アナリストの 3 つの視点

投資家が企業の理解を深めるために
IRアナリストレポート
Independent Research Analyst Report
(株)日本ベル投資研究所
Belletk
ベル投資環境レポート
ベル投資環境レポート
アナリストの 3 つの視点
~ 企業を見抜く目、株式市場を見る目、IR に求めるもの ~
2012 年 6 月 3 日
鈴木 行生
はじめに ~ アナリストの軸足
・日本は困難な課題を抱えているが、対処すべき課題に対して、方策はあるのだから、現
状を肯定せず、何としても改革を進めるべきである。いかに実行するかのコミットメント
が求められている。コミットするには、リーダーの思いと戦略構築力、周りから共感を呼
ぶリーダーシップが求められる。リーダーは覚悟と思いやりを持って、コミットしてほし
い。我々はそういうリーダーを応援したいと考える。
Belletk
~次世代を担う新しい日本を創る~
〈経営者の決断力〉
1. 難しい、できないと言わない、方策はある・・・現状を肯定しない
2. いかに実行するか、コミットメントする・・・方策はあるので、覚悟と思いやりを持つ
3. ものづくりを越えて、ジャパンテイストを活かす・・・日本の強みを再発見
4. 日本人にこだわらず、ダイバーシティを推進する・・・内なるグローバル化に挑戦する
5. 企業価値を創造する仕組み作りにこそ投資・・・ビジネスモデルを構築
6. 社会価値創造のインフラ作りにこそ投資・・・ソーシャルビジネスに活躍の場を提供
7. 金融投資でイノベーションを推進・・・本物のインベストメントを追求
8. あらゆる組織はR&Dを実践する・・・組織、人材の新陳代謝を促進
9. リーダーシップとマネジメントの能力を高める・・・意思決定の回数が人を育てる
10.起きそうもないことが起きるという場面に徹底的に備える・・・訓練された戦う組織を作る
Belle Investment Research of Japan Inc.
All rights reserved
・日本はモノづくりを越える必要がある。企業は何らかの付加価値を生み出していく。そ
の企業価値を持続的に高めることができなければ雇用は増えないし、生産性も上がらない。
投資家は、企業価値を持続的に創造する仕組みこそ投資するのである。この仕組み革新が
ビジネスモデルのイノベーションである。製造業であれ、サービス業であれ、顧客に提供
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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する商品、サービスが常に新しくなっていく仕組みが問われている。それを切磋琢磨の中
で、競っていくことが復興に繋がっていく。
・アナリストは投資家の視点で、企業の実態に迫り、その良さや課題を浮き彫りにしてい
く。そして、株式市場における評価に対して、さまざまなオピニオンを出していく。同時
に、企業の IR 活動とのコミュニケーションを通して、企業の価値創造活動にもいい効果を
もたらすことができるはずである。そうした 3 つの視点を、いくつかのエピソードを通し
て養っていきたい。
1.企業経営を見抜く
21 世紀型企業の条件
・カルビーの松本晃会長兼 CEO 話を聴いた。松本氏は伊藤忠商事に 21 年いて、45 歳の時に
一区切りつけた。23 社からスカウトの話があったが、その中からジョンソン&ジョンソン
(J&J)を選んで入った。
・J&J の日本法人の社長を 9 年務め、
60 歳でまた区切りをつけた。
J&J の理念はクレド
(Credo)
にすべて込められており、何かあればクレドに戻る(Back to our Credo)が基本である。
クレドは世界で最も優秀なドキュメントである、と松本氏はいう。
・J&J の Our Credo(我が信条)は 4 つから成り立っている。第 1 が全ての顧客に対する責
任、第 2 が全社員に対する責任、第 3 が地域社会に対する責任であり、第 4 が株主に対す
る責任である。
・顧客に対する責任では、質の高さ、適正な価格、迅速・正確、取引先への適正な利益提
供をあげている。社員に対しては、世界中で共に働く男性、女性に安心、公正、家族への
配慮、平等の機会、そして有能な管理者の任命をあげている。地域社会に対しては、社会、
健康、教育への寄与、環境の保護と適切な租税の負担をあげている。株主に対しては、健
全な利益、革新的な企画、逆境に備えた蓄積、株主への正当な報酬をあげている。順番で
いえば、株主は 4 番目である。
・松本会長は、21 世紀型企業の条件として、次の 5 つをあげている。①クライシス・マネ
ジメントができること、②コンプライアンス(法令順守)がなされること、③コーポレー
ト・ガバナンスができていること、④CSR(企業の社会的責任)をしっかりやっていること、
⑤ビジネス・リザルト(業績)を出すこと、である。⑤の業績の結果を出すには、①~④が
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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できていないと無理で、①~⑤の掛け算で企業の価値が決まる。これを一発でカバーして
いるのがクレドであるという。
・クライシス(危機)には、天災やその会社に起きる事件など、さまざまなものがありうる。
これにはキープロセスがあり、1)顧客優先、2)情報開示、3)率先垂範、4)スピード、5)
再発防止の順に進める必要がある。情報開示で重要なことは、組織のトップとボトムの情
報と同じにしておくこと、組織のもつ情報を顧客の情報にもしておくことである。再発防
止とは、ビジネスの再構築そのものなので、本格的にやる必要がある。
・コンプライアンスは、交渉の余地なし(non-negotiable)である。悪法も法で、有無をい
わさず守ることである。ちょっとした悪いことでも、悪の大小で判断してはならないので
ある。さらに、瓜田に沓を納れず、李下に冠を正さず(瓜畑でくつを履き変えず、スモモ
の木の下では冠を直さず)という例えのように、疑われるようなことをやってはならない。
・クレドの中にある「その行動は公正、かつ道義に適ったものでなければならない」(Their
actions must be just and ethical.)で、ここでいう just とは神の前に正しいことであ
り、ethical は法律に関わるコンプライアンスではなく、倫理そのものである。
・コーポレート・ガバナンスでは、社外取締役が鍵である。会社の業務を執行する執行役
(日本では大半が取締役)を取り締まるのが取締役であり、米国の会社では社外取締役が
重要な役割を果たしている。オリンパスでは、取締役会が機能していなかったわけで、こ
れが日本企業にとって最大の課題である。カルビーの場合は 7 人の取締役のうち、執行を
担当する松本会長(CEO)、伊藤社長(COO)以外の 5 人はすべて社外取締役である。
・CSR については、クレドの 3 番目に位置付けられている。J&J のクレドは、今から 69 年
前の 1943 年に出来ており、以来全く変わっておらず、経営もぶれていない。ビジネス・リ
ザルト(業績)については、何より稼ぐことである、そして、税金を払え、と強調する。
松本会長は J&J での実績と経験を、今カルビーで発揮している。その経営手腕は、実に興
味深い。
強固な企業経営の 10 カ条
・カルビー(コード 2229)の松本晃会長兼 CEO の話は面白い。ポテトチップのカルビーは、
セイボリースナック(塩けのスナック)で国内№1、シェア 50%を有する。創業家 2 代目
の松尾雅彦氏から経営を託され、経営改革を行い、2011 年 3 月に東証 1 部に上場した。
・少し前のカルビーは売上高営業利益率が 1.5%程度の利益のさほど出ない会社であった。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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それが、2012 年 3 月期は売上高 1632 億円、営業利益 124 億円、売上高営業利益率 7.5%、
ROE 9.6%を達成した。
・これに対して、将来は営業利益率で 15%を目指すという。製造原価を売上比で 50%、販
管費を同 30%、開発費を同 5%にもっていけば可能になる。相当高い目標である。松本会
長は目標を揚げて挑戦すれば、コストは下がっていくと強調する。では、どうするのか。
・カルビーは世界を目指していく。日本の人口は世界全体の 2%を切ってきた。いずれ1%
になっていく。現時点で当社は 97%のビジネスを国内でやっている。どうしても世界に出
ていく必要がある。そのための KSF(キーサクセスファクター、成功の鍵)は 4 つあると松本
会長は言う。
・1 つは、コスト。コスト+利益で価格は決めない。まず、価格を想定する。いくらなら顧
客は払ってくれるか。それを考えて、価格-利益でコストを決める。これでコストが合わ
なければ、そのビジネスはやらない。2 つ目は、パートナー。海外展開はリスクがあるので、
力のあるパートナーと組んで行く。ペプシコとは既に提携しているが、それ以外にも手を
打っていく。
・3 つ目は、ローカライゼーション。現地の材料、現地の機械、現地の人で商品を作って、
現地で売っていく。好みも現地に合わせていく。4 つ目は、スピード。中国のスナックマー
ケットを攻めるにしても、果たして追いついていけるかどうか。とにかくスピードが求め
られる。中国の国内企業はもちろん、韓国、台湾、フィリピンの企業とも戦っていく。
・松本会長が示してくれた経営の 10 カ条は、どの会社にも通じる普遍性があり、会社を知
る上で大いに参考になる。1)コミットメントとアカウンタビリティ。何をやり切るかを約
束(コミットメント)して、その結果責任(アカウンタビリティ)をとるようにする。2)
フェアネスの確保。人の評価をフェア(公平)に行う。そのためにはシンプルにデジタル
化して、スタートする前にきちんと契約することである。
・3)厳にして暖。とかくマネジメントは甘くなりがちであり、一方で人に冷たくなりがち
であるが、これでは通用しない。マネジメントは厳しく、人には暖かく、を実践する。4)
現状維持是即脱落。現状にとどまるということは、そのまま脱落することを意味するので、
目標に向けて邁進する。
・5)正しいことは正しく。ずっとこういう風にやってきたという姿勢では社内官僚がはび
こる。常に正しい方向に進んでいく。6)ノーミーティング、ノーメモ。会議はやらない、
資料は作らない、という方針である。会議をやると資料を作る。資料を作ると、現場を知
らないから嘘が混じってくる。そんな時間があったら、現場に行ったほうがよい。現場に
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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行かないと何もわからない。
・7)ワンダラーアウト。会社のお金を 1 ドルでも私用に使ったらクビにする。公私混同を
絶対にしない。何よりもしつけが大事である。8)報告の 3 原則。①トラブルはすぐ報告さ
せる。その時に叱るな。まず報告してきたことをほめるのがポイントである。そうでない
と誰も報告に来なくなる。②報告は悪いものからもってくる。③報告にあたって、嘘をつ
かないようにさせる。
・9)無駄の排除。使っている時間とお金が、ビジネスをドライブしているかを問う。ビジ
ネスに貢献しているかどうかをよく考えて、無駄な時間とお金を使わない。10)最後は、
簡素化、透明化、分権化。透明化にあたって、情報は上から下に流すのがポイントである。
いかにスムーズにながれるようにするかで経営が変わってくる。また、権限は義務と一緒
に移譲するが、拒否権は有しているので、任せきりではない。
・松本会長は、伊藤忠商事、J&J(ジョンソン&ジョンソン)で培った経営力を、今カルビー
で発揮している。創業家には口出しをしないで任せてくれといって、有言実行、実際に成
果をあげている。今後のグローバル戦略の行方に注目したい。
質が違えば飽和はない
・セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長の話を昨年秋に聴いた。セブン-イレ
ブン・ジャパンの業務改革(業革)の話は有名であり、その業革はずっと続いている。小売
業はもう飽和ではないか、という常識的な問いに対して、鈴木会長の視点はかつてと同じ
ように異彩を放っている。
・当社の業革は 30 年続いている。初期の頃から、売上げが伸びない。利益が伸びないとい
う現象に対して、①売れ筋、死に筋を見極めるための単品管理を導入し、②死に筋の排除、
つまり不良在庫の削減に力を入れた。これには、全社、全員で対応した。全幹部、全社員
が参加しないと、改善はしても、改革はできない、という決意である。
・イトーヨーカ堂とセブン-イレブンの業革は違っていた。当時、コンビニのセブン-イ
レブンは新しい仕組みなので、見本がない。自ら作っていく必要があった。一方、イトー
ヨーカ堂は、過去の習慣がなかなかとれない。よって、業革の成果が上がらない、という
状況が発生した。どうしても過去のやり方に捉われてしまうのである。いかに過去を断ち
切るかが鍵である、と鈴木会長は強調する。
・セブン銀行の立ち上げの時は、流通企業が銀行を始めるのは無理だといわれた。セブン
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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-イレブンで、いろいろやってみてわかった。顧客が困っていることを、便利に手伝って
さしあげるという発想である。電気料金の収納を始めたら、次々にいろんな収納をやって
くれといわれた。銀行の代わりに便利になることもできると考えた。
・近くのコンビニに行けば、普段着で 24 時間いつでも銀行の ATM が使えるようにした。1
台 800 万円もする ATM を交渉の末 200 万円で入れられるようにして、店の中へ置いた。現
在は 570 の金融機関がこの ATM に入っており、全国に 1.6 万台置いてある。結果は上出来
であった。自分たちで考えたことを自分の信念でやる。これが大事である。
・改革には 3 つの条件がある。第 1 は、もの真似をしないこと。学んでもよいが真似をし
てはならない。第 2 は、過去にとらわれないこと。過去にとらわれると、改革が進まない。
第 3 は、新しいことに挑戦すること。真似をするより挑戦する方が楽であると知ってほし
い、という。
・さらに、鈴木会長は、「顧客のために」という表現を禁止している。“~のために”と
いう発想は、実はじぶんの立場からものを見ていると厳しく戒めている。よって、「顧客
の立場で」を基本としている。例えば、ナショナルブランドに対して、PB(プライベート・
ブランド)商品を作るとする。そうすると安く作ろうとする。それではダメだ、と鈴木会長
は言う。今はものが豊富な時代である。安いものより上質なものが求められている。グル
ープには、百貨店もコンビニもスーパーもある。安いというコンセプトでは自分の立場を
主張しているだけで、本当の顧客に立場に立ってない。
・そこで“上質なモノを作れ”という方針にした。セブンプレミアムは 1500 アイテムにな
り、食品中心に使われており、在庫ロスも出ていない。この成功は、過去の固定観念に捉
われないことが重要である、ということを物語っている。
・国内でコンビニはもう飽和したという声をよく聞く。これは正しくないと鈴木会長は指
摘する。飽和とは同じものが揃って溢れることである。質が違えば飽和ではない。差別化
して、リードしていれば、飽和することはないと考えている。
・流通を見ると、コンビニは近くて便利である。人口が減っても世帯数は増えていく。老
齢化とともに女性客が増えていく。やりようはいくらでもある。ネットとリアルの融合も
始まった。ネットスーパーは 5 年前から本格化している。全店舗の 8 割で実施しているが、
3 年前から黒字化してきた。店舗がなくても配達してくれる、商品を玄人が選んでくれる、
というのは確かに便利である。
・日本発で世界標準を目指そうとするセブン&アイ・ホールディングスの次の打つ手に注目
したい。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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月次データは必要か
・ファーストリテイリング(コード 9983)の決算発表を聞いた。柳井会長兼社長はいつも
の口調で、短い言葉ながら単刀直入に‘思いと戦略’を語っていた。2012 年 8 月期は売上
高 9415 億円(前年度比+14.8%)、営業利益 1380 億円(同+18.6%)と史上最高の業績
となろう。ROE も 20.3%が見込める。
・今期の会社計画では売上高営業利益が 14.7%、このうち国内ユニクロ事業の営業利益率
は 17.5%で、海外ユニクロ事業 10.6%、グローバルブランド事業 9.5%である。国内の利
益率が圧倒的に高い。しかし、営業利益の伸びを見ると、国内+4.5%に対して、海外+
89.9%、グローバル+53.6%と、海外が伸びている。営業利益に占める国内の比率は 78%
であるが、その比率は下がりつつあり、海外がウエイトを高めようとしている。
・店舗の数でみると、2012 年 8 月末時点(計画)で、国内ユニクロ 852 店、海外ユニクロ 291
店(うち中国本土 142 店、韓国 81 店)、グローバルブランド 1088 店(ジーユー174 店、セ
オリー371 店、コントワー・デ・コトニエ 387 店、プリンセス タム・タム 156 店)である。
今後は海外のウエイトが本格的に高まっていく局面にある。
・ファーストリテイリング(FR)は、ファストファッション(fast fashion)の分野で世
界一を目指している。2020 年で売上高 5 兆円、経常利益 1 兆円を目標とする。最大のビジ
ョンは、真のグローバルブランドを築くことである。ブランドとは単なる商品名や価格の
認知ではなく、企業活動の全て、企業の精神そのものが永続的に支持されることであると
位置づけている。
・柳井会長は、そのために、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というイノベ
ーションに挑戦し、できそうもないことを何としても実現するという強い信念のもとで経
営にあたっている。ユニクロを真のグローバルブランドにするために、大型の旗艦店(NY、
台湾、ソウル、銀座に出店済み)を主要都市に出し、そこでのブランド価値をベースに生
活者のいるところに大量出店していく計画である。世界 4 都市に地域本部を設立した。
・年間 200~300 店(グレーターチャイナで 100 店、その他アジアで 50~100 店、欧米で 50
~100 店)の出店をして、2015 年 8 月期に海外ユニクロ事業が国内ユニクロ事業の売上高
を上回るような展開を進める。グレーターチャイナ(中国、香港、台湾)、アセアンの次
はインドも狙っており、今後 10 年で、グレーターチャイナに 1000 店以上、その他のアジ
アに 1000 店以上出店する方針である。海外の売上高営業利益率では 15%以上(現在は
10.6%)が目標である。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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・ユニクロの服は、服装における完成された部品であり、売場は新しい着こなしを提案す
るサービスの場であると位置付けている。CSR 活動にも力を入れており、「服の企画、生産、
販売を通して、世界を良い方向に変えていく」ということを基本方針としている。全商品
のリサイクル活動などにも一段と積極的である。
・興味深かった点は、これから海外のウエイトが高まっていくので、国内と同じように、
海外の売上高に関する月次データを公表する予定はあるのか、という質問に対して、柳井
会長はその予定はないと答えたことである。柳井会長は、月次データの振れによって株価
も変動する、月次データに本当にどのような意味があるのか、よく考える必要があると述
べていた。
・投資家、アナリストは、企業の足元の動きを知りたい。短期的な業績に最も響くのは、
月次の売上であるから、小売業、サービス業では月次のデータ(前年同月比伸び率、既存
店伸び率)を公表する企業も多い。確かに役立つ。とすれば、多くの企業はどんどん海外
に出ていくので、海外の月次データの動きも知りたいと思うのは当然である。
・それでは、月次ではなく、週次、日次のデータも同じように知りたいであろうか。そん
な目先の数字ではなく、会社が市場環境の変化にどのような手を打っているのか、それが
上手くいっているのか、もう少し時間を要するのかなど、もっと大事なことがあるように
も思える。我々の短期志向を戒めながら、中期的な視点で会社を見ていく指標や分析の視
点に注目したい。FR のグローバル展開について、柳井会長は短期的に多少失敗してもビク
ともしない。全てが上手くいくわけではないが、失敗を教訓として次の手を打っていく。
そのあたりをよく見極めたいと思う。
ワンプライスショップのアジア戦略
・ワンプライスショップという業態は、国内においても海外においてもかなり頑健であり、
今後とも通用しそうである。
・大手の動きをみるとダイソーは、中国への進出拡大を狙っている。まだ、日本の 100 円
ショップが中国で成功しているという例はない。ダイソーは、台湾の百貨店の中で展開し
ているフォーマット(DAISO JAPAN)の日本での展開を始めた。きれいな店で陳列もおしゃ
れである。ダイソーはセリアよりもおしゃれを狙っている。
・一方で、徹底したローコストオペレーションのワッツにも対抗しようとして、増量した
お買い得商品の導入もしている。ワッツは、小回りのきいた商品作り、店づくりで、ロー
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
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コストを追求し差別化を図っている。
・セリアはファッション性で伸ばしており、この戦略は当っている。ショッピングモール
での大きな店、きれいな店という感じである。一方、ワッツはスーパーの中の小さな売場
というイメージで、小回りのきくローコスト経営を実践しているという点で、直接ぶつか
っているわけではない。
・ワッツは、居抜き出店の上、店の内装、外装は施さない。セリアはカラーザディズとい
うブランドの店を出店する。ワッツは食品スーパーの雑貨コーナーに出店する。セリアは
カラーザディズをこうした店舗ではやらない。出ていいく場所が違うのである。雑貨は在
庫が多く、回転が悪いので、仕組みにお金をかけると利益は出なくなる。ワッツは効率と
コストをよくよく考えて、常識にとらわれない。
・キャンドウは、大都市で大型店を出している。大型店の出店余地はさほど多くないので、
急拡大は難しい。200 円商品を 100 円ショップの中で販売しているが、顧客のお得感という
点ではワッツと方針が異なっている。
・そのワッツが、タイで「こものや」というジャパンテイストを活かしたファッショナブ
ルな店を本格展開している。テーマは、海外店舗運営のフォーマット確立である。3 年前に
タイのバンコクで 100 円ショップと同様の均一ショップ「こものや」を始めた。タイの均
一ショップは日本と同じではなく、タイの消費者にとって安いわけではない。むしろ高い。
中国製では価値がなく、メイドインジャパンが大事である。日本の製品だからこそ、その
雑貨が少し割高でも新鮮で面白いと受け入れられる。ジャパンテイストが受け入れられて
いるのである。
・タイの「こものや」はデパートモールに出店している。かなりレベルの高いショッピン
グセンターであり、「こものや」もおしゃれな店として位置付けられる。60 バーツ(150
円)均一という現地ではかなり高い。ここでの展開は安さの追求ではない。ジャパンテイ
ストを活かして、この商品がこの値段ならちょっといい、という感覚である。
・タイでの出店はすでに 8 店に及んでいる。2010 年末に 2 店、昨年 12 月、今年 5 月に 1 店
ずつ出店した。既存店は+10~20%で伸びている。月次で黒字を実現すべく力を入れてい
る。今のところいい方向にある。この出店で、アジア展開の基礎が出来たといえる。黒字
化の目途も立っているので、次の国への展開を目指している。民度が高くてジャパンテイ
ストが受け入れられるという点では、マレーシアやインドネシアがターゲットになろう。
・ここで、フォーマットとブランドを確立し、収益化の目途も立ち、立ったところでタイ
の他の地域にも幅広く展開していく。タイについては、今期 10 店まで増やすが 8~9 店目
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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で黒字化を見込む。その後 3 年で 40 店まで増やす方向である。そうすると年商が 10 億円
を超えてくる。
・当社は 100 円ショップで業界 4 位であるが、徹底した低コスト出退店と店舗オペレーシ
ョンで効率を上げている。ワッツセレクトと銘打ったお買い得品を用意するなど、消費者
への訴求が店舗ロイヤルティを高め、既存店がプラスとなっている。2011 年 8 月期には ROE
が 23.4%と高い水準に達し、収益力は確実に向上している。
・2014 年 8 月期までの 3 ヵ年計画では、直営店を中心に年間 50 店のペースで店舗増を図る
計画である。2014 年 8 月期で、売上高 453 億円、営業利益 25 億円、売上高営業利益率 5.5%
を目標にしている。その達成は十分見込める方向で進んでいる。
・ROE は 20%台と、業界トップクラスである。低コストオペレーションが活きる余地はま
だまだ大きい。海外市場への布石に収益的な目途が立ってくれば、株価水準は一段と見直
されてこよう。
マジョリティにこだわらない
・味千中国ホールディングスは香港に上場している。熊本の味千ラーメンで有名な店が、
中国を始めとするアジア展開で成功している。中国、シンガポール、インドネシア、タイ、
フィリピン、マレーシア、台湾、ベトナム、米国、カナダ、オーストラリアなど、13 カ国
837 店舗(9.5 万席)に拡大している。日本の味千ラーメンは、重光産業がマネジメントし
ている。重光産業の 2 代目、重光克昭社長の話を聴いた。日本の中堅企業がアジア展開を
する時のキーポイントについて参考になる点がいくつもあった。
・味千ラーメンは、戦前に台湾から帰化した重光孝治氏(現熊本大学工学部卒)が始めた。
今の熊本ラーメンの原型を作った人である。1968 年に創業して、現在日本では、直営、FC
(フランチャイズ)を入れて 100 店余りを展開している。その 6 割が熊本県内にある。2 代
目の現社長は、1991 年大学卒業後そのまま重光産業に入社して、後継の道を歩んだ。
・もともと台湾出身だったので、1994 年に台湾の製麺会社と組んで味千ラーメンを出店し
たが上手くいかなかった。1995 年には北京に出店したがこれも上手くいかなかった。双方
とも、もともとの味千ラーメンの味が守られずに、勝手に現地化したため、顧客がついて
こなかった。台湾では、味は薄い方がよい、3 つの味を初めから混ぜておくと調理が楽だ、
麺はやわらかいのが好まれる、という現地資本側の対応が裏目に出た。
・95 年に香港のリッキー・チェン、デイシー・プーンと組んで、香港で味千ラーメンを始
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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めた。チェン氏は日本に留学していた経験もあり、その時は香港にはまだ珍しかった日本
のクレープ屋を開いていた。味千のラーメンが気に入っており、それを香港でやりたいと
提案してきた。課題は製麺であった。日本から輸出したのでは現地のコストに合わない。
その時期に全く別のルートで食品貿易を手掛けていたプーン氏が、中国で製麺工場を作り
たいと持ち掛けてきた。3 者の意向が合致し、深 圳に製麺工場を作り、香港で味千ラーメン
をスタートさせた。
・チェン氏がラーメン店のマネジメントを取り仕切り、プーン氏が製麺工場を運営した。
97 年に 29 歳で 2 代目が社長に就任した。3 者が連携して、味千ラーメンは急拡大を見せた。
香港ではチェン氏の提案で、味千ラーメンの味はきちんと守りながら、ラーメン店のメニ
ューの多様化を認めた。トマト鶏ラーメン、かぼちゃラーメンなどのほかに、さんまの塩
焼きやうな重など、日本の居酒屋風のメニューもいろいろ取り揃えていった。
・味千中国ホールディングスは香港の現地法人であるが、ここの資本構成はプーン氏がマ
ジョリティを持っており、チェン氏が一部、重光産業は 10%以下に留まった。現地で頑張
る人がマジョリティを持った方がよい、との考えに基づく。味千中国は 2007 年に香港に上
場した。現在の規模は時価総額 1160 億円、2011 年度の売上高 320 億円、税引き利益 36 億
円、ROE12.5%、PER32.1 倍、PBR3.9 倍という水準にある。
・味千中国はプーン氏が大株主の会社であり、彼女が会長兼 CEO である。チェン氏はその
後味千を離れ、もう 1 つ力を入れていたお寿司で大きく成功した。香港で「板前寿司」を
展開している。新年の築地の初競りで、大間の本マグロをここ数年で何度か競り落とした
香港人とは彼のことである。
・重光産業からみると、味千ラーメンはアジアで成功しているが、一番儲けているのは、
現地のマジョリティをもって経営に当っている会社で、当社ではない。味千ラーメンの味
を守って、現地展開するには現地のパートナーが最も大切であるという考えに基づく。日
本からの商材ビジネスもあるが、さほど大きくはない。資本についてもマイノリティの所
有にとどまっている。
・それでも日本発の味千ラーメンがアジアを中心に高い成長を見せており、そのこと自身
が誇りであり、重光産業のビジネスにも着実に貢献している。小さな企業が総てを自力で
やろうとしたら、上手くいかなかったかもしれない。その点では、自社のオリジナル・テ
イストを守り、現地のパートナーを信頼して、メニューの現地化も認めるというバランス
感覚が求められる。
・その中で、味の原点となる第 1 工場、第 2 工場のノウハウは教えない、という重光社長
の言葉が印象的であった。それは化学を専攻した創業者が、苦労してあみだした独自の味
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
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である。
医薬品開発のアウトソーシング
・医薬品業界において、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が進んでいる。BPO
とは、自社の業務プロセスを外部企業に委託することである。業務を社内で行ったほうが
効率的である場合と、自社で対応するよりも、外部の専門業者に任せた方が効率的である
場合もある。IT 業界、エレクトロニクス業界など、さまざまな分野で BPO が進んでいる。
しかも、国内だけでなく、グローバルに展開されつつある。
・医薬品業界のバリューチェーン(価値を生み出す業務の流れ)は、新薬の開発、生産、
販売において多くのプロセスがあり、その中で BPO が進んできた。CRO(開発業務受託機関)
は、新薬開発における臨床試験(治験)を専門的に担当する。新しい薬になりそうなもの
が、本当に効くか、副作用はないかなどについて、データを収集し、解析を行う。この CRO
業界はここ 10 年で大きく成長した。現在、業界のトップグループは、1 位シミックホール
ディングス(コード 2309)、2 位イーピーエス(コード 4282)、3 位は外資系で、4 位以下
が 2 番手グループに位置する。
・1 位と 2 位は接近しており、近々逆転する可能性がある。一方、2 番手のグループのトッ
プに位置するメディサイエンスプラニング(コード 2182)は、上位グループとは違った作
戦に力を入れている。シミックは、社長が医薬品メーカー出身ということもあり、医薬品
の治験だけでなく、医薬品の製造にも事業を広げている。イーピーエスは、社長が中国出
身であることを活かし、中国事業を拡大しようとしている。これに対して、メディサイエ
ンスプラニングは社長が医者であり、九州トップクラスの医療法人を育てた実績を活かし
て、医療法人とのつながりを強めようとしている。
・メディサイエンスプラニングは、製薬会社等に対し医薬品開発に関わるさまざまなサー
ビスを提供する CRO(開発業務受託機関)の大手である。業界 4 位であるが、上位 3 社とは
距離があり、2 番手グループのトップにつけている。年商 100 億円規模が対抗上のターゲッ
トである。09 年までの 5 年間は順調に伸びてきたが、2010 年 8 月期は大幅減益となった。
新薬治験に関わる複数の大型プロジェクトの中止が業績に響いた。2011 年 8 月期は、これ
をどう埋めていくかが課題であったが、十分な手を打ち乗り越えた。売上高営業利益率で
も過去最高の 9.2%を上げた。この間、CRO の事業譲渡を受け、本業を強化している。また、
医薬品開発関連の出版社に出資し、同社及びその子会社の SMO(治験施設支援機関)を通じ
た、病院など医療機関へのサービス展開にも布石をした。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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・今 2012 年 8 月期は、前年度に引き続きピーク利益を更新しよう。2Q 累計(上半期)は売
上高 4058 百万円(前年同期比+26.1%)、経常利益 607 百万円(同+236.1%)と極めて好調
であった。主力のモニタリングで稼働率が上がり活況なことと、周辺業務の採算も向上し
たことによる。通期の経常利益の伸び率も同+32.5%と大幅なものになろう。中期計画の
達成に向けて人材の強化が必須なので、先行的な人員の増加を見込んでいるため、下期の
業績の見方は慎重であるが、会社計画を上回る公算は大きい。
・2010 年 8 月期を初年度とする中期 3 カ年計画の「アクションプラン 30」では、2012 年 8
月期に売上高 90~110 億円前後、売上高営業利益率 12~15%を目指していたが、1 年目の
業績が大きくダウンしたので、達成のハードルは高くなった。そこで、目標の達成時期を 1
年延長し、「アクションプラン 30 plus one」として、来 2013 年 8 月期の達成を掲げてい
る。この達成については、ほぼ射程内に入ってきた。来期は売上高で 93 億円、営業利益で
12 億円、売上高営業利益率 12.9%が見込めよう。
・中期計画で目指している人材の質の向上、医療機関との結びつきの強化という方針に変
わりはない。次なる飛躍に向けて着実に手を打っている。1 つはグローバル CRO との連携、
もう 1 つは IT を活用した医療機関との連携強化である。世界第 2 位の CRO である米国 PPD
社との連携プレーが始まった。ROE が 20%台にあり、業績も好調なので、マーケットにおけ
る企業価値の見直しは一段と進展しよう。
都心で戸建て住宅を建てる
・どういう家がほしいか。人によって好みはかなり違う。予算に制約が無ければ、どんな
家でも実現できようが、多くの人々にとって、家は一世一代の買い物であり、財産である。
毎日暮らすわけだから、その機能性も大事である。世の中にはマンション派もいれば、戸
建派もいる。郊外派もいれば、都心派もいる。
・土地は狭いが建物を 3 階建てにすることで、広い居住スペースや使い勝手のよい住宅が
4000 万円前後で手に入る。年収 500~600 万円の 30 代層が、戸建て住宅を都心に近いとこ
ろにほしい、というニーズは結構ある。月 13~14 万円の家賃見合いの支払いで戸建住宅が
持てるなら、購入しやすい。
・①家賃で家が買える、②敷地が狭くても、無駄なく建てるので、思ったより広い居住ス
ペースが確保されている、③1戸1戸が別々で個性がある、という点を売りにしている会
社がある。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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・三栄建築設計(コード 3228)は、都心 23 区内に建てる 3 階建て木造住宅企業として、業界
トップである。狭い土地を有効活用して、土地が 15~20 坪の敷地であっても、3 階建てに
することで、90 ㎡前後の床面積を実現する。家賃並みの費用で、都心に近く便利な戸建て
住宅を 4000 万円台で提供するビジネスモデルである。
・しかも、1戸 1 戸の家づくりを考え抜いて、オンリーワンの分譲住宅づくりを実践して
いる。このニッチ戦略が功を奏して、年間 1000 棟を供給するという実績を作り、販売を委
託している先である仲介業者から評価されるブランド力を付けてきた。土地取得で競合す
る同業他社(仲介業者が行う戸建て住宅事業等)からも、戸建て住宅の建築を依頼される
という戸建て住宅の建築請負ビジネスも伸びている。
・2012 年 8 月期の 2Q 累計(上半期)は、経常利益 2030 百万円(前年同期比-9.1%)と減益に
なった。大震災の復興需要による影響に伴う分譲住宅の工期の遅れと粗利益率の低下が原
因である。リーマンショック後の着工棟数増加及び震災後の着工の回復によって、業界に
おける在庫調整の影響も想定されるが、通期ベースでは取り戻すことができよう。2012 年
8 月期は、経常利益ベースで会社計画の 60 億円は下回るものの 54 億円(前年度比+12.2%)
は十分達成できよう。
・リーマンショック後に地価が下がったところを上手く仕入れたプラス効果は前期までで
一巡し、当社の粗利益率は下がっている。これは通常ベースに戻っているという見方がで
き、当社のビジネスモデルに変化が出てきたというわけではない。
・当社は、2011 年 8 月に東証 2 部、名証 2 部に上場した。名証セントレックスから移った
ことで、認知度はかなり高まった。2011 年 8 月期は大震災の影響があったにもかかわらず、
18 期連続で増収増益となり、ピーク利益を更新した。今期も引き続き最高の業績を達成し
よう。
・首都圏では年間 1 万棟の 3 階建て木造住宅の需要があり、市場開拓の余地は大きい。コ
スト競争力とブランド力がついてきたので、十分拡大できよう。さらに、名古屋圏、大阪
圏の都市中心への進出を狙い、まずは昨年 10 月に名古屋に支店を設立し、活動をスタート
させた。立ち上がりは順調である。
・今回策定した中期 3 カ年計画では、2014 年 8 月期に売上高 700 億円、経常利益 80 億円を
目標にしており、達成可能な勢いを見せている。長期的には売上高 1000 億円、経常利益 100
~150 億円を目指すことになろう。ニッチな市場戦略が業績の向上に結びつくにつれ、株式
市場での評価も高まって行こう。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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課題の克服に向けて
追い込まれる日本
打つ手は十分ある
日本の7重苦
優先順位を付けて断固実行
貧しくなる国民
企業も個人も投資機会を活かす
円高の阻止
(為替)
CO2削減
(環境)
電力不足
(エネルギー)
法人税の引き下げ
(税)
アジアの人々に来てもらう
(FDIが増える国へ)
規制緩和
(機会創出)
TPP
(通商)
資源高
(石油・レアメタル)
Million’s Individual Investors, Amusing & Interesting, Japan Taste, Diversity, Model Innovation
Belle Investment Research of Japan Inc.
All rights reserved
2.株式市場を見る目
日本の元気はアジアから
・日本企業で、アジアで儲けている会社は増えている。輸出から現地生産へ、生産基地か
ら消費マーケットの開拓へ、製造業中心からサービス業全体へ、と大きく変貌しつつある。
もちろんアジアに出ていけば必ず成功するわけではない。失敗している企業も多い。成長
マーケットでどのように自らのポジションを築くかが問われるが、そこに成功しつつある
企業が続々と出てきている。
・ギリシャ危機は第 3 波の不安を高めている。何が問題かはすでに分っているので、当初
の不安とは質が異なる。しかし、早め早めに手が打たれる可能性は低いので、どこまで追
い込まれるか。うっかりすると糸が切れてしまうのではないかという恐れがある。糸が切
れてもどうなるかは概ね分っているので、世界経済が破局に至るわけではない。
・下がったところは買いである、という楽観論もある。その最大の根拠はアジアの成長が
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世界経済の支えである、という点にある。先進国の経済が厳しい中で、アジアへのパワー
シフトが加速しているのである。もちろん欧州経済の不安定性が、中国をはじめとする輸
出のマイナスにつながり、アジア経済にも影響する。しかし、アジアの内需は自律的に伸
びている。
・世界の成長の半分は発展途上国が牽引しており、その中心はアジアである。アジア 51 カ
国の人口は 40 億人、世界人口の 6 割を占める。例えば、かつての問題児であったミャンマ
ー(旧ビルマ)は、今や遅れは恵みであるとさえ言っている(ソー・テイン ミャンマー工
業相)。国土は日本の 1.8 倍、人口 6200 万人の国に、技術、資本、マネジメントはない。
電力などのインフラも全く不十分である。しかし、食料、水、エネルギーの心配はなく、
労働力は豊富で、天然ガスを輸出している。海岸線も長い。少数民族との対立が和解し、
民主的改革は後戻りしそうにない。そうなれば FDI(外国直接投資)をテコに発展あるのみ
である。日本企業も挙ってミヤンマー詣でが始まった。
・タイを見ているとアセアンが分る、という(オラーン・チャイプラワット タイ元副首相)。
安い労働力で発展するのはもう無理である。タイ国民の所得を上げて購買力を高めようと
している。つまり、賃金は上がっていく。企業としては困るが、それに対しては法人税を
30%から 20%に下げて、ここで優遇している。所得が増えて、購買力が高まれば、消費が
活発になるので、今までよりいいもの、いいサービスが受け入れられて、経済が発展して
いく。アセアン 10 カ国は、2015 年に人口 6 億人の新しい共同体をスタートさせたいと目論
んでいる。オープン・リージョナリズムで、アセアンにもっとナレッジ(知識)と投資を
呼び込んで発展させていこうと作戦である。
・アジアにおいて、さまざまな経済連携が画策されている。誰がどういうイニシアティブ
をとるのか。アセアン+3、アセアン+6、TPP、日・中・韓 FTA など、いろいろある。総
論としてパートナーシップは広範囲であるべきだが、各論になる互いの利害が表面化する。
21 世紀はアジア太平洋の時代である。米国や中国が入ってくると調整は困難を極めるが、
経済の相互依存は高っており、敵対しているわけにはいかないという(リー・クアンユー
シンガポール元首相、89 歳)
・アジアの発展には、欧米の安定が不可欠である。ギリシャという小国など放っておいて
よいというデカップリング論は、ファンタジーであるという(スリ・ムルヤニ世界銀行専
務理事)。確かにそうである。それにしても、日本は元気がないと見られている。アジア
の発展に日本はどうコミットするのか、日本のダイナミズムが問われており、自信をとり
戻してほしいという(スリン・ピッスワンアセアン事務局長)。彼らに言われるまでもな
く、日本はディシプリンを有しており、技術、マネジメント、イノベーション、教育で強
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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みを発揮できる。
・日本企業は今やサービス業までもアジア進出を本格化させつつある。ジャパンテイスト
を活かし、アジアのパートナーと組んでいくならば、大きな発展が十分見込める。三菱商
事の小島会長は、アジアの成長を取り込んで、日本の活力を引き出すために、R&D 機能とイ
ンフラ整備のための PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)を強化せよ、と
提言する。日本の閉塞突破に挑戦する企業に注目したい。まず商社に期待しよう。
原子力のマネジメント
・原子力発電のマネジメントは日本において、本当にできるのだろうか。大震災以降の関
係者の対応を見ていると、人々に不安を与えるばかりで、望ましい方向に進んでいるとは
思えない。
・原発に賛成か反対かという二項対立で物事を捉え、原発は危ないから止めてしまえ、い
や、とりあえず電力不足だから動かせ、という発想では議論が進まない。この手の単純な
対立で賛成か反対か、望ましいか望ましくないかを競わせることは、世の中の別の場面で
もよく起きている。我々はどう対応していくのか。
・上野から福島県のいわきまでは常磐線の特急で 2 時間 20 分、乗り換えてさらに 20 分ほ
どで、広野に着く。ここから先は 20 ㎞の警戒区域に入ってしまうので、JR も動いていない。
その広野町へ行ってみた。
・福島第一原発は、広野からもう少し先の大野駅か双葉駅から海の方へ 4~5 ㎞ 離れたと
ころにある。広野町は 20 ㎞警戒区域のすぐとなりで、3 月末に避難指示解除が出された。
人口は 5400 人余りの町であるが、5 月の住人は 300 人程度である。ほとんどの人が避難し
たままで、働いているのは除染活動を行う人々とその機材が中心であった。
・山田町長は 2 学期から小中学校が再開できるように準備を進めている。5000 人のうち何
人の人々が戻ってくるか、安心して戻れるような環境作りが必要である。一度除染しても、
もう一度必要なところもある。家の修理は業者が繁忙でなかなか順番が回ってこない。人
が少ないと、かつてのように店を開けても商売が上手く成り立たない。別の学校に転校し
た子ども達が本当に戻ってくるかどうかも、まだはっきりしない。
・20 ㎞より中の状況はさらに厳しい、警戒区域、帰還困難区域、居住制限区域、避難指示
解除準備区域などに分けられているが、状況を改善するにはかなりの時間を要しよう。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
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・①原子力の安全確保、②今後のエネルギー政策、③東電のマネジメント改革は、本来別
次元で議論をして、あるべき姿を定める必要がある。しかし、関係者にとって、事象を分
けて考えることはかなり難しそうだ。政府もそのようで、議論の中身や順番のかけ違いが
次々と起こっている。
・原子力の安全確保は、大震災の教訓を活かした施策をきちんと打って、専門家が納得し
たうえで、皆に説明する必要がある。原発のリスクマネジメントについて、納得を得るべ
きだ。
・日本のエネルギー政策では、電源にあらゆる選択肢を入れて、そのバランスを図ってい
く必要がある。原発を動かす、廃止するという論点ではなく、原発のウエイトを適切に判
断していくことである。
・東電のマネジメント改革では、電力業界に共通する課題と、東電固有の問題に分けて議
論をする必要がある。有事の事態において、東電の経営トップは適切に行動できなかった。
そういう時のリーダーシップを磨く訓練が全くなされず、安定した大企業の論理の中で育
ってきたと思われる節がある。原子力発電所をとりあえず動かす、赤字になるから値上げ
をする、安全・安心を守る組織が作れない、ということでは誰も信用しない。
・安全・安心を守る独立した組織が速やかに作れない、という点では政府、政治の能力に
疑問を感じる。電力の社会的価値は、国家としての哲学、技術、組織能力に裏打ちされて
形成される。それを担う電力会社の企業価値創造は、①経営者の経営力、②サステナビリ
ティを担う技術力、③どのような状況にも対応するリスクマネジメント、によって支えら
れる。それを作り出すビジネスモデルの再構築が未だ不十分である。
・ある電力会社のトップは、悲観シナリオが現実のものとなってしまった、と決算説明会
で述べた。10km 以内の住民とは長い間直接対話をしてきた。今 20km に広げている。どこま
でが地元か、国策民営でやってきた原発事業をもう 1 度仕分けする必要がある。電力株の
企業価値は本来高いものである。方策はあるのに混迷が続いている。チャンスはまだ見え
ないが、今後の政策の行方と企業としての再生に期待したい。
見えざる資産を見抜く
・投資家は会社の戦略を知りたい。企業はどんな手を打つのか。戦略とは、新しい価値創
造の仕組み、即ち次なるビジネスモデル作りのためのストリーである。
・この戦略には 6 つの視点がある。1 つは、綿密な計画を立てることであり、シナリオを描
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
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くことである。強みと弱みを分析した製品サービスと市場ポートフォーリオの行方を知り
たい。計画は予定通りに行かないことが多いが、予定通りに進まないことも想定してシナ
リオを書いておくことが必要である。投資家は、そんなことが起きることは想定していな
かったと会社側に説明される時、がっかりするとともに経営者への不信感を抱く。
・2 つ目は、戦略を立てる時に、誰かの決め打ちではなく、皆が合意したものであってほし
い。皆で決めるのではない。決めるのはリーダーである。しかし、トップダウンで決めた
から有無をいわず実行せよと指示されても、会社全体が上手く機能するとは思えない。か
といって、戦略をボトムアップで作るとしても、下から持ち上げただけでは緩やかな改善
に留まってしまいがちである。トップダウンとボトムアップを上下にどのくらい揉んで作
り上げたか、その創発の度合いが問われる。
・3 つ目は、どういうポジションを狙うかである。自ら事業の居場所を見つけて、一定の地
位を築くには、戦う市場での機会と脅威をみて、どのように差別化していくか。その差別
化の方策が戦略であり、それが効果を上げることによってポジショニングが決まってくる。
・4 つ目は、その会社全体の組織能力を知りたい。経営資源としての能力はバランスシート
には表われない。企業が有しているコアコンピタンス、学習能力など、見えざる資源をい
かに鍛えているか。その鍛える方策が戦略である。理屈はわかっていても真似ができない
能力、それがリソースベースに基づく組織能力であり、その能力構築こそ、重要な戦略で
ある。強みや差別化戦略はレポートに書き易いし、マスコミでも取り上げられる。反面、
組織能力というリソースについては表現しにくく、人に伝えにくい。しかし、ここを知る
必要がある。
・5 つ目は、ゲームのルールを知ることである。ビジネスの慣行や制度を分析し、ゲームの
ルールを明らかにした上で、競争相手を出し抜くには、どうするかを考える。ゲームの攻
め方を知りたい。さらには、今あるゲームのルールが意外な参入者の登場によって壊され、
作り変えられることがよくある。相手がイノベーターになり、自社が壊され役になってし
まうことは最悪である。そうならないように、常に新しいゲームのルールについて作戦を
練っていく必要がある。
・6 つ目は、BSC(バランス・スコア・カード)で鍵となる顧客、人材、財務、業務プロセス、
CSR について戦略マップを描き、KPI(重要経営指標)を定めることである。その時、従来の
BSC を超えて、CSR、ESG の戦略も企業価値創造の柱として明示することが重要である。
・東芝の西田会長は、米国ウェスティングハウスの買収に当って、次のように考えた。相
手の立場で考える習慣が大事で、相手が勝利を得るためにどのように考えるかを推測し、
M&A の成否を決める入札価格に当っては最終的に直感で決断したという。DCF 法など計算の
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
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方式はさまざまある。シナリオに基づくシミュレーションも必要である。しかし、最も大
切なことは、経営者の構想力と戦略構築力である。投資家はここを見極めたいと思ってい
るのである。
認知の歪みをわきまえる
・私たちは罠にひっかかりやすい。「マネーの進化史」(ニーアル・ファーガソン)に出
てくる行動ファイナンスで有名な認知の歪みを題材に、投資家と企業の IR について考えて
みる。
・機関投資家は何か客観的なデータを求める。経営者の主観的な洞察は極めて大事である
が、それが的確であるかどうかは後にならないと分らない。後で分っても投資判断には役
立たない。今ヒントになるようなデータを知りたいと考える。そうすると、すぐ使えるデ
ータだけで判断してしまう可能性がある。利用可能なデータバイアスが発生する。データ
の持っている意味と限界について、よく会話していく必要がある。
・予想外のことが起きた時に、自己を正当化しようという行動がつい出てきてしまう。経
営者の経営判断や投資家の投資判断にあたって、その予想外のことが、事象としてはあり
うると検討されたうえで、その起きる可能性は低いと判断したならまだ救われるが、そん
な事態が起きるとはそもそも考慮の対象にしていなかったとなると、状況は厳しくなる。
とりわけ、悪い事態が起きた時に、そうなると思っていたと後知恵で自己を正当化しよう
とすると、その内容がみえみえの継ぎはぎ話になってしまうので、お互いの信頼関係にヒ
ビが入ってしまうことになりかねない。
・頭の良い投資家は、何事にもすべて分った気になりたいという習性がある。不確実で分
らないことは不安をかきたてるので、何とか理解してスッキリしたいと思う。その 1 つの
結果として、特定の事象をみてすぐに一般化し、法則のように考えてしまいがちである。
同業他社の事例を見て、この会社についても同じではないかと疑ってしまう。この帰納性
バイアスについては、わが社の独自性について、よくよく説明しておかないと思わぬ情報
が流布されてしまうことにもなる。
・起こりそうなことを高く見積もり、起こりそうにないことを低く見積もるという連続性
の錯誤もよく起きる。とりわけ、起こりそうもないことは起こらないという判断は、テー
ルリスクの無視にもつながるので、企業経営にとっては深刻な事態を招く。投資家は疑り
深いが割り切りも早いので、起きそうもないことに対しても、必要な手は打ってあるとい
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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投資家が企業の理解を深めるために
IRアナリストレポート
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う説明は説得力を持つ。
・逆に、被害や犠牲に関して、規模を無視して考えるということもよく起きる。範囲無視
のバイアスである。マスコミ情報などにもみられるが、それが鵜呑みにされないように、
影響の度合いについて何らかの蓋然性を提供する必要がある。事態がはっきりしない時に
迂闊なことは言えないが、現況と次の状況について、頭の体操としての会話がほしいと投
資家は考える。
・うっかりするとここに感情が入ってくる。初めの感情でコストや効果を判断するかもし
れない(感情バイアス)。最初に思いこんだことを守ろうとすることもありうる(確証バ
イアス)。新しい情報を重要視しすぎる(混入バイアス)。判断基準を狭くしてごちゃ混
ぜにすること(測定基準のバイアス)もありうる。
・ある範囲を超えてくると、個人の責任、個別企業の責任を放棄してしまうということも
起こりかねない。社会の問題、集団の責任であって、自らの範囲を超えていると逃げてし
まう傍観者のバイアスである。
・人が物事を認知する時には、何らかのバイアス(歪み)が必ずといっていいほど入り込
んでくる。最後は主観的な判断にまかせればよいのであるが、この歪みが情報のミスマッ
チや判断の間違いを招くとすれば、事前に手を打っていく必要がある。自分の都合のよい
方に誘導するという意味ではい。状況をよく理解してもらうことである。その事態がマー
ケットに織り込まれれば、投資家はいつまでも拘ることなく、次の手を打っていく。つま
り売りもあれば買いもあるのである。
業績予想をどう活用するか
・上場会社は、通常、今期の業績予想を公表する。決算短信にそれが記載されているので、
関心ある人は誰でも見られる。会社側の見通しは機会あるごとに新聞、雑誌、TVなどの
メディアで取り上げられる。投資家にとっては何とも便利である。
・それでは、会社側の業績見通しが一切公表されなかったらどうであろうか。まずは実績
で判断するしかない。しかし、実績をみても将来はわからないと言われそうである。会社
が自信を持って説明できるのは実績であるから、実績をきちんと理解すれば、その会社の
将来を見通すうえで、ヒントは得られそうである。
・では、見通しは当るのか。多くの場合、予測は当たらない。予測が当らない理由は 2 つ
ある。1 つは、自社の経営ではコントロールできない外部環境の変化によって、大きな影響
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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を受けることである。為替や原油価格などに大きな変動があると、短期的には対応できな
いので、業績の予測を狂わすことになる。その場合はせめて、感度分析(センシティビテ
ィ)は知っておきたい。
・もう 1 つは、自社のマネジメントとして手を打ったことが上手くいかず、予定の成果を
上げられない場合である。競争相手に負けて売上げが伸びない、生産コストが下がらずコ
スト負担が増えた、新商品サービスの開発が遅れたなど、さまざまなことが起きる。こう
した場合は、次の手を打って挽回できることもあるので、そこを知りたい。
・そうすると経営者はどういう予想を出してくるか。社内の思い切り高い目標をそのまま
公表数字にする会社はない。かといって、極めて慎重な数字を立てて、大幅減益を発表す
ることもありえない。とすると、前期と比較して、そこそこプラス、マイナスという数字
に落ち着きそうな気もする。
・これでは投資家として面白くない。もう少しメリハリの利いた業績予想がほしいと思う
のである。それが、投資家心理であるが、ここに注意する必要がある。自分がよいと思う
会社には過大な期待をし、そうでない会社は、過小評価してしまいがちである。
・もっと大事なことは、1 年先の業績予想にすぎないという点である。次の 1 年で会社の全
てが決まってしまうわけではない。3 年先、5 年先、10 年先を考えて、経営者はマネジメン
トにあたっており、投資家もその内容を知りたいと思う。
・ここからが問題である。今や四半期決算である。四半期毎に業績をチェックしていくこ
とは重要であるが、投資家全員で四半期をみて、業績評価をして、それで株価を判断して
いたら、限りなく短期志向になってしまう。それでは、日本が得意としてきたはずの長期
経営のよさがどんどん薄れてしまう。実際、そういう傾向が出ている。
・しかし、異論もある。足元も当らないのに、長期が見通せるはずがないという反論が必
ず出てくる。確かにその通りで、足元を 1 つ 1 つチェックしていくというのは、必要なこ
とである。それによって、株価が上下するならば、その上下で儲けたいという投資家も少
なからずいる。
・一方で、皆が短期志向の中で、8 年先までの業績予想を独自に行って、それをベースに企
業評価を実施し、相対的に良好なパフォーマンスを上げている有力機関投資家もいる。長
期の視点を持ちながら、短期のイベントを追いかけるヘッジファンドもいる。多様な投資
家がいることはマーケットにとって重要である。個人投資家でも、中長期の視点で、会社
を見る目を養えば、機関投資家に十分対抗することはできる。
・今回の 3 月決算の発表では、従来と違った決算発表を行う会社も出てきた。東証のルー
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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ルが変更されて、今期の業績見通しについて自由度が高まったからである。多くの会社が
従来通りの業績見通しを発表しようが、それとは別に、その会社の実態に合った KPI(重要
業績指標)を発表してくる会社も出てきた。逆に、将来ははっきり分からないといって、
公表してこない会社が増えてくるかもしれない。
・投資家は、会社側が公表する今期の業績を 1 つの重要なヒントがあると受け止めつつ、
それに捉われることなく、その会社の実態をよく知る必要がある。そのためには、何より
もトップマネジメントの話を聴くことである。そういう機会は結構あるので、視野を広げ
ておきたい。
新しいアナリストの台頭に向けて
・3 月に開かれた日本IR(インベスター・リレーションズ)学会で、「業績予想開示の現
状と問題点」というテーマのシンポジウムがあった。その中で、アナリストの劣化がみられ
るのではないか、という指摘があった。この点にふれながらシンポジウムの論点について
考えたい。
・横河電機の八木氏(前 CFO)は、会社が公表する業績予想は投資家のためではあるが、会
社としての公式予想として社員、組合にも説明しているものであるという。会社の意思を
示しており、さまざまなステークホルダーにとって大事な指標となっている。アナリスト
が過去を分析するのは、将来を知るためである。終わったことよりも、今後を知りたいの
で、会社側の計画がどのように組み立てられているかをよく理解したいのである。
・JP モルガン・アセット・マネジメント(JPMAM)の新井氏は、投資判断に当たって会社の
業績予想は使わないので、無理に業績予想の数字を出さなくてもよいという。会社の出す
業績予想が当たるかといえば、1 年が終わって振り返ると、そう簡単には当たっていない。
それではアナリストが出す予想が当るかといえば、これも同じようにかなり難しい。アナ
リスト予想は当てるために出しているが、結果はなかなか当たらない。当てるべく最大限
の努力をしているはずであるから、予想数字とともにその中身をよくみる必要がある。
・一方で、アナリストの予想は多くの場合、会社予想とさほど違わないではないかという
指摘がある。もう少し言えば、現在の会社予想をこの後、会社側が上方修正するのか、下
方修正するのかを当てにいっているという意見もある。会社側のスタンスを読んでいるの
で、これも1つの重要な情報ではある。大きく上方修正、または下方修正をするならば、
株価はそれを織り込んで動く。ヘッジファンドなら、その株価の動きを先取りしたいと考
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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えるのは合理的な行動である。
・JPAM のアナリストは、投資対象とする会社の業績予想を 8 期(8 年)分作る。こうなる
と、会社の今期予想は 1 年のみだから、さして役に立たない。東洋経済の四季報には 2 年
分の予想が載っているが、2 年目については彼らの独自予想である。証券会社のアナリスト
の中には、3 年予想を行っている会社もある。そうなると会社予想に頼ることは難しくなり、
自らの判断が頼りとなる。つまり、2 年以上の長い業績予想は独自のものにならざるを得な
い。
・しかし、遠い将来よりも、足元の現実を見る方が確かである、という見方も有力である。
会社は四半期ごとに実績を公表するので、それを見ながら微調整していけばよいという考
えである。それならばアナリストの今期予想はさほど価値がない。会社予想に任せておけ
ばよい、ということになる。
・海外では、日本のように決算短信で今期の業績予想を同じフォーマットで出していると
ころはない。その代りに、何らかのガイダンスを出している。いわばヒント、シグナルを
発しているわけだ。その点では、日本の業績予想の出し方は最も進んでいるという見方も
できる。しかし、将来を見通すに当たっては、不確実な要素も多い。その中で、一律に同
じフォーマットで出すというのは酷であるということもあり、東証では業績予想開示の自
由度を高めようとしている。
・本来、アナリストは何をやるのか。アナリストはまさにアナリシス(分析)を行う。ア
ナリシスの基本は 2 つで、1 つは比較、もう 1 つは予測である。アナリストが担当する会社
の企業価値を評価して、重要な投資判断材料を提供することが使命である。比較すれば違
いがいろいろ分かってくる。予測には定量と定性の双方があり、目先の 1 年ではなく、中
長期を見ていく。ここに、アナリストが本領を発揮すべき土俵がある。
・現実のアナリストは、限られた時間の中で、ビジネスになりそうな投資家のニーズに対
応してサービスを提供していく。そうすると、中長期の深い分析にさく時間が必ずしも十
分ではなく、それよりも当面の機関投資家の要求にきめ細かく応える方が、自分の評価を
高める可能性がある。
・いずれにしても、アナリストの本来ビジネスをもっと拡大してほしいが、現実は厳しい。
しかし、海外投資家を相手にするアナリスト、グローバル投資を行うファンドマネージャ
ーには、中長期の視点を重視しており、ビクともしていない人も多い。ビジネスのすそ野
が狭くなっている中にあって、新しいアナリストの台頭に向けて、切磋琢磨していくこと
が求められる。一方で、アナリストカバレッジは現在 1000 社程度に限られているので、3600
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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社の上場企業にとっては、
投資家に直接働きかける IR 活動がますます重要になってこよう。
投資家は何に投資するのか
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・企業内部における価値創造活動は、一見外部からは見えにくい
・しかし、さまざまなステークホルダーの協力なしに活動は進まない
・株式市場に上場している企業にとっては、投資家の理解を十分得る必要がある
・投資家は、企業の価値創造の仕組み作りにこそ投資するのである
・結果・成果だけでなく、価値創造プロセスこそ理解し、共有したいのである
・戦略とは、新しい価値創造の仕組み(ビジネスモデル)作りのためのストーリーである
・そのストーリーを十分理解できないときにバイアスが生まれ、ステークホールダーとの
共有が生まれれば、その蓋然性(確からしさ)も向上しよう
・また、投資家へのアカウンタビリティは、社内活動の整合性を高めることにもなろう
Belle Investment Research of Japan Inc.
All rights reserved
3.IR活動に求めるもの
投資家の目線で自社を見る
・投資家は常に企業を見る目を養おうと努力している。何事も投資の視点で見て、聴いて、
考えて、感じようとしている。企業のIRはそこに何を訴えていくか。大事なことは投資
家1人ひとりに納得をしてもらうことである。そのためには、投資家の目線で自社を見直
してみる必要があり、そこから新しい工夫が浮かんでこよう。
・1 つは、企業家の気持ちを知ってもらうことである。若い会社であれば、創業者の思いと
体験、将来の方向を自分の言葉で語ることである。思いはなかなか伝わらないが、抽象的
な思いをいかにビジネスとして、実践していくか。ここに落とし込むところがポイントで
ある。
・2 つは、自社のサステナビリティについて、本業の戦略として語ることである。CSR や ESG
を独立した項目として説明しようとしても、投資家はさして興味を示さない。それが本業
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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のビジネスにどう結びついており、長期的に業績に貢献してくるかを示す必要がある。
・3 つ目は、自社の会計の仕組みについて、丁寧に語ることである。会計のルールはもとも
と決まっているのだから、それに従っているだけである、という態度では十分な理解は得
られない。自分の会社の業績を測る仕組みをどのように工夫しているか、どこを注目して
もらいたいかはきちんと訴えてほしい。とりわけ、国際財務報告基準(IFRS)と比べた時
に、自社の業績の見え方に変化はあるのかないのか、投資家としてはぜひ知りたいところ
である。
・4 つ目として、投資家は、経営者の経営力が本物かどうかを知りたいと思っているので、
経営者のリーダーシップとともに、会社としての組織能力をいかに高めているかを訴えて
いく必要がある。とかく、自社の商品やサービスにばかり目がいってしまうが、それを生
み出す仕組み、お客様に届けるバリューチェーンについて、その独自性をどのように作り
上げているかを分かってもらう必要がある。
・5 つ目は、今のマーケットの規模にとらわれずに、新しいマーケットとそこでのポジショ
ニングの取り方について、実行戦略を語ることである。例えば何%のシェアをとるという
ような単なる目標の細分化ではなく、そのために何をどのように実践していくのかを知り
たい。戦略上明らかにしたくないことは話す必要はないが、トップマネジメントがどうし
ていくかの実感を知りたいのである。
・6 つ目は、自社のゲームのルールを良く説明してほしい。自分たちは、強いと訴えていて
も、市場環境は新しい競争相手の登場で大きく変わってしまうことがよくある。今のゲー
ムのルールが将来どう変化していくのか、その時に向けてどのような準備をしているのか
を語る必要がある。ここがはっきりしないと、投資家はその会社に自信がもてない。
・7 つ目は、自分の会社のどこが新興勢力となるのかをアピールしてほしい。どの会社にも
必ず新陳代謝が見られる。古いものを壊して、新しいものに入れかえていくマネジメント
が躍動していると、その会社に期待がもてる。新しい動きを絶えず訴えていくことが求め
られる。
・こうした内容はすぐに今期の業績に結び付くわけでない。投資家によっては関心を示さ
ないかもしれない。しかし、なるほど分かった、という気分になってもらうことが、大事
である。そうなれば、その会社が今までと違って見えてくるので、一歩前進である。
・機関投資家が、自社のことを既によく知っていると思わないでほしい。知っている人も
いるが、まだよくわかっていない人も多い。何人のファンを増やしていくか。投資家はま
だ人の知らないことを知りたいと思っている。インサイダー情報ではない。会社の動きを
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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独自に分析したインサイト(洞察)が重要である。そうすると、その会社に対して自信が
もてるようになる。IR 部門としては、投資家に納得してもらい、面白そうな会社であると
絶えず引っ張って行くパワーを身につけてほしい。
わが社がどこにいるのか
・多くの上場企業は、自らの業種分類に満足しているだろうか。不満のある企業も多いと
思う。自社の属する業種(セクター)は何ですかと聞かれて、自動車部品です、化学です、
小売りですと答えても、たぶん会社のイメージはわかない。もっと細かく答える必要が出
てくる。その一方で、既存の分類では分けきれず、1 業種 1 社というような会社も多い。
・セクター分類というのは、本来そのセクターに共通した産業特性があり、それが企業を
理解する上でも役に立ち、同業他社との比較を通して、その企業への理解が進むものと考
えられる。
・もう 1 つ別の視点がある。その会社は今後どの市場で勝負していくのか、新しく戦う土
俵を知りたいという時にもセクターは気になる。新しく伸びる市場は既存のセクターに入
り切れないことも多いので、別の定義が必要になることもある。その場合でも、これから
勝負するマーケットがどのような市場であるかを、できるだけ大きな視点から俯瞰してお
く必要がある。
・例えば、2010 年に政府の産業構造ビジョンの中で、日本の成長戦略が示され、7 つの戦
略分野が決定された。産業界の人々が参加して練り上げられたものなので、その内容に異
論はない。誰がみても妥当なところである。むしろ今の政府の問題は、その実行性につい
てリーダーシップが発揮されないところにある。
・7 つの分野とは、①環境・エネルギー(グリーン・イノベーション)、②健康・医療・介
護(ライフ・イノベーション)、③アジア経済成長の取り込み(アジア・イノベーション)、
④観光・地域活性化(ツーリズム・イノベーション)、⑤科学・技術・情報通信(ST・IT
イノベーション)、⑥雇用・人材(ヒューマンキャピタル・イノベーション)、⑦金融(フ
ィナンシャル・イノベーション)である。それ以外でもかまわないが、できるだけフィー
ルドを大きくとらえて、その領域で何らかのイノベーション(仕組み革新)を起こそうと
している、と説明してくれると、その会社や事業の位置付けがはっきりして、印象も強ま
ってくる。
・経済産業省がまとめた 5 つの戦略産業でもかまわない。①インフラ産業(水、鉄道など
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のシステム輸出)、②環境・エネルギー解決産業(スマートコミュニティ、次世代自動車
システムなど)、③医療・介護・健康・子育てサービス産業(公的保険外の分野)、④文
化産業(ファッション、コンテンツ、食、観光など)、⑤先端産業(ロボット・宇宙・ナ
ノテク・バイオ医薬品など)である。どのドメイン(領域)で、自社の戦略的事業を伸ばす
のか、どのようなビジネスモデルを作るのか、そのためにどんな先行投資をしているのか、
などはぜひ知りたいところである。
・大局から実際の事業分野に降りてくれないと、それぞれの企業の特色や位置付け、戦略
分野を的確に掴むことができない。どの企業も他社と同じことはやろうとせず、何らかの
差別化を図っているはずであるから、全く同じような同業他社というのはなかなか存在し
ない。広い意味での類似性をとり上げているだけである。それでも企業の投資価値を評価
するに当っては、‘比較と予測’が基本となる。比較可能性を高めることが、企業価値創
造の仕組みに関するよりよい理解に結び付くからである。
会社のポジショニングに影響するマインド
・機関投資家にはさまざまなタイプの専門家がいるが、ここでは 2 つのタイプに絞って考
えてみよう。タイプ C は、すでに出来上がったものを好むタイプである。タイプ I は、こ
れから作ろうとするものを好むタイプである。どの上場企業も事業の中身を見ると、すで
にがっちり儲けている事業、成長に向けて先行投資をしている事業、成長期に入り利益が
上がり始めた事業、成熟の中で上手くいかなくなってきた事業などがある。
・C タイプの投資家は今儲かっている事業、儲かり始めた事業は前向きに評価するが、先行
投資や事業のリストラについては先行きが読みにくいので後ろ向きの評価をする。I タイプ
の投資家は、儲かっている事業は既に誰にでもわかっているので、面白みはないと考える。
むしろ、先行投資が上手くいくかどうか、リストラがプラスの効果を生むかどうかに着目
し、その成果が数字としてははっきり出ていない局面を好む。
・C タイプはリスク回避型であり、I タイプはリスク選好型ともいえる。では、経営者はど
うであろうか。経営者にもさまざまなタイプの方がいる。リスクに対して保守的な人と、
リスクに対して積極的に立ち向かう人がいそうである。しかし、このような単純な見方で
は、経営者の経営力を見抜くことはできない。ある事業を行う時、経営者は将来をどこま
で読み切っているだろうか。通常は成長が見込めるマーケットに出ようとする。市場を開
拓するために、新しい商品やサービスを提供するための革新的仕組み(イノベーション)
を準備しているはずである。このビジネスモデルのイノベーションがなければ、マーケッ
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トで一定の地位(ポジション)を得ることはできない。
・とすれば、経営者はその新しい仕組みを作り、それを改革しながら洗練し、競争に打ち
勝とうと手を打っていく。提供する商品やサービスの価値を顧客が認め、望ましい対価を
支払ってくれなければ、ビジネスとしてはうまくいかない。わが社はそれができる、わが
社のビジネスは上手くいくと信じて、経営者は新規投資の意思決定をする。それでもマー
ケット環境は刻一刻と変化するので、次々と対応していく必要がある。それが先手先手と
いくか、後手後手になるかによって、勝敗ははっきりしてくる。
・I タイプの投資家は、できるだけ経営者と同じ視点に立って、その会社の事業投資の行方
を見ていこうとする。C タイプの投資家は、経営者が決断し、実行した成果が結果としてみ
えてきた時に、自分の投資行動をとろうとする。企業の IR 活動は、C タイプと I タイプの
投資家にそれぞれ何を訴えていくのか。同じ内容を提供しても反応は異なるから、その見
極めが必要である。
・C タイプの投資家には実績をよく理解してもらう必要がある。先行きに対しては常に不安
をもってみるから、下方修正のリスクについて詳しく説明しておいた方がよいが、得てし
てそのリスク自体を嫌ってしまうかもしれない。I タイプの投資家は、先行投資やリストラ
について、会社がうまくできると確信するファクターを論証していくことである。不確実
な先行きに対して信頼を得るには、経営者の思いと戦略構築力を納得してもらうことであ
る。
・1 つの例として、今、誰もが関心をもつファーストリテイリングの柳井社長に対して、機
関投資家がどう思うかを聞いてみると、C タイプか I タイプかの違いがはっきり出るかもし
れない。同時に自社の経営者を柳井社長と比べた場合、どのくらい保守的か積極的かとい
うスタンスを知っておくことも重要であろう。どちらがよい、悪いということではない。
会社の位置付け(ポジショニング)を説明して分かってもらう時に、通常はなかなか表面
に出てこない経営者のスタンスと投資家のマインドを理解しておきたい。実はここに本質
的な部分が隠れているからである。
株式投資のスタイル
・自分の会社の株は、機関投資家からどのように見られているのだろうか。彼らに聞いて
もなかなか本当のところは言わないかもしれない。人によって見方は異なるから、一人二
人の意見だけを鵜呑みにしないほうがよい。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
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・2 つの軸で分けてみると、その特性によって、4 つに分けられる。企業の成長性を横軸、
持続性を縦軸にとってみると、①成長性があって、持続性もある企業の株は成長株、②成
長性は乏しいが、持続性がある株は割安株、③当面の成長性はありそうだが、持続性が乏
しい株は材料株、④成長性も持続性も乏しい株は辛苦株といえる。辛苦株とはあまり聞か
ないが、当方で名付けたものである。ここで言う持続性は、狭い意味のサステナビリティ
(いわゆる ESG や CSR)を言っているのではなく、もっと広義の企業の持続性を意味してい
る。
・4 つの象限への分け方は定量的なデータでも可能だが、ここでは主観的にみてもらえば十
分である。企業の栄枯盛衰を順番で言えば、何らかの成長性を手に入れた企業が材料株と
なり、それが持続しそうであると成長株になり、成長性が鈍っても収益性ががっちり確保
できるなら割安株になり、収益性が崩れてくると辛苦株になる。苦しい局面に追い込まれ
ても、また新しいイノベーション(仕組み作り)に挑戦して、材料株に戻ってくることも
できる。
・単純なパターンではあるが、1 つのサイクルは想定できる。一番厳しい時には、辛苦株か
ら上場廃止に至ってしまう。どの会社も将来成長のドライバー(牽引力)になりそうな材料
はいろいろ持っている。本当にモノになるかどうかはまだわからない。そういう局面では、
その材料が差別的優位性をもって、収益に大きく貢献してくるかどうかの蓋然性(確から
しさ)が問われる。成長株の場合はどこまで伸びるかということも大事だが、何よりも、
その成長がいつ崩れるかに関心が集まる。成長性が鈍っても金のなる木にしっかり育って
いれば割安株になりうるが、一気に崩れる場合も多く、その場合は直ちに辛苦株になって
しまう。
・機関投資家の中の株式ファンドマネージャーは普通、グロースタイプかバリュータイプ
かに分けられる。成長株を投資の中心に据えるグロースマネジャーと、割安株に投資する
バリューマネジャーである。ヘッジファンドにもいろいろなタイプの投資家がおり、成長
だろうが割安だろうが、何か株価に影響を与えそうなイベントを材料に、それを先読みし
て、ストラテジーを立てる人もいる。イベント・ドリブンの投資スタイルである。あるイ
ベントを想定して投資するので、早い場合はあっという間に売り買いを終わらせるし、逆
に十分長い場合もある。
・投資スタイルによって、企業に対する関心は異なるので、自社の株式のタイプをさまざ
まな角度から眺めてみる必要があろう。株価はまさにその時の価格(時価)であって、価格
形成はタイムリー・ディスクロージャーをベースに公正になされる必要がある。フロント
ランニングやインサイダー情報による取引、価格のマニピュレーション(人為的操作)は許
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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投資家が企業の理解を深めるために
IRアナリストレポート
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されない。しかし、そこで形成された株価が妥当な株価であるかといえば、そんなことは
ない。何が妥当かどうかは人によって異なる。市場は妥当株価を求めてはいるが、それぞ
れの場面でいつもフラクチュエートしている。その一方で、何らかの情報を織り込むよう
な水準訂正は割と一気に進む。企業の IR 担当者も、自社のこうした株価変動の特徴につい
て、是非理解を深めてほしいと思う。
投資家は何に投資するのか
・さまざまな投資対象(アセットクラス)がある中で、株式にしぼって考えてみる。株式
に投資するのは、株価の値上がりと配当の増加を期待する。キャピタルゲインとインカム
ゲインで儲けを狙っている。当然である。では、リターン(投資収益)はどうすればあげ
られるのか。会社の株式に投資するわけだから、その会社が利益を上げてくれなければ話
にならない。
・会社の利益は多いほどよいし、利益率は高いほどよい。そして、それが長続きするほど、
株式のリターンも大きくなりそうである。問題は事前にそれがわかるかどうかである。普
通はなかなかわからない。例えば、30 年以上前、コンビニのセブンイレブンが登場した時、
あるいはセブンイレブンが十分知れ渡った時ですら、その後これほどまでに成長すると見
越してずっと投資を継続した投資家は少ないと思う。
・上場企業は、上場するに当って、すでに何らかの強みを有している。それを収益源とし
て利益をあげていく。その利益をあげる仕組みを商品やサービスから見ていくと一見分り
やすそうだが、将来を予想するのは簡単ではない。商品やサービスはそのままではすぐに
陳腐化していくからである。現在有している強みも、市場の変化に合わせて適合させない
と生き残ることはできない。今ある強みを次世代の強みに進化させることが求められる。
全ての企業がそれに挑んでいるが、成果に結び付く会社は必ずしも多くない。
・この利益をあげる仕組みがビジネスモデルである。多くの上場企業のIR部門は、自社
のさまざまな側面に光を当てて会社を説明しようとするが、その会社の根幹であるビジネ
スモデルをすっきりとはわからせてくれない。では、ビジネスモデルを理解してもらうの
は難しいのだろうか。そんなことはない。その会社が最も力を入れている企業価値を創造
する仕組み、それがビジネスモデルであるから、理解しにくいということはない。むしろ
あまりはっきり知られたくないという気持ちがあるのかもしれない。
・企業内部の価値創造活動は、一見外部からはみえにくい。しかし、さまざまなステーク
ホルダー(利害関係者)の協力なしに活動は進まない。株式市場に上場している企業にとっ
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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ては、投資家の理解を十分に得る必要がある。投資家は企業価値創造の仕組み作りにこそ
投資するのである。会社業績の結果や成果だけでなく、価値創造のプロセスを理解したい
し、それを共有したいのである。
3 年ローリングのすすめ
・3600 社の上場会社のうち、どのくらいの会社が IR に積極的なのだろうか。はっきりした
データは持ち合わせていないが、時価総額の大きい会社は、自ら会社説明会や機関投資家
向けの個別対応を行っている。アナリスト協会の会社説明会や IR 会社のセッティングサー
ビスを利用している会社も多い。自社で対応している会社が 1000 社、外部のサービスを利
用している会社が 1000 社、それを受け止めるセルサイドのアナリスト数は 1000 人程度で
あろう。
・企業の IR 担当者はその活動を通して、投資家、アナリストに自社の内容をよく理解して
ほしいと思うが、必ずしも十分ではない。四半期決算や今期の業績コメントだけでは不十
分である。多くの投資家は足元を確認した上で、その先を知りたい。中期計画を策定して
いる会社はかなり具体的に進捗状況を説明できるが、それでも多くの場合、中期計画その
ものが時間の経過につれて、実績とのかい離という点で狂ってくる。
・中期計画を具体的に公表していない場合は、中期経営方針を語ることになる。これも極
めて大事である。その中に KPI(重要業績指標)が明示されていれば、投資家の理解も得や
すくなる。KPI が示されない場合は、話が抽象的になり、なかなか説得力を持ちにくい場合
が多い。そうなると投資家の関心は薄れていく。
・その時にどうするか。どの企業でも必ず予算や計画というのは有しているので、それを 3
ヵ年のローリングで毎年見直していくことが、効果的である。全てを公表する必要はない
が、そうした計画をもってマネジメントされていると、話に説得力が出てくる。投資家は
どうしても短期的になりがちである。企業でもはっきりしているのは実績と目先の予想で
ある。双方の関心が短期に偏りがちである。
・短期志向を打破して、その先の中長期について、上手くコミュニケーションしていくに
は、3 ヵ年程度の達成すべき目標をはっきりさせ、その裏付けとしての実行戦略について具
体的に会話することが有効である。アナリストとしては、そこが知りたいからである。1 年
ごとにリニューして、ローリングしていくと、足元の変化に対応しつつ、どのように手を
打っていくかもよくわかるので、マネジメントへの信頼が増す。中長期の投資家を育てて
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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いく上でも、会社側のこうした姿勢が大きく貢献していこう。
ゲームのルールを作る
・投資家は、企業がどんな事業活動を行っているかを知りたい。その時、その会社が行っ
ている事業がどんな市場にいるのか。その市場ではどのようなルールが支配しているのか
に強い関心がある。
・今まで強い地位を占めていると思っても、突然ゲームのルールが変わっていくことも多
い。古いビジネス慣行にしがみついていると、新しいやり方で攻められたときに一気に苦
しくなるからである。ゲームのルールを守るよりも、新しいゲームのルールを作る方に回
るべく、絶えず挑戦していくことが求められる。
・コンピュータゲームでその例を考えてみよう。コンピュータゲームは拡大の一途をたど
っていきた。具体的には、ハードウェア(ゲーム機)とアプリ(ゲームソフト)の内容(コ
ンテンツ)にある。当初は 1 ゲーム 1 台の機械がアーケード(ゲーム専門店)でスタート、
次に、ファミコンに代表される家庭用ゲーム機が登場した。90 年代前半に家電メーカーが
ゲームコンソール(ハード)に参入、2000 年の PS2 からゲーム機であると同時に DVD プレ
ーヤーも兼用できるようになり、ハイブリッド化していった。
・2000 年前半にケータイに i モードが入った。ここでもゲームができるようになった。ゲ
ームが専用機でなく、PC はもちろんケータイでもできるようになり、ゲームコストが大幅
にダウンした。顧客のエントリーバリア(ゲームを最初に始める時の敷居)が下がったの
で、やる気満々のゲーム愛好家ではなく、ちょこちょこゲームをやるカジュアルユーザー
が増えてきた。
・初めてゲームをする人びとの市場が伸びる中で、「ゲームの約束(慣例)が崩れていく」
(スクウェア・エニックス和田社長)のである。ゲーム業界は現在第 3 の局面に入ってい
る。第 1 の局面が、プロセッシング・パワー(ハードの処理能力)が成長のドラーバー(牽
引力)となった時代である。第 2 の局面がコントローラーやハンドヘルドなどのインプッ
トの装置がドライバーとなった時期である。タッチやモーションがゲームにおける遊びの
幅を広げた。ただ、それが行き渡ってしまうと、差別化にはならない。
・このようにビジネスモデルが変革していく。①価格が従量課金(使っただけ支払う)か
ら定額制(ソフト・アプリ購入代金)になり、②それがネット対応で、マイクロペイント
(随時課金)になってきた。顧客は自分の満足度に見合って、お金を支払うようになった。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
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ゲームを作る側も、それを前提に作る必要がある。つまり、ゲームのコンテンツのポイン
トが変わってきたのである。価値のシフトが起きている。顧客は再生できないものに対し
て価値を見出し、お金を払う。自らの経験に対して価値を見出す。これはエクスペリエン
ス・バリュー(experience value、経験価値)と位置づけられる。
・ゲームはルールのあるコミュニケーションである。クラウド化時代になるとユーザーの
コストは一段と下がる。ゲームがゲーム業界に留まらず、他のエンターテイメントとの真
っ向からの勝負にもなってくる。新しいビジネスモデル作りのイノベーションに大いに注
目したい。
・その企業が属する産業が現在、勃興期にいるのか、成長期にいるのか、成熟期にいるの
か、衰退期にいるのか、をはっきり見定めたいと投資家は考える。そうした局面にあって、
どういうビジネスモデル(価値創造のしくみ)を確立しているのか、を理解しようとする。
・次に、現状をどのように突破して新しいステージに行くのか。その突破力を見定めるこ
とが、大きな投資判断である。企業も勝負に出るが、投資家も同じようにその企業に賭け
る。新しいゲームのルールをリードして確立できれば、優位なポジショニングができるの
で、事業展開はますます面白くなろう。
企業の経営力をみせる
・家電量販店は今後どう勝ち残っていくか。太陽光発電の販売に出ていく、電気自動車を
売る、中国に本格出店するなど、さまざまな手立てがありうる。ただ、これからは消費者
が単にモノを買う時代ではなくなりそうである。家電量販店もモノを売るだけでは成り立
たなくなるかもしれない。顧客は商品やサービスの機能を求めているのであって、その機
能に価値を見出してお金を払ってくれる。
・つまり機能を提供して、その機能の利用に見合って料金をもらうのである。実際、モノ
を売るのではなく、何らかのエコシステムいう機能を提供し、その使った分に見合う使用
料をいただくという課金システムが成り立つかもしれない。あるいは、サービスに見合っ
た料金を継続的に一定期間もらうという形もありうる。パソコン・クリニックの PC デポ(ピ
ーシーデポコーポレーション)では、物販よりもそうしたサービス収入の粗利の方が多くな
っている。
・1995 年の家電量販店のトップはベスト電器、2 位が上新電機、3 位がコジマであった。そ
れが 2000 年には 1 位がコジマ、2 位がヤマダ電機、3 位はヨドバシカメラとなった。そし
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て 2010 年には 1 位がヤマダ電機、2 位がエディオン、3 位がケーズデンキと大きく入れ替
わった。経営戦略の巧拙が影響した。ケーズホールディングスの加藤会長(CEO)は、結果を
優先させるのではなく、会社が健康になるような施策に重点のおくべしという。それを、
「がんばらない経営」と名付けている(日経ビジネス、2012.2.13)
・家電量販店の PBR(株価純資産倍率)が 1 を下回っているとすれば、今のマーケット環境
にあって割安になっているという見方ができる一方で、将来の成長機会が現状の延長では
乏しいのではないかという懸念がある。それに対して、「商品を売るのではなく、機能を
売っていく」、「サービスを継続的に提供していく」というビジネスモデルの革新に挑戦
していければ、全く新しい仕組みになる。
・伊丹教授(東京理科大学大学院イノベーション研究科)は、経営戦略とは長期的な基本設
計図であり、イノベーションを起こすには主張を持って、未知のニーズを掘り当てること
であるという。経営者の決断は常に作用と反作用を生むが、それに挑戦しなければ新しい
道は拓けない。現状の延長線上ではなく、ビジネスモデルの革新をいかに起こそうとして
いるか。これが経営者の経営力を見るポイントであろう。
・通信や電力のような業界には、使っただけ支払うという課金システムはある。ケータイ、
スマホはその典型である。スマホ時代に新しい e ビジネスを展開し、従来の家電量販店と
いう枠にとどまらないビジネスモデル(企業価値創造の仕組み)を構築できるかどうかに
注目したい。
・機関投資家はたえずリスクを管理できるようにしたい。平時と有事を分けて考え、リス
クと不確実を分けて、ものごとをみる。今が平時か変事かを判断するのは嗅覚である。有
事には、平時の判断や方法が通用しないので、マックスミニの原理で最悪の事態に備えよ
うとする。一方、平時には分散投資で、リスクを軽減することができる。勝負する時は自
信を持って行動する。そして、外れたと思ったら、すぐに引く。よくわからない時はアン
テナ程度にする。チャンスは 1 年に数回、数年に 1 回である。普段から判断の訓練をして
いないと、肝心な時に動けない。そういう投資家に、企業の経営力をみせるIRの工夫が
ぜひとも必要であろう。
上場企業が克服すべきハードル
・機関投資家は、どのくらいのサイズの上場企業を投資対象とするのだろうか。サイズは
関係ない、企業の魅力がポイントである、という見方は、その通りである。しかし、現実
には流動性の問題から、サイズには一定の制約がある。一般に小さい企業は、機関投資家
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
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の投資対象にはなりにくい。
・3600 社の上場企業を時価総額でみると、つぎのように分類される。第 1 群は時価総額 3000
億円以上で、180 社ほどある。第 2 群は 500 億円~3000 億円で 520 社程度ある。この 1 群、
2 群で 700 社あり、機関投資家が主に対象とする企業である。ということは、時価総額で
500 億円以上は必要である。
・時価総額で 500 億円以上の企業になるには、PER15 倍として、経常利益 60 億円を目指せ
るビジネスモデルであるかどうかが問われる。そうであるならば、機関投資家はその企業
に注目してくる可能性が高い。
・第 3 群は時価総額 200 億円~500 億円で、500 社ほどある。第 4 群は時価総額 100 億円~
200 億円で 460 社程度である。機関投資家が投資対象にするにはやや小さい。でも、成長企
業であれば可能性はある。一般には、個人投資家が主流となる企業である。時価総額 100
億円、PER10 倍すると経常利益で 20 億円が目指せるビジネスモデルであるかどうかが問わ
れる。
・第 5 群は時価総額 100 億円以下で、約 2000 社弱ある。時価総額 30 億円以上で 1000 社弱、
30 億円以下で 1000 社弱という割合である。上場の時の東証マザーズの 1 つの条件である時
価総額 10 億円でみると、10 億円以下の企業が 200 社ある。同じく東証 1 部の条件である時
価総額 20 億円でみると、10~20 億円の企業が 400 社ほどある。
・第 5 群の平均時価総額は 30 億円である。30 億円で個人投資家に着目されるには、PBR1.0
倍として、自己資本 30 億円となる。ROE で 10%は求められるので、経常利益 5 億円はほし
い。配当傾向 50%として、配当利回り 5%を安定的に確保することが求められる。
・実際、超小型企業でいえば、食品原料を手掛ける商社のオーウイル(コード 3143)は時
価総額 19 億円、自己資本 14 億円であるが、ROE は 10%をこえており、配当利回りは 5%を安
定的に確保している。
・上場会社は、まず次のハードルをチェックする必要がある。①PBR が 1.0 を割っていると
すれば、その理由に手を打てるか、②ROE8%以上をどうやって目指すか、③PER が割高、割
安であるとすれば、それに応えることはできるか、④配当利回りで安定的に 5%を目指せる
か、という点である。
・IR の担当者としては、株式市場での現在の評価を理解したうえで、自社の何がアピール
不足なのか、あるいは自社の経営に何が不足しているかを知る必要がある。その上で経営
のトップは、自社の企業価値創造の仕組みを革新的なビジネスモデル(イノベーティブ・
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
の見解を述べたもので、許可無く使用してはならない。
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ビジネス・モデル、IBM)に再構築すべく、必死に取り組んでほしい。
・機関投資家は、その実行戦略を知りたい。IR の責任者は、その中身についてステークホ
ルダーとよくコミュニケーションしていくことが求められる。マーケットでの理解が得ら
れていくにつれて、会社の実態が株価に反映されていく可能性が大きく高まってこよう。
フェアバリューを求める相互作用は長期的に続くのである。
まとめ ~ 見抜く目を養う
・ビジネスモデルのイノベーションは狭い意味の企業に限る必要はない。公共体や非営利
組織など、何らかの社会的価値(ソーシャルバリュー)を提供する組織体にもいえる。そ
の組織が提供する社会的価値が持続的に貢献していくには、社会的なビジネスモデルの構
築と革新の推進が欠かせない。
・ソーシャルビジネスに活躍の場を提供するインフラをサポートする仕組みの充実も求め
られる。官であれ、民であれ、NPO であれ、組織、人材の新陳代謝を促進する必要がある。
そのために、あらゆる組織は R&D(研究開発)を実践する必要があろう。新しい実験をして
若い人々に挑戦の機会を作っていくべきである。
・もう 1 つは、訓練された戦う組織を作ることである。震災、津波にあって、訓練された
人々がさまざまな形で活躍した。起きそうもないことが起きる場面に徹底的に備える必要
があり、それは訓練によって磨かれていく。
・我々投資家も、不断の訓練と実践を通して、企業を応援していきたい。当然リターンを
追求していくが、そのためにも企業と市場を見抜く目を養っておきたいと思う。
本レポートは、独自の視点から書いており、基本的に会社側の立場に立つものではない。本レポートは、投資家の当該
企業に対する理解促進をサポートすることを目的としており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではない。内容に
ついては、担当アナリストが全責任を持つが、投資家の投資判断については一切関知しない。本レポートは上記作成者
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