日本バイオロギング研究会会報

南極海におけるワタリアホウドリ: バイオロギングカレンダーへの写真投稿お待ちしています!(写真提共:伊藤 元裕)
日本バイオロギング研究会会報
日本バイオロギング研究会会報 No. 72
発行日 2012 年 6 月 27 日 発行所 日本バイオロギング研究会(会長 荒井修亮)
発行人 高橋晃周 国立極地研究所 生物圏研究グループ
〒190-8518 東京都立川市緑町 10-3
tel: 042-512-0741, fax: 042-528-3492 E-mail [email protected]
会費納入先:みずほ銀行出町支店 日本バイオロギング研究会 普通口座 2464557
第72号
もくじ
新しい発見 1 地磁気ロガーの温度ドリフトについて
塩見こずえ・中村 乙水 (東京大学大気海洋研究所)
新しい発見 2 養殖現場でバイオロギング
安田十也((独)水産総合研究センター西海区水産研究所)
お知らせ 1
チャレンジ!25 年 BLS カレンダー写真
お知らせ 2
2012 年バイオロギングシンポジウムのご案内
-1-
新しい発見 1
地磁気ロガーの温度ドリフトについて
報告者 塩見こずえ・中村 乙水 (東京大学大気海洋研究所)
はじめに
データロガーに記録される地磁気・加速度・速度データ
を用いて三次元潜水経路を算出することができる。しか
し、ロガーに内蔵された各種センサが記録するカウント値
は周りの温度によって変化する可能性がある。これは、
電子機器において避けることのできない特性である。先
日、研究室のお茶会にて磁気データの温度ドリフトは無
視できないレベルだという話題が持ち上がった。報告者
らが行ってきた経路の算出では温度ドリフトの影響を考慮
しておらず、カウント値を地磁気に換算するためのリファレ
ンスデータを記録する時の温度も重要視してこなかった。
温度ドリフトの程度によっては、カウント値から換算した地
磁気の値は正しくなく、算出される方位が大きく異なるか
もしれない。そこで、磁気センサの温度ドリフトの傾向と、
温度ドリフトが移動経路の算出に与える影響を調べること
にした。
温度ドリフトの影響評価
深さのある容器にロガーを静置し、温水・冷水を入れて、
高温・低温から常温に戻るまでの磁気データのカウント値
の変化を記録するという試行を行った。磁気‐温度グラフ
を描くと、温度によって磁気のカウント値が大きく変化して
いることがわかる(図1)。温度ドリフトは特に低温域で顕
著であり、二次式で近似すると最もよく当てはまった。ま
た、ロガーの個体間や各軸間で変化の仕方が異なること
もわかった。
この近似式を元に、記録された磁気のカウント値を均
すという補正を行った。ここでは、21℃の値を基準とした。
温度補正後のカウント値を、21℃で記録した地磁気デー
タを参照して地磁気の値に換算し、方位算出に用いた。
温度補正を行った場合と行わなかった場合で算出され
た方位を比べると、前者ではほぼ一定の方位を示したの
に対し、後者では温度によって方位が変化した(図 2)。
動物の経路補正例
多くの動物は一定温度の環境に留まることなく、幅広い
温度帯を移動する。そこで、動物にデータロガーを装着
して得られた実際のデータを使って、温度補正前と補正
後の経路を比較した。補正によって経路の形は大きく変
わっており(図 3)、補正後の経路の終点はロガーの回収
地点に近づいていた。これまで、算出された経路と実際
の位置の差は主に海流の影響によるものと考えていたが、
むしろ温度ドリフトが強く影響していたのかもしれない。
以上の結果から、経路の算出における温度補正の重
要性が浮き彫りになった。今回は磁気センサの温度ドリフ
トのみを取り上げたが、加速度センサや深度センサにも
温度ドリフトは見られるので、経路算出や結果の解釈にお
いてはこれらの事実に気をつけなければならないだろう。
図1.2本のロガーの3軸の磁気‐温度グラフ
図2.温度補正前・補正後に算出された方位と温度の関係
-2-
水温 11-18℃
地磁気のリファレンスデータを記録した温度 33℃
水温 2-8℃
地磁気のリファレンスデータを記録した温度 7℃
図3.2 種の動物のデータから算出された温度補正前(青)、温度補正後(赤)の移動経路
新しい発見 2
養殖現場でバイオロギング
報告者 安田十也
((独)水産総合研究センター西海区水産研究所)
養殖と言えばマダイやハマチが有名です。最近では
クロマグロの養殖が話題なりました。あまり知られて
いませんが、マサバなどの大衆魚を育てている生簀も
あります。
海の養殖は、魚だけをみても、対象とする(品種で
はなく)種や飼育方法が豊富です。魚種によっては、
安価・安定供給を目指すものから、餌や環境に産地特
有の変化を持たせて味・見た目などに付加価値をつけ
たものまで色々あります。そのあたりはブロイラーと
ブランド地鶏のように陸上の畜産物とよく似ている
かもしれません。しかし、魚を相手にすると、簡単に
触ることができないばかりか、普段の様子すら観察が
大変です。そのため、養殖現場の現状評価や創意工夫
のしどころがどこにあるのかは、断片的な情報から推
測せざるを得ません。バイオロギングは、目で見えな
い動物の生活を数値や映像で示してくれる方法です。
生簀で過ごす魚たちに対しても、他の環境で過ごす魚
たちと比較できるかたちで表すことが出来れば、各地
の特色を生かした最適な養殖方法のヒントが見つか
るかもしれません。
本研究では試験的に加速度データロガーを取り付
けたマダイを養殖生簀で飼育して行動を観察しまし
た(図 1)。ロガー付きマダイは、周囲の心配をよそ
に(見た目では)元気に遊泳し、表層での餌取り合戦
にもしっかり参加していました。
別途、回流水槽(図 2)を利用して得た酸素消費量
との関係式(図 3)を利用すると、この生簀内でのマ
ダイの代謝率は 13.9-14.8 kcal/kg/日と推定され、実
験中に給餌で与えたエネルギーの 15-19%に相当し
ていました。この値の解釈にはさらなる実験が必要で
すが、将来的な実用に向けて期待できそうです。
図 1 養殖生簀で泳ぐ白いデータロガーを付けたマダイ
図 2 回流水槽で遊泳時の酸素消費量を計測中のマダイ
-3-
図 3 加速度データロガーから得た運動量指標値と
遊泳速度、酸素消費量との関係
データロガーについた深度センサの結果をみると、
短い期間ながらも、マダイが生簀をどのように利用し
ているかも伺えました(図 4)。給餌時間を除けば、
表層にいる魚はめったに中層・低層に移動せず、逆も
またそうでした。
将来的に養殖魚のバイオロギングデータが充実す
れば、生簀の設計や飼料効率の正確な推定などに役立
つと考えられます。そして、運動や周辺環境のデータ
が、天然魚などとの比較を通じて、養殖魚の良さをう
まくアピールすることに繋がれば、養殖産業の経営戦
略として新たな展開が生み出されるかもしれません。
Yasuda T, Komeyama K, Kato K, Mitsunaga Y (2012) Use of
acceleration loggers in aquaculture to determine net-cage
use and field metabolic rates in red sea bream Pagrus major.
Fisheries Science 78: 229-235.
図 4 養殖マダイの滞在深度、水温、運動量指標値の
時系列図と滞在深度の頻度分布図。
おしらせ 1
チャ レンジ!25 年 BLS カ レンダー写真
25 年版 BLS カレンダーの写真募集がスタートしました。本年は 10 月中旬と、 昨年より 1 月以上早い完成をめざしています。
「これは」という写真をお持ちの方は多いはずです。今年はぜひご応募ください。
【ご注意】
・デジタルデータでは写真データ量が少ないと使用できま
せん。
・昨年通り BLS デー タを併載いたします。写真撮影者とデ
ータ提供者は異なってもかまいません。
・会員外協力者の写真もオーケーです。
【初回募集締め切り】
24 年 6 月末日
(最終選考決定 8 月初 旬)
【申込先】
アートハウス 木村 宛
[email protected]
数点の候補写真を JPG でお送りください
データ量を落としたものでも結構です
正式にはオリジナルデータを請求いたします
●採用作にはカレンダー10部を進呈します
●決定迄は時間があり締め切り後でも良い写真ができれば
ご連絡ください
●自薦 他薦を問いません
-4-
【参 考】 24 年版で採用された 写真のパターン
環境がわかる美しさを持つ写真
楢橋さんウミガメ
高橋さんキタゾウ
・背景なしで考えてみると背景の価値が解ります
普通、眼にできない自然の中の動物
渡辺さんシロクマ
佐藤さんワニ
・動物の珍しさはそれだけでも充分です
興味深い動物の表情
鈴木さんオタリオ
・表情の取り合わせが絶妙です
シャープな迫力
依田さんカツオドリ
・飛行中にもかかわらずアップでシャープ
少し離れた視点
藤岡さんクロマグロ
・養殖いけすの中の写真ですが雰囲気ですくわれます
(会員外協力者写真)
標本写真が多く採用しにくい魚類の写真の方向かもしれま
せん
おしらせ 2
2012 年バイオロギングシンポジウムのご案内
日時 10 月 27 日、28 日
場所:北海道大学水産学部
空港から函館駅までバス 20 分、函館駅から水産学部
までタクシー20 分、バス 40 分。函館駅から国際ホテ
ル(懇親会会場)まで徒歩 10 分。水産学部周辺には
ホテル・飲食店はあまりありません。コンビニはあり
ます。函館駅周辺などに泊まられることをお勧めしま
す。函館への航空便は便数が少ないので満席になるこ
とがおおいです。宿泊とともにお早めにご自分で手配
ください。
10 月 27 日(土曜)シンポジウム 水産学部大講義室
9:30〜14:00
空間生態学:バイオロギングを使った高次捕食者研究
と海洋環境
講演予定者と仮題
Suryan R, Ozaki K, Sato F, Sievert P, Deguchi T,
and Balogh G: Many lessons learned from long-term
tracking studies of albatrosses
Syamsuddin ML, Saitoh S, Hirawake T: Ocean climate
variability induced favorable oceanographic
conditions to bigeye tuna
catches in the Eastern
Indian Ocean
金治佑・南川真吾: カマイルカの分布域推定~物理環
境から季節回遊を予測できるか?
山本誉士: ミズナギドリ科の利用海域の季節的変化
と海洋環境
伊藤元裕: 限られた餌場での採餌:氷海におけるア
デリーペンギンの三次元空間利用
島谷健一郎:動物の意志を知りたいモデリング
他1〜2名(未定)を予定しています。
ポスター発表(募集します)14:30〜17:00 ポスター
賞があります(1 名)。審査対象は発表者かつ責任著者
が学生・ポストドクに限ります。
懇親会:函館国際ホテル 18:30〜20:30
10 月 28 日(日曜) ワークショップ(募集します)
水産学部 10:00〜16:00 研究発表会、研究打ち合わ
せ、勉強会、何でも結構です。公開です。
申し込み〆切り
メール本文で山本誉士([email protected])まで申
し込みください。件名をバイオロギングとしてくださ
い。
7 月 31 日 ワークショップ申し込み〆切り。代表者
氏名所属、集会名、参加予定者数、半日か 1 日か、を
お知らせください。なお部屋数に限りがあるため、3
〜4 件を予定しています。調整いただくことがありま
す。趣旨は 9 月 17 日までに参加申し込みとともにお
送りください。
9 月 17 日 参加(昼食・懇親会も)
・ポスター発表(要
旨も同時に)の申し込み、ワークショップ趣旨送付〆
切。要旨と趣旨は参加申し込みと同時にメールでお送
りください。参加費、懇親会費、昼食代は当日受け付
けます 参加費は、会員:無料 非会員(社会人)3000
円 非会員(学生)1000 円。懇親会費は学生・ポスト
ドク(4000 円)、社会人(6000 円)。会議に参加せず、
懇親会だけ参加の方(あるいは参加者のご家族)はそ
の旨をお書きください。昼食は 27 日のみでラッキー
ピエロのチャイニーズチキンバーガー・ポテト(500
円)を予定しています。なお 50 食に達しない場合はキ
ャンセルとなりますのでご了承ください
参加申し込み (メール本文で以下の情報をお送りく
ださい)
氏名
所属
メールアドレス
会員状況 会員、非会員(社会人)
、非会員(学生)
懇親会 参加する(社会人・学生)
・しない
27 日昼食 申し込む・不要
ポスター発表(責任発表者のみ申し込みください)す
る・しない
発表者名 題名
ポスター発表要旨およびワークショップ趣旨はワー
ドか pdf ファイルでつくってください。A4 版 1−2 枚で
す(様式添付)。図表を入れていただいて結構です。
申し込みと同時に山本までメール添付でお送りくだ
さい。
第8回日本バイオロギング研究会シンポジウム・実行
委員会
実行委員長:綿貫豊
ポスター賞審査委員長:宮下和士
会計:三谷曜子
申し込み受け付け:山本誉士
-5-
原稿を募集しています!
編集局では、これまでどおり常時原稿を募集していま
す。野外調査レポートや新しい発見、学会参加報告など
はもちろん、「野外調査お助け道具」(ちょっと意外で便
利な調査道具や、野外調査についてのアドバイスなど)、
「書評」(本のジャンルは問いません。印象深かった本、
自著の紹介も大歓迎です)、「バイオロギング川柳」など
も募集しています。
原稿は編集局の伊藤(ito.motohiro”atmark”nipr.ac.jp)
[”atmark”を@に替えて下さい]までメールでお送りいただ
くか、BLS ホームページに掲載してください。
ホームページへの原稿掲載方法については、ホームペ
ージ内「会員の皆様へ」内にある「簡単な Wiki コンテン
ツの作り方」や BLS 会報13号内の解説をご覧下さい。
会報のバックナンバーの PDF ファイルは、ホームページ
よりダウンロードできます。ホームページ編集のための凍
結解除パスワードは、会費の領収書とともに送付されま
す(年度ごとに変更されます)。
会費納入のお願い
■運営を円滑にすすめるためにも、会費のお早めの納
入にご協力をお願いいたします。会費の納入状況は、お
届けした封筒に印刷されています。振込先は、本会報の
表紙をご覧ください。正会員5000円、学生会員(ポスド
クも含みます)1000円です。
■住所や所属を変更される会員の方はお早めに事務局
※メール:[email protected]
※電話:042-512-0741 までお知らせください。
指導教官の皆様、卒業と同時に退会された学生会員が
いらっしゃいましたら、お手数ですがお知らせください。
編集後記
葛西臨海水族園のフンボルトペンギンが脱走し、その後
捕獲されたというニュースを見ました。以前、ジオロケータの
ペンギン装着試験でお世話になった水族園です。脱走も驚
きでしたが、東京湾で数ヶ月間生き延びていたことにさらに
驚きました。(担当:K.N)
-6-
S・K