2011年度 卒業論⽂集 滋賀大学教育学部 学校⼼理コース 2011年度 卒業論文集 目次 入江亮太 幼児における空問的視点取得と抑制制御及びワーキングメモリとの関連について 桐畑隆文 小学校高学年における学校生活の楽しさと自己肯定感、友人関係、統制感との関連 小林由佳 中学生における学業的援助要請方略と 原因帰属スタイル・教師のサポートヘの認知との関連について 真藤浩太 大学生における偶発的な孤立状況に対する行動および感情 -被異質視不安・自尊感情と関連づけて- 西尾理恵 幼児期における心の理論と実行機能の関連 -誤った信念課題と嘘をつく行為を通して- 西村和未 中学生はどのような友だちグループにいると高い居場所感を感じるのか 本並美和 幼稚園児の社会的責任目標尺度の検討 松井誉子 就職活動における理想自己・現実自己のズレと自己成長について -幼稚園教師の評定を基にして- -ズレの捉え方および対処に着目して- 山ロ恵里佳 ※ 新生児マウスにおけるバージン雄の選好に及ぼす父親の唾液と尿の刺激効果 ほかに次の論文が提出されました 井上宗晃 新生児マウスのメス選好に及ぼす母親の羊水、尿、唾液の嗅覚刺激効果 平成 23 年度 卒業論文 幼児における 幼児における空間的視点取得 における空間的視点取得と 空間的視点取得と抑制制御及び 抑制制御及びワーキングメ モリとの モリとの関連 との関連について 関連について 指導教官 渡部 雅之 教官 滋賀大学 教育学部 学校教育教員養成課程 学校心理コース 学校心理コース 8017 入江 亮太 目次 第1章 問題と 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第2章 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 第3章 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 1、性差の 性差の検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2、空間的視点取得課題への 空間的視点取得課題への年齢 影響・・・・・・・・・16 への年齢の 年齢の影響・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・16 3、実行機能課題への 実行機能課題への年齢 への年齢の 年齢の影響・・・・・・・・・・・・ 影響・・・・・・・・・・・・19 ・・・・・・・・・・・・19 4、空間的視点取得課題と 空間的視点取得課題と実行機能課題の 実行機能課題の関連・ 関連・・・・・・24 ・・・・・24 5、年齢を 年齢を除いた場合 いた場合の 場合の空間的視点取得課題と 空間的視点取得課題と実行機能課題 との関 との関連・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 6、課題間の 課題間の構造・ 構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 第4章 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 空間的視点取得と実行機能における加齢の効果につい て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 ・・・・・・・・・・26 空間的視点取得と 空間的視点取得と実行機能の 実行機能の関連について 関連について・・・・・・・・ について・・・・・・・・26 ・・・・・・・・26 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 第1章 問題と 問題と目的 子どもの生活空間に対する適応において基本的に重要なことの 1 つは、子どもがその空 間構造と空間内の事物の方位(方向と位置)をどのように認知して行動するか、さらにそ の際の内的過程にはどのような心理学的要因が働いているか、という点にある。子どもは 誕生した直後より立体的空間内に生活しているが、その認知空間は成人のように広く、構 造化されたものではなく、自己を中心とした狭く未分化な空間である(Piaget & Inhelder, 1948)。それが成長とともに、行動空間が拡大し、その経験を通して空間方向がしだいに分 化するとともに対象事物の位置や方向性が認識されるようになる。 例えば、視知覚レベルの認知として、乳児における対象注視反応の異方性の研究(Shirley, 1931)や空間定位における方向の分化の研究(Gesell, 1950) 、があり、さらに、対象の方 位の判断における基準系や空間座標の発達については、Muller(1917)による「座標体系 説」、Gibson & Mowrer(1938)による垂直、水平判断に及ぼす重力感覚的手がかり(g-factor) と視覚的手がかり(v-factor)の規定性の研究、Witkin(1948)による応用的研究などがあ る。 ここで問題にされたことは、空間内における自己身体の方位や、自己と空間内事物との 方位の関係がどのようにとらえられているか、という点である。つまり、方位判断におけ る関係系としての空間基準系や空間座標がどのように形成されているかということだ。空 間方位の認知が形成されるためには、乳・幼児期から児童期にかけての相当長期の発達過 程を必要とする。この場合、行動空間における具体的経験と学習に基づく感覚・知覚的弁 別力、空間的思考操作、空間表象や空間概念の形成といった知的諸能力の形成が重要とな る(Piaget & Inhelder, 1948) 。 空間概念の発達に関して、Piaget & Inhelder(1948)は、トポロジー的空間概念からユ ークリッド的空間概念へと至る一連の発達段階を示した。特に、射影的空間概念の段階へ の移行の指標として、空間的視点取得能力をあげた。空間的視点取得能力とは、狭義の用 法では、自分のみえとは異なった他者のみえを推測する能力のことを意味している。 Piaget & Inhelder(1948)は、3つの山問題(Three Mountains Problem)と呼ばれる課 題を用いて、この空間的視点取得能力の発達過程について検討した。これは、3つの山の 模型の前に座った被験児に、別の場所に人形を置くなどして設定した他者の視点からみえ るはずの光景を答えてもらう課題であった。まず幼児自身のみえを確認し、次いで様々な 位置に人形を置き、人形がみている光景を構成したり、選択したりする。質問方法は 3 種 類あり、第 1 は、3 つの切り抜き型を並べてみえを示すことであり、第 2 は、10 枚の絵カ ードから人形がみている景色に最も合っているもの選ぶこと、第 3 は、絵の中の 1 枚を実 験者が選び、それと同じ写真を撮るためには人形はどこにいるべきかを考えて人形を置か せることである。3つの山問題での被験児の反応を分類した結果、他視点取得にはいくつ かの発達段階があることが示された。また幼い子どもたちには、他視点の光景が問われて いるにもかかわらず、自己視点からのみえを選択する誤反応もみられた。Piaget(1959) は、この幼児の誤反応を「自己中心的反応」と呼んだ。 現在では、3つの山問題は確立された課題であるかのように扱われ、空間的視点取得能 力や、他の認識能力との関連性を論じた研究が多くなされている。例えば、加齢に伴う認 知機能の変化を論じるために、心的回転などの他のイメージ課題と組み合わせて使用され たり(Inagaki et al., 2002)、社会的な視点取得能力である「心の理論」課題との相違が問 題にされたり(Happe et al., 1998)している。だが、3つの山問題は決して感度のよい測 定課題ではない。また、たとえ3つの山問題を使用して認知能力を測定するにしても、空 間的視点取得の本質的な意味が解き明かされていなければ、十分な成果を得られるはずも ない。 幼児の空間的視点取得能力の研究において、多くの追試実験や、要因を様々に変化させ た実験が行われてきた。これらから、3つの山問題の欠点が明らかになってきた。すなわ ち3つの山問題は、提示刺激の種類を少し変えるだけで正答率が大きく変化することや、 知覚的複雑さを低減させた類似の課題を行うことで、旧来の研究に比べて年少の子どもで も課題に成功することが示されてきた。例えば前者について、古くは Lovell(1959)が、 Piaget & Inhelder(1948)が用いた手続きをより厳密なものに修正して追試し、さらに統 計的分析を行った。その結果、Piaget 理論と一致する点としない点がみられ、根幹となる 理論を受け入れるには厳密な統制下での研究が必要であると結論づけた。Dodwell(1963) も、194 名の子どもを用いて追試を行った結果、年齢に応じた問題解決の方法があることは 示されたが、各々の子どもを発達段階に振り分けることはできず、この能力の発達には他 の要因もかかわっていると結論づけられた。田中(1968)は、3つの山問題の通過率を課 題の種類、解決法、年齢等の点から調べ、条件によって困難度が異なることを明らかにし た。Gelman(1976)は、幼い子どもが自己中心的にみえるのは知識や記憶が伴わないから であり、また課題の困難さもそれに関連しているとしている。また、Hirata(1983)は、 空間的視点取得は他視点の取得以外にも多くの認知操作を必要とする複雑な課題であるこ とを実証している。また後者については、Piaget & Inhelder(1948)の報告よりはるか に幼い 3、4 歳の子どもが課題を通過したという結果(Borke, 1975)が示され、 「3つの山 問題」の妥当性に対して疑問を投げかけた。このように追試研究が盛んに行われたことで、 「3つの山問題」は空間的視点取得能力を測定するための課題として、その信頼性と妥当 性が問題視された。 結局、3つの山問題は、その解決に多くの能力が絡む、極めて込み入った課題であった のである(Flavell, 1977)。そのため Flavell(1974)は、空間的視点取得の発達に関して 2つの水準に大別される新たな段階説を提唱した。それは、自他のみえの違いに気づくこ とができる水準1(2~3 歳頃)と、この認識に基づいて実際にみえの産出が可能となる水 準2(7~8 歳頃)からなっている。このうち空間的視点取得能力として本質的に重要なの は、水準1に相当する視点の認識能力である。幼児期初期を対象として、この能力をとら えようとする試みがいくつか行われた。その先鞭を付けたのが、Masangkay ら(1974)で ある。しかし彼らの試みは、使用された課題が本当の意味で視点取得を測定しているのか 疑問であるとの批判がなされた。他者が自分とは異なるみえをもつという気づきだけでは、 他地点への視点の移動が行われたことを必ずしも意味しないからである。そこで渡部(2000) は、みえイメージの産出に関係する情報処理を極力削減した課題である顔回転課題を考案 し、3歳後半には空間的視点取得能力の萌芽が確認できることを示した。顔回転課題は、 他の地点へ仮想的な「もう一人の自分」が移動し、そこから対象を眺めるイメージをもつ という、空間的視点取得本来の視点の移動過程をとらえようとするものであり、この能力 がすでに幼児期初期から芽生え始めているという指摘は、発達心理学の観点において重要 である。 一方、Huttenlocher & Presson(1973)は、空間認知において情報処理のベースとして 使用される準拠枠の存在に注目した。空間的視点取得とは、自分自身に内在する準拠枠か ら、他地点の観察者がもつ準拠枠へと、視点移動を行う過程のことであるととらえたので ある。このように、空間的視点取得を広く空間認知研究の中に位置づける流れは、その後、 Huttenlocher & Presson(1979)や Presson(1980)へと発展し、我が国においても鈴木 (1993)による空間的なみえの「切り取り」仮説の中に活かされている。Diwadkar & McNamara(1997)は、他視点から対象のみえを認識する際に、人は最も類似した記憶表 象を参照する必要があり、そのときに身体方位依存的な空間記憶の検索が行われるとして、 空間的視点取得をイメージ記憶とその検索過程であると解釈している。 渡部(1987)は、空間的視点取得課題に正答するためには、視点移動能力と、自己のみ えと他者のみえという 2 つの相反する表象を切り離したり、関連づけたりするような、表 象の操作能力とが必要であると考え、空間的視点取得を可能とする機能を特定する目的で、 3つの山問題を解決するために必要な下位能力に注目して、それらの発達的関連を調べた。 そして、いくつかの下位能力が3つの山問題の解決に特に強い関連を示すことを明らかに した。しかし、そこで取り上げられた下位能力は、空間的視点取得固有のものであり、空 間概念や認知の発達全般に敷衍して論じるには不十分である。 そうした問題を克服すべく、例えば「心の理論」研究などにおいて(小川・子安, 2008) 、 近年、実行機能(executive function; EF)の関与という観点から研究が進められるように なってきた。実行機能とは、行為や思考のモニタリングやコントロールの役割を果たす高 次の自己制御過程の総称であり(Carlson, 2005)、特定領域に限定されることなく、広く一 般の認知過程に適用できる考え方である。そうした実行機能の下位機能のうち、空間的視 点取得と特に関連が強いと考えられる下位機能として、抑制制御(inhibitory control)と ワーキングメモリ(working memory)が挙げられる(渡部, 2002)。 抑制制御とは、子どもにとって優勢であるが不適切な表象やそれによってもたらされる 反応を制御する能力、すなわち不適切な優勢反応の抑制能力である。例えば、3つの山問 題に正答するためには、自分にとって目立った情報や反応を抑制し、他視点についての表 象を考慮するという、抑制制御の機能が必要となってくるはずである。抑制制御は一般的 に遅延抑制(delay inhibition)と葛藤抑制(conflict inhibition)という2つの異なる機能 に分けられている。遅延抑制が自分の順番を待つといった衝動的な反応抑制であるのに対 し、葛藤抑制は優勢な情報反応を抑制し、もう一方の情報や反応を活性化させることを意 味する(Carlson & Moses, 2001)。遅延抑制の機能を測定する課題としては、タワー課題 (Tower Building; Kochanska, Murray, Jacques, Koenig, & Vandegeest, 1996)や、プレ ゼント遅延課題(Gift Delay; Kochanska et al., 1996)が代表的である。タワー課題とは、 16 個のブロックを被験児に提示し、被験児が実験者と交代でタワーを作るように教示する。 被験児がブロックを置いても実験者はすぐに交代せず、被験児が実験者に言語的に交代の 意志を示すか、10 秒間ブロックを積まずに待つことができてから交代する。被験児が順番 を待つことができるか、という課題である。葛藤抑制の課題としては、クマ/ドラゴン課題 (Bear and Dragon; Kochanska et al., 1996)や昼/夜ストループ課題(Day and night stroop task; Gerstad, Hong, & Diamond, 1994)が代表的である。この課題は、被験児に 2 種類の対象を用意し、実験者が示す対象を抑制し、反対の対象を被験児に答えさせる、と いう課題である。2 種の抑制制御機能のうち、特に葛藤抑制が空間的視点取得と関連が強い と考えられる。 さらに葛藤抑制と遅延抑制の相違に関係する機能として、Carlson & Moses(2001)は、 ワーキングメモリの存在を挙げている。葛藤抑制においては、2 つまたはそれ以上の対立す る思考や反応のうち、目立っており優勢である一方の情報を抑制し、他方の情報を活性化 させる必要がある。このように複数の思考や反応の候補を頭の中で操作するためには、あ る程度のワーキングメモリの容量が必要となる(Carlson & Moses, 2001) 。ワーキングメ モリは、入力される情報を処理しながら、一方で正確に保持しておき、必要なときに適切 な情報を活性化させる能力である。3つの山問題に正答するためには、他視点からのみえ を想像し、イメージの保持をしなければならない。そのため、ワーキングメモリの機能が 必要となってくるのである。ワーキングメモリを測定するための代表的課題としては、単 語逆称スパン課題(Backward Word Span; Carlson et al., 2002)が挙げられる。この課題 は、実験者が、被験児に逆の順序で単語のリストを復唱するように教示するものである。 しかし、空間的視点取得と実行機能である抑制制御やワーキングメモリとの関連を調べ る研究は未だ十分ではない。これは、空間的視点取得課題としてしばしば用いられてきた 3つの山問題が極めて込み入った課題であったため、自ずと両者の関連が不明確になりが ちであったからだ。そこで Watanabe(2011)は、空間的視点取得課題において視点の移 動過程を捉えるための指標として、他視点からのみえを想起するのに必要な時間を意味す る反応時間を提案した。ただし、Watanabe(2011)の課題は、年長者を対象とすることを 想定してのものであるため、教示が複雑であり、本研究で対象とする幼児には適用が困難 である。そこで、同様に空間的視点取得における視点の移動過程を反応時間として算出で きる課題として、渡部・高松(2011)の「くるくるかくれんぼ」を用いることにした。 本研究では、このくるくるかくれんぼ課題によって、空間的視点取得における視点の移 動過程(反応時間)と、それに加えて表象の操作までを含む課程(正答数)とを測定し、 これらと実行機能である抑制制御課題とワーキングメモリ課題の成績との関連を明らかに することで、空間的視点取得における実行機能の役割を明らかにし、空間的視点取得の発 達的特徴について考察することを目的とする。 第2章 方法 対象児 大阪府内の保育園に通う幼児 149 名(男児 91 名、女児 58 名)を対象とした。内訳は、3 歳児 12 名(男児 8 名、女児 4 名)、4 歳児 56 名(男児 35 名、女児 21 名) 、5 歳児 53 名(男 児 32 名、女児 21 名) 、6 歳児 28 名(男児 16 名、女児 12 名)であり、 「先生と一緒にゲー ムをしよう。」と誘った上で、実験参加の意思が確認できた幼児のみを対象とした。なお、 この中には、特に大きな発達上の障害を有する者は含まれていない。 調査時期 第一期:2010 年 12 月下旬~2011 年 1 月下旬 第二期:2011 年 8 月下旬~2011 年 10 月下旬 刺激・ 刺激・装置 くるくるかくれんぼ課題 新世代株式会社の空間的視点取得課題「くるくるかくれんぼ」実施用装置一式 赤/青課題 赤いカード(縦 9.5 ㎝、横 5.5 ㎝)1 枚、青いカード(縦 9.5 ㎝、横 5.5 ㎝)1 枚 Dimensional Change Card Sort (DCCS) 緑色の車のモデルカードと黄色の傘のモデルカードを取り付けたプラスチックの箱(縦 8.5 ㎝、横 11.5 ㎝、高さ 4.8 ㎝)各種 1 箱、モデルカードとは色と形の両次元で異なる分類 カード(縦 6.5 ㎝、横 9.5 ㎝)8 枚(車と傘各 4 種) 単語逆唱スパン課題 白色の紙片(縦 11 ㎝、横 5.1 ㎝)5 枚、ミッキーの人形 ブロック位置再生課題 1 つのブロックに 1~9 の数字が 1 種ずつ書かれた立方体のブロック 9 個(縦 3 ㎝、横 3 ㎝、高さ 3 ㎝) 、ボード(縦 21 ㎝、横 28 ㎝) を用いた。 手続き 手続き 2010 年の 10 月下旬から保育園に通い、対象児のクラスに配属させてもらいラポールを 形成した。実験は、実験者 1 名で実施した。対象児には、保育園の一室に 1 人ずつ実験者 と一緒に入室してもらい、実験者とは机をはさんで向かい合うように座ってもらった。最 初に対象児の名前、年齢、誕生日を聞いて記録用紙に記入した。対象児が答えられない場 合には名簿を見て記入した。その後、空間視点取得課題であるくるくるかくれんぼ課題を 実施し、その後抑制機能課題である赤/青課題とワーキングメモリ課題である単語逆唱スパ ン課題をランダムな順で実施した。1 人あたりの所要時間は 20 分から 30 分であった。さ らに第二期では、抑制機能課題である Dimensional Change Card Sort (以下では、DCCS とする)、ワーキングメモリ課題であるブロック位置再生課題を加えて実施した。くるくる かくれんぼ課題を最初に実施した以外は、ランダムな順であった。1 人あたりの所要時間は 30 分から 40 分であった。 【空間的視点取得課題】 くるくるかくれんぼ課題 空間的視点取得能力を測定する課題として選択した。渡部(2000)による空間的視点取 得能力の測定課題である顔回転課題をもとに作成されたゲーム式課題である。手に巻いた 専用のバンドの動きをゲーム機本体のカメラが感じ取ってテレビ画面に仮想掌として映し 出し、隠れている窓に仮想掌を合わせることで、隠れた子どもを捜し出す仕組みであった。 子どもの利き手に専用のバンドを巻いて、以下のように教示した「今からかくれんぼをす るよ。おともだちが家に入り、かくれんぼを始めます。<対象児名>ちゃんは鬼の役にな って下さい。窓からおともだちが見えるから、おともだちが見えた窓を覚えてね。3・2・1 の合図で、家がくるくる回るよ。スタートの合図でおともだちが隠れていると思う窓に丸 をあわせて教えてね。できるだけはやく窓に丸を合わせてね。用意はいいかな?」まず練 習試行を行い、その後、本試行へと進んだ。最初の2問は家が静止していたが、3問目か らは反応直前に左右 45 度刻みの位置に回転して提示された(右上図は右 135 度回転の状態)。 7種の回転角度ごとに各1問がランダムに実施された(ベースラインとしての無回転を含み 全9問)。正答数の他に設問ごとの反応時間が自動計測された。設問が全部で9問あったの で、 「正答数」の得点範囲は 0 点から 9 点であった。さらに、家の回転角度と反応時間との 間に、一般に一次関数関係がみられる(渡部ほか, 2007)ことから、回帰係数を計算し、無 回転(0 度)と反転(180 度)との理論的な反応時間差を求め、これを「反応時間」として算出 した。 【抑制制御課題】 赤/青課題 Gerstad ら(1994)昼/夜ストループ課題と類似の課題であり、抑制制御を測定する課題 として選択した。これは、小川・子安(2008)において用いられたものと同様である。子 どもに赤色と青色の 2 枚の四角形のカードを紹介し、以下のように教示した。 「今からゲー ムをするよ。もし私が<対象児名>ちゃんに、赤って言ったら、青いカードを指さしてね。 もし、青って言ったら、赤いカードを指さしてね。用意はいいかな?」青 5 試行、赤 5 試 行の計 10 試行をランダムに実施した。10 試行中正しい反応を行った回数を得点とした。得 点範囲は、0 点から 10 点であった。 DCCS DCCS は、葛藤抑制を測定する課題として、Frye ら(1995)により用いられた課題であ る。プラスチックの箱の上にそれぞれ取り付けられた 2 枚のモデルカードを子どもに示し た。1 枚のカードには緑色の車、もう 1 枚のカードには黄色の傘が描かれていた。次に、実 験者は 2 種類の分類カードを子どもに提示した。分類カードには、それぞれ黄色の車と緑 色の傘が描かれており、モデルカードとは色と形の両次元で異なるカードであった。モデ ルカードと分類カードについて、描かれている対象と色を対象児に確認した後、実験者は まず、子どもに 6 枚のカードを色の次元に基づいて分類するように教示した。 「今からこの カードを色で分けてもらいます。(モデルカードを指しながら)ここの色と同じ色の書いて あるカードを、それぞれこの箱に入れてください。 」実験者は 2 種類のテストカードを 1 枚 ずつ色の次元に基づいて分類してみせた後、子どもに分類を求めた。もし、子どもが 6 枚 のカードを色の分類次元に基づき正しく分類したら、分類次元を形に切り替え、 「よくでき ました。じゃあ今度は形でカードを分けてください」と教示した。 分類次元の切り替え前と後の両段階において、実験者はランダムにカードを選び、「これ は黄色の(車の)カードだよ」、「これは緑色の(傘の)カードだよ」と、分類基準と関連 する次元だけを言語化した。そして子どもに、「色(形)のゲームでは、このカードはどこ へ行くかな」と質問しながらカードを渡した。子どもは切り替え後の段階で 8 枚のカード を分類し、正しく分類したカードの枚数が得点となった。得点範囲は 0 点から 8 点であっ た。 【ワーキングメモリ課題】 単語逆唱スパン課題 ワーキングメモリを測定する課題として、Carlson(2002)の手法を選択した。実験者は、 子どもに逆の順序で単語のリストを復唱するように教示した。逆唱する単語と同じ数の紙 片を机に置き、実験者は紙片のそれぞれを指さしながら、単語リストの単語を言った。リ ストを読み終えると、子どもは、逆の順番で紙片を指さしながら、実験者の言ったことを 復唱するよう教示された。子どもの理解を確実にするために、ミッキーの人形を用い、ミ ッキーに逆唱させる手本を示した後で、練習試行を実施した。「これから私がここにある紙 を指さししながら、<対象児名>ちゃんはその言葉を私とは反対の順番で言ってください。 今から私とミッキーでやってみるので、見ていてください。後で、<対象児名>ちゃんも ミッキーがするみたいにしてもらいます。」といって、手本を示した。その後、練習試行に 入った。手本と同様に「りんご、いぬ」の 2 単語を用い、練習を行った。子どもが間違え たり、無反応だった場合には、「この紙を指さしたときは『いぬ』、この紙を指さしたとき は『りんご』って言いました。反対の順番で言ってみましょう。 」と言って、練習を繰り返 した。練習試行で子どもが正答したら、本試行へと進んだ。 本試行では 2 単語のリストを 2 試行、 3 単語のリストを 2 試行、 4 単語のリストを 2 試行、 5 単語のリストを 2 試行というように進めていった。単語リストの長さは 2 単語から 5 単語 まであり、2 試行のうち 1 試行に正答したら、単語数を増やしていった(Table1参照)。単 語は、幼児が理解できると考えられるもので、かつ単語リストの中で、同じ範疇(動物・ 道具など)の単語が含まれないように選定した。逆唱スパンの得点は、子どもが再生でき る最大の単語数であり、範囲は 1 点(2 単語に失敗)から 5 点であった。 Table 1 単語逆称スパン課題で使用した単語 練習試行 りんご ― いぬ 2単語 おふろ ― たいよう ぶた ― ほん 3単語 スプーン ― ねこ ― とけい いえ ― テーブル ― バナナ 4単語 えんぴつ ― くま ― でんしゃ ― おもちゃ とら ― くつ ― コップ ― ほし 5単語 て ― ラジオ ― ライオン ― じてんしゃ ― き くるま ― さかな ― ペン ― まど ― ボール ブロック位置再生課題 ワーキングメモリを測定する課題として、小川・子安(2010)が用いた課題を実施した。 ボード上に同じ色をした 9 つの立方体のブロックが不規則に並んだ装置を子どもに呈示し た。ブロックには 1 から 9 まで数字が一つずつ書かれており、対象児には数字が見えない ようになっていた。実験者は子どもに実験者がタッチしたブロックと同じブロックをタッ チするように教示した。子どもは実験者が触るブロックを位置情報のみで覚えておかなけ ればならず、タッチするブロックの数が増えるほど視空間的なワーキングメモリが必要と される課題であった。練習試行として、タッチするブロックが 1 個の試行、2 個の試行、3 個の試行をそれぞれ 1 試行ずつ実施した。子どもが練習試行に失敗した際には、教示を繰 り返し、フィードバックを与え、再度練習試行を繰り返した。2 個以降の練習試行では、実 験者が触った順番通りにタッチしなければならないことが加えて教示された。練習試行に 成功するか、同じ試行を 3 度繰り返しても失敗した場合は、本試行へ移った。本試行はブ ロックが 1 個から 9 個の段階まであり、各段階に 3 試行が用意されていた。本試行では、1 個のブロックの試行から始め、一つの段階において、2 試行以上成功した場合に次の段階に 移った。一つの段階において、2 試行以上失敗した場合にはそこで終了した。2 試行の失敗 した段階より一つ前の段階のブロックの個数をスパン得点とした。範囲は 0 点(ブロック 1 個の試行に失敗)から 9 点であった。 第3章 結果 まず、 反応時間がうまく計測できなかった 33 名と、 回帰直線から算出した反応時間が 300 ミリ秒以下(マイナスを含む)の 21 名の合計 54 名を、以降の反応時間に関する分析から 除外することにした。後者については、反応が極端に早すぎ、適正な回帰直線が算出でき るデータではなかった可能性(家の回転角度と反応時間との間に一次関数関係が存在しな いなど)が危惧されたからである。 1、性差の 性差の検定 各課題の得点において、性差がみられるかどうかを検討するために、男女間で対応のな い t 検定を行った。その結果、全ての課題の得点において有意な差はみられなかった(くる くるかくれんぼ課題の正答数 ; t=1.179, df=147, ns, くるくるかくれんぼ課題の反応時間 ; t=1.159, df=93, ns, 赤/青課題 ; t=0.216, df=147, ns, DCCS ; t=0.972, df=66, ns, 単語逆唱 スパン課題 ; t=0.220, df=147, ns, ブロック位置再生課題 ; t=1.200, df=66, ns) 。各課題の 得点において性差がみられなかったので、以後は男女込みにして分析を行った。 2、空間的視点取得課題への 空間的視点取得課題への年齢 への年齢の 年齢の影響 くるくるかくれんぼ課題の正答数における年齢ごとの得点分布を Fig. 1 に示した。くる くるかくれんぼ課題の正答数に発達的変化があるかどうかを調べるために、年齢との間で ピアソンの相関係数を算出した。その結果、1%水準で有意な相関がみられた(r=0.330, t=4.241, df=147, p<0.01) 。同様に、くるくるかくれんぼ課題の反応時間においても、年齢 ごとの得点分布を Fig. 2 に示した。そして同様に、年齢との間に関連がみられるかどうか を検討するためにピアソンの相関係数を算出した。その結果、5%水準で有意な相関がみら れた(r=0.208, t=2.051, df=93, p<0.05) 。 さらに、年齢を要因とする一元配置分散分析を行った。その結果、くるくるかくれんぼ課 題の正答数において 1%水準で有意な主効果がみられた(F(3/145)=6.023, p<0.01) 。同様に、 くるくるかくれんぼ課題の反応時間においても、年齢を要因とする一元配置分散分析を行 った。その結果、有意な主効果はみられなかった(F(3/91)=1.443, ns) 。なお、年齢別平均 得点を Fig. 3 と Fig. 4 に示した。 ( ) 人 18 3歳 16 14 4歳 12 5歳 10 6歳 8 6 4 2 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 (点) Fig. 1 くるくるかくれんぼ課題の正答数の年齢別平均得点分布 ( ) 人 14 3歳 12 4歳 10 5歳 8 6歳 6 4 2 0 (ms) Fig. 2 くるくるかくれんぼ課題の反応時間の年齢別平均得点分布 10 9 8 7 正 6 答 5 数 4 3 2 1 0 平均+SD 平均+SE 平 均 平均-SE 平均-SD 3歳 4歳 5歳 6歳 Fig. 3 くるくるかくれんぼ課題の正答数の年齢別平均 平均 +SD 平均 +SE 平 均 7000 ( 6000 反 応 5000 時 間 4000 平均-SE 3000 ) m s 2000 1000 0 3歳 4歳 5歳 6歳 Fig. 4 くるくるかくれんぼ課題の反応時間の年齢別平均 3、実行機能課題への 実行機能課題への年齢 への年齢の 年齢の影響 4 種の実行機能課題の年齢ごとの得点分布を Fig. 5~8 に示した。各課題で、得点の発達 的変化があるかどうかを調べるために、年齢との間でピアソンの相関係数を算出した。そ の結果、実行機能の全ての課題において 1%水準で有意な相関がみられた(赤/青課題 ; r=0.359, t=4.665, df=147, p<0.01, DCCS ; r=0.499, t=4.680, df=66, p<0.01, 単語逆唱スパ ン課題 ; r=0.424, t=,5.682 df=147, p<0.01, ブロック位置再生課題 ; r=0.622, t=6.459, df=66, p<0.01) 。 さらに、4 種の実行機能課題の得点に対して、年齢を要因とする一元配置分散分析を行っ た。その結果、実行機能の全ての課題において 1%水準で有意な主効果がみられた(赤/青課 題 ; F(3/145)=9.803, p<0.01, DCCS ; F(3/64)=8.096, p<0.01, 単語逆唱スパン課題 ; F(3/145)=11.010, p<0.01, ブロック位置再生課題 ; F(3/64)=13.555, p<0.01) 。なお、年齢 別平均得点を Fig. 9~12 に示した。 ( ) 人 30 3歳 25 4歳 20 5歳 15 6歳 10 5 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (点) Fig. 5 赤/青課題における年齢別得点分布 ( ) 人 25 3歳 4歳 20 5歳 15 6歳 10 5 0 0 1 Fig. 6 2 3 4 5 6 DCCS における年齢別得点分布 7 8 (点) ( ) 人 40 3歳 35 4歳 30 25 5歳 20 6歳 15 10 5 0 1 2 3 4 (点) 5 Fig. 7 単語逆唱スパン課題における年齢別得点分布 ( ) 人 16 3歳 14 12 4歳 10 5歳 8 6 6歳 4 2 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Fig. 8 ブロック位置再生課題における年齢別得点分布 9 (点) 12 平均+SD 赤 10 / 8 青 課 6 題 の 4 得 点 2 平均+SE 0 平 均 平均-SE 平均-SD 3歳 4歳 5歳 6歳 Fig. 9 赤/青課題における年齢別平均 D C C S の 得 点 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 平均+SD 平均+SE 平 均 平均-SE 平均-SD 3歳 4歳 Fig. 10 5歳 6歳 DCCS における年齢別平均 単 語 逆 唱 ス パ ン 課 題 の 得 点 平均+SD 4 平均+SE 3.5 平 3 均 2.5 平均-SE 2 平均-SD 1.5 1 0.5 0 3歳 4歳 5歳 6歳 Fig. 11 単語逆唱スパン課題における年齢別平均 ブ ロ ッ ク 位 置 再 生 課 題 の 得 点 平均+SD 6 平均+SE 5 平 均 4 平均-SE 3 平均-SD 2 1 0 3歳 4歳 5歳 6歳 Fig. 12 ブロック位置再生課題における年齢別平均 4、空間的視点取得課題と 空間的視点取得課題と実行機能課題との 実行機能課題との関連 との関連 くるくるかくれんぼ課題の正答数と各課題との間に関連がみられるかどうかを検討する ためにピアソンの相関係数を算出した。その結果、赤 青課題(r=0.231, t=2.881, df=147, p<0.01)、単語逆唱スパン課題(r=0.378, t=4.962, df=147, p<0.01)、ブロック位置再生課 題(r=0.523, t=4.994, df=66, p<0.01)との間には、1%水準で有意な相関がみられた。また、 DCCS との間には、有意な相関はみられなかった(r=0.236, t=1.9776, df=66, ns) 。 同様に、くるくるかくれんぼ課題の反応時間と各課題との間に関連がみられるかどうか を検討するためにピアソンの相関係数を算出した。その結果、全ての課題との間において 有意な相関はみられなかった(赤/青課題 ; r=0.115, t=1.124, df=93, ns, DCCS ; r=0.138, t=0.969, df=48, ns, 単語逆唱スパン課題 ; r=0.195, t=1.926, df=93, ns, ブロック位置再生 課題 ; r=0.255, t=1.826, df=48, ns)。 5、年齢を 年齢を除いた場合 いた場合の 場合の空間的視点取得課題と 空間的視点取得課題と実行機能課題との 実行機能課題との関連 との関連 年齢と各課題の間に相関がみられていたので、年齢の効果を除いて、くるくるかくれん ぼ課題の正答数と各課題との 相関を算出した。その結果、単語逆唱スパン課題(r=0.279, t=3.513, df=146, p<0.01) 、ブロック位置再生課題(r=0.430, t=3.847, df=65, p<0.01)との 間には、1%水準で有意な相関がみられた。また、赤 青課題(r=0.127, t=1.558, df=146, ns)、 DCCS(r=0.087, t=0.709, df=65, ns)との間には、有意な相関はみられなかった。 6、課題間の 課題間の構造 くるくるかくれんぼ課題の正答数・くるくるかくれんぼ課題の反応時間・赤/青課題・ DCCS・単語逆唱スパン課題・ブロック位置再生課題の全体的な関係をみるためにクラスタ ー分析を行い、Fig. 13 に示す 形図を得た。その結果、大きくは、赤/青課題と DCCS か ら成る抑制制御 リ と単語逆称スパン課題とブロック位置再生課題等を含むワーキングメモ 、そして空間的視点取得の反応時間の 3 つに大別された。また、空間的視点取得であ るくるくるかくれんぼ課題の正答数はワーキングメモリに含まれる。 Fig. 13 年齢を含む各課題のクラスター分析結果 第4章 考察 空間的視点取得と 空間的視点取得と実行機能における 実行機能における加齢 における加齢の 加齢の効果について 効果について くるくるかくれんぼ課題の正答数においては、年齢が上がるにつれて、正答する子ども が多くなるという、空間的視点取得課題の 来の結果(Masangskay et al., 1974)を示し た。このことから、空間的視点取得能力は、発達していくということがわかる。また、く るくるかくれんぼ課題の反応時間においては、年齢要因との間に、ピアソンの相関係数で は有意な相関がみられたが、一元配置分散分析では有意な主効果がみられなかったことか ら、必ずしも年齢が課題の反応時間に影響を与えるとは限らないということがわかった。 実行機能課題は、全ての課題で年齢が上がるにつれて成績が上 した。この結果は、こ れらの課題の成績が 3 歳から 5 歳にかけて上 するという先行研究(Carlson, 2005)とも ほぼ一致したものであり、抑制制御やワーキングメモリの能力が幼児期の間に発達するこ とが示 された。 空間的視点取得と 空間的視点取得と実行機能の 実行機能の関連について 関連について くるくるかくれんぼ課題の正答数が、DCCS を除く実行機能と特に強い関連を示した。 一方、くるくるかくれんぼ課題の反応時間は、実行機能と直 的な関連はみられなかった。 このことから、Watanabe(2011)の指摘通り、くるくるかくれんぼ課題の正答数と反応時 間は意味する機能が異なることが示 された。また、空間的視点取得の正答数は発達的変 化を 感に示すが、反応時間は発達的変化を示しにくいことも明らかになった。 相関およびクラスター分析の結果からは、くるくるかくれんぼ課題とワーキングメモ リ課題、特にブロック位置再生課題との関連が強いことが示された。では、な くるくる かくれんぼ課題とワーキングメモリの能力が特に関連したのだろうか。くるくるかくれん ぼ課題では、テレビ画面の中のさま まな情報を保持したり、回転することによって複数 の情報を意識しておく必要がある。また、抑制制御に関しても、複数の思考を頭の中で保 持しておく能力が必要となるため、性質上、ワーキングメモリの容量の増加とも関連して いる(Carlson & Moses, 2001)。課題状沦に対して、自己視点を抑制し、他視点を活性化 させる能力には、そのような複数の視点を 1 つの課題状沦に対して同時に操作することを 可能にするだけのワーキングメモリ容量の増加が重要となる。このように情報の保持と操 作の役割を っているワーキングメモリの容量がある程度大きいことが、くるくるかくれ んぼ課題に正答するためには必要であったと考えられる。 しかし、くるくるかくれんぼ課題と抑制制御課題との間には、期待していたほど強い関 連はみられなかった。この点に関しての 1 つの可能性として、論理上は空間的視点取得に とって抑制制御機能が欠かせないと考えられるが、本研究で実際に用いた課題では、上 のように抑制制御課題がワーキングメモリ課題と重複する部分があったため、ワーキング メモリの影響力で抑制制御の効果が隠されてしまったということが考えられる。もし、 に抑制制御のみを取り出すことができれば、自己視点を統制し、他視点を考慮するとい う抑制、および切り替えの能力が、くるくるかくれんぼ課題の成績に関連するかどうかを 検証することが可能になるだろう。 まとめると、本研究では、抑制制御課題との関連は確かに示すことはできなかったが、 空間的視点取得と実行機能の関連を概ね実証することができた。 今後の課題としては、まず、実行機能の下位機能とくるくるかくれんぼ課題の関連につ いてより に検討していくことが挙げられる。そのための方法として、くるくるかくれ んぼ課題の課題分析を行い、課題中のどの時点で、実行機能のどの下位機能を必要とする のかを検討していくことが挙げられる。また、実行機能の下位機能を検討して、より に検討していくことも挙げられる。各下位機能について複数の課題を選定することで、く るくるかくれんぼ課題と実行機能の 力を 出しようとする場合、課題を に検討できると考えられる。 な下位機能の能 行する際に、目的となる下位機能を必要とするが、 反応の仕方などの手続きは大きく異なるような課題を 3 課題程度行うことが妥当であると 考えられる(Miyake, Friedman, Emerson, Witzki, Howerter, & Wager, 2000)。 また、幼児に 30 分~40 分という長い時間をかけて多くの課題を一度に実施した点にも問 題があった。Perner, Lang, & Kloo(2002)でも子どもに長時間課題を実施した場合、相関 が くなることが示されている。本研究における実施時間は 35 分であり、 本来であれば、 一度の実施ではなく、2 つのコックミンに分けて実施するなどの えられる。 が必要であったとも考 引用文献 Broke, H. 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Experimental 謝辞 本研究を行うにあたり、実験にご より御 力いただきました保育所の先生方と園児の 様に心 し上げます。また、渡部雅之教官をはじめ、研究のご指導をしてくださった学 校心理研究室の先生方に济く感謝致します。 小学校高学年における学校生活 の楽しさと自己肯定感、友人関 係、統制感との関連 学籍番号 氏名 8061 桐畑隆文 1 【問題】 不登校、いじめ、校内暴力、体罰など現在の学校は数多くの問題を抱え ている。新聞、テレビなどのマスコミはこのような学校の否定的側面を好 んで報道してきた。また、教育学や社会学、心理学等の研究者もこの種の 問題を積極的に取り上げ、その実態や原因の解明を目的として各種の調査 研究を相次いで行ってきた。このような流れの中に身を置いていると、現 在の学校はストレスに満ちた暗黒の世界であるかのような印象をもってし まう(古市・玉木,1994)。 たしかに、学校に対して嫌悪感や忌避的感情を抱いている生徒は少なく ない(森田,1991;高橋ら,1989,など)。しかし、実際に学校の中に足を踏み 入れてみると、生徒たちの歓声が聞こえ、笑顔をまのあたりにすることに なる。また、いくつかの調査研究は、学校生活が楽しいとする生徒が過半 数を越えるという結果を報告している(古市・玉木,1994)。 では、どのようなことが学校生活を楽しく感じさせているのであろうか。 その追究が学校生活を楽しく感じる子どもを増加させることにつながると 考える。 近年では自分に自信持っている子、すなわち自己肯定感を持てる子が少 なくなっている。そうした中で、小学校高学年から中学生にかけての「前 思春期(村瀬, 1983)」を対象とした研究が盛んに行われ(森・堀野, 1992; 岡 安・嶋田・坂野,1993)、中でも思春期・青年期における自己肯定感の重要 性を示している研究が多くみられる。前思春期の児童・生徒の内的特徴と して、自分や他者を肯定的に捉えられないという自他への肯定感の低下も しくは欠如が指摘される(木村・宮本,1998;尾木,1998)。自己肯定感の低 さとは、 「自分は自分であっていいんだ」という感覚が低いために対人関係 で過剰に気を遣ったり、逆に攻撃的になりやすいことである(細田・田 嶌,2009)。竹田・倉戸(2003)は自己肯定感が学校内不安に影響を及ぼし、 自己肯定感の高い者は学校不安が生じにくいことを示している。また、松 井・佐藤(2000)や松井(2001)は、中学生の学校適応と進路成熟、自己肯定 感との関係を検討し、中学生の自己肯定感を高めることは学校生活への適 2 応促進につながるという指摘をしている。このことから、自己肯定感が高 まっていけば学校への安心感が高まり、学校をより楽しく感じることがで きると考えられる。そこで「自己肯定感の高い方が学校の楽しさの程度も 高い」ということを第一の仮説とする。 また、どのようにしたら前思春期の児童が自己を肯定的に捉えるように なるかということについても、様々な試みが行われている。その中で自己 受容の重要性が論じられてきた(服部・吉田・小熊,1991;名城,1961)。そし て、自己受容することが積極的で良好な人間関係の構築に寄与すると確か められてきた(板津,1994)。自己受容と対人関係についての研究では、適度 に自己受容している人は対人関係が円滑に進められ、積極的で良好な対人 関係を構築できることが明らかにされている(名城,2006、加藤,1977)。松 尾(2000)は、小学校高学年を対象に 6 カ月間の短期縦断的研究を行い、 半年の間に自己をより価値あるものと捉えるようになった児童は、友人か らの援助や賞賛が多く、よさを認めてくれる友人が存在することを明らか にしている。また、久芳・竹村(2004)および久芳・斎藤・小林(2005)は、 それぞれ高校生、中学生を対象として自己肯定感と人とのかかわり方の関 連について検討し、自己肯定感が高い方が人とのかかわりもよいことを示 している。これらのことから、友人がソーシャルサポートを与え、積極的 に働きかけ、親密に接することで、子どもたちの自己肯定感を高められる ことがわかる。さらに、親しい友人がいることは、児童・生徒の不安や抑 うつ傾向を抑える上で大きな役割を果たしている(Buhrmester,1992)。ま た、古市・玉木(1994)によれば、中学生の学校生活の楽しさを規定する要 因は様々だが、級友の良し悪しがかなり重要な要因であることが明らかに された。このような理由から、親密な友人関係を形成・維持することは、 学校生活に対する適応感を高める方向で機能する可能性がある(三島, 2010)。学校生活に対する適応感が高まるならば、学校を楽しく感じる気持 ちも高まると考えられる。そこで「友人関係の親密性が高い方が学校の楽 しさの程度も高い」ということを第二の仮説とする。 ただし、親密な友人関係は、自己肯定感や学校を楽しく感じることに直 接影響するとは限らない。なぜなら、友人関係の親密性をどのように受け とめるかによって、友人の親密性の程度や自己肯定感の高まり方に差が生 じるとも考えられるからだ。水野・西本・井上(2006)によれば、個人の都 3 合のいいように歪められた認知が、精神的健康や適応には時に良い影響を 及ぼすことがあるとされている。また、自尊感情の高い人は適応的であり、 自分の都合のよい方向に現実認識を歪めることで、逆に現実とうまく交渉 できることが報告されている(上出・大坊,2004)。このような認知の中で 特に注目されるのが、ポジティブ・イリュージョンという現象である。ポ ジティブ・イリュージョンは「実際に存在するもの・ことを自分に都合よ く解釈したり想像したりする精神的イメージや概念」と定義されている (Taylor&Brown,1988)。このポジティブ・イリュージョンは、3つの領域 から構成されている。第一は、自分自身の特質や過去の行為について肯定 的・積極的に認識する自己高揚である。第2は、自分に関する将来を楽観 的に考えること(楽観主義)、そして第3は自己の持つコントロール能力を 高く評価すること(統制力)であり、この 3 つのポジティブ・イリュージ ョンが精神的健康に結びつくとされている。つまり、精神的に健康な人は 実際以上に自己を良いものと考え、自分の未来を明るく描き、自己の統制 力を強く信じる傾向にあたるとされるのである。ここでの統制力は、自分 自身がうまく対処できるかどうかを意味している。 このように、自分を取り巻く状況を自分で統制できているという感覚が 強い場合、精神的健康の度合いが高いが、それは、自己肯定感や友人関係、 学校を楽しく感じることにも関連してくる可能性が考えられる。そこで、 自分を取り巻く状況を自分で統制できている感覚についての個人差を意味 するものとして、神田(1993)による統制感というパーソナリティー変数 を取り上げる。この統制感はポジティブ・イリュージョンでの統制力と同 じ意味のものである。また、項目の内容からは統制信念ととれるが、統制 信念も統制感に含まれるため、本研究では統制感として扱っていく。統制 感は、自分が望んだ結果を自分の行動によって獲得することができる程度 についての、信念ないし期待である、また統制感は、個人の先行経験に基 づいて形成されると考えられる。この定義によれば、高い統制感は「やれ ばできる」という期待を意味するが、単にそれだけではない、人が何らか の事態に直面したとき、自分がそれに効果的に対応できる行動を自分の行 動レパートリーの中に持っており、それを選択し、効果的に対応できるか どうかが不明であっても、自分が結果に対して有効な行動を見つけ出し、 それを自分で行使できるという期待でもある(神田, 1999)。 4 統制感と適応の関係については、何らかの困難な事態に直面した時、統 制感が低い人は客観的には効果的に対処できる能力や手段をもっているに もかかわらず、結果をコントロールできないと期待しているために、効果 的な対処行動を起こしにくいと考えられる。したがって、不適応感や不適 応行動に陥りやすいだろう。そのことがさらに統制感を低くするという悪 循環をもたらす (神田, 1993)。これらのことから、統制感が高まれば適応 感が高まることにつながると考えられるので、友人関係や自己肯定感、学 校を楽しく感じることにもつながるはずである。また、統制感が高い人は、 自分の行動と望んだ結果との間の随伴関係を強く期待するので、達成のた めの行動を積極的にとることが期待される。したがって、そのような行動 をとることが少ないと考えられる統制感の低い人よりも、高い達成を得る ことが期待される。高い達成を得ることは、学校を楽しく感じることにも つながる。 例えば神田(1993)は、小学 5,6 年生を対象に一般統制感と学業成績との 関係を検討し、知能水準が中程度とやや低い場合には、一般統制感が高い ほうが学業成績もよいという結果をえている。これは、一般統制感と学業 成績との関係を示唆するものである。神田(1999)によると、教育の場では、 知能水準から期待される学業成績よりも高い成績をあげるオーバー・アチ ーバー(以下 OA)や、知能水準から期待される学業成績よりも低い成績にと どまるアンダー・アチーバー(以下 UA)の子どもたちが存在する。これら OA と UA を規定する要因として、一般統制感の想定が可能である。一般統制感 が高い場合、 「やればできる」という期待が高いので、学業達成場面でも統 制感が達成のための行動を動機づけ、さらに達成のための積極的な行動や 適切な行動をとることが期待される。その結果、知能水準から期待される 学業成績よりも高い成績を残す OA になると考えられる。反対に統制感が低 い場合は、 「やっても望んだ結果が得られない」という期待する傾向が高い ので、学業達成場面で達成の努力を怠る傾向が高くなり、知能水準から期 待される学業成績よりも低い成績しか残せない UA になると考えられる。こ れらのことから、統制感が高い場合は自分自身の行動がある成果や結果を もたらすという期待を示し、統制感が低い場合は結果の生起に関して自分 の行動以外の外的な力が結果の生起を示す。つまり、統制感が高い子は自 分が賞賛されたことを自分の能力や努力によるものだからだと考え、統制 5 感が低い子は運やたまたまであると考えるものである。したがって、統制 感が高い子は友人関係の親密性は自分が魅力ある人間だからと考えたり、 自分が友人に対し積極的に働きかけているためだと考えるため、自分に自 信を持ちやすいと考えられ、自己肯定感が高まりやすいと予想できる。統 制感が低い子は、友人関係の親密性は自分の魅力や努力に関係なく、たま たま自分と仲良くしてくれる子が近くにいたと考えるため、自己肯定感も 統制感が高い子に比べ高まりにくいと予想される。これらのことから、統 制感が高ければ、自己肯定感だけでなく友人関係もよくなり、学校生活の 楽しさも高まるようになると考えられる。そこで「統制感が高い方が学校 の楽しさの程度も高くなる」ということを第三の仮説とする。 さらに、これまで述べてきたように、自己肯定感、友人関係、統制感 がそれぞれ学校の楽しさの程度に影響を与えると考える。そして、統制感 の高さが自己肯定感や友人関係にも影響を与える可能性が考えられる。な ぜなら、統制感とは自分を取り巻く状況を自分で統制できている感覚のこ とであるため、それが精神的に健康な人は実際以上に自己を良いものと考 え、自分の未来を明るく描き、自己の統制力を強く信じる傾向にあたると されるからである。ここでの統制力は、自分自身がうまく対処できるかど うかを意味している。このように、自分を取り巻く状況を自分で統制でき ているという感覚が強い場合、精神的健康の度合いが高いが、それは、自 己肯定感や友人関係、学校を楽しく感じることにも関連してくる可能性が 考えられる。このことから、統制感が自己肯定感、友人の親密性、学校の 楽しさの程度に影響を与え、統制感から影響を与えられた自己肯定感、友 人の親密性が学校の楽しさの程度に影響を与えるというモデルを仮説モデ ルとする。 なお、三島(2010)によれば、小学生の学校生活の楽しさに学習態度と心 身不健康が有意な影響を与えたのに対し、女子は社会的スキルと友人関係 が有意な影響を与えている。また、山本ら(2003)、久芳・竹村(2004)、 久芳ら(2005)の研究では、女子よりも男子のほうが自己肯定感が高いと いう結果が示されている。統制感に関しては性差は認められていないが、 男女の間で何らかの違いがあることは考えられる。そこで本研究において は性差についても検討する。 6 【目的】 小学校高学年を対象に、学校の楽しさの程度、自己肯定感、友人関係の 親密性、統制感を質問紙調査により測定し、学校の楽しさを規定する要因 について、先行研究より予想された 3 つの仮説を検証するとともに、それ ぞれの要因がどのように関連しあって学校の楽しさに影響を与えているの かについて明らかにする。 仮説 1…自己肯定感が高い方が学校の楽しさの程度が高いだろう。 仮説 2…友人関係の親密性が高い方が学校の楽しさの程度が高いだろう。 仮説 3…統制感が高い方が学校の楽しさの程度が高いだろう。 【方法】 対象者 A小学校の 5 年生 2 クラスと 6 年生 2 クラスの 117 人と B 小学校 の5年生 3 クラスと 6 年生 4 クラスの 196 人の計 313 人。A 小学校、B 小学 校ともに公立で、落ち着いている学校である。 調査時期 2011 年 10 月下旬 調査内容 質問紙調査を行った。クラス担任により配布と回収が行われた。 まず性別を記入させた。次いで 27 項目の文章について「5、あてはまる」 ~「1、全くあてはまらない」の5件法で回答を求めた。項目 1~5 が友人 関係尺度、項目 6~10 が自己肯定感尺度、項目 11~17 が統制感尺度、18 ~27 が学校感情尺度であった。なお、尺度ごとにカテゴリー分けはしてい ない。学校の楽しさの程度尺度には学校生活享受感測定尺度(古市, 1994) の因子負荷量 50%以上の項目を使用し、逆転項目を一部改訂した。自己肯 定感尺度には自己評価尺度(久芳, 2006)の因子負荷量 60%以上の 5 項目を 使用した。友人関係の親密性尺度には階層型学級適応感尺度(三島, 2006) の下位尺度である「友人関係」に関する 5 項目を使用した。統制感尺度に は主観的統制尺度(神田信彦, 1993)から、因子負荷量 40%以上の 11 項目 を取り出し、その中から小学生に実施するには問題があると判断した 4 項 目を除き 7 項目を統制感尺度として使用した。また、逆転項目のうち一部 について「むずかしいことはすぐにあきらめてしまう方だ。」を「むずかし いことやめんどうなことでもすぐにあきらめない。」のように肯定表現に改 めた。 7 【結果】 1、 各尺度の主成分分析 友人関係の親密性の 5 項目について主成分分析を行い、2 因子を抽出し た(Table1)。第一成分の固有値が 2.497、第二成分の固有値が 0.906 であ ったことから、一因子性が強いと判断し、5 項目の評定平均値を算出して 尺度得点とした。この因子を「友人の親密性因子」 ( α=0.716)と命名し た。 Table1 友人の親密性尺度の主成分分析結果 項目 主成分負荷量 成分 1 成分 2 1 困ったことがあったら、友だちに相談する。 0.6831 -0.4581 2 友だちには、自分の秘密など何でも話せる。 0.6087 -0.6300 3 友だちといっしょにいると楽しい。 0.7414 0.3002 4 友だちのことを大切にしている。 0.7503 0.3765 5 友だちから、自分は大切にされている。 0.7399 0.2586 ------------------------------------------------------------------固有値 2.497 20.9055 寄与率(%) 49.943 18.1100 8 自己肯定感の 5 項目について主成分分析を行い、2 因子を抽出した (Table2)。第一成分の固有値が 2.7626、第二成分の固有値が 0.693 であ ったことから、一因子性が強いと判断し、5 項目の評定平均値を算出して 尺度得点とした。この因子を「自己肯定感因子」と命名した。 (α=0.798) Table2 自己肯定感尺度の主成分分析結果 項目 主成分負荷量 成分 1 成分 2 ------------------------------------------------------------------6 自分には、良いところがある。 0.8235 0.0861 7 自分には、「自分らしさ」がある。 0.8003 0.1060 8 今の自分が好きだ。 0.7365 -0.1390 9 自分には、誰にも負けないものがある。 0.6871 0.5167 10 友だちに好かれている。 0.6552 -0.6232 ------------------------------------------------------------------固有値 2.7626 0.6933 寄与率(%)55.251 13.867 9 統制感の 7 項目について主成分分析を行い、2 因子を抽出した(Table3)。 第一成分の固有値が 3.186、第二成分の固有値が 1.047 であったことから、 一因子性が強いと判断し、5 項目の評定平均値を算出して尺度得点とした。 この因子を「統制感因子」と命名した。(α=0.795) Table3 統制感尺度の主成分分析結果 項目 主成分負荷量 成分 1 成分 2 --------------------------------------------------------------------11 自分が努力すれば、少しくらいクラスをよくする 0.7364 -0.3632 ことができると思う。 12 みんなから反対されても、言うべきことは言い通す。 0.6408 -0.4837 13 みんなから悪いことに誘われても、断る勇気がある。 0.5246 -0.5339 14 むずかしいことやめんどうなことでもすぐにあき 0.6251 0.2504 らめない。 15 学校でまじめにやっていると、いつかはよいこと 0.7677 0.4043 がある。 16 一所懸命やっていれば、まわりの人が味方になっ 0.7382 0.2167 てくれると思う。 17 友だちからよく相談をうけ、頼りにされていると 0.6576 0.3507 思う。 --------------------------------------------------------------------固有値 3.1855 1.0470 寄与率(%) 45.508 14.957 10 学校の楽しさの程度の 10 項目について主成分分析を行い、2 因子を抽出 した(Table4)。第一成分の固有値が 5.569、第二成分の固有値が 1.036 で あったことから、一因子性が強いと判断し、5 項目の評定平均値を算出し て尺度得点とした。この因子を「学校の楽しさの程度因子」と命名した。 (α=0.757) Table4 学校の楽しさの程度尺度の主成分分析結果 項目 主成分負荷量 成分 1 成分 2 ----------------------------------------------------------------------------- 18 学校に行くのが楽しみだ。 0.8588 0.0041 19 学校は楽しくて、1日があっという間にすぎてし 0.8541 0.0215 まう。 20 学校は楽しいので、少しくらい体調が悪くても学 0.8505 0.0375 校に行きたい。 21 学校では、楽しいことがたくさんある。 0.8559 0.0717 22 学校にいるのがいやで、授業が終わったらすぐ家 -0.5152 0.6313 に帰りたい。 23 学校がなければ毎日はつまらないと思う。 0.5692 0.0859 24 日曜の夜、また明日から学校かと思うと気が重く -0.4899 0.6918 なる。 25 学校は楽しいのでいつまでもこの学校にいれたら 0.7369 0.2684 よいのにと思う。 26 学校は楽しいことばかりである。 0.7758 0.1769 27 私はこの学校が好きだ。 0.8194 0.2015 ---------------------------------------------------------------------------固有値 5.5687 1.0355 寄与率(%) 55.687 10.355 11 2、性差について 「学校の楽しさの程度因子」と「友人の親密性因子」、 「自己肯定感因子」、 「統制感因子」の各得点について性差に関して t 検定を行った。友人の親 密性においては(t=4.697, df=300, p<.001) 、学校の楽しさの程度におい ては(t=2.692,df=288, p<.01)となり、有意な性差が認められた。友人の 親密性の平均値は男子においては 3.697、女子においては 4.068 であった。 そして、学校の楽しさの程度の平均値は男子において 3.348、女子におい ては 3.522 であった。しかし、自己肯定感と統制感においては有意な差は 認められなかった。一部に性差が示されたため、以下の分析は男女別にも 行うことにした。 3、 「学校の楽しさの程度因子」と「友人の親密性因子」、 「自己肯定感因子」、 「統制感因子」の間の相関 「学校の楽しさの程度因子」と「友人の親密性因子」、 「自己肯定感因子」、 「統制感因子」の間で Pearson の単相関係数を算出し、無相関の検定を行 った。その結果、「学校の楽しさの程度因子」と「友人関係因子」では r=0.484(p<.001)、 「自己肯定感因子」とでは r=0.426(p<.001)、 「統制感因 子」とでは r=0.517(p<.001)という有意な相関が得られた。男子において は「学校の楽しさの程度因子」と「友人の親密性因子」では r=0.438(p<.001)、 「 自 己 肯 定 感 因 子 」 と で は r=0.478(p<.001) 、「 統 制 感 因 子 」 と で は r=0.570p<.001)という有意な相関が得られた。女子では「学校の楽しさの 程度因子」と「友人の親密性因子」では r=0.488(p<.001)、 「自己肯定感因 子」では r=0.385(p<.001)、「統制感因子」では r=0.444(p<.001)という有 意な相関が得られた。このように、男女とも同様の有意な相関が認められ た。 12 4、 「学校の楽しさの程度」、 「友人の親密性」、 「自己肯定感」、 「統制感」に おける共分散構造分析 「学校の楽しさの程度因子」に対する「友人の親密性因子」、「自己肯定 感因子」、「統制感因子」の影響を検討するために、共分散構造分析を行っ た。仮説モデル(Figure1)は 0.01%水準で有意であり、適合度指数は CFI=.955, RMSEA=.235, AIC=44.292 であった。この時、自己肯定感から学 校の楽しさの程度へのパスのみ有意であると認められなかったが、それ以 外のパスは全て有意であった。続いて、変数間の関係をさまざまに組み換 えて共分散構造分析を実施し、仮説モデル以外にも適正なモデルが存在し ないかについて検討した。その結果、0.01%水準で有意であり、全てのパ スも有意である、仮説モデルよりも適合度指数の高いモデルが見つかった ので、これを改訂モデル(Figure2)とした。改訂モデルの適合度指数は CFI=.968, RMSEA=.196, AIC=39.042 であった。 13 14 15 次に男女それぞれで仮説モデルと改訂モデルにおいて共分散構造分析を 行った。男子の仮説モデルは 0.01%水準で有意であった。統制感から自己 肯定感、友人の親密性、学校の楽しさの程度へのパスが 0.01%水準で有意 差が認められたが、自己肯定感から学校の楽しさの程度へのパス、友人の 親密性から学校の楽しさへのパスは有意ではなかった。適合度指数は CFI=.911, RMSEA=.239, AIC=44.819 であった。男子の改訂モデルは 0.01% 水準で有意であった。統制感から自己肯定感、友人の親密性は 0.01%水準 で有意であった。学校の楽しさの程度から自己肯定感、友人の親密性への パスは 5%水準で有意であった。適合度指数は CFI=.922, RMSEA=.224, AIC=42.644 であった。女子の仮説モデルは 1%水準で有意であった。統制 感から自己肯定感、友人の親密性へのパスと友人の親密性から学校の楽し さの程度へのパスが 0.01%水準で有意であった。統制感から学校の楽しさ へのパスは 5%水準で有意差であったが、自己肯定感から学校の楽しさの 程度へのパスは有意ではなかった。適合度指数は CFI=.975, RMSEA=.123, AIC=31.704 であった。 16 17 18 19 20 【考察】 仮説の検証 「学校の楽しさの程度因子」、「友人の親密性因子」、「自己肯定感因子」、 「統制感因子」の相関の結果すべての組み合わせにおいて有意であったこ とから、それぞれの因子が関連していることはわかったが、変数同士のか らみ合いはわからなかった。間接的に影響を与えている変数もあると考え られたため、共分散構造分析により、パスの検証を行った。自己肯定感か ら学校の楽しさの程度が有意なパスでなかったことから、この時点では仮 説1は認められなかった。しかし、学校の楽しさの程度から自己肯定感へ のパスは有意であったこと、自己肯定感と学校の楽しさの程度との相関が 認められたことから、自己肯定感と学校の楽しさの程度は関連していると いえる。ただし、自己肯定感が高まることで学校の楽しさの程度が高まる のではなく、むしろ逆に学校を楽しく感じることで自己肯定感が高まるよ うだ。 友人の親密性から学校の楽しさの程度へのパスが有意であったことから、 仮説2は認められた。また、学校の楽しさの程度から友人の親密性へのパ スも有意であったこと、友人の親密性と学校の楽しさの程度との相関が認 められたことから、友人の親密性と学校の楽しさの程度は関連していると いえる。 統制感から学校の楽しさの程度が有意なパスであったことから、仮説3 は認められた。また、学校の楽しさの程度と統制感の相互のパスは相関が 高かったことから統制感と学校の楽しさの程度は大きく密に関連している といえる。 自己肯定感、友人の親密性、統制感の学校の楽しさの程度に関するモデル 仮説モデルについての共分散構造分析の結果、特に友人の親密性と統制 感が学校の楽しさの程度に影響を与えることが明らかになった。統制感か ら友人の親密性への影響、友人の親密性から学校の楽しさの程度への影響、 さらに統制感から学校の楽しさへの影響は全て有意なパスであったことか ら、学校の楽しさの程度を高めるためには、まずは状況を自分で統制でき ると感じる統制感を高め、次いで友人の親密性を高めることが必要だとわ かった。 21 統制感から自己肯定感への推定値は 0.678 であり、最も高かった。その ため統制感は学校の楽しさの程度だけでなく、自己肯定感も高めることに つながるので、学校では統制感を高める工夫をすることが大切であると考 える。次に、統制感から自己肯定感へのパスの推定値は 0.62 あり、統制感 から友人の親密性へのパスの推定値が 0.57 と高い推定値があることから、 自分を取り巻く状況を自分で統制できているという感覚を高めることは、 学校の楽しさの程度に直接的にも影響を与えるだけでなく、友人関係も良 好にし、間接的に学校の楽しさの程度を高めることにつながるということ がわかった。ただし自己肯定感から学校の楽しさの程度への影響はパスの 推定値が 0.11 であり、有意傾向が認められただけであったために、自己肯 定感から、学校の楽しさの程度への影響はあまり強いとはいえなかった。 次に改訂モデルによれば、学校の楽しさの程度と統制感との間に 0.52 とかなり高い相方向性のパスがあったため、学校の楽しさの程度を高める ことは、統制感を高めることにもつながることがいえる。また、統制感と 学校の楽しさの程度は、自己肯定感と友人の親密性に影響を与えることが わかった。学校の楽しさの程度は統制感に比べると自己肯定感、友人の親 密性に与える影響は低めであったが、有意なパスであったことから、自己 肯定感、友人の親密性を高めるためには学校の楽しさの程度を高めること が有効であるといえる。この改訂モデルからも、統制感が自己肯定感、友 人の親密性、学校の楽しさの程度に大きく影響を与えていることがわかる。 中学生を対象とした研究では不適応が強い場合の方が統制感が低いという 結果が得られている(神田, 1993)。すなわちこの研究から、学校生活に適 応することと統制感には関連があるといえ、そのことから学校生活へ適応 することと学校の楽しさとの関連も考えられる。子どもに達成感を多く感 じさせ、自分が頑張ることで結果を出すことができると感じさせ、統制感 を高めていくことが、学校を楽しく感じる子どもを増やしていくために重 要なことだと考えられる。 22 性差について 「友人の親密性因子」と「学校の楽しさの程度因子」の各得点において、 有意な性差が認められた。いずれも男子よりも女子のほうが、友人の親密 性、学校の楽しさの程度が高い。男女別に算出した Pearson の単相関係数 はいずれも有意であったことから、友人の親密性、自己肯定感、統制感と 学校の楽しさの程度の関連に性差はなかった。しかし、仮説モデルと改訂 モデルにおいてなされた共分散構造分析では、性差がみられた。まず、仮 説モデルに関しては、男子は友人の親密性から学校の楽しさの程度へのパ スが有意でなかったが、女子は 0.01%水準のパスが認められたことから、 友人の親密性が学校を楽しく感じさせることにおいて、男子は女子ほど重 要ではないことがわかった。女子の場合、学校生活に対する楽しさは友人 関係が大きな影響を与える可能性があるという指摘(三島, 2010)からも、 女子にとっての友人関係の重要性が明らかになる。また、統制感から学校 の楽しさの程度へのパスが、男子の推定値が 0.41 あったのに対し、女子の 推定値は 0.2 しかなかったことから、女子よりも男子のほうが、学校を楽 しく感じるためには統制感の高さが重要であることがわかった。例えば、 統制感の強さを感じる一例として学習がある。実際男子の場合は学習が大 きな影響を与えることがわかっている(三島, 2010)。つまり、学習の結果 が得られるかどうかが重要であるといえる。自分の学習からどれだけの結 果が得られるかの期待、すなわち学習においての統制感の高さが、学校の 楽しさにも影響する可能性が考えられる。自己肯定感から学校の楽しさの 程度へのパスは男女とも有意でなかったことから、性差はないといえる。 次に、改訂モデルに関しては、女子のモデルが有意でなかったことから、 男子と比較することは適切ではなかった。ただし、男子においては、統制 感から自己肯定感、友人の親密性へのパスと、統制感と学校の楽しさの程 度との双方向のパスの推定値が高かったことから、男子にとって学校を楽 しく感じるために、統制感を高めることが極めて重要であることがより確 かに示された。 学級内で孤立している児童・生徒の中には、学校生活に対する適応感が 低い児童・生徒が多く(Parker & Asher, 1987; Rubin, Bukowski, & Parker, 1998)、学校ぎらい感情の規定要因として、友人関係上がきわめて重要であ る(古市, 1991; 池田ら, 1983 ;Shimizu ら, 1986; 東京都生活文化局, 1990 23 など)。このことからも、学校においては友人関係を良好にすることが学校 を楽しく感じる子を増やし、学級の雰囲気をよくしていくために重要であ ることがわかる。統制感が学校の楽しさにつながるという研究はこれまで あまり見られなかったが、今回の研究で、学校の楽しさの程度、自己肯定 感、友人の親密性への統制感の強い影響力が明らかにされた。したがって、 教師にとって統制感を高めることこそ、子どもたちの健やかな成長にとっ て重要なことであると考えられる。 24 Buhrmester, D. 1992. 【引用文献】 The developmental courses of sibling and peer Children`s sibling relationships: Developmental and clinical issues, 19-40. 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請方略因子の関連・・・・・ ・・・・・・26 ② ネガティブ場面における原因帰属得点の高低群と各学業的援助 要請方略因子の関連・・・・・・・・・・・・・・30 第 4 章 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 質問紙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 1 《はじめに》 何かを学ぼうとするとき、最初はやる気があるのだが、実際に学習を進める際難 しい問題に出会ったりすることでなかなかうまくいかず、やる気を持続させること が難しいことがある。しかし、そこで諦めてしまっては学習は成立しない。こうし たときに、自己制御(調整)学習という概念が重要になる。自己制御(調整)学習とは、 「学習目標を達成するために、自己の認知と行動を学習者が自ら活性化させ維持す る学習、すなわち学習過程(あるいは学習行動)を自分で制御する学習」(辰野, 1997) である。つまり、学習者が積極的に学習に関わり、その状態を維持する活動を指し ている。このことは、「生きる力」や「自ら学び自ら考える力」(中央審議会, 2008) にも通じており、現在子どもたちに身につけさせるべき力として、これからの教育 を考える上で有効な概念であると思われる。しかし、初めから優秀な自己調整学習 者はいない。自立的な学習者を育てることは、学校教育の主要な目標の 1 つと言え る。そのための指導・支援として、 「学習の自己制御スキルを指導する」方向性が考 え、自己調整学習理論の視点から支援に関する方向性を探りたい。 自己調整学習における他者の役割に言及するものとして、学業的援助要請がある。 学業的援助要請は、大きく 2 つの理論的背景に位置づけることができる。1 つは、 先に述べた自己制御学習における様々な学習方略の一部としての位置づけである。 わが国における学業的援助要請は、基本的にこの位置づけで扱われている。しかし、 学業的援助要請は他者との相互作用を伴う社会的行動でもあるため、他の学習方略 とは本質的に異なる部分があり、他の学習方略にはみられない様々な規定因の影響 や生起メカニズムが存在するといえる(Newman, 1990)。これに対するもう一つの位 置づけは、社会心理学分野の援助要請研究における種々の援助要請行動の一部とし ての位置づけである。ここで扱われる援助要請は、援助者や場所が特定されない、 要請内容が多種多様である、などの特徴がある。したがって、援助者、場所、援助 内容がかなり限定的になる学業的援助要請は、必ずしもこの分野の位置づけに従う とは言えないかもしれない。しかし、臨床心理学分野における相談機関への援助要 請と同様に、学業的援助要請を社会心理学分野においてこれまで扱われてきた援助 要請の協議の概念として位置づけることは可能である(水野・石限, 1999)。 これら 2 つの立場を考慮に入れると、前者は学業的援助要請の学習行動としての 側面を強調しているのに対し、後者は社会的行動としての側面を強調する立場にあ るといえる。しかし、従来の academic help-seeking 研究では、これらの立場の違 いを明確に区別しているわけではない。むしろ、これらの立場が融合して、academic 2 help-seeking 研究という 1 つの研究領域が確立されているといえる(Karabenick, 1998)。本論文では、これまで自己制御学習研究における学習方略の一部としてしか 位置づけられてなかった学業的援助要請を、academic help-seeking 研究の流れに位 置づける。 ところで、学業的援助要請に類似した概念である質問行動(questioning)研究の領 域での研究も存在する(生田・丸野, 2002 )。学業的援助要請と質問行動研究を比較 すると、学業的援助要請研究が他者に援助を求めるか否かという行動生起の規定因 に焦点を当てているのに対し、質問行動研究では、単に質問の生起を問題とするだ けでなく、質問内容の想起や知識を獲得した後の既有知識の変容などにも言及して いる(生田・丸野, 2002)。したがって、質問行動の方が学業的援助要請よりも限定的 な意味になるように思われる。しかし、これらはほぼ同義の概念として使用される 場合(瀬尾, 2005)もあり、これまで厳密な概念的区別がされているわけではない。し たがって、本論文では、学業的援助要請に含まれるやや狭義の概念として質問行動 をとらえるものの、それらをほぼ同義の概念として扱う。 3 ≪第 1 章≫ 本研究における問題の所在 第1節 学業的援助要請方略の概念および研究史 学習過程において、学習者は独力では解決できない課題に出会うことがある。そ のような時に課題を解決させるために他者に助言を求めたり、質問したりする行為 は、学習過程において重要な学習方略のひとつである。このような、学業に関する 課題解決への援助を求める行為は、学業的援助要請(Academic help seeking)と呼ば れる(Ryan,Pintrich, & Midgley,2001)。 先行研究によって学業的援助要請には、以下のタイプに分けることができる。第 1 のタイプは、Ryan & Pintrich(1997)の「適応的要請」(Adaptive help seeking)で ある。これは、直接的な答えよりもヒントを求め、要請までの時間が長いといった 特徴を持つ。 第 2 のタイプは、Nadler(1998)の「依存的要請」(Dependent help seeking)であ る。これは、ヒントよりも直接的な答えを求め、要請までの時間が短いといった特 徴を持つ。 第 3 のタイプは、「要請回避」と呼ばれている(野崎,2003)。これは、他者からの 援助を必要であると認知しているときでさえも、意図的に要請を避けるといった特 徴を持つ。 学業的援助要請を積極的に行う生徒は、効率的に学習を進めることが可能となり、 高い学業成績をおさめることができるが、そうでない一部の生徒は、他者からの援 助 を 必 要 であ る と認知 し て い ると き でさえ も 、 そ れを 要 請しな い 傾 向 にあ る (Newman, 2009)。学業的な面での援助要請回避する生徒は援助要請を積極的に行う 生徒と比べて高い学業成績をおさめることができないと考えられ、教育上問題であ る。 この学業的援助要請の仕方を決めるものを明らかにしようとする先行研究は多く 存在する。1 つ目は、個人の達成目標に注目した研究である。すなわち、課題の熟 達を通して能力感を高める熟達目標志向性と他者との相対的な比較により、能力感 を高める遂行目標志向性の区別をして、2 つの目標感の影響が主に研究されている。 例 え ば 、 数 理 パ ズ ル の 解 決 に お け る 学 業 的 援 助 要 請 を 検 討 し た Newman & Schwager(1995)の研究では、行うパズルが学習する機会であると教示された熟 4 達目標志向性の課題関与目標群と、それが能力テストであると教示された遂行目標 志向性の自我関与目標群では、課題関与目標群の生徒の方が自我関与目標群の生徒 よりも要請傾向が高いことを示している。 第 2 の要因はコンピテンス認知である。これは、自己を有能であると評価する児 童ほどより有効な学習方略を使用するので、学業的援助要請についても、コンピテ ンスが高いほど、高い援助要請傾向を示し、それが低い生徒ほど意図的に援助の要 請を差し控える回避傾向にあることを明らかにした研究がある(Karabenick & Knapp,1991)。 これらを受けて Newman(2009)は、これまでに述べてきた研究では、達成目標や コンピテンスの違いにより学業的援助要請の生起傾向がなぜ異なるのかの原因につ いて充分解明されていないと述べている。このことについて Ryan & Pintrich(1997) は、利益(benefit)と脅威(threat)という学業的援助要請に対する 2 つの態度が、達成 目標やコンピテンスの違いと動機づけ要因の違いと学業的援助要請の関連において、 どのような役割を果たすかについて検討している。つまり、利益の態度とは、学業 的援助要請が学業達成のための有効な手段になりうるという認知である。一方、脅 威の態度にとは、対人相互作用の中で他者に援助を求める行動が、独力で問題を解 決できないという自己の能力の無さの露呈してしまうという認知である。Ryan & Pintrich(1997)はこのように概念化した 2 つの態度を、動機づけ要因として位置づ けた達成目標志向性とコンピテンスが、学業的援助要請に及ぼす影響過程の媒介要 因として位置づけ、 「動機づけ―態度―要請行動」モデルを提唱した。そして、熟達 目標は利益を媒介して学業的援助要請を促進させること、遂行目標は脅威を媒介し て学業的援助要請を抑制させることを明らかにした。 野崎(2003)は、中学生を対象とした研究において能力感への脅威が学業的援助要 請の回避を促すことを明らかにしている。さらに、これらの研究結果は学業的援助 要請に対する脅威の態度が学業的援助要請を抑制し、さらに、こうした傾向は学年 が上がるにつれて、すなわち青年期に近づくほど顕著になることを示している。そ の理由として野崎(2003)は、発達に伴い自分の能力と他者の能力を比較するように なることを挙げている。つまり、社会的比較(social comparison)を行うようになる ことである。社会的比較とは、「自分と他者を比較することの総称」(高田, 1992)で あり、学習場面において援助を求めることは、他者には解けるはずの問題が自分に は解けないことを意味し、このことは他者と比較して相対的に自分自身の能力が劣 っていることを他者に示す、または自分自身で認めることになるのである。 しかし、Ryan & Pintrich(1997)の研究では、学業的援助要請を回避する原因につ 5 いて脅威の態度についてだけしか考慮に入れられていないという問題点が指摘され る。Bulter(1998)は、他者評価による能力感への脅威とは別に、自分だけで問題を 解決したいからという自律性(autonomy)に関する回避理由の存在を明らかにして いる。自律性と他者評価による能力感への脅威は、同じ自尊心に関連する回避理由 であるが、学習態度が明らかに異なるため区別する必要があるとして、自律性を学 業的援助要請への抑制態度として位置づけた(Butler, 1998 ; 野崎, 2003)。 瀬尾(2007)は、学習者の認知・思考面に着目し、援助要請スタイルの説明要因と して学習観と援助要請に必要なつまずき明確化方略を取り上げた検討を行った。こ れらの要因を取り上げた背景には、 「学習に対する考え方やコントロール感が援助要 請スタイルに影響を及ぼしているであろう」という Nalder(1998)の理論的な指摘が ある。中高生のデータを分析した結果、中学生では「丸暗記や結果を重視する学習 観」が依存的援助要請と関連し、高校生では要請内容を明確にするための方略(つま ずき明確化方略)が適応的援助要請と関連することが明らかになった。 このように援助要請に伴う心理的コストは、能力感への脅威だけでなく、それ以 外のいくつかの心理的側面を含む(相川, 1989)。そのため、学業的援助要請と生起や 抑制と関連する要因については、Ryan & Pintrich(1997)が扱った能力感への脅威や、 Butler(1998)・野崎(2003)が示した自律性以外にもさまざまな要因の存在を考える 必要がある。 本研究では、学業的援助要請の生起と抑制に関する要因として、これまで取り上 げてこられなかった、以下に述べるような原因帰属方略と教師のサポート認知をあ げ、学業的援助要請との関連を調べる。 第2節 原因帰属 どのような学習者が、適応的援助要請・依存的援助要請・要請回避の 3 つのどの タイプの学業的援助要請を選ぶのかについて多くの研究が存在するが、原因帰属ス タイルに着目した研究はこれまでなされていない。しかし、学習者の学業成績への 原因帰属は学業達成に影響を及ぼす変数であり、学習者の原因帰属スタイルを研究 することは学習意欲や学業成績の向上を目的とした教育的働きかけに有効だと考え られる。なぜなら、素質的・環境的要因等に比べ教師による具体的な指導と結びつ きやすく、しかも、達成への動機づけや学習への意欲づけのメカニズムを探る上で 有効な視点を提供していると考えられるからである(林,1991)。 6 そこで、本研究では、学習者の認知・思考面に関する要因である、原因帰属方略 について着目したい。具体的には、学習者が学習上の出来事において、その原因が どこにあるのかという認知である。原因帰属のスタイルを一種の人格変数と考えて、 原因帰属のスタイルによる学業的援助要請のタイプの選択への影響を検討する。 原因帰属(casual attribution)とは、何かの出来事に出会ったとき、その出来事の 原因を認知しようとすることである。個人が自分に事象の原因を考えるとき、客観 的な原因とは別に主観的原因の認識の仕方が関わりを持つ。そして、その原因が何 にあると認知するのかが行動の生起可能性の増減を決定する大きな要因となると考 えられる。 Rotter(1966)は、統制の位置という概念を提唱し、内的―外的統制を一次元上で とらえた人格変数の連続体と考えて、I-E scale を作成した。これによって、外界に 対し自己に制御力があると認知する内的統制型の者ほど、達成行動にすぐれ社会政 治的活動に活発であるという研究結果が得られている。しかし、結果に有意な関係 が見られない、逆に外的な傾向をもつ者ほど有意な正の相関をもつといった結果も みられる。 さらに、Rotter の I-E scale についての因子分析的研究がなされ、達成動機研究 の流れから Weiner(1972)は、統制の位置の次元に安定性の次元を加えて原因帰属理 論をとなえた。Weiner は課題達成場面の成功、失敗の主要な原因として、能力(A)[内 的、安定]、努力(E)[内的、不安定]、課題の困難度(T)[外的、安定]、運(L)[外的、不 安定]の 4 要因をあげた。Weiner(1972)は統制の位置の次元が感情変動に、安定性の 次元が期待変動に影響すると考えており、統制の位置が期待変動に影響を与えると する Rotter(1966)の説と異なる。 そして、起きた事象について、ポジティブな事象とネガティブな事象へと分けて 考えたのが Seligman(1991)である。Seligman は原因帰属には 2 つの対照的な傾向 があることを指摘した。楽観的な説明スタイルである(explanatorty style)と悲観的 な説明スタイルである。楽観的な説明スタイルにおいては、自分にポジティブな正 の出来事(good event)、すなわち望ましい、良い出来事が起きたとき、その出来事は 内的(internal)で、永続的(stable)で、全体的(global)な原因によるものと説明される。 反対に、ネガティブな負の出来事(bad event)、すなわち望ましくない、悪い出来事 が起きたとき、その出来事は外的(external)で、一時的(unstable)で、特異的(specific) な原因によるものとして説明される。 「楽観的な」人間とは、このように楽観的な説 明スタイル(帰属様式)を持つ人間のことであると、Seligman は定義している。この ように、Seligman は原因帰属の場面に注目して、ポジティブ場面とネガティブ場面 7 に分け、原因帰属の認知スタイルを人格変数として考えた。 さらに、三宅(2000)は場面想定法を用いたネガティブ場面の提示により、特性的 自己効力感(generalized self-efficacy)の高さによって原因帰属に違いがみられるこ とを明らかにした。特性効力感とは、具体的な個々の課題や状況に依存せずに、よ り長期的に、より一般化した日常場面における行動に影響する自己効力感のことで ある(成田・下仲・中里・河合・佐藤・長田, 1995)。つまり、特定的自己効力感の高 い人ほどネガティブ場面の原因を、努力不足、取り組み方の悪さにより強く帰属し、 運、担当教官、課題には帰属しにくい傾向があることを示した。さらに、今後、提 示したネガティブ場面と同様の状況に直面したら、その際にはその程度うまくやれ るか(課題(状況)固有の自己効力感)を問うと、特性的自己効力感の高い人ほどうまく やれるだろうと感じていることがわかった。これにより、特性的自己効力感と原因 帰属の関係について、特性的自己効力感の高い人は、ネガティブな出来事を統制可 能な要因に帰属することで将来の期待を低めない帰属様式を有していると解釈して いる。 さらに、三宅(2007)はネガティブな出来事に対する原因帰属とそれへの対処法と の関係について検討している。その結果、能力要因、外的要因、偶発的要因への帰 属傾向を持つタイプは、 「気晴らしする」 「選択しない」 「考えない」のような消極的 な対処法をとる傾向があることが示され、統制可能要因への帰属傾向を持つタイプ は「もっと努力する」「対策する」「理由をはっきりさせる」のような積極的な対処 法をとることがわかった。 このように、原因帰属スタイルによってその対処法が異なるならば、学習成果へ の原因帰属によって今後の学習法が変わり、援助要請のスタイルも関連することが 予想される。よって本研究では、原因帰属スタイルと学業的援助要請の関連を調べ る。 第3節 教師のサポート認知 これまで原因帰属スタイルについて述べてきたが、これは援助を要請する側(要請 者)の要因であり、援助要請スタイルがなぜ自律的なものと依存的なものに分かれる のかという説明としては不十分である。なぜならば、援助要請は、他の学習方略と は異なり、援助を求める相手である他者の存在があって初めて成立する学習方略だ からである。特に、本研究が研究対象とする「学習場面で対人的な行為であるため、 8 援助要請を受ける側すなわち援助者からの影響を看過の教師に対する援助要請」は、 「見知らぬ他者への 1 回限りの」援助要請とは異なり、多くの場合、担任や教科担 当の教師といった「既知の他者に対して継続的に行われる」といった特徴がある。 そのため、要請者が援助要請を行おうとするとき、教師の態度や教え方など、それ 以前の援助要請で教師からどのような対応を受けてきたか、つまり、より一層、援 助者(教師)の要因が影響することが予想される。したがって、要請者側の要因だけで なく、援助者側の要因も組み込み、対人的な相互行為という枠組みから検討してい く必要がある。 これまでも、対教師要請と対友人要請の質的な違いを明らかにするため、そこで 本研究では、学習観などの従来明らかになった要請者要因に加えて、教師の要因の 影響にも焦点を当てることとする。 先行研究においても、学習者への教師の要因の影響が研究されている。その 1 つ は教師の指導スタイルについてである。教師の持つ信念と深く関係して教師の指導 スタイルが決まっていることがさまざまな研究で示されている。 石田・伊藤・梶田(1986)は、教師の指導に対する信念を、個人レベルの指導論 (Personal Teaching Theory)という概念に置き換えて、教師の指導スタイルをとらえ ている。つまり、授業ペース(生徒中心型―教師中心型)、思考ペース(発見型―説明 型)、教材(教科書型―併用型)、家庭学習(指示型―まかせ型)、授業スタイル(定型型 ―流動型)、同僚関係(相談型―自力型)の 6 つにより教師の個人レベルの指導論によ る指導スタイルを検討した。 教師の指導スタイルについて、石田・伊藤・梶田(1986)の授業ペースに注目し、 教師主導型指導と学習者中心型指導に区別されることがある。これは、教授・学習 過程において教師と学習者のどちらが主導権を握っているのかという観点からの区 別である。教師主導型指導では、教える側の作成したカリキュラムに沿って授業が 進行し、学習者中心型指導では、学習者の興味・関心などが最大限に尊重される(市 川, 1995)。 伊藤(1992)は、教師主導型指導と学習者中心型指導の区別をしたうえで、教師中 心的指導と児童の遂行目標(performance goal)、学習者中心型指導と学習目標 (learning goal)にそれぞれ関連を見出した。さらに、達成目標傾向と学習活動の関 連を検討した調査の結果と合わせて、学習者中心の教育実践が児童の学習目標を形 成するとともに、主体性、協調性、創造性を伴った学習活動を促進する可能性を示 唆している(伊藤, 1993)。 鹿毛・上淵・大家(1997)は、教育方法に対する教師の信念を自律性支援―行動制 9 御という対立軸によって特定し、その信念と実際の授業過程、児童の態度、学習成 果との関連を探った。自律性支援の信念を強く持つ教師の学級で児童の有能感、学 校への適応が高いことが示された。これは、教師の信念が児童の態度に影響を及ぼ すことを示している。鹿毛ら(1997)は、 「子ども自身の解決方法に到達するために問 題の様々な要素についてじっくりと考えるように教師が励ます」や「問題解決のた めの試みとして子どもに社会的比較情報を用いるように教師が励ます」のように「励 ます」ことを自律性支援の指導行動の中心として位置付けており、主に情動・動機 づけに焦点を当てている。 しかし、生徒が学業的援助要請を行うときに教師に求めるものは、教師が親切に 教えてくれるというような情緒的サポートだけだはないと考えられる。つまり、教 師が質問は重要であると考えているような教育的サポートも重要となってくるだろ う。 ここで、Ryan & Pintrich(1997)が示した学業的援助要請に影響を及ぼしている 2 つの態度、つまり利益と脅威について考えてみる。まず利益について、生徒が質問 するとき、教師が質問行動を有意義だと考えていると生徒が認知するなら、生徒は 援助を要請しやすいだろう。そして脅威については、質問すると教師に呆れられて しまう、というように教師の否定的なサポート態度は援助要請の回避理由になるこ とが考えられる。こういった観点からも、教師のサポート態度を生徒がどのように 認知するのかが重要である。そのため、本研究では教師の情緒的サポートだけでは なく、情報的なサポートも考慮して検定する。 このように、生徒の援助要請を促進するためには、まず教師がサポート的な態度 を示すことが重要であると考えられる。それと同時に、サポート的な教師に対して は生徒も援助要請を行いやすく、ついその教師に頼った援助要請をとってしまうこ とも考えられる。つまり、教師のサポート的な態度は、場合によっては依存的援助 要請を引き起こす可能性があると考えられる。このような教師のサポートに関する ネガティブな影響も視野に入れて検討する。 もし、教師の態度と生徒の学業的援助要請との関連が明らかになれば、教師が生 徒の学習を援助する際に教師の側も、自らの態度が生徒の学習にとって適切である か振り返る必要があることを示すものとなり、教育実践的にとても重要なものであ ると考える。 第4節 本研究における問題と目的 10 前述の通り、自己調整学習とは、 「学習目標を達成するために、自己の認知と行動 を学習者が自ら活性化させ維持する学習、すなわち学習過程(あるいは学習行動)を自 分で制御する学習」(辰野, 1997)である。つまり、学習者が積極的に学習に関わり、 その状態を維持する活動を指している。このことは、 「生きる力」や「自ら学び自ら 考える力」(中央審議会, 1998)にも通じており、現在子どもたちに身につけさせるべ き力として、これからの教育を考える上で有効な概念であると思われる。しかし、 初めから優秀な自己調整学習者はいない。自立的な学習者を育てることは、学校教 育の主要な目標の 1 つと言える。そのための指導・支援として、 「学習の自己制御ス キルを指導する」方向性が考え、自己調整学習理論の視点から支援に関する方向性 を探りたい。 学業的援助要請(Academic help seeking)は、このような自己調整学習方略の 1 つ である(Ryan,Pintrich, & Midgley,2001)。これは、学習過程において、学習者は独 力では解決できない課題に出会った時に課題を解決させるために他者に助言を求め たり、質問したりする行為で、学習過程において重要な学習方略のひとつである。 この学業的援助要請を積極的に行う生徒は、効率的に学習を進めることが可能とな り、高い学業成績をおさめることができるが、そうでない一部の生徒は、他者から の援助を必要であると認知しているときでさえも、それを要請しない傾向にある (Newman, 2009)。学業的な面での援助要請回避する生徒は援助要請を積極的に行う 生徒と比べて高い学業成績をおさめることができないと考えられ、教育上問題であ る。どのような要因により、学業的援助要請のスタイルが決まっているのか知るこ とは、重要な意味を持つ。 援助要請に伴う心理的コストは、先行研究で示された能力感への脅威だけでなく、 それ以外のいくつかの心理的側面を含む(相川, 1989)。そのため、学業的援助要請と 生起や抑制と関連する要因については、Ryan & Pintrich(1997)が扱った能力感への 脅威や、Butler(1998)・野崎(2003)が示した自律性以外にもさまざまな要因の存在 を考える必要がある。本研究では、学業的援助要請の生起と抑制に関する要因とし て、原因帰属方略と教師のサポート認知をあげ、学業的援助要請との関連を調べる。 どのような学習者が、適応的援助要請・依存的援助要請・要請回避の 3 つのどの タイプの学業的援助要請を選ぶのかについて多くの研究が存在するが、原因帰属ス タイルに着目した研究はこれまでなされていない。しかし、学習者の学業成績への 原因帰属は学業達成に影響を及ぼす変数であり、学習者の原因帰属スタイルを研究 することは学習意欲や学業成績の向上を目的とした教育的働きかけに有効だと考え 11 られる。なぜなら、素質的・環境的要因等に比べ教師による具体的な指導と結びつ きやすく、しかも、達成への動機づけや学習への意欲づけのメカニズムを探る上で 有効な視点を提供していると考えられるからである(林,1991)。 そこで、本研究では、学習者の認知・思考面に関する要因である、原因帰属方略 について着目したい。具体的には、学習者が学習上の出来事において、その原因が どこにあるのかという認知である。原因帰属のスタイルを一種の人格変数と考えて、 原因帰属のスタイルによる学業的援助要請のタイプの選択への影響を検討する。 それに加えて、援助要請は、他の学習方略とは異なり、援助を求める相手である 他者の存在があって初めて成立する学習方略である。特に、本研究が研究対象とす る「学習場面で対人的な行為であるため、援助要請を受ける側すなわち援助者から の影響を看過の教師に対する援助要請」は、 「見知らぬ他者への 1 回限りの」援助要 請とは異なり、多くの場合、担任や教科担当の教師といった「既知の他者に対して 継続的に行われる」といった特徴がある。そのため、要請者が援助要請を行おうと するとき、教師の態度や教え方など、それ以前の援助要請で教師からどのような対 応を受けてきたか、つまり、より一層、援助者(教師)の要因が影響することが予想さ れる。したがって、要請者側の要因だけでなく、援助者側の要因も組み込み、対人 的な相互行為という枠組みから検討していく必要がある。その際、本研究では教師 の情緒的サポートだけではなく、情報的なサポートも考慮して検定し、同時に、教 師のサポートに関するネガティブな影響も視野に入れて検討する。 なお、本研究で対象とするのは、私立中学校の生徒である。ここで、中学生を対 象とした理由は、学習場面で質問を生成するために必要なメタ認知スキルが十分に 発達していると考えられるからである。質問行動をとらない場合に、 「思いついてい ない」からしないのか、「思いついている」けれどしないのか、という問題がある。 本研究で想定しているのは後者の場合であるが、小学生を対象にした場合、質問を 発言する前の質問を思いつく段階ですでにつまづくケースが多いことが示されてい る(生田・丸野, 2004)。そこで、日常的に質問生成することができる中学生を対象と して選択した。また、私立の中学校を対象としたのは、学業成績や学業に対する関 心に偏りがないだろうと考えたからである。 12 《第 2 章》方法 (1)調査対象 本研究では、中学生を対象とした。調査は、広島県内の中学 2 年生の生徒、計 188 名に対して実施し、188 名から有効データを得た。 (2) 調査時期 2011 年 11 月上旬 (3)調査方法 被験者には、質問紙を配布し実施した。学級担任が調査用紙を配布して、 「この調 査は、みなさんが中学生活の中で、どのように学習しているのかを調べるためのも のです。このアンケートの内容は人に知られることはありません。また、ここでの 回答は、成績には一切関係ありませんので、思った通りに答えてください。」という、 質問紙の冒頭部分を読み上げてから実施し、回答後は後ろの席から前へ回して提出 させるようにした。 13 (4)質問紙の構成 Ⅰ.学業的援助要請尺度 野崎(2003)が作成した学業的援助要請尺度 11 項目を使用した。 「5.とてもあては まる」~「1.まったくあてはまらない」の 5 件法で回答を求めた。質問紙は巻末に 実物を付した。 [質問項目] 1.テスト勉強中、わからない問題にであったときには、すぐに友達や先生に 答えを聞こうとする。 2.友達や先生に質問するとき、問題を解くためのヒントよりは、答えを聞く。 3.自分で考えて、どうしてもわからなかったときだけ、友達や先生に質問す る。 4.書籍やインターネットを使って、自分でいろいろ調べたあとで、友達や先 生に質問する。 5.自分で少し考えたらわかる問題でも友達や先生に質問する。 6.問題を解くのに友達や先生の助けを必要とする場合でも、質問しないで、 その問題をそのままにしておく。 7.課題に取り組んでいるとき、少し考えてわからない問題だったら、友達に 聞く。 8.自分の力で解決するのが難しい問題にであったときでも、友達や先生に質 問しないで、そのままにしておく。 9.私は友達や先生に質問するとき、その問題の答えではなく、解くためのヒ ントを教えてもらう。 10.普段の勉強中、わからないことがあったら、自分で考えたり、本で調べた りして、できるだけ自分で解決しようとする。 11.調べてもよくわからない勉強の内容について、わかるように説明してくれ るように友達または先生に頼む。 14 Ⅱ.原因帰属尺度 Rotter(1966)が人格変数としてとらえた統制の位置の概念に、Weiner(1972)の原 因帰属理論を導入し、一般的態度としての原因帰属を測定する尺度を作成する。金 子(1982)が、質問項目を作成したもの 8 項目を使用した。回答は「1.私は頭がいい から」 「2.一生懸命に取り組んだから」 「3.簡単にできたから」 「4.運がよかったから」 のように、それぞれ能力、努力、課題の困難度、運に対応した 1~4 の 4 件法で回答 を求めた。質問紙は巻末に実物を付した。 [質問項目] 1.もしもあなたがよい成績をとったとしたら 2.もしもあなたが悪い成績をとったとしたら 3.もしもあなたが授業中の先生の質問に正しく答えることができたとしたら 4.もしもあなたが授業中の先生の質問にほとんど答えることができなかったと したら 5.もしもあなたが試験の問題を簡単に解くことができたとしたら 6 もしもあなたが試験の問題をほとんど解くことができなかったとしたら. 7.もしもあなたが学校で出された課題を簡単にやり終えることができたとした ら 8.もしもあなたが学校で出された課題を全部やり終えることができなかったと したら 15 Ⅲ.教師のサポート認知尺度 岡島(1988)が作成した教師のサポート認知尺度 6 項目を使用した。5.とてもあて はまる」~「1.まったくあてはまらない」の 5 件法で回答を求めた。質問紙は巻末 に実物を付した。 [質問項目] 1.先生は、あなたが悩みや不安を言っても、嫌な顔をしないで聞いてくれる。 2.先生は「質問することは生徒のためになる」と思っている。 3.先生は、あなたが失敗しても、そっと助けてくれる。 4.先生は、「生徒が質問することは重要である」と考えている。 5.先生は、ふだんからあなたの気持ちをよくわかってくれる。 6.先生は、質問するとできるだけ親切に教えてくれる。 16 ≪第 3 章≫結果 (1)学業的援助要請方略および教師のサポート認知の因子分析 1)学業的援助要請尺度の分析 学業的援助要請尺度 11 項目に偏った分布がないか調べたところ、特に目立った偏 りはなかったので、すべての項目に対し主成分分析による因子分析を行った。この 結果から、共通性が 0.26 であった項目 1「テスト勉強中、わからない問題にであっ たらときには、すぐに友達や先生に答えを聞こうとする」と共通性が 0.20 であった 項目 11「調べてもよくわからない勉強の内容について、わかるように説明してくれ るように友達または先生に頼む」を削除した。残った 9 項目について再び分析を行 ったところ、3 因子が抽出された。そして、それらにプロマックス回転を施した。 結果を Table 1 に示す。 17 Table 1 学業的援助要請因子分析結果(プロマックス回転後) パターン行列 ターン行列a 成分 3 共通性 1 2 .810 .031 -.008 .649 .723 .165 .041 .495 .628 -.179 -.015 .47 第一因子… 第一因子…適応的援助要請因子(0.62) 適応的援助要請因子(0.62) 普段の勉強中、わからないことがあったら、自分で考えたり、図書を調べたりし て、できるだけ自分で解決しようとする 書籍やインターネットを使って、自分でいろいろ調べたあとで、友達や先生に質 問する 自分で考えて、どうしてもわからなかったときだけ、友達や先生に質問する 9 自分で少し考えたらわかる問題でも友達や先生に質問する -.468 .259 .090 .374 .101 .904 .033 .807 -.009 -.822 .015 .666 -.192 .426 -.115 .230 -.071 -.114 .944 .864 .065 .068 .917 .865 寄与率 29.53 16.70 14.09 類積寄与率 29.53 46.23 60.33 第二因子… 第二因子…依存的援助要請因子(0.57) 依存的援助要請因子(0.57) 友達や先生に質問するとき、問題を解くためのヒントよりは、答えを聞く 私は友達や先生に質問するとき、その問題の答えではなく、解くためのヒントを 教えてもらう 課題に取り組んでいるとき、少し考えてわからない問題だったら、友達にメール などで聞く 第三因子… 第三因子…要請回避因子(0.84) 要請回避因子(0.84) 問題を解くのに友達や先生の助けを必要とする場合でも、質問しないで、その問 題をそのままにしておく 自分の力で解決するのが難しい問題にであったときでも、友達や先生に質問しな いで、そのままにしておく 因子負荷量は小数点第 3 位以下を四捨五入した。 第 1 因子は、 「普段の勉強中、わからないことがあったら、自分で考えたり、図書 を調べたりして、できるだけ自分で解決しようとする。」や「書籍やインターネッ トを使って、自分でいろいろ調べたあとで、友達や先生に質問する。」 「自分で考え て、どうしてもわからなかったときだけ、友達や先生に質問する。」「自分で少し考 18 えたらわかる問題でも友達や先生に質問する(逆転項目)。」という項目から構成され ている。これらは、できるだけ自分で調べるなどして解決しようとしてから質問す るという特徴を持つので、「適応的援助要請因子」(0.62)とした。 第 2 因子は、 「友達や先生に質問するとき、問題を解くためのヒントよりは、答え を聞く。」 「私は友達や先生に質問するとき、その問題の答えではなく、解くための ヒントを教えてもらう(逆転項目)。」 「課題に取り組んでいるとき、少し考えてわか らない問題だったら、友達にメールなどで聞く。」という項目から構成されている。 これらは、ヒントより答えを求める、またはすぐに援助を要請しようとするという 特徴をもっているため、「依存的援助要請因子」(0.57)とした。 第 3 因子は、 「問題を解くのに友達や先生の助けを必要とする場合でも、質問しな いで、その問題をそのままにしておく。」 「自分の力で解決するのが難しい問題にで あったときでも、友達や先生に質問しないで、そのままにしておく。」という項目 から構成されている。これらは意図的に要請を避ける特徴があるので、 「要請回避因 子」(0.84)とした。 得られた因子に対して、プロマックス回転を行った結果、3 因子の累積寄与率は 60.33%であった。 また、それぞれの因子の信頼性を検討し、尺度の内的整合性を検討するために、 クロンバックのα係数を求めた。適応的援助要請因子は 0.62、依存的援助要請因子 は 0.57、要請回避因子は 0.84 の値が得られた。 19 2)教師のサポート認知の因子分析 まず、教師のサポート認知の質問項目 6 つすべてについて主因子法による因子分 析を行ったところ、 「先生は、質問するとできるだけ親切に教えてくれる」という項 目の共通性が 0.18 と低かった。そのため、この項目を削除し 5 つの質問項目につい て再度因子分析を行った。結果を Table 5 に示す。 Table 5 教師のサポート認知因子分析結果(プロマックス回転後) パターン行列 ターン行列a 因子 1 共通性 2 第一因子… 第一因子…情緒的サポート 情緒的サポート因子 サポート因子(0.78) 因子(0.78) 先生は、ふだんからあなたの気持ちをよくわかってくれる .784 -.075 .584 先生は、あなたが失敗しても、そっと助けてくれる .780 .045 .631 先生は、あなたが悩みや不安を言っても、嫌な顔をしないで聞いて .643 .041 .431 -.021 .828 .675 .024 .806 .662 寄与率 47.75 27.40 10.45 累積寄与率 47.75 75.14 85.60 くれる 第二因子… 第二因子…教育的サポート 教育的サポート因子 サポート因子(0.80) 因子(0.80) 先生は、「生徒が質問することは重要である」と考えている 先生は「質問することは生徒のためになる」と思っている 因子負荷量は小数点第 3 位以下を四捨五入した。 第 1 因子は、 「先生は、ふだんからあなたの気持ちをよくわかってくれる。」や「先 生はあなたが失敗しても、そっと助けてくれる。」 「先生は、あなたが悩みや不安を 言っても、嫌な顔をしないで聞いてくれる。」という項目から構成されている。これ らは、教師に情緒的な面で支えられているという認知であることから、 「情緒的サポ ート因子」(0.78)とした。 第 2 因子は、 「先生は、 「生徒が質問することは重要である」と考えている」 「先生 は、 「質問することは生徒のためになる」と思っている」という項目から構成されて いる。これらは、教師が生徒の質問は有意義だとしていると生徒が感じているとい 20 う特徴があるので、「教育的サポート因子」(0.80)とした。 得られた因子に対して、プロマックス回転を行った結果、2 因子の累積寄与率は 75.14%であった。 また、それぞれの因子の信頼性を検討し、尺度の内的整合性を検討するために、 クロンバックのα係数を求めた。情緒的サポート認知因子は 0.78、教育的サポート 認知因子は 0.80 の値が得られた。 21 (2)教師のサポート認知の因子と学業的援助要請方略の因子の関連 1) 関 教師のサポート認知因子と学業的援助要請方略因子との因子間相 教師のサポート認知と学業的援助要請方略の関係を見るため、Peason の相関係数に より、教師のサポート認知の 2 因子と学業的援助要請方略の 3 因子との相関係数を 算出した。結果を Table 8 に示す。 Table 8 から、情緒的サポート認知因子の因子得点の高い人ほど、適応的援助要請、 要請回避を非常にとりやすく(p<.01)、依存的援助要請方略も取りやすいということ がわかった(p<.05)。また、教育的サポート認知因子の因子得点の高い人は、適応的 援助要請、依存的援助要請を取りやすい傾向にあることがわかった(p<.05)。 Table 8 教師のサポート認知因子と援助要請因子との因子間相関係数 適応的援助要請 依存的援助要請 要請回避 情緒的サポート 0.19** -0.17* -0.19** 教育的サポート 0.15* -0.15* -0.08 **p<.01,*p<.05 22 2) 教師のサポート認知の高低群と各学業的援助要請方略因子の関連 教師のサポート認知の情緒的サポート因子、教育的サポート因子それぞれを、高 群、低群に群分けした。典型的に教師に対して情緒的サポートを感じている人いな い人、典型的に教師に対して教育的サポートを感じている人いない人を抽出するた め、因子得点が第 3 四分位数以上の値を持つ群を高群、第 1 四分位数以下の値を持 つ群を低群に群分けした(教育的サポート因子高群 33 名、低群 28 名、教育的サポー ト因子高群 51 名、低 46 群名)。そして、高低群によって、援助要請方略の因子得点 に違いがあるのかを検討するため、対応のない t 検定を行った。 まず、情緒的サポート因子の高低群における因子得点の違いの結果を、Table 9 に示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、Fig. 1 として示 した。 Table 9 情緒的サポート因子高低群における各学業的援助要請因子得点の平均値 の t 検定結果 情緒的サポート 情緒的サポート高群 サポート高群 情緒的サポート 情緒的サポート低群 サポート低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 0.41 1.10 -0.16 1.11 -2.03* 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 -0.59 0.97 0.19 1.07 2.96** 3.要請回避 3.要請回避 -0.48 1.04 0.26 1.14 2.66** **p<.01,*p<.05 23 0.4 因子得点 0.2 -1E-15 -0.2 -0.4 -0.6 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 0.41 -0.59 -0.48 低群平均 -0.16 0.19 0.26 Fig. 1 情緒的サポート高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 9、Fig. 1 によると、情緒的サポート因子の高群低群の間では、依存的援助 要請(t(59)=2.94,p<.01)、要請回避(t(59)=2.66, p<.01)において 1%水準で有意な差が 見 ら れ た 。ま た 、情緒 的 サ ポ ート 因 子の高 低 群 に おい て は、適 応 的 援 助要 請 (t(59)=-2.03 , p<.05)で 5%水準の有意な差が見られた。 24 次に、教育的サポート因子の高低群における因子得点の違いの結果を、Table10 に 示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、Fig. 2 として示した。 Table 10 教育的サポート因子高低群における各学業的援助要請因子得点の平均値 の t 検定結果 教育的サポート 教育的サポート高群 サポート高群 教育的サポート 教育的サポート低群 サポート低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 0.29 1.08 -0.11 0.89 -1.97* 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 -0.23 1.13 0.19 0.91 1.98* 3.要請回避 3.要請回避 -0.16 1.15 0.04 0.96 0.89(n.s.) *p<.05 0.4 因子得点 0.2 -1E-15 -0.2 -0.4 -0.6 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 0.29 -0.23 -0.16 低群平均 -0.11 0.19 0.04 Fig. 2 教育的サポート高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 10、Fig. 2 によると、教育的サポート因子の高群低群の間では、適応的援 助要請(t(95)=-1.97, p<.05)において 5%水準で有意な差が見られた。また、教育的 サポート因子の高低群の間でも、依存的援助要請(t(95)=1.98, p<.05)において 5%水 準で有意だった。そして、要請回避においては、周囲のせい因子の高群低群で有意 な差が見られなかった(t(95)= 0.89(n.s.))。 25 (3)原因帰属方略の因子と学業的援助要請方略の因子の関連 1) 原因帰属と学業的援助要請方略因子との相関 原因帰属は能力、努力、課題の困難性、運のぞれぞれに対応する回答をいくつ選ん だかによって、得点を作成した。それぞれ能力得点、努力得点、課題得点、運得点 とする。これらをポジティブ場面における得点とネガティブ場面における得点を作 成した。原因帰属方略と学業的援助要請方略の関係を見るため、Peason の相関係数 により、原因帰属方略の 6 得点と学業的援助要請方略の 3 因子との相関係数を算出 した。結果を Table 11 に示す。 Table 11 から、ポジティブ努力得点について、適応的援助要請と要請回避との間 で 1%水準 (p<.01)、依存的援助要請との間で 5%水準(p<.05)の有意さが認められ た。また、ポジティブ課題得点は、要請回避との間で 1%水準で有意な差が見られた (p<.01)。そして、ポジティブ運得点については、適応的援助要請との間に 1%水準 の有意さ(p<.01)、 要請回避との間で 5%水準の有意な差が見られた(p<.05)。 Table 11 原因帰属因子と援助要請因子との因子間相関係数 適応的援助要請 依存的援助要請 要請回避 ポジティブ努力得点 0.23** -0.18* -0.31** ポジティブ課題得点 -0.02 0.12 0.20** -0.30** 0.05 0.18* ネガティブ努力得点 0.03 -0.08 -0.03 ネガティブ課題得点 0.04 -0.03 -0.08 ネガティブ運得点 0.03 0.05 0.03 ポジティブ運得点 **p<.01,*p<.05 26 2) 原因帰属得点の高低群と各学業的援助要請方略因子の関連 ① ポジティブ場面における原因帰属得点の高低群と各学業的援助要請方略因子 の関連 原因帰属方略のポジティブ場面における能力得点、努力得点、課題得点、運得点 それぞれを得点が平均値以上を高群、平均値以下を低群に群分けした(ポジティブ能 力得点高群 4 名、低群 184 名,ポジティブ努力得点高群 56 名、低群 132 名,ポジ ティブ課題得点高群 59 名、低群 129 名,ポジティブ運得点高群 64 名、低群 124 名)。 ポジティブ能力得点について、高群 4 名、低群 184 名となっており、ポジティブ場 面において能力帰属する人が著しく少なかったため、今回は能力帰属は検定から除 外する。そして、ポジティブ努力得点、ポジティブ課題得点、ポジティブ運得点、 の高低群によって、援助要請方略の因子得点に違いがあるのかを検討するため、対 応のない t 検定を行った。 まず、ポジティブ努力得点の高低群における学業的援助要請の因子得点の違いの 結果を、Table 12 に示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、 Fig. 3 として示した。 Table 12 ポジティブ努力得点高低群における各学業的援助要請因子得点の平均値 の t 検定結果 ポジティブ努力得点 ポジティブ努力得点高群 努力得点高群 ポジティブ努力得点 ポジティブ努力得点低群 努力得点低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 0.11 0.90 -0.27 1.16 -2.42* 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 0.07 0.90 0.17 1.19 1.52 3.要請回避 3.要請回避 -0.15 0.97 0.36 0.98 3.26** **p<.01,*p<.05 27 0.4 ポジティブ ポジティブ努力得点 努力得点 0.3 0.2 0.1 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 0.11 0.07 -0.15 低群平均 -0.27 0.17 0.36 Fig. 3 ポジティブ努力得点高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 12、Fig. 3 によると、ポジティブ努力得点高群と低群を比較すると、適応 的援助要請では 5%水準で有意な差が認められ(t(186)=-2.42, p<.05)、要請回避にお いては 1%水準で有意だった(t(186)=-3.26, p<.01)。また、依存的援助要請において は、ポジティブ努力得点高群低群で有意な差が見られなかった(t(186)=1.52(n.s.)) 28 次に、ポジティブ課題得点の高低群における学業的援助要請の因子得点の違いの 結果を、Table 13 に示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、 Fig. 4 として示した。 ポジティブ課題得点高低群における各学業的援助要請因子得点の平均値 Table 13 の t 検定結果 ポジティブ課題得点高群 ポジティブ課題得点高群 ポジティブ課題得点低群 ポジティブ課題得点低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 -0.08 1.09 0.36 0.96 0.74 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 0.19 1.06 -0.09 0.96 -1.80 3.要請回避 3.要請回避 0.30 0.98 -0.14 0.98 -2.87** **p<.01 0.4 ポジティブ ポジティブ課題得点 課題得点 0.3 0.2 0.1 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 -0.08 0.19 0.3 低群平均 0.36 -0.09 -0.14 Fig. 4 ポジティブ課題得点高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 13、Fig. 4 によると、ポジティブ努力得点高群と低群に比べると、要請回 避は 1%水準で有意な差が見られた(t(186)=-2.87, p<.01)。適応的援助要請、依存的 援助要請においては、ポジティブ課題得点高群低群で有意な差が見られなかった (「適応的援助要請」:t(186)=0.74(n.s.)、「依存的援助要請」: t(186)=-1.80(n.s.)) 29 次に、ポジティブ課題得点の高低群における学業的援助要請の因子得点の違いの 結果を、Table 14 に示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、 Fig. 5 として示した。 ポジティブ運得点高低群における各学業的援助要請因子得点の平均値の Table 14 t 検定結果 ポジティブ運得点高群 ポジティブ運得点高群 ポジティブ運得点低群 ポジティブ運得点低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 -0.36 0.99 0.19 0.99 3.67** 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 0.03 1.15 -0.01 1.15 -0.28 3.要請回避 3.要請回避 0.25 0.96 -0.13 0.96 -2.54* **p<.01,*p<.05 0.4 0.3 ポジティブ ポジティブ運得点 運得点 0.2 0.1 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 -0.36 0.03 0.25 低群平均 0.19 -0.01 -0.13 Fig. 5 ポジティブ運得点高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 14、Fig.5 によると、ポジティブ運得点高群と低群を比べると、適応的援助 要請は 1%水準で有意(t(186)=3.69, p<.01)、ポジティブ運得点高群と低群を比較す ると、要請回避については 5%水準で有意な差が認められた(t(186)=3.69-2.54, p<.05)。依存的援助要請においては、ポジティブ運得点高群低群で有意な差が見ら れなかった(t(186)=-0.28(n.s.)) 30 ② ネガティブ場面における原因帰属得点の高低群と各学業的援助要請方略因子 の関連 原因帰属方略のネガティブ場面における努力得点、課題得点、運得点それぞれを 得点が平均値以上を高群、平均値以下を低群に群分けした(ネガティブ努力得点高群 129 名、低群 58 名,ネガティブ課題得点高群 83 名、低群 104 名,ネガティブ運得 点高群 27 名、低群 160 名)。そして、ネガティブ努力得点、ネガティブ課題得点、 ネガティブ運得点の高低群によって、援助要請方略の因子得点に違いがあるのかを 検討するため、対応のない t 検定を行った。 まず、ネガティブ努力得点の高低群における学業的援助要請の因子得点の違いの 結果を、Table 15 に示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、 Fig. 6 として示した。 Table 15 ネガティブ努力得点高低群における各学業的援助要請因子得点の平均値 の t 検定結果 ネガティブ努力得点高群 ネガティブ努力得点高群 ネガティブ努力得点低群 ネガティブ努力得点低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 -0.01 1.02 -0.01 0.93 0.37 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 -0.06 0.93 1.16 1.11 1.37 3.要請回避 3.要請回避 -0.02 0.98 0.06 1.05 0.47 31 0.4 ネガティブ ネガティブ努力得点 努力得点 0.3 0.2 0.1 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 -0.01 -0.06 -0.02 低群平均 -0.01 0.16 0.06 Fig. 6 ネガティブ努力得点高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 15、Fig. 6 によると、適応的援助要請、依存的援助要請、要請回避のすべて において、ポジティブ運得点高群低群で有意な差が見られなかった(「適応的援助要 請」 :t(185)=0.37(n.s.)、 「依存的援助要請」 : t(185)= 1.37(n.s.)、 「要請回避」 :t(185)= 0.47(n.s.)) 32 次に、ネガティブ努力得点の高低群における学業的援助要請の因子得点の違いの 結果を、Table 16 に示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、 Fig. 7 として示した。 ネガティブ課題得点高低群における各学業的援助要請因子得点の平均 Table 16 値の t 検定結果 ネガティブ課題得点高群 ネガティブ課題得点高群 ネガティブ課題得点低群 ネガティブ課題得点低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 0.02 0.95 -0.04 1.03 -0.38 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 -0.06 1.00 0.06 0.99 0.81 3.要請回避 3.要請回避 0.00 1.02 0.01 0.99 0.07 0.4 ネガティブ ネガティブ課題得点 課題得点 0.3 0.2 0.1 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 0.02 -0.06 0 低群平均 -0.04 0.06 0.01 Fig. 7 ネガティブ課題得点高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 16、Fig. 7 によると、適応的援助要請、依存的援助要請、要請回避のすべ てにおいて、ポジティブ運得点高群低群で有意な差が見られなかった(「適応的援助 要請」:t(185)=-0.38(n.s.)、「依存的援助要請」: t(185)=0.81(n.s.)、「要請回避」: t(185)= 0.07(n.s.)) 33 次に、ネガティブ努力得点の高低群における学業的援助要請の因子得点の違いの 結果を、Table 17 に示した。さらに、その因子得点の平均値をグラフ化したものを、 Fig. 8 として示した。 ネガティブ運得点高低群における各学業的援助要請因子得点の平均値の Table17 t 検定結果 ネガティブ運得点高群 ネガティブ運得点高群 ネガティブ運得点低群 ネガティブ運得点低群 平均 SD 平均 SD t値 1.適応的援助要請 1.適応的援助要請 0.24 0.96 -0.05 0.99 -1.45 2.依存的援助要請 2.依存的援助要請 0.09 1.05 -0.00 0.99 -0.46 3.要請回避 3.要請回避 0.08 1.10 -0.00 0.98 -0.36 0.4 0.3 ネガティブ ネガティブ運得点 運得点 0.2 0.1 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 1.適応的援助要 請 2.依存的援助要 請 3.要請回避 高群平均 0.24 0.09 0.08 低群平均 -0.05 0 0 Fig. 8 ネガティブ運得点高低群における各学業的援助要請得点の平均値 Table 17、Fig. 8 によると、適応的援助要請、依存的援助要請、要請回避のすべ てにおいて、ポジティブ運得点高群低群で有意な差が見られなかった(「適応的援助 要請」:t(185)=-1.45(n.s.)、「依存的援助要請」: t(185)=-0.46(n.s.)、「要請回避」: t(185)= -0.36(n.s.)) 34 第3節 考察 結果について、まず、教師のサポート認知との関連において、1%水準で有意な差 が認められた箇所に注目する。情緒的サポート認知の低群は高群よりも依存的援助 要 請 や 要 請 回 避 を し や す い こ と が わ か っ た 。 要 請 回 避 に つ い て は Ryan & Pintrich(1997)の示した脅威のように、「質問すると教師に馬鹿だと思われる」とい うような思いを持つと要請回避をすることが示されているので、情緒的サポートを 感じられない場合に要請を回避することは先行研究に沿った結果となった。反対に、 依存的援助要請については、予想と反する結果となった。サポート的な教師に対し ては生徒も援助要請を行いやすく、ついその教師に頼った援助要請をとってしまう ことが考えられ、サポート的な教師に対しては依存的な援助要請をすることが予想 された。しかし、必ずしも教師がサポート的であることが依存的援助要請に結び付 くというわけではないことがわかった。 5%水準で有意な差が見られた箇所について考察する。情緒的サポート・教育的サ ポート共に、サポート認知の高い群は低群に比べて適応的援助要請を行うことがわ かった。生徒の自律的な学習を促す時、教師のサポート的な態度が重要であること が示されたと言える。教師は、生徒の学習を援助する際に自らの態度が生徒の学習 にとって適切であるか振り返る必要がある。また、教育的サポート認知が低い人は 高い人よりも依存的援助要請をしやすいことがわかった。教師が質問に意義を感じ ていると認知できないと依存的な要請をすることを示している。情緒的サポートが 高いと認知できない場合でも、依存的援助要請をしやすいことが 1%水準で有意な差 が認められている。依存的援助要請は、教師のサポート認知が高すぎる時起こるこ とが予想されたが、予想に反して、教師のサポート態度が低いと依存的援助要請に 結びつくことがわかった。 次に、原因帰属との関連において考察する。ポジティブ努力得点低群は高群より も有意に要請回避するという結果となった。このことから、学業的によい結果が得 られた場合にその原因を自分の努力のせいだと原因帰属しない人は、自分の努力に 帰属する人よりも要請回避をするということがわかった。また、ポジティブ課題得 点高群は低群よりも有意に要請回避をするという結果も見られた。このことから、 学業的によい結果が得られた場合にその原因を課題が困難だったせいだと原因帰属 する人は、課題の困難度に帰属する人よりも要請回避をするということがわかった。 以上の 2 つの結果は、ポジティブ場面で努力帰属しない人、課題の困難度に帰属す 35 る人は要請回避の援助要請方略を選択しやすいということである。ポジティブ場面 で努力帰属しない人については、自分の努力以外の要因おかげでうまくいったと認 知していて、課題の困難度に帰属する人については、よい結果が得られたのは課題 が易しかったためだと認知している。どちらも、結果と自分の努力の関連を感じる ことができていないと考えられる。先行研究によると、要請回避の原因となる学業 的援助要請への抑制態度については、Ryan & Pintrich(1997)が扱った能力感への脅 威や、Butler(1998)・野崎(2003)が示した自律性などがある。しかし、今回の結果 をみると、能力感への脅威とも、自律性とも考えづらいため、これらの要因とは別 に、結果と自分の努力の関連を感じることができていないということが要請回避の 方略を選択する原因となっていると考えられる。反対に、自分の努力と結果の関連 を感じることができるならば、要請回避を取りにくくなるかもしれない。吉田・二 村(1996)は、学習者の努力と結果の随伴性認知を高め、学習意欲と課題遂行結果を 向上させるために有効であると考えられるフィードバック方法の効果について検討 している。 「学習者に一定の形式のドリルを使って家庭学習をするように要請し、翌 朝そのドリルを回収するとともにテストを行い、さらに、その日の帰りに結果をフ ィードバックする」という一連の施行を繰り返した。そして、努力帰属フィードバ ックを行うことや努力と結果の随伴現象を提示することを行い、その結果、それら が学習意欲と課題遂行結果を向上させる上で有効であることが立証された。このこ とから、教師が努力帰属フィードバックを行うことや努力と結果の随伴現象を提示 することが要請回避を減少させることに繋がるかもしれない。 次に、ネガティブ場面の原因帰属方略と学業的援助要請との関連について考察す る。本研究では、ネガティブな場面において、努力・課題の困難度・運のいずれの 高群低群間にも有意な差が認められなかった。このことから、ネガティブ場面の帰 属のしかたと学業的援助要請のしかたとは、関連が見られないといえる。Ryan & Pintrich(1997)の示した脅威を考慮するなら、ネガティブ場面で自分の能力以外に原 因帰属する人は要請回避すると予想される。しかし、本研究では予想とは異なった 結果となった。失敗の努力帰属には、低能力評価を避けるための防衛的機能がある とともに、やればできるという気持ちを高めることもあり、人によってその意味付 けは変わってくると考えられる。先行研究においても、三宅(2000)が、ネガティブ な出来事を統制可能な要因にきぞくすることには将来の期待を低めない帰属様式を 有していると解釈している。 36 さらに、原因帰属方略と学業的援助要請との関連が、全体的に予想よりもはっき りと差が出ることはなかったことについて考察する必要がある。まず、個人がどの ような原因帰属をするのかというパーソナリティ変数を質問紙上で検討することの 問題が考えられる。同じ個人でも、詳細な場面・状況の要因によってさまざまな帰 属を選択することが予想される。例えば「もしもあなたが試験の問題を簡単に解く ことができたとしたら」という質問に対してどのような帰属を行うかは、被験者が その試験に向けてどれだけ努力したのかが大きく関係するだろう。いつもはしっか りと勉強して試験に臨み、うまくいった場合に努力帰属をする被験者でも、試験の 準備が十分ではなかった場合は課題の困難度や運に帰属することも考えられる。こ のように、詳細な場面・状況の要因によって帰属スタイルが容易に変容することを 考慮した検査を工夫し、原因帰属方略の評価のしかたを再検討する必要がある。 また、今後はいくつかの原因がかさなって生まれる効果の可能性も考えていきた い。先行研究においても、学業的援助要請を選択する際の、原因帰属とは別のパー ソナリティ要因として、個人の達成目標(Newman & Schwager, 1995)やコンピテ ンス認知 (Karabenick & Knapp,1991) 、つまずき明確化方略(瀬尾, 2007)などと の関連が示されている。これらすべてが関連しあって、学業的援助要請が選択され ると考える必要があるといえる。 37 ≪引用文献≫ 相川充 1989 援助行動 大坊郁夫・安藤清志・池田謙一(編著) 社会心理学パースペク ティブ 1 個人から他者へ 誠信書房 Butler, R. 1998 Determinants of help seeking : Relations between perceived reasons for classroom help-avoidance and help-seeking behaviors in an experimental context. 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Hillsdate, HJ : Erlbaum 成田健一・下仲順子・中里克治・河合千恵子・佐藤眞一・長田由紀子 的自己効力感尺度の検討―生涯発達的利用の可能性を探る― 1995 特性 教育心理学研 究, 43, 306-314 Newman, R.S. 1990 Children’s help seeking in the classroom : The role of motivational factors and attitudes. Journal of Educational Psychology, 82, 71-80 Newman,R.S., & Schwager, M.T. solving : 1995 Students’ help seeking during problem Effect of grade, goal, and prior achievement. American Educational Research Journal, 32, 352-376 ニューマン, R.S. と動機づけ 2009 自己調整学習 シャンク・ジマーマン(編著)自己調整学習 北 大 路 書 房 (Newman, R.S. In D.H. Schunk & B.J. Zimmerman(Eds.)Motivation and Self-Regulated Learning. Routledge. 2008, Pp.315-337) 野崎秀正 2003 生徒の達成目標志向性とコンピテンス認知が学業的援助要請に 及ぼす影響―抑制態度を媒介としたプロセスの検証― 141‐153 教育心理学研究, 51, 39 岡島京子 親和動機測定尺度の作成(尺度構成とその妥当性, 測定・評価 1, 1988 測定・評価) 日本教育心理学総会発表論文集(30), 864-865 Rotter, J. B. 1966 Generalized expectancies for internal vs. external control of reinforcement. 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Rand Mcnally 吉田寿夫・二村文生 1996 日本教育心理学総会発表論文集(38), 392 40 中学生の 中学生の学習の 学習のしかたについての調査 しかたについての調査 この調査は、みなさんが中学生活の中で、どのように学習しているのかを調べるためのものです。この アンケートの内容は人に知られることはありません。また、ここでの回答は、成績には一切関係ありませ んので、思った通りに答えてください。なお、裏面もありますので、忘れずに回答してください。 あなたの性別 あなたの性別に 性別に○をつけてください。 をつけてください。( 男 ・ 女 ) あなたの学年 あなたの学年と 学年とクラスを クラスを記入してください 記入してください。 してください。( )年( )組 〈質問 1〉あなたが学習 あなたが学習をしていて 学習をしていて、 をしていて、難しい問題 しい問題にであったとします 問題にであったとします。 にであったとします。そんな時 そんな時、あなたは あなたは周りの先生方 りの先生方 に対してはどのような してはどのような行動 はどのような行動をしますか 行動をしますか? をしますか?下の各項目について 各項目について、 について、自分にもっとも 自分にもっとも当 にもっとも当てはまると思 てはまると思う数字 1 つ に○をつけてください。 をつけてください。 ま ったくあ てはまらな い あ てはまらな い は、いつも 5 3 2 1 ま ったくあ てはまらな い 4 あ てはまらな い 5 どちらとも いえな い にであったと には、す に 4 あ てはま る 中、 からない かに くようにする。 と てもあ てはまる スト どちらとも いえな い )) からない 1. あ てはま る と てもあ てはまる ((回答 生 に答えを こうとする。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 2 1 41 生に 2. すると 、 を くための ントよりは、答えを く。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ で えて、どうしても 3. からなかったと だけ、 ン ー 生に トを って、 で し えたら かる 6. を くのに で、 の でも 生の けを 生に とする に する。 ・・・・・ でも、 の で するのが しい にであったと でも、 は 生に すると 、 の の 中、 からないことがあったら、 たりして、で るだけ で 11. 調べてもよく からない れるように ] または 生に 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 の答えではなく、 くための ントを えてもらう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10. 5 生に しないで、 のままにしておく。・・・・・・・・・・・・・・・ 9. 1 だったら、 く。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8. 2 しない を のままにしておく。・・・・・・・・・・・・・・・ に り組んでいると 、 し えて からない 7. 3 でい い 調べたあとで、 する。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5. 4 生に する。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4. 5 で えたり、 を調べ しようとする。 ・・・・・・・・・・ の内容について、 かるように してく 。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 〈質問 2〉あなたの周 あなたの周りの先生方 りの先生方についての 先生方についての質問 についての質問です 質問です。 です。下の各項目について 各項目について、 について、自分にもっとも 自分にもっとも当 にもっとも当てはまる と思う数字 1 つに○をつけてください。 をつけてください。 のためになる 生は 生 が し て も 、 っ と 生は、 することは である と 生は、 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 えてい だんからあなたの をよく かってくれ る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17. 2 け て く れ る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16. 3 と思ってい る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15. ま ったくあ てはまらな い 生 は 、 あ な た が 4 あ てはまらな い することは生 る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14. どちらとも いえな い 生は 5 を っても、 な をしないで いてくれ る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13. あ てはま る 生は、あなたが み と てもあ てはまる 12. するとで るだけ 切に えてくれる。・・・・・・・・ 43 〈質問 3〉あなたが次 あなたが次のような場面 のような場面にであったとします 場面にであったとします。 にであったとします。そんな時 そんな時、あなたはその原因 あなたはその原因は 原因は何だと考 だと考えます か?下の各場面について 場面について、 について、自分にもっとも 自分にもっとも当 にもっとも当てはまると思 てはまると思う数字 1 つに○をつけてください。 をつけてください。 ((回答 )) 1. もしもあなたが 通り をすすめることがで たら 1. は がいいから にで たから 3. に 2.一生 り組んだから 4. がよかったから 18. もしもあなたがよい成績をとったとしたら 1. は がいいから 3. に 2.一生 にで たから り組んだから 4. がよかったから 19. もしもあなたが い成績をとったとしたら 1. は が だから 2.一生 3. しかったから 4. が かったから 中の 20.もしもあなたが 生の に しく答えることがで たとしたら 1. は がいいから 3. が 1. は 3. が が 中 4. がよかったから 生の に とんど答えることがで なかったとしたら だから の 4. が かったから を に くことがで たとしたら 1. は がいいから 3. が 1. は 3. が が の が 2. スト しかったから された を 3. が を くのに しかったから らなかったから がでたから に り えることがで たとしたら 2.一生 だったから を しなかった 4. に り組んだから 4. がよかったから 25.もしもあなたが学 で された 1. は したから を とんど くことがで なかったとしたら 1. は がいいから 3. スト 4. がよかったから だから 24. もしもあなたが学 で に 2.一生 だったから 23. もしもあなたが をしっかり いていなかったから 2. しかったから 22. もしもあなたが をしっかり いていたから 2. だったから 21. もしもあなたが に り組まなかったから を がかかるから り えることがで なかったとしたら 2.一生 に り組まなかったから 4. が かったから 44 《謝辞》 の 成にあたり、 いただ ました、 学の をいただ ました 学 生に く また、調査に し、 く していただいた、 ート に、 くお しあ ます。 生 およ 、 いたします。 中学 の 生 切 な 、生 の 大学生における偶発的な孤立状況に対する行動および感情 ―被異質視不安・自尊感情と関連づけて― 滋賀大学教育学部 学校心理コース 8089 真藤浩大 問 題 近年、学生の便所飯という言葉が新聞などテレビなどのメディアにとりあげられた。便所飯とは食事を摂る時 間において, 一緒に食事をとる相手がおらず便所の個室でひとり食事をとるというものだ。この言葉は2005年初 めから2006年頃にインターネット上で広まり, 特に寂しい学生生活を表すスラングとして, 面白半分のニュア ンスで語り継がれていったとされる。その後, 次第にメディアで注目されるようになり、2009年に朝日新聞が社 会現象として取り上げ, 情報番組でも紹介された際には, ネット上で「便所飯」が検索キーワードとして急上昇 するなど大きな反響があった。ある学校では便所に「食事禁止」の貼り紙がされるなど話題となったが, 実際に そのような行為が行われているのか, どの程度の規模・頻度で起こりえるのかは不明であり信憑性のある話なの かは定かではない。しかし, 掲示板への書き込みや, ニュースでのインタビューなどを見ると便所飯を実際にし たことのある学生がいることは否定できないだろう。町沢(2001)は学校や職場で1人で食事する姿を見られない ように隠れて食事を取る現象を「ランチメイト症候群」と呼んだ。この現象の延長戦上に,この大学生の「便所 飯」があると考えることができる。こうした便所飯の実在を疑問視する意見に対して, ランチメイト症候群の命 名者である町沢静夫による, 実際に「便所飯」に関する相談を何度か受けているという談話を紹介した。また, 「便所飯」を体験したことのあるという人物の談話や, 外国でも便所飯の痕跡を見たという目撃談などを紹介, 実在を疑われるのは便所飯自体が他人に知られないための行為であり, また辛く苦しい体験であるために, 名 乗り出る人が少ないからではないかという意見を取り上げた。 なぜ青年はそのような行為をしようと考えるのだろうか。食事を摂るためには一緒に食事を摂る仲間がいなけ ればならない理由はなく, わざわざ便所に行って食事を摂る必要性はない。にもかかわらず, 実際に食堂やファ ミリーレストランなど食事を摂るための場所に行ってみると, ひとりで食事を摂る青年は稀にしか見ることは ない。和田(2010)は「便所飯をする学生の心理は友達がいないのが嫌ではなく,ひとりで昼食を食べている姿を 見られるのを何よりも嫌っている」と報告している。つまり、青年がひとりで食事を摂りたがらないのは, 自身 がひとりで食べている姿を見られることに, 非常に不快な感情を抱くからだと考えられる。しかし, ただ食事を 摂るという場面にもかかわらず, なぜ青年はその姿を見られることに不快感を覚えるのだろうか。食事は誰しも が摂らなければならないものであり, その行為自体は決して恥じるものではない。とすれば, ひとりで食事を摂 ること自体が不快なのではなく, その姿を見られる, ということに不快感を抱き, そして、その不快感から逃れ るために, 結果として便所飯という行為におよぶ, と考えられる。そのため, 便所飯という行為は, 現代の青年 の対人関係と関連する行為であると考えられる。 現代青年の対人関係の特性として, 深い関わりを避け, 表面的な付き合い方をする傾向が指摘されている。実 1 際に, 現代青年が友人と心理的な距離をおき, 形だけの表面的な付き合い方をしていることがいくつかの調査 で報告されている(野田, 1999 ; 岡田, 2007)。山田・安東・宮川・奥田(1987)は臨床上の知見から現代青年の ふれあい恐怖的心性を指摘している。上野・上瀬・福富・松井(1994)は高校生の友人関係について, 「表面群」 の存在を実証的に報告している。また、町沢(1992)は, 現代の青年が強迫的なまでに表面上の見栄えにこだわる ことを指摘し, 浅い接触しかできなくなっていることを指摘している。このことからも, 現代の青年が対人関係 において深いかかわりを避ける傾向をもっていることは十分に予測できる。しかし, 深い関係を避けているにも 関わらず, なぜ表面的な付き合い方を維持しているのだろうか。 現代の青年が深い関係を避けるのは、先に述べたように, 深くかかわることで自身が傷つくことを恐れている からだと考えられる。そのうえで, 表面的であるにしても対人関係を形成・維持しようと考えるのは, そうしな ければ自身が傷つく可能性があると現代の青年が認識しているからではないだろうか。Leary(1990)によれば, 人に不安を抱かせる中心的な要因は他人がくだす評価への関心である。対人不安が高い人ほど他人からの評価を 否定的に予測する傾向があることが報告されている(守谷・佐々木・丹野, 2007)。つまり, 周囲から否定的に評 価されることを恐れているために表面的な関係を維持していると考えられ, 青年期の友人関係における同調性 への圧力(Brown, 1982)の強まりや, 仲間と同じであることの重要性に関する指摘(岡村・加藤・八巻, 1995)を 踏まえると, 友人と表面的なつきあい方をしている青年は, 友人から“異質な存在にみられることに対する不安” (以下、被異質視不安)を持っていると考えられる。また, 青年期前期において, 友人関係に同質性を重視し, そ のために自分たちとは異質な友人を拒否しようとする心性が生じる。榎本(2003)は青年期前期に相当する中学生 において同質性を重視する友人関係がみられることを明らかにしている。これらのことから, 現代の青年が希薄 な関係にも関わらず, ひとりでいることを嫌うのは, 周囲からの否定的な評価を避けるために, 周囲ととけこ むこと, 異質であることを避けようとするためであると考えられる。つまり先に述べた便所飯という行為を例に とると, 周囲で仲良く食事をしている環境下において, ひとりで食事をとることを異質なものととらえたため, 便所飯はそれを解消する行為といえるだろう。 昨今では,高校生までの発達課題を達成することができないまま大学に入学した学生や,友人や家族との対人 関係,さらに大学生活における不安の増大に起因する大学不適応を示す大学生の増加が指摘されており(及川・ 坂本, 2008),多くの大学が彼らの学生生活への適応を促すためのより有効な学生支援プログラムのあり方を模 索している。「便所で昼食をとる」大学生の存在そのものが,このような支援の必要性を裏付けているとも言え るが,確立された支援プログラムはまだない。そのため,大学生の昼食行動に限らず,彼らの学内における行動 やそれに関連する心理的背景について定量的,客観的なデータを蓄積することが,彼らの大学生活への適応を促 すためのより良い支援の在り方を考える上で喫緊の課題といえる。くわえて, 現在の大学生は「ゆとり世代」と 呼ばれ, コミュニケーション力不足や, 自習性のなさが問題に挙げられるなど, 対人的な問題が多いと予測さ れる。そこで本研究では現代の大学生の大学生活への適応を促進するためのより効果的な取り組みを構築するた めの手がかりを得るため, 彼らの集団としての実態を把握することを目的に,大学生の学内におけるひとりでの 昼食行動と被異質視不安との関連を検討する。 ひとりでの食事を避ける行為が, 周囲から否定的にみられることの不快感からくるものだとすれば,その状況 も 1 つの要因として考えられるのではないだろうか。たとえば, 否定的な評価をする他者が今後の自身の生活に 関わってくる場合は, できるだけその評価を避けようと考えるだろう。しかし、否定的な評価をする他者が, 今 後の自身の生活におそらく関わってこないだろう, という場合、そこまで否定的な評価を不安に感じるだろうか。 つまり、被異質視不安は自身のおかれた状況によって増減すると考えられる。そこで, 本研究において昼食行動 と被異質視不安との関連をみる際に, 特定の状況下で関連がみられた可能性を考慮しておく必要があると考え, 本研究では予備調査を実施する。現代の大学生にとって, 大学内における食事場面が果たして本当に被異質視不 2 安を感じる状況なのか, ということを比較・検討することを目的に行う。大学構内で特定の場所でしか行動でき ない場所は食堂に限定されており, 他の休憩時間や講義時間などにおいては, 図書館や, PC 室など一人でいる ことが異質でない環境に自身をおくことができることを考えると, 大学構内で被異質視不安をもっとも感じや すいのは食堂であることが予測される。また, 予備調査を用いることで, 偶発的孤立状況に対してどのような行 動や感情を抱くかを予め抽出し, 本調査に反映させることができる。本調査では, 自身の今後の生活と関わりの ある環境として自身の通う大学と自身の生活と関わりの薄い環境として他の大学を想定する。 また, Rosenberg(1965)は, 自尊感情を自己に対する肯定的または否定的な態度であると考え, 自尊感情が高 いということは, 自分自身を尊敬し, 価値ある人間だと考える程度が高いことであり, 自尊感情が低いという ことは, 自己拒否, 自己不満足, を表しており, この自尊感情の高低は対人行動にも大きな影響を及ぼす。他者 が自身をどのように評価しているかを否定的にとらえることで対人不安は増大する。Elkind(1967)は, 形式的推 論の達成によって生じる, 青年が自分の持っている考えや関心は, 他者も自分と同程度に持っていると推論し てしまう青年期における自己中心性について論じている。また, 岡田(2007)は, 自尊感情の水準が高い群は希薄 でない友人関係を持ちやすく, 自分が受容されている意識を抱きやすいことを報告している。対して, 自尊感情 の水準が低い群は, 希薄な友人関係を持ちやすく周囲から拒絶されるかもしれないという不安を抱きやすく, 自己を低く評価しがちであることも報告している。ここから, 青年が自身に行う自己評価は, 他者も自身がとら えているように自身のことを評価しているだろうと推論することにつながる。そのため, 他者が低く自身のこと を評価しているのではないか, 異質なものとみているのではないか, という対人不安は自分自身の評価である 自尊感情と関連を持つと考えられ, 自尊感情が高いほど被異質視不安は低くなるのではないかという仮説を持 ち, 自尊感情を被異質視不安の個人差要因として検討する。 以上から, 本研究では現代の大学生の大学生活によりよい支援を行うために, 対人関係の実態を把握するこ とを目的とし, 現代の大学生が希薄な友人関係にも関わらず, ひとりでいることを避ける行為を被異質視不安 との関連, および被異質視不安と自尊感情との関連を検討することを目的とする。この目的のために以下の手続 きをとる。現代青年の特性から故意にひとりでいる状況に陥ることは稀であると考えられるため, 本研究では偶 発的にひとりになってしまった場面(以後, 偶発的孤立状況)を想定した質問紙により調査を実施する。 予 備 調 査 方 法 目的 食堂場面が大学生にとって, 被異質視不安を感じやすい環境であるか否かを, 他場面との比較によって検討 する。 調査対象者 教育学部の大学に通う 95 名(男性 51 名、女性 44 名、1 回生 34 名、2 回生 16 名、3 回生 37 名、4 回生 12 名) を調査対象とした。 調査時期 2011 年 6 月~7 月の期間に講義時間の一部を利用し集団実施し, その場で回収した。 調査の概要 予備調査では, 学内でひとりになる可能性のある「食堂」「休憩時間」 「講義」の 3 つの場面において,偶発的に 孤立状況に陥った際の感情および行動を比較検討するための質問紙を作成した。 3 それぞれの場面設定を, 食堂場面では, 「あなたは大学内で昼食をとろうと食堂に来ましたが、近くには友人 がおらず『ひとり』です。 」, 休憩時間の場面では, 「あなたは昼食後の3限が休講になったため4限まで空き時 間があります。しかし、同じ時間に空き時間のある友人はおらず『ひとり』です。特に急いでやらなければなら ない課題などはありません。」, 講義場面では, 「あなたは大学で興味のある説明会をうけるために教室に行きま したが、友人がおらず『ひとり』です。なおその説明会は自由参加で成績には影響しません。 」とした。 各場面における1つめの質問項目として, 偶発的孤立状況に対する感情に関しての項目を作成した。「あなた は次の感情をどの程度感じると思いますか。それぞれの感情に対してもっともあてはまる数字1つに○をつけ てください。」と教示し「不安」 「寂しさ」 「つらさ」 「恥ずかしさ」の 4 項目に対して「とても感じる~まった く感じない」の 5 段階評定で回答を求めた。 2 つめの項目として, 選択した感情を抱く理由に関する項目を作成した。 「何故, 『ひとり』のとき(1)のよ うに感じる(感じない)と思うかを( )内に自由に書いてください。答えにくければ(1)の感情から1つを選 んで何故そう感じる(感じない)か書いてください。」と教示し, 自由記述による回答を求めた。 3 つめの質問項目として, 偶発的孤立状況に対する行動に関しての項目を作成した。 「このような時, あなた はどのように行動していますか。もっともあてはまる数字1つに○をつけてください。あてはまるものがない 場合「4.その他」を選び( )内に具体的な行動を書いてください。」と教示し, 「ひとりを避け立ち去る」 「友人がくるまで待つ」 「気にせずとどまる」 「その他」の 4 項目から選択式で回答を求めた。 4 結 果 と 考 察 偶発的孤立状況に対する感情に関して, 回答の分布(Fig.1)から, 休憩・講義場面にくらべネガティブな感情 項目はすべて食堂場面において感じる割合が大きい。大きな差異はないが, 講義場面にくらべ休憩場面のほうが ネガティブな感情を感じる割合は大きい。そこで各場面における感情の平均値を算出し(Table 1), t 検定により 平均値の差を検討した。その結果, すべての感情項目に関して, 食堂と休憩・講義場面との平均値には 1%水準で 優位な差があることが認められた(Table 2)。その結果, ネガティブな感情は食堂, 講義, 休憩の順に感じやす い。 Fig. 1 予備調査における偶発的孤立状況に対する感情 4 項目の分布 5 Table 1 予備調査における偶発的孤立状況に対する感情 4 項目の平均および標準偏差 平均値 食堂 不安 寂しさ つらさ 恥ずかしさ 休憩 不安 寂しさ つらさ 恥ずかしさ 講義 不安 寂しさ つらさ 恥ずかしさ 標準偏差 2.67 3.42 2.51 2.58 1.36 1.15 1.20 1.29 1.36 1.77 1.36 1.21 .667 1.06 .651 .544 2.15 2.29 1.63 1.58 1.28 1.32 .923 .894 Table 2 予備調査における感情 4 項目の状況別における平均値の差および相関 標準偏差 1.30 1.20 1.44 t値 不安 食堂×休憩 休憩×講義 講義×食堂 平均値 1.32 .789 .526 9.88** 6.40** 3.56** 自由度 94 94 94 相関係数 .340** .374** .406** 寂しさ 食堂×休憩 休憩×講義 講義×食堂 1.65 .526 1.13 1.29 1.37 1.27 12.5** 3.75** 8.62** 94 94 94 .319** .355** .473** つらさ 食堂×休憩 休憩×講義 講義×食堂 1.15 .274 .874 1.15 .881 1.24 9.74** 3.01** 6.87** 94 94 94 .351** .416** .342** 食堂×休憩 恥ずかしさ 休憩×講義 講義×食堂 1.37 .368 1.00 1.29 .826 1.31 10.4** 4.34** 7.47** 94 94 94 ** p <.01 * .218* .425** .333** p <.05 次に偶発的孤立状況に対する行動を場面別に分布で確認した。質問項目に対して「1.『ひとり』でいずに移動 する」を移動群, 「2.友人を呼び, 来るまで『ひとり』でいる」を待機群, 「3.かまわず『ひとり』でいる」を 孤立群, とした。移動群は食堂場面において大きな割合を示し, 次いで休憩場面, 講義場面だった。待機群は移 動群と同様に食堂場面において大きな割合を示し, 次いで講義場面, 休憩場面だった。孤立群は休憩・講義場面 において 8 割以上の割合を示したが, 食堂場面では 5 割程度の割合だった。食堂場面では, 他の場面と比べひと りでいる割合が少なく, ひとりでいる状況を避けようとする移動群・待機群が 5 割を占めた。 以上から食堂場面は大学構内において, 他の場面にくらべてひとりでいることに不安を感じやすく, それを 避けようとする行動が多くみられる場面である。 6 Fig. 2 予備調査における偶発的孤立状況に対する行動項目の状況別分布 本 調 査 方 法 調査対象者 教育学部の大学に通う 156 名(男性 72 名, 女性 82 名, 不明 2 名:1 回生 55 名, 2 回生 59 名, 3 回生, 4 回生 4 名, 院生 5 名:18 歳 23 名, 19 歳 49 名, 20 歳 48 名, 21 歳 19 名, 22 歳~17 名, 平均年齢 20 歳)を調査対象と した。 調査時期 2011 年 10 月~11 月の期間に講義時間の一部を利用し集団実施し, その場で回収した。 調査の概要 予備調査結果を参考に本調査用紙を作成し,本調査を実施した。講義担当者の許可が得られた講義の終了後, 講義受講者に質問紙用紙を配布,本研究の目的および回答の方法について口頭および書面で教示した。質問紙は フェースシート(学部、課程、回生、年齢、性別)、偶発的孤立状況における行動および感情項目、被異質視不安 尺度項目、自尊感情尺度項目で構成された質問紙を作成した。 問題で述べたように, 環境による被異質視不安の変化を考慮するため, 自校・他校の2つの状況を設定した。 それぞれの状況を, 自校では, 「あなたは昼の講義終了後、自分の通う大学内で昼食をとろうと考え1人で食堂 に来ましたが、近くには友人がおらず『ひとり』になります。なお、その日の昼食は食堂以外の場所でもかまい ませんが自宅以外でとるものとします。 」, 他校では「あなたは説明会があるので友人と他の大学にいます。友 人とは別の説明会に参加していたので1人で昼食をとろうと食堂に来ましたが、近くには友人や知人がおらず 『ひとり』になります。 」と教示した。 また, フェースシートを除く項目の仔細を以下に示す。 (1)偶発的孤立状況における行動および感情項目 自身の通う大学および異なる大学において偶発的に孤立状況に陥った際に, どのような行動をとるか、とする 7 行動の項目を作成した。「あなたはどのような行動をとりますか。次の行動からもっともあてはまる数字1つに ○をつけてください。あてはまるものがない場合「6 その他」を選び( )内に具体的な行動を書いてください。」 と教示し, 予め設定した 6 項目の行動から自身がとるであろう行動を選択式により回答を求めた。なお, 偶発的 孤立状況に対する行動項目は以下の Table 3 に示す。同様に, 自身の通う大学および異なる大学において偶発的 に孤立状況に陥った際に負の感情をどの程度感じるかを検討するため, 感情に関する項目を作成した。「あなた は『ひとり』の状態に以下のそれぞれの感情をどの程度感じていますか。もっともあてはまる数字1つに○をつ けてください。 」という教示のもと、感情項目 8 項目それぞれに対して 1「まったく感じない」~5「とても感じ る」の 5 段階評定で回答を求めた。 感情項目は予備調査の自由記述により得た回答から偶発的孤立状況における感情を分類し, 予備調査で使用 した「不安」 「寂しさ」 「つらさ」 「恥ずかしさ」にくわえて, 新たに「憂鬱」 「疎外感」 「むなしさ」 「あせり」の 4 項目を設定した。 Table 3 偶発的孤立状況時における行動項目 1. 『ひとり』でいることに抵抗を感じるのですぐに食堂から離れる 2. まず食堂で友人に連絡をとり, 『ひとり』には抵抗を感じるので食堂以外の場所で待ち合わせする 3. まず食堂で友人に連絡をとり, 『ひとり』に抵抗は感じるが友人が来るまで食堂で待つ 4. まず食堂で友人に連絡をとり, 『ひとり』だが特に気にならないので友人が来るまで食堂で待つ 5. 特に気にならないので食堂で『ひとり』で食事をとる 6. その他 (2) 被異質視不安項目(髙坂, 2010) 髙坂(2010)の被異質視不安項目 12 項目(Table 4)を用いた。この尺度は大学生を対象として, 自身が周囲の 人から異質にみられることを, どの程度不安に思うかを測定する尺度である。本調査では「以下のそれぞれの 項目はあなたが友人とつきあうときの気持ちや考えにどの程度あてはまりますか。もっとも適当な数字 1 つに ○をつけてください。 」と教示し, 1「まったくあてはまらない」, 2「あまりあてはまらない」, 3「どちらと もいえない」, 4「ややあてはまる」, 5「とてもあてはまる」の 5 件法で回答を求めた。 Table 4 被異質視不安の質問項目 1. 友人から浮いているように見られたくない 2. 友人から変わった人だと思われていないか不安になる 3. 自分は友人と同じかどうか気になる 4. 友人の前で目立つことはしたくない 5. 友人と違う意見を言うのが怖い 6. 友人と一緒でないと落ち着かない 7. 友人にあわせなければならないと思う 8. 友人に本音を言うのは緊張する 9. 友人から自分がどう見られているのか気になる 10. できるだけ友人と同じであろうと気をつかっている 11. 友人から取り残されないように気をつけている 12. 友人と一緒にいないと不安になる 8 (3) 自尊感情尺度(山本・松井・山成, 1982) 山本・松井・山成(1982)の自尊感情尺度の項目 10 項目(Table 5)を使用した。この尺度は Rosenberg(1965) の作成した Self-esteem の尺度を邦訳したもので, 自尊感情(自分自身を価値のあるものであるとする感覚)を 測定するものである。本研究では「以下の特徴のそれぞれについて, あなた自身にどの程度あてはまるかを, もっとも適当な数字 1 つに○をつけてください。他からどう見られているかではなく, あなたが, あなた自身 をどのように思っているかを, ありのままに答えてください。」という教示のもと(3)と同様の「1.まったくあ てはまらない~5.とてもあてはまる」の 5 件法で回答を求めた。 Table 5 自尊感情の質問項目 1. だいたいにおいて、自分に満足している 2. 自分は全くだめな人間だと思うことがある● 3. 少なくとも人並みには価値のある人間である 4. 敗北者だと思うことがよくある● 5. 自分には、自慢できるところがあまりない● 6. 自分に対して肯定的である 7. もっと自分自身を尊敬できるようになりたい 8. 何かにつけて、自分は役に立たない人間だと思う● 9. 色々な良い素質を持っている 10. 物事を人並みには、うまくやれる ※●逆転項目 9 結 果 被異質視不安・自尊感情尺度の因子分析および得点化 被異質視不安項目 12 項目について, 主成分分析を行ったところ, 12 項目すべてが第 1 成分に対して,絶対値 で.50 以上の負荷量を示した(Table 6)。寄与率は 53.7%であった。12 項目のα係数を算出したところ, .919 と 十分な内的一貫性が確認された。そのため, 12 項目の合計を算出し「被異質視不安」得点として以後の分析に 用いた。 自尊感情項目 10 項目について, 最尤法, promax 回転による因子分析を行った。その結果, 3 因子が抽出され たが第 7 項目「7. もっと自分自身を尊敬できるようになりたい。 」がいずれの因子についても, 絶対値で.40 以 下の低い負荷を示したため, この項目を除外し再度因子分析を行った。その結果 2 因子が抽出され, いずれも.40 以上の負荷を示した(Table 7)。第 1 因子には第 1, 3, 6, 9, 10 項目の計 5 項目が高い負荷を示した。 「3. 少な くとも人並みには価値のある人間である。 」や「9. 色々なよい資質を持っている。」など, 自身に対する肯定的 な評価を示す項目で構成されていたため第 1 因子を「自己肯定評価」因子と命名した。第 2 因子には第 2, 4, 5, 8 項目の計 4 項目が高い負荷を示した。 「8. 何かにつけて, 自分は役に立たない人間だと思う。」や「4. 敗北者 だと思うことがよくある。 」など, 逆転項目で形成され, 自己の否定的な評価を示す項目で構成されていたため 第 2 因子を「自己否定評価」因子と命名した。 各因子のα係数を算出したところ「自己肯定評価」が.738、 「自己否定評価」が.710 とやや低いが一定の内的一 貫性が確認された。そこで各項目の合計を算出し, それぞれ「自己肯定評価」得点, 「自己否定評価」得点とし た。算出された得点を以下の Table 8 に示す。 また, 因子分析の結果, 「自己肯定評価」と「自己否定評価」との間には負の因子間相関(r=-.519)が,「自 己肯定評価」得点と「自己否定評価」得点との間にも, 有意な負の相関(r=-.417)がみられた。 今後の分析に影響を及ぼす可能性があるため, 被異質視不安および自尊感情得点に関して, t 検定により性差 を検討したが, 性差による有意差はみられなかった。 Table 6 被異質視不安の主成分分析 9. 友人から自分がどう見られているのか気になる 12. 友人と一緒にいないと不安になる 6. 友人と一緒でないと落ち着かない 10. できるだけ友人と同じであろうと気をつかっている 3. 自分は友人と同じかどうか気になる 11. 友人から取り残されないように気をつけている 2. 友人から変わった人だと思われていないか不安になる 1. 友人から浮いているように見られたくない 7. 友人にあわせなければならないと思う 5. 友人と違う意見を言うのが怖い 8. 友人に本音を言うのは緊張する 4. 友人の前で目立つことはしたくない 寄与率 α =.919 10 Ⅰ .811 .805 .795 .776 .766 .765 .758 .745 .712 .703 .555 .541 53.7 Table 7 自尊感情尺度の因子構造 Ⅰ.自己肯定評価( α =.74) 3. 少なくとも人並みには価値のある人間である 9. 色々な良い素質を持っている 10. 物事を人並みには、うまくやれる 6. 自分に対して肯定的である 1. だいたいにおいて、自分に満足している Ⅱ.自己否定評価( α =.71) 8. 何かにつけて、自分は役に立たない人間だと思う● 4. 敗北者だと思うことがよくある● 2. 自分は全くだめな人間だと思うことがある● 5. 自分には、自慢できるところがあまりない● 因子間相関 最尤法, promax回転 ※●逆転項目 Ⅰ Ⅱ 共通性 .693 .684 .651 .529 .487 -.308 -.402 -.366 -.362 -.135 .485 .471 .425 .291 .256 -.563 -.362 -.116 -.401 -.519 .694 .628 .624 .569 .538 .396 .449 .339 Table 8 被異質視不安・自尊感情下位因子の得点および性差 被異質視不安 自己肯定評価 自己否定評価 ※表記方法は 男性 女性 総和 t値 28.8(9.68) 28.3(9.34) 28.6(9.46) .344 n.s. 69 80 149 (147) 15.9(2.91) 15.7(3.54) 15.8(3.25) .352 n.s. 69 80 149 (147) 11.8(3.08) 11.2(2.98) 11.5(3.03) 1.20 n.s. 69 80 149 (147) 平均(標準偏差) t値 人数 自由度 偶発的孤立状況における環境の差の検討 偶発的孤立状況に対する行動と感情を, 自校・他校の環境別にわけ項目間の差を検討した(Fig.3)。なお,分析 に際し, 偶発的孤立状況に対する行動の項目において, 名称を簡略化し以下のように表記した。「1.『ひとり』 でいることに抵抗を感じるのですぐに食堂から離れる」を「逃避群」, 「2. まず食堂で友人に連絡をとり, 『ひ とり』には抵抗を感じるので食堂以外の場所で待ち合わせする」を「回避群」, 「3. まず食堂で友人に連絡を とり, 『ひとり』に抵抗は感じるが友人が来るまで食堂で待つ」を「我慢群」, 「4. まず食堂で友人に連絡を とり, 『ひとり』だが特に気にならないので友人が来るまで食堂で待つ」を「耐性群」, 「5. 特に気にならな いので食堂で『ひとり』で食事をとる」を「無関心群」とした。 偶発的孤立状況に対する行動に関して自校においては我慢群, 耐性群が多くの割合を占めたが, 他校におい てはおよそ 40%が無関心群に分布し, 我慢群・耐性群は逃避群・回避群に近い割合であった。また, 逃避群・回 避群に関して自校にくらべ他校での割合がやや増加した。 11 Fig. 3 自校・他校の偶発的孤立状況に対する行動分布 感情項目においては「不安」 「つらさ」 「憂鬱」 「寂しさ」 「疎外感」の感情項目に関して自校よりも他校で感じ る割合が大きかった。また「むなしさ」 「恥ずかしさ」 「あせり」に関しては他校よりも自校で感じる割合が大き かった。自校・他校それぞれにおける平均値および標準偏差は Table9 に示す。自校と他校での感情の差を t 検 定により分析した結果, 「不安」の感情項目において t (153)=-3.44, p <.01 で自校に比べ他校での感情が有意に高い結果を示した。「寂しさ」の感情項目において t (153)=2.14, p <.05 で他校に比べ自校での感情が有意に高い結果を示した。 Table 9 自校・他校の感情別平均値と相関および t 値 不安 寂しさ つらさ 恥ずかしさ 憂鬱 疎外感 むなしさ あせり 自校 2.54 (-1.20) 2.94 (1.20) 2.48 (1.14) 2.42 (1.21) 2.21 (1.23) 2.50 (1.23) 2.51 (1.23) 2.45 (1.18) 他校 2.90 (1.42) 2.71 (1.31) 2.43 (1.23) 2.27 (1.24) 2.34 (1.27) 2.54 (1.39) 2.40 (1.21) 2.43 (1.29) N ※( )は標準偏差 12 相関 .510** t値 -3.44** .453** 2.14* .416** .503 .578** 1.65 .493** -1.26 .402** -.335 .525** 1.08 .466** .251 154 ** p <.01 * p <.05 自校・不安 他校・不安 自校・寂しさ 他校・寂しさ 自校・つらさ 他校・つらさ 自校・恥ずかしさ まったく感じない 他校・恥ずかしさ 感じない どちらともいえない 感じる 自校・憂鬱 とても感じる 他校・憂鬱 自校・疎外感 他校・疎外感 自校・むなしさ 他校・むなしさ 自校・あせり 他校・あせり 0% 20% 40% 60% 80% Fig. 4 自校・他校における偶発的孤立状況に対する感情の分布 13 100% 偶発的孤立状況に対する行動と被異質視不安得点との関連 偶発的孤立状況に対する行動と被異質視不安得点との関連を求めた。偶発的孤立状況に対する行動において「6. その他」を選択した割合は全体の 5%に満たなかったため分析からは除外した。偶発的孤立状況に対する行動 5 群を独立変数, 被異質視不安得点を従属変数として性別・学年による分散分析を自校および他校に関して行った (Table 10)。その結果, 自校では, 偶発的孤立状況に対する行動において F (5, 111)=3.06, p <.05 だった。ま た性別, 学年, および交互作用に主効果はみられなかった。その後の検定として, 偶発的孤立状況に対する行動 の多重比較を行った結果, 被異質視不安得点は 5%水準で我慢群が逃避群よりも有意に低く, 1%水準で無関心 群が逃避群および我慢群よりも有意に低い結果であった。他校では, 偶発的孤立状況に対する行動において, F (5, 111)=1.81, p <.05 だった。また, 自校と同様に性別, 学年, および交互作用に主効果はみられなかった。 その後の検定として, 偶発的孤立状況に対する行動の多重比較を行った結果, 被異質視不安得点は 5%水準で無 関心軍が我慢群よりも有意に低い結果が得られた。 Table 10 自校・他校における被異質視不安得点と偶発的孤立状況に対する行動の 2 要因分散分析 偶発的孤立状況に対する行動 自校 他校 逃避群 33.5 (9.13) 31.4 (8.31) 回避群 32.1 (8.63) 28.8 (5.52) 男性 我慢群 29.2 (8.52) 35.0 (5.35) 耐性群 28.2 (7.10) 28.0 (10.8) 無関心群 23.8 (9.48) 26.9 (11.2) 逃避群 34.1 (6.54) 29.6 (10.8) 回避群 28.6 (9.78) 31.3 (8.73) 女性 我慢群 32.8 (8.40) 31.9 (8.17) 耐性群 25.5 (8.05) 30.3 (9.20) 行動の 無関心群 主効果 20.0 5.21** (8.26) 23.6 3.34** (8.28) 性別の 主効果 3.04 .465 交互作用 多重比較 1.35 逃>我 >>無 .583 我>無 偶発的孤立状況に対する感情と被異質視不安得点との関連 偶発的孤立状況に対する感情と被異質視不安得点との相関を求めた(Table 11)。その結果, 自校および他校い ずれにおいても被異質視不安は 8 項目すべての感情項目と1%水準で有意な正の相関を示したため, 被異質視不 安が高いほどネガティブな感情は強い。 Table 11 自校・他校における偶発的孤立状況に対する 不安 寂しさ つらさ 恥ずかしさ 憂鬱 疎外感 むなしさ あせり 自分の通う大学 .550 ** .552 ** .586 ** .632 ** .524 ** .666 ** .620 ** .553 ** 通う大学とは別の大学 .392 ** .387 ** .416 ** .427 ** .399 ** .327 ** .422 ** .386 ** **p<.01 被異質視不安と自尊感情との関連 被異質視不安得点と自尊感情尺度の下位尺度 2 因子の得点との相関を求めた(Table 12)。その結果, 被異質視 不安得点は「自己否定評価」得点との間に.352(p <.01)の有意な負の相関を示したが, 「自己肯定評価」因子は 14 被異質視不安と有意な相関は示さなかった。さらに被異質視不安を目的変数, 自尊感情の下位尺度を説明変数と して重回帰分析を行った。相関同様に被異質視不安と「自己肯定評価」得点とは有意な関連を示さなかったが, 被 異質視不安と「自己否定評価」得点との間に.386(p <.01)の有意な関連を示した。 Table 12 被異質視不安得点と自尊感情下位因子との関連 自己肯定評価 自己否定評価 重相関係数 調整済み決定係数 被異質視不安得点 相関 重回帰係数 -.079 .082 n.s. .352** .386 ** .360 ** .118 *p<.05 **p<.01 考 察 偶発的孤立状況に対する行動および感情と被異質視不安との関連 本研究では, 現代の大学生が偶発的に孤立状況に陥った際に, その環境にどのような感情を抱き, そしてそ の状況に対してどのように行動するのか, ということについて, 青年期における異質な存在としてみられるこ とに対する不安(被異質視不安)の心性との関連を検討することを目的とした。まず, 被異質視の項目を用いた調 査を実施し、主成分分析を行った。その結果 1 因子が抽出された。 被異質視不安と偶発的孤立状況に対する行動に関して, 性差を含めた 2 要因の分散分析を行った。性差による 主効果および交互作用はみられなかったが, 得点の主効果はみられ, 多重比較の結果, 自校においては無関心 群に比べ我慢群ついで逃避群の値が高かった。他校においては無関心群よりも我慢群のほうが高いという結果の み得られた。多重比較の結果から本研究における目的である被異質視不安が偶発的孤立状況に対する行動と関連 をもつことが示された。これにより, 被異質視不安が高いほどひとりでいることを避け, 低いほどひとりでいる ことに不快な感情を感じにくいことが示唆される。佐藤(1995)は青年期女子において, 学校生活で友人グループ に所属し, 多くの時間を固まって過ごすという特徴を述べている。その理由として「複数からの安全保障の獲得」 「浮いた存在になることの忌避」の 2 つがあるという。また, 町沢(2002)や佐藤・畑山(2000)においても, ひと りで学校生活を過ごすことは「変わった人である」という他者からのネガティブな認知をうけることになる, と 述べている。人間が, 集団に所属することで適応し, 生き延びていくのであれば, 適応するために「他者と群れ ること」が集団内で適切な行動としてみなされ, その場合, 「ひとりでいること」が逸脱行動として位置づけら れる(大嶽・石田・吉田, 2005)。以上から, 被異質視不安とはそれらの逸脱行動を察知するからこその不安であ り, 偶発的孤立状況に対する行動は, ネガティブな評価を回避する行動であると同時に, 適応行動の一種と考 えることができるのではないだろうか。 被異質視不安と偶発的孤立状況に対する感情との間には自校・他校を問わず 1%水準で有意な正の相関が得られ たが, これは感情項目がすべてネガティブなものであったことと, 予めの予備調査で, 偶発的孤立状況に対す る感情として抽出されたものを用いたことによるだろう。そのため, はじめに設定した感情項目および予備調査 により新たに設定された感情項目だけではなく, 他の感情との関連も検討する必要性があるだろう。 15 偶発的孤立状況に対する行動および感情の環境による差異 偶発的孤立状況に対する行動の分布から自校と他校での環境の違いによる差異を比較・検討した。逃避群およ び回避群においては自校および他校いずれにおいても同程度の割合が確認された。我慢群においては他校に比べ, 自校が大きな割合を示し, 偶発的孤立状況に対する行動として自校でもっとも多くの割合を占めた行動となっ た。また耐性群においても我慢群と同様に他校に比べ自校の割合が大きく, 自校において 2 番目に多くの割合を 占めた行動となった。無関心群に関しては他校での割合が圧倒的に大きい。自校において我慢群, 耐性群が高い 割合を示したことは, 自校において偶発的孤立状況が珍しいものではなくある程度, 日常的に体感できるもの であるからだと考えられる。また, 他校において無関心群の割合が高かったことから, 他校においては自身に対 する否定的な評価が今後の生活に関わってこないためであるという仮説を支持するものだと考えられる。 感情項目においては, t 検定を行った結果, 「不安」の項目に関して他校のほうが自校よりも有意に高く, 「寂 しさ」において自校のほうが他校よりも有意に高いことが示された。他の感情項目に関しては有意な結果はみら れなかった。 「不安」の感情項目が自校に比べ, 他校のほうが有意に高かったことは, その環境が自身にとって どのようなものであるか判断ができないことと, 自身と関わりを持つものが少ないことが逆に「不安」を喚起し たと考えられる。榎本(1999)によれば, 友人に対する感情は特に「信頼・安定」と「不安・懸念」の感情が関わ っている。他校という環境の場合, 「信頼・安定」を得ることが困難かつ, 知らない環境において「不安・懸念」 の次元が高まるため, 結果として不安は高まると考えられる。自校においては, 「信頼・安定」の次元がある程 度高い値を示すと考えられるため, 「不安」の感情項目に関して有意な差が得られたのではないだろうか。「寂 しさ」の項目においても同様のことがいえる。 「寂しさ」の感情項目の場合, 特に「信頼・安定」の次元が不足 しているためだと考えられる。つまり, 他校では「信頼・安定」が得る可能性そのものを見出せず, 不安が増大 するばかりだが, 自校においては「信頼・安定」が得られる可能性があることを知っているため, 孤立している 状況に「寂しさ」の感情を強く感じたように考えられる。 偶発的孤立状況に対する行動および感情に関しては, 自校の環境がどのようなものか知っている, というこ とが今後の生活に影響を及ぼすという意味で負担になりうるが, 逆に知っているからこそ安心して受け入れら れる, という 2 側面が検討された。これは環境そのものではなく, その環境をどのようにとらえているか, とい う個人差によるところが大きいだろう。今後は単に環境要因のみ検討の対象とするのではなく, 環境の捉え方の 影響を及ぼしうる調査対象の心性も同時に検討していく必要があるだろう。 被異質視不安と自尊感情との関連 まず, 自尊感情項目を用いた調査を実施し, 因子分析を行った。その結果「自己肯定評価」と「自己否定評価」 という 2 因子が抽出された。この 2 つの因子間相関は負の値を示した。これは自尊感情が逆転項目を用いている ことに起因していると考えられる。また、質問項目の第 7 項目「もっと自分自身を尊敬できるようになりたい」 に関して, 各因子に高い負荷を示さなかったことは, この項目が肯定的にも否定的にも, どちらの意味でもと らえられることが原因であると考えられる。肯定的な意味では「より尊敬できる自分でありたい」ととらえられ るが, 否定的な意味では「今の自分には尊敬できるところがない」ととらえることができる。そのため, この項 目はいずれの因子にも負荷を示さなかったものと考えられる。この項目が同一因子に負荷しないことは谷(2001) や伊藤(2001)などの先行研究においても確認されている事例である。 本研究における検討の1つとして, 被異質視不安と自尊感情の下位因子「自己肯定評価」と「自己否定評価」 との関連を求めた。その結果, 被異質視不安と「自己肯定評価」との間には有意な関連がみられず, 「自己否定 評価」にのみ有意な関連がみとめられた。 「自己肯定評価」の因子は「3.少なくとも人並みには価値のある人間 である」 「9.色々な良い資質を持っている」などの項目で構成された因子である。これらの項目は自己に価値が 16 あるものだという観点を含んでいるが, 他者との比較によるものでない表現になっている。そのため, 自分の価 値観や能力には満足しているが, 他者と比較するとどうであるか, といった観点まで考慮にはいっていないた め, 他者からどのようにみられているか, という不安である被異質視不安との間に関連が導かれなかったと考 えられる。 「自己否定評価」因子は被異質視不安との間に正の有意な相関がみられ, 重回帰分析の結果から有意な正の関 連を持つことも検討された。 「自己否定評価」因子は「8.何かにつけて自分は役に立たない人間だと思う」 「4.敗 北者だと思うことがある」などのすべて逆転項目で構成された因子になっている。その構成内容は, 自身が無力 感を感じる場面, あるいは自身が失敗した場面で感じやすいであろう項目内容になっている。そのため, 自尊感 情が低い状態であるとき, 自分の行動に自身がもてず, また, それによって他者からも自分は否定的な評価を されているのではないか, と考えるようになり, 被異質視不安を抱きやすくなるのだと考えられる。 本研究のまとめと展望 本研究は被異質視不安という心性を用いて, 現代の青年が偶発的にひとりになってしまった状況に対して, どのように行動し, また, どのような感情を抱くか, ということとの関連を検討した。その結果, ひとりでいる ことに耐えられない青年ほど被異質視不安が高い水準を示す傾向がみられた。被異質視不安が高いほど, ひとり でいることを避けようとすることは一種の適応行動ととらえることができるだろう。被異質視不安は本研究によ り選定された負の感情項目に関して自校・他校いずれの環境においても有意な関連を示した。そこから, 被異質 視不安はより本研究で扱った感情項目以外にも複数の感情と関連して変動することが予測される。 被異質視不安と自尊感情との関連においては, 自尊感情の下位因子である「自己肯定評価」とは関連を示さず, 「自己否定評価」との間に関連が認め得られた。しかし, 自尊感情はその高さだけでなく変動性の 2 側面から捉 えられる。自尊感情の変動性とは, 短期間の自己に対する評価の変化のしやすさである。すなわち、測定された 自尊感情が高かったとしても, その自尊感情が不安定であった場合, 状況によってはその自尊感情は低下する 可能性が示唆される。自尊感情が不安定な者は, 公的自己意識が高く, 日々の肯定的・否定的出来事に影響を受 けやすいことも報告されている(阿部・今野・松井, 2008)。そのため, 自尊感情の変動性を考慮すると, 自尊感 情の高低が被異質視不安と関連を持つことは,自尊感情と同様に被異質視不安も変動性を持っていることが予測 される。つまり, 現代の青年の対人関係の特性を検討する際, 青年の持つ自尊感情や被異質視不安を変動させ負 の方向へと導くと考えられる状況の比較および検討が必要だろう。 また, 分析は実施したものの本研究では性差, 学年差といったものが検証されなかった。従来の被異質視不安 における研究では, 女子青年のほうが男子青年よりも有意に高いことが示されている(髙坂, 2010)。本研究では, 同一世代の特性に関しての調査を目的としたため, 比較・検証はできなかったが, 他の世代との関連をみること が必要だろう。自己中心性の後退する青年期後期を対象としたことや, 問題で述べたように, 「ゆとり」という 世代の特徴であることも考慮し, より広い調査をする必要がある。 本研究では被異質視不安が偶発的孤立状況に対する行動および感情と関連を持つこと, また被異質視不安が 自尊感情と関連を持ち変動性を有している可能性が示唆された。しかし, あくまで関連のみみられた, という結 果から今後はより限定された場面での実証的な研究および, 個人の変動性を有しない特性の発見と関連の検証 が必要と考えられる。 17 引 用 阿部美帆・今野裕之・松井豊 (2008).日誌法を用いた自尊感情の変動性と心理的不適応との関連の 検討 筑波大学心理学研究, 35,7-15 Brown, B. 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Princeton: Princeton University Press 佐藤静香・畑山みさ子 (2002). 女子大学生の昼食時間への不安に関する調査研究―ランチメイト症候 群検証の試み 宮城学院女子大学発達科学研究 2, 81-87 佐藤有耕 (1995). 高校生女子が学校生活においてグループに所属する理由の分析神戸大学発達科学部 研究紀要 1, 11-20 谷冬彦 (2001). 青年期における同一性の感覚の構造:多次元自我同一性尺度(MEIS) の作成 教育心理 学研究, 40, 265-273 18 上野行良・上瀬由美子・福富 護・松井 豊 (1994). 青年期の交友関係における同調と心理的距離 教 育心理学研究, 42, 21-28 和田秀樹 (2010). なぜ若者はトイレで「ひとりランチ」をするのか 祥伝社 山田和夫・安東恵美子・宮川京子・奥田良子 (1987). 問題のある未熟な学生の親子関係からの研究(第 2 報)-ふれ合い恐怖(会食恐怖)の本質と家族研究― 研究助成論文集, 23, 206-215 山本真理子・松井 豊・山成由紀子 (1982). 認知された自己の諸側面の構造 教育心理学研究, 30, 64-68 謝 辞 この研究を卒業論文として形にすることが出来たのは、担当して頂いた若松助教授の熱心なご指導や、滋賀大 学教育学部の学生や先生方が貴重な時間を割いて質問紙調査に協力していただいたおかげです。協力していただ いた皆様へ心から感謝の気持ちと御礼を申し上げたく、謝辞にかえさせていただきます。 19 資料1 予備調査質問紙 学内での友人との過ごし方に関する調査 本調査は現代の大学生の学内での友人との過ごし方を調査目的としています。回答はあまり考えず思ったこと を自由に回答するようにしてください。なお、調査結果に関してはすべて匿名かつ統計的処置を施しますので個 人が特定されることはありません。ただし、似たような質問がいくつか含まれていますが、それぞれ微妙に異な りますので読み落としがないようによく注意してください。また、質問項目は裏面にもあるので記入漏れのない ように確認してください。 滋賀大学教育学部 真藤浩大 所属: 滋賀 大学( 教育 ・ 経済 )学部 年齢: 歳 課程 回生 性別: ( 男 ・ 女 ) 次のそれぞれの場面設定を読み、以下の質問項目に答えなさい。 なお、文章内の『友人』は「学内で気軽に会話ができるような関係」 (異性も含む) 『ひとり』は「周囲に複数の人がいるがあなた自身は誰ともいない状態」と定義する。 1.あなたは大学内で昼食をとろうと食堂に来ましたが、近くには友人がおらず『ひとり』です。 (1)その時、あなたは次の感情をどの程度感じると思いますか。それぞれの感情に対してもっともあてはま る数字1つに○をつけてください。 ⅰ とても不安 [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったく不安でない ⅱ とてもさみしい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったくさみしくない ⅲ とてもつらい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったくつらくない Ⅳ とても恥ずかしい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったく恥ずかしくない (2)何故、 『ひとり』のとき(1)のように感じる(感じない)と思うかを( )内に自由に書いてくださ い。答えにくければ(1)の感情から1つを選んで何故そう感じる(感じない)か書いてください。 例:誰かに笑われるかもしれないから、友だちがいないと思われるから、まわりと違うから (3)このような時、あなたはどのように行動していますか。もっともあてはまる数字1つに○をつけてくだ さい。あてはまるものがない場合「4.その他」を選び( )内に具体的な行動を書いてください。 1. 『ひとり』では食事をとらず移動する 2.友人を呼び、来るまでは『ひとり』でいる 3.かまわず『ひとり』で食事をとる 4.その他( ) 20 2.あなたは昼食後の3限が休講になったため4限まで空き時間があります。しかし、同じ時間に空き時間のあ る友人はおらず『ひとり』です。特に急いでやらなければならない課題などはありません。 (1) その時、あなたは次の感情をどの程度感じると思いますか。それぞれの感情に対してもっともあては まる数字1つに○をつけてください。 ⅰ とても不安 [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったく不安でない ⅱ とてもさみしい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったくさみしくない ⅲ とてもつらい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったくつらくない Ⅳ とても恥ずかしい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったく恥ずかしくない (2)何故、 『ひとり』のとき(1)のように感じる(感じない)と思うかを( )内に自由に書いてくださ い。答えにくければ(1)の感情から1つを選んで何故そう感じる(感じない)か書いてください。 例:誰かに笑われるかもしれないから、友だちがいないと思われるから、まわりと違うから (3)このような時、あなたはどのように行動していますか。もっともあてはまる数字1つに○をつけてくだ さい。あてはまるものがない場合「4.その他」を選び( )内に具体的な行動を書いてください。 1. 『ひとり』でいずに、移動する 2.友人を呼び、来るまで『ひとり』でいる 3.かまわず図書館などで『ひとり』でいる 4.その他( ) 3.あなたは大学で興味のある説明会をうけるために教室に行きましたが、友人がおらず『ひとり』です。なお その説明会は自由参加で成績には影響しません。 (1) その時、あなたは次の感情をどの程度感じると思いますか。それぞれの感情に対してもっともあては まる数字1つに○をつけてください。 ⅰ とても不安 [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったく不安でない ⅱ とてもさみしい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったくさみしくない ⅲ とてもつらい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったくつらくない Ⅳ とても恥ずかしい [ 5 - 4 - 3 - 2 - 1 ] まったく恥ずかしくない (2)何故、 『ひとり』のとき(1)のように感じる(感じない)と思うかを( )内に自由に書いてくださ い。答えにくければ(1)の感情から1つを選んで何故そう感じる(感じない)か書いてください。 例:誰かに笑われるかもしれないから、友だちがいないと思われるから、まわりと違うから 裏面につづく 21 (3)このような時、あなたはどのように行動していますか。もっともあてはまる数字1つに○をつけてくだ さい。あてはまるものがない場合「4.その他」を選び( )内に具体的な行動を書いてください。 1. 『ひとり』なので説明会をうけない 2.友人を呼び、来るまで『ひとり』でいる 3.かまわず『ひとり』で説明会をうける 4.その他( ) ありがとうございました、以上で質問は終わりです。記入漏れがないかを確認し、ご質問・感想があれば以下の 余白に記入してください。 22 資料2 本調査質問紙 友人とのつきあい方に関する調査 本調査は現代の大学生における友人とのつきあい方についてのものです。回答は深く考えず思ったことを自由 に回答するようにしてください。なお、調査結果に関してはすべて匿名かつ統計的処置を施しますので個人が特 定されることはありません。ただし、似たような質問がいくつか含まれていますが、それぞれ微妙に異なります ので読み落としがないようによく注意してください。また、質問項目は裏面にもあるので記入漏れのないように 確認してください。 滋賀大学教育学部 真藤浩大 所属: 滋賀 大学( 教育 ・ 経済 )学部 年齢: 歳 課程 性別: ( 男 ・ 女 ) 23 回生 1. 次の(1) (2)の場面設定を読み、以下の質問項目に答えなさい。 なお、文章内の『友人』は「学内で気軽に会話ができるような関係」 『ひとり』は「周囲に複数の人がいるが自身は誰ともいない状態」と定義する。 (1) あなたは昼の講義終了後、自分の通う大学内で昼食をとろうと考え1人で食堂に来ましたが、近くに は友人がおらず『ひとり』になります。なお、その日の昼食は食堂以外の場所でもかまいませんが自 宅以外でとるものとします。 ⅰ. その時、あなたはどのような行動をとりますか。次の行動からもっともあてはまる数字1つに○をつけ てください。あてはまるものがない場合「6 その他」を選び( )内に具体的な行動を書いてください。 1 『ひとり』でいることに抵抗を感じるのですぐに食堂から離れる 2 まず食堂で友人に連絡をとり、 『ひとり』には抵抗を感じるので食堂以外の場所で待ち合わせする 3 まず食堂で友人に連絡をとり、 『ひとり』に抵抗は感じるが友人が来るまで食堂で待つ 4 まず食堂で友人に連絡をとり、 『ひとり』だが特に気にならないので友人が来るまで食堂で待つ 5 特に気にならないので食堂で『ひとり』で食事をとる 6 その他( ) ⅱ.このような場面でⅰのような行動をとるとき、あなたは『ひとり』の状態に以下のそれぞれの感情をど の程度感じていますか。もっともあてはまる数字1つに○をつけてください。 a まったく不安でない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても不安 b まったくさみしくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもさみしい c まったくつらくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもつらい d まったく恥ずかしくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても恥ずかしい e まったく憂鬱でない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても憂鬱だ f まったく疎外感を感じない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても疎外感を感じる g まったくむなしくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもむなしい h まったくあせりを感じない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもあせりを感じる 24 (2) あなたは説明会があるので友人と他の大学にいます。友人とは別の説明会に参加していたので1人で 昼食をとろうと食堂に来ましたが、近くには友人や知人がおらず『ひとり』になります。 ⅰ. その時、あなたはどのような行動をとりますか。次の行動からもっともあてはまる数字1つに○をつけ てください。あてはまるものがない場合「6 その他」を選び( )内に具体的な行動を書いてください。 1 『ひとり』でいることに抵抗を感じるのですぐに食堂から離れる 2 まず食堂で友人に連絡をとり、 『ひとり』には抵抗を感じるので食堂以外の場所で待ち合わせする 3 まず食堂で友人に連絡をとり、 『ひとり』に抵抗は感じるが友人が来るまで食堂で待つ 4 まず食堂で友人に連絡をとり、 『ひとり』だが特に気にならないので友人が来るまで食堂で待つ 5 特に気にならないので食堂で『ひとり』で食事をとる 6 その他( ) ⅱ.このような場面でⅰのような行動をとるとき、あなたは『ひとり』の状態に以下のそれぞれの感情をどの 程度感じていますか。もっともあてはまる数字1つに○をつけてください。 a まったく不安でない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても不安 b まったくさみしくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもさみしい c まったくつらくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもつらい d まったく恥ずかしくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても恥ずかしい e まったく憂鬱でない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても憂鬱だ f まったく疎外感を感じない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とても疎外感を感じる g まったくむなしくない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもむなしい h まったくあせりを感じない [ 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ] とてもあせりを感じる 25 2.以下のそれぞれの項目はあなたが友人とつきあうときの気持ちや考えにどの程度あてはまりますか。もっと も適当な数字 1 つに○をつけてください。 なおここでも、文章内の『友人』は「学内で気軽 に会話ができるような関係」と定義します。 ま っ た く あ て は ま ら な い あ ま り あ て は ま ら な い ど ち ら と も い え な い や や あ て は ま る と て も あ て は ま る ① 友人から浮いているように見られたくない 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ② 友人から変わった人だと思われていないか不安になる 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ③ 自分は友人と同じかどうか気になる 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ④ 友人の前で目立つことはしたくない 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑤ 友人と違う意見を言うのが怖い 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑥ 友人と一緒でないと落ち着かない 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑦ 友人にあわせなければならないと思う 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑧ 友人に本音を言うのは緊張する 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑨ 友人から自分がどう見られているのか気になる 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑩ できるだけ友人と同じであろうと気をつかっている 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑪ 友人から取り残されないように気をつけている 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑫ 友人と一緒にいないと不安になる 1 - 2 - 3 - 4 - 5 26 3.以下の特徴のそれぞれについて、あなた自身にどの程度あてはまるかを、もっとも適当な数字 1 つに○をつ けてください。他からどう見られているかではなく、あなたが、あなた自身をどのように思っているかを、 ありのままに答えてください。 ま っ た く あ て は ま ら な い あ ま り あ て は ま ら な い ① だいたいにおいて、自分に満足している 1 - 2 ② 自分は全くだめな人間だと思うことがある 1 ③ 少なくとも人並みには価値のある人間である と て も あ て は ま る ど ち ら と も い え な い や や あ て は ま る - 3 - 4 - 5 - 2 - 3 - 4 - 5 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ④ 敗北者だと思うことがよくある 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑤ 自分には、自慢できるところがあまりない 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑥ 自分に対して肯定的である 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑦ もっと自分自身を尊敬できるようになりたい 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑧ 何かにつけて、自分は役に立たない人間だと思う 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑨ 色々な良い素質を持っている 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ⑩ 物事を人並みには、うまくやれる 1 - 2 - 3 - 4 - 5 ありがとうございました、以上で質問は終わりです。記入漏れがないかを確認し、ご質問・感想があれば以下の 余白に記入してください。 27 幼児期における心の理論と実行機能の関連 -誤った信念課題と嘘をつく行為を通して- 西尾 理恵 【問題と目的】 人の心を推論することは、物の動きや変化を推測することに比べて、不確定 な要素が多く、確実に行うことは難しい。それにも関わらず、私たちは他の人 が自分と同様の「心」をもつと確信しているし、ほとんどの場合、上手にお互 いの心を読み合う。また、特に体系的な教育や訓練を受けなくても、通常の社 会的経験を通して、幼児期の子どもたちは他者の心を推測し、自分の心の状態 を認識する。さらにゲームや日常的なコミュニケーションの中で、「欺き」に よって他者の心の状態を変えることすらできるようになる。 このように、他者の信念や意図、願望のようなさまざまな心の働きについて 理解が発達することが、「心の理論」研究から明らかになってきている。「心 の 理 論 」と は 、 広 義 に は 自 己 や 他 者 へ の 心 的 帰 属( Premack & Woodruff, 1978) であり、自己や他者の行動を予測したり、説明したりするための、心の働きに ついての知識や原理のこと(信念、意図、感情など様々な心的状態の推論を含 む )で あ る 。 ま た 狭 義 に は 、 自 分 の 考 え と は 異 な る 他 者 の 誤 っ た 考 え( 誤 信 念 ) や行動を推測する能力のことを意味しており、誤信念理解の能力はさまざまな 種 類 の 誤 っ た 信 念 課 題 ( felse-belief task) を 用 い て 検 討 さ れ て き て い る ( Hugrefe, Wimmer, & Perner, 1986; Wimmer & Perner, 1983)。 「心の理論」研究では、これらの課題に正答することが、他者の心的状態を 理解していることの1つの指標であるとして検討が加えられてきた。その結果、 3歳児は自己の現在の信念を他者にも帰属させ、現在の状況を答えてしまい、 ほとんど正答できないのに対し、4 歳以降、他者の誤った信念や行動について 正 し く 推 測 で き る 子 ど も が 増 え て く る こ と が 示 さ れ て い る ( 子 安 , 1999 ; 子 安 ・ 木 下 , 1997; Perner, 1991) 。 Wellman, Cross, & Watson( 2001) は 、 誤 っ た 信 念 課 題 を は じ め と す る「 心 の 理 論 」課 題 を 使 用 し た 178 の 研 究 に つ い て メタ分析を行い、幼児期の間に年齢が上がるにつれて予測質問に対する成績が 上がるという一貫した発達変化が見られることを示している。さらにこの結果 から、3 歳から5歳にかけて、人間の心の働きや行動に関する概念が獲得され るとしている。日本においても、一般に3歳から5歳の間に発達が進むことが わ か っ て い る ( 子 安 ・ 郷 式 ・ 服 部 , 2003) 。 1 しかし、「心の理論」の発達に必要となるのは、心的状態に対する概念的知 識の獲得のみではないということが、近年の研究から明らかになってきている。 実際、「心の理論」課題に正答するためには、1つの課題状況に対して、自己 と他者、現在と過去といった2つの相反する表象を切り離したり、関連づけた りするような表象操作の能力が必要となってくる。そのため、心の理論の中心 をなす心的状態に対する概念的知識の獲得について論じるだけでは大雑把すぎ る。「心の理論」に関連しているさまざまな操作・機能・能力にも着目する必 要がある。 その中の1つとして、近年、実行機能が注目されてきている。実行機能とは、 行為や思考のモニタリングやコントロールの役割を果たす高次の自己制御過程 の 総 称 で あ る ( Carlson,2005) 。 例 え ば 、 抑 制 制 御 、 認 知 的 柔 軟 、 ワ ー キ ン グメモリなどが含まれ、認知的柔軟は「心の理論」に対して、現在の自分を基 準とした思考から他者を基準とした思考へと柔軟に切り替えるという点で関わ る。幼児期を対象とした研究では、実行機能の下位機能である「抑制制御」と 「ワーキングメモリ」との関連が特に注目されている。 抑制制御とは、優勢であるが不適切な表象やそれによってもたらされる反応 を 抑 制 す る 能 力 、 す な わ ち 不 適 切 な 優 勢 反 応 の 抑 制 ( inhibition of maladaptive prepotent response) の 能 力 で あ る 。 2 つ ま た は そ れ 以 上 の 対 立 する思考や反応のうち、目立っていて優勢である一方の情報を抑制し、他方の 情報を活性化させるものである。最初に考案された誤った信念課題であるマク シ 課 題 ( Wimmer & Perner, 1983) を 例 に あ げ よ う 。 こ の 課 題 は 、 主 人 公 で あ るマクシが青い戸棚に隠したチョコレートを、マクシの留守の間に母親が緑の 戸棚の方に移動させてしまう。マクシが戻ってきたときに、マクシはチョコレ ートが青い戸棚にあるだろうと思っていることを理解しているかどうかを実験 参加者に問う課題である。マクシの留守中に移動されたチョコレートの場所を 実験参加者である子どもは知っているので、現実の置き場所を答えてしまった り、あるいは実際にある方を指さしてしまったりしがちである。そうした衝動 を押さえるときに必要とされるのが、抑制制御の機能である。 ワーキングメモリは、作動記憶や作業記憶と呼ばれることが多い。「作動記 憶は、複雑な認知課題の遂行に必要な課題関連情報の抑制と積極的な保持を担 2 うメカニズムでありプロセスである。作業記憶は、また、メカニズムやプロセ ス の 集 合 体 で あ り 、 認 知 的 な ア ー キ テ ク チ ャ の 中 に 存 在 す る 固 定 的 な 「場 所 」や 「箱」ではない。そして、完全に単一なシステムではなく、複数のコードを持 ち、複数のサブシステムからなる」 ( 斉 藤 , 2000)。 さ ら に 、 ワ ー キ ン グ メ モ リ は「目標志向的な課題や作業の遂行に関わるアクティブな記憶」でもある。ま た、ワーキングメモリは容量制約的環境で働き、情報が時間的制約の中で統合 される。 「心の理論」課題では、子どもは目の前の現実という優勢なものを無視して、 非実体的な心的表象を選ぶことを求められる。また、1つの課題状況やストー リーに対して、自己と他者、現実と誤信念といった複数の表象を保持しておく 必要がある。そのため、抑制制御の機能が自己の現在の優勢な情報を抑制し、 他者に関する情報を活性化させ、ワーキングメモリの機能がこれらの情報を処 理しつつ保持しておき、必要なときにその情報を活性化させると予想される ( 小 川 , 2007, 2008) 。 実 際 Carlson & Moses( 2001) は 、 抑 制 制 御 の 課 題 の 成績と「心の理論」課題の成績との相関が高いことを示し、抑制制御が発達す ることで、現在の状況に対する思考や反応を抑制し、他者の誤った信念を推測 で き る こ と を 示 し た 。 ま た Davis & Pratt( 1995) は 、 実 験 者 の 言 っ た 複 数 の 数字を逆の順番で再生する数逆唱課題と「心の理論」課題の成績の相関が高い ことを示し、「心の理論」課題にとっては、1つの課題状況やストーリーに対 して、自己と他者、現実と誤信念といった複数の表象を保持しておくためのワ ーキングメモリが必要であるとしている。 小 川 ・ 子 安( 2008)で は 、 誤 っ た 信 念 課 題 の 成 績 と 、 複 数 の 単 語 を 反 対 の 順 番で再生する単語逆唱スパン課題で測定したワーキングメモリの成績との相関 が、年齢や言語能力を統制した場合でも高いことが示された。誤った信念課題 では、ストーリーを聞き、理解しながら、ストーリーの中のさまざまな情報を 保持したり、1 つのストーリーの中に過去と未来と現在、自己と他者などの複 数の情報を意識しておく必要があるため、情報の保持と操作の役割を担うワー キングメモリの機能がある程度発達していることが必要になるだろう。一方で、 小 川 ・ 子 安( 2008)で は 、 誤 っ た 信 念 課 題 の 成 績 と 抑 制 制 御 課 題 の 成 績 と の 関 連は、年齢と言語能力を統制した場合には有意にならなかった。この結果は、 3 抑制制御と比較してワーキングメモリは「心の理論」との関連が強くないとす る 先 行 研 究 ( Calson, Moses, & Breton, 2002; Hughes, 1998) と は 矛 盾 す る も のであり、「心の理論」と実行機能の関連性について、統一した見解が得られ ていないことがうかがえる。 そ こ で 小 川 ・ 子 安( 2010)は 、 実 行 機 能 、 特 に ワ ー キ ン グ メ モ リ と 葛 藤 抑 制 の機能が他者の誤った信念に基づく行動への理由づけにどのような影響を与え るのかを、理由づけ質問を行うことで再検討した。誤った信念課題の予測質問 について、幼児は最初、それ以前の経験の中で感じた独特な身体感覚の導きに 従って、瞬時に適応的な判断をしており、その場合「なぜそのように判断する のか」という子どもの理解そのものを尋ねているわけではないといえる。この 点に関して、他者の誤った信念に基づく行動に対して、なぜ他者は誤った行動 をとったのかを尋ねる理由づけ質問を実施し、幼児の理由づけの内容を分析す る 研 究 が 行 わ れ る よ う に な っ て き て い る ( 木 下 , 1991; Naito & Koyama, 2006; Perner, Lang, & Kloo, 2002; Wimmer & Mayringer, 1998) 。 理 由 づ け 質 問 の 意義は、他者の認識内容についての原因を意識化できること、すなわち他者が ある認識内容を持つに到った状況自体を対象化して捉える能力の発達を検討で き る 点 に あ る ( 木 下 , 1991) 。 結 果 、 月 齢 や 言 語 能 力 の 影 響 を 除 い て も 、 ワ ー キングメモリの機能が他者の誤った行動に対する適切な理由づけに影響するこ とがわかった。これは、他者の誤った行動に対して、過去の他者の行動や認識 状態に言及して理由づけするためには、呈示されたストーリーの内容を保持し ておき、求められたときにストーリーの中の必要な情報を活性化することが必 要になることを示唆している。加えて、葛藤抑制の成績が、現在の状況に固執 した理由づけを行うかどうかを予測することがわかった。これらの結果は、他 者の誤った行動に対して、現実の状況のみに言及する子どもは、葛藤抑制の機 能が弱く、対象の場所のような現在の情報を抑制しておくことが難しいことを 示 し て い る 。 小 川 ・ 子 安 ( 2010) は 、 先 行 研 究 の 結 果 ( 小 川 , 2008; 小 川 ・ 子 安 , 2008) を 追 認 し 、 他 者 が 誤 っ た 行 動 を と っ た 際 に 、 そ の 行 動 の 原 因 が 他 者 の過去の行動にあることを意識化し、それに言及できるのはワーキングメモリ の機能が高く、他者の過去の行動を覚えておき、必要な場面でその情報を活性 化することができるためであることを示すことに貢献した。 4 また先述のように、「心の理論」の獲得が通常4歳以降といわれているのに 対して、日常生活ではもう少し早くから「心の理論」もしくはその萌芽的能力 が 獲 得 さ れ て い る の で は な い か と い う 見 方 が あ る 。 Youngblade & Dunn ( 1995)は 、 2 歳 9 ヶ 月 の と き に 、「 心 の 理 論 」課 題 に 反 映 さ れ る 心 的 状 況 の 理解と同じ能力を必要とするふり遊びの中で役割演技(役をはっきり言語化せ ず に 自 分 以 外 の 特 別 な 役 を 演 じ る )を 頻 繁 に 行 う 子 は 、 3 歳 4 ヶ 月 の と き に「 心 の 理 論 」課 題 が よ く で き た こ と を 示 し て い る 。 Wellman( 1990)の 研 究 で は 、 <クッキーを持っている男の子>の絵や、<クッキーのことを考えたり、夢を 見たり、思い出したり、持つふりをしている男の子>の絵を子どもに見せた。 すると、3歳児でも、どの男の子がクッキーを「見たり、さわったり、食べた り、友だちに食べさせられるか」を正しく答えた。また、日常の観察例の中に も「心の理論」の芽生えを、認めることができる。例えば、2歳の女の子がテ ーブルの上にチョコレートを見つけて欲しがるが、母親はどうしてもくれない。 そこで彼女は「疲れた」と言う。こう言えばうまくチョコレートをもらえると いうことを知っているためで、他人の心を操作しようという気持ちが女の子に は働いている。そのため、この子どもに心の理論の萌芽的能力が獲得されてい る こ と が 考 え ら れ る( Dunn, 1988)。 こ の よ う に 。 嘘 を つ く こ と で 、 相 手 に 自 己の利益になる行動の変化を生じさせることができることを幼い子どもでも予 測することができる。嘘をつくことは相手の心を読む能力、すなわち「心の理 論」の原初的な獲得を意味するのである。 Astington( 1993) は 、 ① 相 手 の 信 念 操 作 を 意 図 し 、 ② そ れ が 事 実 に 反 す る ことを知りながら、③虚偽の内容伝達を行うことを嘘の3要素としている。こ れまで、嘘をはじめとする子どもの欺き行為について、様々な研究がされてき た。しかし、それらの研究が必ずしも標準的な誤った信念課題を実施していな いことから、共通のものさしによる結果の比較ができず、欺き行為を誘導する 実験のデザインの有効性・再現可能性をめぐる議論から脱しえないことがある。 ま た 、 Chandler & Hala( 1994) の よ う に 、 年 少 児 の 意 図 性 を 確 認 し 易 い 欺 き 行為を引き出すため、実験者とともに第 3 者を騙すよう子どもを扇動するデザ インは、道義的問題をもたらしかねない。このような道義的観点にも配慮して、 瓜 生( 2007)は 、 多 く の 子 ど も が 実 験 以 前 か ら 慣 れ 親 し ん で い る キ ャ ラ ク タ ー 5 であるアンパンマンの話の枠組みを使い、正義の味方であるアンパンマンを助 けるために、アンパンマンの新しい顔を箱に隠して守るという場面を考案した。 そして、2 つの箱のうち、ばいきんまんに嘘をついて空っぽの箱の方を教える という、参加型の課題を用いて「心の理論」と日常みられる嘘をつく行為との 関連について検討した。その結果、年中児以上になると「心の理論」獲得に先 立って嘘をつくことが可能になってきていることを示した。しかし、年少児で は嘘をつくことへの葛藤がうかがえた。こうした場面設定には、幼児が慣れ親 しんでいるキャラクターが登場することから、初めて聞くストーリーである誤 った信念課題よりも理解しやすい。また、反応意図の判定が、ばいきんまんに 嘘をつくかどうかから反応意図がわかる実験デザインであるため、本研究でも この手続きを用いることにした。 嘘をつくという行為では、本当のことを教えようとする自分の気持ちを抑え る必要がある。そのため、嘘をつくという行為には葛藤抑制の機能が関連して いると考えられる。さらに嘘をつくには、現実にはどのような出来事が生じた かを記憶しておく必要があるため、ワーキングメモリの機能も関連していると 考えられる。すなわち、「心の理論」の萌芽とみなされる嘘をつく行為にも、 葛藤抑制とワーキングメモリが関与していると予想されるのである。しかし、 この点については実証研究が少なく、さらに日常見られる嘘をつくという行為 と、心の理論ならびに実行機能との関連についても、研究はまだ十分でない。 これらの関連を示すことで、「心の理論」の発達に実行機能の獲得がどのよう に関わっているかがより明らかになるだろう。 そこで本研究では、年少児と年中児を対象として、日常生活にみられる嘘を つく行為と心の理論ならびに抑制制御ならびにワーキングメモリという実行機 能との間に、どのような関連がみられるのかを検討する。なお、ここで年少児 と年中児を対象とするのは、嘘の効果を理解し、実際に嘘をつくようになる年 齢 で あ り 、 か つ 小 川 ・ 子 安( 2008)か ら 実 行 機 能 の 獲 得 の 度 合 い が 心 の 理 論 の 成績に反映することが予想されているからである。 6 【方法】 対象児 滋 賀 県 内 の 公 立 の 認 定 こ ど も 園 に 在 籍 す る 、 年 少 児 34 名( 男 児 12 名 、 女 児 22 名 )、 年 中 児 43 名( 男 児 23 名 、 女 児 20 名 )。 ア ン パ ン マ ン の 物 語 の 登場人物の4名の絵について、少なくともアンパンマンとばいきんまんの名前 が答えられることを参加の条件とした。なお、発達上の顕著な障害を有する子 どもは特にいなかった。 調査時期 第 1 期 : 平 成 23 年 1 月 下 旬 第 2 期 : 平 成 23 年 10 月 下 旬 ~ 11 月 下 旬 課題 用 い た 課 題 は 、 ア ン パ ン マ ン 課 題( 嘘 を つ く 行 為 に 関 す る 課 題 )、 誤 っ た 信 念 課 題(「 心 の 理 論 」課 題 )、 単 語 逆 唱 課 題( ワ ー キ ン グ メ モ リ 課 題 )、 赤 ・ 青課題(抑制制御機能の課題)の 4 種類であり、これらをアンパンマン課題・ 誤った信念課題の順で個別実験にて実施した。ワーキングメモリ課題、赤・青 課題は、アンパンマン課題と誤った信念課題の間に挿入して実施した。 アンパンマン課題 瓜 生( 2007)の 研 究 で 用 い ら れ た 課 題 を 採 用 し た 。 課 題 は パ ソ コ ン 画 面 で 映 像により提示した。ばいきんまんに顔を濡らされたアンパンマンの元気がなく な っ た 後 、 実 験 者 が ア ン パ ン マ ン の 新 し い 顔 ( 直 径 約 10 ㎝ 、 紙 製 ) を 取 り 出 した。次の画面でパソコン・モニターの手前キー・ボード上に赤・青、2つの 箱を置き(画面にも実物大の箱に対応した大きさの赤・青の長方形図形が2つ 描かれている)、ばいきんまんから顔を守れば、後でアンパンマンに新しい顔 を渡してやれることを説明した後、子どもにどちらかの箱に新しい顔を隠させ た。その後、ばいきんまんが画面に現れ、顔の在処を「教えろ。どっちの箱 だ。」と子どもに尋ねた(第1試行)。子どもがすぐに反応しない、あるいは 「イヤ」 「 シ ラ ナ イ 」な ど と 返 答 す る と き は 、 ば い き ん ま ん が「 教 え な い と 帰 ら ないぞ。教えろ。」と督促し、それでも反応しないときは、実験者が「ばいき んまんが『教えてくれたら帰る』と言っているよ。」と説明し、どちらか一方 7 を選ぶように促した。反応をためらう場合には、最初のばいきんまんの問いか けから1分以内を制限時間として、ばいきんまんの督促・実験者の促しを続け た。子どもが空っぽの箱を指示できれば正答となった(指さしも許容)。誤答 の場合、もう一度、新たな緑・黄色の箱に隠し直すチャンスがきて第2試行場 面となった。第1試行正答後、もしくは第2試行終了後は、ハッピーエンドの 展開に進み、課題終了となった。 なお、セリフは予め録音され、クリックによってばいきんまん(男声)やア ンパンマン(女声)のセリフが流れるようにした。ばいきんまんの督促のセリ フ用には、画面にマーカーを入れ、そこをクリックすれば即座にそのセリフが 流れるようリンクを設定した。これによって、子どもが反応をためらう場合も、 予め設定した手順でばいきんまんのセリフを流せるようにした。アンパンマン 課題において、正答した者を1点、2試行とも誤答だった者を0点とした。 アンパンマン課題 第 1 試行 画面 1 画面 2 画面 3 画面 4 8 画面 5 画面 6 画面 1 画面 2 画面 3 画面 4 第 2 試行 画面 5 Figure1 ア ン パ ン マ ン 課 題 9 誤った信念課題 サ リ ー ・ ア ン 課 題( Premack & Woodruff, 1978)と 同 型 の 課 題 を 作 成 し た 。 男児・女児の2人を登場人物とした誤った信念課題(位置移動課題)である。 この課題も、映像によるパソコン画面で提示した。男の子が冷蔵庫にジュース を入れて退室するが、男の子の不在中に女の子がかごにジュースを移し、その 後男の子が帰ってくるというストーリーを見せた。その後、以下の3つの質問 を行った。他者信念質問:男の子は、ジュースを飲もうと思いました。男の子 は、はじめにどこを探しますか。現実質問:ジュースは今どこにありますか。 記憶質問:男の子は部屋を出るとき、どこにジュースを入れましたか。他者信 念質問と現実質問の両方に正答したものを 1 点、いずれかに誤答もしくは両方 誤答だったものを 0 点とした。記憶質問は正答を 1 点、誤答を 1 点とした。 ① 男の子が部屋に入室する ②冷蔵庫にジュースを入れ る ③ コップを取りに退室する ④女の子が入室する 10 ⑤ 冷蔵庫からジュースを出す ⑥かごにジュースを入れる ⑦女の子が退室する ⑧コップを持って戻ってくる Figure2 誤った信念課題 単語逆唱課題 Carlson( 2002) の 単 語 逆 唱 ス パ ン 課 題 と 類 似 の 課 題 で あ り 、 小 川 ・ 子 安 ( 2008)の 研 究 で 用 い ら れ た 課 題 を 採 用 し た 。 実 験 者 は 、 子 ど も に 逆 の 順 序 で 単語のリストを復唱するように教示した。逆唱する単語と同じ数の紙片を机に 置き、実験者は紙片のそれぞれを指さしながら、単語リストの単語を言った。 リストを読み終えると、子どもは、逆の順番で紙片を指さしながら、実験者の 言ったことを復唱するよう教示された。その後、練習試行を実施した。教示: 「これから私がここにある紙を指さししながら、<対象児名>ちゃんはその言 葉を私とは反対の順番で言ってください。今から私(実験者)とライオンさん でやってみるので、見ていてください。後で、<対象児名>ちゃんもライオン さんがするみたいにしてもらいます。」といって、手本を示した。その後、練 習試行に入った。手本と同様に「りんご、いぬ」の 2 単語を用い、練習を行っ た。子どもが間違えたり、無反応だった場合には、「この紙を指さしたときは 『いぬ』、この紙を指さしたときは『りんご』って言いました。反対の順番で 11 言ってみましょう。」と言って、練習を繰り返した。練習試行で子どもが正答 したら、本試行へと進んだ。本試行では 2 単語のリストを 2 試行、3 単語のリ ス ト を 2 試 行 、 4 単 語 の リ ス ト を 2 試 行 ……と い う よ う に 進 め て い っ た 。 単 語 リストの長さは 2 単語から 5 単語まであり、2 試行のうち 1 試行に正答したら、 単 語 数 を 増 や し て い っ た 。 課 題 で 用 い た 単 語 を Table1 に 示 し た 。 単 語 は 、 幼 児が理解できると考えられるもので、かつ単語リストの中で、同じ範疇(動 物・道具など)の単語が含まれないように選定した。逆唱スパンの得点は、子 どもが再生できる最大の単語数であり、範囲は 1 点(2 単語に失敗)から 5 点 であった。 Table1 単語逆唱課題で使用した単語 練習試行 りんご‐いぬ 2単語 おふろ‐たいよう ぶた‐ほん 3単語 スプーン‐ねこ‐とけい いえ‐テーブル‐バナナ 4単語 えんぴつ‐くま‐でんしゃ‐おもちゃ とら‐くつ‐コップ‐ほし 5単語 て‐ラジオ‐ライオン‐じてんしゃ‐き くるま‐さかな‐ペン‐まど‐ボール 赤・青課題 Gerstad ら( 1994)の 昼 /夜 ス ト ル ー プ 課 題 と 類 似 の 課 題 で あ り 、 小 川 ・ 子 安 ( 2008)の 研 究 で 用 い ら れ た 実 行 機 能 課 題 を 採 用 し た 。 子 ど も に 赤 色 と 青 色 の 2 枚の四角形のカードを紹介し、以下のように教示した。教示:「今からゲー ムをするよ。もし私が<対象児名>ちゃんに赤って言ったら、青いカードを指 さしてね。もし、青って言ったら、赤いカードを指さしてね。用意はいいか な ? 」 青 5 試 行 、 赤 5 試 行 の 計 10 試 行 を ラ ン ダ ム に 実 施 し た 。 10 試 行 中 正 し い 反 応 を 行 っ た 回 数 を 得 点 と し た 。 得 点 範 囲 は 、 0 点 か ら 10 点 で あ っ た 。 12 【結果】 1、性差について 各課題の得点に性差が見られるかどうかを検討するために、男女間でt検定 を行った。アンパンマン課題でのみ性による得点差が有意であり、男児よりも 女 児 の 得 点 が 高 か っ た( t=2.1634, df=75, p<.05)。 し か し 、 そ の 他 の 課 題 の 得 点に性による有意な差は見られなかった。そのため、アンパンマン課題関連の み男女別で分析を行なった。 Table2 年齢群ごとのアンパンマン課題の得点の人数(人) 年齢群 アンパンマン課題 3歳 4歳 0点 17 19 1点 17 24 (注)0 点:2 試行とも誤答 Table3 1 点:第 1 試行もしくは第 2 試行に正答 年齢群ごとの誤った信念課題の他者信念質問の得点の人数(人) 年齢群 他者信念質問 3歳 4歳 0点 20 16 1点 14 27 (注)0 点:誤答 1 点:正答とした。 13 年齢群ごとの誤った信念課題の現実質問の得点の人数(人) Table4 年齢群 現実質問 3歳 4歳 0点 8 3 1点 26 40 (注)0 点:誤答 Table5 1 点:正答とした。 年齢群における誤った信念課題の記憶質問の得点の人数(人) 年齢群 記憶質問 3歳 4歳 0点 20 3 1点 22 40 (注)0 点:誤答 Figre3 1 点:正答とした。 年齢群における単語逆唱課題の得点分布 (注)1 点:2 単語に失敗 2 点:2 単語に正答 3 点:3 単語に正答 4 点:4 単語に正答 14 Figre4 年齢群における赤・青課題の得点分布 ( 注 ) 0 点 : 10 試 行 す べ て 誤 答 1 点:1 試行に正答 2 点:2 試行に正答 3 点:3 試行に正答 4 点:4 試行に正答 5 点:5 試行に正答 6 点:6 試行に正答 7 点:7 試行に正答 8 点:8 試行に正答 9 点:9 試行に正答 10 点 : 10 試 行 に 正 答 2、各課題得点における年齢の効果 各課題の得点に年齢による効果がみられるかどうかを検討するために、月齢 を6ヵ月ごとに 4 群に分けて一元配置分散分析を行った。アンパンマン課題男 児 (F( 1/68)=193.784, p<.01)、 ア ン パ ン マ ン 課 題 女 児 (F( 1/68)=90.904, p<.01)、 単 語 逆 唱 課 題 (F(3/73)=3.520, p<.05) 、 赤 ・ 青 課 題 (F(3/73)=32.881, p<.01) 、 誤 っ た 信 念 課 題 の 記 憶 質 問 (F(3/73)=15.806, p<.01)に お い て 年 齢 に よ る 主 効 果 が み ら れ た 。 誤 っ た 信 念 課 題 の 他 者 信 念 質 問 (F(3/73)=1.571, p<.ns)と 現 実 質 問 (F(3/73)=1.768, p<.ns) に お い て は 有 意 な 主 効 果 が 見 ら れ な か っ た 。 以 下 に 述べる心の理論と実行機能の関連が、単に発達的な同期性によるものである可 能性もあるが、この点については考察で述べる。 15 3、アンパンマン課題と実行機能の関連 アンパンマン課題の正誤で実行機能の両課題の得点に違いがみられるかを検 討するためにt検定を行った。しかし、男女ともに有意な差はみられなかった。 男 児 ( 単 語 逆 唱 課 題 : t= 0.353 , df=33, p<.ns, 赤 ・ 青 課 題 : t=0.443, df=33, p<.ns ) 女 児 ( 単 語 逆 唱 課 題 : t=1.010, df=33, p<.ns, 赤 ・ 青 課 題 : t=1.023, df=33, p<.ns) 4、誤った信念課題と実行機能の関連 誤った信念課題は、他者信念質問と現実質問の両方に正答したものを 1 点、 いずれかに誤答もしくは両方誤答だったものを 0 点とした。これは、単に 2 つ の選択肢(冷蔵庫とかご)のうち偶然いずれか一方を選ぶことで、他者信念質 問に正答するという可能性を避けるためであった。 誤った信念課題の他者信念質問・現実質問の正誤で実行機能の両課題の得点 に違いがみられるかを検討するためにt検定を行った。その結果、赤・青課題 に 5 % 水 準 で 有 意 な 差 が 見 ら れ た( t= 2.288, df=75, p<.05)。 正 答 群 の 平 均 は 8.0 点 、 誤 答 群 の 平 均 は 6.1 点 だ っ た 。 誤った信念課題の記憶質問の正誤で実行機能の両課題の得点に違いがみられ るかを検討するためにt検定を行った。その結果、赤・青課題に1%水準で有 意 な 差 が 見 ら れ た( t= 4.125, df=75, p<.01)。 正 答 群 の 平 均 は 8.0 点 、 誤 答 群 は 4.7 点 だ っ た 。 5、課題間の構造 アンパンマン課題、誤った信念課題、単語逆唱課題、赤・青課題の全体的な 関 係 を み る た め に ク ラ ス タ ー 分 析 を 行 っ た 。 Figure5 に 示 す 樹 形 図 が 得 ら れ た 。 実 行 機 能 課 題 群 と「 心 の 理 論 」課 題 群 の 2 つ に 大 別 さ れ た 。 実 行 機 能 課 題 群 は 、 単語逆唱課題と赤・青課題、誤った信念課題の記憶質問であった。記憶質問は、 誤った信念課題の中のものであるが、質問内容はパソコンで画面提示された情 報を保持しておくという実行機能のワーキングメモリにつながる実行機能の1 つと考えられる。そのため、記憶質問は実行機能課題群に含まれる。一方の 「心の理論」課題群は、アンパンマン課題と誤った信念課題の他者信念質問・ 16 現実質問であった。 Figure5 各課題のクラスター分析結果 17 【考察】 嘘をつく行為について アンパンマン課題は、日常生活における、子どもの認識により近いものを捉 え、課題場面での設定を単純化し、反応も行動レベル(=嘘をつく)のものと し た こ と で 、「 心 の 理 論 」の よ り 早 い 獲 得 が 見 ら れ る と 予 想 し た 。 瓜 生( 2007) で は 、 年 中 児 の 正 答 率 は 80% で あ っ た の に 対 し て 、 今 回 の 実 験 で は 、 第 1 試 行 目 も し く は 第 2 試 行 目 に 正 答 し た 割 合 が 56% で あ っ た 。 対 象 の 子 ど も は 異 な る が 、 瓜 生( 2007)の 結 果 と 大 き く 異 な る 結 果 と な っ た 。 そ の 原 因 と し て 、 課題の進め方のちがいが考えられる。今回、実験中に子どもが反応しないとき や、「イヤ」と言ったとき、どちらかの箱を選ばせようと実験者が促した。実 際、ほとんどの子どもが、実験者の促しなしでは反応しなく、促しがあっては じめてどちらかの箱を選んだ。そのため、実験者が「ばいきんまんに本当のこ とを教えないようにしよう。」など、具体的な助言を与える必要があり、この 段階まで反応が遅れたことが、正答率の低さに繋がったと考える。 また、実験者は子どもの味方なのか、ばいきんまんの味方なのかをはっきり させていなかったため、実験者の促しがあったとき、自分の味方だと感じてい た子どもとばいきんまんの味方だと感じていた子どもとで、嘘をつくべきかど うかの判断が異なった可能性がある。課題を開始する前に、子どもの共同者と しての立場を明確にしていれ、子どもが安心して課題に立ち向かえたのではな いかと考える。 心の理論について 誤った信念課題においては、3 歳から 6 歳へと年齢が上がるにつれて、正答 す る 子 ど も が 多 く な る と い う 、 従 来 の 結 果 ( Wimmer & Perner, 1983 ; 子 安 ほ か , 2003)が 再 確 認 さ れ た 。 年 中 児 は 、 現 実 質 問 と 記 憶 質 問 そ れ ぞ れ に 43 名 中 40 名 が 正 答 で き て い た こ と か ら 、 誤 っ た 信 念 課 題 に 正 答 で き な い の は 、 特 に 他者信念質問の難しさのためであると考えられる。年齢ごとの誤った信念課題 の 他 者 信 念 質 問 ・ 現 実 質 問 の 正 答 率 は 、 年 少 児 で 32%( 34 名 中 11 名 )、 年 中 児 で 56%( 43 名 中 24 名 )で あ っ た 。 6 ヶ 月 ご と の 月 齢 群 に よ る 差 は 有 意 で あ 18 り、発達的な変化が見られたものの、年中児になっても誤答する子どももいた。 これらは、従来の多くの研究に比べてやや低めの正答率であり、他者信念質問 に 安 定 し て 正 答 で き る よ う に な る の は 6 歳 頃 で あ る と い う Naito & Koyama ( 2006 ) の 結 果 に 近 い も の で あ っ た が 、 年 中 児 の 半 数 は 誤 っ た 信 念 課 題 の 他 者信念質問・現実質問に正答しているため、「心の理論」は 4 歳以降に獲得さ れるとする「4 歳の壁」の見解に整合する結果であったと言える。 実行機能について 実行機能課題のうち、単語逆唱課題では月齢群間に有意な偏りが見られたこ とから、年少児から年長児にかけて年齢群による成績差がはっきり見られたと い う 小 川 ・ 子 安 ( 2008) の 研 究 と 同 様 の 結 果 で あ っ た 。 年 少 児 の 平 均 点 が 2.0 点 、 年 中 児 の 平 均 点 が 2.5 点 と 、 年 齢 群 に よ る 成 績 差 が わ ず か に み ら れ た 。 こ のことから、ワーキングメモリの能力は、わずかではあるが年少児から年中児 の間に発達していくということがわかった。 また、赤・青課題は、年少児から年中児にかけて月齢が上がるにつれて成績 が 上 昇 し た 。 年 少 児 の 平 均 点 が 3.9 点 、 年 中 児 の 平 均 点 が 9.4 点 で 、 年 齢 群 に よ る 成 績 差 が は っ き り と み ら れ た 。 し か し 、 年 中 児 の ほ と ん ど の 子 ど も が 10 点であったことから、年中児にはこの課題が簡単すぎた。しかし、年少児は平 均点が低いことから、年少児から年中児にかけて抑制制御能力が急激に獲得さ れたことがわかる。 嘘をつく行為と心の理論の関連について 瓜 生( 2007)の 研 究 で は 、 年 中 児 で は 標 準 的 な 課 題 で あ る 誤 っ た 信 念 課 題 で 「心の理論」が確認されるよりも、日常生活におけるアンパンマン課題の方が 正答率が高いという結果が示されている。加えて、多くの子どもが実験以前か ら慣れ親しんでいるキャラクターであるアンパンマンの話の枠組みであるため、 アンパンマン課題のほうが初めて聞く誤った信念課題より理解しやすいもので あるとも予想していた。事実、年少児においては、アンパンマン課題の正答者 数のほうが誤った信念課題の正答者数よりも多かった。このことから、年少児 から「心の理論」が獲得されてきていて、日常場面においてはより早くからそ 19 の能力が発達していることがわかる。ただし、年中児はアンパンマン課題の正 答 者 数 と 誤 っ た 信 念 課 題 の 正 答 者 数 は 変 わ ら ず 、 瓜 生( 2007)の 結 果 と 異 な る ものであった。その原因として 2 つあげられる。まず 1 つめは、アンパンマン 課題における手続きの詳細が異なったことが、本研究での正答率の低さにつな がっていることである。もう 1 つは、逆に、年中児において「心の理論」が瓜 生 ( 2007) の 対 象 児 よ り も 発 達 し て い た こ と が 原 因 で あ る と い え る 。 嘘をつく行為と実行機能の関連について 今回の研究では、アンパンマン課題が単語逆唱課題と赤・青課題との関連が 見られなかった。ただし、先述のように課題の精度が悪かったことや実験参加 者の少なさが原因と考えられるため、今回の研究の結果から、ただちに、嘘を つく行為に抑制制御とワーキングメモリの実行機能が関連していないとは言え ない。 心の理論と実行機能の関連について 誤った信念課題の他者信念質問・現実質問と赤・青課題との間に関連が見ら れ た 。 こ れ は 、 Carlson & Moses( 2001) が 示 し た 、 抑 制 制 御 と 「 心 の 理 論 」 との間の関連を再確認するものである。クラスター分析では、アンパンマン課 題と誤った信念課題の他者信念質問・現実質問が同じ「心の理論」群であり、 心に気づく部分であるため、これらが「心の理論」課題群に分けられたことは 妥当であった。しかし、アンパンマン課題と赤・青課題には関連がみられなか ったことから、嘘をつく行為は日常的だからこそ、さほど抑制能力が必要でな かったのだろう。つまり、日常の心の理論には、大きく実行機能がいらないと いうことがわかる。なお、アンパンマン課題と赤・青課題には関連を見ること ができなかった。 Davis & Pratt( 1995) が 、 「 心 の 理 論 」 課 題 と 数 逆 唱 課 題 と の 成 績 の 相 関 が 高 い こ と を 示 し 、 小 川 ・ 子 安( 2008)が 誤 っ た 信 念 課 題 と 単 語 逆 唱 課 題 に 強 い関連を示したのに対して、今回の研究では、「心の理論」を測定する誤った 信念課題やアンパンマン課題とワーキングメモリを測った単語逆唱課題との間 に関連を見ることができなかった。誤った信念課題では、ストーリーを聞き、 20 理解しながら、ストーリーのなかのさまざまな情報を保持し、1つのストーリ ーの中に、過去と現在、自己と他者などの複数の情報を意識しておく必要があ る。このような情報の保持と操作の役割を担っているのがワーキングメモリで あり、この容量がある程度大きいことが、他者信念質問に正答するためには必 要になると予想した。しかし、単語逆唱課題はワーキングメモリだけでなく、 言語能力や文章の理解能力も関係しており、この課題ではワーキングメモリだ けを取り出して測定したわけではない。そのため、「心の理論」の課題である アンパンマン課題と誤った信念課題との関連が見られなかったのかもしれない。 実際にはワーキングメモリとの関連が存在するが、本研究では手続きの問題か ら関連が示されなかったとも考えられる。 21 まとめ 「心の理論の発達に必要となるのは、心的状態に対する概念的知識の獲得の みではない」、「日常生活では、4 歳よりも早くから心の理論もしくはその萌 芽 的 能 力 が 獲 得 さ れ て い る 」と い う 当 初 立 て た 2 点 の 仮 説 に つ い て 、 こ の 研 究 から分かったことを、先行研究を踏まえながらまとめる。 本 研 究 で は 、 Carlson & Moses( 2001) の 先 行 研 究 の よ う に 、 「 心 の 理 論 」 と抑制制御能力に関連が見られたことから、実行機能の下位機能である抑制制 御が発達することで現在の状況に対する思考や反応を抑制し、他者の誤った信 念を推測できることを示した。しかし、嘘をつく行為は日常的だからこそ、さ ほど抑制能力が必要でない。 また、年少児においては、アンパンマン課題の正答者数のほうが誤った信 念課題の正答者数よりも多かった。このことから、年少児から「心の理論」が 獲得されてきていて、日常場面においてはより早くからその能力が発達してい ることがわかった。そして、日常場面ではそれほど高いレベルの実行機能の能 力が必要ではないということがわかった。 22 【引用文献】 Astington, J. W. 東京:新曜社. mind (Astington, J. W. Cambridge: Carlson, S. M 子供はどのように心を発見するか(松村暢隆. 訳). 1995 2005 1993 The child’s discovery of the Harvard University Press. Developmentally sensitive measures of executive function in preschool children. Developmental Neuropsychology , 28, 28 595-616. Carlson, S. M., & Moses, L. J. 2001 Individual differences in inhibitory control and children’s theory of mind. Child Development , 72, 72 1032-1053. Carlson, S. M., Moses, L. J., & Breton, C. 2002 How specific is the relation between executive function and theory of mind? Contributions of inhibitory control and working memory. Infant and Child Development , 11, 11 73-92. Chandler, M., & Hala, S. 1994 The role of personal involvement in the assessment of early false belief skills. In C. Lewis, & P. Mitchell (Eds.), Children’s early understanding of mind: Origins and development (pp.403-425). Hove: Erlbaum. Davis, H. 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Child 【謝辞】 本研究に快くご協力いただいた認定子ども園の先生方および園児の皆さんに 心より御礼申し上げます。また、本論文をまとめるにあたり、ご指導いただい た渡部雅之教官をはじめ滋賀大学教育学部学校心理コースの先生方に深く感謝 いたします。 26 中学生はどのような友だちグループにいると 高い居場所感を感じるのか 8128 学校心理コース 西村 和未 目次 問題と目的・・・・・・・・・・2 方法・・・・・・・・・・・・・5 結果・・・・・・・・・・・・・9 1. 各尺度の分析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 (1) 友だちグループ内の居場所感尺度・・・・・・・・・・・・・・・9 (2) 友だちグループ特性尺度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 (3) 一人の時の気持ち、過ごし方尺度・・・・・・・・・・・・・・・24 2. 重回帰分析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 (1) 性別で限定した重回帰分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 (2) 一人の時の気持ち、過ごし方、性別で限定した重回帰分析・・・・29 考察・・・・・・・・・・・・・30 1. 友だちグループ特性と居場所感の関連・・・・・・・・・・・・・・・30 2. 一人の時の気持ち、過ごし方と居場所感の関連・・・・・・・・・・・31 3. 全体考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 おわりに・・・・・・・・・・33 引用文献・・・・・・・・・・34 巻末参考資料・・・・・・・・資料1 1 問題と 問題と目的 中高生女子には、 「友だちグループ」と呼ばれる常に一緒に行動する特定の友人を持つ傾向が見られる。 過去の研究から、女子生徒の 9 割以上は友だちグループに所属していることが分かっている(佐藤, 1995 ; 三好, 2002)ことから、女子生徒にとって、友だちグループは学校生活にはなくてはならないものだと考 えられる。しかし、 「友だちグループ」の存在は本人にとって必ずしも歓迎されるものではない(佐藤, 1995)。グループに所属する理由とグループ志向の関係を調べた佐藤(1995)によると、グループに所属 する理由には「浮いた存在になることへの回避」 「複数からの安全保障の獲得」の 2 つの因子があり、グ ループは積極的な面だけではなく「入っていないと不都合である」という否定的な側面もみられること が明らかになっている。また、Benesse 教育研究開発センター(1997)によると、中学生において、友 だちと一緒にいても、「大勢の友だちといると仲間はずれにあったように感じる」が 14.5%、「友だちと いるとき、自分が無理をしていると感じる」が 23.0%と、5人に1人の中学生が、友だちと一緒にいて も楽しい気持ちでないことがわかっている。さらに、落合・佐藤(1996)は、高校生、大学生に比べて 中学生は、 「自信が持てず、まだ成熟の途中に揺れており、友達に率直に心を開いた関係がなかなか持て ない」 「自分でも友達との関係がしっくりいっていないと感じやすい時期」であるということを述べてい る。以上から、友だちグループは学校生活になくてはならないものであるが、うまく関係を作ることが できず、一緒にいても楽しいと感じることができない子どもがいるという現状があるといえるだろう。 また、文部科学省(2011)によると中学生は不登校者の割合が小学生と比べて高く、その原因は、 「い じめを除く友人関係の問題」が大きな割合を占めている。このことから、中学生は友人との関係をうま く作ることができず、それが原因で不登校になってしまうことがあると考えられる。以上から、中学生 の友人関係は、学校生活を適応的に送れるか送れないかという非常に重要な鍵をにぎっているといえる。 そこで、本研究では、中学生を調査対象とする。 さて、近年、不登校問題を解決するためには、 「心の居場所」としての学校づくりをする必要がある(文 部科学省, 2007)といわれている。では、そもそも、居場所とはどのような場所なのだろうか。これまで 「居場所」という言葉には様々な定義やとらえ方がされている。例えば、 「児童生徒が存在感を実感する ことができ、精神的に安心して身を置くことのできる場所」(文部省,1992)、「いつも生活している中で、 特にいたいと感じ、いられる場所」(杉本・庄司, 2006)、 「自己の存在感を実感でき、精神的に安定して いることができ、ありのままの自分を受け入れてくれ、かけがえのない自分の価値を大事にしてくれる 場所」(宮下・石川, 2005)があげられるが、現代では物理的な意味だけでなく心理的側面が含まれている (杉本、庄司, 2006)と考えられている。なかでも、不登校、心理臨床の関連からみる居場所には、 「あ りのままでいられるところ」 「役に立っていると思える感覚がもてるところ」という共通理解が得られつ 2 つある。そこで本研究では「ありのままでいられる」「役に立っている」と思えるところを「居場所」 、 それを感じる感覚を「居場所感」とする。 従来の居場所研究は、どこに居場所を感じるのかといった場所を対象とした研究が多く見られた。例 えば、杉本、庄司(2006)は小学生、中学生、高校生を対象にどこに居場所を感じるのかを調査した。 しかし近年では、どんな人がいるところに居場所を感じるのかという人を対象にしたものが多くなって いる傾向がみられる。特に、友人や親友を対象としたものが多く(石本, 2010 ; 則定, 2008)、石本(2010) は、中学生において、友だちに対する居場所感が、学校適応と関連しているということを明らかにして いる。つまり、友だちに対して居場所感を持つことができれば、学校にも適応しやすいということであ る。しかし、前述の通り女子生徒の 9 割以上は友だちグループに所属していることがわかっていること から、中学生の友人関係から友だちグループは切り離せないものと考えられるため、友だちグループを 対象にすることも必要なのではないかといえる。以上から、中学生における友だちグループへの居場所 感を高める要因について調査することを目的とする。友だちグループに対する居場所感を高める要因が 明らかになれば、今後、不登校問題を解決するための重要な知見になるだろうと考えられる。 では、どのような友だちグループならば居場所を感じることができるのだろうか。石本(2011)は、 青年期の友人関係を「心理的距離」 「グループ境界の強固性」 「同調性」の 3 つの側面から学校適応との 関連を分析した。その結果、「心理的距離」が遠いほど、 「グループ境界の強固性」が高いほど、適応し にくいということを明らかにしている。石本はこの結果から、 「友人関係をもっと多面的に見る必要があ る」と述べた。居場所感においても、友人関係を分析する上で、多面的にみる必要があるといえるだろ う。そこで、本研究では、友だちグループ特性として、3 つの指標を用いた。 1 つ目は、 「グループ境界の強固性」である。これは、グループそのものが他のグループとどのような 関わりを持っているのかを測る指標である。石本(2011)が用いたものであり、石本はグループ境界の 強固性が高いほど、学校適応が低下することを示した。居場所感でも同様のことが言えるのだろうか。2 つ目は、 「グループ内の力関係」である。これは、グループのメンバーと対等に話ができるのかというこ とを測る指標である。いつも一緒にいるグループであっても、そのメンバーに命令や口出しをされれば、 居場所感も低下するのではないかと考えられる。3 つ目は「グループの人数」である。佐藤(1995)は、 グループの人数と、グループ志向との関連を調査し、グループの構成人数が多ければ、味方がいてくれ る確率の高さを、少なければ閉じて安定する絆の強さを求めるということを述べている。人数も居場所 感に関連があるということが考えられる。 また、佐藤(1995)は女子生徒は一人でいることを忌避するためにやむを得ずグループに所属してい ると述べている。つまり、一人でいることが平気である生徒と、そうでない生徒がいるとすればグルー プに対する捉え方が違い、居場所感にも違いがみられるのではないだろうかということが考えられる。 3 そこで、本研究では、一人でいることが平気であるかということを測るために「一人でいる時にさみし いと感じるか」という一人の時の気持ちと、 「一人になった時、他の友だちと過ごすか、一人で過ごすか」 という一人の時の過ごし方の 2 項目を設定し、個人差の変数として用いた。また、一人の時の気持ち、 過ごし方は、石本(2011)の用いた同調性尺度と類似していることからも、今回の研究で用いることは 適切であると考える。 さらに、これまで、友だちグループを対象とした研究は、女子を対象にしたものが多かった(佐藤, 1995 ; 石本, 2010)が、Benesse 教育開発研究センター(1997)によると、 「男子はつきあい方に応じて友だち がいるかどうか変化する」 「女子の場合、9 割以上が多様なつきあい方をする友だちがいる」ということ が分かっていることから、男子と女子では友だちグループ内でのつきあい方に違いが見られると考えら れる。そのため、グループ内での居場所感を規定する要因も異なってくるのではないかということが考 えられるだろう。本研究では男子も調査対象とし、女子との性差を検討することにより、これまで研究 されてこなかった男子にとっての友だちグループの在り方も見えてくるのではないかと考えられる。 以上から、本研究の目的は、以下の 3 点である。 ①どういったグループ特性ならば、居場所感を感じることができるのか ②一人でいるときの気持ち、過ごし方はグループ特性、居場所感とどのように関連しているのか ③男子と女子で友だちグループ内の居場所づくりに違いは見られるのか 4 方法 1. 調査の概要 調査は全て質問紙法で行われた。対象は滋賀県内の公立中学校 1 校である。この中学校は 2 つの小 学校が 1 つの中学校になっている。担任の先生を通じて実施した。 実施期間は 2011 年 11 月である。 2. 対象者 1 年生 148 名 2 年生 131 名(男子 134 名 女子 145 名) 計 279 名 3. 質問紙の構成 (1) フェイスシート 学年、性別の当てはまるものに○をつけさせた。 その下に、教示文として、 「これからの質問は、学校 学校で 学校で一緒にいる 一緒にいる時間 にいる時間が 時間が最も長い友だちグループ だちグループ( グループ(2 人でも構 でも構いません) いません) を思い浮かべて答えてください。」 という言葉を入れた。 (2) 友だちグループ内の居場所感尺度 石本(2010)の作成した居場所感尺度 13 項目作成し、一部表現を中学生向きに改め使用した。各 項目については、 「1.そう思わない」 「2.あまりそう思わない」 「3.どちらでもない」 「4. ややそう思う」 「5.そう思う」の 5 件法で回答を求めた。 <教示文> 前のページで思い浮かべた友だちグループについて聞きます。次のそれぞれのことは、どの程 度あてはまると思いますか。最も近い数字に○をつけてください。 <質問項目> 1.私がいないと、友だちグループの人がさびしがると思う。 5 2.友だちグループの人といる時、ありのままの自分が出せる。 3.友だちグループの人といる時でも、自分のやりたいことをすることができると思う。 4.友だちグループの人に、気にかけてもらっていると思う。 5.友だちグループの人といる時、これが自分だ、と実感できる。 6.友だちグループの人といる時、自分が必要とされていると感じる。 7.私がいないと、友だちグループの人が困ると思う。 8.友だちグループの人といる時でも、自分の意見を言える。 9.友だちグループの人から頼られていると感じる。 10.友だちグループの人といる時、いつも自分を見失わないでいられる。 11.友だちグループの人といる時、自分が役に立っていると感じる。 12.友だちグループの人といる時、自分の存在が認められていると感じる。 13.友だちグループの人といる時、いつでも自分らしくいられる。 (3) 友だちグループ特性 ① 友だちグループ境界の強固性 石本(2011)の作成したグループ境界の強固性尺度 7 項目を使用した。各項目については、 「1. そう思わない」 「2.あまりそう思わない」 「3.どちらでもない」 「4.ややそう思う」 「5. そう思う」の 5 件法で回答を求めた。 <教示文> あなたのいる友だちグループは、以下の文にどの程度あてはまると思いますか。もっとも 近い数字に○をつけてください。 <質問項目> 1.友だちグループの人は、グループの外の人が遊びに参加してきても嫌がらないと思う。 3.友だちグループの人は、グループの友だちとばかり遊んでいる。 5.友だちグループの人は、グループの外の人ともよく遊んでいる。 7.友だちグループの人は、グループの外にも友だちが多い。 8.友だちグループの人は、私がグループの外の人と遊んだら嫌がると思う。 10.友だちグループの人は、私がグループの外の人と仲良くしていたら怒ると思う。 6 11.友だちグループの人は、グループの外の人を仲間に入れてあげないことが多い。 ② 友だちグループ内の力関係 小久保(2011)の作成した相手との関係性尺度の「不安関係因子」を参考に 4 項目作成した。 各項目については、 「1.そう思わない」 「2.あまりそう思わない」 「3.どちらでもない」 「4.ややそう思う」「5.そう思う」の 5 件法で回答を求めた。 <教示文> あなたのいる友だちグループは、以下の文にどの程度あてはまると思いますか。もっとも 近い数字に○をつけてください。 <質問項目> 2.何かを頼まれた時、私が断りにくい人が友だちグループの中にいると思う。 4.友だちグループの中で何かを決める時、あなた以外のいつも決まった人の意見が通り やすいと感じる 6.友だちグループの中で何かを決める時は、話し合いや多数決で決める。 9.友だちグループの中には、自分の意見が通らなかったら機嫌を損ねる人がいると思う。 ③ 友だちグループの人数 友だちグループの人数を尋ねた。 <教示文> あなたのいる友だちグループにあてはまる記号に○をつけてください。 <質問項目> A.2 人組の友だちグループである。 B.3 人組の友だちグループである。 C.4 人以上の友だちグループである。 7 (4) 一人の時の気持ち、過ごし方 友だちグループと離れ、一人でいる時の気持ち、その時の過ごし方を尋ねた。 <教示文> あなたのいる友だちグループの人が、みんな風邪で学校を休んだとします。 <質問項目> (1) その日あなたは、さみしい気持ちになると思いますか。 (2) その日あなたは、一人で過ごすと思いますか。それとも、他の友だちと過ごすと思いま すか。 という 2 項目について、 (1) 「はい・いいえ」 (2) 「一人で過ごす・他の友だちと過ごす」のいずれかで回答を求めた。 8 結果 1. 各尺度の分析結果 (1) 友だちグループ内の居場所感尺度 人数の分布を Figure1 に示した。項目によるばらつきがみられ、 「2.友だちグループの人と いる時、ありのままの自分が出せる。」「3.友だちグループの人といる時でも、自分のやりた いことをすることができると思う。」 「8.友だちグループの人といる時でも、自分の意見を言 える。 」など、友だちグループの中で自分の思うように行動できるかを尋ねる項目は、 「そう思 う」「ややそう思う」の割合が高く、 「1.私がいないと、友だちグループの人がさびしがると 思う。」 「7.私がいないと、友だちグループの人が困ると思う。」 「11.友だちグループの人 といる時、自分が役に立っていると思う。」など、友だちグループの中で自分がどう思われてい るかを尋ねる項目は、「そう思わない」「あまりそう思わない」の割合が高かった。また、一つ の選択肢に回答が大きく偏っている項目は見られなかったため、すべての項目を分析の対象と した。 9 Figure1 友だちグループ だちグループ内 グループ内の居場所感 分布 10 続いて、最尤法、プロマックス回転 固有値 1 を基準に因子を抽出し、2 因子を抽出した (Table1) 。「私がいないと、友だちグループの人が困ると思う。」 「私がいないと、友だちグル ープの人がさびしがると思う。」など 7 項目を「自己有用感因子(α=.894)」、 「友だちグループの 人といる時、いつでも自分らしくいられる。」 「友だちグループの人といる時、ありのままの自 分が出せる。」など 6 項目を「本来感因子(α=.869)」とした。因子間相関は.588 であった。こ れは石本(2010)の結果と同じである。 Table1 居場所感尺度 1 2 h2 7.私がいないと、友だちグループの人が困ると思う。 .941 -.141 .749 1.私がいないと、友だちグループの人がさびしがると思う。 .825 -.110 .586 9.友だちグループの人から頼られていると感じる。 .803 .038 .682 11.友だちグループの人といる時、自分が役に立っていると感じる。 .783 .057 .669 6.友だちグループの人といる時、自分が必要とされていると感じる。 .732 .132 .667 12.友だちグループの人といる時、自分の存在が認められていると感じる。 .411 .393 .514 4.友だちグループの人に、気にかけてもらっていると思う。 .386 .169 .254 13.友だちグループの人といる時、いつでも自分らしくいられる。 -.023 .863 .723 2.友だちグループの人といる時、ありのままの自分が出せる。 -.031 .791 .598 10.友だちグループの人といる時、いつも自分を見失わないでいられる。 -.024 .748 .539 .051 .715 .557 -.045 .671 .417 .071 .552 .356 1.自己有用感因子( 自己有用感因子(α=.894 =.894) 894) 2.本来感因子( 本来感因子(α=.869 =.869) 869) 5.友だちグループの人といる時、これが自分だ、と実感できる。 3.友だちグループの人といる時でも、自分のやりたいことをすることができると思う。 8.友だちグループの人といる時でも、自分の意見を言える。 因子間相関 .588 11 続いて、各尺度の評定平均を Figure2、3 に示す。自己有用感因子はほぼ正規分布であり、本 来感は全体的に高めであるが、ばらついているといえる。以下、分析はすべて因子得点を用い て行った。 まず、学年、性別との関連を見るためt検定を行った。結果を Table2 に示す。本来感におい て男子より女子の方が 5%水準で有意に高かった(t(262.34)=-2.09 p<.05) 。そのため、分析は 性差を含めて検討した。 Figure2 Figure2 自己有用感 評定平均 12 Figure3 Figure3 本来感 評定平均 Table2 Table2 居場所感尺度の 居場所感尺度の性差 t検定 男子平均値 女子平均値 (標準偏差) (標準偏差) -.058 .053 (.93) (.98) -.12 .11 (.83) (1.02) 検定結果 自己有用感 t(266)=-.958 本来感 t(262.36)=-2.09 * * p<.05 13 (2) 友だちグループ特性 人数の分布を Figure4 に示した。項目によりばらつきが見られ、「5.友だちグループの人は、 グループの外の人ともよく遊んでいる。」 「7.友だちグループの人は、グループの外にも友だ ちが多い。 」など友だちグループに対して肯定的な項目は「そう思う」 「ややそう思う」の割合 が高く、 「2.何かを頼まれた時、私が断りにくい人が友だちグループの中にいると思う。」 「8. 友だちグループの人は、私が友だちグループの外の人と遊んだら嫌がると思う。」 「10.友だ ちグループの人は、私がグループの外の人と仲良くしていたら怒ると思う。 」など友だちグルー プに対して否定的な項目は「そう思わない」 「あまりそう思わない」の割合が高かった。 Figure4 Figure4 友だちグループ だちグループ特性 グループ特性 分布 14 ① 友だちグループ境界の強固性 友だちグループ境界の強固性尺度を最尤法、プロマックス回転で固有値 1 を基準に因子 を抽出し、2 因子を抽出した。しかし、第 3 項目「友だちグループの人は、グループの友だ ちとばかり遊んでいる。 」第 11 項目「友だちグループの人は、グループの外の人を仲間に 入れてあげないことが多い。」は、第 1 因子、第 2 因子のどちらに対しても負荷量が低かっ たため、分析から除外し、再度最尤法、プロマックス回転で固有値 1 を基準に因子を抽出 し、2 因子を抽出した。結果を Table3 に示した。 「友だちグループの人は、私がグループの外の人と遊んだら嫌がると思う。 」「友だちグ ループの人は、私がグループの外の人と仲良くしていたら怒ると思う。」「友だちグループ の人は、グループの外にも友だちが多い。」の 3 項目を「グループの閉鎖性因子(α=.805)」 、 「友だちグループの人は、グループの外の人ともよく遊んでいる。」「友だちグループの人 は、グループの外の人が遊びに参加してきても嫌がらないと思う。」の 2 項目を「グループ の開放性因子(α=.606) 」と名付けた。因子間相関は-.31 であった。これは、石本(2011) と異なる結果であった。これらの因子は、項目数は少ないが、ほぼ信頼性が得られたため、 尺度として用いた。 Table3 グループ境界 グループ境界の 境界の強固性尺度 1 2 h2 8.友だちグループの人は、私がグループの外の人と遊んだら嫌がると思う。 .917 .038 .820 10.友だちグループの人は、私がグループの外の人と仲良くしていたら怒ると思う。 .735 -.039 .560 7.友だちグループの人は、グループの外にも友だちが多い。 .030 .772 .582 5.友だちグループの人は、グループの外の人ともよく遊んでいる。 .039 .591 .337 -.206 .390 .245 1.グループの グループの閉鎖性( 閉鎖性(α=.805 =.805) 805) 2.グループの グループの開放性( 開放性(α=.606 =.606) 606) 1.友だちグループの人は、グループの外の人が遊びに参加してきても嫌がらないと思う。 因子間相関 -.31 15 続いて、各尺度の評定平均を Figure5,6 に示す。グループの閉鎖性は、1~3 の低いとこ ろに偏っており、グループの開放性は全体的に高めであるが、ばらついているといえる。 Figure5 Figure5 グループの グループの閉鎖性 評定平均 Figure6 Figure6 グループの グループの開放性 評定平均 16 続いて、それぞれの因子と居場所感との関連を見るために、それぞれの因子を因子得点 で High 群、Low 群に分けた。強固性 2 群×性別の 4 群の人数に偏りがないのかをみるた めにχ2 検定を行ったところ、有意な差はみられなかった(Table4)。 続いて、友だちグループ境界の強固性 2 群、性別と居場所感の分散分析を行った。閉鎖 性 2 群、性別と居場所感の分散分析結果を Table5、 因子得点の平均値を Figure7 に示した。 閉鎖性 2 群、性別と居場所感の関連において、女子が男子よりも 5%水準で本来感が高かっ た(F(1,263)=4.65 p<.05)。 Table4 強固性 2 群×性別 4 群 の人数と 人数とχ2 検定 男子 女子 High 群 64(23.1%) 75(27.1%) Low 群 68(24.5%) 70(25.3%) High 群 69(25%) 70(25.4%) Low 群 63(22.8%) 74(26.8%) 閉鎖性 χ2 検定結果 0.29 n.s. 開放性 0.36 n.s. Table5 Table5 グループの グループの閉鎖性× 閉鎖性×性別 4 群で居場所感を 居場所感を比較 分散分析 グループの閉鎖性 性別 交互作用 自己有用感 F(1,263)=2.23 n.s. F(1,263)=0.9 n.s. F(1,263)=0.69 n.s. 本来感 F(1,263)=2.96 n.s. F(1,263)=4.65 * F’1,263)=0.28 n.s. *p<.05 17 開放性 2 群、性別と居場所感の分散分析結果を Table6、因子得点の平均値を Figure8 に示 した。女子が男子より本来感が 5%水準で高く(F(1,262)=4.96 p<.05)、開放性 High 群が Low 群より 1%水準で本来感が高かった(F(1,262)=8.81 p<.01)。 Table Table6 グループの グループの開放性 2 群×性別 4 群で居場所感を 居場所感を比較 分散分析 グループの開放性 性別 交互作用 自己有用感 F(1,262)=0.24 n.s. F(1,262)=1.08n.s. F(1,262)=0.62 n.s. 本来感 F(1,2626)=8.81 ** F(1,262)=4.96 * F(1,262)=1.76 n.s. *p<.05 18 **p<.01 ② 友だちグループ内の力関係 主成分分析を行い、負荷量の少なかった第 6 項目「友だちグループの中で何かを決める 時は話し合いや多数決で決める。」を削除し、もう一度主成分分析を行った。結果を Table7 に示す。第 1 主成分に「グループ内の不平等感因子」と名付けた。負荷量は.741~.716、 第 1 主成分の寄与率は 53.4%、α係数は.559 であった。尺度として用いるには不十分であ ったが、参考までに分析に加えた。次に、グループ内の力関係尺度の評定平均を Figure9 に示す。グループ内の不平等感はほぼ正規分布を示した。 Table7 グループ内 グループ内の力関係尺度 主成分分析 主成分負荷量 グループ内 グループ内の不平等感( 不平等感(α=.559) 559) 9.友だちグループの中には、自分の意見が通らなかったら機嫌を損ねる人がいると思う。 .741 4.友だちグループの中で何かを決める時、あなた以外のいつも決まった人の意見が通り .735 やすいと感じる。 2.何かを頼(たの)まれた時、私が断りにくい人が友だちグループの中にいると思う。 寄与率(%) .716 53.39 19 Figure9 Figure9 グループ内 グループ内の力関係 評定平均 続いて、グループ内の不平等感因子と居場所感との関連を見るためにグループ内の不平 等感因子を主成分得点で High 群 Low 群の 2 群に分けた。不平等感 2 群×性別の 4 群の人 数に偏りがないかをみるためにχ2 検定を行ったが、有意な差はみられなかった(Table8) 。 次に、グループ内の不平等感 2 群、性別と居場所感の分散分析を行った。結果を Table9 に、 因子得点の平均値を Figure10 に示した。その結果、交互作用がみられた(自己有用感: F(1,248)=5.21 p<.05; 本来感: F(1,248)=4.29 p<.05)ため、単純主効果の検定を行った。結 果を Table10 に示した。男子では、不平等感 2 群と居場所感に関連はみられなかった(自 己有用感 : F(1,119)=1.73 n.s. ; 本来感: F(1,119)=0.13 n.s.)。女子では、自己有用感においては 不平等感 2 群と居場所感に関連は見られず(F(1,129)=3.65 n.s)、本来感においては不平等感 Low 群の方が High 群よりも 1%水準で高かった(F(1,129)=7.03 p<.01)。 Table8 グループ内 グループ内の不平等感 2 群×性別の 性別の人数と 人数とχ2 検定 男子 女子 High 群 63(24%) 62(23.6%) Low 群 64(24.3%) 74(28.1%) χ2 検定結果 0.42 n.s. 20 Table9 Table9 グループ内 グループ内の力関係 2 群、性別と 性別と居場所感の 居場所感の分散分析 グループ内の力関係 性別 交互作用 自己有用感 F(1,248)=0.19 n.s. F(1,248)=0.12 n.s. F(1,248)=5.21 * 本来感 F(1,248)=3.72 n.s. F(1,248)=2.39 n.s. F(1,248)=4.29 * *p<.05 21 **p<.01 Table10 グループ内 グループ内の力関係 単純主効果の 単純主効果の検定 High 群平均値 Low 群平均値 (標準偏差) (標準偏差) 0.07 -0.14 (0.96) (0.92) -0.1 -0.12 (0.83) (0.84) -0.16 0.17 (0.93) (1.04) -0.17 0.3 (1.08) (0.96) 検定結果 男子 自己有用感 F(1,119)=1.73 n.s. 本来感 F(1,119)=0.13 n.s. 女子 自己有用感 F(1,129)=3.65 n.s. 本来感 F(1,129)=7.03 ** ** p<.01 ③ 友だちグループの人数 友だちグループの人数に偏りがあるかをみるために、χ2 検定を行ったところ、2 人の友 だちグループにおいて、女子の方が男子よりも有意に多かった(χ2=10.12, p<.01)。3 人の 友だちグループにおいても、女子の方が男子よりも有意に多かった(χ2=4.92, p<.05)。4 人以上のグループでは、人数の偏りは見られなかった(χ2=3.13 n.s.)。 つづいて、友だちグループの人数と、居場所感との関連をみるために、友だちグループ の人数と居場所感の一元配置分散分析を行った。結果を Table11 に、因子得点の平均値を Figure11 に示した。男子は、自己有用感において群間の差は有意であり、多重比較の結果、 4 人以上は 2 人よりも有意に自己有用感が高かった(F(2, 120)=5.63 p<.01)。本来感におい ても群間の差は有意であり、多重比較の結果、4 人以上は 2 人よりも有意に本来感が高かっ た(F(2, 120)=4.56 p<.05)。女子では、自己有用感において群間の差は有意ではなく(F(2, 131)=2.87 n.s.)、本来感においても群間の差は有意ではなかった(F(2, 131)=1.05 n.s.)。 22 Table11 Table11 グループの グループの人数と 人数と居場所感の 居場所感の関連 2人 3人 4人以上 (N=32) (N=52) (N=184) (標準偏差) (標準偏差) (標準偏差) -0.95 -0.31 0.08 (1.23) (0.78) (0.86) -0.83 -0.34 -0.001 (1.23) (0.71) (0.77) 0.51 -0.05 0.02 (1.02) (0.75) (1.00) 0.21 0.34 0.04 (1.04) (0.93) (1.02) 分散分析結果 多重比較 F(2,120)=5.63 ** 2<<4 F(2,120)=4.56 * 2<4 男子 自己有用感 本来感 女子 自己有用感 F(2.131)=2.87 n.s. 本来感 F(2,131)=1.05 n.s. *< p<.05 23 **<< p<.01 (3) 一人の時の気持ち、過ごし方尺度 一人の時の気持ち、過ごし方の人数の分布をみると、 一人の時さみしい、他の友達と過ごす という答えに偏りがみられた。一人の時の気持ち、過ごし方と性別の人数に偏りないのかを見 るためχ2 検定を行い、結果を Table12 に示した。さみしいと感じるかと性別の間に有意差がみ られ、女子にさみしいと答える割合が有意に多かった(χ2(1)=17.19 p<.01)。 Table12 Table12 一人の 一人の時の気持ち 気持ち、過ごし方 ごし方の分布と 分布とχ2 検定 さみしい 男子 女子 86 (31.0%) 122 (45.3%) χ2 検定結果 χ2(1)=17.19 ** さみしくない 46 (16.8%) 19 (6.9%) 一人で過ごす 22 (8.1%) 30 (11.0%) 他の友だちと過ごす 110 (40.3%) 111 (40.7%) χ2(1)=0.95 n.s. **p<.01 つづいて、一人の時の気持ち、過ごし方と性別 4 群で居場所感を比較するため分散分析を行 った。一人の時の気持ちについての結果を Table13 に因子得点の平均値を Figure12 に示した。 自己有用感において一人の時の気持ちで有意差がみられた。さみしい群の方がさみしくない群 より 1%水準で自己有用感が高かった(F(1,259)=26.8 p<.01) 。また、一人の時の気持ち、と性 別の間に交互作用がみられた(F(1,259)=5.50 p<.05)。本来感において、一人の時の気持ちで有 意差がみられた。さみしい群の方がさみしくない群より 1%水準で本来感が高かった (F(1,259)=17.7 p<0.1) 。また、一人の時の気持ちと性別の間に交互作用がみられた (F(1,259)=5.23 p<.05) 。 24 Table13 Table13 一人の 一人の時の気持ち 気持ち、性別と 性別と居場所感の 居場所感の分散分析 一人の時の気持ち 性別 交互作用 自己有用感 F(1,259)=26.8 ** F(1.259)=2.16 n.s. F(1,259)=5.05 * 本来感 F(1.259)=17.7 ** F(1,259)=0.07 n.s. F(1,259)=5.23 * *p<.05 25 **p<.01 自己有用感、本来感ともに一人の時の気持ちと性別の間に交互作用が見られたので、単純主 効果の検定を行った。結果を Table14 に示す。男子は、自己有用感において、さみしい群の方 がさみしくない群より高かった(F(1,123)=5.51 p<.05)。 本来感では有意差は見られなかった (F(1,123)=3.03n.s.) 。女子は自己有用感においてさみしい群の方がさみしくない群より高く (F(1,136)=22.2 p<.01) 、 本来感においてさみしい群の方がさみしくない群より高かった (F(1,136)=14.41 p<.01) 。 Table14 一人の 一人の時の気持ち 気持ちと居場所感の 居場所感の関連 単純主効果の 単純主効果の検定 男子 女子 自己有用感 F(1,123)=5.51* F(1,136)=22.2** 本来感 F(1,123)=3.03 n.s. F(1,136)=14.41** * p<.05 ** p<.01 一人の時の過ごし方と性別 4 群で居場所感を比較をするため分散分析を行った。結果を Table15 に、因子得点の平均値を Figure12 に示した。自己有用感において、一人の時の過ごし 方で有意差がみられた。他の友達と過ごす群が一人で過ごす群より 1%水準で自己有用感が高か った(F(1,259)=12.82 p<.05)。本来感において、有意な差は見られなかった。 Table15 Table15 一人の 一人の時の過ごし方 ごし方、性別と 性別と居場所感の 居場所感の分散分析 一人の時の過ごし方 性別 交互作用 自己有用感 F(1,259)=12.82 ** F(1,259)=0.1 n.s. F(1,259)=0.81 n.s. 本来感 F(1,259)=2.48 n.s. F(1,259)=2.96 n.s. F(1,259)=0.00 n.s. *p<.05 26 **p<.01 2. 重回帰分析結果 (1) 性別で限定した重回帰分析 グループ特性と、居場所感との関連をみるため、性別で限定した重回帰分析を行った。男子 の結果を Table16 に示した。男子では、グループの特性と居場所感との関連で有意なβは得ら れなかった。 Table16 Table16 男子 グループ特性 グループ特性と 特性と居場所感の 居場所感の重回帰分析 β 自己有用感 本来感 グループの閉鎖性 0.61 -0.1 グループの開放性 -0.17 -0.18 グループ内の不平等感 0.11 0.09 0.02 0.03 調整済み決定係数 27 つづいて、女子の結果を Table17、Figure14 に示した。女子では、自己有用感について、1% 水準でグループの閉鎖性は+の方向で、グループ内の力不平等感は-の方向で有意なβを得た。 本来感について、1%水準でグループの閉鎖性、開放性は+の方向で、グループ内の不平等感は -の方向で有意なβを得た。 Table17 Table17 女子 グループ特性 グループ特性と 特性と居場所感の 居場所感の重回帰分析 β 自己有用感 本来感 グループの閉鎖性 0.37 ** 0.26** グループの開放性 0.15 0.39 ** グループ内の不平等感 -0.31 ** -0.26 ** 0.13 0.18 調整済み決定係数 * p<.05 ** p<.01 0.37 自己有用感 グループの閉鎖性 -0.31 0.26 グループの開放性 0.39 グループ内の不平等感 -0.26 プラスのβ マイナスのβ Figure14 女子のグループ特性と居場所感の重回帰分析 28 本来感 (2) 一人の時の気持ち、過ごし方、性別で限定した重回帰分析 つづいて、一人の時の気持ち、過ごし方、性別で限定して重回帰分析を行った。性別で限定 した時有意なβが得られなかったため、男子は分析から除外した。女子では、さみしい×他の 友だちと過ごす群のみで限定して分析をおこなった。他の群はサンプルが少なく、決定係数も 不十分だったためである。結果を Table18、Figure15 に示す。自己有用感において、5%水準で グループの閉鎖性は+の方向で、グループ内の不平等感は-の方向で有意なβを得た。本来感 において、1%水準でグループの開放性は+の方向で、グループ内の不平等感は-の方向で有意 なβを得た。 一人の 一人の時さみしい× さみしい×他の友だちと過 だちと過ごす群 ごす群 Table1 Table18 e18 グループ特性 グループ特性と 特性と居場所感の 居場所感の重回帰分析( 重回帰分析(N=99) N=99) β 自己有用感 本来感 グループの閉鎖性 0.27 * 0.2 グループの開放性 0.11 0.34 * グループ内の力関係 -0.27 ** -0.29 ** 0.06 0.17 調整済み決定係数 * p<.05 ** p<.01 0.27 自己有用感 グループの閉鎖性 -0.27 グループの開放性 0.34 グループ内の不平等感 本来感 -0.29 プラスのβ マイナスのβ Figure15 一人の時さみしい×他の友だちと過ごす群の女子のグループ特性と居場所感の重回 帰分析 29 考察 1. 友だちグループ特性と居場所感の関連 友だちグループの開放性について、High 群が Low 群より有意に本来感が高かった。これは、グ ループ境界の強固性が高いと学校適応が低いとする石本(2011)を支持するものである。つまり、 開放的なグループの方が、本来感は高いと考えられるだろう。また、友だちグループ内の力関係に ついて、居場所感との関連で交互作用が見られ、男子はグループ内の不平等感は居場所感と関連し ておらず、女子は不平等感が低いほど本来感が高いという結果であった。落合・佐藤(1996)によ ると、女子は男子よりも、 「誰とでも仲良くしていたいというつきあい方」 「みんなと同じようにし ようとするつきあい方」 「みんなから好かれることを願っているつきあい方」が多く、不平等感の高 いグループではなく、 「みんな同じ」という関係の方が居場所感が高いというのは、落合・佐藤(1996) を支持していると言えるだろう。友だちグループの人数については、男子でのみ居場所感との関連 が見られ、男子においては、人数が多いほど居場所感が高いことがわかった。 重回帰分析の結果、グループの特性との重回帰分析において、女子のみでしか有意なβが得られ なかった。グループの人数で男子でしか有意差がでなかったことを踏まえると、女子はどんなグル ープなのか、 「みんな同じ」でいられるのかという友だちグループの「質」を重要視していることが 考えられる。 グループの閉鎖性は自己有用感、本来感と関連しており、開放性は本来感のみと関連していたこ とから、女子のグループに対する居場所感は、グループ内が閉鎖的であることによって高められる と考えられる。つまり、グループ内の人とのみ遊んだり、グループ外の人と仲良くしないことによ って、友だちグループ内で必要とされていることを感じることができると考えられるだろう。しか し一方で女子は「誰とでも仲良くしていたいという付き合い方」を求めている(落合・佐藤,1996) という見方もあり、 「自分らしくいられる」感覚を持つためには、グループが開放的であり、グルー プの隔たりなく遊んだり、友だちを作ることも必要とされると考えられる。さらに、不平等感では、 マイナスのβが得られていることから、高い居場所感を持つためには、不平等感は低い方が良いと 考えられる。 また、一人の時さみしい×他の友だちと過ごす群において、グループの閉鎖性は自己有用感のみ と関連しており、開放性は本来感のみと関連していた。これはつまり、閉鎖的であると自己有用感 30 が高まり、開放的であると本来感が高まるということである。他の群では、決定係数が少なかった ため、有意なβは得られなかった。これは、サンプル数が少なかったためだと考えられる。今後は、 もっとサンプルの得られる尺度を検討することが必要だと考えられる。 2. 一人の時の気持ち、過ごし方と居場所感の関連 一人の時の気持ち、過ごし方と居場所感の関連は、男子において、一人の時にさみしいと感じる 割合が女子より少なかった。また、一人の時の気持と性別の間に交互作用がみられたことから単純 主効果の検定を行った結果、さみしいと感じていると自己有用感は有意に高いが、本来感には関連 していないことが明らかになった。自己有用感は、有意ではあるが、女子が 1%水準で有意であるこ とに対して、男子は 5%水準であった。つまり、男子においては、一人の時にさみしいかさみしくな いかということは友だちグループ内の居場所感にあまり関連していないといえる。女子は、男子よ り女子の方がさみしいと感じる割合が多く、単純主効果の検定より、さみしいと感じている方が自 己有用感、本来感ともに 1%水準で高いことから、一人でいる時の気持ちは男子よりも友だちグルー プの居場所感に関連していると考えられる。つまり、女子は、男子よりも友だちグループに執着し ているのではないかと言えるだろう。水野(2000)は男子の友人関係を「中央集権」的または「連 邦」的、女子の友人関係を「小国濫立」的であり閉鎖的であると述べており、今回の結果は、この 考えを支持しているといえる。 一人の時の過ごし方は、他の友達と過ごす方が自己有用感が高いという結果であった。これは、 グループ外にも一緒に過ごせる友だちがいることによって、グループ内でも、自分が役に立ってい ると思えるということである。ただし、グループ内の不平等感において、女子では不平等感が低い 方が自己有用感が高かったこと、グループ内の人数において、男子では人数が多いほど自己有用感 が高かったこと、 「他の友だちと過ごす」という回答に偏りがあったことをふまえると、自己有用感 を高める要因は一人の時他の友だちと過ごすということだけでなく、女子ではグループ内の不平等 感が、男子ではグループの人数が関連しているのではないかということも考えられる。 「他の友だち と過ごす」という回答に偏りがみられたことは、今後の課題であり、他の尺度を用いて回答に偏り がでないようにすることが必要であると考えられる。 31 3. 全体考察 最後に、全体の考察を述べる。男子では、グループ内の力関係、人数、一人の時の気持ちについ て居場所感との関連が見られ、女子ではグループの特性、一人の時の気持ちについて居場所感との 関連が見られたことから、男女でグループ内の居場所感を規定するものが違うのではないかと考え られる。落合・佐藤(1996)は、男子は自分に自信をもち、友だちと自分は異なる存在であるとい う認識をもっており、女子は友人と理解しあい、共鳴しあうといったお互いがひとつになるような 関係を望んでいると述べている。このことから考えると、女子は、男子よりも友だちグループに執 着しており、みんなが同じでいられるという「質」を求めているといえるのではないだろうか。そ して、男子は、大勢の中で、自分がどの立場にいるのかということを重視するのではないかと考え られる。 また、本研究では、ほぼすべての分析において、性差が見られた。これまでの研究は女子を対象 にしてきたものが多くみられたため、男子の結果は重要な知見となると考えられる。 最後に、今後の課題を挙げる。グループ内の力関係尺度の信頼性が低かったことが挙げられる。 そのため、グループ内の力関係尺度を精度の高いものにする必要があるだろう。続いて、一人の時 の気持ち、過ごし方の人数に大きな差があったことから、人数にばらつきの出る新たな尺度を用い る必要があるのではないかと考えられる。また、グループ特性は男子の居場所感と関連が見られな かったこと、グループの人数は男子のみで関連が見られたことから、男子の居場所感を規定する要 因を検討する必要があると考えられる。今後は、男子の友人関係を考える時、グループの構成など に焦点をあて、友だちグループを見ていくことが必要なのではないかと考えられるだろう。 32 おわりに 本論文の作成にあたり、ご指導いただきました、学校心理コース教授、若松養亮先生に心よりお礼 を申し上げます。また、調査にご協力いただきました先生方ならびに生徒の皆様に深く感謝いたし ます。 33 引用文献 Benesse 教育研究開発センター 1997 モノグラフ 中学生の世界 Vol.57 学校内の人間関係 福武書店 石本雄真 2009 居場所概念の普及およびその研究と課題 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 紀要, 3, 93-99 石本雄真 2010 青年期の居場所感が心理的適応、学校適応に与える影響 発達心理学研究, 21, 21 278-286 石本雄真 2011 現代青年における友人関係の特徴と心理的適応および学校適応との関連 発達研 究, 25, 25 13-2 小久保幸 2011 高校生女子における同性友人への同調行動-関係性及びパーソナリティとの関連 - 滋賀大学教育学部心理学研究室卒業論文 宮下敏恵・石川もよ子 2005 小学校・中学校における心の居場所に関する研究 上越教育大学研 究紀要, 24, 24 783-801 三好智子 2002 女子短大生の同性友人グループとの関わりにおける自己の個別性のあり方-イメ ージ画を用いた検討- 青年心理学研究, 14, 14 1-19 水野邦夫 2000 恋愛関係および友人関係の捉え方における性差について 聖泉論叢, 8, 59-71 文部省 1992 登校拒否(不登校)問題について―児童生徒の「心の居場所」づくりをめざして―(学 校不適応対策調査会議報告) 文部科学省不登校問題に関する調査協力者会議 2007 不登校への対応について(報告) 文部科学省 2011 平成 22 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査(小中不登 校) 文部科学省不登校問題に関する調査協力者会議 2007 不登校への対応について(報告) 則定百合子 2008 青年期における心理的居場所感の発達的変化 カウンセリング研究, 41, 41 64-72 落合良行・佐藤有校耕 1996 青年期における友達とのつきあい方の発達的変化 教育心理学研究, 44, 44 55-65 大久保智生 2005 青年の学校への適応感とその規定要因 : 青年用適応感尺度の作成と学校別の 検討 教育心理学研究 53, 53 307-319 佐藤有耕 1995 高校生女子が学校生活においてグループに所属する理由の分析 神戸大学発達科 学部研究紀要, 3, 11-20 34 杉本希映・庄司一子 2006 中学生の「居場所環境」と学校適応との関連に関する研究 学校心理 学研究, 6, 31-39 35 巻末資料 アンケート このアンケートは、あなたの学校生活についてたずねるものです。名前は書かなくてもかまいません。 また、どのように答えてもあなたに迷惑がかからないようになっています。 あなたの情報が外へ漏れることもありません。思ったことをそのまま答えてください。 滋賀大学教育学部 4 回生 西村和未 回答例 そう思う 3 やや そう思う 2 どちら でもな い 1 あまりそう思わな い そう思わな い わたしは、絵をかくのが得意だ。 4 5 もしあなたが質問に「 「ややそう思 ややそう思う」と思ったら、上のように番号のところを○で囲んでください。 1 あなたの学年・性別を○で囲んでください 学年 [ 1年 ・ 2年 ] 性別 [ 男 ・ 女 ] かま ※これからの質問は、学校 学校で 学校で一緒にいる 一緒にいる時間 にいる時間が 時間が最も長い友だちグループ だちグループ( グループ(2 人でも構 でも構いませ ん)を思い浮かべて答えてください。 36 2 前のページで思い浮かべた友だちグループについて聞きます。次のそれぞれのことは、どの程度あて はまると思いますか。最も近い数字に○をつけてください。 3 4 5 2.友だちグループの人といる時、ありのままの自分が出せる。 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 4.友だちグループの人に、気にかけてもらっていると思う。 1 2 3 4 5 5.友だちグループの人といる時、これが自分だ、と実感できる。 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 7.私がいないと、友だちグループの人が困ると思う。 1 2 3 4 5 8.友だちグループの人といる時でも、自分の意見を言える。 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 そう思う 2 やや そう思う あまりそう思わな い 1 どちら でもな い そう思わな い 1.私がいないと、友だちグループの人がさびしがると思う。 3.友だちグループの人といる時でも、 自分のやりたいことをすることができると思う。 6.友だちグループの人といる時、 自分が必要とされていると感じる。 たよ 9.友だちグループの人から頼られていると感じる。 10.友だちグループの人といる時、 いつも自分を見失わないでいられる。 11.友だちグループの人といる時、自分が役に立っていると感じる。 12.友だちグループの人といる時、 自分の存在が認められていると感じる。 13.友だちグループの人といる時、いつでも自分らしくいられる。 37 3 あなたのいる友だちグループは、以下の文にどの程度あてはまると思いますか。もっとも近い数字に やや そう思う いや グループの外の人が遊びに参加してきても嫌がらないと思う。 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 そう思う どちら でもな い 1 そう思わな い 1.友だちグループの人は、 あまりそう思わな い ○をつけてください。 たの 2.何かを頼まれた時、 私が断りにくい人が友だちグループの中にいると思う。 3.友だちグループの人は、 グループの友だちとばかり遊んでいる。 4.友だちグループの中で何かを決める時、 あなた以外のいつも決まった人の意見が通りやすいと感じる。 5.友だちグループの人は、 グループの外の人ともよく遊んでいる。 6.友だちグループの中で何かを決める時は、 話し合いや多数決で決める。 7.友だちグループの人は、 グループの外にも友だちが多い。 8.友だちグループの人は、 いや 私がグループの外の人と遊んだら嫌がると思う。 9.友だちグループの中には、 き げん 自分の意見が通らなかったら機嫌を損ねる人がいると思う。 38 3 4 5 1 2 3 4 5 そう思う 2 やや そう思う 1 どちら でもな い あまりそう思わな い 私がグループの外の人と仲良くしていたら怒ると思う。 そう思わな い 10.友だちグループの人は、 11.友だちグループの人は、 グループの外の人を仲間に入れてあげないことが多い。 4 あなたのいる友だちグループにあてはまる記号に○をつけてください。 A. 2 人 組 の 友 だ ち グ ル ー プ で あ る 。 B. 3 人 組 の 友 だ ち グ ル ー プ で あ る 。 C.4 人以上の友だちグループである。 5 あなたのいる友だちグループの人が、みんな風邪で学校を休んだとします。 (1)その日あなたは、さみしい気持ちになると思いますか。 [ はい ・ いいえ ] (2)その日あなたは、一人で過ごすと思いますか。それとも、他の友だちと過ごすと思いますか。 [ 一人で過ごす ・ 他の友だちと過ごす ] これで質問は わりです。ありがとうございました。 39 平成 23 年度 卒業論文 幼稚園児の社会的責任目標尺度の検討 -幼稚園教師の評定を基にしてー 指導教官 近藤文良先生 滋賀大学教育学部 学校教育教員養成課程 学校心理コース 本並美和 i は じ め に 4 歳 の 子 ど も た ち の 活 動 を 見 て い る と ペ ア あ る い は グ ル ー プ で 動 い て い る 。自 分 の 思 い を 相 手 に 伝 え ,調 整 で き る 力 を 持 っ て き て い る 。遊 び を 展 開 し , 柔 軟 な 姿 勢 で 取 り 組 ん で い る 。最 初 は 自 分 の 思 い を 言 い 合 っ て い る が ,遊 び を 続 け た い 気 持 ち か ら 新 た な 遊 び の 決 ま り を 生 み 出 し ,秩 序 が で き て い る 。こ の よ う に 友 だ ち と 遊 ぶ 楽 し さ を 求 め て 主 張 す る 体 験 の な か で ,順 番 ま で 待 つ ,ぶ つ か ら な い よ う に 気 を つ け る と い う よ う に ,自 分 の 気 持 ち や 行 動 を 調 整 す る 力 が 育 っ て い く 。 子 ど も が 自 分 の 思 い を 伝 え 、 自 信 を も っ て 行 動 で き る の は 、教 師 が わ か っ て く れ る と い う 信 頼 感 が 基 盤 に な っ て い る 。ま た 、友 だ ち と 楽 し く 遊 ぶ た め に 決 ま り を 守 る 姿 に 、規 範 意 識 の 芽 生 え や 協 同 し て 遊 ぶ 姿 を 見 る こ と が で き る 。教 師 と の 信 頼 関 係 ・ 自 信 を も っ て 行 動 す る こ と が ,規 範 意 識 の 芽 生 え ・ 協 同 し て 遊 ぶ と い う こ と で あ る 。友 だ ち と 同 じ 場 で 同 じ 動 き を す る 楽 し さ や イ メ ー ジ を も ち 、友 だ ち と 一 緒 に 遊 ぶ 楽 し さ ,思 い の 伝 え あ い と ぶ つ か り あ い や 友 だ ち の 思 い へ の 気 付 き ,新 た な ル ー ル を 見 つ け て 遊 ぶ お も し ろ さ や ル ー ル に そ っ て 遊 ぶ 楽 し さ で あ る 。 こ れ ま で の 社 会 心 理 学 の 援 助 行 動 の 研 究 の 領 域 に お い て は ,社 会 的 責 任 を 扱 っ た い く つ か の 研 究 が ii み ら れ る 。そ れ ら の 研 究 で は ,社 会 的 責 任 は 主 に 個 人 の 援 助 行 動 や 向 社 会 的 行 動 に 影 響 す る 要 因 と し て 取 上 げ ら れ て き た 。古 典 的 研 究 に お い て は ,問 題 研 究 に お い て 他 者 か ら 助 け ら れ た 経 験 を も つ も の に お い て ,特 に 社 会 的 責 任 規 範 の 程 度 の 差 が み ら れ , 援 助 の 互 恵 性 が 顕 著 に な る 条 件 に お い て ,社 会 的 規 範 の 効 果 が 強 く な る と 考 え ら れ る 。ま た ,他 の 人 の た め に 行 動 し よ う と す る 社 会 的 責 任 が 低 い も の は , 思 い や り や 信 頼 性 な ど の 面 で 低 く 評 価 さ れ ,援 助 行 動 と も 負 の 関 連 が 見 出 さ れ た 。こ の よ う に ,社 会 心 理 学 の 中 で は 社 会 的 責 任 概 念 に つ い て 扱 っ て い る 研 究 を 見 出 す こ と が で き る が ,援 助 行 動 に 関 わ る 一 要 因 と し て と ど ま っ て い る 。 一 方 わ が 国 に お い て は , 中 谷 (1996)に よ っ て 小 学 校 高 学 年 児 童 を 対 象 と し た ,児 童 用 社 会 的 責 任 目 標 尺 度 が 構 成 さ れ ,そ の 信 頼 性 ・ 妥 当 性 に つ い て 検 討 さ れ て い る 。 こ の 研 究 で は , 因 子 分 析 の 結 果 , 向 社 会 的 目 標 に 相 当 す る 第 1 因 子 と 規 範 遵 守 目 標 に 相 当 す る 第 2 因 子 の 2 つ の 尺 度 が 見 出 さ れ ,因 子 的 な 妥 当 性 を も つ こ と が 示 さ れ た 。 本 論 文 は ,こ の よ う な 背 景 か ら ,実 践 現 場 で の 縦 断 的 な 観 察 に よ っ て ,帰 属 ― 感 情 の 連 鎖 が 向 社 会 的 行 動 に 及 ぼ す 影 響 を 探 る と と も に ,日 常 の い か な る 保 育・教 育 的 営 み が 子 ど も の 原 因 の 認 識 や 感 情 判 断 ( 他 者 感 情 の 推 論 )に 影 響 し ,向 社 会 的 行 動 を 動 機 iii づ け る の か を ,保 育 ・ 教 育 実 践 者 と と も に 探 っ て い く こ と が 課 題 で あ る 。 今 回 は , 5 歳 児 の 6 月 か ら 7 月 に か け て 研 究 す る 。こ の 子 ど も を 研 究 す る こ と に よ っ て ,教 師 や 子 ど も の 要 因 が 関 係 し て い る か ど う か に つ い て 探 る こ と は 子 ど も の 規 範 意 識 の 発 達 研 究 に と っ て 意 義 深 い こ と で あ る 。 iv 目次 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ⅰ 第 1 章 問題の所在・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ 1 第 1 節 「規範意識の芽生え」を育成することの重要性・・・・・・ 1 1.現代の学校における重要な課題・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.幼稚園教育の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 3.新幼稚園教育要領・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 4.規範意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 5.従来の研究の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 6.社会的責任という概念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 第 2 節 社会的責任目標の形成・・・・・・・・・・・・ ・・・・・ 16 1.Wentzel の社会的責任目標・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 2.中谷の児童用社会的責任目標尺度・・・・・・・・・・・・・・ 17 第3節 本論文の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ 20 第2 章 幼児用社会的責任目標尺度の検討および信頼性・妥当性の検討(研究1) ・・・ 22 第 1 節 幼児用社会的責任目標尺度の検討と信頼性の検討・・・・ ・ 22 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 24 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 25 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 1.3 園の教師評定による社会的責任目標の分析・・・・・・・・ 35 2.A 園の教師評定による社会的責任目標の分析・・・・・・・・ 37 3.B 園の教師評定による社会的責任目標の分析・・・・・・・・ 37 4.C 園の教師評定による社会的責任目標の分析・・・・・・・・ 40 v 5.「向社会性」得点と「規範意識」得点・・・・・・・・・・・ 42 6.幼児用社会的責任目標尺度の妥当性の検討・・・・・・・・・ 42 7. 幼児用社会的責任目標尺度の向社会性・規範意識の群間の検討・・・42 8.各園においての「向社会性・規範意識」得点の検討・・・・・ 45 第2節 幼児による社会的責任目標判断実験の妥当性の検討・・・・ 49 1.幼児による社会的目標判断実験の度数分布表・・・・・・・・ 49 2.3 園の向社会性因子得点と規範意識因子得点の群別・・・・・ 59 3.2 園の向社会性因子得点と規範意識因子得点の群別・・・・・ 63 第 3 節 社会的責任目標が向社会性や規範意識に及ぼす影響の検討・・・ ・ 67 1. 3 園の共分散構造分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 2. 2 園の共分散構造分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 第3章 社会的責任目標を促進する幼児の行動観察(研究 2) ・・・・・・・・ 71 幼児の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 72 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 行動観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 1.エピソード・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 2.事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81 全体的考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86 第 4 章 問題点と今後の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88 第 1 節 本研究の問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88 第 2 節 課題と今後の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89 vi 第 3 節 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96 1 第 1 章 第 1 節 問 題 の 所 在 「規範意識の芽生え」を育成することの重要性 1. 現 代 の 学 校 に お け る 重 要 な 課 題 現 代 の 学 校 に お け る 重 要 な 課 題 の 一 つ は , 「児 童 生 徒 に 基 本 的 生 活 習 慣 を 確 立 さ せ る と と も に ,違 法 意 識 を は じ め と す る 人 間 と し て 最 低 限 の 規 範 意 識 に 基 づ い た 行 動 様 式 を ,発 達 段 階 に 応 じ て 身 に つ け さ せ る こ と 」と い え る ( 国 立 教 育 政 策 研 究 所 生 徒 指 導 研 究 セ ン タ ー , 「生 徒 指 導 体 制 の 在 り 方 に つ い て の 調 査 研 究 」 報 告 書 )。 改 訂 幼 稚 園 教 育 要 領 に お い て も , 「集 団 の 生 活 を 通 し て , 幼 児 が 人 と の か か わ り を 深 め ,規 範 意 識 の 芽 生 え が 培 わ れ る こ と を 考 慮 し , 幼 児 が 教 師 と の 信 頼 関 係 に 支 え ら れ 自 己 を 発 揮 す る 中 で ,お 互 い に 思 い を 主 張 し ,折 り 合 い を 付 け る 体 験 を し ,き ま り の 必 要 性 な ど に 気 付 き ,自 分 の 気 持 ち を 調 整 す る 力 が 育 つ よ う に す る こ と 。」と さ れ , 幼 稚 園 期 に お い て「 規 範 意 識 の 芽 生 え 」を 育 成 す る こ と の 重 要 性 が 述 べ ら れ て い る 。 2. 幼 稚 園 教 育 の 現 状 と 課 題 幼 稚 園 教 育 の 現 状 と 課 題 、改 善 の 方 向 性 は 教 育 課 2 程 部 会 幼 稚 園 教 育 専 門 部 会 に お い て 教 育 課 程 部 会 等 の 審 議 を 踏 ま え て 再 整 理 さ れ て い る 。そ の 内 容 は , 「 幼 児 の 生 活 の 連 続 性 及 び 発 達 や 学 び の 連 続 性 を 踏 ま え た 幼 稚 園 教 育 の 充 実 」 で あ り , 具 体 的 に は , 「 集 団 生 活 を 通 し て , 幼 児 が 人 と か か わ り を 深 め , 規 範 意 識 の 芽 生 え を 培 う こ と が 大 切 で あ る 。こ の た め ,幼 児 と 教 師 の 信 頼 関 係 を 基 盤 に ,自 分 の 思 い を 主 張 し 合 い ,受 け 入 れ ら れ た り ,受 け 入 れ ら れ な か っ た り す る 体 験 を 重 ね な が ら ,友 達 と と も に 生 活 す る た め に は ,き ま り が 必 要 で あ る こ と に 気 づ く よ う に す る 。」 と し て い る 。 3. 新 幼 稚 園 教 育 要 領 幼 児 期 に は ぐ く む 規 範 意 識 の 芽 生 え と は 新 幼 稚 園 教 育 要 領「 人 間 関 係 」内 容 の 取 り 扱 い で あ り , 『 折 り 合 い を 付 け る 体 験 を し 、決 ま り の 必 要 性 な ど に 気 付 き 、 自 分 の 気 持 ち を 調 整 す る 力 』 で あ る 。 そ の 内 容 を 踏 ま え 、幼 児 期 に 育 む 規 範 意 識 の 芽 生 え を 次 の よ う に と ら え た 。き ま り や ル ー ル を 守 っ て 遊 び や 生 活 を す す め る 心 地 よ さ を 味 わ う 。よ い こ と 、し て は い け な い こ と が あ る こ と が わ か り 、考 え て 行 動 す る よ う に な る 。葛 藤 体 験 の 中 で 自 分 の 感 情 を コ ン ト ロ ー ル す る よ う に な る 。自 分 も 相 手 も い か す た め の 方 法 を 考 え る 。 こ れ は 、 2 つ の 視 点 と な る 。 1 つ は 規 3 範 意 識 が 身 に 付 く 過 程 で あ り ,他 律 か ら 自 律 の こ と で あ る 。 2 つ め は 家 庭 と の 連 携 で あ り , 日 常 的 な 連 携 の こ と で あ る 。 4. 規 範 意 識 規 範 意 識 は , 心 の 教 育 で あ る 「 道 徳 」 や 心 と 体 の 健 康 を は ぐ く む「 基 本 的 な 生 活 習 慣 」な ど の 複 数 の 要 素 が 含 ま れ て い る こ と か ら ,総 合 的 に 培 っ て い く 必 要 が あ る 。ま た ,幼 児 教 育 の 基 本 は 生 涯 に わ た る 人 格 形 成 の 基 礎 を 培 う も の で あ り ,小 学 校 以 降 の 規 範 意 識 や 道 徳 観 の 土 台 づ く り と な る 。幼 稚 園 か ら 小 学 校 へ の 円 滑 な つ な ぎ を し っ か り し た も の に す る た め に も ,教 師 は 小 学 校 の 行 動 様 式 や 考 え 方 に 触 れ , 連 携 を と る こ と も 求 め ら れ る と こ ろ で あ る 。よ っ て , 規 範 意 識 の 芽 生 え を 培 う 基 盤 と な る「 教 師 や 友 達 と の 信 頼 関 係 を 築 く こ と 」 ,「 基 本 的 な 生 活 習 慣 を 身 に 付 け る こ と 」 , 「 自 分 の 気 持 ち を 調 整 す る こ と 」 を 園 生 活 全 体 を 通 し て , 総 合 的 に 育 む 必 要 が あ る 。 規 範 と は ,「 幼 児 の 場 合 に は 子 ど も を 囲 む 様 々 な 決 ま り の こ と で あ る 」 と 無 藤 (2008)は 述 べ て い る 。 そ の よ う な 規 範 を 守 ろ う と す る 意 思 を「 規 範 意 識 」と 捉 え る 。 幼 児 を 囲 む 様 々 な 「 規 範 」 を 3 つ の 場 面 に わ け る 。 家 庭 ・ 家 族 と 過 ご す 時 ・ 様 々 な 人 と か か わ る 時 ・ 公 共 の 場 に 出 か け る 時 と な る 。上 記 を み る と , 4 日 常 の 生 活 で 繰 り 返 さ れ る 生 活 習 慣 や 善 悪 の 判 断 , 約 束 を 守 る こ と が 規 範 意 識 へ つ な が る こ と が わ か る 。 つ ま り , 「 規 範 」 は , 日 々 , 繰 り 返 し 行 わ れ て い る 「 慣 習 」 , 話 し 合 っ て 意 見 を 合 わ せ て 決 め た 約 束 ・ 契 約 な ど の 「 合 意 」 , 人 々 が 善 悪 を わ き ま え て 正 し い 行 為 を な す た め に 守 り 従 わ ね ば な ら な い「 道 徳 」 と 関 連 が あ る と い っ て い い 。 特 に 「 道 徳 」 は , 人 が 踏 み 行 う べ き 道 ,物 事 の 善 悪 の 判 断 を す る 基 準 で あ り , 規 範 の 総 体 で あ る 。 上 記 の こ と を 踏 ま え , 「 規 範 意 識 」は ,複 数 の 内 容 と 関 連 し て い る こ と か ら ,遊 び や 生 活 を 通 し て 総 合 的 に 培 っ て い く こ と が 必 要 で あ る 。 「 芽 生 え 」 と は , 広 辞 苑 に よ る と 「 物 事 の 起 こ り 始 め , き ざ し 」 と あ る こ と か ら , 幼 児 の 規 範 意 識 の 芽 生 え と は ,幼 児 が 身 近 に あ る 様 々 な き ま り に 気 付 い て ,そ れ を 守 ろ う と す る 心 が 働 き は じ め る こ と と 捉 え る 。 「 決 ま り を 守 ろ う と い う 気 持 ち の 育 ち や , ル ー ル が 必 要 で あ る こ と へ の 気 付 き ,そ し て ,自 分 の 気 持 ち を 調 整 す る 力 の 育 ち な ど が 芽 生 え で あ る 」 と 友 定 は 述 べ て い る 。「 人 間 関 係 」 の 領 域 に お け る 内 容 の 取 り 扱 い に お い て も「 き ま り の 必 要 性 な ど に 気 付 き ,自 分 の 気 持 ち を 調 整 し よ う と す る 力 が 育 つ よ う に す る こ と 」 と あ る 。 上 記 の こ と を 踏 ま え , 幼 児 期 の 段 階 で 完 璧 に き ま り を 守 れ る よ う に 育 て る こ と が ね ら い で は な く ,き ま り の 必 要 性 に 気 付 か せ 5 る こ と や 自 分 の 気 持 ち を 調 整 し よ う と す る 力 を 育 む こ と が 大 切 で あ る 。き ま り や 人 に 対 す る 態 度 に つ い て の 基 本 的 な 体 験 を し っ か り 積 ん で ,小 学 校 に 進 ん で 同 じ よ う な 状 況 に な っ た と き に 活 か せ る こ と が 求 め ら れ て い る 。 賞 罰 や 権 力 に 左 右 さ れ ず ,何 が 正 し い か 正 し く な い か と い う 判 断 に よ っ て 行 動 す る 力「 自 律 」を 幼 児 期 か ら 促 し , は ぐ く む 必 要 が あ る 。 そ し て , 発 達 途 上 の 幼 児 は , よ い こ と ・ 悪 い こ と を す ぐ に 理 解 し , 実 行 で き る わ け で は な く ,失 敗 な ど を 通 し て 実 感 し て い く も の で あ る か ら ,そ う し た プ ロ セ ス を 大 切 に し て い く 必 要 が あ る 。 一 方 ,心 理 的 要 因 か ら 検 討 す る 立 場 に よ る と ,青 年 期 に は 規 範 に 対 し て 相 対 主 義 を 示 す こ と が 明 ら か に さ れ て お り ,こ の 時 期 に 生 じ る 規 範 意 識 の 希 薄 性 の 持 つ 発 達 的 意 味 に つ い て 考 慮 す る 必 要 性 が 挙 げ ら れ る 。ま た ,人 は あ ら ゆ る 規 範 や 社 会 的 ル ー ル を 個 人 の 自 由 だ と 判 断 し て い る の で は な く ,行 為 自 体 に 善 悪 の 規 定 が あ る「 道 徳 領 域 」や 文 化 的 な 一 様 性 を 持 つ「 慣 習 領 域 」を 個 人 の 自 由 と 区 別 し て お り , 加 齢 に 伴 い ,自 己 決 定 の 判 断 を 発 達 さ せ て い く こ と が 示 さ れ て い る 。そ れ 故 ,規 範 の 理 解 に は 質 的 に 異 な る 多 様 性 が あ り ,そ れ ら の 発 達 は 必 ず し も 線 形 で は な い 。 「 幼 児 の 規 範 意 識 」 に つ い て , 規 範 意 識 と 向 社 会 6 性 の 2 つ の 観 点 か ら 検 討 す る 必 要 が あ る 。 そ こ で , ま ず , 考 察 の 対 象 で あ る 社 会 的 責 任 目 標 を 定 義 し , 社 会 的 責 任 目 標 が な ぜ 変 容 す る の か に つ い て 規 範 意 識 と 向 社 会 性 の 2 点 か ら 概 観 す る 。そ の 上 で ,こ れ ら を 踏 ま え た 上 で ど の よ う な 取 組 み が 可 能 で あ る の か に 関 し て , 教 師 評 定 ・ 親 評 定 ・ 子 ど も 評 定 ・ 観 察 の ア プ ロ ー チ を 導 入 し ,包 括 的 に 検 討 し て い く こ と を 目 的 と す る 。 「 規 範 意 識 」に つ い て 時 代 効 果 を 測 定 し た り ,検 討 し た り し た 知 見 は 少 な い 。ま た ,そ れ ら の 知 見 は , 「 規 範 意 識 の 一 方 的 低 下 」を 実 証 的 に 示 し て は い な い 。 そ れ に も 関 わ ら ず , な ぜ , 社 会 に お け る 規 範 意 識 が 以 前 よ り 低 下 し た と 述 べ る 報 告 が 多 く な さ れ る の だ ろ う か 。 「 規 範 意 識 の 低 下 」 は , 規 範 が 存 在 す る 社 会 構 造 と の 関 連 に お い て 述 べ ら れ て い る 。 1950年 代 以 降 , 伝 統 的 な 居 住 状 況 や 集 落 構 造 が 新 し い 都 市 型 の 構 造 に 取 っ て 代 わ ら れ た 。前 者 が 家 族 を 超 え て 広 が る 共 同 体 に 強 く 志 向 し た 居 住 形 態 や 集 落 形 態 を 特 色 と す る の に 対 し ,後 者 は ,社 会 構 造 が 雑 多 で ,近 隣 ・ 知 人 関 係 が か な り 緩 や か で あ る こ と を そ の 特 色 と す る 。日 本 に お い て も ,多 く の 人 は 長 期 に わ た り 定 住 生 活 を 営 ん で き て お り ,地 域 に 根 ざ し た 人 間 関 係 が 構 築 さ れ て き た 。そ の よ う な 社 会 で は 親 密 の よ う な 甘 え が 通 用 せ ず ,無 関 係 よ り も 重 要 な 関 係 で あ る 7 世 間 に 重 き が 置 か れ た 。 日 本 人 は , そ の 中 で , 世 間 の 人 々 か ら 排 斥 さ れ な い よ う ,世 間 に 対 し て 恥 ず か し く な い よ う 振 舞 う と い っ た 行 動 基 準 を 発 達 さ せ て き た 。 そ れ は , 世 間 が 持 つ 基 準 に 規 範 ・ 慣 習 を 遵 守 す る よ う に 暮 ら す こ と で あ り ,そ れ ゆ え に ,地 域 内 に 一 定 の 規 範 が 形 成 さ れ て き た と い う 。 そ し て , こ の 世 間 に 機 能 す る も の と し て 恥 意 識 の 存 在 が あ っ た 。 し か し な が ら , 現 在 , 人 の 居 住 は 流 動 的 に な り ,必 ず し も 地 域 に 根 ざ し た 人 間 関 係 の 上 に 生 活 は 構 築 さ れ て は い な い 。し た が っ て ,一 定 の 規 範 が 形 成 さ れ て き た 世 間 は ,現 在 の 日 本 に お い て は 不 確 実 な 状 態 に あ る と い え る 。そ れ が ,人 の 規 範 認 識 に 何 ら か の 変 容 を も た ら し て い る 可 能 性 を 示 唆 し て い る 。 5. 従 来 の 研 究 の 流 れ 菅 原 ( 2005) は 、 大 学 生 、 中 学 生 ・ 高 校 生 を 対 象 と し ,世 間 が ど の よ う に 認 識 さ れ て い る の か を 明 ら か に す る た め ,公 共 場 面 に お い て 人 が ど の よ う な 基 準 に よ り 行 動 を と る の か に つ い て 調 査 し た 。そ の 結 果 ,ど ち ら の サ ン プ ル に お い て も ,他 人 の 目 を 気 に せ ず ,自 分 の 自 由 や 利 益 を 大 切 に す る こ と を 行 動 基 準 と す る 「 自 分 本 位 」 , 身 近 な 人 間 関 係 ・ 仲 間 関 係 と 歩 調 を 合 わ せ る こ と を 行 動 基 準 と す る「 仲 間 的 世 8 間 」,地 域 社 会 か ら の 評 価 を 重 視 す る「 地 域 的 世 間 」, 無 関 係 な 他 者 に 対 し て も 配 慮 す る こ と を 重 視 す る 「 他 者 配 慮 」,社 会 全 体 の 利 益 や 公 平 さ を 重 視 す る 「 公 共 利 益 」と い う 5 つ の 行 動 基 準 が 存 在 す る こ と が 確 認 さ れ た 。ま た ,若 者 の 世 間 認 知 と 規 範 行 動 の 関 係 を 検 討 し た 結 果 、社 会 的 迷 惑 行 為 は「 自 分 本 位 」, 「 仲 間 的 世 間 」と い う 行 動 基 準 に よ り 促 進 さ れ ,「 他 者 配 慮 」と い う 行 動 基 準 に よ り 抑 制 さ れ て い る こ と が 示 さ れ た 。以 上 の 結 果 ,現 代 の 若 者 の 世 間 の 認 知 ス タ イ ル に お け る 多 様 性 が 示 さ れ る 。ま た ,こ の 結 果 が 公 共 場 面 に お け る こ れ ま で 見 ら れ な か っ た 具 体 的 行 動 と し て 現 れ て い る と 考 え ら れ る 。 青 年 期 に 見 ら れ る「 規 範 意 識 の 低 下 」に つ い て は , 発 達 的 な 観 点 か ら 説 明 さ れ て い る 。す な わ ち ,精 神 分 析 理 論 ,社 会 的 学 習 理 論 お よ び 認 知 発 達 理 論 の 立 場 か ら ,規 範 意 識 の 希 薄 性 に 関 し て 論 じ ら れ て い る 。 精 神 分 析 理 論 お よ び 社 会 的 学 習 理 論 の 立 場 で は ,幼 児 期 に 規 範 の 内 面 化 が 十 分 に 行 わ れ て い な い ,あ る い は 青 年 期 に 親 世 代 が 持 つ 規 範 か ら 離 れ る 力 が 働 く と い う 理 由 か ら 青 年 期 の 規 範 意 識 が 希 薄 化 す る と し て い る 。ま た ,認 知 発 達 理 論 お よ び 精 神 分 析 理 論 の 一 部 の 立 場 で は ,規 範 を 守 る よ う に 言 わ れ た か ら 従 う の で は な く ,な ぜ 守 る の か ,な ぜ 必 要 な の か を 問 い 直 そ う と し た 結 果 ,守 る 必 要 を 認 め な い か ら 守 ら な い と い う 理 由 か ら 青 年 期 に は 規 範 意 識 が 希 9 薄 化 す る と 説 明 さ れ る 。 小 学 校 低 学 年 の 時 期 は , 発 達 段 階 で は 「 幼 児 期 」 か ら 「 児 童 期 」 へ の 移 行 の 時 期 に 当 た る 。「 学 校 で の 規 則 的 な 生 活 や 友 人 関 係 な ど を 通 し て ,周 囲 が 自 分 の 思 い 通 り に い か な い こ と を 知 り ,し だ い に 自 己 中 心 性 が 減 少 し て い く 時 期 」 ( 文 部 省 , 1999) で あ る 。 小 学 校 低 学 年 の 時 期 に ,「 他 人 の 立 場 を 認 め た り , 理 解 し た り す る 能 力 も 徐 々 に 発 達 」 ( 文 部 省 , 1 9 9 9 )し ,「 善 悪 の 判 断 や 具 体 的 な 行 為 に つ い て は , 教 師 や 保 護 者 の 影 響 を 受 け る 部 分 が 大 き い も の の , 行 っ て よ い こ と と 悪 い こ と に つ い て の 理 解 が で き る よ う に な る 」 ( 文 部 省 , 1999) と 言 わ れ て い る 。 小 学 校 低 学 年 の 児 童 が ,泣 い て い る 友 達 に「 ど う し た の 」と 声 を 掛 け た り ,忘 れ 物 を し て 困 っ て い る 友 達 に 自 分 の 物 を 見 せ た り 貸 し た り す る こ と は ,日 常 的 に 見 ら れ る 行 動 で あ る 。こ の よ う な 行 動 は「 他 者 が 具 体 的 に ,ま た は 心 理 的 に 幸 せ に な る こ と を 願 い , あ る 程 度 の 自 己 犠 牲 を 覚 悟 し , 人 か ら 指 示 , 命 令 さ れ た か ら で は な く ,自 ら 進 ん で ,意 図 的 に 他 者 に 恩 恵 を 与 え る 行 動 ( 高 木 , 1998) で あ り , 援 助 行 動 又 は ,思 い や り 行 動 と 呼 ば れ て い る 。援 助 行 動 は , 精 神 分 析 学 理 論 で は , 5, 6歳 ご ろ の 親 と の 同 一 視 の 過 程 で 発 達 す る と 考 え ら れ ,認 知 発 達 理 論 で は ,具 体 的 操 作 期 が 始 ま る 5~ 7歳 ご ろ に は 出 現 す る と さ れ て い る 。そ し て ,援 助 行 動 は 役 割 取 得 能 力 や 共 感 10 性 を 育 成 す る こ と に よ っ て 導 く こ と が で き る と 言 わ れ て い る ( 渡 辺 , 1996) 。 役 割 取 得 能 力 と は , 相 手 の 気 持 ち を 推 測 し , 理 解 す る 能 力 の こ と で あ る 。 小 学 校 低 学 年 の 児 童 の 役 割 取 得 能 力 の 発 達 は ,「 主 観 的 役 割 取 得 」 の 段 階 ( 6~ 7歳 ) が 中 心 で , 自 分 と 他 者 の 視 点 を 区 別 し て 理 解 す る よ う に な る が ,「 笑 っ て い れ ば 楽 し い ,泣 い て い れ ば 悲 し い 」と い っ た 表 面 的 な 理 解 で 終 わ り や す い 。小 学 校 低 学 年 の 児 童 の 共 感 性 は ,役 割 取 得 能 力 が 発 達 す る に つ れ て 発 達 し ,他 者 の 感 情 は 自 分 自 身 の 感 情 と は 異 な り ,そ の 人 自 身 の 要 求 や 解 釈 に 基 づ い て い る こ と に 気 付 い て い く 。た だ し ,小 学 校 低 学 年 の 児 童 が 共 感 で き る の は ,自 分 が 経 験 し た こ と が あ り ,相 手 の 心 情 が 直 接 表 出 さ れ て い る 場 面 で あ る と 言 わ れ て い る( 首 藤 , 2003) 。 以 上 の よ う に ,小 学 校 低 学 年 の 児 童 は 役 割 取 得 能 力 や 共 感 性 が 発 達 途 上 で あ り ,小 学 校 高 学 年 の 児 童 に 比 べ ,相 手 の 立 場 を 認 め た り 理 解 し た り す る 能 力 が 十 分 で は な い 。し た が っ て ,小 学 校 低 学 年 の 児 童 に 高 学 年 の 児 童 と 同 じ 援 助 活 動 は 望 め な い 。小 学 校 低 学 年 の 児 童 が 他 の 児 童 を 援 助 で き る の は ,自 分 が 援 助 さ れ た こ と の あ る 場 面 や 相 手 が 困 っ て い る こ と が よ く 分 か る 場 面 な ど で あ る 。ま た ,相 手 が 困 っ て い る こ と に 気 付 い て も ,ど う 援 助 す れ ば よ い の か 分 か ら な い 場 合 も 考 え ら れ る ( 中 野 , 2002) 。 11 小 学 生 の 規 範 意 識 の 醸 成 に は ,「 信 頼 感 」 の 高 ま り を 土 台 に し た ,「 社 会 的 達 成 欲 求 」 の 発 達 が 影 響 す る と 思 わ れ る 。家 庭 に お け る 家 族 の 理 解 や 自 分 の 存 在 を 十 分 に 受 け と め て も ら っ て い る と い う 感 覚 , 学 校 に お け る 友 達 や 教 師 か ら 受 容 さ れ て い る と い う 気 持 ち を 抱 い て い る 児 童 は ,自 分 の 能 力 を「 社 会 の た め 」 に 活 か そ う と す る 意 識 を も つ 傾 向 に あ る 。 “ 社 会 の た め に ”と い う 意 識 は ,社 会 の ル ー ル を 守 ろ う と す る 気 持 ち や 社 会 が 円 滑 に 機 能 す る よ う に と い う 意 識 も 伴 い ,そ れ ら が 規 範 意 識 の 醸 成 に つ な が る の で は な い か 。社 会 か ら 距 離 を 置 こ う と す る 若 者 の 増 加 が ,社 会 構 造 の 弱 体 化 に つ な が る の で は な い か と い う 懸 念 が 広 が り つ つ あ る 中 ,人 と 人 と の か か わ り 合 い を 重 視 す る 動 き は ,学 校 や 地 域 で 見 ら れ る 。 「 信 頼 感 」 や 「 社 会 的 達 成 欲 求 」 の 高 ま り は , そ れ ら の 動 き が 多 少 影 響 し て い る も の と 思 わ れ る が ,こ れ ら 規 範 意 識 に 関 係 す る と 思 わ れ る 心 理 の 再 構 築 が ,児 童 自 身 の 自 発 的 な 規 範 意 識 の 高 ま り に つ な が る 。「 社 会 的 達 成 欲 求 」 と そ れ を 支 え る 「 信 頼 感 」 を 高 め る こ と , 即 ち , 児 童 の 所 属 感 や 積 極 的 に 人 と か か わ る 気 持 ち を 土 台 に し て ,使 命 感 を 伴 う 積 極 的 な 社 会 参 加 の 姿 勢 を 身 に 付 け さ せ る こ と が ,学 校 現 場 で , 家 庭 で 大 切 と な る 。 規 範 意 識 の 醸 成 に は , 小 ・ 中 学 生 で は , 家 族 や 教 師 か ら 自 分 の 存 在 や 気 持 ち を 十 分 に 理 解 し て も ら 12 っ て い る と い う 気 持 ち を は ぐ く む こ と が 大 き く 影 響 す る 。 高 校 生 に な る と , 家 族 や 教 師 よ り も , 友 達 か ら 受 容 さ れ て い る と 感 じ て い る 生 徒 の 方 が「 規 範 意 識 」 は 高 く , 規 範 意 識 の 醸 成 に は , 友 達 と の か か わ り 合 い や 結 び 付 き が 大 き く 影 響 を 及 ぼ す こ と が う か が え る 。 ま た ,規 範 意 識 の 構 造 は ,安 香( 1 9 9 0 )が 授 業 中 , 先 生 の 質 問 に 自 分 か ら 手 を あ げ て 答 え ら れ る 。( 学 業 面 ・ 上 昇 志 向 )教 室 や ろ う か に ゴ ミ が 落 ち て い た ら , す す ん で ひ ろ う 。( 行 為 面 ・ 上 昇 志 向 ) 授 業 中 , 先 生 の 質 問 に 答 え ら れ な い 。( 学 業 面 ・ 下 限 違 背 ) 人 に い じ わ る を す る 。( 行 為 面 ・ 下 限 違 背 ) と し て い る 。 発 達 と は ,個 体 が 受 胎 か ら 成 熟 す る ま で の 内 的 心 理 傾 向 (能 力 、 性 格 特 性 等 )が ど の よ う に 変 化 す る か を 示 す 。 生 涯 発 達 心 理 学 で は , 成 人 期 ・ 老 年 期 で の 変 化 も 含 め る 。 Kohlberg(1969)は ,子 ど も は 社 会 か ら の 働 き か け だ け で は 社 会 化 し な い と し て い る 。コ ー ル バ ー グ の 道 徳 発 達 段 階 は ,前 慣 習 的 水 準 を 第 1 段 階( 罰 と 服 従 へ の 志 向 )苦 痛 と 罰 を 避 け る た め に ,大 人 の 力 に 譲 歩 し 規 則 に 従 う 。第 2 段 階( 道 具 主 義 的 な 相 対 主 義 志 向 )報 酬 を 手 に 入 れ ,愛 情 の 返 報 を 受 け る 仕 方 で 行 動 す る こ と に よ っ て ,自 己 の 欲 求 の 満 足 を 求 め る 。 次 に , 慣 習 的 水 準 を 第 3 段 階 ( 対 人 的 同 調 , 良 13 い 子 志 向 ) 他 者 を 喜 ば せ , 他 者 を 助 け る た め に 「 良 く 」 振 る 舞 い , そ れ に よ っ て 承 認 を 受 け る 。 第 4 段 階 ( 法 と 秩 序 志 向 ) 親 , 教 師 , 神 を 尊 重 し , 社 会 的 秩 序 を そ れ 自 身 の た め に 維 持 す る こ と に ,自 己 の 義 務 を 果 た す こ と を 求 め る 。最 後 に 脱 慣 習 的 水 準 に お い て , 第 5 段 階 ( 社 会 契 約 的 な 法 律 志 向 ) 他 者 の 権 利 に つ い て 考 え る 。共 同 体 の 一 般 的 福 祉 ,及 び 法 と 多 数 者 の 意 志 に よ り 作 ら れ た 基 準 に 従 う 義 務 を 考 え る 。公 平 な 観 察 者 に よ り 尊 重 さ れ る 仕 方 で 行 為 す る 。 第 6 段 階 ( 普 遍 的 な 倫 理 的 原 理 の 志 向 ) 実 際 の 法 や 社 会 の 規 則 を 考 え る だ け で な く ,正 義 に つ い て 自 ら 選 ん だ 基 準 と ,人 間 の 尊 厳 性 へ の 尊 重 を 考 え る 。 自 己 の 良 心 か ら 非 難 を 受 け な い よ う な 仕 方 で 行 為 す る 。 ま た , 道 徳 発 達 段 階 の 基 準 と し て , (1)普 遍 的 順 序 性 、( 2 ) 全 体 構 造 、( 3 ) 断 続 的 統 合 過 程 を あ げ , 道 徳 発 達 の 段 階 が 文 化 的 に 普 遍 で あ る と し て い る 。 完 全 に 一 つ の 段 階 に の み 属 し て い る の で は な く ,主 要 な 段 階 に 属 し て お り ,こ れ か ら 移 行 し て い く 先 の 段 階 に も 部 分 的 に 属 し ,直 前 の 段 階 に も 部 分 的 に 属 し て い る 。 首 藤 ・ 岡 島 ( 1986) は , 幼 稚 園 児 は 道 徳 と 社 会 的 慣 習 の ル ー ル を 区 別 し て い な い と し て い る 。 ま た , 伊 藤( 2002)は 幼 児 の 自 己 制 御 認 知 と 向 社 会 的 行 動 の 動 機 づ け と の 関 連 を み て い る 。 自 己 制 御 能 力 の 4 つ の 認 知 型 ,す な わ ち 自 己 主 張 ・ 自 己 制 御 と も に 高 14 い 「 両 高 型 」, と も に 低 い 「 両 低 型 」, ど ち ら か が 高 い 「 主 張 型 」,「 抑 制 型 」 と , 友 だ ち が 困 窮 す る 物 語 に 対 す る 向 社 会 的 判 断 と そ の 理 由 づ け か ら 分 類 し た 動 機 づ け の 志 向 性 と の 関 連 を み た 。そ の 結 果 ,両 高 型 が 両 低 型 よ り も 有 意 に 向 社 会 的 判 断 得 点 が 高 か っ た 。ま た ,自 己 制 御 認 知 型 が 向 社 会 的 動 機 づ け に 関 与 し て お り ,幼 児 期 は 自 己 主 張 ・ 自 己 抑 制 と も に 高 い こ と が ,向 社 会 的 行 動 へ の 動 機 づ け を 高 め る こ と が 示 唆 さ れ た 。 小 嶋 ( 2001) は , 他 者 に 嫌 悪 を 与 え な い よ う に 気 づ か っ た り ,与 え た と き に は 対 処 行 動 が と れ る こ と が 対 人 関 係 の 調 節 に お い て 重 要 で あ る と 考 え ,不 道 徳 な 行 為 を 受 け る こ と に よ っ て 他 者 に 生 じ る 道 徳 的 嫌 悪 を 5, 6 歳 が ど の 程 度 推 測 で き る の か ,ま た ,た た か れ る と い っ た 状 況 手 が か り だ け で な く ,被 害 者 の 反 応 手 が か り を ど の 程 度 利 用 で き る の か ,ま た ,幼 児 と 大 人 は ど の よ う に 違 う の か を 明 ら か に す る た め に 実 験 を 行 っ た 。そ の 結 果 , 5, 6 歳 頃 に は 道 徳 的 嫌 悪 を 状 況 か ら 推 測 で き る し , 状 況 に 対 す る 反 応 手 が か り を 利 用 し て ,よ り 正 確 に 他 者 の 嫌 悪 や 怒 り を 推 測 で き る こ と が 示 さ れ た 。 6. 社 会 的 責 任 と い う 概 念 社 会 心 理 学 の 援 助 行 動 の 研 究 の 領 域 に お い て は , こ の よ う な 社 会 的 責 任 を 扱 っ た い く つ か の 研 究 が 15 み ら れ る 。そ れ ら の 研 究 で は ,社 会 的 責 任 は 主 に 個 人 の 援 助 行 動 や 向 社 会 的 行 動 に 影 響 す る 要 因 と し て 取 上 げ ら れ て き た 。古 典 的 研 究 に お い て は ,問 題 研 究 に お い て 他 者 か ら 助 け ら れ た 経 験 を も つ も の に お い て ,特 に 社 会 的 責 任 規 範 の 程 度 の 差 が み ら れ , 援 助 の 互 恵 性 が 顕 著 に な る 条 件 に お い て ,社 会 的 規 範 の 効 果 が 強 く な る と 考 え ら れ る 。ま た ,他 の 人 の た め に 行 動 し よ う と す る 社 会 的 責 任 が 低 い も の は , 思 い や り や 信 頼 性 な ど の 面 で 低 く 評 価 さ れ ,援 助 行 動 と も 負 の 関 連 が 見 出 さ れ た 。こ の よ う に ,社 会 心 理 学 の 中 で は 社 会 的 責 任 概 念 に つ い て 扱 っ て い る 研 究 を 見 出 す こ と が で き る が ,援 助 行 動 に 関 わ る 一 要 因 と し て と ど ま っ て い る 。 一 方 ,社 会 的 責 任 の 概 念 は ,教 育 学 や 社 会 学 な ど の 領 域 に お い て も 扱 わ れ て き た 。ま た ,社 会 的 責 任 そ の も の が ,教 室 に お い て 達 成 す べ き 目 標 で あ る と と ら え ら れ て き た 。実 際 ア メ リ カ の 公 教 育 に お け る 教 育 目 標 な ど に も , 道 徳 的 人 格 や 社 会 規 範 の 遵 守 , 協 力 な ど と い っ た 社 会 的 責 任 に 属 す る 内 容 が み ら れ る ( W e n t z e l 1 9 9 1 )。 16 第 2 節 社 会 的 責 任 目 標 の 形 成 1. Wentzel の 社 会 的 責 任 目 標 社 会 的 責 任 目 標 は ,教 室 に お け る 人 間 関 係 と 深 い 関 わ り を も つ と 考 え ら れ る 。な ぜ な ら ,社 会 的 責 任 目 標 を も つ 児 童 は ,教 室 内 の 社 会 的 な 規 範 や 対 人 的 な 期 待 に 対 し て 適 応 的 な 態 度 や 行 動 が 可 能 に な る と 考 え ら れ る か ら で あ る 。社 会 的 責 目 標 に よ っ て 教 室 に お け る ニ 人 間 関 係 が 円 滑 に 形 成 さ れ る こ と に よ り ,規 範 意 識 や 向 社 会 性 へ の 動 機 づ け が 促 さ れ る こ と が 考 え ら れ る 。 こ の よ う な 規 範 意 識 の 成 長 は 、心 理 学 で は「 社 会 的 責 任 目 標 の 形 成 」 と い う 文 脈 で 研 究 さ れ て い る 。 We n t z e l ( 1 9 8 9 ) は , 目 標 志 向 性 を 学 業 領 域 だ け で な く ,社 会 的 な 領 域 も 含 め た ,よ り 広 い 範 囲 か ら 概 念 化 し 、 12の 目 標 志 向 性 と , 学 業 達 成 と の 関 連 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,学 業 成 績 の 高 い 生 徒 は , 学 習 へ の 熟 達 志 向 ,理 解 志 向 の 目 標 が 高 い だ け で な く ,信 頼 や 責 任 志 向 の 目 標 や ,時 間 を 守 る と い っ た 目 標 を 高 く も つ こ と が 明 ら か に さ れ た 。 ま た We n t z e l ( 1 9 9 1 , 1 9 9 3 ) は , 社 会 的 な 目 標 の う ち , 特 に 社 会 的 責 任 目 標 の 重 要 性 に 注 目 し て い る 。社 会 的 責 任 目 標 と は ,教 室 に お け る 規 範 や ル ー ル を 守 り ,対 人 的 に 円 滑 な 関 係 を 保 持 し よ う と す る 目 標 で あ る 。 17 こ の 社 会 的 責 任 目 標 は ,教 室 で の 友 人 や 教 師 と の 情 報 的 や 情 緒 的 な 相 互 作 用 を 通 じ て ,学 業 達 成 に 対 し て 積 極 的 な 影 響 を 及 ぼ し て い る こ と が 示 唆 さ れ た ( W e n t z e l , 1 9 9 1 , 1 9 9 3 ; 中 谷 , 1 9 9 6 )。 2. 中 谷 の 児 童 用 社 会 的 責 任 目 標 尺 度 わ が 国 に お い て は ,中 谷 (1996)に よ っ て 小 学 校 高 学 年 児 童 を 対 象 と し た ,児 童 用 社 会 的 責 任 目 標 尺 度 が 構 成 さ れ ,そ の 信 頼 性 ・ 妥 当 性 に つ い て 検 討 さ れ て い る 。 こ の 研 究 で は , 因 子 分 析 の 結 果 , 向 社 会 的 目 標 に 相 当 す る 第 1 因 子 と 規 範 遵 守 目 標 に 相 当 す る 第 2 因 子 の 2 つ の 尺 度 が 見 出 さ れ ,因 子 的 な 妥 当 性 を も つ こ と が 示 さ れ た 。尺 度 の 再 検 査 信 頼 性 に つ い て 確 認 を 行 っ た 結 果 得 ら れ た 再 検 査 信 頼 性 は ,社 会 的 責 任 目 標 の 中 で も , 規 範 遵 守 目 標 が r=.75, 向 社 会 的 目 標 が r=.71,(と も に p < .001)で あ り , 十 分 な 信 頼 性 が あ る と 考 え ら れ た 。 こ の 尺 度 は , 「社 会 的 な ル ー ル や 役 割 へ の 期 待 を 守 る こ と ( Went zel ,1 9 9 1 ) 」 と い う 定 義 に 基 づ き , 規 範 遵 守 目 標 と 向 社 会 的 目 標 の 2 下 位 尺 度 か ら 構 成 さ れ て い る 。 こ れ は , 明 示 的 も し く は 暗 黙 に , 社 会 的 に 期 待 さ れ る 役 割 と 集 団 内 で の 規 範 を 守 る 目 標 で あ り , 対 人 関 係 や 社 会 的 コ ン ピ テ ン ス を 反 映 し て い る と 考 え ら れ て い る 。 18 出 口 ・ 中 谷 ( 2003) は , 上 記 の 尺 度 を 用 い て , 協 同 学 習 場 面 に お い て , 規 範 遵 守 目 標 は 学 習 へ の 参 加 ・ 理 解 に 対 し て ,そ れ ぞ れ 独 自 の 影 響 を 及 ぼ し て い る こ と を 示 し て い る 。す な わ ち 、規 範 遵 守 目 標 は , 教 室 で の ル ー ル や 規 範 に 対 す る 遵 守 へ の 志 向 性 で あ る こ と か ら ,教 室 に お け る 社 会 的 規 範 に 深 い か か わ り を も つ 教 師 に 対 す る 適 応 に 関 連 す る 結 果 を 得 た 。 一 方 , 出 口 ・ 中 谷 ・ 遠 山 ・ 杉 江 ( 2006) の 研 究 に お い て 、向 社 会 的 目 標 は ,他 者 に 対 す る 思 い や り や 援 助 を 志 向 す る 目 標 で あ る た め ,教 室 で 相 互 作 用 を も つ 機 会 の 多 い 友 人 関 係 で の 適 応 に 対 し て ,肯 定 的 な 影 響 を 及 ぼ す 結 果 を 得 た 。 集 団 の き ま り や 指 示 を 遵 守 す る こ と に よ っ て 集 団 へ の 責 任 を 果 た し 同 時 に ,集 団 の 成 員 に 対 し て 積 極 的 能 動 的 に 協 力 や 援 助 な ど の 向 社 会 的 行 動 を 果 た そ う と す る 幼 児 期 の 社 会 的 責 任 目 標 と と い う 概 念 は ,こ れ ま で の 心 理 学 研 究 の な か で 扱 わ れ る こ と は な か っ た 。 4 歳 児 は , 発 達 上 重 要 な 時 期 で あ り , 社 会 性 の 発 達 を 自 己 主 張・実 現 と 自 己 抑 制 と い う 2 つ の 側 面 か ら 検 討 し て い る 研 究 は み ら れ 、自 分 の 気 持 ち を 調 整 す る 力 ( 自 己 制 御 ) に つ い て 自 己 主 張 ・ 実 現 面 的 側 面 と 自 己 抑 制 的 側 面 が あ る と し て い る( 柏 木 ,1 9 8 8 )。 自 己 制 御 は ,自 己 主 張 ・ 実 現 面 的 側 面 と 自 己 抑 制 的 19 側 面 の 二 つ に 分 け ら れ る 。 ・ 自 己 主 張 ・ 実 現 面 は , い や な こ と や , 他 と 違 う 意 見 を は っ き り と 言 え る・や り た い 遊 び に 他 の 子 を 誘 っ て 遊 べ る こ と で あ る 。自 己 抑 制 面 は ,ほ し い も の を 我 慢 で き る・人 に 譲 れ る・き ま り・ル ー ル を 守 る ・ く や し い こ と や 悲 し い こ と に 感 情 を 爆 発 さ せ な い こ と で あ る 。 こ の 二 つ の 側 面 は 幼 児 期 に そ れ ぞ れ 異 な っ た 発 達 を 見 せ る 。 自 己 主 張 ・ 実 現 は , 3 歳 か ら 4 歳 後 半 に か け て 急 激 に 増 加 し ,そ の 後 は あ ま り 変 化 が な い 。 一 方 ,自 己 抑 制 は 3 歳 か ら 小 学 校 入 学 ま で ,一 貫 し て 伸 び 続 け る 。 ま た , 男 女 差 が 見 ら れ , ど の 年 齢 で も 女 児 の 方 が 自 己 抑 制 が 高 い こ と が 示 さ れ て い る 。 し か し ,「 発 達 差 だ け で は な く 引 っ 込 み 思 案 の 子 や 主 張 し す ぎ る 子 な ど 自 己 制 御 能 力 の 個 人 差 も 存 在 す る 。 」 と 柏 木 ( 1988) は 述 べ て い る 。 社 会 , 文 化 の 中 で 育 ち 生 き て ゆ く 人 間 に と っ て , 社 会 的 規 範 や 価 値 を 自 分 の も の と し て 内 化 し て ゆ く こ と は 必 須 の こ と で あ る 。 幼 稚 園 の 生 活 の 中 で , 子 ど も は 他 者 と の 関 係 や 規 則 の 中 で 行 動 を 自 己 制 御 す る 必 要 に 迫 ら れ る 。一 つ は ,子 ど も が こ う し た い ,こ う す べ き だ と 思 う 自 分 の 意 思 を 他 人 や 集 団 に 表 明 し ,さ ら に そ の 意 志 や 願 い を 実 現 す る よ う な 行 動 を と る こ と で あ る 。も う 一 つ は ,他 人 の 立 場 や 集 団 の ル ー ル を 考 慮 し て ,自 分 の 意 志 や 欲 求 を 抑 え る 20 こ と で あ る 。 ま た 向 社 会 的 尺 度 に 関 し て は 水 谷 ・ 岡 田 ( 2007) が あ げ ら れ る が 、 Went zel (1 9 9 1 ) の 概 念 に 従 っ た 幼 児 を 対 象 と し た 社 会 的 責 任 目 標 の 測 定 尺 度 は 開 発 さ れ て な か っ た 。 本 並 ( 2010) の 予 備 研 究 で は 教 師 評 定 に よ る 幼 児 を 対 象 と し た 社 会 的 責 任 目 標 の 測 度 尺 度 を 検 討 し た 。 第 3 節 本 論 文 の 目 的 今 後 ,実 践 現 場 で の 縦 断 的 な 観 察 に よ っ て ,帰 属 ― 感 情 の 連 鎖 が 向 社 会 的 行 動 に 及 ぼ す 影 響 を 探 る と と も に ,日 常 の い か な る 保 育 ・ 教 育 的 営 み が 子 ど も の 原 因 の 認 識 や 感 情 判 断( 他 者 感 情 の 推 論 )に 影 響 し , 向 社 会 的 行 動 を 動 機 づ け る の か を , 保 育 ・ 教 育 実 践 者 と と も に 探 っ て い く こ と が 課 題 で あ る 。 そ の 際 ,教 師 と 保 護 者 の 評 価 に 焦 点 を 当 て ,そ れ が 子 ど も の 規 範 意 識 等 を ど の よ う に 評 定 し て い る か を 比 較 検 討 し た 。そ の 結 果 ,教 師 と 保 護 者 に よ っ て 子 ど も の 評 価 に 差 異 が あ っ た 。園 に お け る 規 範 意 識 は ,教 師 評 定 に お い て は 一 致 し て い た 。保 護 者 評 定 に は 差 異 が あ っ た 。親 子 関 係 に お い て 個 々 の 見 解 を 示 す こ と が わ か っ た 。 予 備 研 究 は , 4 歳 児 か ら 11 月 12 月 に お い て 教 師 ・ 保 護 者 の 評 定 に よ っ て 分 析 し た 。 今 回 は , 5 歳 児 の 6 月 か ら 7 月 に か け て 研 21 究 す る 。こ の 半 年 後 の 子 ど も を 研 究 す る こ と に よ っ て ,教 師 や 子 ど も の 要 因 が 関 係 し て い る か ど う か に つ い て 探 る こ と は 子 ど も の 規 範 意 識 の 発 達 研 究 に と っ て 意 義 深 い こ と で あ る 。 個人情報保護のため割愛 91 引 用 文 献 ・ 安 香 宏 ・田 中 純 夫 ・関 真 理 子 ・中 村 奈 緒 子 ・笠 井 孝 久 1990 児 童 に お け る 規 範 意 識 の 構 造 と そ の 関 連 要 因 千 葉 大 学 教 育 学 部 研 究 紀 要 , 38, 1-29. ・ 伊 藤 順 子 2002 自 己 主 張 ・ 自 己 抑 制 に つ い て の 認 知 の 個 人 差 と 向 社 会 性 に つ い て の 認 知 , 向 社 会 的 行 動 と の 関 連 お よ び 幼 年 教 育 研 究 年 報 , 24, 15-21. ・ 岩 田 純 一 2011 子 ど も の 発 達 の 理 解 か ら 保 育 へ ミ ネ ル ヴ ァ 書 房 ・ 岩 立 京 子 動 機 づ け ・ 柏 木 惠 子 1995 幼 児 ・ 児 童 に お け る 向 社 会 的 行 動 の 風 間 書 房 1988 幼 児 期 に お け る 自 己 の 発 達 : 行 動 の 自 己 制 御 機 能 を 中 心 に ・ 鯨 岡 峻 ・ 鯨 岡 和 子 東 京 大 学 出 版 社 2001 保 育 を 支 え る 発 達 心 理 学 ミ ネ ル ヴ ァ 書 房 ・ コ ー ル バ ー グ , L. 1987( 道 徳 性 の 形 成 , 永 野 重 史 訳 新 曜 社 .) ・ 薫 存 梅 ・ 本 郷 一 夫 2008 す る 日 中 比 較 文 化 的 研 究 幼 児 の 自 己 制 御 の 発 達 に 関 東 北 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 研 究 年 報 , 56, 2, 151-162. ・ 国 立 教 育 政 策 研 究 所 生 徒 指 導 研 究 セ ン タ ー 2007 「生 徒 指 導 体 制 の 在 り 方 に つ い て の 調 査 研 究 」報 告 書 ― 規 範 意 識 の 醸 成 を 目 指 し て 92 ・ 小 嶋 佳 子 2001 対 人 的 場 面 に お か れ た 他 者 の 嫌 悪 を 推 測 す る 5,6 歳 児 の 能 力 ・ 佐 伯 胖 2007 心 理 学 研 究 ,72,51-56. 共 感 ― 育 ち 合 う 保 育 の 中 で ー ミ ネ ル ヴ ァ 書 房 ・ 首 藤 敏 元 ・ 岡 島 京 子 念 1986 子 ど も の 社 会 的 ル ー ル 概 筑 波 大 学 心 理 学 研 究 , 8, 87-98. ・ 首 藤 敏 元 じ て 2003 思 い や り を 深 め る - 発 達 段 階 に 応 児 童 心 理 7 月 号 第 57 巻 第 10 号 ・ 菅 原 健 介 2005 金 子 書 房 羞 恥 心 は ど こ へ 消 え た ? ・ 菅 原 健 介 ・ 永 房 典 之 ・ 佐 々 木 淳 2006 光 文 社 青 少 年 の 迷 惑 行 為 と 羞 恥 心 - 公 共 場 面 に お け る 5 つ の 行 動 基 準 と の 関 連 性 ・ 鈴 木 敦 子 聖 心 女 子 大 学 論 叢 1993 107 巻 , 59-77. 幼 児 に お け る 約 束 の 概 念 の 理 解 教 育 心 理 学 研 究 , 41, 143-151 ・ 高 木 修 1998 人 を 助 け る 心 ・ 出 口 拓 彦 ・ 中 谷 素 之 2003 サ イ エ ン ス 社 生 徒 の 社 会 的 責 任 目 標 と 協 同 学 習 に 対 す る 認 知 と の 関 連 性 格 心 理 学 研 究 , 11 , 120-121. ・ 出 口 拓 彦 ・ 中 谷 素 之 ・ 遠 山 孝 司 ・ 杉 江 修 治 2006 児 童 ・ 生 徒 の 社 会 的 責 任 目 標 と 学 級 適 応 感 ・ 学 習 動 機 の 関 連 パ ー ソ ナ リ テ ィ 研 究 , 15, 48-51. ・ 友 定 啓 子 2008 3・4・5 歳 児 の 保 育 ・ 中 谷 素 之 1996 社 会 的 責 任 目 標 が 学 業 達 成 に 影 響 を 及 ぼ す プ ロ セ ス ・ 中 谷 素 之 1997 小 学 館 教 育 心 理 学 研 究 , 44, 289-299. 児 童 用 社 会 的 責 任 目 標 尺 度 の 信 頼 93 性 ・ 妥 当 性 の 検 討 名 古 屋 大 学 大 学 院 教 育 学 部 紀 要 , 44, 221-227. ・ 中 谷 素 之 社 会 的 責 任 目 標 と 学 業 達 成 過 程 2006 風 間 書 房 ・ 中 谷 素 之 2007 学 ぶ 意 欲 を 育 て る 人 間 関 係 づ く り ー 動 機 づ け の 教 育 心 理 学 金 子 書 房 ・ 中 野 武 房 ・ 日 野 宜 千 ・ 森 川 澄 男 ア ・ サ ポ ー ト の す べ て ・ 水 谷 拓 也 ・ 岡 田 守 弘 2002 学 校 で の ピ ほ ん の 森 出 版 2007 集 団 社 会 的 ス キ ル 訓 練 が 児 童 お よ び 学 級 集 団 に 及 ぼ す 効 果 の 検 討 : 多 層 ベ ー ス ラ イ ン 法 の 利 用 お よ び 集 団 変 容 が 個 人 に 及 ぼ す 影 響 と 学 級 集 団 規 範 の 形 成 に 着 目 し て 学 教 育 人 間 科 学 部 紀 要 , I, ・ 無 藤 隆 領 2008 教 育 科 学 横 浜 国 立 大 9, 1-22. こ こ が 変 わ っ た ! N E W 幼 稚 園 教 育 要 N E W 保 育 所 保 育 指 針 ガ イ ド ブ ッ ク フ レ ー ベ ル 館 ・ 森 下 正 康 2003 幼 児 期 の 自 己 制 御 機 能 の 発 達 ( 6) ― 保 育 の 特 徴 と 子 ど も の 行 動 特 徴 学 部 紀 要 , 教 育 科 学 ・ 文 部 科 学 省 動 編 1999 和 歌 山 大 学 教 育 53, 23-38. 小 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 特 別 活 東 洋 館 出 版 社 ・ 文 部 科 学 省 1999 小 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 道 徳 編 2001 幼 稚 園 に お け る 道 徳 性 の 芽 生 え 東 洋 館 出 版 社 ・ 文 部 科 学 省 を 培 う た め の 事 例 集 ひ か り の く に 94 ・ 文 部 科 学 省 2008 幼 稚 園 教 育 要 領 解 説 フ レ ー ベ ル 館 ・ 文 部 科 学 省 料 第 3 集 国 立 教 育 政 策 研 究 所 2009 生 徒 指 導 資 規 範 意 識 を は ぐ く む 生 徒 指 導 体 制 ― 小 学 校 ・ 中 学 校 ・ 高 等 学 校 の 実 践 事 例 22 か ら 学 ぶ ・ 渡 辺 弥 生 1996 ソ ー シ ャ ル ・ ス キ ル ・ ト レ ー ニ ン グ 日 本 文 化 科 学 社 ・ Wen tzel , K . R . 1 9 8 9 A d ol es cen t cl a s s room goa l s , standard for performance, and academic achievement; An interactionist perspective. Jornal of Educational Psychology, 81, 131-142. ・ Wen tzel , K . R . 1 9 9 1 R el a ti on s b etween s oci a l competence and academic achievement in early adolescence. Child Development, 62, 1066-1078 ・ Wen tzel , K . R . 1 9 9 3 Moti va ti on a n d a ch i evemen t in early adolescence: The role of multiple classroom goals. Journal of Early Adolescence, 13, 4-20. 95 謝 辞 本 論 文 の 調 査 の 実 施 に 当 た り , 幼 稚 園 の 先 生 方 , 幼 児 の 皆 さ ん に ご 協 力 を 頂 き ま し た 。心 よ り 感 謝 い た し ま す 。 本 論 文 の 各 研 究 に お い て ,滋 賀 大 学 学 校 教 育 教 員 養 成 課 程 学 校 心 理 コ ー ス ,幼 児 教 育 コ ー ス の 先 生 方 に ご 指 導 を 頂 き ま し た 。先 生 方 の ご 助 言 ,ご 指 導 に 感 謝 致 し ま す 。 最 後 に ,本 論 文 の 作 成 に 当 た り ,構 想 の 段 階 か ら 分 析 ,論 文 全 体 の 体 裁 を 整 え る ま で 終 始 一 貫 し て ご 指 導 し て 頂 き ま し た 滋 賀 大 学 学 校 教 育 教 員 養 成 課 程 学 校 心 理 コ ー ス 教 授 申 し 上 げ ま す 。 近 藤 文 良 先 生 に 深 く 感 謝 96 資 料 先生へのお願い さんの幼稚園での様子についてお教え頂きたいと思います。次に幼児の行動につい ていろいろな特徴をあげてあります。それぞれについて以下のようにご記入下さい。 記入方法 1項目ずつ読んで下さい。そして,それぞれの行動特徴について次の4段階で記入して下さい。 1-きわめて多い。 2-やや多く見られる。 3-あまり見られない。 4-ほとんどない。 (スケール上の該当する数字のところに〇をつけて下さい。) <例>クラスの友だちと仲良くします。 1 ② 3 4 き や わ や め 多 て く 多 見 い ら れ る あ ほ ま と り ん 見 ど ら な れ い な い このように記入されていたとすると,この子どもはクラスの友だちと仲良くすることが,やや 多い子どもであることを示します。 裏へ 97 *6月下旬から7月上旬の さんの行動について,記入して下さい。 1 2 3 き や わ や め 多 て く 多 見 い ら れ る 4 あ ほ ま と り ん 見 ど ら な れ い な い 1.友だちがうまくできないことがあれば助けようとします。 ( 1 2 3 4 ) ( 1 2 3 4 ) 2.遊びの中でのルールは守れます。 3.うまくいかなくてがっかりしている人に声をかけてあげられます。 ( 1 2 3 4 4. お花の水やりがある時は,面倒だと思っても,それをちゃんと やります。 ( 1 2 3 4 ) 5.遊んでいる内容ややり方がわからない友だちがいたら,それを 教えることができます。 ( 1 2 3 4 ) 6. みんなで絵を描いている時などでは,他の人の邪魔にならない ようにします。 ( 1 2 3 4 ) 7.友だちが何か足りない物があった時は,自分の使っているものを 貸すことができます。 ( 1 2 3 4 ) 8. 外から帰ったら手洗いをするなど幼稚園のきまりは,守っています。 ( 1 2 3 4 9.先生の呼びかけに応じて次の準備ができます。 ( 1 2 3 4 ) ) ) 10. いざこざが起こった時に相手の言うことを聞くことができます。 ( 1 2 3 4 ) ( 1 2 3 4 12. 全体が騒々しい時でも,それに影響されず,先生の指示に従うことができます。 ( 1 2 3 4 ) 11. お友だちと協力しながら自分の役割をやり遂げられます。 先生のお名前 ご記入頂いた年月日 年 月 日 ) 98 子どもへのお願い 〇〇さん、これからお話するのを聞いて思ったとおりに答えてね。 質問方法 絵を見せながらお話をし、思ったところを指で押さえてもらいます。 99 子どもへの質問 お友だちがハンカチを失くして困っていました。 でも〇〇ちゃんはうさぎさんと遊びたいなと思っていました。 〇〇ちゃんならどうする? 1 ハンカチを一緒に探す 2 どうしたらいいかわからない 3 うさぎさんと遊びたいのでうさぎさんと遊ぶ お友だちの太郎くんがお絵描きをしようと思ったら赤色の クレヨンが無くて困っていました。 花子ちゃんはどうする? 1 貸してあげる 2 わからない 3 花子ちゃんは自分が使いたいので赤色のクレヨンを使う 先 生 が 「 今 日 は 折 り 紙 を 折 り ま す 。 よ く 聞 い て ね 。」 と 言 い ま し た 。 その時、お友だちが○○ちゃんにおしゃべりしてきました。 お友だちはなかなかおしゃべりを終わりません。 100 その時〇〇ちゃんは? 1 いやだ 2 わからない 3 いやではない そしてどうする? 1 ○○ちゃんは,暫くお口をチャックしている 2 ○○ちゃんは,お友だちに「お口はチャック」と言う 3 ○○ちゃんは,先生に「お口をチャックしていない」と言う 朝、幼稚園に着きました。今日はお花にお水やりの日です。 お友だちの花子ちゃんはそれよりしたいことがありました。 花子ちゃんはどうする? 1 お花にお水をあげる 2 わからない 3 折り紙を折りたかったから折り紙を折って遊ぶ 101 102 103 104 平成 23 年度 卒業論文 就職活動における 就職活動における理想自己 における理想自己・ 理想自己・現実自己の 現実自己のズレと ズレと 自己成長について 自己成長について ―ズレの ズレの捉え方および対処 および対処に 対処に着目して 着目して― して― 指導教官 教育学部 若松養亮 教授 学校教育教員養成課程 学校心理コース 0008157 松井誉子 1 目次 問題と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・1 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・32 2 【問題と 問題と目的】 目的】 青年期後期の大学生にとって、学校から社会への移行のスタートとなるのは就職活動である(梅村・ 金井,2006)。近年は、発達論・学習論においても生涯という視点が導入されつつあり(浦上,1996)、 就職活動においても内定を得られたか否かには関わらず、就職活動を行うことによってその後のキャリ アに肯定的な影響を与える何かを得られたかどうかについての視点が必要である。 足立(1995)によると、職業の選択・決定は社会的役割の獲得という観点から、青年期の同一性の確 立にとって重要な発達課題の一つと考えられている。また、髙村(1997)は、進路選択や職業選択など のような課題探求の経験が増えるに従い、今まで形成されてきたアイデンティティがより成熟し、さら に自己についての理解が深まっていくと述べ、課題探求時にアイデンティティが形成されていくために 必要であるのは、課題を探求していくプロセスの中で自己について修正したり再構築し、その中で課題 に取り組み、対処していくという、課題探求とアイデンティティ探求との相互のやりとりであることを 示した。大学卒業後の進路選択は、学生にとって避けて通れないものであり、自分自身の将来を決定す るということからその後の人生に大きく影響を及ぼすものである。それ故に、就職活動の期間は「自分 はどんなことがしたいのか」、「どのような仕事に向いているのか」など自己について問い直す機会が多 くなりやすく、青年が自己形成を行っていく上でも重要なライフイベントであると考えられる。 就職活動経験者は、 「自分を振り返り、これから何がしたいのか、何ができるのか」を考えたと振り返 ることが多いことから、就職活動を通して自らをより高めていこうとする意識が働いていると考えられ る。このような自らを高めようとする力のことを、速水・西田・坂柳(1994)は自己成長力と表現し、 “自ら自分自身を伸ばしていこうとする力”と定義した。キャリアでの自己実現という視点からも、自 らをより高めていこうとする態度や力が重要であり、個人のあらゆる側面に主体的、開発的に関与する ようになると考えられている(泉水,2008)。浦上(1996)は、就職活動期間は自分を見つめる機会で あり、自分というものを伸張させていこうとする自己成長力を高める機会であると述べている。 さらに、浦上(1996)は、大学生が就職活動において「自分が一回り大きくなった」というような報 告をすることを指摘している。就職活動を通して得た成長の実感というのは、 「自分自身を伸ばしていこ うとする力」以外にも、 「自らが成長している」という感覚があることが考えられる。この“自分が日々 成長している”という感情を神藤(1998)は自己成長感とした。神藤(1998)が、中学生が学業活動に おけるストレスを乗り越える際に自己成長感を感じると、後の学習に対する意欲が高まることを明らか にしていることから、自己成長感がポジティブな未来展望につながっているといえる。 自己成長力と自己成長感のこれらの概念は別々に使用されることはあったが、自己成長を 2 つの側面 から捉えている研究はない。しかし、成長というものを考えようとする際、自分を伸ばしていこうとす る力を形成すること、自分が成長しているという感覚が得られること、どちらも重要なことであると考 えられる。キャリアでの自己実現をするために重要視されている自己成長力とポジティブな未来展望に つながるとされる自己成長感の 2 つの側面から自己成長を検討していくことで、就職活動がその後のキ ャリアに及ぼす肯定的な影響についてより多角的に捉えることができるとともに、青年期後期の大学生 における自己形成についての理解を深めることにつながるだろう。そこで本研究では、就職活動を通し ての成長を自己成長力と自己成長感の 2 つの側面から捉えていく。 ところで、学生は就職活動をするにあたって、「どのような職業に就きたいか」「仕事を通してどのよ 3 うな人になりたいか」など理想を手がかりの 1 つとして活動すると考えられる。就職活動を経験した大 学生を対象に面接調査を行った梅村・金井(2006)によると、面接対象者の 8 割が就職活動初期に何ら かの形で理想自己を持っていたと述べている。 理想自己とは個人が非常にそうありたいと望んでおり、それに最も高い価値を置いている自己概念の ことを意味し、現実自己とは現在の自分をどう自覚しているかという自己のことである(Rogers,1959) 。 水間(1998)によると、理想自己を初めて実証的に扱ったのはおそらく Rogers(1951)であり、彼はカ ウンセリングにおいてクライエントが次第に自己に対して肯定的な知覚をするようになっていくという プロセスを、理想自己と現実自己の一致度が増大していくというプロセスとして示した。 当初の理想自己についての研究では、理想自己と現実自己とのズレの適応的側面に焦点が当てられて いたが、徐々に理想自己の自己形成的な側面にも着目した研究がなされるようになった。例えば梶田 (1988)は、現実の自己に関するイメージと志向的・理想的な自己像との食い違いの意識がバネとなっ て新たな行動への意欲が生じ、長い目で見るならばそうした志向的・理想的な自己像の方向へ向かって、 主我自体の形成がなされていくと述べ、理想自己が自己形成に重要な意味を持つことを示した。また、 足立(1988,1995)は職業的自己実現を論じる中で、「なりたい自分」は将来の自分の進む道(可能性 としての生き方)つまり「進路」を自分自身に示唆するものとなるし、またその「なりたい自分」に少 しでも近づくことができれば、それは「なりたい自分」という自己概念を実現することにつながると述 べ、職業的自己実現とは、「『今の自分』が『なりたい自分』になることおよびその過程で自己成長に関 連した充実感を持つことである」とした。 中島・無藤(2007)が、何を仕事に求めるかというビジョンが明確であるほど、 “なかなかうまくいか なくてもあきらめない”など、就職達成への意思が発揮されること、また求職活動が動機づけられ、ひ いては就職達成に寄与することを示唆しているように、どのような理想を持ち、またその理想をどのよ うに考えて就職活動に臨むかによって、就職活動終了時にどれだけ自己実現ができたか、成長できたか に差が出てくるのではないだろうか。また、山田(2004)も理想自己と現実自己とのズレの自己形成的 側面からの検討において、理想自己が本人にとってどのような意味を持っているのかといった意味づけ の視点と、その先に実際どういった方略がとられているかといった行為の視点とが共に考慮されるべき であると述べている。そこで、本研究では理想自己と現実自己とのズレに対する捉え方や対処が、就職 活動における自己成長にどのように関連しているのかについて検討する。 目的①ズレの捉え方や対処が就職活動における自己成長にどのように関連しているかを検討する 仮説①ズレを埋めようと前向きに捉えている人ほど就職活動における自己成長が高い。 仮説②ズレを埋めるために行動しようとしている人ほど就職活動における自己成長が高い。 就職活動後の自己成長力には、就職活動前にもともと備わっている自己成長力が影響を及ぼすことも 考えられる。そこで、就職活動前の自己成長力の影響を統制し、ズレの捉え方および対処と就職活動後 の自己成長力との関連を検討する。 4 【方法】 方法】 調査の 調査の概要 調査対象:あらかじめ単一の専門的な職業にしぼって就職活動を行うのではなく、複数の職種・業種の 中から、情報を集めたり自己分析をしたりしながら、企業に対して、2012 年度入社のための 就職活動を行った大学生 188 名。 うち、国公立大学 116 名(男性 74 名、女性 42 名) 、私立大学 72 名(男性 25 名、女性 47 名) 。 調査時期:2011 年 10 月~11 月中旬 調査方法:無記名式の質問紙調査を実施した。 国公立大学では、4 回生のゼミの時間に実施、私立大学では教務課・キャリア開発室などによ り学生に配布・回収してもらい行われた。 質問紙の 質問紙の内容 まず、 『今回、卒業論文のための調査を行うことになりました。この調査は、就職活動についての研 究のためのものです。そこで、就職活動を経験された皆さんから率直なありのままの声を聞きたいと 思っていますので、ご協力よろしくお願いします。なお、この調査は研究のためのものだけですので、 データはまとめて統計的に処理されます。あなた個人の考えが他人に知られるということは一切あり ませんので、安心して心に浮かんだままを答えてください。就職活動を経験された方でしたら、5 回生 以上の方も記入をお願いします。』と教示し、質問紙調査を開始した。また、この質問紙における「就 職活動」の定義がわかるように『このアンケートの「就職活動」とは、あらかじめ単一の専門的な職 業にしぼって活動を行うことではなく、複数の職種・業種の中から、情報を集めたり自己分析をした りしながら活動を行うことを指しています。 』と教示した。 フェイスシート はじめに性別を尋ねた。次に、就職活動を意識してもらうために、 『あなたが就職活動をしていた時 期はいつ頃ですか。※就職活動の開始時期の目安はエントリー、説明会への参加など。 』と教示し、就 職活動をしていた時期を回答させた。また、 『あなたが就職活動中に希望していた業種について伺いま す。〈1〉から〈8〉の( )に○をつけてください。 (いくつでも) 』と尋ね、 『〈1〉( ( )商社〈3〉( コミ〈7〉( の( )百貨店・ストア・専門店〈4〉( )ソフトウェア・情報処理〈8〉( )金融・証券・保険〈5〉( )メーカー〈2〉 )通信〈6〉( )マス )サービス』の中から就職活動中に希望していた職種 )に○をつけさせた。さらに、就職活動に力を入れた時期についても『あなたが就職活動にもっ とも力を入れたのはいつ頃ですか。 』と教示し、回答を求めた。 仮説が検証されなかった場合に対象者を限定して分析できるようにする目的で、就職先が決定して いるかどうかについても尋ね、『あなたは現在、就職先が決定していますか。』と教示し、「決定した」 「決定していない」 「迷っている」の 3 件法で回答を求めた。その際、 「決定した」に○をつけた者に は『「決定した」に○をつけた人にお尋ねします。あなたは決定した就職先に満足していますか。』と 教示し、 「とても満足している」 「わりと満足している」 「満足していない」の 3 件法で決定した就職先 への満足度を評定させた。 Ⅰ.(1)理想自己の抽出 就職活動において長い間気にしていた理想自己 1 つを自由記述で回答を求めた。 5 理想自己を取り上げる際には、その理想自己像の個人にとっての重要性という視点を組み込む ことが必要であるという指摘がある(遠藤,1992;水間,1998)。理想自己を被験者が自ら設定 した個性記述的方法において、理想自己の項目を研究者側が設定した法則定立的方法よりも、自 己評価得点との間に有意な関係が見られたという報告があることから、自由記述など内在的視点 の方が個人の意識・関心の高い内容が表出されやすく、外在的視点による方法に比べれば個人に とって重要な理想自己を扱える可能性が高いといえる。ただし、重要性と意識のしやすさは必ず しも同義ではなく(溝上,1997) 、意識には上りにくいが重要な内容もあり、それはむしろ外在的 視点によって捉えることができる(水間,1998)。そこで、本研究では、内在的視点による自由記 述に加えて、外在的視点によって研究者の与えた項目からも回答できるようにした。 『就職活動を経験したみなさんは、就職活動をしている中で、能力や性格など内面的なことで 「こうなりたい」と思う理想の自分があったと思います。その中でも、あなたが長い間気にして いた「理想の自分像」を 1 つ書いてください。以下の例から書いてくださっても構いません。 』と 教示し、『〔 〕になりたいと就職活動をしている時に思っていた』という文に合う ように記述させる文章完成法で回答させた。 挙げた例は以下の 9 項目であった。 「仕事がもっとできるようになりたいと思っていた」 「人とうまく関わることができるようになりたいと思っていた」 「積極的に物事に取り組めるようになりたいと思っていた」 「常に成長していけるようになりたいと思っていた」 「人から尊敬されるようになりたいと思っていた」 「世の中に貢献できるようになりたいと思っていた」 「くよくよしないようになりたいと思っていた」 「多くの人脈を持てるようになりたいと思っていた」 「自分の考えをうまく人に伝えられるようになりたいと思っていた」 (2)理想自己と現実自己とのズレ (1)で記述された理想自己について、就職活動による変化を見るため、就職活動中と現在の自分 がそれぞれどの程度違っていると感じているかを評定させた。現在も就職活動中の場合は現在の 自分についてだけを評定させるようにした。 『(1)で答えた「理想の自分像」と就職活動中のあなた、 現在のあなたはそれぞれどの程度違っていると感じていますか。最もあてはまる数字に○をつけ てください。現在も就職活動中の人は〈現在〉の欄だけで構いません。』と教示し、 〈就職活動中〉 については「1.違っていなかった」 「2.少し違っていた」 「3.わりと違っていた」 「4.すごく違 っていた」の 4 件法、〈現在〉については「1.違っていない」 「2.少し違っている」「3.わりと 違っている」「4.すごく違っている」の 4 件法でそれぞれ回答を求めた。 (3)理想自己の重要度 抽出された理想自己が本人にとって重要なものであるかどうかを確認し、もし仮説が検証されな かった場合は「重要ではなかった」と答えた者を除いて分析できるようにするため、 (1)で記述さ れた理想自己がどの程度重要かを尋ねた。 『あなたにとって、この「理想の自分像」はどの程度重要 でしたか。 』と教示し、「とても重要だった」 「わりと重要だった」 「重要ではなかった」の 3 件法で 6 回答を求めた。 (4)理想自己を最も気にしていた時期 仮説が検証されなかった場合に、理想自己を最も気にしていた時期による差を比較して分析でき るようにするため、理想自己を最も気にしていた時期を尋ねた。 『就職活動期間の中で、(1)で答えた 理想の自分を最も気にしていた時期はいつ頃でしたか。 』と教示し、回答を求めた。 (5)就職活動における苦労 仮説が検証されなかった場合、就職活動において苦労を感じていなかった者を除いて分析ができ るようにするため、就職活動においてどの程度苦労したと感じているかを尋ねた。 『あなたは就職活 動においてどの程度苦労したと感じていますか。 』と教示し、 「とても苦労した」「わりと苦労した」 「苦労していない」の 3 件法で回答を求めた。 Ⅱ.理想自己と現実自己とのズレの捉え方について 姜・相川(2009)の作成した理想自己と現実自己とのズレにおけるとらえ尺度 28 項目を、一部表現 を就職活動場面に合うように変更して使用した。『あなたは就職活動で(比較的)苦労していた頃、Ⅰの (1)で書いた理想についてどのように捉えていましたか。次にあげるそれぞれについて、最も近い数字 を○でかこんでください』と教示し、「1.全くあてはまらない」「2.ややあてはまらない」「3.やや あてはまる」「4.ぴったりあてはまる」の 4 件法で回答を求めた。 (質問項目) 1. この理想は、自分の目指すものなので、ズレ(現実の自分との間の違い;以下同じ)があるからこそ 頑張りたいと思っていた。 2. この理想の自分よりも物事がうまくできなかったとしたら、それは自分に原因があると思っていた。 3. 理想は理想。この理想には近づけなくても仕方がないと思っていた。 4. 日々この理想を目指していけば、理想の自分になれると思っていた。 5. この理想があるからこそ、その頃の自分は前に進んでいきたいと思っていた。 6. この理想の自分になれるように心がけて、物事に接していきたいと思っていた。 7. この理想の自分に近づきたいが、もし近付けないとしたら自分はだめだと思っていた。 8. ズレがあっても気にとめないので、何も行動しなくても良いと思っていた。 9. 努力していけば、いつかは理想の自分になれると思っていた。 10. 理想とする自分とその頃の自分が違っているから、努力のしがいがあると思っていた。 11. この理想の自分に近付くために、一つ一つのことに責任を持って取り組みたいと思っていた。 12. この理想とその頃の自分があまりにも違ったとしたら、それは自分が怠けているせいだと思っていた。 13. この理想が高すぎるから、その頃の自分には理想通りのことができなくてもかまわないと思っていた。 7 14. 物事を一つずつこなしていけば、ズレは埋められると思っていた。 15. 自分が描く理想とその頃の自分がズレていたからこそ、ズレを埋めることを意識していきたいと思っ ていた。 16. この理想と現実がズレていても気にしないので、特に何かをしようとは思わなかった。 17. 地道にこつこつ頑張ることで、この理想の自分像に近づいていけると思っていた。 18. この理想はその頃の自分とは違ったが、理想へ至るための努力をし、成長していきたいと思っていた。 19. 自分が描いた理想どおりにいかないのは、自分の見通しが悪いからだと思っていた。 20. この理想どおりの自分になるのは難しいので、理想どおりになるとは思わなかった。 21. 「今はたとえズレがあっても、できることをやっていけばズレはなくせる」と思っていた。 22. この理想の自分とのズレは自分がなりたい道を示してくれるので、前向きに考えていきたいと思って いた。 23. この理想とその頃の自分にはズレがあったが、常に理想の自分を追求していきたいと思っていた。 24. もしいつまでたってもこの理想に近づけなかったとしたら、自分を責めただろう。 25. この理想の自分に近づくのは、不可能だと思っていた。 26. この理想の自分と現実の自分とのズレを、自分自身の力で埋めていきたいと思っていた。 27. この理想の自分にその頃の自分が近づけていなかったとしたら、自分を認めたくないと思っていた。 28. この理想の自分を求めても、理想は自分から遠いものだから、なれるわけがないと思っていた。 Ⅲ.理想自己と現実自己とのズレの対処について 姜・相川(2009)の作成した理想自己と現実自己とのズレにおける対処尺度の 24 項目を、一部表現 を就職活動場面に合うように変更して使用した。『あなたは就職活動で(比較的)苦労していた頃、Ⅰの (1)で書いた理想と現実のあなたとのズレについてどのようにしようとしましたか。次にあげるそれぞ れについて、最も近い数字を○でかこんでください』と教示し、「1.全くあてはまらない」「2.やや あてはまらない」「3.ややあてはまる」 「4.ぴったりあてはまる」の 4 件法で回答を求めた。 (質問項目) 1.この理想の実現のために必要な知識を、本などの具体的な資料を通して習得した。 2.他のことをして、ズレの解決のことは忘れるようにした。 3.この「理想の自分像」にはとてもなれなかったので、より妥当な「理想の自分像」に変えた。 4.自分が理想としていることは絶対にできるという思いで、この理想に向かっていこうとした。 5.この理想の自分になりたいとは思うが、自分を変えるのは大変そうで頑張れなかった。 6.自分を励まし、次こそは成し遂げるよう頑張った。 8 7.この理想を目指して、納得するまで現実の自分を変えようとしていた。 8.この理想は高すぎたので、より達成しやすい理想に切り替えた。 9.ズレをなくそうと焦って頑張るか、何もせず諦めるか、両方を考えて悩んだ。 10.この理想に近づくための第一歩として、 「理想の自分像」に結びつくようなことをやってみた。 11.この「理想の自分像」に近づくために、日頃の行いを改めた。 12.その頃に持っていた理想よりも、努力をしなくてすむ理想を求めた。 13.この「理想の自分像」に近づくために、物事と誠実に向き合おうとした。 14.なるべくこの理想に近づきたいと思っていても、心の中には諦めの気持ちがあった。 15.自分の良くないところを認識し、この理想に近づけるように自分を改善させていこうとした。 16.この理想を具体的にイメージし、少しでも近づける方法を模索、実行した。 17.その頃に持っていた理想を焦って求める必要はなかったので、より自分に近いものを理想とした。 18.この理想に近づきたいが、理想通りになれるかどうか悩み、どうしてよいか分からなかった。 19.過去よりも未来を見据え、この理想を実現させていこうとした。 20.この理想に近づけるように、他人のよいところを見本にして、自分の振る舞いを改善した。 21.より可能性があるものを、 「理想の自分像」とした。 22.物事を前向きに考えて、何とかこの理想に近づけるように努力した。 23.この理想に向かってその頃の自分ができることに、一つ一つ取り組んだ。 24.その頃に持っていた理想は自分に厳しすぎたので、より達成しやすい理想に切り替えた。 Ⅳ.自己成長力について 就職活動前の自己成長力が調査を行った時点の〈現在〉の自己成長力に与える影響を統制して分析 できるように、 〈就職活動前〉と〈現在〉のそれぞれの自己成長力について評定させた。 速水ら(1994)の尺度をもとにした浦上(1996)の自己成長力尺度から、今回の調査に合う 9 項目 を就職活動前と現在のどちらを回答する場合でも違和感のないように一部表現を変更して使用した。 さらに、信野(2008)の自己成長感尺度の自己信頼感因子のなかで高い因子負荷量を示す項目などを 参考にして、7 項目を新たに作成してともに用いた。『次にあげるそれぞれについて、就職活動をする 前のあなたと現在のあなたはどの程度あてはまりますか。最も近い数字に○をつけてください。』と 教示し、「1.全くあてはまらない」「2.ややあてはまらない」「3.ややあてはまる」「4.ぴったりあ てはまる」の 4 件法で回答を求めた。 (質問項目) 1.自分の生き方をより良いものにしていきたいと思う。 2.自分の能力を今よりも伸ばしたいと思う。 3.社会に出る覚悟を持つ。 4.自分の性格のどのようなところが優れているか、よく考える。 5.自分の生き方を今よりも良いものにするために積極的に努力する。 6.世の中の動きに関心を持つ。 7.自分の人生を切り開いていく自信や見通しを持つ。 8.人に負けたくないと思う。 9.ちょっとやそっとのことでは動じない精神力がある。 9 10.自分はどのような生き方をしたいのか、よく考える。 11.自分の能力を伸ばすために積極的に努力する。 12.物事に対して積極的に動く。 13.自分の性格のよい点をさらに伸ばしたいと思う。 14.自分の信念を持つ。 15.自分はどのような能力がすぐれているか、よく考える。 16.自分の性格をよくするために積極的に努力する。 Ⅴ.自己成長感について 神藤(1998)による自己成長感尺度を、一部表現を就職活動場面に合うように変更して 6 項目使用 した。 『次にあげるそれぞれについて、あなたの考えに最も近い数字に○をつけてください。』と教示 し、「1.全くあてはまらない」「2.ややあてはまらない」「3.ややあてはまる」「4.ぴったりあては まる」の 4 件法で回答を求めた。 (質問項目) 1.就職活動をすることによって自分が成長したように思う。 2.就職活動をする以前の自分よりも多くのことを知ることができたと思う。 3.就職活動をしても、勉強になることがなかったと思う。 4.就職活動をすることによって、世の中のことについて分からないことが減ったと思う。 5.就職活動をすることによって大人に近づいたと思う。 6.就職活動をすることによって、世界が変わって見えるようになったと思う。 10 【結果】 結果】 1.抽出された 抽出された理想自己像 された理想自己像について 理想自己像について まず、本研究において抽出された理想自己像の例を Table1 に示す。抽出された理想自己像は、 「考え をうまく人に伝えられる」 「多くの人脈を持てる」などのような社会との関わりに関するものが全体の約 40%、「常に成長していける」「バリバリ仕事ができる」など物事に対する取り組み姿勢に関するものが 約 40%、 「自信を持てる」 「自分の考えを持てる」など自己のあり方に関するものが約 14%と、大きく 3 つに分けることができた。特に「考えをうまく人に伝えることができる」というような理想自己像を挙 げる回答が多く、就職活動にはエントリーシートや面接などのように自分の考えを伝えなければならな い場面が数多くあることが、学生の就職活動中の理想自己像に影響を及ぼしているということがうかが える。また、自己のあり方よりも社会との関わりに関する理想自己像が多かったことから、これまで以 上に多くの人やモノと関わっていくようになり、学校から社会への移行とともに関心をもつ範囲も広が っていき、社会の中の自分という観点や職に就く自分をイメージした観点から理想自己を持ち就職活動 を行っていると考えられる。 Table1 本研究において抽出された理想自己の例 社会との関わりに関するもの 物事に対する取り組み姿勢に関す 自己のあり方に関するもの (約 40%) るもの(約 40%) (約 14%) ・考えをうまく人に伝えられる ・常に成長していける ・自信を持てる ・多くの人脈を持てる ・バリバリ仕事ができる ・自分の考えを持てる ・世の中に貢献できる ・積極的に物事に取り組む ・知識をつける など など など 11 2.理想自己 理想自己と 理想自己と現実自己との 現実自己とのズレ とのズレについて ズレについて 次に、就職活動中と現在のそれぞれのズレの度数分布を調べ Fig.1 に示した。現在も就職活動中で現在 の欄にだけ回答した学生は計 13 名であり、 「違っていない」と回答した者が 1 名、 「少し違っている」と 回答した者が 4 名、 「わりと違っている」と回答した者が 8 名いた。今後の分析に少しでも多くのデータ が必要なため、現在も就職活動中と答えた者も含めて分析した。 この結果から就職活動中に 8 割近くの学生が理想自己と現実自己とのズレを感じていたことが確かめ られた。梅村・金井(2006)の調査においても 81%の学生が理想自己と現実自己とのギャップを感じた と回答しており、今回の結果と一致する。 Fig.1 就職活動中と現在の理想―現実のズレの度数分布 さらに、クロス集計を行い、理想自己が就職活動中と現在の自分と「違っていなかった」と回答した 人を除いて理想自己と現実自己とのズレが就職活動中と現在で変化しているか調べた(Fig.2) 。ズレが小 さくなった人が 40.8%、ズレが変わらなかった人が 44.6%、ズレが大きくなった人が 14.6%であった。 Fig.2 ズレの変化 なお、今後の分析にはできるだけ多くのデータが必要なため、理想自己が就職活動中の自分と「違 っていない」と回答した人のデータも含めて使用した。 12 3.理想自己と 理想自己と現実自己と 現実自己とのズレの ズレの捉え方尺度の 尺度の因子分析結果 理想自己と現実自己とのズレの捉え方尺度の各項目の度数分布を Fig.3 に示した。全体的に、ほぼ正規 分布に近い形で分布しているものの、ズレに対してポジティブに捉えている内容の項目では「あてはま る」へ、ネガティブに捉えている内容の項目では「あてはまらない」へ回答が偏っている傾向がみられ た。この中で、項目 8、13、25、28 は「平均±0.5×標準偏差」が評定値の端である 1 よりも小さくなる 床効果がみられたので、これらの項目を除いて分析を行った。 Fig.3 ズレの捉え方 度数分布 13 主成分分析を行ったところ、負荷量の低かった項目 4 とα係数を下げていた項目 17 がみられたので、 この 2 項目を除いて再度主成分分析をし、プロマックス回転を施した。その結果、4 因子を抽出した (Table2) 。第 1 因子は「11.この理想の自分に近付くために、一つ一つのことに責任を持って取り組み たいと思っていた」などの項目の負荷量が高く、理想に近づきたいという意欲がみられる項目が多いこ とから「理想への前進意欲(α=.869)」と名付けた。第 2 因子は「1.この理想は、自分の目指すもの なので、ズレがあるからこそ頑張りたいと思っていた。 」などの項目の負荷量が高く、ズレを克服しよう という意識がある項目が多いことから「ズレ乗り越え意識(α=.820) 」と名付けた。第 3 因子は「7. この理想の自分に近付きたいが、もし近付けないとしたら自分はだめだと思っていた。」などの項目の負 荷量が高く、理想に近付けないときに自分を責める内容の項目が多いので「自己非難(α=.762) 」と命 名した。ただし、第 4 因子の項目については、因子負荷量の正負が想定していた意味と逆の方向で示さ れたため逆転措置を施して用い、逆転項目の「20.この理想の自分どおりになるのは難しいので、理想 どおりになるとは思わなかった。*」など理想へ執着している内容の項目が多いことから「理想への執着 (α=.678) 」と名付けた。 「理想への前進意欲」 「ズレ乗り越え意識」 「自己非難」においては.75 以上の 信頼性が確認された。 「理想への執着」は他と比べて信頼性係数が低いが、許容範囲内の値を示した。因 子間相関をみると、 「理想への前進意欲」と「ズレ乗り越え意識」が相関係数.52 というかなり正の関連 がみられ、「理想への前進意欲」と「理想への執着」 (相関係数.39) 、「ズレ乗り越え意識」と「理想への 執着」 (相関係数.33)にもやや正の相関がみられた。 14 Table2 ズレの捉え方 主成分分析結果 成分 共通性 1 2 3 4 11.この理想の自分に近付くために、一つ一つのことに責任を持って取り組みたいと思っていた。 .80 -.05 .03 .03 .62 6.この理想の自分になれるように心がけて、物事に接していきたいと思っていた。 .79 -.09 .11 .09 .68 18.この理想はその頃の自分とは違ったが理想へ至るための努力をし成長していきたいと思っていた。 .67 .32 -.10 -.26 .62 5.この理想があるからこそ、その頃の自分は前に進んでいきたいと思っていた。 .61 -.01 .03 .21 .52 26.この理想の自分と現実の自分とのズレを、自分自身の力で埋めていきたいと思っていた。 .58 .24 .03 .06 .59 23.この理想とその頃の自分にはズレがあったが、常に理想の自分を追求していきたいと思っていた。 .53 .27 .01 .17 .64 22.この理想の自分とのズレは自分がなりたい道を示してくれるので前向きに考えていきたいと思っていた。 .52 .36 -.21 -.03 .52 1.この理想は、自分の目指すものなので、ズレがあるからこそ頑張りたいと思っていた。 .07 .78 -.10 -.23 .57 15.自分が描く理想とその頃の自分がズレていたからこそ、ズレを埋めることを意識したいと思っていた。 .15 .70 .14 -.15 .63 14.物事を一つずつこなしていけば、ズレは埋められると思っていた。 -.03 .63 .09 .19 .53 10.理想とする自分とその頃の自分が違っているから、努力のしがいがあると思っていた。 .34 .57 -.15 -.07 .55 21.「今はたとえズレがあっても、できることをやっていけばズレはなくせる」と思っていた。 -.05 .51 .13 .40 .58 9.努力していけば、いつかは理想の自分になれると思っていた。 .17 .44 .01 .33 .56 7.この理想の自分に近づきたいが、もし近付けないとしたら自分はだめだと思っていた。 .03 -.11 .80 -.01 .61 24.もしいつまでたってもこの理想に近づけなかったとしたら、自分を責めただろう。 -.09 .04 .78 .12 .63 27.この理想の自分にその頃の自分が近づけていなかったとしたら自分を認めたくないと思っていた。 .36 -.40 .71 -.20 .63 12.この理想とその頃の自分があまりにも違ったとしたら、それは自分が怠けているせいだと思っていた。 -.02 .22 .60 .11 .52 19.自分が描いた理想どおりにいかないのは、自分の見通しが悪いからだと思っていた。 -.29 .38 .53 -.10 .40 2.この理想の自分よりも物事がうまくできなかったとしたら、それは自分に原因があると思っていた。 .03 .45 .46 -.20 .48 20.この理想どおりの自分になるのは難しいので、理想どおりになるとは思わなかった。* -.03 -.20 -.10 .89 .69 3.理想は理想。この理想には近づけなくても仕方がないと思っていた。* .15 -.07 .02 .70 .56 16.この理想と現実がズレていても気にしないので、特に何かをしようとは思わなかった。* .35 .03 .05 .43 .47 1 2 3 4 1 1.00 .52 .29 .39 2 .52 1.00 .27 .33 3 .29 .27 1.00 .19 4 .39 .33 .19 1.00 第 1 因子 理想への 理想への前進意欲 への前進意欲 α=.869 第 2 因子 ズレ乗 ズレ乗り越え意識 α=.820 第 3 因子 自己非難 α=.762 第 4 因子 理想への 理想への執着 への執着 α=.678 因子間相関 成分 *逆転措置を施して用いた項目 15 それぞれの成分の評定平均を算出し度数分布を調べたところ、「理想への前進意欲」(歪度-0.675)、「ズレ 乗り越え意識」 (歪度-0.487)、 「理想への執着」 (歪度-0.500)が高いほうへ大きく偏りを示した(Table3)。 このことから、理想自己と現実自己とのズレについて前向きな捉え方をしている人が多いといえる。また、 「自 己非難」は歪度 0.178 であり、それほど偏りはみられなかった。 Table3 ズレの捉え方 評定平均 理想への前進意欲 ズレ乗り越え意識 自己非難 理想への執着 平均値 3.10 2.87 2.45 4.04 SD 0.60 0.61 0.61 0.66 歪度 -0.675 -0.487 0.143 -0.500 就職活動中の理想自己と現実自己のズレを、質問紙で就職活動における理想自己が現実自己と「違っていた」 と回答した人を〈ズレ・無〉群、 「少し違っていた」と回答した人を〈ズレ・小〉群、 「わりと違っていた」と 回答した人を〈ズレ・中〉群、 「とても違っていた」と回答した人を〈ズレ・大〉群というように 4 群に分け、 ズレの捉え方との関連を一元配置分散分析で調べた(Table4)。「自己非難」とズレの差に主効果が見られ (F(3,155)=4.12,p<.01)、 「とても違っている」と回答した人の方が「少し違っていた」と回答した人よりも 自己非難が高い傾向があった。また、「理想への執着」因子とズレの差にも主効果が見られ(F(3,155)=3.93, p<.01)、 「違っていなかった」人の方が「少し違っていた」人、 「わりと違っていた」人よりも理想への執着が 高い傾向があった。 Table4 ズレの差とズレの捉え方との比較 理想への前進意欲 ズレ乗り越え意識 自己非難 理想への執着 理想 と現実 と のズ レ 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD ズレ・大 (31) 0.05 0.82 0.30 0.94 0.35 1.14 -0.03 1.04 ズレ・中 (46) 0.02 0.90 0.10 0.69 -0.02 0.75 -0.02 0.80 ズレ・小 (46) -0.07 1.02 0.02 0.94 -0.30 0.74 -0.11 0.88 ズレ・無 (36) 0.40 1.04 -0.05 1.24 0.31 1.20 0.56 1.11 F(3,155)=1.83 n.s. F(3,155)=0.83 n.s. F(3,155)=4.12 ズレ・大 ** F(3,155)=3.93 ズレ・小 ** ズレ・無 ズレ・小、 ズレ・無 ズレ・中 ※「ズレ・大」は「とても違っていた」、「ズレ・中」は「わりと違っていた」、「ズレ・小」は「少し違っていた」、 「ズレ・無」は「違っていなかった」を表す。 ** 1%水準で有意 16 4.理想自己と 理想自己と現実自己と 現実自己とのズレへの ズレへの対処尺度 への対処尺度の 対処尺度の因子分析結果 理想自己と現実自己とのズレへの対処尺度の各項目の度数分布を調べ Fig.4 に示した。全体的にほぼ正 規分布に近い形で分布しているが、 「12.その頃に持っていた理想よりも、努力をしなくてすむ理想を求 めた。」や「24.その頃に持っていた理想は自分に厳しすぎたので、より達成しやすい理想に切り替えた。 」 のように理想を変更しようとする内容の項目では「あてはまらない」という回答へ偏っている傾向がみ られた。しかし、夕井効果や床効果がみられる項目はなかったので、全 24 項目を使用した。 Fig.4 ズレへの対処 度数分布 主成分分析を行ったところ、項目 1、9、21 の負荷量が低かったため、これらを除いて再度主成分分析 を行った。プロマックス回転を施した結果、3 因子が抽出された(Table5) 。第 1 因子は「13.この「理 想の自分像」に近づくために、物事と誠実に向き合おうとした。 」などの項目の負荷量が高く、積極的に 理想へ近づこうとする内容が多かったため「理想への接近(α=.909) 」と命名した。第 2 因子は「24. その頃に持っていた理想は自分に厳しすぎたので、より達成しやすい理想に切り替えた。」などの項目の 負荷量が高く、理想の自分像を現実の自分に近いものに変えようとする内容が多かったため「理想の変 更(α=.776) 」と名付けた。第 3 因子は「18.この理想に近づきたいが、理想通りになれるかどうか悩 み、どうしてよいか分からなかった。」などの項目の負荷量が高く、ズレに対して何もできなかったり、 理想へ近づくことを諦めたりする内容が多かったことから「ズレからの 避(α=.746)」と命名した。 それぞれ許容範囲内の信頼性が確認された。因子間相関を見ると、「理想の変更」と「ズレからの 避」 17 が、相関係数.43 でかなり正の相関が見られた。 Table5 ズレへの対処 主成分分析結果 成分 共通性 1 2 3 13.この「理想の自分像」に近づくために、物事と誠実に向き合おうとした。 .80 .03 .03 .63 22.物事を前向きに考えて、何とかこの理想に近づけるように努力した。 .78 .08 -.06 .61 23.この理想に向かってその頃の自分ができることに、一つ一つ取り組んだ。 .78 .02 -.04 .62 15.自分の良くないところを認識し、この理想に近づけるように自分を改善させていこうとした。 .78 -.12 .34 .67 19.過去よりも未来を見据え、この理想を実現させていこうとした。 .74 .12 -.15 .56 10.この理想に近づくための第一歩として、「理想の自分像」に結びつくようなことをやってみた。 .73 .03 .02 .52 7.この理想を目指して、納得するまで現実の自分を変えようとしていた。 .70 .03 -.14 .53 16.この理想を具体的にイメージし、少しでも近づける方法を模索、実行した。 .70 .04 .06 .47 11.この「理想の自分像」に近づくために、日頃の行いを改めた。 .68 -.04 .10 .46 4.自分が理想としていることは絶対にできるという思いで、この理想に向かっていこうとした。 .65 -.05 -.16 .49 6.自分を励まし、次こそは成し遂げるよう頑張った。 .61 .19 -.25 .42 20.この理想に近づけるように、他人のよいところを見本にして、自分の振る舞いを改善した。 .54 -.40 .24 .48 24.その頃に持っていた理想は自分に厳しすぎたので、より達成しやすい理想に切り替えた。 .08 .80 .05 .66 12.その頃に持っていた理想よりも、努力をしなくてすむ理想を求めた。 .02 .78 -.17 .51 8.この理想は高すぎたので、より達成しやすい理想に切り替えた。 -.01 .68 .12 .55 17.その頃に持っていた理想を焦って求める必要はなかったので、より自分に近いものを理想とした。 .05 .60 .13 .43 3.この「理想の自分像」にはとてもなれなかったので、より妥当な「理想の自分像」に変えた。 .03 .57 .29 .54 18.この理想に近づきたいが、理想通りになれるかどうか悩み、どうしてよいか分からなかった。 .12 -.03 .82 .64 5.この理想の自分になりたいとは思うが、自分を変えるのは大変そうで頑張れなかった。 -.21 .09 .73 .70 14.なるべくこの理想に近づきたいと思っていても、心の中には諦めの気持ちがあった。 .00 .37 .54 .60 2.他のことをして、ズレの解決のことは忘れるようにした。 -.06 .29 .46 .42 1 2 3 1 1.00 -.19 -.13 2 -.19 1.00 .43 3 -.13 .43 1.00 第 1 因子 理想への 理想への接近 への接近 α=.909 第 2 因子 理想の 理想の変更 α=.776 第 3 因子 ズレからの ズレからの 避 α=.746 因子間相関 成分 18 各成分の評定平均を算出し度数分布を調べたところ、 「理想の変更」は歪度 0.444 となり低いほうへ偏 りを示したが、「理想への接近」と「ズレからの 避」はさほどの偏りは示さなかった(Table6)。この ことから、理想自己を変更する対処はあまりされていないことがわかる。梅村・金井(2006)の調査に おいても理想自己を現実自己に合わせて調 しようとする対処は他の対処に比べて少なく、今回の結果 と一致する。理想自己と現実自己との間にズレが生じていた場合、理想に近付こうとしたりズレから げようとしたりすることはあるが、理想を変更する対処はなされにくいのではないかと考えられる。 Table6 ズレへの対処 評定平均 理想への接近 理想の変更 ズレからの 避 平均値 2.94 1.91 2.10 SD 0.57 0.62 0.68 歪度 -0.166 0.444 0.269 就職活動中の理想自己と現実自己のズレを質問紙の回答から 4 群に分け、ズレへの対処との関連を一元配置 分散分析で調べた(Table7)。 「ズレからの 避」とズレの差に主効果が見られ(F(3,150)=4.32,p<.01)、 「と ても違っている」人の方が「違っていなかった」人よりもズレからの 避が高い傾向があった。 Table7 ズレの差とズレへの対処との比較 理想への接近 理想の変更 ズレからの 避 理想 と現実 と のズ レ 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD ズレ・大 (30) 0.24 0.74 0.00 1.00 0.38 0.94 ズレ・中 (44) -0.06 0.99 0.03 0.91 0.00 0.95 ズレ・小 (44) -0.11 0.92 0.00 0.97 0.02 0.94 ズレ・無 (36) 0.37 1.15 -0.23 0.99 -0.46 1.03 F(3,150)=2.29 n.s. F(3,150)=0.56 n.s. F(3,150)=4.32 ** ズレ・大 ズレ・無 ※「ズレ・大」は「とても違っていた」、「ズレ・中」は「わりと違っていた」、「ズレ・小」は「少し違っていた」、 「ズレ・無」は「違っていなかった」を表す。 ** 1%水準で有意 19 5.自己成長力の 自己成長力の主成分分析について 主成分分析について 〈就職活動前〉と〈現在〉の自己成長力尺度の各項目の度数分布を調べ Fig.5、Fig.6 にそれぞれ示し た。どちらも自己成長力が高い方へ偏っている傾向がみられた。その傾向は〈就職活動前〉よりも〈現 在〉の方が強くみられたことから、就職活動を通して自己成長力が高まっていると考えられる。 〈就職活動前〉の自己成長力の中で、「1.自分の生き方をよりよいものにしていきたいと思う」、「2. 自分の能力を今よりも伸ばしたいと思う」、 「8.人に負けたくないと思う」の項目は特に「ぴったりあて はまる」という回答が多く、他の項目と少し なる分布を示した。今後の人生に大きな影響を及ぼす就 職活動がせまっていることで、自分の生き方を良いものにしていきたいと考える学生が多いのではない か。また、希望する職に就くためにたくさんの学生の中から内定を得なければいけないという思いから、 「能力を伸ばしたい」「人に負けたくない」と思っている学生が多いのではないかと考えられる。 〈就職活動前〉と〈現在〉の自己成長力を比較すると、「1.自分の生き方をよりよいものにしていき たいと思う」、 「2.自分の能力を今よりも伸ばしたいと思う」、 「3.社会に出る覚悟を持つ」 「10.自分は どのような生き方がしたいのか、よく考える」 「13.自分の性格のよい点をさらに伸ばしたいと思う」の 項目が、 「あてはまる」と回答する人が増えていることから、就職活動を通して学生自身の生き方や性格・ 能力などをより良いものにしていこうとする気持ちを高め、社会に出る覚悟を持てる学生が増えている ことが示された。 Fig.5 自己成長力〈就職活動前〉 度数分布 20 Fig.6 自己成長力〈現在〉 度数分布 21 〈就職活動前〉と〈現在〉の自己成長力の主成分分析を行ったところ、それぞれ 2 因子を抽出した。 それぞれの因子が〈就職活動前〉でも〈現在〉でも同じ項目で構成されるように、因子ごとに共通する 項目を取り出して再度主成分分析を行い、プロマックス回転を施した(Table8、Table9) 。第 1 因子は「1. 自分の生き方をより良いものにしていきたいと思う。」などの項目の負荷量が高く「向上心(〈就職活動 前〉α=.786 〈現在〉α=.687)」と命名した。第 2 因子は「6.世の中の動きに関心を持つ。」など の項目の負荷量が高く「行動力(〈就職活動前〉α=.786 〈現在〉α=.709)」と命名した。信頼性係数 は許容できる値を示した。 Table8 〈就職活動前〉の自己成長力 主成分分析結果 成分 共通性 1 2 2.自分の能力を今よりも伸ばしたいと思う。 .91 -.14 .70 1.自分の生き方をより良いものにしていきたいと思う。 .89 -.10 .72 13.自分の性格のよい点をさらに伸ばしたいと思う。 .61 .16 .51 9.ちょっとやそっとのことでは動じない精神力がある。 -.33 .91 .62 7.自分の人生を切り開いていく自信や見通しを持つ。 .13 .66 .54 6.世の中の動きに関心を持つ。 .01 .65 .43 12.物事に対して積極的に動く。 .28 .63 .66 11.自分の能力を伸ばすために積極的に努力する。 .41 .53 .67 成分相関 .53 第 1 因子 向上心 α=.786 第 2 因子 行動力 α=.786 Table9 〈現在〉の自己成長力 主成分分析結果 成分 共通性 1 2 1.自分の生き方をより良いものにしていきたいと思う。 .86 -.11 .68 2.自分の能力を今よりも伸ばしたいと思う。 .81 -.05 .63 13.自分の性格のよい点をさらに伸ばしたいと思う。 .68 .12 .53 6.世の中の動きに関心を持つ。 -.28 .79 .55 11.自分の能力を伸ばすために積極的に努力する。 .17 .70 .60 9.ちょっとやそっとのことでは動じない精神力がある。 -.11 .66 .39 12.物事に対して積極的に動く。 .19 .65 .55 7.自分の人生を切り開いていく自信や見通しを持つ。 .19 .56 .42 成分相関 .35 第 因子 向上心 α=.687 第 2 因子 行動力 α=.709 22 「向上心」は、「能力を伸ばしたい」など前向きな内容の項目であることから、「理想に近づきたい」 というように同じく前向きな内容の項目が含まれているズレの捉え方尺度やズレへの対処尺度と てい ると思われるが、その点は〈就職活動前〉の「向上心」を統制して分析することである程度統制できる ものと考える。 評定平均を算出し度数分布を調べ Table10、Table11 に示した。 〈就職活動前〉 〈現在〉の「向上心」が ともに、高いほうに大きく偏りを示し(それぞれ歪度-0.789 -1.140)、〈現在〉の「行動力」も、高 いほうに大きく偏りを示した(歪度-0.435)。 〈就職活動前〉の「行動力」は、歪度 0.008 となり、さほ どの偏りは示さなかった。就職活動中の理想自己と現実自己のズレを質問紙の回答から 4 群に分け、自 己成長力との関連を一元配置分散分析で調べたところ、有意差は見られなかった(Table12)。 また、 大学、性別との関連を見るために t 検定を行ったところ、どちらも有意差は見られなかった。 Table10 就職活動前の自己成長感 評定平均 向上心 行動力 平均値 3.38 2.90 SD 0.60 歪度 -0.789 Table11 現在の自己成長感 評定平均 向上心 行動力 平均値 3.58 3.17 0.68 SD 0.49 0.52 0.008 歪度 -1.140 -0.435 Table12 ズレの差と自己成長力との比較 向上心 行動力 理想 と現実 と のズ レ 平均値 SD 平均値 SD ズレ・大 (30) 0.22 0.88 0.20 0.87 ズレ・中 (44) -0.13 1.17 -0.11 0.96 ズレ・小 (46) 0.01 0.84 0.03 1.04 ズレ・無 (35) 0.28 0.89 0.15 1.10 F(3,154)=1.75 n.s. F(3,151)=0.73 n.s. ※「ズレ・大」は「とても違っていた」、「ズレ・中」は「わりと違っていた」、「ズレ・小」は「少し違っていた」、 「ズレ・無」は「違っていなかった」を表す。 23 6.就職活動前の 就職活動前の自己成長力を 自己成長力を統制した 統制した自己成長力 した自己成長力と 自己成長力とズレの ズレの捉え方・対処との 対処との関連 との関連 〈就職活動前〉の自己成長力が〈現在〉の自己成長力に関連していることが考えられるので、この変 数を統制して、自己成長力とズレの捉え方および対処との関連を検討するために、 〈就職活動前〉の自己 成長力を共変量、ズレの捉え方および対処を 立変数とする共分散分析を行った。ズレの捉え方および 対処は因子得点をもとに 2 群に分けて分析に用いた。 まず、「向上心」とズレの捉え方においては、共分散分析の第 1 の前 である平行性の検定において、 〈就職活動前〉の「向上心」とズレの捉え方の各因子との べての因子を分析に 入した。第 2 の前 である回 互作用がいずれも有意でなかったため、す の有意性の検定においても、ズレの捉え方の各因 子のいずれの分析においても有意であったため共分散分析を行う意味が 付けられた。その中で主効果 がみられた因子は「理想への前進意欲」、 「ズレ乗り越え意識」、 「理想への執着」であった(Table13)。 「理 想への前進意欲」の主効果は F(1,171)=12.21 で 0.1%水準で有意、「ズレ乗り越え意識」の主効果は F(1,171)=8.99 で 1%水準で有意、 「理想への執着」の主効果は F(1,171)=9.16 で 1%水準で有意であっ た。 定 平均値の比較を行うといずれも高群が低群よりも〈現在〉の「向上心」が高いことが確か められた(Fig.7)。 次に、 「行動力」とズレの捉え方においても、平行性の検定でいずれも有意ではなく、回 の有意性の 検定でいずれの分析でも有意であったため、共分散分析を行う意味が 付けられた。 「理想への前進意欲」 の主効果は F(1,171)=5.67 で 5%水準で有意、 「理想への執着」の主効果は F(1,171)=6.10 で 5%水準で有 意であった(Table13)。 定 平均値の比較によると、どちらも高群が低群よりも〈現在〉の「行動 力」が高かった(Fig.7) 。 Table13 〈現在〉の自己成長力におけるズレの捉え方との共分散分析 Ⅰ.向上心 理想への前進意欲 ズレ乗り越え意識 自己非難 理想への執着 H(89) L(85) H(89) L(85) H(87) L(87) H(88) L(86) 平均 0.39 -0.38 0.34 -0.34 0.07 -0.05 0.41 -0.40 SD 0.72 1.10 0.77 1.09 1.02 0.98 0.68 1.10 (就職活動 F(1,171)= F(1,171)= *** 前)主効果 71.45 ズレ捉え方 F(1,171)= 94.57 F(1,171)= H>L 12.21 F(1,171)= *** 76.38 *** 主効果 F(1,171)= *** F(1,171)= ** H>L 8.99 *** 63.38 F(1,171)= n.s. 0.26 ** H>L 9.16 Ⅱ.行動力 平均 0.23 -0.22 0.16 -0.14 -0.05 0.08 0.28 -0.26 SD 0.96 0.95 1.07 0.85 1.02 0.94 0.98 0.90 (就職活動 F(1,171)= F(1,171)= *** 前)主効果 43.30 ズレ捉え方 F(1,171)= 44.36 *** H>L 5.67 0.1%水準で有意 24 F(1,171)= n.s. 0.39 * 5%水準で有意 *** 38.33 F(1,171)= n.s. 1.44 ** 1%水準で有意 F(1,171)= *** 47.59 F(1,171)= * 主効果 F(1,171)= *** * 6.10 ※「H」は高群、 「L」は低群を表す。 H>L Fig.7 ズレの捉え方と自己成長力との関連 「向上心」とズレへの対処においては、共分散分析の第 1 の前 である平行性の検定において、 〈就職 活動前〉の「向上心」とズレへの対処の各因子との平行性が確認され、第 2 の前 である回 の有意性 の検定もすべての因子が有意であり、共分散分析を行う意味が 付けられた。 「理想への接近」の主効果 が F(1,164)=20.40 で 0.1%水準で有意であり、「理想の変更」の主効果が F(1,165)=7.09 で 1%水準で有 意であった(Table14)。 定 平均値の比較を行うと、 「理想への接近」が高群の方が低群よりも〈現 在〉の「向上心」が高く、 「理想の変更」では低群の方が高群よりも〈現在〉の「向上心」が高かった(Fig.8)。 「行動力」とズレへの対処においても平行性の検定でいずれも有意ではなく、有意性の検定ですべて の因子が有意であったので、共分散分析を行う意味が 付けられた。主効果が見られたものは「理想へ の接近」のみであり、F(1,164)=10.06、1%水準で有意となり(Table14)、高群が低群よりも〈現在〉の 「行動力」が高かった(Fig.8)。 25 Table14 〈現在〉の自己成長力におけるズレへの対処との共分散分析 Ⅰ.向上心 理想への接近 理想の変更 ズレからの 避 H(85) L(82) H(82) L(86) H(84) L(83) 平均 0.44 -0.43 -0.31 0.34 -0.18 0.22 SD 0.65 1.09 1.08 0.77 1.02 0.92 〈就職活動前〉 主効果 ズレへの対処 主効果 F(1,164)=66.22 *** F(1,164)=20.40 *** H>L F(1,165)=69.57 *** F(1,165)=7.09 ** L>H F(1,164)=75.42 *** F(1,164)=0.32 n.s. Ⅱ.行動力 平均 0.29 -0.32 -0.17 0.16 -0.15 0.16 SD 0.94 0.94 1.01 0.94 0.98 0.97 〈就職活動前〉 主効果 ズレへの対処 主効果 F(1,164)=41.41 *** F(1,164)=10.06 ** *** 0.1%水準で有意 H>L ** 1%水準で有意 F(1,165)=45.66 *** F(1,164)=46.78 *** F(1,165)=2.09 n.s. F(1,164)=0.02 n.s. ※「H」は高群、 「L」は低群を表す。 Fig.8 ズレへの対処と自己成長力との関連 26 7.自己成長感の 自己成長感の主成分分析について 主成分分析について 自己成長感尺度の各項目の度数分布を調べたところ、自己成長感が高い方へ偏っている傾向がみられ た(Fig.9)。 「1.就職活動をすることによって自分が成長したように思う。 」「2.就職活動をする以前の 自分よりも多くのことを知ることができたと思う。 」は、他の項目に比べても特に「あてはまる」と回答 した人が多かった。逆転項目の「3.就職活動をしても、勉強になることがなかったと思う。」は「あて はまらない」に偏っている傾向が見られ、「平均±0.5×標準偏差」が評定値の端である 1 よりも小さく なる床効果がみられたので、これを除いた 5 項目で分析を行った。 Fig.9 自己成長感 度数分布 主成分分析を行ったところ、 「自己成長感」の 1 成分が抽出された(Table15)。 積寄与率は 52.08% であった。信頼性係数は.758 となり、内的 合性に問題はないといえる。 Table15 自己成長感 主成分分析結果 成分 共通性 1 自己成長感 α=.758 1.就職活動をすることによって自分が成長したように思う。 .79 .63 5.就職活動をすることによって大人に近づいたと思う。 .75 .57 6.就職活動をすることによって、世界が変わって見えるようになったと思う。 .75 .56 2.就職活動をする以前の自分よりも多くのことを知ることができたと思う。 .72 .52 4.就職活動をすることによって、世の中のことについて分からないことが減ったと思う。 .58 .34 積寄与率(%) 52.08 27 評定平均を算出し度数分布をみると、歪度-0.557 と高いほうに大きく偏りを示した(Table16) 。就職 活動中の理想自己と現実自己のズレを質問紙の回答から 4 群に分け、自己成長感との関連を一元配置分散分析 で調べたところ、有意差は見られなかった(Table17)。 大学、性別との関連を見るために t 検定を行ったところ、どちらも有意差は見られなかった。 Table16 自己成長感 評定平均 平均値 3.08 SD 0.55 歪度 -0.557 Table17 ズレの差と自己成長感との比較 自己成長感 理想 と現実 と のズ レ 平均値 SD ズレ・大 (30) 0.40 0.99 ズレ・中 (46) -0.07 0.80 ズレ・小 (46) 0.11 0.89 ズレ・無 (36) -0.01 1.08 F(3,151)=1.54 n.s. ※「ズレ・大」は「とても違っていた」、「ズレ・中」は「わりと違っていた」、「ズレ・小」は「少し違っていた」、 「ズレ・無」は「違っていなかった」を表す。 28 8.自己成長感と 自己成長感とズレの ズレの捉え方およびズレ およびズレへの ズレへの対処 への対処との 対処との関連 との関連 まず、ズレの捉え方の各成分を因子得点からそれぞれ 2 群に分け、自己成長感を従 変数とする t 検 定を行った。 「理想への前進意欲」は t(179)=-2.54 で 5%水準で有意、 「ズレ乗り越え意識」は t(179)=-3.28 で 1%水準で有意、 「自己非難」は t(179)=-2.06 で 5%水準で有意、 「理想への執着」は t(179)=-2.87 で 1% 水準で有意であった(Table18)。 「理想への前進意欲」 「ズレ乗り越え意識」 「自己非難」 「理想への執着」 がそれぞれ高いほど自己成長感が高いことが示された(Fig.10) 。 Table18 捉え方の差と自己成長感との比較 自己成長感 理想への前進意欲 ズレ乗り越え意識 自己非難 理想への執着 ** 1%水準で有意 平均値 SD 高群(91) 0.19 0.94 低群(90) -0.18 1.03 t(179)=-2.54 * 高群(90) 0.25 0.93 低群(91) -0.23 1.01 t(179)=-3.28 ** 高群(90) 0.16 0.95 低群(91) -0.14 1.03 t(179)=-2.06 * 高群(90) 0.22 0.93 低群(91) -0.2 1.03 t(179)=-2.87 ** * 5%水準で有意 Fig.10 ズレの捉え方と自己成長感との関連 29 ズレへの対処の各成分を因子得点からそれぞれ 2 群に分け、自己成長感を従 変数とする t 検定を行 った。有意な主効果がみられたのは「理想への接近」のみであり、t(173)=-5.51 で 0.1%水準で有意であ った(Table19)。 「理想への接近」の高い者ほど、自己成長感が高いことが示された(Fig.11)。 Table19 対処の差と自己成長感との比較 自己成長感 理想への接近 理想の変更 ズレからの *** 避 平均値 SD 高群(87) 0.40 0.81 低群(88) -0.37 1.03 t(173)=-5.51 *** 高群(87) -0.02 0.93 低群(88) 0.04 1.07 t(173)=0.38 n.s. 高群(87) -0.09 0.95 低群(87) 0.12 1.05 t(172)=1.37 n.s. 0.1%水準で有意 Fig.11 ズレへの対処と自己成長感との関連 30 自己成長感とズレの捉え方およびズレへの対処との関係をヌアソンの相関係数によって検討した (Table20、Table21)。まず、ズレの捉え方との関係ではすべての因子と自己成長感との間で有意な正の 相関が見られた。しかし、 「自己非難」においては相関係数が.18 と有意ではあるものの い相関であっ た。また、ズレへの対処と自己成長感の関係では「理想への接近」との間に有意な正の相関が見られた。 しかし、「理想の変更」「ズレからの 避」には有意な相関は見られなかった。 Table20 ズレの捉え方と自己成長感との相関 ズレへの対処と自己成長感との相関 Table21 自己成長感 理想への前進意欲 自己成長感 理想への接近 0.31 0.39 ** ズレ乗り越え意識 ** 理想の変更 0.42 -0.01 ** 自己非難 n.s. ズレからの 0.18 避 -0.09 * 理想への執着 n.s. 0.24 ** 1%水準で有意(両側) ** ** 1%水準で有意(両側) * 5%水準で有意(両側) さらに、自己成長感に対してズレの捉え方を説明変数とした重回 分析を行い Table22 に示した。調 浞み決定係数が.18、F(4,176)=10.90、回 式が 0.1%水準で有意であった。多重共 性に関しては、 許容度が 0.1 を下回るものがなかったので問題はないと思われる。「ズレ乗り越え意識」のみが 0.1%水 準で有意となり、 =.33 を示した。 つづいて、自己成長感に対してズレへの対処を説明変数とした重回 分析を行い Table23 に示した。 調 浞み決定係数が.15、F(3,171)=11.28、回 式が 0.1%水準で有意であった。多重共 性の では、 許容度が 0.1 を下回るものがなかったため問題はないと思われる。「理想への接近」のみが 0.1%の有意 水準に達し、 Table22 =.40 を示した。 ズレの捉え方についての重回 分析 Table23 ズレへの対処についての重回 自己成長感 自己成長感 理想への前進意欲 .09 n.s. 理想への接近 .40 *** ズレ乗り越え意識 .33 *** 理想の変更 .11 n.s. 自己非難 .05 n.s. -.09 n.s. 理想への執着 .08 n.s. 調 *** 分析 浞み決定係数 ズレからの 調 *** .18 0.1%水準で有意 31 避 浞み決定係数 0.1%水準で有意 .15 【考察】 考察】 就職活動における理想自己と現実自己とのズレについて「理想に近づきたい」 「ズレを埋めたい」とい うような前向きな捉え方をしているほど、就職活動後の自己成長が高いことが明らかとなった。自己成 長力では行動力よりも向上心の方がその傾向が強いことが示された。一 とよりも行動することは 難であると 的にも、意欲・関心をもつこ われているが、実際に行動として実行に移すことが求められる 行動力は理想のズレおよび対処との関係のなかでは変容しにくいと考えられる。 また、特に理想に執着せず諦める捉え方をしている人ほど、向上心が低い傾向がみられた。安藤(2007) の保育 期大学生を対象とした研究においても、希望していた保育職をあきらめるという洑極的な進 路変更をした学生は、保育職への希望を持ち けている学生と比べて無気力感が高いことを示している ことからも、理想とする自分に近づくのを諦めることが、自分を高めようとする態度や何かを成し遂げ ようとする意欲と負の関係にあることが確かめられた。 ズレに対する捉え方の中で自己評価を下げるもととも考えられる自己非難は、自己成長力とは関連が 見られなかった一方、自己成長感においては捉え方尺度の他の因子と比べて低い値ではあるが、自己非 難が高いほど自己成長感が高い傾向がみられた。水間(2003)は、自己に対する否定的感情から自己形 成へとつながる可能性を指摘したが、今回の結果はそれを一部 持するものとなった。水間(2003)は、 否定的自己の変容志向は、自己内 が 分にできるもの、特に否定性にも直視しながら自分の問題に向 き合えるものにおいて可能となることを示しているが、自分を責めるだけでなく就職活動の期間を通し て自分自身の問題としっかり向き合うことができたときに、就職活動後の「成長できた」という実感に つながるのではないかということが示唆される。 ズレへの対処についても、ズレの捉え方と同 に、理想へ近付く方向での対処をしている人ほど、自 己成長力、自己成長感ともに高い傾向がみられた。加えて、ズレをどのように捉えているかよりもどの ように対処するかのほうが就職活動後の自己成長の高さに関連が大きいことが明らかになった。意欲を 持つよりも、行動を こす方が難しいとされていることは先ほども述べたが、行動することが難しいか らこそ、実際にズレを埋める対処をすることによって、より自己成長が高くなることに 昚されている のではないかと考えられる。また、理想を変更する対処をしない人ほど向上心が有意に高いことが示さ れたが、行動力や自己成長感においては理想を変更するかどうかによって有意な差はみられなかった。 理想自己に執着することについては、 うつや え きなどの 理的側面も考えられ、精神的 の 観点からみると、 「あきらめや り合いをつける姿勢」は精神的安定やゆとり感につながることも示され ている(高井,2011)。しかしながら、坂本(2001)が現 の悩みや心配事を持たない青少年に対して、 「いくら頑張ったってかなわない、無理をせずに自分の現在の力に合うところに適当にいよう、という ような自分の可能性に対するあきらめの に上手に適応して ストレスの多い現 地を感じる」と述べ、ストレスをためないために与えられた な生き方をしようとしている人が増えていることや、そのような 社会が青少年に教えた生きる でもあると指摘している。今回、理想へ執着する人 ほど向上心が高いことが示されたことから、 「諦める」ということの精神的 面ばかりに着目し、容昒 に自分の理想像に近づくことを諦めてしまうことは、青年が自己成長力を高めることを あるといえるだろう。理想と現実の自分との間のズレに 諦めずに理想に向かって進むことが自己成長を な生き方は する れが ち込んだり、悩んだりすることがあっても、 進させ、就職活動を通して得た自分を高めていこうと 32 する力や成長できたという実感がさらに就職活動後のキャリアにとっても肯定的な影響を与えるだろう と考えられる。 今回の調査では、対象者が日ごろどのような考え方で物事をとらえているかということは調査してい ない。しかし、日頃から何事も前向きにとらえている人は自分の成長についてもポジティブにとらえ、 日頃からネガティブな考え方の人よりも高いほうへ評定することも考えられる。そのような前向きな捉 え方や対処ができるようになるためには、就職活動の時点よりも以前の経験や育ってきた って などによ われてきたその人自身のドーソヂリティや日ごろから物事に対してどのような考え方をしている かが影響してくるだろう。 (2010)は、高ストレス下でも 気にならない人が持つ性格特性であるデ ーディネスの下 尺度のコントローャ(個人が出来事の のように行動し けようとすること)が、日常的な経験や、容昒に達成できるような克服経験を積むこ とで高められ、コミットメント(たとえ 事と関わりを持ち 難な 移に対して影響を与えられると信じ、またそ 沦になろうともその場にとどまり、 囲の人々や出来 けること)は、重要なネガティブな出来事を克服することで高められる可能性を示 唆していることから、物事をどのように捉えるかは経験によって高められるといえるだろう。また、文 部 学 中多教育 会の答 (2007)では、意欲はあるが行動に移すことができない青少年について、 目指す成果が得られるような行動がとれないため、 る意欲が持ちにくくなるとともに、行動の びや達成感、充実感や成長実感が得られず、更な としての意欲を持つこと自体や、意欲の対象を否定してし まうこともあり得ると述べられている。そのような青少年への 合は、そもそも行動した体験が少なく目標達成のための手 め、達成しやすく成 実感の得られやすい、比較的 に教えながら達成させ、成 実感を得させた上でより が大切であると指摘している(文部 学 中多教育 として、行動への負 感が大きい場 をあまり持っていないことが 想されるた 難度の低い目標を設定し、その達成方 を具体的 難度の高い目標を達成できるよう すること 会,2007) 。対象者のドーソヂリティなど個人差 の部分を今後はさらに検討する必要がある。 また、今回の結果から、ズレの大きさによってズレの捉え方および対処に一部違いが見られた。しか し、本研究では、理想自己像を一つに限定しており、ズレについても 1 項目しか捉えることができてい ないことに加えて対象者数が少なかったため、ズレの大きさによって、ズレの捉え方および対処にどの ような関連があるのかについて しく検討することができなかった。今後は、理想自己像の種顜や 沦、 時期による違いなども含めてズレの大きさがズレの捉え方やズレへの対処にどのように関連しているの かについても明らかにしていくことが必要である。 33 【引用文献 引用文献】 文献】 足立明 1988 進路発達における自己実現の過程と構 ―メタ認知的考察― 進路指導研究,9 9, 19-27 足立明 1995 職業的自己実現と職業的同一性の各概念の具体化―進路の指導と相 の実 的方法論 のために― 進路指導研究,16 16,1-9 16 安藤 高 2007 保育 一 遠藤由 期大学生の就職動機づけに対して自 性欲求・進路変更が及ぼす影響 女子 期大学 要,46 46,71-78 46 1992 自己認知と自己評価の関係―重みづけをした理想自己と現実自己の差 スコアからの 検討― 教育心理学研究,40 40,157-163 40 速水 ・西田保・坂柳 夗 1994 自己成長力に関する研究 名 みどり・無藤 2005 中学生における精神的 大 教育 部 要,41 41,9-24 41 とレジリエンスおよびソーシャャ・サポートと の関連 教育心理学研究,53 53,356-367 53 泉水浜志 2008 女子 大生における進路選択と進路指導―自己成長力と進路決定自己効力からの 検討― 育 期大学研究 要,25 25,33-43 25 梶田 一 1988 自己意識の心理学〔第 2 姜信 ・相川一 〕朁 大学出 2009 理想自己と現実自己とのズレにおけるとらえおよび対処について―アイデン ティティ・ステイタスの差による検討― 山大学人間発達 学部 要,4 4,1-20 水間 子 1998 理想自己と自己評価及び自己形成意識との関連について 教育心理学研究,46 46, 46 131-141 水間 子 2003 自己 悪感と自己形成の関係について―自己 悪場面で される自己変容の志向に 泃目して― 教育心理学研究,51 51,43-53 51 溝上 一 1997 自己評価の規定要因と SELF-ESTEEM との関係―個性記述的観点を考慮する方法と しての外在的視点・内在的視点の関係― 教育心理学研究,45 45,62-70 45 文部 学 中多教育 中島由 ・無藤 姗 会 2007 「次 を う自立した青少年の育成に向けて」(答 ) 2007 女子学生における目標達成プロセスとしての就職活動―コントローャ方略を としたキャリア志向と就職達成の関係― 教育心理学研究,55 55,403-413 55 Rogers,C.R. 1951 Client-Centered Therapy : Its current practice, implications and theory. Boston : Houghton Mifflin Company. Rogers,C.R. 1959 A Theory of Therapy, Personality, and Interpersonal Relationships, as developed in the Client-Centered Framework. In S. Koch (Ed.), Psychology ; A Study of a Science, vol. 3. Formulation of the Social Countext. New York : McGraw-Hill. Pp.184-256 坂本 由 2001 現 の青少年の現 と青少年を取り く 研究―アンビシャスな青少年を育てるには― ; 21 世 における青少年育成に関する 妅 研究 Pp.6-10 神藤 昧 1998 中学生の学業ストレッサーと対処方略がストレス 応および自己成長感・学習意欲に 与える影響 教育心理学研究,46 46,442-451 46 子 2010 大学生のデーディネスとコーヌング,ライフイベントの関連の検討 生活 学研究,32, 32 37-47 34 高井範子 2011 ポジティブな生き方態度の形成要因に関する検討―青年期から高 期を対象として― 外成学 大学 要,13 13,79-90 13 髙村和 1997 課題探求時におけるアイデンティティの変容プロセスについて 教育心理学研究,45, 45 243-253 浦上 則 1996 就職活動を通しての自己成長―女子 大生の場合― 教育心理学研究,44 44,400-409 44 梅村 子・金井 子 2006 就職活動における理想と現実の統合過程に関する探索的研究―理想自己と 現実自己・現実 沦の関連から― 経 行動 学,19 19,151-162 19 山田ゆかり 1996 青年期における自己概念―職業的同一性確立との関連性について― 名 期大学 要,21 21,29-36 21 35 文理 本研究の実施にあたり、協力してくださった先生方、および学生の皆さんに く また、長きにわたって し上げます。 にご指導いただきました本学部教授、若松養亮先生に心より感 いたします。 36 付 (質問紙) 「就職活動についての調査」 37 ※このアンケートの「就職活動」とは、あらかじめ単一の専門的な職業にしぼって活動を行 うことではなく、複数の職種・業種の中から、情報を集めたり自己分析をしたりしながら活 動を行うことを指しています。 ①まず、あなたの性別を記入してください。 性別〔 ※就職活動の開始時期の目安はエントリー、説明会への参加など。 ( 今回、卒業論文のための調査を行うことになりました。この調査は、就職活動につ いての研究のためのものです。そこで、就職活動を経験された皆さんから率直なあり のままの声を聞きたいと思っていますので、ご協力よろしくお願いします。 〈1〉から〈8〉の( 心して心に浮かんだままを答えてください。 )月頃~( )年( )月頃 )に○をつけてください。(いくつでも) 〈1〉( )メーカー 〈2〉 ( )商社 〈3〉( )百貨店・ストア・専門店 〈4〉 ( )金融・証券・保険 〈5〉( )通信 〈6〉 ( )マスコミ 〈7〉( )ソフトウェア・情報処理 〈8〉 ( )サービス ④あなたが就職活動にもっとも力を入れたのはいつ頃ですか。 ※就職活動を経験された方でしたら、5 回生以上の方も記入をお願いします。 ( 4 回生 )年( ③あなたが就職活動中に希望していた業種について伺います。 なお、この調査は研究のためのものだけですので、データはまとめて統計的に処理 されます。あなた個人の考えが他人に知られるということは一切ありませんので、安 学校心理コース 女 〕 ②あなたが就職活動をしていた時期はいつ頃ですか。 就職活動についての調査 滋賀大学教育学部 男 ・ )年( )月頃 ⑤あなたは現在、就職先が決定していますか。 松井誉子 〔決定した・決定していない・迷っている〕 ⑥ ⑤で「決定した」に○をつけた人にお尋ねします。 あなたは決定した就職先に満足していますか。 〔とても満足している・わりと満足している・満足していない〕 *それでは質問を始めます。 あなたが心に思ったままを書いたり答えたりしてください。 1 Ⅰ. (1)就職活動を経験したみなさんは、就職活動をしている中で、能力や性格など内面 (2)(1)で答えた「理想の自分像」と就職活動中のあなた、現在のあなたはそれぞれど 的なことで「こうなりたい」と思う理想の自分があったと思います。 その中でも、あなたが長い間気にしていた「理想の自分像」を 1 つ書いてください。 以下の例から書いてくださっても構いません。 の程度違っていると感じていますか。最もあてはまる数字に○をつけてください。 現在も就職活動中の人は〈現在〉の欄だけで構いません。 〈就職活動中〉 違 って いな い 少 し違 って いる 例) わ りと違 って いる 4-3-2-1 すご く違 って いる 違 って いな か った になりたいと就職活動をしている時に思っていた 少 し違 って いた 〕 わ りと違 って いた すご く違 って いた 〔 〈現在〉 4-3-2-1 (3)あなたにとって、この「理想の自分像」はどの程度重要でしたか。 〔とても重要だった・わりと重要だった・重要ではなかった〕 仕事がもっとできるようになりたいと思っていた 人とうまく関わることができるようになりたいと思っていた 積極的に物事に取り組めるようになりたいと思っていた 常に成長していけるようになりたいと思っていた (4)就職活動期間の中で、(1)で答えた理想の自分を最も気にしていた時期は いつ頃でしたか。 ( )年( )月頃 人から尊敬されるようになりたいと思っていた 世の中に貢献できるようになりたいと思っていた くよくよしないようになりたいと思っていた 多くの人脈を持てるようになりたいと思っていた 自分の考えをうまく人に伝えられるようになりたいと思っていた (5)あなたは就職活動においてどの程度苦労したと感じていますか。 〔とても苦労した・わりと苦労した・苦労していない〕 2 Ⅱ.あなたは就職活動で(比較的)苦労していた頃、Ⅰの(1)で書いた理想についてどのように捉えていましたか。 4-3-2-1 2. この理想の自分よりも物事がうまくできなかったとしたら、それは自分に原因があると思っていた。 4-3-2-1 3. 理想は理想。この理想には近づけなくても仕方がないと思っていた。 4-3-2-1 4. 日々この理想を目指していけば、理想の自分になれると思っていた。 4-3-2-1 5. この理想があるからこそ、その頃の自分は前に進んでいきたいと思っていた。 4-3-2-1 6. この理想の自分になれるように心がけて、物事に接していきたいと思っていた。 4-3-2-1 7. この理想の自分に近づきたいが、もし近付けないとしたら自分はだめだと思っていた。 4-3-2-1 8. ズレがあっても気にとめないので、何も行動しなくても良いと思っていた。 4-3-2-1 9. 努力していけば、いつかは理想の自分になれると思っていた。 4-3-2-1 10. 理想とする自分とその頃の自分が違っているから、努力のしがいがあると思っていた。 4-3-2-1 11. この理想の自分に近付くために、一つ一つのことに責任を持って取り組みたいと思っていた。 4-3-2-1 12. この理想とその頃の自分があまりにも違ったとしたら、それは自分が怠けているせいだと思っていた。 4-3-2-1 13. この理想が高すぎるから、その頃の自分には理想通りのことができなくてもかまわないと思っていた。 4-3-2-1 14. 物事を一つずつこなしていけば、ズレは埋められると思っていた。 4-3-2-1 15. 自分が描く理想とその頃の自分がズレていたからこそ、ズレを埋めることを意識していきたいと思っていた。 4-3-2-1 16. この理想と現実がズレていても気にしないので、特に何かをしようとは思わなかった。 4-3-2-1 17. 地道にこつこつ頑張ることで、この理想の自分像に近づいていけると思っていた。 4-3-2-1 18. この理想はその頃の自分とは違ったが、理想へ至るための努力をし、成長していきたいと思っていた。 4-3-2-1 19. 自分が描いた理想どおりにいかないのは、自分の見通しが悪いからだと思っていた。 4-3-2-1 20. この理想どおりの自分になるのは難しいので、理想どおりになるとは思わなかった。 4-3-2-1 21. 「今はたとえズレがあっても、できることをやっていけばズレはなくせる」と思っていた。 4-3-2-1 22. この理想の自分とのズレは自分がなりたい道を示してくれるので、前向きに考えていきたいと思っていた。 4-3-2-1 23. この理想とその頃の自分にはズレがあったが、常に理想の自分を追求していきたいと思っていた。 4-3-2-1 24. もしいつまでたってもこの理想に近づけなかったとしたら、自分を責めただろう。 4-3-2-1 25. この理想の自分に近づくのは、不可能だと思っていた。 4-3-2-1 26. この理想の自分と現実の自分とのズレを、自分自身の力で埋めていきたいと思っていた。 4-3-2-1 27. この理想の自分にその頃の自分が近づけていなかったとしたら、自分を認めたくないと思っていた。 4-3-2-1 28. この理想の自分を求めても、理想は自分から遠いものだから、なれるわけがないと思っていた。 4-3-2-1 3 全くあ てはまらな い ややあ てはまらな い あるからこそ頑張りたいと思っていた。 ややあ てはまる 1. この理想は、自分の目指すものなので、ズレ(現実の自分との間の違い;以下同じ)が ぴ ったりあ てはまる 次にあげるそれぞれについて、最も近い数字を○でかこんでください。 .あなたは就職活動で(比較的)苦労していた頃、Ⅰの(1)で書いた理想と、現実のあなたとのズレについて どのようにしようとしましたか。次にあげるそれぞれについて、最も近い数字を○でかこんでください。 のことをして、ズレの 的な を通して した。 4-3-2-1 のことは れるようにした。 4-3-2-1 3. この「理想の自分像」にはとてもなれなかったので、より 4. 自分が理想としていることは 5. この理想の自分になりたいとは思うが、自分を えるのは 6. 自分を まし、次こそは成し げるよう頑張った。 4-3-2-1 7. この理想を目指して、 4-3-2-1 8. この理想は高すぎたので、より 成しやすい理想に り えた。 4-3-2-1 9. ズレをなくそうと って頑張るか、何もせず めるか、 方を考えて んだ。 4-3-2-1 な「理想の自分像」に えた。 4-3-2-1 にできるという思いで、この理想に向かっていこうとした。 4-3-2-1 そうで頑張れなかった。 するまで現実の自分を えようとしていた。 10. この理想に近づくための 一 として、 「理想の自分像」に つくようなことをやってみた。 4-3-2-1 4-3-2-1 11. この「理想の自分像」に近づくために、日頃の行いを めた。 4-3-2-1 12. その頃に持っていた理想よりも、努力をしなくてす 理想を求めた。 4-3-2-1 13. この「理想の自分像」に近づくために、物事と 実に向き おうとした。 4-3-2-1 14. なる くこの理想に近づきたいと思っていても、心の には めの気持 があった。 4-3-2-1 15. 自分の良くないところを認識し、この理想に近づけるように自分を 4-3-2-1 16. この理想を 的に゜ベヴグし、 しでも近づける方 を 17. その頃に持っていた理想を って求める させていこうとした。 、実行した。 4-3-2-1 はなかったので、より自分に近いものを理想とした。 18. この理想に近づきたいが、理想通りになれるかどうか み、どうしてよいか分からなかった。 19. よりも を見 え、この理想を実現させていこうとした。 20. この理想に近づけるように、 全くあ てはまらな い 2. な 識を、 などの ややあ てはまらな い この理想の実現のために ややあ てはまる ぴ ったりあ てはまる 1. のよいところを見 にして、自分の る いを 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 した。 4-3-2-1 21. より可能 があるものを、 「理想の自分像」とした。 4-3-2-1 22. 物事を前向きに考えて、何とかこの理想に近づけるように努力した。 4-3-2-1 23. この理想に向かってその頃の自分ができることに、一つ一つ取り組んだ。 4-3-2-1 24. その頃に持っていた理想は自分に しすぎたので、より 成しやすい理想に り えた。 4-3-2-1 4 .次にあげるそれぞれについて、就職活動をする前のあなたと現 のあなたはどの あてはまりますか。 最も近い数字に○をつけてください。 就職活動前 現 全くあ てはまらな い ややあ てはまらな い ややあ てはまる ぴ ったりあ てはまる 全くあ てはまらな い ややあ てはまらな い ややあ てはまる ぴ ったりあ てはまる 1. 自分の き方をより良いものにしていきたいと思う。 4-3-2-1 4-3-2-1 2. 自分の能力を今よりも ばしたいと思う。 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 力がある。 4-3-2-1 4-3-2-1 10. 自分はどのような き方をしたいのか、よく考える。 4-3-2-1 4-3-2-1 11. 自分の能力を ばすために 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 4-3-2-1 3. に る を持つ。 4. 自分の 5. 自分の き方を今よりも良いものにするために 6. 7. のどのようなところが れているか、よく考える。 的に努力する。 の の動きに 心を持つ。 自分の を り いていく自 や見通しを持つ。 8. に けたくないと思う。 9. ょっとやそっとのことでは動じない 12. 物事に して 的に努力する。 的に動く。 13. 自分の のよい をさらに ばしたいと思う。 4-3-2-1 4-3-2-1 14. 自分の を持つ。 4-3-2-1 4-3-2-1 15. 自分はどのような能力がす れているか、よく考える。 4-3-2-1 4-3-2-1 16. 自分の 4-3-2-1 4-3-2-1 をよくするために 的に努力する。 5 .次にあげるそれぞれについて、あなたの考えに最も近い数字に○をつけてください。 就職活動をすることによって自分が成長したように思う。 4-3-2-1 2. 就職活動をする以前の自分よりも くのことを ることができたと思う。 4-3-2-1 3. 就職活動をしても、 4-3-2-1 4. 就職活動をすることによって、 の のことについて分からないことが ったと思う。 4-3-2-1 5. 就職活動をすることによって 4-3-2-1 6. 就職活動をすることによって、 になることがなかったと思う。 に近づいたと思う。 が わって見えるようになったと思う。 以 で は わりです。 力ありがとう 6 4-3-2-1 いました 全くあ てはまらな い ややあ てはまらな い ややあ てはまる ぴ ったりあ てはまる 1. 新生児マウス 新生児マウスにおける マウスにおけるバージン におけるバージン雄 バージン雄の選好に 選好に及ぼす 父親の 父親の唾液と 唾液と尿の刺激効果 8185 山口恵里佳 【問題と 問題と目的】 目的】 親子関係においては、多くの研究が母子関係に着目し、研究を進めてきた。その理由に は、哺乳類の性質がある。哺乳類の子は、母親から母乳を受け取って初めて、生命を維持 し、成長することが可能となる。つまり、哺乳類の子にとって、母親はなくてはならない 存在なのである。しかしながら、父親もまた、子の生存・発達において重要な役割を果た すことが、近年明らかになってきた。父親的行動は、子において、攻撃と攻撃に関連する 神経基質の発達に影響を及ぼす(Frazier, Trainor, Cravens, Whitnney & Marler, 2006)。 また、一雌一雄制の哺乳類において、父親的行動は子の生存率を高める(Gubernick & Teferi, 2000)。さらに、一雌一雄制のげっ歯類は、ほとんどが高いレベルの父親的世話を行い(Young, Wang & Insel, 1998)、カリフォルニアマウスにおいては、父親のグルーミングが新しい対 象の認識における発達を促進する(Bredy, Lee, Meaney & Brown, 2004)。父親が母親と同様 子の養育に関与していることが明らかとなってきた現在、父子関係に着目して研究を行う べきである。 親子関係における先行研究の多くは、親の行動に重心を置いてきた。なぜなら、新生児 には、以前受け取った刺激を記憶する能力がないと考えられてきたためである。しかし、 児玉(2003)は、マウスの胎児が母親の体毛と羊水のにおいに反応し、開口運動と頭部の 上下伸展運動を増加させることを見出した。また、Schaal et al.(1995)は、ヒトの新生児 が母親の羊水にひきつけられることを明らかにした。これらの研究は、新生児、胎児が、 刺激を記憶する能力を有していることを示すものである。このことは、子の行動からの親 子関係の検討が可能であることを意味している。親子関係は、親の働きかけと、それに応 じる子の働きかけがあって初めて成立する。親子関係のメカニズムを明らかにするために は、親の行動だけでなく、子の行動からの親子関係の検討が必要である。 子の行動から父子関係を検討したものが、山本(2007)と児玉(2008)の研究である。 この研究で、新生児マウスが父親と母親を選好する際には、母親を選好するが、父親に対 してもある程度選好を示すことが明らかとなった。また、仁波(2007)は、新生児マウス が父親とそれ以外の雄とを区別することを指摘した。これらの研究の共通点は、父親を刺 激個体として用いていることである。様々な刺激の複合体である父親を用いることで、嗅 覚刺激の効果を検討することが可能となった。一方、複合体を用いることには、欠点もあ る。それは、どの刺激が子を引きつけるのかという検討が不十分となることである。これ を検討するためには、バージン雄に父親の持つ刺激を塗布する方法を用いる必要がある。 父親の刺激だけを持たないバージン雄を用いることにより、より自然に父親の刺激単体の 効果を取り出すことができると考えられるからである。 子を引きつける刺激には、唾液と尿がある。唾液は、父親が子をなめる際に付着する。 つまり、唾液は子にとって親しみのある刺激であり、父親を選好する手掛かりになる。児 玉(1991)は、新生児マウスが、唾液中に含まれる二硫化ジメチルのにおいを手がかりと して、離れたところから母親へ接近することを報告した。東山(2010)は、新生児マウス において、父親の唾液が出生直後に子の母親への接触を促進させる役割を果たすことを見 出した。したがって、唾液は子を引きつける刺激として有効である。 次に子を引きつけるものとして重要な刺激は、尿である。Leshem & del Canho(2005) は、大人のラットにおけるナトリウムの枯渇や喉の渇きによる尿の選好の準備として、授 乳中のラットの子においても尿を選好すること、また、ナトリウムの枯渇した新生児マウ スが塩や水で薄めた尿よりも尿を選好することを見出した。東山(2010)は、新生児マウ スにおいて、父親の尿が子の母親への接触を促進させる効果をもつことを明らかにした。 したがって、尿も子を引きつける有効な刺激である。 子の行動から父子関係を検討する実験では、子の日齢の選定が重要な鍵となる。それは、 子の運動能力の発達に関係があるからである。運動能力が未熟であると、子の選好が偶然 によるものか明らかな選好によるものかが区別できない。子の選好実験が成立するために は、子が立ち直り反射ができるほどの反射レベルであり、動き回ることができるほど筋肉 が発達していることが条件となる。Kodama & Sekiguchi(1984)は、子が2日齢になる と、立ち直り反射が増加し、筋肉の動きが強くなることを明らかにした。また、児玉(2008) と大師(2011)は、出生2日齢の新生児マウスが自分の両親の羊水・母乳・唾液・尿を記 憶し、両親とそれ以外とを区別し、自分の両親を選好することを見出した。これらの研究 から、出生2日齢の新生児は、運動能力が十分にあり、嗅覚によって刺激を判断すること ができると考えられる。 そこで、本研究では、2日齢の新生児マウスを用いて、バージン雄と父親の唾液・尿を 塗布したバージン雄に対してどのような選好を示すのかを検討することを目的とする。 【方法】 1.被験体と 被験体と群構成 Slc:ICR マウス(清水実験材料)の2日齢 60 匹を用いた。群構成は3群とした(Table 1)。 唾液群は刺激個体である2匹のバージン雄のうち一方のバージン雄の胸部と腹部に唾液を 塗布した群、尿群は刺激個体である2匹のバージン雄のうち一方のバージン雄の胸部と腹 部に尿を塗布した群、統制群は刺激を塗布していない群である。 Table 1 各群の刺激の種類と被験体数 群 刺激の種類 被験体数 唾液群 父親の唾液 20 尿群 父親の尿 20 統制群 ― 20 2.唾液採取 出産後 2 日以内の子をもつ父親マウスに、ネンブタールを投与し(50mg/kg,ip)、麻酔 した。麻酔が効き始めたことを確認した後、唾液の分泌を高めるため、カルバコールを投 与した(100μg/kg,ip)。麻酔したマウスは、わずかに傾斜したプラスチックボードに頭 部を下にして仰向けに寝かせた。数分後、口部に降りてきた唾液を、ヘマトクリット管を 用いて、唾液の分泌が止まるまで採取した。その後、PCR チューブに分注し、-80℃で冷 凍保存した。実験開始前に唾液を室内で解凍し、実験に用いた。 3.尿採取 実験直前に何も敷いていないケージ(15 ㎝×21 ㎝×21 ㎝)に父親マウスを入れた。尿 をしたことを確認した後、父親マウスをもとのケージに戻し、注射器で吸い上げた。その 後、PCR チューブに分注し、実験に用いた。 4.手続き 手続き 被験体を2日齢までホームケージ(15 ㎝×21 ㎝×21 ㎝)の中で両親の元で飼育した。 飼育期間中、両親に餌と水を十分に与えた。ホームケージを 25℃前後に保たれた飼育室に 置き、明暗周期を 12L:12D で保ち続けた。 バージン雄は、実験直前まで、他のバージン雄と共に3~4匹で、ケージ(15 ㎝×21 ㎝ ×21 ㎝)の中で飼育した。被験体とその両親と同じように、餌と水を十分に与え、25℃前 後に保たれた飼育室にケージを設置した。飼育室の明暗周期は 12L:12D に設定した。 実験開始前3時間前に、子を両親の元から離し、ホームケージとは別のケージ(16 ㎝× 12 ㎝×4 ㎝)に入れ、体温の低下を防ぐために 34℃に保温したパラフィン伸展器の上に設 置した。この3時間の親子分離によって、子の胃の中のミルクの量が半分以下になり、か つ衰弱せずに身体運動を生起させることができる。その間も、父親を母親と共にホームケ ージで飼育した。 3時間の分離の後、2匹のバージン雄にネンブタールを投与し(50mg/kg,ip)、麻酔し た。その後、34℃に保温したパラフィン伸展器の上に設置した実験装置内に、互いの腹部 が向き合うように3㎝の間隔を空けて横臥させた。唾液群、尿群については、一方のバー ジン雄の胸部と腹部に刺激を塗布した。子を中央の 6 ㎝×3 ㎝×5 ㎝の囲いの中に設置し、 実験を開始した。実験は5分間とした。装置のどちら側に刺激を塗布したバージン雄を置 くかは、リターごとに換えた。実験中は、実験装置の真上から、子の行動をビデオカメラ で録画した。テスト終了後ビデオカメラを再生し、子が最初に接触する個体(刺激を塗布 されたバージン雌か刺激を塗布されていないバージン雄か) ・反応潜時・接触持続時間・接 触持続時間の長い個体を記録した。 【結果】 結果】 1. 最初の 最初の接触 統制群において、左のバージン雄と右のバージン雄のどちらに最初に接触したかをパー センテージで示したものが Fig. 1 である。統制群では、左のバージン雄に最初に接触した 子の割合が 60%、右のバージン雄に接触した子の割合が 40%であり、左のバージン雄に接 触した子の割合の方が多かった。χ²検定を行ったところ、5%水準で有意差が認められた (χ χ²=4, df=1, p<.05)。 唾液群、尿群において、刺激を塗布されたバージン雄と刺激を塗布されていないバージ ン雄のどちらに最初に接触したかをパーセンテージで示したものが Fig. 2 である。唾液群 では、刺激を塗布されたバージン雄に最初に接触した子の割合が 60%、刺激を塗布されて いないバージン雄に接触した子の割合が 30%、無反応であった子の割合が 10%であり、刺 激を塗布されたバージン雄に接触した子の割合が多かった。一方、尿群では、刺激を塗布 されたバージン雄に最初に接触した子の割合が 35%、刺激を塗布されていないバージン雄 に接触した子の割合が 40%、無反応であった子の割合が 25%であり、刺激を塗布されてい ないバージン雄に接触した子の割合が多かった。最初の接触が刺激側か否かに注目するた めに、無反応を除いて逆正弦変換による分散分析を行ったところ、塗布刺激群と刺激個体 の交互作用において、5%水準で有意差が認められた(χ χ²=6.32, df=1, p<.05)。下位検定と して塗布刺激群における刺激個体の単純主効果の検定を行ったところ、唾液群において 5% 水準で有意差が認められた(χ χ²=6.14, df=1, p<.05)。また、刺激個体における塗布刺激群 の単純主効果の検定を行ったところ、刺激を塗布したバージン雄において 5%水準で有意差 が認められた(χ χ²=4.19, df=1, p<.05)。 2. 平均反応潜時 子が刺激個体に接触するまでの時間が刺激の塗布によってどのように変化するかを明ら かにするため、刺激を塗布されたバージン雄または刺激を塗布されていないバージン雄に 接触するまでの平均反応潜時を求めた。 統制群における平均反応潜時及び標準誤差を示したものが Fig. 3、対数変換後の統制群に おける平均反応潜時及び標準誤差を示したものが Fig. 4 である。統制群では、左のバージ ン雄への平均反応潜時が 106.5 秒、右のバージン雄への平均反応潜時が 150.9 秒であり、 左のバージン雄への平均反応潜時の方が短かった。対応のある2つの平均値の差の t 検定を 行ったところ、10%水準で有意な傾向が認められた(t=1.7, df=19, p<.10) 。 唾液群、尿群における平均反応潜時及び標準誤差を示したものが Fig. 5、対数変換後の 唾液群、尿群における平均反応潜時及び標準誤差を示したものが Fig. 6 である。唾液群で は、刺激を塗布されたバージン雄への平均反応潜時が 158.4 秒、刺激を塗布されていない バージン雄への平均反応潜時が 211.1 秒であり、尿群では、刺激を塗布されたバージン雄へ の平均反応潜時が 176.6 秒、刺激を塗布されていないバージン雄への平均反応潜時が 177.0 秒であり、唾液群、尿群共に、刺激を塗布されたバージン雄への平均反応潜時の方が短か った。2要因の分散分析を行ったところ、有意差は認められなかった。 3.平均接触持続時間 統制群において、刺激個体に接触していた平均接触持続時間及び標準誤差を示したもの が Fig. 7 である。統制群では、左のバージン雄への平均接触持続時間が 6.8 秒、右のバー ジン雄への平均接触持続時間が 4.4 秒であり、左のバージン雄への平均接触持続時間の方が 長かった。対応のある2つの平均値の差の t 検定を行ったところ、10%水準で有意な傾向が 認められた(t=1.6, df=19, p<.10)。 唾液群、尿群において、刺激個体に接触していた平均接触持続時間及び標準誤差を示し たものが Fig.8 である。唾液群では、刺激を塗布されたバージン雄への平均接触持続時間が 6.5 秒、刺激を塗布されていないバージン雄への平均接触持続時間が 3.2 秒であり、尿群で は、刺激を塗布されたバージン雄への平均接触持続時間が 5.6 秒、刺激を塗布されていない バージン雄への平均接触持続時間が 3.8 秒であり、唾液群、尿群共に、刺激を塗布されたバ ージン雄への平均接触持続時間の方が長かった。2要因の分散分析を行ったところ、10% 水準で有意な傾向が認められた(F=4.0, df=1/31, p<.10) 。下位検定として HSD 検定を行 ったところ、唾液群において 5%水準で有意差が認められた(3.6, p<.05) 。 4.接触持続時間の 接触持続時間の長い個体 統制群において、左のバージン雄と右のバージン雄のどちらの接触時間が長かったのか をパーセンテージで示したものが Fig.9 である。左のバージン雄と右のバージン雄の接触時 間が全く同じ、またはどちらにも接触していないものをその他で示した。統制群では、左 のバージン雄に対する接触持続時間が長い子の割合が 45%、右のバージン雄に対する接触 持続時間が長い子の割合が 35%、その他の割合が 20%であり、左のバージン雄に対する接 触持続時間が長い子の割合が多かった。χ²検定を行ったところ、有意差は認められなかっ た。 唾液群、尿群において、刺激を塗布されたバージン雄と刺激を塗布されていないバージ ン雄のどちらの接触持続時間が長かったのかをパーセンテージで示したものが Fig. 10 であ る。刺激を塗布されたバージン雌と刺激を塗布されていないバージン雄の接触時間が全く 同じ、またはどちらにも接触していないものをその他で示した。唾液群では、刺激を塗布 されたバージン雄に対する接触持続時間が長い子の割合が 55%、刺激を塗布されていない バージン雄に対する接触持続時間が長い子の割合が 25%、その他の割合が 20%であり、尿 群では、刺激を塗布されたバージン雄に対する接触持続時間が長い子の割合が 40%、刺激 を塗布されていないバージン雄に対する接触持続時間が長い子の割合が 20%、その他の割 合が 40%であり、唾液群、尿群共に、刺激を塗布されたバージン雄に対する接触持続時間 が長い子の割合が多かった。接触持続時間が長い個体が刺激側か否かに注目するために、 無反応を除いて逆正弦変換による分散分析を行ったところ、刺激個体の主効果において、 1%水準で有意差が認められ(χ²=9.29, df=1, p<.01)、塗布刺激群と刺激個体の交互作用に おいて、1%水準で有意差が認められた(χ²=9.56, df=1, p<.01) 。下位検定として塗布刺激 群における刺激個体の単純主効果の検定を行ったところ、唾液群において 5%水準で有意差 が認められ(χ χ²=6.36, df=1, p<.05) 、尿群において 10%水準で有意な傾向が認められた (χ χ²=3.20, df=1, p<.10) 。 【考察】 考察】 <刺激個体の検討> 本研究では、新生児マウスの父親選好に及ぼす刺激の効果を検討するため、バージン雄 を刺激個体として用いた。バージン雄は、父親と同様に、体温による温度勾配や体毛によ る触覚刺激をもつ。しかし、父親とは決定的に異なる点がある。それは、父親特有の嗅覚 刺激を持たないということである。本研究では、バージン雄に父親の持つ刺激を塗布する 方法を用いたことで、動物としての要因を残しながら、刺激そのものの効果を取り出すこ とを可能とした。 これまでの研究は、父親を刺激個体として用いてきた。仁波(2007)は、新生児マウス において、父親とバージン雄の選好実験を行ったところ、父親を選好することを報告した。 勝本(2009)は、新生児マウスにおいて、父親の体毛+父親の尿を提示したところ、子の 頭部の上下伸展運動が増加することを見出した。これらの研究により、父親の持つ刺激が 子を引き付けることが明らかとなった。しかし、父親は様々な刺激をもつ複合体であるた め、どの刺激が子を引きつけるのかという検討が不十分であった。本研究は、刺激単体の 効果を明らかにするという点で意義のあるものであった。 本研究では、2日齢のマウスの子において、父親の唾液・尿に子の選好を促す刺激効果 があることが明らかになった。これは、新生児マウスにおいて、父親の唾液・尿が子を引 き付ける(大師、2011)という研究結果と一致する。したがって、子が父親を選好するこ とは明らかであり、唾液・尿の刺激効果をより確かなものとすることができた。 <嗅覚刺激の重要性> マウスの子は、父親のもつ刺激を捉える際に、視覚・聴覚・触角・嗅覚・味覚を用いる。 しかし、新生児マウスは、生後 12 日齢まで開眼・開耳せず、視覚・聴覚が機能していない (Armstrong, et al., 2006)。また、離れた所からでは、触角や味覚によって父親を判断す ることは不可能である。したがって、父親を選好するうえで嗅覚は最も重要な手掛かりで あると考えられる。 本研究では、新生児マウスのバージン雄への選好に及ぼす父親の唾液・父親の尿の効果 を検討した。その結果、父親の唾液・父親の尿が子を引き付ける効果があることが明らか となった。 これまでの研究においても、嗅覚刺激が子を引き付けることが報告されている。木山 (2009)は、新生児マウスの母親とバージン雄への選好に及ぼす羊水・母乳・母親の唾液・ 母親の尿の効果を検討した結果、羊水・母乳・唾液に子を引き付ける効果があることを示 した。東山(2010)は、新生児マウスの両親への選好において、唾液が両親への接触を促 進させる効果があることを指摘した。以上の結果より、嗅覚刺激に焦点を当て、新生児マ ウスの父親への選好を検討することは意義があった。 <唾液の効果> 嗅覚刺激の中で、唾液は非常に強い刺激である。本研究は、2日齢の新生児マウスが、 父親の唾液が塗布されたバージン雄を選好することを示した。「平均接触持続時間」では、 唾液を塗布したバージン雄への接触時間が、唾液を塗布していないバージン雄への接触時 間よりも約2倍長かった。 「接触持続時間の長い個体」では、唾液を塗布したバージン雄に より長く接触した子の割合が、唾液を塗布していないバージン雄により長く接触した子の 割合よりも 30 パーセント高かった。したがって、父親の唾液は2日齢の新生児マウスを引 き付ける刺激である。 これまでの研究においても、新生児における唾液の効果が指摘されてきた。川西(2010) は、新生児マウスにおいて、母親の体毛+母親の唾液を提示したところ、子の口と前肢の 運動が増加することを見出した。また、父親の体毛+父親の唾液を提示したところ、子の 口と頭部の上下伸展運動が増加することを見出した。このような唾液の効果には、脳内メ カニズムが関与している。唾液に含まれる二硫化ジメチルは、κオピオイド・システムを 活性化する働きをもつ(児玉,2012) 。これにより、子が親へ近づくようになると考えられ るのである。 以上のことから、父親の唾液が子を引き付け、塗布された刺激個体への接触を促進させ ること、その背後には脳内メカニズムの活性化が存在することが結論付けられる。 <尿の効果> 唾液ほどではないが、尿も強い効果をもつ。本研究は、2日齢の新生児マウスが、父親 の尿が塗布されたバージン雄を選好することを示した。 「平均接触持続時間」では、尿を塗 布したバージン雄への接触時間が、尿を塗布していないバージン雄への接触時間よりも約 1.5 倍長かった。 「接触持続時間の長い個体」では、尿を塗布したバージン雄により長く接 触した子の割合が、尿を塗布していないバージン雄により長く接触した子の割合よりも 20 パーセント高かった。したがって、父親の尿は2日齢の新生児マウスを引き付ける刺激で ある。 これまでの研究においても、尿が新生児に対して強い効果を持つ刺激であることが報告 されている。Leshem & del Canho(2005)は、新生児ラットが尿のアンモニアのような 味覚に対して特別な選好を示すこと、また、新生児ラットが巣にあるナトリウムの源へと 近づくことを指摘した。このような尿の効果には、脳内メカニズムが関与している。大人 の尿は、κオピオイド・システムを刺激する働きをもつ(児玉,2012) 。これにより、子が 親へ近づくようになると考えられるのである。 以上のことから、唾液よりは劣るが、尿も塗布された刺激個体への接触を促進させる効 果があること、その背後には脳内メカニズムの活性化が存在することが結論付けられる。 <父子関係形成のメカニズム> 本研究では、新生児マウスにおいて、父親の唾液や尿を手がかりとして父親に選好を示 すことが明らかにとなった。子が父親を選好することは、父子関係の形成と深いつながり がある。 父子関係は、子が父親へ働きかけることで、父親の養育行動が引き起こされ、それが子 の父親に対する選好を強化するというメカニズムの上で成り立っている。このようなメカ ニズムの背景には、父親の体内に生じるホルモン分泌の変化がある。Brown et al.(1995) は、スナネズミにおいて、巣に3週齢の子がいるとき、父親のプロラクチンの血中濃度が 高まることを報告した。重盛(1994)は、マウスにおいて、交尾と妊娠雌との同居ではプ ロラクチン濃度は高まらないが、父親になることによってプロラクチン濃度が高まること、 また、プロラクチンを投与されたバージン雄の養育行動レベルが父親レベルへ到達するこ とを示した。Fleming et al.(2002)は、ヒトにおいて、高いプロラクチン濃度は、子の刺 激に対する強い情動的反応と相関することを見出した。これらの研究から、子の存在や接 触が、父親のホルモン変化を引き起こし、それによって父親の養育行動が促進されると推 察できる。 父親は、子の生命の維持に貢献している。父親は、巣作りをしたり、子をくわえて運ん だり、子をなめたりする(Brown, 1986a, b; Elwood, 1975) 。また、父親の存在は、子の体 重を増加させ、開眼と開耳の日齢を早め、行動発達を早め、寒い環境での子の生存率を高 める(Barnett, & Dickson, 1985; Dudley, 1974; Elwood, & Broom, 1978)。これらは、父 親が子の保温・保護という2つの役割を担っていることを示している。自力で生存できな い子にとって、父親は欠くことのできない存在なのである。 子は、父親の保温・保護を求め、父親に接近する。父親は、子の存在・接触によって、 養育行動を示すようになる。このように、父子関係は、子からの働きかけと父親からの働 きかけが相互に関連し合って強まっていくのであろう。 【引用文献】 引用文献】 Armstrong, C.M., DeVito, L.M. & Cleland, T.A. 2006 One-trial associative odor learning in neonatal mice. 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