POLE 83 (2014.9) シリーズ 《北海道のポーランド人から》 ~日本とポーランドの結婚式について~(1) アグニェシュカ・ポヒワ 9 月 15 日に結婚 1 年記念日を迎えました。結婚式 の準備とその当日の思い出がまだフレッシュである一 方、一年という間をおくと少し客観的に考えることがで きるようになった気もします。それがきっかけで、今回 日本とポーランドにおける結婚式をさまざまな面から 比べてみようと思いました。 長年日本に住んでいる私ですが、日本人の相手と 結婚することになったので、やはり結婚式をあげるとし たら日本であげるのではと、予想していました。結婚 式は、日本とポーランドという二つの違う世界がぶつ かるテンションの高いイベントですから、どのように私 たち二人の個性と私たちが代表する国の個性を上手 に表せるのかが最大の問題とチャレンジとなりました。 そもそも日本とポーランドでは結婚はどのようにで きるのか?結婚の準備はどこがポイントなのか?結婚 式の当日の流れはどう違うのか?また両国の伝統的 な結婚式は現在どう変わっているのか?という質問に 答えてみたいと思います。 日本とポーランドにおける婚姻の違い まずは、両国の法律から見た、婚姻が成立する場 合を簡単にまとめましょう。 日本では役所で事前に記入した婚姻届を提出す ることで法律上、夫婦が認められます。好きな時に記 入し、一人でも好きな時に提出できるという非常に便 利で簡単な(外国人の場合を除いて)手続きですが、 その一方、重要度の割には、ただ紙を渡して済むと いう、思い出にもならない、感情のこもっていない手 続きでもあるという意見を外国人からよく聞くことがあ ります。 ではポーランドの場合はどうでしょうか? 日本より手続きが複雑ですが、次のようにお祝いす ることになります。書類を渡すだけでは結婚はできず、 シヴィル・ウェディングという式が必要となります。これ 8 Agnieszka Pochyła 1983 年ポーランド・シロンスク県ヤストシェンビェ・ズド ルイ(Jastrzębie-Zdrój)生まれ。ポズナニ大学新言語 学部卒(日本学修士)。日本政府奨学金を受け北海 道大学に2回留学した。現在フリーカメラマンとして活 動中。 は簡単に言うと、宗教的な要素を抜いた結婚式です。 普通は市役所に付属する登記所の結婚会場で行わ れます。家族と友達が集まり、新郎新婦が役員の前 で誓いの言葉を交わし、証人と一緒に書類にサイン をし、最後に役員が結婚を認めます。 以前は役所で小規模なシヴィル・ウェディングを済 ませ、教会で立派なウェディングを行うというパターン が一般だったのですが、1998 年から法律の改正によ りコンコルダート・ウェディングという混合結婚式が可 能になりました。教会の挙式が始まる直前に、役所か らもらった書類に新郎新婦、その証人と神父がサイン します。法律上も宗教上も結婚が認められ、さらに一 回で済ませるので、今はコンコルダート・ウェディング が広く行われています。 また、最近では無宗教、経済上の理由などでシヴ ィル・ウェディングのみを選ぶカップルが増えてきてい ます。 (つづく) POLE 84(2015.1) 《北海道のポーランド人から》 ~日本とポーランドの結婚式について~(2) アグニェシュカ・ポヒワ 前回は日本とポーランドの法律上で見た婚姻の 成立の相違についてお話ししました。今回は両国 の結婚式、つまり法律と関係のない儀式の種類を 比べてみましょう。 日本の結婚式を見ると神前式、キリスト教式、人 前式という3つの種類の式が一般的に行われてい ますが、神前式は日本の宗教と伝統から由来し、 キリスト教式はカトリック・プロテスタントの宗教と、そ れに伴う西洋(主にアメリカ合衆国)の伝統が由来で す。一方、人前式は宗教の要素を抜いたキリスト教 式に似ており、自由自在のスタイルで行われてい ます。式を挙げる場所も様々で、神社、レストラン、 ホテル、教会風結婚式場などがあります。 面白いことに、日本では神前式とキリスト教式を 希望するカップルはその宗教の信者でなければな らないという条件は全く存在しません。なぜかという と、現在の日本社会では一般的に、どの宗教・宗派 を信仰しているかはそれほど重視されず、また個々 人も自らの信仰を殊更に意識することが少ないため です。一つの宗教を信じるより、人生の中のイベント や年中行事によって宗教を選ぶという日本独特の 考え方があり、結婚式も宗教的な儀式というより、風 習・伝統に当たるものになっています。以上から見 ると、たとえキリスト教式を選んだとしても、本物の教 会で本物の神父・牧師がいる本物の儀式ではなく ても、誰も(信者を除いて)気にならないのです。 最後に人前式に触れると、神父・牧師のいない キリスト教式風に行われる場合がほとんどですが、 特定宗教とは無関係であるため、ほかの宗教また は伝統から好きなアイデアをいいとこ取りして、挙 式を独創的にカスタマイズできます。日本のように 結婚式のスタイルを好きに選べる国はほかにある のだろうかと、たまに不思議に思います。 では、ポーランドの結婚式には、どんなものがあ るのでしょうか? 残念ながら、日本ほどバライエティはないのです。 ポーランドの国民の約 95%がカトリック教徒で、そ のうち 75%が敬虔な信者であるため、ポーランド人 の価値観や日常生活にはカトリックの信仰が根付 いています。結婚式も一般的に教会で行われるカ トリック式がほとんどで、進行は決まっており、自由 にスタイルを選ぶことはあまりできません。さらに結 婚の準備としてさまざまな手続きと宗教的な儀式を 済ませなければならないので、日本の教会結婚式 とポーランドの教会結婚式とは、表面は似ていても 裏はまったく別のもので、日本の「偽神父」と「偽教 会」を強く批判する人も珍しくありません。 無宗教、また教会の挙式を望まないカップルは、 役所でシヴィル・ウェディングをあげるのが一般的 です。人前式というコンセプトはいまだにあまり知ら れていないようです。かならず役員の前または神父 の前で結婚を誓うことになります。 以上、日本とポーランドの結婚式の挙式の種類 をまとめてみました。 次回は、両国の実際の式の流れに移る前に、結 婚式のための準備について紹介したいと思います。 (つづく) Agnieszka Pochyła 1983 年ポーランド・シロンスク県ヤストシェンビェ・ズドルイ (Jastrzębie-Zdrój)生まれ。ポズナニ大学新言語学部卒 (日本学修士)。日本政府奨学金を受け北海道大学に2 回留学した。現在フリーカメラマンとして活動中。 10 北海道ポーランド文化協会 会誌 《北海道のポーランド人から》 ~日本とポーランドの結婚式について~ (3) アグニェシュカ・ポヒワ 前回は、主に宗教がポーランドと日本の結婚式 にどのように影響したか、また式の種類についてお 話ししました。次は、両国での結婚式へ至るまでに ついて具体的に比べてみたいと思います。会場探 し、衣装選び、カメラマン探し等々はどのように違う のでしょうか。 式の日取りとゲスト まず、結婚式の日取りの決め方からスタートしまし ょう。両国とも一般的に結婚式が一番多い曜日は土 曜日で季節は夏です。日本もポーランドも、会場の 人気によって数ヵ月から1年という待ち期間があるの で、日付決定は会場探しと同時に行います。 日本の場合は、日取りを決めるときに六曜カレン ダーが重要になります。仏滅は絶対に避け、なる べく大安や友引の日に式を挙げるという風習があ るからです。新郎新婦本人は暦をまったく気にしな くても、その両親や親戚に強く信じる人がいる場合 は、日付選びが難しくなります。 ポーランドには、名前に“r”が入っていない月 (例:maj=5月) に結婚しないほうがいいという面白 い迷信がありますが、現代社会ではそれを守る人 はいないようです。日取りは本人たちと (ある程度) ゲストの都合に合わせて選びます。 ゲストといえば、日本では、親戚と友人に加えて 職場の同僚と上司を招待することが多いですが、 ポーランドではそれは考えられません。結婚という のはプライベートなイベントで、仕事とは無関係だ からです。また、ポーランドでは、新郎と新婦がそ れぞれ一人の証人を選ぶのが常識です。兄弟また は親友にお願いするのが一般的ですが、証人の 仕事は正式書類に署名するだけではなく、結婚準 備を手伝い、余興を考え、結婚当日まで二人の総 合付き添い役を務める大切な助っ人です。 ウェディングの準備──プラン vs.口コミ 日取りとゲストを決めてからの準備は、ポーランド と日本では進め方がだいぶ違っていきます。両国 の結婚準備の特徴を一言でいうと、日本は「プラ ン」、ポーランドは「口コミ」というようにまとめることが できます。 前回お話ししたとおり、日本ではホテルウェディン グがもっとも一般的です。気になるホテルがあれば、 そこのウェディング担当に相談していくつかのウエデ ィングプランを紹介してもらいます。基本プランには 会場、装飾、食事だけではなく、衣装、写真・動画撮 影、エンターテイメントなどが含まれており、すべて がパッケージになっています。さらに自分の予算に 応じて衣装や食事をもっと豪華にする、余興を増や すというアップグレードや追加オプションも付けられ ます。チャペルと披露宴会場から衣装スタジオ、写 真スタジオまで、必要なサービスのほぼすべてが一 ヵ所に備えられているため、ウェディングの計画は効 率的に立てることができます。 その反面、自分らしく結婚式を組み立てることは ほぼ不可能で、自分のイメージしたウェディングを 仕方なくプランに合わせる必要があるのは大きな 減点になります。ほとんどのホテルは、そこと契約を 組んでいるサービス会社を利用させているため、 例えば自分で買ったお気に入りのドレスを着る、知 り合いのカメラマンに撮影をお願いするなど、自由 な行動は制限されてしまいます。それが許されて いる会場を見つけたとしても持込み料を払うことを 要求される場合が多いです。 ところが、ポーランドでは式は教会ですが、パー ティーはホテルというより、レストランまたは部屋付 き多目的式場を使うことが多いです。会場予約と一 緒に食事プランと装飾プランを決められるが、それ 以外の物をすべて自分で探して決める必要があり ます。そこで口コミが重要になってきます。会場担 当に聞けば、おすすめの花屋やバス会社、最近結 婚した友達に聞けば、おすすめの美容サロンを教 えてくれます。つまり、周りの人に聞く、またはイン ターネットで検索するのが主流です。そのプラス面 とマイナス面については次回もっと詳しくご紹介し ます。 (Agnieszka Pochyła) 15
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