癌家系とは何ですか? No.33 聖路加国際病院ブレストセンター長 山内英子 No.34 性遺伝のものなどあります。原因遺伝子の種類 「うちの家系は癌家系です。 」という発言をよく 聞くことがあります。癌の種類が何であっても、 とにかく癌に罹患している血縁者が多いといった 場合に用いられているようです。確かに、癌の 癌原遺伝子 癌 細 胞を増 殖させるもの (MEN2のRET など) 。 原因遺伝子がまだ何もわかっていなかった時代 には、それは正しい言い方であったかもしれませ ん。しかし現在は、医学の進歩に伴い、一部の 癌抑制遺伝子 癌化を促進する癌遺伝子の 制御を行う分子をコードする は既に70 No.35 ほど報告されていると言われています が、その代表的なものを表 1に示します。乳癌一 つを取ってみても、代表的で頻度の高いBRCA のみでなく幾つかの原因遺伝子が既に知られて います。表 2では、ある特定の遺伝子で、複数の No.36 遺伝子。癌抑制遺伝子が 臓器の癌と関連していることも多いことがわかり 癌の種類において、遺伝子解析によりその遺伝 欠失、変異すると、腫瘍化の ます。これからも、ある一つの原因遺伝子から、 子の関与が解明されてきており、それが必ずしも 原因となる (Li-Fraumeni 症 他の臓器の癌に関連することがわかってきたり、 正しいとは言えません。 癌は遺伝によってのみ起こるわけではなく、環 境因子も大きく関与します。遺伝と環境の双方の バランスによって起こってくるのです。血縁者の 候群のp53 など) 。 他にも原因となる遺伝子が多数見つかってくる No.37 DNA修復関連遺伝子 でしょう。そのような観点から、 「癌家系1」 「癌家 DNA 修復に関与する遺伝 系 2」 と様々な種類の癌家系があるとも言え、一 子で、欠損等によりDNAの 修復が起こらなくなる (リン 口に「癌家系」 とは言えず、その種類にも言及す チ症候群のMSH2 など) 。 る必要があります。 No.38 中で一定の癌腫が多い場合でも、同じ環境因子 の中で生活していたことが原因になる可能性もあ ります。また、他の疾患にかかりにくく、高齢ま で長生きする家系であるが故に、加齢による癌 が多くなるということも考えられます。 このようなことから、 「癌家系」 という言い方は、 非常に曖昧になるのです。真の「癌家系」 とは、 原因遺伝子が解明されている遺伝性腫瘍であ り、癌全体の5 〜10%程 度と言われています。 遺伝性腫瘍の特徴として、若年での発症、血縁 者に同じ癌の罹患が多い、また一人が何度も癌 表2 家族性 (遺伝性) 腫瘍とその原因遺伝子 疾患名 遺伝子 関連腫瘍 網膜芽細胞腫 RB1 網膜芽細胞腫、骨肉腫 神経線維腫症1型(NF1) NF1 神経線維腫、線維肉腫、白血病 神経線維腫症 2 型(NF2) NF2 聴神経鞘腫、髄膜腫 結節性硬化症 TSC1、TSC2 過誤腫(脳、皮膚、心臓、肺、腎) 、 腎細胞癌 ウイルムス腫瘍 WT1 ウイルムス腫瘍 von Hippel-Lindau 病 VHL 網膜小脳血管腫、腎細胞癌 家族性皮膚基底細胞癌 PTCH 皮膚基底細胞癌 に罹患するなどが挙げられます。 多発性内分泌腫瘍症1型 MEN1 遺伝性腫瘍に関連する遺伝子の分類として、 多発性内分泌腫瘍症 2 型 RET 癌原遺伝子 、癌抑制遺伝子 および DNA 修 多発性外骨腫 EXT1、EXT2 外骨腫、軟骨肉腫 復関連遺伝子 が挙げられます。また、遺伝の 家族性胃癌 E-cadherin 胃癌 形式も常染色体優性遺伝あるいは常染色体劣 家族性大腸ポリポーシス APC 大腸癌 Peutz-Jeghers 症候群 STK11/LKB1 過誤腫(胃、腸) 、消化器癌 若年性ポリポーシス SMAD4/DPC4 、 PTEN 、BMPR1A 過誤腫(胃、腸) 、消化器癌 表1 主な乳癌原因遺伝子 遺伝子 BRCA1 関連症候群 染色体部位 * 17q21 * HBOC BRCA2 HBOC 13q12-13 p53 Li-Fraumeni 17q PTEN Cowden 10q PTEN Cowden 病 TP53 、CHEK2 骨肉腫、乳癌、軟部腫瘍、脳腫瘍 MET 乳頭状腎細胞癌 消化管間質細胞腫(GIST) KIT Ataxia-telangiectasia 11q STK11 Peutz-Jeghers 19q 遺伝性乳癌・卵巣癌 乳癌診療 TIPS & TRAPS 過誤腫(皮膚、腸) 、乳癌、 消化器癌 遺伝性乳頭状腎細胞癌 ATM 4 甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫 Li-Fraumeni 症候群 リンチ症候群(HNPCC) *Hereditary Breast Ovarian Cancer Syndrome 副甲状腺腺腫、膵島細胞腫、 脳下垂体腫瘍 消化管粘膜下腫瘍(間質細胞腫) MLH1、MSH2 、 MSH6 、PMS2 大腸癌、子宮体癌、腎盂尿管癌、 胃癌 BRCA1、BRCA2 乳癌、卵巣癌
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