First course of Mathematics

線形代数 I で 用いる数学の言葉と記号 (準備)
2003 年 4 月 11 日(金曜日)
齋藤 政彦 担当 1. はじめに
大学の数学の授業では, 情報の伝達速度を上げるために, 数学特有の記号や言葉を用
いるので, 皆さんには少々慣れてもらう必要がある. これは、外国語を習うのに似て
いる. 文化と言語は密接に結びついているので, 外国の事を, きちんと理解するのに
は外国語の知識が必要なように, 数学の中身を理解するためには, 数学の記号や言葉
にある程度なれなければいけない. しかし, この言葉はお互いの意志疎通の為に必
要なのであって, 数学の内容は, 言葉がわかるだけでは理解できない. 計算をしたり,
絵を描いて図形的に考えたりする事が必要であることは言うまでもない.
2. 記号表
数学では, 文字式や集合をあつかうことが多い. 英語の大文字 A, B, C, . . . , 小文字
a, b, c, . . . の他に, ギリシア文字を使う事が多い. その際太文字 a, b, c, . . . ,筆記
体 A, B, C . . . 等も使う. また、次のギリシア文字も多用するので, 読み方等を覚え
て欲しい.
2.1. ギリシア文字.
記号 2.1. ギリシア文字小文字
α アルファ β ベータ γ
ζ ゼータ η エータ θ
λ ラムダ µ ミュー ν
π
パイ
ρ ロー σ
φ ファイ ϕ ファイ χ
ガンマ
テータ
ニュー
シグマ
カイ
δ
ι
ξ
τ
ψ
デルタ
イオタ
クシィ
タウ
プサイ
エプシロン
κ
カッパ
o
オウ
υ ウプシロン
ω オメガ
記号 2.2. ギリシア文字大文字
Γ ガンマ ∆ デルタ Θ テータ Λ ラムダ Ξ クシィ
Π パイ Σ シグマ Φ ファイ Ψ プサイ Ω オメガ
問題 2.1. 次の数式を声を出して読んでみよ.
∞
1
ζ(s) =
,
ns
n=1
1
n
n≥1 (1 − exp(2πix) )
η(x) = 1
2
y
y
D
D
x
1
1
x
x2 + y 2 < 1
x2 + y 2 ≤ 1
Figure 1
2.2. 簡単な集合の記号.
定義 2.1. いくつかのものをひとまとめにしたものを集合という。但し、集合 X を
一つ決めた時、どんなものを持って来ても X に属するか、属さないか論理的に判定
できるものとする. ある集合 X に属する ‘もの’ をその集合 X の要素または元と言う.
a が、集合 T の元であるとき
a∈T
または
T a
と書く. この時、 a は集合 T に属する または a は T に含まれる などという.
a が集合 T の元でないとき、a ∈ T または T a と書く。
例 2.1. 次は、集合の例である.
1. S = {1, 2, 3}, すなわち S は 1, 2, 3 からなる集合.
2. 全ての自然数の集合 N = {1, 2, 3, · · · }.
3. 全ての整数の集合 Z = {0, ±1, ±2, ±3, · · · }.
4. 全ての有理数の集合 Q ( 和と積を考えたものを有理数体という ).
5. 全ての実数の集合 R.( 和と積を考えたものを実数体という )
6. 全ての複素数の集合 C. ( 和と積を考えたものを複素数体という )
7. R2 = {(x, y), x, y ∈ R} = { 平面上の点 }. R3 := {(x, y, z)x, y, z ∈ R} =
{3 次元ユークリッド空間の点 }
8. x2 + y 2 < 1 を満たす平面上の点 (x, y) 全体, すなわち原点を中心とし、半径が
1の円の内部の点からなる集合. D = {(x, y) ∈ R2 |x2 + y 2 < 1}.
9. D := {(x, y) ∈ R2 |x2 + y 2 ≤ 1}. 原点を中心とし, 半径1の円の周および内部.
Figure1 を参照. 包含関係:D ⊃ D.
10. [0, 1] = {x 実数, 0 ≤ x ≤ 1}, すなわち [0, 1] という記号は、0 以上 1 以下の実
数の集合を表す.
11. S = { 正方形 }, T = { 長方形 }. 包含関係は T ⊃ S.
例 2.2. 次のような‘
‘ もののあつまり ”は数学では集合とは呼べない。
1. ‘十分大きい’ 自然数全体の集まり. 十分大きいと言うと言うのは人により場合
により判断がまちまちである. しかし十分大きいという事を定義すればよい.
2. 快適な部屋の全体. 快適な部屋の定義があいまいである.
3
a
A
B
B
A
集合の包含関係 A ⊂ B
a
集合の包含関係 A ⊂ B
Figure 2
3. 環境にやさしい洗濯機全体. 何が環境にやさしい洗濯機かという定義がされて
いない限り, 集合にはなりえない.
注意 2.1. ある(数学的)集合 A とある一つのもの a をとるとき
a∈A
または a ∈ A
のいずれか一方だけが成り立つ. 両方同時に成り立つ事や, 同時に成り立たない事
は起きない. ( これを論理学で排中律, すなわち A であるか A でないかのどちらか
しか無く, そうでない第 3 の状態を認めないという原理である. これは数学に置ける
だけでなく法律学,哲学等においても非常に基本的かつ強力な原理である ).
定義 2.2. 一つも元を含まない集合を空集合と呼び ∅ と書く.
定義 2.3. 無限集合と有限集合
自然数の全体 N は, 無限個の元を含む. 1 10 より小さい素数全体の集合は 2, 3, 5, 7
という4つの元しか含まない.一般に無限に多くの元をもつ集合を無限集合, 有限
個の元しかもたない集合を有限集合 と言う.
定義 2.4. 集合の包含関係と相等
今 A と B という二つの集合を考えよう. A のどんな元 a ∈ A も B の元である時 A
を B の部分集合といい, A ⊂ B または B ⊃ A と書く.( これらの関係を包含関係と
言う.) すなわち
定義
A ⊂ B ⇐⇒ すべての a ∈ A について a ∈ B
この事の否定を A ⊂ B と書く。
A ⊂ B かつ A ⊃ B の時, A と B の元はまったく同じになってしまうので A = B と
書き, A と B は集合として相等であるという. すなわち
A=B
⇐⇒
A ⊂ B, A ⊃ B
である. よって A = B を示すためには A ⊂ B と A ⊃ B を示せば良い.
注意 2.2. 空集合 ∅ はどんな集合 B の部分集合である
∅⊂B
1
‘証明’ してみよ.
4
これは次の様にして説明できる. A ⊂ B となる為には a ∈ A ならば a ∈ B を示せば
よい.しかるに A = ∅ の時は A の元はないのだから, 上の事を示す必要がないので
上の命題は正しい.
問 2.1. 次の二つの集合の包含関係を調べよ. また, 二つの集合が相等であるかどう
かも調べよ.
1. A = {a ∈ R|a2 > 1}, B = {a ∈ R|a > 1}
2. A = {a ∈ Q|a2 = 2}, B = ∅
3. A = {x ∈ R|x2 − 3x + 2 ≤ 0}, B = [1, 2] = {x ∈ R|1 ≤ x ≤ 2}
2.3. 集合の直積.
定義 2.5. 二つの集合の直積 A, B を二つの集合とするとき, A の元 a, B の元 b との
順序付けられた組 (a, b) 全体のつくる集合を, A と B の直積といい,
A×B
で表す. A × B の元 (a, b), (a , b ) (a ∈ A, a ∈ A ; b ∈ B, b ∈ B) は a = a , b = b の
時に限って等しい. A × B の元 (a, b) に対して, a をその第1成分または第1座標, b
を第2成分, または第2座標という。
A × B = {(a, b)|a ∈ A, b ∈ B}
のような書き方も多用する.
例 2.3. 次のような集合の直積の例がある.
1. A = {1, 2}, B = {p, q, r} に対して
A × B = {(1, p), (1, q), (1, r), (2, p), (2, q), (2, r)}
2. R と R の直積集合 R × R の元 (x, y) は平面上の点と同一視される.
R × R = {(x, y)|x ∈ R, y ∈ R}
3. A = R × R, B = R とすると
A × B = (R × R) × R = {((x, y), z)|(x, y) ∈ R × R, z ∈ R}
この集合は
R × R × R = {(x, y, z)|x, y, z ∈ R}
と同一視される.
4. 一般に A を集合 n を自然数とするとき
A
× · · · A = {(a1 , a2 , · · · , an )|a1 ∈ A, · · · , an ∈ A}
× A
n
なる直積集合も定義される. これを An と書く.
5. すると, Zn , Qn , Rn , Cn が自然に定義される.
6. R は数直線, R2 はユークリッド平面, R3 は 3 次元ユークリッド空間, Rn を n
次元ユークリッド空間という.
5
数直線= 1 次元ユークリッド空間
x
R
0
R
y
Rn
2
xn
P := (x, y)
Rn−1
x
ユークリッド平面
z
0
R3
n 次元ユークリッド空間の想像の仕方
P := (x, y, z)
y
x
3 次元ユークリッド空間
Figure 3
2.4. ユークリッド空間と次元. n を自然数とする. Rn = {(x1 , · · · , xn ), x1 , · · · , xn ∈
R} は, n 個の順番のついた実数の組 (x1 , · · · , xn ) の集合である. このおのおの xi は
他の実数に影響されずに変化できるので n 個の独立変数をもつという意味において,
Rn の次元は n であるという. これは, 直線, 平面, 3 次元空間, 4 次元空間,といくれで
も次元を増やせる. (図参照). ユークリッド空間の2点 A(a1 , · · · , an ), B(b1 , · · · , bn )
に対してその距離 AB を
n
2
2
AB = (b1 − a1 ) + · · · + (bn − an ) = (bi − ai )2
i=1
で定義する.この距離によって, 図形が合同であること,角度や円や球の概念が定
義できユークリッド幾何を展開できる.
2.5. 集合と写像.
定義 2.6. 二つの集合 X, Y に対し, 集合 X の全ての元 x について, f (x) という Y の元
が一意的に定まる時, この定め方 f を集合 X から Y の写像 (map) と言い, f : X−→Y
6
Y
X
f (X) = Imf
f (x)
x
Figure 4
または
f : X −→ Y
x → y
と書く.
例 2.4.
1. X = R, Y = R の時に各実数 x ∈ R に対して実数 y = f (x) が定まる
というわけだから 関数 f (x) が写像その物である. 例として
y = f (x) = 2x − 1,
y = g(x) = sin(x), y = h(x) = 3x
これらに対してはグラフを書く事が出来る.
2. 一方, X = {1, 2, 3}, Y = {0, 1} と置くとき写像 f : X−→Y の一つの例として
は次が与えられる. この f は全射である.
X
1
HH
HH
HH
2
HH
HH
j
3
Y
1
f (1) = 0
f (2) = 1
0
f (3) = 0
定義 2.7. 集合の写像 f : X−→Y が与えられた時, f (X) と言う Y の部分集合を
f (X) = {y ∈ Y,
∃x ∈ X, f (x) = y}
と定め, X の写像 f による像 (Image) と呼ぶ (f (X) ⊂ Y ). Imf とかく事もある。
像 f (X) が Y 全体に一致する時, すなわち
f (X) = Y
の時, 写像 f を全射 (surjection, surjective map) と呼ぶ. また任意の x, x ∈ X
について,
f (x) = f (x ) ⇒ x = x
が成立する時, f は単射 (injection, injective map) と呼ばれる.