-1- 今回はスリップスについてのお話です。 スリップスは英名の「Thrips

今回はスリップスについてのお話です。
スリップスは英名の「Thrips」(ギリシャ語の「木の虫」に由来しています)をそのまま
ミカンキイロアザミウマ
発音したものです。和名は「アザミウマ」で、その昔アザミの花を右手に持ち、左の
手のひらの上で「ウマ出よ!ウシ出よ!」と唱えながら花を軽くたたき、その中から
出てくる虫の数を競う子供遊びがあったそうです。日本各地で昆虫のことを馬とか
牛の名で呼んでいた記録もあり、「アザミにいるウマ」→「アザミウマ」が名のいわれ
と考えられています。また、アザミウマの顔を腹側から見るとそれとなく「ウマ面」に
見えるのも関係があるのかもしれませんね。ミカンキイロアザミウマ(以下ミカン)の写真、ウマの顔に見えません
か!?
スリップスはアザミウマ目(総翅目)という一つのグループを形成しており、種類は豊富でその数およそ5、000種類、
そのうちの約1割の数百種が農業害虫として知られています。日本では200種前後のスリップスが確認されていま
す。
生態については「卵」→「幼虫」→「蛹」→「成虫」と、他の虫と大きな違いは見られません。オスとメスが交尾をして受
精した卵(受精卵)はメスが孵化しますが、未交尾あるいは交尾をしても受精しなかった卵(未受精卵)はオスが孵化
します。また、オスの数はメスに比べると少ない傾向にあり、ネギアザミウマ(以下ネギ)ではオスなしで増殖すること
ができ、未受精卵からはメスが孵化します(オスの立場としては存在価値が小さいように思え悲しいことですが…)。
産卵は植物の組織内に 1 卵ずつ産みつけるため、乾燥や外敵から守ることができますが、脱出するために力を使い
果たし死亡する幼虫もいるそうです。幼虫は2齢を経て蛹になりますが、この蛹ちょっと変わっています。口が退化し
ているためエサは食べませんが、外から刺激を与えると、歩くことができるものもいるのです!!2~3 期の蛹期間を
終えようやく成虫となります。種によって差はありますが、1 サイクルは概ね 20℃で 20 日程度です。
口は特殊な構造をしており、植物の表面を破壊した後に、中の汁液を吸います。そのため、
食害されたところは白い斑点やかすれ(葉の表面が光って見える、いわゆるシルバリング
症状)や褐変したりします。また、食害された場所には糞である小さな黒い点が見られるこ
とも特徴です。
玉葱被害
シルバリング症状
ばれいしょ被害
黒い糞痕
さてこのスリップス、やっかいな虫としての要素を多数持っています。広食性(いろいろなも
のを食べます),体長は1~2mm 程度と小さい,増殖率が高い(1世代が短く、産卵数も多
い。例えば、ヒラズハナアザミウマ(以下ヒラズ)では1メスあたり500卵),薬液のかかりにく
い場所(葉裏の葉脈の影や新芽、花粉の中)に潜む,種によっ
て薬剤の効き方が異なる等々。食害だけでも大きな被害につ
ながりますが、ウイルスも媒介します。
問題となる主なウイルスは TSWV(トマト黄化えそウイルス)で、
ナス科(トマト・ピーマン・ナス等)やマメ科(アズキ・ササゲ等)、
キク科(キク・ガーベラ等)で著しい被害を受けます。媒介能力
はミカンで強く、ヒラズ・ネギ等も媒介します。
ヒラズハナアザミウマ
防除法については、まずはスリップスが発生しにくい環境を作ることです。周辺雑草の管理等による耕種的防除、反
射マルチや施設栽培では近紫外線除去フィルム等による物理的防除が有効です。そして、スリップスは増殖率が高
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いので、発生量をいち早く把握し、的確な薬剤を散布することです。発生種によって薬の効き方が異なるため使い分
ける必要があります。ネギに対してはゲットアウトWDG,トクチオン乳剤で高い効果が認められています。
ミカンではマクロライド系薬剤、ヒラズについては合成ピレスロ
イド剤が有効剤となっています。ただ、スリップスは同じ薬剤
ばかり散布すると、効きにくくなる可能性が高いので、ローテ
ーション散布を心がけましょう。また、施設栽培では天敵を利
用した生物的防除もあります。発生しにくい環境と早期発見・
早期防除、この 2 点をしっかりと押さえれば、スリップスはそ
んなに恐れる害虫とはならないでしょう。
(2009年2月 ロードレーサー記)
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