FCPA(海外腐敗行為防止法)に関する 執行措置について

FCPA(海外腐敗行為防止法)に関する
執行措置について
2009 年 2 月 11 日、KBR, Inc.(以下「KBR」といいます。)の子会社 Kellog, Brown & Root LLC
(以下 「KBR LLC」といいます。)が Foreign Corrupt Practices Act(海外腐敗行為防止法。以
下「FCPA」といいます。)違反により民事及び刑事上の責任を問われていた事件が終結しました。
FCPA 違 反 と さ れ た 行 為 は 、 KBR が 前 の 親 会 社 で あ る Halliburton Company
(以下「Halliburton」といいます。)から独立した 2007 年 4 月よりも以前、およそ 1994 年から
2004 年の間に行われたものです。以下では、FCPA 違反とされた行為、並びに民事及び刑事事件の
解決に至るまでの事案の概要、さらには FCPA の執行措置が有する特殊性について概観します。
事案の概要
KBR LLC は、M.W. Kellogg Company 及び Kellogg, Brown & Root, LLC の全ての関連資産及び
負債を承継した会社です。もともと、M.W. Kellogg Company は Dresser Industries, Inc .の完
全子会社でしたが、1998 年 9 月、Dresser Industries, Inc.は Halliburton と合併しました。その
後 、 1998 年 12 月 、 Brown & Root, Inc. と い う Halliburton の 子 会 社 が
Kellogg, Brown & Root, Inc.に社名変更し、1999 年 1 月、同社と M.W. Kellogg とが合併しまし
た。そして、2006 年 3 月、KBR はデラウェア州で設立され、同年 11 月に新規株式公開を行いまし
た。Halliburton は、KBR 株式の大部分を保有していましたが、2007 年 4 月に同社が保有する
KBR 株式の全てを同社の株主と交換しました。2007 年 4 月 5 日、Halliburton は KBR の分社化に
成 功 し 、 KBR は 独 立 し た 公 開 会 社 と な り ま し た 。 KBR の 分 社 化 を 行 う に 際 し て 、 KBR と
Halliburton は 2006 年 11 月 に 基 本 分 離 契 約 ( Master Separation Agreement ) を 締 結
しました。同契約には、FCPA 違反として KBR が「政府による訴追」の結果罰金等を科せられた場
合、Halliburton が KBR の負担した罰金を補償するという条項が設けられていました。さらに、同
契約には、FCPA の捜査に対する防御や和解についての決定権を Halliburton に与える旨の条項も設
けられていました。
KBR LLC は、液化天然ガス(以下「LNG」といいます。)の製造工場の設計及び建設等を含む、エ
ンジニアリング(Engineering)、あっせん(Procurement)及び建設(Construction)(以下
「EPC」といいます。)のサービスを提供するグローバル企業です。1991 年の初頭、KBR LLC の被
承継会社は 3 つの EPC 会社と提携し、LNG 製造施設をナイジェリアのボニー島に建設することを目
的とした合弁会社を設立しました(以下「ボニー島プロジェクト」といいます。)。当該 4 社の合弁
会社における持分は各25%でした(以下「本件合弁会社」といいます。)。本件合弁会社は、ポル
トガルの特定目的会社 3 社によって運営され、そのうちの 1 社はあるコンサルティング会社と複数
の契約を締結していました。米国司法省及び証券取引委員会(以下、これら政府機関をまとめて「米
国政府」といいます。)は、本件合弁会社が当該コンサルティング会社との複数の契約を利用して、ボ
ニー島プロジェクトの契約を得るために不正な支払いをナイジェリア政府高官に対して行っていたと
発表しました。
不正な支払いに関与したとして最初に問題となったコンサルティング会社は、イギリス人が経営する
ジブラルタルの会社(以下「コンサルタント A」といいます。)でした。米国政府によると、1994
年から 2004 年の間に、本件合弁会社はナイジェリア政府関係者への不正な支払いのために、1 億
3000 万ドルをコンサルタント A に支払ったとのことです。さらに、米国政府は、本件合弁会社は日
1
本のコンサルティング会社(以下「コンサルタント B」といいます。)を使い、ナイジェリア政府当
局者に対して 5000 万ドルを不正に支払ったと発表しました。和解文書に綴じられた書面によると、
コンサルタント A はナイジェリアの政府高官への支払いの為に用いられ、コンサルタント B はそれ
よりも地位の低い政府関係者への支払いに用いられたとのことです。
本件合弁会社は、1995 年に、不正な支払いの対価としてボニー島プロジェクトを受注することに成
功し、2004 年までの間に、4 つのフェーズで構成されるプロジェクトの内容として、天然ガスを源
泉よりパイプで採取し、採取した天然ガスを LNG へ変換し、当該 LNG をタンカーまで運搬すると
いう一連のインフラ(「トレイン」と呼ばれました。)を敷設し、その運営の委託を受けました。そ
のうち第 1 フェーズでは、競争入札の結果、本件合弁会社がトレイン 1 及び 2 の敷設及び運営委託
を受けました。残り 3 つのフェーズについて、本件合弁会社は競争入札を経ることなくトレイン 3
から 6 の敷設及び運営委託を受けました。結局、これら 6 つのトレインの敷設及び運営委託の契約
金は 60 億ドルを超えるものとなりました。
スタンレー氏に関する事件解決
2008 年 9 月 3 日、アルバート “ジャック” スタンレー氏がボニー島プロジェクトに関し、FCPA 違
反の罪を認めました。1994 年から 2004 年の間、スタンレー氏は KBR LLC やその被承継会社の
CEO やチェアマンに就任しました。スタンレー氏はもはや KBR とはいかなる関係も持たない
ものの、スタンレー氏こそ、KBR LLC が責任を負う原因となった FCPA 違反の中核を成す行為をし
た者でした。特に、スタンレー氏が交わした司法取引協定によると、スタンレー氏が KBR や本件合
弁会社の元従業員や政府関係者と「文化的交流(cultural meetings)」を行っていたとのことでし
た。この「文化的交流」において、本件合弁会社は前述したコンサルタントを利用しナイジェリア政
府関係者への不正な支払いを行い、ボニー島プロジェクトの受注を受けるよう工作していたとされて
います。当該コンサルタントと締結した契約に基づくコミッション料は、マーケティング料やアドバ
イス料といった名目で、実際はナイジェリア政府関係者への不正な支払いに充てられていました。ス
タンレー氏及び KBR や本件合弁会社の従業員は、歴代のナイジェリア政府高官と会い、具体的な金
額につき交渉を重ねました。
また、スタンレー氏は、自己にリベートが流れ込むようなスキームを KBR の従業員やコンサルタン
トと共に構築しました。すなわち、スタンレー氏は KBR の元従業員が KBR との間でコンサルティ
ング契約を締結するようアレンジし、その後当該元従業員がコンサルティング料の一部をスタンレー
氏に渡す、というものです。このスキームの下で元コンサルタントに支払われたコンサルティング料
は 4830 万ドルにのぼり、そのうち 1080 万ドルがスタンレー氏のスイス銀行の口座に流入していま
した。
スタンレー氏は最終的に、FCPA 違反行為の共謀及び有線通信不正行為の共謀について罪を認めまし
た。裁判所により受理された司法取引協定によると、スタンレー氏は懲役 7 年及び 1080 万ドルの
返還の処分を受けることになります。さらに、民事手続に関して、証券取引委員会は、スタンレー氏
が同氏に対する1934年証券取引所法の賄賂防止、記録管理及び内部統制条項(Section 30A 及
び 13(b)(5)並びに Rule 13b2-1)違反行為の恒久的差止について同意した判決を登録しました。
会社に関する事件解決
司法省との和解条項
KBR LLC は、1994 年から 2004 年の間に本件合弁会社における他のパートナーとの謀議に関する
FCPA 違反の罪、並びに、コンサルタント A 及び B を通じた不正な支払いについての謀議に関する
FCPA 違反の罪について認めました。
量刑ガイドライン
司法取引協定において明らかにされているされているとおり、司法省は、不法な支払等により得た利益
を基準に、算定の基礎となる罰金額を 2 億 3550 万ドルの罰金と設定しました。有責性に関して、司
法省は以下の要素を各 8 段階評価で検討しています:(a)基礎的有責性(5);(b)KBR LLC は従業
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員 5000 人以上及び上層部の人間が不正行為に関与していたこと(5);(c)KBR LLC は捜査に全面
的に協力し、不正行為につき責任があることを認めたこと(-2)。その結果、司法省は、上記算定基
礎罰金額への掛率を1.6から3.5として罰金額を 3 億 7680 万ドルから 7 億 5360 億ドルと算出
し、最終的に、4 億 200 万ドルを年 4 回、2010 年 10 月までの分割払いで支払うことで合意されま
した。なお、前述した基本分割契約によれば、Halliburton が 3 億 8200 万ドルを支払い、KBR が
2000 万ドルを支払うものとされています。
KBR LLC に対する刑事罰として、両当事者は 3 年間の保護観察につき合意し、KBR は社内に独立し
た監視機関を設置することとなりました。当該監視に関する条項には、3年間にわたる KBR におけ
る司法取引協定の遵守状況及び FCPA のコンプライアンスプログラムに対する評価義務が含まれ、監
視機関から司法省に対する定期的な報告が求められています。
KBR は LNG 契約に関する司法省の今後の捜査及び関係者の訴追について協力することにつき合意し
ました。
司法取引協定に基づき、“Statement of Facts” に記載された不正入札等の司法省が公開または既に
把握していた KBR の行為に関する全ての刑事訴追が解決しました。それとともに、90 年代初頭まで
遡る LNG を巡る不正入札に関する司法省反トラスト局からの刑事訴追についても解決しました。
証券取引委員会との和解条項
証券取引委員会は、不正行為が行われていた時期において親会社であったという理由で Halliburton
を、設立会社で親会社であるという理由で KBR をそれぞれ被告として訴えを提起しました。KBR と
Halliburton はそれぞれに対して下された最終判決に同意した。
Halliburton についての最終判決は民事裁判において下され、以下の FCPA の規定に反する行為が禁じ
られました:

1934年証券取引所法上の会計帳簿の虚偽記載についての規定
(15 U.S.C. § 78m(b)(2)(A)) Section 13(b)(2)(A)

1934年証券取引所法上の内部統制違反についての規定
(15 U.S.C. § 78m(b)(2)(B)) Section 13(b)(2)(B)
また、Halliburton は、同判決に基づき、賄賂の予防及び海外職員の内部統制、記録管理、そして財
務報告政策・方法について再調査・評価するための独立したコンサルタントを雇うことが義務付けら
れました。
KBR に対する最終判決も民事裁判において下され、KBR 及び KBR LLC に対し、以下の 4 つの
FCPA の規定に違反する行為が禁じられました:

1934年証券取引所法上の海外政府関係者の汚職についての規定
Section30A(15 U.S.C. § 78-dd1)Section 13(b)(2)(A)

会計帳簿の虚偽記載についての規定
Section 13(b)(2)(A)(15 U.S.C. § 78m(b)(2)(A))Section 13(b)(2)(A)

内部統制違反についての規定
Section 13(b)(2)(B)(15 U.S.C. § 78m(b)(2)(B))

内部統制違反や記録の改ざんについての規定
Section 13(b)(5) (15 U.S.C. § 78m(b)(5))
3
また、KBR は同判決に基づき、独立した監視機関の設置を義務付けられました。後述するように、
証券取引委員会との間で合意に至った監視機関に関する条項は、司法取引において定められた監視機
関に関する条項といくつかの点で異なっています。
すなわち、上記最終判決では会社に対し罰金の支払いを要求していません。しかしながら、その他の
形式、例えば不正利得の返還という形式により経済的な制裁が科されています。なお、上記した基本
分離契約によれば、Halliburton がボニー島での LNG の契約による利益等に基づき 1 億 7700 万ド
ルを支出するものとされています。したがって、SEC との和解に関して、KBR による支払いはあり
ません。
要点
(1)巨額な罰金
KBR 事件は、近年の FCPA の執行措置と多くの点で共通します。特に、2008 年末、Siemens AG
(以下「シーメンス」といいます。)は、内部統制と記録管理に関する FCPA 規定に違反した事実を
認め、司法省及び証券取引委員会との間で事件を 8 億ドルで解決しました。13 億 6000 万ドルにも
及ぶ海外政府関係者に対する賄賂の罪により科された当該罰金額は、FCPA 執行史上最も高額なもの
となりました。KBR に科された罰金の総額である 4 億 200 万ドルは、シーメンスに対する罰金額よ
り低額ですが、これら二つの事件を通じて、執行当局は汚職に関してより高額な罰金を科す傾向にあ
るといえるでしょう。企業に対する教訓として、KBR やシーメンスの事案のように汚職について会
社上層部の関与がある場合、高額な罰金を覚悟する必要があるといえるでしょう。上記二社はこの事
件以来、指揮系統を徹底的に調査していますが、二社の FCPA 違反は指揮系統の上層部の人間により
実行されたものでした。個人に対する執行が実施される傾向も高まっていますが、執行当局は企業の
上層部が汚職に関与した場合には会社が重大な責任を負うことも明確に示しています。
(2)国際的な協調
KBR 事件における国境を越えた調査活動が示す通り、諸外国の規制当局は汚職に関しより高次元で
の 協 力 及 び 執 行 に 向 け た 連 携 を 強 め て い ま す 。 現 在 で も ボ ニ ー 島 プ ロ ジ ェ ク ト に 関 連 して、
イギリス、フランス、イタリア、日本、スイス及びナイジェリアにおける捜査が進行しています。上
述したシーメンスの件では、複数の国際捜査機関が密に連携をとりながら捜査が進められていきまし
た。事実、アメリカにおいてシーメンスが司法取引に応じたのと同日、シーメンスはミュンヘン検察
庁とも同様の取引に応じていました。KBR 事件において、諸外国での銀行取引や支払記録等の証拠
収集や捜査の実現に、諸外国の規制当局との連携が重要な役割を担っていたのは明らかです。国外で
の執行や捜査は現在もアイルランド、イタリア、オランダ、フランス、英国等で進行しており、今後
も関与する国の数は増えこそすれ減ることはないでしょう。アメリカの執行機関は、自らの執行活動
において諸外国の規制当局の活動状況を考慮に入れることを明言しています。
(3)会社に対する監視
近時の FCPA の執行措置の多くがそうであるように、KBR による司法省及び証券取引委員会との合
意には独立した会社監視機関設置に関する条項が存在します。監視の期間や条件についての規定に関
して、司法省と証券取引委員会の合意内容のほとんどの部分は「標準的」なものでしたが、異なる部
分も存在しています。まず、上記二つの合意は、KBR が監視機関を 3 年間雇い、当該監視機関は最
初の調査とその後二度にわたる継続調査を要求されている点で共通します。一方、司法省との
合意は、幾分か柔軟な内容となっています。すなわち、司法省との合意内容によれば、監視機関と
KBR とが合意した場合には、継続調査の二度目を省略するための許可を申請することが可能との定
めがあります。第2に、証券取引委員会と司法省は監視機関について類似した資格を要求しますが、
選定の過程は異なります。すなわち、司法省との合意では、KBR が監視機関の候補者を 3 名挙げ、
その中から司法省が選択した者が選ばれます。これに対して、証券取引委員会との合意では、KBR が
候補者を 1 名挙げ、その候補者を証券取引委員が承認するかを検討するものとされています。このよ
うに、KBR 事件は二つの執行機関が企業に対する監視につきわずかながらも異なる手法を採用して
いることを示しており、今後の展開が企業関係者により注目されることとなるでしょう。
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結論
KBR 事件は、その捜査と交渉に 5 年の月日が費やされた後に解決に至りました。巨額の罰金が科さ
れたのは、不正な支払が企業の上層部の関与の元になされた結果であると言えます。諸外国の規制当
局は独自の捜査を進める一方で、アメリカ捜査機関との協調も図られています。KBR 事件は、規制
当局により国境を越えた厳格な法執行がなされていることを示すとともに、企業に対してより厳格な
コンプライアンス体制を構築する必要性を強調しています。
ポールヘイスティングスは本件和解において、KBR の代理人を務めました。
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