大腸がんの内科的治療 1) 新潟市民病院 消化器内科 相場 恒男 佐藤 宗広 米山 靖 酒井 規裕 小川 雅裕 大崎 暁彦 和栗 暢生 古川 浩一 五十嵐 健太郎 2) 杉村クリニック 杉村 一仁 内視鏡治療 化学療法 イレウス管・ステント 内視鏡治療 化学療法 イレウス管・ステント Stage 0~Stage III 大腸癌の治療方針 適応の原則 •リンパ節転移の可能性がほとんどなく,腫瘍が一括切除できる大きさと部位に ある。 内視鏡的摘除の適応基準 (1)粘膜内癌,粘膜下層への軽度浸潤癌。 (2)最大径 2 cm 未満(2 cm以上でも一括切除で根治性が期待できる場合)。 (3)肉眼型は問わない。 •本法は内視鏡的に大腸の病巣部を切除し,切除組織を回収する方法である。 •治療法にはポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)と内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)がある。 •内視鏡治療の適応と治療法を決める際には,腫瘍の大きさ,予測深達度,形 態に関する情報が不可欠であり,組織型も考慮する必要がある。 ポリペクトミー 病変の根元にスネアというワイアをかけ、電流を流して切除する。 内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection) 病変の周囲に生理的食塩水を注入後、病変の根元にスネアをかけ、 電流を流して切除する。 ポリペクトミー (13×11mmの病変) 内視鏡的粘膜下剥離術(ESD:endoscopic submucosal disection) 病変の周囲を適宜マーキングし、粘膜下に生理的食塩水やヒアルロン酸 を注入後、病変の周囲を電気メスのようなナイフで少しずつ切開。さらに 剥離し、切除する。 ESD (23×17mmの病変) 内視鏡治療 化学療法 イレウス管・ステント 化学療法には,術後再発抑制を目的とした補助化学療法と 切除不能な進行再発大腸癌を対象とした全身化学療法があ る。 Stage Ⅳ 大腸癌の治療方針 •Stage Ⅳ大腸癌では以下のいずれかの同時性遠隔転移を伴う。 肝転移,肺転移,腹膜播種,脳転移,遠隔リンパ節転移,その他の転移(骨, 副腎,脾など)。 •遠隔転移巣ならびに原発巣がともに切除可能な場合には,原発巣の根治切 除を行うとともに遠隔転移巣の切除を考慮する。 •遠隔転移巣が切除可能であるが原発巣の切除が不可能な場合は,原則とし て原発巣および遠隔転移巣の切除は行わず,他の治療法を選択する。 •遠隔転移巣の切除は不可能であるが原発巣切除が可能な場合は,原発巣 の臨床症状や原発巣が有する予後への影響を考慮して,原発巣切除の適応 を決める。 全身化学療法(抗癌剤) performance status(PS) 化学療法の対象 0: まったく問題なく活動できる。発症前と同じ 日常生活が制限なく行える。 1: 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行 可能で、軽作業や座っての作業は行う こと ができる。例:軽い家事、事務作業 2: 歩行可能で、自分の身のまわりのことはす べて可能だが、作業はできない。日中の 50%以上はベッド外で過ごす。 3: 限られた自分の身のまわりのことしかでき ない。日中の50%以上をベッドか椅子で過 ごす。 4: まったく動けない。自分の身のまわりのこと はまったくできない。完全にベッドか椅子で 過ごす。 切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法 •化学療法を実施しない場合,切除不能と判断された進行再発大腸癌 の生存期間中央値(MST:median survival time)は約 8 カ月と報告さ れている。最近の化学療法の進歩によって MST は約 2 年まで延長し てきたが,現状では治癒を望むことは難しい。 •化学療法の目標は腫瘍増大を遅延させて延命と症状コントロールを 行うことである。 •PS 0~PS 2 の症例を対象とした第Ⅲ相試験において,化学療法群は 抗がん剤を用いない対症療法(BSC:best supportive care)群よりも有 意に生存期間が延長することが示されている。 •切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法が奏効して切除可能とな ることがある。 適応の原則 (1)臨床診断または病理組織診断が確認されている。 (2)転移・再発巣が画像にて確認可能である。 (3)performance status(PS)が 0~2 である。 (4)主要臓器機能が保たれている。 1.骨髄:白血球>3,500/mm3,血小板>100,000/mm3 2.肝機能:総ビリルビン<2.0 mg/dL,AST/ALT<100 IU/L 3.腎機能:血清クレアチニン:施設基準値上限以下 (5)適切なインフォームド・コンセントに基づき患者から文書によ る同意が得られている。 (6)重篤な合併症(特に,腸閉塞,下痢,発熱)を有さない。 化学療法 日本の保険診療として,大腸癌に対する適応が認められている主な抗がん剤 には以下のものがある。 経口薬: 5-FU,tegafur,UFT,doxifluridine(5′-DFUR),carmofur(HCFU),S-1, UFT+LV 錠,capecitabine など 注射薬: 5-FU,mitomycin C,irinotecan(CPT-11),5-FU+l-leucovorin(LV), oxaliplatin(L-OHP),bevacizumab,cetuximab,panitumumab など 主体となる抗癌剤 5-FU フルオロウラシル(代謝拮抗剤) がん細胞のDNAに取り込まれて合成を阻害し、抗腫瘍効果を発揮。 消化器がんの多くで中心となる薬剤。 主な副作用 下痢や出血性腸炎などの消化器症状、嘔気、食欲不振 骨髄抑制 肝機能障害や黄疸 間質性肺炎、うっ血性心不全急性腎不全、白質脳症など 脱毛や色素沈着などの皮膚症状、発疹など めまい、しびれ、倦怠感 カペシタビン(ゼローダ、代謝拮抗剤) フルオロウラシルのプロドラッグ(体内で代謝され徐々にフルオロウ ラシルへと変換)で、内服薬。 フルオロウラシルより長時間にわたって効果を示すとされる。 主な副作用 フルオロウラシルより副作用を軽度と言われるが、 手足症候群、悪心、食欲不振、赤血球数減少、下痢、白血球数減少、血 中ビリルビン増加、口内炎、リンパ球数減少など。 オキサリプラチン(エルプラット、プラチナ製剤) プラチナ製剤であるが、シスプラチンなどとは異なる化学構造が異なる。 オキサリプラチンは、イリノテカンよびフルオロウラシルとともに、大腸がん 治療の標準3剤。 主な副作用 下痢や吐き気、嘔吐 末梢神経障害(冷たいものに触れると誘発されやすい) 骨髄抑制 他のプラチナ製剤より腎障害は少ないとされる イリノテカン(カンプト、トポテシン) イリノテカンは植物に由来する成分の誘導体。 がん細胞のDNA合成に必要な酵素(トポイソメラーゼⅠ)を阻害し、効果を出すとさ れる。 主な副作用 下痢(高度の下痢や腸炎が起こる場合がある) 腹痛、悪心・嘔吐、食欲不振、白血球の減少など 分子標的薬 ベバシズマブ(アバスチン) がん細胞が栄養を得るために血管を新しく作ること(血管新生)を阻害する。 VEGFというタンパク質に結合して、血管新生を抑える(分子標的薬) 。 他の抗がん剤と併用することで多い。 主な副作用 消化管穿孔(原発巣が残存している時は要注意) 創傷治療の遅延 出血、血栓症、血圧上昇など 血圧が高い(降圧剤を服用しても下がらない)時は注意が必要 セツキシマブ(アービタックス) がん細胞が増殖するために必要なシグナルを受け取るEGFR(上皮成長因子受容体) というタンパク質を標的とする(分子標的薬)。 EGFRは、上皮細胞の増殖・成長などに関わる因子であり、細胞増殖に関わるため、 これを阻害することでがんの増殖を抑える。 EGFRは正常な細胞にもあるが、がん細胞には多くのEG FRがあるとされる。 ヒト由来の抗体とマウス由来の抗体を組み合わせたキメラ抗体。 主な副作用 ざ瘡、発疹、皮膚乾燥、爪囲炎、そう痒症、 食欲不振、 、下痢、口内炎 低マグネシウム血症 間質性肺炎など パニツムマブ(ベクティビックス) がん細胞が増殖するために必要なシグナルを受け取るEGFR(上皮成長因子受容体) というタンパク質を標的とする(分子標的薬)。 EGFRは、上皮細胞の増殖・成長などに関わる因子であり、細胞増殖に関わるため、 これを阻害することでがんの増殖を抑える。 EGFRは正常な細胞にもあるが、がん細胞には多くのEG FRがあるとされる。 セツキシマブと同様だが、完全ヒト化抗体のため、投与時反応は起きにくいとされる。 主な副作用 ざ瘡、発疹、皮膚乾燥、爪囲炎、そう痒症、 食欲不振、 、下痢、口内炎 低マグネシウム血症 間質性肺炎など KRAS遺伝子 EGFR抗体薬(セツキシマブ/パニツムマブ )はKRAS遺伝子に変異がある人には推 奨されない。 EGFRから細胞増殖シグナルが出るが、その途中に「KRAS」と呼ばれる遺伝子 が関わっている。 KRAS遺伝子には「野生型」と「変異型」があり、日本人の約60パーセントが、 KRAS遺伝子野生型とされる。 FOLFOX FOLFIRI 一次治療 臨床試験において有用性が示されており,かつ保険診療として国内で使用可能 な一次治療としてのレジメンは以下の通りである。 cetuximab, panitumumab は KRAS 野生型で有用性が示されている。 (1)FOLFOX 療法±bevacizumab,CapeOX 療±bevacizumab (2)FOLFIRI 療法±bevacizumab (3)FOLFOX 療法±cetuximab/panitumumab (4)FOLFIRI 療法±cetuximab/panitumumab (5)5-FU+LV±bevacizumabまたは UFT+LV 療法 二次治療以降 二次治療以降の化学療法として以下のレジメンを考慮する。 cetuximab, panitumumab は KRAS 野生型で有用性が示されている。 (a)L-OHP を含むレジメンに抵抗性となった場合 (1)FOLFIRI 療法±bevacizumab (2)FOLFIRI 療法(または CPT-11 単独)±cetuximab/panitumumab (b)CPT-11 を含むレジメンに抵抗性となった場合 (1)FOLFOX 療法±bevacizumab, CapeOX 療法±bevacizumab (2)CPT-11+cetuximab (c)5-FU,L-OHP,CPT-11 を含むレジメンに抵抗性となった場合 (1)CPT-11+cetuximab (2)cetuximab/panitumumab 単独療法 一次治療と二次治療において,5-FU 系薬剤,CPT-11,L-OHP の 3 剤を使うことにより 20 カ月以上の MST が得られるとされる 内視鏡治療 化学療法 イレウス管・ステント 大腸閉塞(高度の狭窄) 大腸閉塞はいろいろな原因があるが、頻度が高 いものは大腸癌(60%)、軸捻転症(10〜15%)、 憩室炎があげられる。 腸閉塞による拡張が強い場合には、虚血を生じ、 腸管壊死や穿孔の危険性が高くなり、また、敗血 症や多臓器不全(MOF)など致命的病態に至る 症例もあり、緊急に減圧が必要である。 大腸閉塞減圧治療なし 放置すると腸管壊死 や穿孔のリスク大 大腸閉塞イレウス管減圧中 大腸閉塞ステント留置 大腸内視鏡を用いた大腸閉塞に対するステント( SEMS:self-Expanding metalic stent)は、手術 前の腸管減圧(BTS:Bridege to surgery)や緩和 的外科治療が困難な患者の腸減圧のための緩和 的治療(PAL:Palliative)として受け入られた治療 である。 2012年1月より、本邦でも同治療が悪性疾患によ る狭窄において保険収載され、今後その治療が広 く行われることが予想される。 臨床上の有用性 術前減圧治療法 ステント(Bridge-to-Surgery) 外科手術(二期的手術) 経肛門イレウスチューブ 侵襲性 低侵襲 二期的手術はストーマを作り、 2ヶ月以上後に吻合手術を行う 侵襲性が高い 入院期間 速やかな閉塞解除。入院期間が 4-6日間程度 侵襲度が高い手術を2度行う、入 院期間が比較的長い。 イレウス解除に時間を要する、 入院期間は平均で11日間 QOL 2-3日で食事摂取可能・留置後運 動制限なく手術までは自宅在宅 も可能 術後ストーマ管理が必要。 本人・家族の心理的・肉体的負 担あり QOLが悪い(留置違和感、臭気)、 食事が困難。 スタッフ 負担 留置後に特別な管理必要なし 緊急手術の準備・アフターケアと ストーマ管理など負担大 一日数回フラッシュを行う必要が ある。ステントに比べ負担大 トータル コスト イレウスチューブとほぼ同等、外 科手術より低コスト コスト高め ステントとほぼ同等・外科手術よ り低コスト 低侵襲 臨床上の有用性 術前減圧治療法 ステント(Bridge-to-Surgery) > 外科手術(二期的手術) 経肛門イレウスチューブ 侵襲性 低侵襲 二期的手術はストーマを作り、 2ヶ月以上後に吻合手術を行う 侵襲性が高い 入院期間 速やかな閉塞解除。入院期間が 4-6日間程度 侵襲度が高い手術を2度行う、入 院期間が比較的長い。 イレウス解除に時間を要する。 入院期間は平均で11日間 QOL 2-3日で食事摂取可能・留置後運 動制限なく手術までは自宅在宅 も可能 術後ストーマ管理が必要。 本人・家族の心理的・肉体的負 担あり QOLが悪い(留置違和感、臭気)、 食事が困難。 スタッフ 負担 留置後に特別な管理必要なし 緊急手術の準備・アフターケアと ストーマ管理など負担大 一日数回フラッシュを行う必要が ある。ステントに比べ負担大 トータル コスト イレウスチューブとほぼ同等、外 科手術より低コスト コスト高め ステントとほぼ同等・外科手術よ り低コスト 低侵襲
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