1. 債券とは 2. 債券の分類

債券取引の知識
1. 債券とは
国、地方公共団体、政府関係機関、特殊金融機関、事業会社などが資金を調達する際、
その見返りとして、調達元本の返済や利子の支払いなどの条件を明確にするために発行す
る証書。
債券には次のような特徴がある。
● 多数の投資家が均一の条件で投資をすることができる。
●
発行者は大量の資金を調達できる。
● 証書は有価証券であり、債権者としての権利(元本の返済請求権、利子の支払い請求権)
を一定の条件のもとに他人に譲渡できる。
10
債券はこのように、発行者の立場では資金調達の手段であり、投資家からみれば利殖(利
子や利益を得て、財産を増やすこと)のための投資対象となる。
2. 債券の分類
i) 発行体による分類
債権を発行する主体で分類した最も一般的な分類法である。
政府短期証券
割引短期国債
国債
中期国債
中期利付国債
中期割引国債
長期国債
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超長期国債
公共債
地方債
公募地方債
非公募地方債
債
政府保証債
券
特別債
公募特別債(財投機関債)
非公募特別債(縁故特別債)
金融債
利付金融債
割引金融債
民間債
社債
事業債(普通社債)
新株予約権付社債
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ユーロ円債
グローバル債
国外債
国際債
円建外債(サムライ債)
外貨建外債(ショーグン債)
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債券取引の知識
➡ただし正確には外債は、発行体が外国籍ではなくても、発行される市場、利払いや償
還にが行われる通貨のうちいずれかひとつでも日本(日本円)以外でなければ、外債とい
います。
ii) 償還までの期間による分類
短 期 債:
償還までの期限が3年未満の債券
中 期 債:
償還までの期限が3年以上7年未満の債券
長 期 債:
償還までの期限が7年以上11年未満の債券
超長期債:
償還までの期限が11年以上の債券
この分類は厳密な意味はなく、人によって区分の仕方が違いますが、代表的な分類を挙
10
げておきました。またこの分類には新規発行債の場合と、既発債の場合両方があります。
例えば、10年債として発行された債券は、当初長期債として扱われますが、発行後5年
以上を過ぎると中期債に分類されます。
iii) 債券の形態による分類
ここで言う形態とは、主に、払い込み、利子(coupon)、償還(redemption)の支払い
方法に注目して考えたものです。
„ 固定利付債と変動利付債(floating rate note : FRN)
固定利付債のクーポンがは発行時に一度決まると満期まで変わりませんが、変動利付債
のクーポンは6ヶ月または3ヶ月ごとに見直されるのが常です。変動利付債はユーロ市場
で多く発行され、クーポンは LIBOR(ライボー:London Inter bank offered rate)等に
20
多少金利を上乗せして決まります。発行体の視点にたつと固定利付債であれば、あらかじ
め発行者コストをはっきり数字で示すことができますが、もし将来金利の低下が予想され
れば、高く固定された金利を払い続けて満期までそのコストを負担し続けるより、変動利
付債で資金を調達したほうが得策といえるかもしれません。
„ 割引債(discount bond)
割引債とは、クーポンがついていない代わりに、発行価格を額面より低く発行して、そ
れと償還(額面)との差を、発行体が支払う利子とする債券です。現在この形で発行され
ている債券は、割引国債、割引金融債、政府短期証券(financial bill : FB)、割引短期国
債(treasury bill : TB)、宅地証券、特別住宅債券、転換社債型新株予約権付社債(convertible
bond : CB)の一部、の7種類です。利付き債の利子収入については一律で20%の分離課
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税がかされますが、割引債の源泉分離課税については、18%と低く、投資妙味があると
いえるかもしれません。
„ 新株予約権付社債
「新株予約権」とは、一定期間、あらかじめ定められた価額で新株を引き受けることがで
きる権利です。 また、新株予約権が付与された社債のことを「新株予約権付社債」といい
-2-
債券取引の知識
ます。これらは、金庫株1、ストック・オプション(自社株購入権)を拡充することを目的
に2001年11月21日に改正された商法でできた概念で、これを機に従来の、転換社
債(convertible bond :CB)、新株引受権付社債(ワラント債:warrnt bond:WB)は
法律上は廃止され、いずれも新株予約権付社債となりました。したがって、現在、転換社
...
債と呼ばれているものは法律上は転換社債型新株予約権付社債というのが正しい名称とな
ります。またワラント債も、
「社債と新株予約権を同時に募集し、かつ同時に割り当てるも
の」を指すことになりました。
・ストック・オプション:
経営者や従業員に一定の価格で自社株を購入する権利を与える制度。収益向上による株価
10
上昇のインセンティブを与えるほか、株価や、投資家に対する経営者の意識を高める効果
もあるといわれる。自己株式型と新株引受権型の方法がある。全面解禁の前に、大企業の
間では、分離型のワラント債を発行し、あえてワラント部分だけ(残りの社債部分をエクスワ
ラント:ex-warrant という)買い戻
して報酬として、役員や従業員に与える「疑似ストックオプション」あるいは「成功報酬
型ワラント」と呼ばれる手法が流行しました。
・転換社債:CB(法律上は転換社債型新株予約権付社債)
:
転換社債型新株予約権付社債(以降 CB)はあらかじめ決められた価格(転換価格)で発
行会社の株式に切り替えることができる社債です。新株予約権(株式を一定の条件
で買い付ける権利)が行使された
場合には社債の全額が額面の価格で償還され、払い込むべき金額にあてられます。CB は
株式に転換できるため、株価の値動きの影響を受けやすい面と、一般社債の安定性を併せ
20
持つ商品といえます。すなわち、発行会社の株価が上昇している時は、通常 CB の時価も
それにつれて上昇します。逆に株価が下落し始めると CB の時価も下落し始めます。しか
し、株価が限りなく下落する可能性のある反面、CB の場合はある一定の水準で下がりに
くくなる性格があります。これは、社債としての価値がある一定の水準で下支えをしてい
るのです。
(次のページの図)発行体としても社債が株式に変わることによって、額面を償
還する必要がなくなる他、クーポンを支払うコストもなくなるし、比較的スムースに株主
資本が充実し自己資本を高められるというメリットがあります。また転換価格の決め方の
違いから、額面転換社債と時価転換社債にわけられるが、現在はすべて時価転換社債とな
っています。
1金庫株(treasury stock)
:会社が保有している自己株式。日本では株式消却やストック・オプション、端株の買取な
どに限定していたが、2001年10月1日に解禁された。
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債券取引の知識
・ワラント債(新株引受権付社債)
:WB
その社債の発行企業の新株を一定の値段(行使価格)で社債券面に応じた一定の割合(付
与率)の額だけ引き受ける権利が付いた社債です。当初は社債部分(エクスワラントまた
はポンカスともいう)と新株引
受権(ワラント)を分離できない非分離型しか発行できなかったが、発行市場を活性化さ
せるため後に分離して取引ができる分離型も認められた。ワラント部分は実質的には株式
のコールオプションといえるでしょう。法律上、非分離型ワラント債は新株予約権付社債
の一種となりましたが、分離型は「新株予約権と社債を同時に発行する商品」として扱わ
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れ、新株予約権付社債の範疇にはいれないことになりました。
(下図)CB との違いがわか
りにくいですが、CB は新株予約権が行使されると残高がなくなり、株に置き換わるのに
対し、WB は新株予約権が行使されても社債残高は償還までかわらないと考えておけばい
いと思います。
普通社債
社
債
旧転換社債
新株予約権付
社債
旧非分離型ワラント付社債(新株引受
権付社債)
商法改正後の社債の分類
„ 外国債券(外債)
外国債とは簡単に言えば国内債以外の債券をさします。つまり、その債券が発行される
市場、発行体の国籍、その債券の利払いや償還が行われる通貨のうち、いずれかひとつで
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も日本(日本円)以外の債券といえます。大まかに次の図のように分類できます。
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債券取引の知識
発 行 体
発行市場
通貨
通 称
①
国際機関、外国政府、外国の民間企業など
日 本 国 内
円 建 て サ ム ラ イ 債
②
国際機関、外国政府、外国の民間企業など
ユーロ市場
円 建 て
-
③
日本政府、政府関連機関、日本の民間企業など
ユーロ市場
円 建 て
-
④
国際機関、外国政府、外国の民間企業など
日 本 国 内
外貨建 て ショーグン債
⑤
国際機関、外国政府、外国の民間企業など
海 外 市 場
外貨建て
-
① サムライ債(円建て外債)
非居住者がわが国のマーケットで、円建てで発行する債券をまとめていいます。一般的
Bank For
には、世界銀行(IBRD:International
Reconstruction and Development)などの信用力が高い国際機関や先進国が発行体の場合は、
risk や sovereign
発展途上国などその国特有のリスク(country
risk と い っ た り す る)の高い発行体の場合より低い利回りに
なります。
②③ユーロ円債
日本以外のマーケットで、居住者、非居住者に関係なく円建てで発行された債券のこと
を言います。そもそもその通貨が公式通貨となっている国以外で流通している通貨をユー
10
ロマネーと呼びます。このユーロマネーを対象にした各種の取引きが行われる市場をユー
ロ市場といい、この市場で発行された円建て債をユーロ円債といいます。ここでの「ユー
ロ」の語源は EU で使用されている通貨、ユーロとは全く関係ないことに注意してくださ
い。
④⑤外貨建て債
外貨建て債は円貨以外の外貨で払い込み利払いや償還が行われる債券のことをいいます。
つまり発行体が外貨を調達するために発行する債券といえます。すなわち、購入者は為替
リスクを負うことになります。当然のことながら、もしその通貨が円に対して強く(円安)
なれば利益が発生し、弱く(円高)なれば損失が生まれやすくなるでしょう。外貨建て債
のなかでも、日本国内で非居住者が発行する外貨建て債はショーグン債(東京外貨債)と
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呼ばれますが、最近は少なくなっています。
z デュアルカレンシー債(dual currency bond)
二重通貨債。ここまで説明した外国債は元本の払い込み、利払い、償還などが単一の通
貨で行われることを前提としていましたが、それらが異なる通貨で行われる債券のことを、
二重通貨債あるいはデュアルカレンシー債といいます。日本の個人投資家向けに販売され
ている主なデュアルカレンシー債は、払い込み→円建て、利払い→円建て、償還→外貨建
て、のタイプが一般的です。このタイプは利払いの部分だけは為替リスクを負っていない
ということになります。一方でリバース・デュアルカレンシー債というものもあります。
例えば、払い込み→円建て、利払い→外貨建て、償還→円建て、といったタイプで、元本
の通貨と利払いの通貨が異なります。
30
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債券取引の知識
„ その他の債券
① 資産担保証券(asset backed security:ABS)
債券を担保にした証券商品で、資産を特別目的会社(special purpose company:SPC)
に譲渡、SPC が資産からのキャッシュフローを裏付けに証券を発行します。このような手
法を一般に「証券化(securitization)」といいます。企業側から見ると、従来は資金の調
達はその企業自身の信用力に依存していましたが、証券化により、特定の資産を企業から
切り離し、資産全体を信用力の源泉とすることによって高い信用力を維持し、資金調達を
容易にするというメリットがあります。ABS 市場は1996年に解禁されて以降、企業の
資金調達ニーズの高まり、間接金融から直接金融へのシフトの流れ、証券化をサポートす
10
る法整備が進んだこと、などにより拡大しています。対象資産の違いによって以下のよう
に分類されます。
A)金銭債権 ABS
リース料債券、クレジット債券(自動車ローン債権、カード債券など)、売掛金債券など。
B)MBS(mortgage backed security)
..
住宅ローン債権などを裏付けにした ABS。CMBS との違いを強調するため
RMBS(residential mortgage backed security)と呼ぶこともある。
C) CMBS(commercial mortgage backed security)
...
商業用不動産、本社・支店ビル、工場またはそれらに対するローンを裏付けにした ABS。
D) CDO(collateralized debt obligation)
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複数の社債や企業向けローンを対象にした ABS。
② 仕組み債
仕組み債とは利率や償還額などが変動する仕掛けが内臓されている債権のことを指し、
通常規制の少ないユーロ市場で発行されています。低金利が続いていることや、金融技術
の発展にともなって、急速に成長しました。
A)変形キャッシュフロー債
償還元本は変動しませんが、クーポンが変化いていく債権。
・ステップアップ債
変形キャッシュフロー債の代表的なもので、当初のクーポンは市場の金利より低く設定
されていますが、一定期間を超えると、クーポンが高くなっていきます。つまり、調達し
30
た資金で建てた工場などが稼動する頃位になって利払いの負担が増すという仕組みです。
また、逆のものを、ステップダウン債とよびます。
B)インデックス債
その債権の償還元本やクーポンが、株価、金利、為替などのインデックスに連動して変
化する性格をもちます。例えば日経平均連動債(日経リンク債)は基本的には固定利付債
または変動利付債なのですが、日経平均株価に関する約束事がついています。満期日まで
にあらかじめ定められた価格(ノックイン価格)を下回らなければ、元本は保証されるも
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債券取引の知識
のの、下回ってしまうと、満期日における日経平均株価を基に償還価格が決められてしま
います。またノックイン価格を下回っている場合にのみ元本が保証されるという逆のパタ
ーンもあります。
C)オプション付加型債
各種のオプションがついた債権のことをいいます。
・ 他社株転換社債(exchangeable bond:EB)
この場合、株価指数ではなく、個別の株式の価格が、設定された評価日にノックイン価
格を下回っていなければ現金で償還されるものの、下回っている場合は、含み損が発生し
ている株式が受け渡されるという元本リスクがあります。この対象となる株式は債券の発
10
行体とは無関係に設定されます。複雑な構造なため、日経リンク債とともに、投資家の理
解不足が社会問題となりました。
・ コーラブル債
残存期間中に、発行体のオプション(選択権)で満期が来る前に償還できる権利のつい
た債権です。満期の前に償還する権利を発行体に売っている形になっているので、そのプ
レミアム分投資家が受け取るクーポンは若干高めに設定されています。
・ プッタブル債
コーラブル債とは逆に、投資家のオプションで債権を満期が来る前に償還できる権利が
付いています。各利払い時に、債権を額面で売却できるようになっています。
iv) 優先劣後構造(senior/subordinate structure)による分類
20
発行会社が破産宣告を受けた時などの元利金の支払い順位で分類しました。
種
優
先
類
格
債
A
後
債
金
利
A
低
い
A
メ ザ ニ ン 債
劣
A
付
無
少 し 高 い
し
かなり高い
ABS 等はこのように分けて発行されることが多い。また、劣後債は無担保社債と優先株
の中間の性格を持っていることから、一定割合で自己資本に含めることを認められており、
わが国では、BIS の自己資本比率 8%以上という基準を達成するため、都市銀行や地方銀
行が積極的に発行しています。
3. 開示義務と債権の発行手順
発行体は構成な財務状況と財務状況に影響するとみなされる事象を開示する義務があり
ます。
„
30
有価証券報告書
有価証券報告書は原則として株式を公開している企業に義務付けられ、株式または債券
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債券取引の知識
を発行した企業が投資家のために作成する開示用の報告書で、会社の前期までの財務会計
報告を中心に、企業としての活動を投資家に情報提供できるように工夫されています。発
行手順の中では、引受審査の時に幹事団に審査されます。
„
発行手順
①
発行体内での発行に関する意思決定
↓
②
発行する債券の種類を決定
↓
③
幹事団、シンジケーション団の選定
10
↓
④
引受審査
↓
⑤
契約書、目論見書ほかの作成、財務省・当該証券取引所へ
の手続き
↓
⑥
発行条件(公募 or 私募?etc)決定、募集開始
↓
⑦
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払い込み
引受シンジケーション団(日本では公共債を除き証券会
社にしか認められていない)は販売力の拡大とリスク分散の意味から集め
られた引受会社で、幹事会社(複数の場合は幹事団)は引受シンジケーション団のリーダ
ーとして、引受にからむ折衝や事務を行います。引受会社である証券会社は、常日頃から、
発行体の財務担当セクションと接触し、彼らの資金調達ニーズを探り出そうとしています。
4. 債権の売買と市場
„
発行市場(primary market)と流通市場(secondary market)
債権や株式が発行されて売り出される市場を発行市場といい、いったん発行された債券
(既発債)や株式がそれまでの所有者(投資家)から別の所有者に転売される際に利用さ
れる市場を流通市場といいます。ちなみに、債権発行時の価格が額面価格を下回る場合ア
ンダー・パー発行、上回る場合オーバーパー発行、同一の場合パー発行といいます。
30
„
発行された債券の管理
発行された債券はほとんどの場合は現物で投資家が持つことはなく、登録債として登録
機関に登録されているか、証券会社などの金融機関に保護預かりされています。したがっ
て債権の売買に関する決済金受け渡し、利息、償還金の受け取りにかかわる事務、残高管
理、税金に関する事務、新株予約権の行使事務、等の債権に関わる事務作業は、投資家、
発行体自身が行うことはありません。投資家側の事務代行業務をカストディーといい、事
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債券取引の知識
務代行会社をカストディアンといいます。最近国内では、カストディー業務を手がける金
融機関が増えてきました。ユーロ市場のほうは、ほとんどの機関投資家、銀行、証券会社
は最終的にはユーロクリア(旧モルガン銀行系)か、クリアストリーム(欧州の複数の銀行をベースにした
セデルとドイツ証券決取引所の
済部門
が合併
)のどちらかをカストディアンにしています。しかも、これらのカストディアンのコン
ピューターも接続されていますので、ユーロ市場で行われる取引はこのコンピューター上
の記帳を変えるだけで終わってしまいます。一方で発行体側の事務を代行するのは、管理
会社と呼ばれています。
5. 各国債権市場の特徴と仕組み
i) 国内市場
公社債種類別現存額比率(2001年9月末)
円建て外債,
1.20%
超長期利付国債,
5.60%
新株予約権付社
債, 0%
転換社債, 1.60%
非居住者資産担
保型社債, 0.05%
資産担保型証券,
0.14%
普通社債, 9.10%
割引金融債,
1.60%
長期利付国債,
41.60%
利付金融債,
5.50%
政府保証債,
4.50%
公募地方債,
2.80%
政府短期証券,
6.80%
割引短期国債 ,
5%
中期利付国債,
14.20%
中期割引国債,
0.30%
10
少しデータが古いのですが、上の図は公社債の現存額の比率を種類別に見たものです。
2001年時点では、公社債の総現存額は 628 兆円です。普通国際だけではおよそ 400 兆
円です。このように、公社債が拡大した背景としてはバブル崩壊以降、不景気によって、
大幅に減少した税収を補い、景気を浮揚させるために行われた財政政策が相次ぎ、国債が
大量に発行されたことがまずあげられるでしょう。また資金の調達手段が、間接金融から、
直接金融へと変わったことも要因としてあげられます。国内市場の特徴としては、上のグ
ラフからもわかるように、国債を中心に、公共債のウェートが高いことです。一方でバブ
ル崩壊以降、株価低迷により、転換社債やワラント債(これらをまとめて株絡み債とか
エクイティ債と呼んだりもする)の発行が大幅に
減少したため、ウェートも非常に小さくなっています。
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債券取引の知識
ii) 米国債券市場
米国の債権市場は取引高において世界最大の市場です。またヨーロッパや日本と異なり、
直接金融が主流で、比較的に、社債や ABS、MBS の割合が高いことが特徴です。その背
景には、適債基準がないこと、格付機関が信用リスクを中立かつ客観的に評価することが
定着していたこと、等があるでしょう。
米国債券の分類
債券
財務省証券
財務省短期証券(Treasury Bill:T-BILL)
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財務省中期証券(Treasury Notes:T-NOTE)
財務省長期証券(Treasury Bond:T-BOND)
ストリップ債(Strips:Separate Trading of Principal &
Interest Payment of Securities)
政府機関債(Agency Bond)
地方債(Municipals)
一般財源保証債(General Obligation Bond)
特定財源債(Revenue Bond)
事業債(Corporate Bond)
一般事業債(Industrials Bonds)
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公益事業債(Utilities Bonds)
運送機関債(Transportation Bonds)
金融機関債(Banks & Finance Company Bonds)
転換社債(Convertible Bond)
ワラント債(Warrants)
モーゲージ担保証券(Mortgage backed security)
ヤンキー債(Yankee Bond)
z 米国債
米国連邦政府(財務省)が発行する財務省証券には、市場性証券(国債)と非市場性証
券があります。さらに、前者は、➀期間が 1 年未満の割引債である T-BILL(財務省短期
30
証券)、②期間が 1 年超 10 年以下の利付債である T-NOTE(財務省中期証券)、③期間が
10 年を超える利付債 T-BOND(財務省長期証券)、に分けられます。このうち 2 割強は海
外の投資家が保有しています。ちなみに、日本の国債の場合、海外の投資家はたったの 2.8%
しか保有しません。
- 10 -
債券取引の知識
z 政府機関債(agency bond)
政府機関債には ジニーメイ2のように、政府保有機関(Federally Owned Agency)として、
政府の直接保証を受けられる発行機関もありますが、通常の一般債券市場において流通す
る Agency 債は、正確には政府関連機関債(Federally Sponsored Agency)であり、連邦政
府の直接保証は受けていません。これらの Agency 債は政府の特別立法に基づいて設立さ
れ、政府の監督下に経営管理されている民間の政府系機関によって発行されています。一
般的にこれらの政府系機関の発行する債券には、政府の救済保証が付されているとされ、
米国政府債に次ぐ高い信用力をもっています。政府機関債と同様に米国債に次いで高い格
付トリプル A を取得しており、高い評価を受けています。
10
z 地方債(Municipals)
① 一般財源保証債(General Obligation Bond)
通常、地方債とは、州や自治体及び地方政府管轄の公団が発行する一般財源保証債を示
し、これらの地方債は行政区の公共設備の設立や改善を目的に設立されています。発行主
体となる州政府には、原則として均衡財政が義務付けられているので、地方債の発行には
様々な規制が課されています。このため、州地方政府保証の一般財源保証債の信用力は高
いとされています。また、これらの州地方政府が発行する地方債の利子所得には、連邦所
得税が免除されているため、他の国債や一般債と比べ、税金免除分利回りが低くなってお
り、非居住者の投資には適していません。
② 特定財源債(Revenue Bond)
20
特定財源債(以下レベニュー・ボンド)とは、その債券に対する元利金払いの財源を、州
地方政府の自治体および公団が取り組む公共事業からの収益に限定しているため、州政府
の保証は有していないのが一般的です。このため、これらのレベニュー・ボンドは非保証
債とも呼ばれ、特性上プロジェクト・ファイナンス的要素が濃くなっている。また、レベ
ニュー・ボンドから発生する利子所得には通常の連邦所得税が課されており、流通市場に
おいても一般事業債の一部として区分けされている場合が多くなっています。
z 事業債(Corporate Bond)
事業債とは、日本と同様、民間の事業会社が発行する債券です。米国の事業債市場には、
様々な発行体が発行する多種多様の債券が流出しており、米国の一般債券市場の中で最も
複雑なマーケットになっています。
30
① 一般事業債(Industrials Bonds)
一般事業債の発行業種は、最も幅の広い分野で、サービス業、小売業、製造業、食品、
採掘事業等様々な業類を含みます。業種が多種多岐にわたることから、発行残高も大きく、
社債市場の中心的役割を果たしています。
2
政府住宅抵当金庫(GNMA :Government National Mortgage Association)
- 11 -
債券取引の知識
② 公益事業債(Utilities Bonds)
公益事業債は、電力、ガス、電信・電話などの公益事業会社(民有)や水道事業会社(通常
は公営)などの発行体によります。公益事業会社の公共性および、大半の公益事業債は担保
付債券であることから、一般社債よりも低い利回りで取引されています。
③ 運送機関債(Transportation Bonds)
運送機関債の発行体は、鉄道や航空事業会社、および運輸関係などです。鉄道会社の債
券の大半が設備担保債券であることと、発行数が少ないことから、他の運用機関債よりも
割高感があります。一方、航空事業会社の社債は米国航空産業の規制緩和を背景に、一般
社債市場で割安に取引されている場合が多くなっています。
10
④ 金融機関債(Banks & Finance Company Bonds)
金融機関債の発行体には、銀行、保険会社、証券会社、および一般事業会社の金融子会
社等が含まれます。近年、一般製造業の金融子会社(たとえば GM の子会社の GMAC 社等)
の資金調達が増加しているため、金融機関関係債の新規発行は上昇傾向にあります。
⑤ モーゲージ担保証券(MBS:mortgage backed security)
MBS は先ほど説明したように、ABS のなかでも、住宅ローン債券を裏付けとしたもの
ですが、モーゲージ債が抱えるリスクについて説明します。モーゲージ債の最も大きなリ
スクは、住宅ローンの借り手(個人)が早期に償還することです。市中金利が下がると、ロ
ーンの借り手はローンを早期に償還して、安い(低金利の)ローンに借り替えてしまうから
です。しかし、この問題は金融工学の発達により解決され、現在では詳細な潜在リスクを
20
把握することができるようになっています。
z ヤンキー債(yankee bond)
ヤンキー債とは、非居住者である国際機関、外国政府、および外国の民間企業が米国市
場で発行する債券のことです。つまりアメリカ版のサムライ債ということになります。ヤ
Bank For
ADB:Asia
ンキー債の大半が世界銀行(IBRD:International
Reconstruction and Development)やアジア開発銀行(Development Bank)のような国際機
関を発行体としているため、知名度が高く、流動性も事業債に比べ高いです。ただし、近
年これらの優良、かつ知名度の高い発行機関はヤンキー市場からグローバル市場(Global
Market)へと発行形態を変更しており、資金調達頻度の比較的に多い優良発行体にヤンキ
ー市場離れが懸念されています。
iii) 国際債券市場
30
先ほど説明したように、ユーロ債とは、ユーロ圏内で発行された債券という意味ではな
く、国境を越えて国際的なシンジケート団によって国際的に取引される債券です。円建て
ならユーロ・円債、ドル建てならユーロ・ドル債、EU 通貨のユーロ建てならばユーロ・
ユーロ債、といいます。ユーロ債市場は各国通貨当局のコントロールが及びにくいので、
規制の少ない、自由な市場です。ユーロ債と、各国内において、その国の通貨建てで非居
住者が発行する外債(サムライ債,ヤンキー債,ブルドッグ債(UK)など)とを合わせて、
- 12 -
債券取引の知識
国際債と呼びます。また、複数の市場で同時に発行される債券のことをグローバル債とい
うのですが、これも国際債に含まれます。グローバル債は一度に大量に資金調達でき、世
界銀行や、アメリカの政府系金融機関(具体的にはファニーメイ3とか)等が、様々な通貨
建てで活発に発行しています。
起債が行われる国の
居住者による発行
非居住者による
自国通貨建て
国内債
サムライ債、ヤンキー債 etc
外貨建て
ユーロ債
このグレーの部分と、グローバル債を合わせたものが国際債です。
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3 連邦抵当金庫(FNMA:Federal National Mortgage Association)
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