輪を渡し、リボンに通して内側のお客
(2)ベールダウン
は起立して順番に前に送っていき、最後は新
母親にも何か役をしてもらいたいと言う事
郎新婦の父親が受け取り、リボンから抜いて
で、新婦が挙式の入場前にベールアップの状
新郎新婦に渡し、指輪の交換が行われる。参
態から入場の扉口で新婦のベールをおろす。
列者の参加意識が芽生えるので全員の一体感
花嫁に対する母親としての最後の役目。その
が生まれる儀式として人気がる。内側の人に
後に父親と腕を組んで入場。5 年くらい前か
は指輪に指紋が付かない様に手袋をはめても
ら行われている演出で費用はかからず 30%
らう事もある。外側のお客さんはその時に写
(推定)ぐらいの割合で行なわれている。
真を撮ったりしている。時間はかかり、式場
ウエディングベールをおろす短い瞬間に
としては面倒だが、お客の要望を取り入れな
「おめでとう」
「幸せになってね」という願い
ければ、披露宴会場として生き残りがかかっ
が込められている。
ており、必ず対応しないといけない事情もホ
(3)披露宴会場への入場方法
テル側にはある。
一般的な入場は、新郎新婦が同時に入場か、
(5)立会人
新郎が一人で入場しその後に新婦と父親の入
人前式では結婚誓約書に新郎新婦が順に署
場が多い。一方、人と違った事がしたいと言
名をし、その後に立会人が両家の方から 1 名
うカップルは、新郎入場時に右側に父親、左
が前に出てきて署名するのだが、最近はリハ
に母親で 3 人横並びで入場し、その後に新婦
ーサルが無く、サプライズで立会人を突然指
も 3 人で入場する場合がある。費用はかから
名し、立会人に署名させる事もある。そして
ず、約 10%(推定)の割合で行われている。
結婚成立宣言を立会人にしてもらう場合もあ
他には愛犬と一緒に入場というのもある。
る。
披露宴と違いチャペルは食料品を扱わない
(6)オリジナル持込み
ため、しつけのできた犬であれば可能という
誓約書やリングピロー(結婚指輪の交換ま
ところもある。また、チャペルでのカジュア
で結婚指輪を置いておくためのリングのクッ
ルな人前式で宗教色の無い時に行われ、その
ション)を持ち込みで華やかな物やユニーク
人前式の時は十字架を外して対応している。
なものにしている。約 50%(推定)は何かし
しかし、正式な教会、チャーチでは愛犬の持
らの持ち込みをしている。持ち込み料はほと
ち込みは不可である。
んどの披露宴会場で無料にしている。
(4)リングリレー
(7)誓いの杯
平成 17(2005)年ぐらいからの演出で、雑
三三九度だと時間がかかるので、水合わせ
誌「ゼクシーの企画」である。バージンロー
の儀(正式には新郎新婦の互いの実家の水を
ドの内側の両サイドにリボンを最前列から最
汲んできて、ひとつの杯に注ぎ合わせた水を
後尾まで波打つようにかけておき、指輪の交
飲む儀式)の後に誓いの杯として両家が各 1
換の時にスタッフ又はリングボーイ・リング
回だけ。和装の時に行なわれる。
(8)縁の契り
赤い紐を 2 本用意して水引の輪を新郎新婦
が互いの小指に結び合う儀式。
(9)フェザーシャワー・折り鶴シャワー
はあり、二次会であれば芸人が司会を務める
事もある。
(4)入場前のプレ映像
新居の様子や、結婚式当日までの打ち合わ
従来は退場時にライスシャワーやフラワー
せの様子からホテルの入り口から、実際に入
シャワーを行っていたが、最近は羽や折り鶴
場する扉口までの映像を撮っておき、その映
を投げる事がある。写真に撮ると綺麗に残る。
像が披露宴会場の入場口で終わると同時に新
平成 15(2003)年ぐらいから出てきた。和装
郎新婦が入場する。
の時は折り鶴シャワーで行われる。
(5)ラストバイト
(10)城の天守閣で人前式
城の最上階で赤絨毯に椅子を用意して行う。
ケーキ入刀後に、サプライズで両家の母親
に出てきてもらい、新郎新婦にケーキを食べ
甲冑姿で行う場合もある。岸和田城、大阪城、
させる。母親が最後に食べさせるのはこれが
龍野城、二条城、和歌山城 等。雅楽を奏でな
最後。これからは二人で力を合わせて食べて
がら大名行列の様に入城する。エスカレータ
生きなさいとと言う意味が込められている。
ーやエレベータなどの施設が無い為、年配の
(6)乾杯後のサプライズ
参列者は上り下りに困るといったデメリット
もある。
乾杯の発声の後、そのまま『乾杯』のメロ
ディーが流れ、乾杯の発声をした人がそのま
ま歌う。
5.結婚披露宴における演出
(1)サイン色紙
(7)生ケーキのデコレーション
招待客がチョコペン(文字を記入)などで
普通の色紙にメッセージを書いてもらうの
メッセージを書き、フルーツを自分たちでデ
は以前よりあったが、動物人形に書いてもら
コレーションしてからケーキ入刀を行う。ハ
い、新郎新婦のクラブ活動に合わせてボール
ウスウエディングやレストランで多い。
やバット。音楽をやっていれば楽器に、服が
(8)プロフィール紹介
好きならジーパンなど、サイン色紙以外に書
お互いの一番仲の良い友達やキューピット
いてもらう事がある。いずれも、新郎新婦の
をした人が前に出てきて二人を紹介する。プ
愛用品や部活の思い出のアイテムが多い。
ロポーズのシーンを友達が再現する寸劇を行
(2)オリジナル新聞
う事もある
号外版の形式で「○○君と○○さんが結
(9)踊り子連・舞子・フラダンサー
婚!」のような新聞の号外版をつくり、二人
中座中の演出として、徳島の阿波踊りや花
のエピソードや想い出の話しを印刷し配る。
笠祭りとか舞妓さんや芸妓さんを呼んで接
(3)獅子舞
待・接客してもらう。ブラジルのサンバチー
中華街の春節祭で活躍されている実際の踊
ムが出てきてリオのカーニバルさながらに踊
り子さんを呼ぶ。また、踊り子を手配する業
る事も。地域色を出しているレストランやホ
者があり、大道芸人やバルーンアートもある。
テルが多い。
披露宴のゲストに芸人を呼びたいと言うこと
(10)オリジナルお席札
松竹梅ではなく、スポーツ好きなら野球の
(17)オートクチュール蛍光演出
席札・サッカーの席や、音楽好きならギター
新婦の衣装の腰から下が中に仕込んである
の席札やバイオリンの席札、旅行好きなら観
照明によって色が変わる。桂由美ブランドで
光地名など。新郎新婦の趣味にちなんだ名前
行われる事がある。平成 18(2006)年から。
のテーブル名にする。平成 13(2001)年くら
(18)ロシアンルーレット
いからハウスウエディングを中心にレストラ
クロカンブッシュと言うシュークリームの
ンで行われている。
様なデザートを配って、1 つだけ辛い物があ
(11)マスコット人形
り、当たった人にプレゼントしたり、罰ゲー
若いスタッフがぬいぐるみ着てゲストをお
迎えする会場もある。これは神戸方面に多く
ムをしたりする。
(19)ウエディングフォトフレーム
ハウスウエディングで約 20%(推定)ぐらい。
携帯で撮ったその日の画像を i-Pad のよう
また、京都・滋賀・奈良は保守的趣向強いのか、
なフォトフレームに赤外線通信でメールを送
新しい演出は関西では神戸から東に流れてい
ってもらい、その日の画像がフォトフレーム
く傾向にある。
になりスライドショーで流される。
(12)新郎新婦へのメッセージ
入退場の時にお客様に当日の歓談中に書い
てもらったメッセージを読み上げる。読まれ
6.分析と考察
インタビューからわかったことは、結婚
たお客さんも喜ばれる。
式・結婚披露宴が、ホテルや会場、カップル
(13)レーザー光線
にとってイベント化されていることである。
壁に新郎新婦の名前やハートマークを映し
ホテルや会場まかせでなく、自らが結婚式・
出す。
結婚披露宴をつくり上げていく共同作品の様
(14)シーズンイベント
である。カップルの好みのテイストに共同作
クリスマス、バレンタイン、ホワイトデー、
品を組み立て、招待客らを招き入れ、自身も
父の日、母の日にちなんで、サプライズでプ
イベントを楽しむ構成に練り上げられている
レゼントコーナーをつくる。お祖父ちゃんや
印象を強く持った。カップル自らも楽しむの
お祖母ちゃんが 55 年や 60 年の節目だとする
が今風なのだろう。
と同時にエメラルド婚やダイヤモンド婚と言
様式や形式にこだわりを持つ傾向も薄らい
う事でサプライズプレゼントをすることもあ
できていることも、皆で楽しもうということ
る。
の表れではないだろうか。費用面においても、
(15)ジャンボ風船入場
お金をかけずに手作りのものを用意し、演出
新郎新婦の二人が入れる大きな風船を膨ら
の一部に友人を活用するなど、各々がイベン
まし、後ろから光を当ててシルエットを見せ、
トに参加しているという一体感をつくり上げ
風船が割られると中から登場。
ている。随所に独自性を組み込み、皆とは違
(16)デュエット入場
う感をだそうとしている。もはや、標準モデ
新郎新婦が扉口の外でハンドマイク 2 本を
持ち、デュエットを歌いながら入場。
ルの結婚式・結婚披露宴を消費するというも
のではなく、皆でつくり上げていくイベント
といっても過言ではないかと、インタビュー
インタビューも、好意的に協力していただ
を通してわかった。その背景には、理想はハ
き、この誌面を借りてお礼申し上げます。
ウスウエディングで挙式をしたいという思惑
と一致するのではないだろうか。
7.まとめ
イベントをつくり上げる指南書として「ゼ
クシィ」がある。カップルの要望を受け入れ
るホテルや会場は、結婚式・結婚披露宴を催
すカップルがこれから減少していく時代に、
時代のニーズに合わせ、かつ低予算であり。
サプライズな演出が求められている現状にど
こまで対応できるのかが問われている。少子
化と未婚化により婚礼数が減る中で、淘汰さ
れていく結婚式・結婚披露宴は、カップルに
翻弄されている。
ウエディングは、非日常であるはずだが、
親近者で盛り上がる、身内のこじんまりとし
たイベントとなり、非日常要素を排除してい
るようにも捉える事ができる。そのことは、
素人的要素である手作り感がにじみ出ている
ことからうかがうことができる。一方で、演
出については、次から次へと情報誌から発信
され、演出は消費されていく一つの流行の文
化と言わざるを得ない。次から次へと新しい
演出が生み出され、サプライズにこだわるあ
まりにカップルと招待客、つまりゲストとホ
スト関係は薄らいでいく現状をインタビュー
を通して考察できた。
謝辞
調査をするにあたり、現役のウエディン
グ関係者からインタビュー形式で昨今のウ
エディング事情を聴くことができました。