妊婦・授乳婦の新型インフルエンザに対する タミフル

平成 21 年 5 月 19 日
妊婦・授乳婦の新型インフルエンザに対する
タミフルとリレンザの使用について
社団法人日本産婦人科医会
会 長 寺 尾 俊 彦
日本産婦人科医会支部長 殿
日本産婦人科医会会員 各位
すでに、報道等でご存知の通り、兵庫県、大阪府域において新型インフルエンザの
流行の兆しが見られており、妊産婦への感染事例も時間の問題であると思います。
現時点では、厚労省のホームページに公表されている新型インフルエンザ対策ガイド
ラインに従って、冷静に行動していただきたいと思いますが、妊産婦に対しても同様
な対応でお願いいたします。
現在、本邦では抗インフルエンザウイルス薬としてタミフルとリレンザが 2001 年
2 月から保険適応になり、A 型 B 型両方に、初期に効果があるとされています。
これら薬剤の妊婦、産婦、授乳婦等への投与について、薬剤添付文書には、
妊婦や、授乳婦に対する安全性が確立していないとの理由で、
(1) 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に投与する場合には、治療上の有益
性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
(2) 授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。
とされています。
しかし、実際に感染している妊婦や授乳婦を診る臨床の現場では、具体的な対策が
必要になります。
そこで、以下のような実際の対応をお願いいたします。
1. 妊婦や授乳婦が発熱症状で産婦人科を受診してきた時、鑑別診断として、腎
盂炎や虫垂炎等のほかに、上気道症状を認めた場合は、インフルエンザの可
能性を疑い、地域の保健所に設置されている発熱相談センターと相談したう
えで、発熱外来を紹介して、新型インフルエンザに関する診断検査を依頼し
て下さい。
2. 発熱外来で、新型インフルエンザの診断が確定したら、妊婦や授乳婦に対し
て抗インフルエンザウイルス薬の処方を躊躇しないことです。
3. 妊婦は、インフルエンザに感染すると重篤化することがあるので、治療上の
有益性が危険性を上回ると判断される場合には、抗インフルエンザウイルス
薬の使用をためらうべきではありません。
4. 授乳婦は、乳汁を介した新生児に対する副作用のエビデンスの報告はないの
で、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合には、抗インフルエ
ンザウイルス薬の使用をためらうべきではありません。
5. 米国CDC(疾病対策センター)は抗インフルエンザウイルス薬の使用を妊
婦や授乳婦に勧めています。
6. 従って、本邦においても妊婦や授乳婦の患者に説明同意を得た上で、タミフ
ルまたはリレンザの投与をお勧めいたします。
参考資料:
妊婦への抗インフルエンザ薬投与に関してCDCからの報告
妊娠中の女性の新型インフルエンザ対策として、アメリカのCDC=疾病対策セン
ターは、治療には抗ウイルス薬が有効だとしたうえで、感染の疑いがある人と接した
場合にも抗ウイルス薬を予防的に服用することが必要だとする報告をまとめていま
す。
アメリカのCDC=疾病対策センターの報告によると、
「アメリカ国内で新型インフルエンザウイルスに感染したか、感染の疑いがある妊娠
中の女性は今月 10 日の時点で 20 人に上り、3 人が入院した。このうち、喘息などを
患っていた 33 歳の女性は、抗ウイルス薬による治療を受けないでいたところ、容態
が悪化し、赤ちゃんを出産したが、およそ 2 週間後に女性は死亡した」とあり、この
ことから、CDCは、妊娠中の女性は、通常のインフルエンザと同様に新型のイ ン
フルエンザでも重症になるおそれがあり、喘息などの病気がある場合には、特にリス
クが高いとしています。
CDC による抗ウイルス薬の勧め:
CDCは、妊娠中の女性に対する抗ウイルス薬 の効果や副作用について、情報は
少ないが、新型のウイルスに感染したか、感染の疑いがある場合には、症状が出てか
ら 48 時間以内に抗ウイルス薬の投与を始め、5 日間続けるべきだとしています。
さらに、感染の疑いがある人と接した場合にも、10 日間予防的に服用するべきだと
しています。