テニスラケットのストリングベッドの動的力学特性 に

テニスラケットのストリングベッドの動的力学特性
に与えるストリングの直径の影響
Effect of the string diameter on dynamics characteristic
of the string bed of tennis rackets
筑波大学大学院
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程1年
名久井 基歩
松田 昭博(筑波大), 橋口 友洋(ミズノ株式会社)
テニスラケットおよびストリングの概要
競技者がストリング(ストリングベッド)に求める性能
①ボールが良く飛ぶこと
スイートスポット(打球面の中心部)ではないところで打った時にも
相手のコートに返球できる
②打球の回転量が大きくなること
力強くボールを打った場合でも相手のコートの中にボールを
バウンドさせることが出来る
③ストリングが破断しにくいこと
競技頻度が高い場合,ストリングが破断しやすい.
数時間の練習で破断してしまうケースもある.
(経済的な負担が大きくなる)
ミズノ株式会社製
テニスラケット
テニスラケットおよびストリングの概要
打球に回転がかかる要因の一つは,スナップバックと言われている
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
スナップバックとは,
ボールと接触してずれたストリングが
元の位置に戻る際にボールに力を加えることで
ボールに回転がかかる現象
先行研究(Alexander氏ら)
・横糸(Cross Strings)の数
・ストリングの交差点の数
が少ないほど,スナップバックが発生しやすくなり,
打球の回転数が大きくなる
Effect of string bed pattern on ball spin generation from
a tennis racket, Sports Eng (2013)
問題点
スナップバックによりストリングが摩耗することで破断しやすくなる
テニスラケットおよびストリングの概要
問題点
:スナップバックによりストリングが摩耗することで破断しやすくなる
解決案 :ストリングの直径を大きくする
※現在のストリングの直径
1.20~1.35mm
利点①: ストリングの破断が発生しにくい
利点②: ストリングの間隔を広げて使用する必要があるため,
ストリングの本数を削減でき,スナップバックが発生しやすくなる
競技者がストリング(ストリングベッド)に求める性能
②打球の回転量が大きくなること
③ストリングが破断しにくいこと
を満たす可能性がある
研究目的
目的
ストリングの直径がストリングベッドの力学特性に与える影
響を評価し,ストリングの設計範囲の拡大を計る
・ポリエステルストリングの材料特性を評価
方法:ストリングの一軸単調引張試験
・ストリングベッドを再現するための治具を作成
実施項目
・ストリングベッドの静的力学特性を評価
方法:ストリングベッド圧縮試験
・ストリングベッドの動的力学特性を評価
方法:ボールとストリングベッドの反発試験
ストリングベッドを再現するための治具作成
ストリングベッドの剛性のみを検証するため
同一の素材 かつ 対称な形状
の治具を作成した
作成した治具
※実際のテニスラケットを使用してストリングベッドの剛性を計測する場合,
計測値に形状や剛性の影響を受ける
治具の種類
①
②
③
ストリングの間隔
[mm]
12
18
24
ストリングの本数
[縦×横]
16×16
10×10
8×8
※治具①はCALIBER(ミズノ)を参考に作成した
※ストリングベッドの圧縮試験は治具①のみ
治具①にストリングベッドを
作成した時の模式図
ストリングベッドの静的力学特性
[ストリングベッドの静的圧縮試験]
[試験対象]
圧
縮
方
向
東亜ストリング社製 RENCON
直径:1.20mm 1.30mm
縦糸2番目と横糸2番目の交点
荷重-変位関係の傾き
= 交点の剛性𝐾22
初期設定張力:18kg(40lbs)
23kg(50lbs)
試験時の様子
27kg(60lbs)
0.1mm/sec
[試験距離]
5mm
force (N)
[試験速度]
200
[試験点]
X=2,4,6,8 と Y=2,4,6,8の交点
150
100
50
0
(右図枠内16交点)
試験対象模式図
'K22'
'K88'
0
1 2 3 4 5 6
displacement (mm)
荷重-変位関係
ストリングベッドの静的力学特性
[ストリングベッドの静的圧縮試験]
40
1.00
10
横糸8番目について
'Φ1.20_18kg(40lbs)'
'Φ1.20_23kg(50lbs)'
'Φ1.20_27kg(60lbs)'
0
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
x[Vertical string number]
40
Kx8 [N/mm]
30
張力27kg
直径での比較
Rate of Kx8 [100%]
20
20
10
'Φ1.20'
'Φ1.30'
最大値
を
1.0
として
標準化
0.75
0.50
0.25
'Φ1.20_18kg(40lbs)'
'Φ1.20_23kg(50lbs)'
'Φ1.20_27kg(60lbs)'
0.00
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
x [Vertical string number]
1.00
Rate of Kx8 [100%]
Kx8 [N/mm]
直径1.20mm
張力での比較
30
0.75
0.50
0.25
'Φ1.20_27kg(60lbs)'
'Φ1.30_27kg(60lbs)'
0.00
0
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
2
3
4
5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
x[Vertical string number]
x [Vertical string number]
(i)直径が大きなストリングを使用する
(ii)張力を高く設定する
(i)と(ii)がストリングベッドの静的力学特性に与える影響がほぼ等しい
・全交点において剛性が高くなる
・端部と中心部の剛性の差が大きくなる
ストリングベッドの動的特性
[ボールとストリングベッドの反発試験]
試験目的
ストリングの直径がストリングの動的特性(反発係数,打球の回転量など)に与え
る影響の検証
[試験条件]
・東亜ストリング社製 ポリエステルストリング
直径:1.10,1.30,1.60mmの3種類
治具番号
d[mm]
Φ[mm]
1.30
・張力:23kg(50lbs)で作成
・各条件で10球の試験
1.60
𝑉𝑖𝑛
𝑉𝑜𝑢𝑡
変位センサの波形
(テニスボールの位置を計測)
=
𝑒=
②
③
12
18
24
1.10
※1.10mm,1.60mmは今回の試験のために作成
反発係数
①
○
○
○
○
○
○
𝑉𝑜𝑢𝑡
𝑉𝑖𝑛
𝑥 𝑡2 − 𝑥(𝑡1) 𝑚
[ 𝑠]
𝑡2 − 𝑡1
※テニスボールの速度は,
ストリングベッドからの位置2mm地点
と4mm地点の2点を通過した時間から
算出している.
実験系の模式図
ストリングベッドの動的特性
[ボールとストリングベッドの反発試験]
Φ : 1.60 mm d : 18 mm
Φ : 1.60 mm d : 24 mm
0°衝突
[共通]
・ストリングベッド全体で変形している
・ボールの回転数にほぼ変化はない
・ボールは進行方向に振動している
[d=24mmのストリングベッド]
ボールに触れていないストリングがずれている
45°衝突
[共通]
・スナップバックが発生
[d=24mmのストリングベッド]
・ストリングの変形量が大きい
ボールとストリングベッドの接触時間
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
直径1.30mm一定
0.000
75
80
85
Vin [km/h]
'Φ1.30_d12'
'Φ1.30_d18'
'Φ1.30_d24'
90
95
Contact time[sec]
Contact time[sec]
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
間隔18mm一定
0.000
75
80
85
Vin [km/h]
'Φ1.10_d18'
'Φ1.30_d18'
'Φ1.60_d18'
90
95
ストリングの間隔が大きくなると…
ストリングの直径を小さくすると…
ストリングベッドの剛性が低下するため,
接触時間が増加した.
静的力学試験の結果より,ストリングベッド
の剛性が低下し,接触時間が増加すると予想
ボールの接触時間は,
使用するストリングの直径よりもストリング
の間隔が影響する可能性が高い
本試験において,使用するストリングの直径
と接触時間に関しては明確な相関は見られな
かった.
1.0
0.8
0.6
'Φ1.30_d12'
'Φ1.30_d18'
'Φ1.30_d24'
'Φ1.60_d18'
'Φ1.60_d24'
0.4
0.2
0.0
75
ストリングの直径 一定
80
85
90
Vin [km/h]
95
Coefficient of restitution
Coefficient of restitution
ボールの入射速度とストリングベッドの反発係数
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
75
'Φ1.10_d18'
'Φ1.30_d18'
'Φ1.60_d18'
間隔18mm一定
80
85
90
95
Vin [km/h]
①すべての条件において,入射速度が大きくなると反発係数が減少している
(剛体壁との衝突における結果と一致)
※参考文献 「剛体壁との衝突における硬式テニスボールの変形と反発係数の測定と解析」
著者:江草氏ら スポーツ産業研究,Vo. 4, No.1(1994),9~18
②ストリングの直径や,ストリングの間隔を変更しても反発係数と入射速度の関係に
大きな差は見られなかった
・直径の大きなストリングを使用したストリングベッド
・ストリング間隔の大きなストリングベッド
は,
現在使用しているストリングベッド(Φ=1.30mmとd=12mm)と同様に使用できる可能性がある
まとめ
目的
ストリングの直径がストリングベッドの力学特性に与える影響を評価し,
ストリングの設計範囲の拡大を計る
①治具の作成
正確にストリングベッドの剛性や反発特性を検証することが出来るようになった.
②ストリングベッドの静的圧縮試験
太いストリングは,張力を調整することによって現在使用しているストリングベッドの剛性を
再現できる可能性があることが分かった
③ボールの反発試験
ストリングの間隔が広く,太いストリングを使用したストリングベッドは,現在使用しているス
トリングベッドと同様な反発性能を持つことが分かった.
結論
垂直衝突において,現在使用されていない大きな直径のストリングの有用性を確認すること
が出来たため,ストリング設計の幅を広げることが出来る可能性を示した
ご清聴ありがとうございました