購入に影響を及ぼす情報源と情報発信の変化

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★
論文
購入に影響を及ぼす情報源と情報発信の変化
〜39商品カテゴリの横断分析〜
❶
❷
❸
❹
❺
❻
———
———
———
———
———
———
はじめに
ネットの情報に関する過去の文献レビュー
商品カテゴリ別の購買時の情報源の違いと変化
商品カテゴリ別の購買後の情報発信の違い
情報収集と情報発信に着目した商品分類
おわりに
神田 晴彦
に関する文献を簡単にレビューした後に,商品
● 野村総合研究所 上級研究員
鳥山
正博
カテゴリ別の情報収集・情報発信の違いについ
● 立命館大学大学院 経営管理研究科 教授
て着目した 2011 年度の研究成果の一部を中心
清水 聰
に報告した後 1),新たな商品分類について提案
● 慶應義塾大学 商学部 教授
を行う。
❷ ——— ネットの情報に関する
❶ ——— はじめに
過去の文献レビュー
インターネットは,その普及から 10 年以上
前述のように,インターネットの普及に伴
経ち,近年では携帯電話だけでなく,スマート
い,マーケティング理論も大きく変化してき
フォンなどの新たなデバイスの登場によって,
ているといえる。実際に,従来の AIDMA に
単なる情報収集メディアから,消費者のネット
変 わ り, 近 年 で は AISAS(Attention: 注 意,
ワーキングメディアへと変貌している。
Interest:興味,Search:検索,Action:購買,
このような状況下の下,公益社団法人日本
Share:共有)や,AIDEES(Attention:注意,
マーケティング協会主催のマーケティング・サ
Interest: 興 味,Desire: 欲 求,Experience:
イエンス研究プロジェクトでは,2007 年度お
購 入・ 体 験,Enthusiasm: 心 酔,Share: 共
よび 2011 年度と 2 回にわけて,ネットの情報の
有 ),SIPS(Sympathize: 共 感,Identify: 確
受発信に注目してみてきた。
認,Participate: 参加,Share & Spread:共有・
そこで,本稿では,商品カテゴリ毎に情報の
拡散)などの理論が用いられるようになってき
受発信の違いや,その度合いの変化を確認する
ている。
とともに,情報の受発信の特性にあわせた新た
いずれの理論も,Share(共有)が含まれて
な商品分類を試みることを目的とした。
いることが共通しており,このことからも,今
以降,これまでの主にネットの情報の受発信
までのマーケティングにおいて注目されていた
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購買に至るまでの情報処理プロセスだけでな
菓子,音楽のカテゴリにおけるインフルエン
く,買った後の消費者の行動,特に周囲へのク
サーを抽出し,その発した情報が,購買や試用
チコミやネットでの情報発信にも焦点をあてら
に影響を及ぼすことを明らかにした山本・片平
れるようになったと思われる。
(2008)や,ブログ記事に影響伝播モデルを適
ネットの情報に関する研究は,大きくは,購
用し消費者の関心を集める話題を発信するイン
買に至るプロセス,つまり情報源に関する研究
フルエンサーの発見を試みた松村・山本(2011)
と,購買後の行動,つまり情報発信に関する研
などがある。
究に大別することができる(2000 年前半まで
濱岡・里村(2009)は,情報源としての(対
のネットに関する国内外の文献のレビューは清
面での)クチコミ,e クチコミの利用および発
水,2006, 清 水 ら,2008, 濱 岡・ 里 村,2009
信状況についての一連の報告に加え,情報発信
などが詳しい)
。
の動機を明らかにした。その結果,クチコミ発
情報源に関する研究として,情報発信の内容
信,e クチコミ発信の双方に影響を及ぼすもの
だけでなく情報発信者の手がかり情報も重要で
として「コミュニケーションの楽しさ」,クチ
あるとした澁谷(2009)の研究,知覚認知率の
コミ発信に影響を及ぼすものとして「ポジティ
高い商品カテゴリではクチコミ受容態度に影響
ブ感情」,e クチコミ発信に影響を及ぼすもの
を及ぼすことを明らかにした山本ら(2011)の
として,
「経済的報酬」,
「アイデンティティ」,
「自
研究など,近年非常に多くの研究成果が報告さ
己効力感」などがあることを示した。
れている。
以上から,情報源としてのネットと,情報発
清水ら(2008)はブログが購買に及ぼす影響
信としてのネットの両方に注目する必要がある
について量的な側面と質的な側面の双方からそ
と思われる。加えて,前述の清水ら(2008)の
の効果を確認した。まず量的な側面では,売上
報告にあるように,その利用状況は商品カテゴ
とブログの量に関係が見られるカテゴリ(チョ
リによって異なるはずである。そこで,本研究
コレート)と,見られないカテゴリ(無糖茶飲
では,「購入に影響を及ぼす情報源」と,「購入
料)があることを示した。また,ブログの件数
後の情報発信」について,商品カテゴリごとの
や売上を共分散構造分析に供することで,ブロ
特徴とその変化に注目していく。
グの数が増えると,話題性が上がり,その結果
検索数が増え,売上に影響することなどを示し
❸ ——— 商品カテゴリ別の購買時の
情報源の違いと変化
た。一方で質的な側面では,ブログが販売を促
進するのではなく,
態度から行動を後押しする,
ないしは思いとどまらせる効果があることを示
前述のレビューを受け,まず,購入に影響を
した。
及ぼす情報源に注目する。清水ら(2008)が示
次に情報発信に関する研究について見てみよ
したように,ネットの情報源も,商品カテゴリ
う。情報発信者とりわけ,インフルエンサーと
別に効果が異なりそうである。そこでまず初め
呼ばれる消費者に注目し,クルマ,PC 周辺機器,
に,購買時に重要視される情報源の違いを商品
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購入に影響を及ぼす情報源と情報発信の変化
カテゴリ別に明らかにする。ここでは,以下の
した(複数回答可)。
2 つの視点を設定し,調査を行った。
視点 1:商品カテゴリの違いによって,購入
価格帯別に見てみると,まずサービス・その
時に参考にする情報源が異なる
他を除き,店頭での情報収集の割合が総じて高
視点 2:商品カテゴリの違いによって,購入
いことが伺える。特に低価格帯商品においては
時に参考にする情報源に変化が起きている
店頭での情報収集の割合が非常に高い。
中価格帯商品や高価格帯商品においては,店
調査は㈱インテージの協力のもと,2012 年 2
頭とネットが同じくらいの割合を占めている傾
月 22 日~ 24 日の 3 日間,全国の 20 歳~ 59 歳男
向にある。低価格帯商品と比べ,経済的リスク
女(構成比は母集団に準ずる)に実施し,2,429
が大きくなる中価格帯・高価格帯商品購入の際
サンプルを得た。
以下の39商品カテゴリのうち,
には,店頭だけでなく,事前にネットでの情報
3 ヶ月以内に購入した商品カテゴリのみについ
収集を積極的に行なっている様子が伺える。
て,その情報源を質問した。
サービス商品はネットからの情報収集や知人
からの情報収集の割合が他と比べて高くなって
まず,購買時に手がかりにした情報源を確認
いる。サービス商品はその品質が事前に判断し
2)
■表 —— 1
購入時の情報源
増減は,2012 年調査の割合から,2007 年調査の割合を引いたものであり,網掛け箇所は増加した商品カテゴリを示している。
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にくいことから,他者の体験談を参考にしてい
63,448 である。
る様子が伺える。
2012 年の調査結果と 2007 年の調査結果を比
なお,同じ価格帯の商品カテゴリでも,情報
較してみると,店頭やダイレクトメール,そし
収集において異なる傾向も示された。例えば,
て,ネットの情報は,概ねどの商品カテゴリに
低価格帯商品の中でも,比較的関与度の高いと
おいても参照される割合が高まっている情報源
思われるメイクアップ用品,スキンケア用品,
であることが示された。
洋服,ヘアケア用品,健康食品 / 健康飲料では,
なお,価格帯別に見ると,中価格帯・高価格
ネットでの情報収集の度合いが他よりも高く
帯商品においてはTVCMやTV番組,新聞広告・
なっている。また,高価格帯商品の中でも,自
新聞記事,チラシが,また,サービス・その他
動車は TVCM の影響が比較的高く,またカメ
においては,TVCM が参考にされる割合が高
ラは店頭での影響が強く出ている。パソコンや
まっていることがわかる。
5 万円以上の家電製品,及び自動車や分譲住宅
続いて,ネットを参考にした回答者に対して,
については,友人・知人からの情報収集の割合
具体的にインターネットのどのような情報を参
が高いといった傾向が示された。
照したのかを質問した。(複数回答可)
次に,情報源の重要度の変化を調べるために,
2007 年に実施した事前調査との比較を行った。
全 商 品 カ テ ゴ リ を 通 し て 見 て み る と, 商
調査は同じく(株)インテージ(
(株)インテー
品・企業の HP の割合が高いことがわかる。ま
ジ・インタラクティブ)協力のもと,2007 年
た,一部のサービスを除き,ショッピングサ
11月14日~ 19日の4日間実施された。回収数は,
イトの割合も高い。中価格帯・高価格帯商品
3)4)
5)
■表 —— 2
購入時の情報源(ネット)
増減は,2012 年調査の割合から,2007 年調査の割合を引いたものであり,網掛け箇所は増加した商品カテゴリを示している。
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購入に影響を及ぼす情報源と情報発信の変化
を中心に比較サイトの割合が高くなっている。
Facebook や Twitter などの新たなツールの割
❹ ——— 商品カテゴリ別の購買後の
情報発信の違い
合は,それほど高くないようである。
次に,2007 年と比較した結果を見てみると,
商品・企業の HP の比率がやや減少し,一方で
では,購入後の情報発信についてはどのよう
比較サイト,クチコミサイト,およびショッピ
になっているかを確認する。購入時の情報源を
ングサイトの伸びが顕著であることがわかる。
見た時と同様,2 つの視点を定めて調査・分析
2007 年と比べて,企業側発信の情報だけでな
を行った。
く,消費者の評価や体験談をより重視する傾向
視点 3:商品カテゴリの違いによって,購入
になってきていることが確認できる。
後の情報発信先が異なる
以上のことから,商品カテゴリごとに参考に
視点 4:商品カテゴリの違いによって,購入
される情報源が異なること,また,インターネッ
後の情報発信先に変化が起きている
トは中価格帯・高価格帯商品,およびサービス
において特に重要な情報源になってきており,
購入後に情報発信した対象を質問した(複数
中でもネットの情報の重要度が 5 年前と比べ相
回答可)。
対的に高まっていること,ネットの情報もその
特性によって重視されている情報源とそうでな
まず,発信先として上位にあるのは,家族,
い情報源があることなどが確認された。
次いで友人・恋人,そして職場の同僚・学校の
■表 —— 3
購入後の情報発信対象
増減は,2012 年調査の割合から,2007 年調査の割合を引いたものであり,網掛け箇所は増加した商品カテゴリを示している。
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仲間といった対面でのクチコミであった。中で
クチコミ件数(ブログの書き込み件数)を比較
も,同じ中価格帯商品の中でも携帯電話・スマー
した。売上データは㈱インテージから,クチコ
トフォン,また同じ高価格帯商品の中でも自動
ミデータは㈱電通から提供を受けた。7 商品の
車は,周囲への対面でのクチコミがなされてい
該当期間内のクチコミデータは合計 51,638 件で
る傾向にあった。
あった。
次に,2007 年と比較を行なってみた。実際
ま ず, ク チ コ ミ の 件 数 と 売 上 の 相 関 を 見
の対面でのクチコミは相対的に減少傾向にあ
て み た と こ ろ, そ の 相 関 は 非 常 に 低 か っ た
る。一方で先ほどの購入時の情報源の変化で見
(R2=0.0177)。
たサイトと同じく,クチコミサイトや比較サイ
次にクチコミの内容をテキスト・マイニング
ト,ショッピングサイトへの情報発信の傾向が
に供じた。テキスト・マイニングを用いること
強まっている。同じネットでも,ブログや mixi
により,ブログに書かれた文章を単語に分割し
などの比率は下がっている傾向にある。これは
て件数をカウントするだけでなく,ブログの書
Twitter や Facebook といった新たなツールの
き手の評価を示すキーワードをもとに,ポジ
出現により,相対的に減少していることなどが
ティブな内容か,ネガティブな内容か判定を行
想像される。
うことができる。これらの処理を行い,各商品
以上のことから,商品カテゴリ別に情報発信
ごとにポジティブなブログ率(クチコミ率)を
されやすい商品とそうでない商品があることが
算出し,売上の関係を見たところ,単純なクチ
わかった。また,対面での情報発信は多いが,
コミの件数と売上との相関を求めた時と比べて
過去と比べてネットでの情報発信の割合が増え
相関が高くなることがわかった(R2=0.6668)。
ている,といった消費者の行動の変化が見受け
消費者は,購買する際に,全てのクチコミを読
られた。ネットでの情報発信も,
その特性によっ
むわけではなく,一定量のクチコミを読むこと
て,発信されやすい対象とそうでない対象の差
が想定される。そのため総件数よりもポジティ
が見られることも確認できた。
ブなクチコミに遭遇する率の方が,売上との関
この増加傾向にあるネットでの情報発信であ
連性が強くなっているのだと推察される。
るが,件数も重要であることは確かだが,クチ
これまで,情報収集と情報発信において,価
コミはその内容にも着目する必要がある(清水
格帯を中心とした比較を行なってきた。価格帯
ら,2008)
。そこで,量的な側面だけでなく,
による分類は,概ね傾向として捉えられるもの
質的な側面に注目してみた。ここでは紙幅の都
の,幾つか説明がしにくい商品も多く含まれて
合上,2012 年の研究結果のうち,ビールの研
いた。そこで,次節では,情報収集と情報発信
究について報告する。
を加味した新しい商品カテゴライゼーション方
当該研究では,クチコミの内容と,売上の関
法を提案する。
係を見てみた。対象はビール類 7 商品について
である。7 商品それぞれにおいて,発売前 4 週
間から発売後 20 週の売上データと,ネットの
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コミュニケーション策を考える上で,どのよう
❺ ——— 情報収集と情報発信に着目した
な商品ではどんな施策が重要なのかを考える枠
商品分類
組みとなる。
商 品 分 類 に つ い て は Copeland(1924) の
近年のネット活用の普及・ソーシャルメディ
Convenience Goods( 最 寄 り 品 ),Shopping
ア発展により商品購買の構造が変わって来たの
Goods(買回り品),Specialty Goods(専門品)
は前述の通りだが,それが本質的な構造変化だ
に始まる様々な研究があるが,近年のものとし
とすると商品カテゴリの性質も従来とは異なる
ては池尾(1993)の購買関与度と品質判断力の
本質的な類型が存在しはじめているのではない
二軸のよる分類,三浦(2000)の認知的関与と
か,という問題意識の元に,購入前の情報収集
感情的関与の二軸による分類などが代表的であ
と購買後の情報発信に基づく商品カテゴリにつ
る。ネット上の購買行動を踏まえた研究として
いての類型化を試みる。これは今後ネット上の
は渡部・岩崎(2010)のネット購買の抵抗感に
■図表 —— 4
38 商品カテゴリのクラスタリング
表側の 1 ~ 8 と記号は,図表 6 上の表記と対応している。
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論文
■図表 ——5
因子分析の結果
基づく分類などがあるが,ネットクチコミ等情
分析を行い,商品分類を行った。大きく分けれ
報発信局面まで踏まえた研究はまだなされてい
ば低価格帯・中価格帯の商品群,高価格帯の商
ないため,本稿ではネット上の購買前情報収集
品群,サービス系の商品群の 3 クラスターに分
と購買後の情報発信に着目して分類を行う。
かれる。更に低価格帯・中価格帯の商品群が3つ,
ここでは,あまりに他の商品と性質が異なる
高価格帯の商品群が 2 つ,サービス系の商品群
分譲住宅を除外した 38 品目についての 2012 年
が 3 つの合計 8 クラスターに分かれる。細かく
の購買前参照情報と購買後情報発信の具体的な
見ると発見はあるが大きく違和感がある分類で
利用情報項目 についてのそれぞれの全体の比
は無い。
率を用いた。
さて,これらの分類軸となる情報入手行動と
まずはこれらの項目全体を用いてクラスター
情報発信行動の各項目はどのような構造になっ
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購入に影響を及ぼす情報源と情報発信の変化
ているのかを見るために購買前参照情報と購買
因子⑧ DM
後情報発信の選択肢の項目を因子分析にかけた
ところ 8 つの因子が抽出された。これらの因子
第 1 因子「マス参照ネット発信」は購買に様々
を以下のように名付けた。
な情報収集を行っている要素とそれをネット上
因子①マス参照ネット発信(話題にしたくな
で発信している要素を幅広く含む。これは話題
る)
にしたくなるような発信したくなるような財で
因子②ネットクチコミ参照
あり,もともとマスメディアのコンテンツ・チ
因子③ショッピングサイト受発信
ラシ・ネット上など様々な情報源から情報を得
因子④ネット宣伝参照
ていて,それを話題としたくなる,あるいは話
因子⑤個人発信
題にし易いのがこの因子の本質であると考える
因子⑥オークションサイト受発信
のが自然である。この軸で現れるのは商品が話
因子⑦クチコミサイト受発信
題となり得るかということであり,今後いかに
■図表 ——6
因子①・因子②によるプロット
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ソーシャルメディアが発達しようがあまり関係
なるが,どのような情報がネット空間上を駆け
が無いと思われる。 2007 年から 2012 年の変
巡っているかのモニタリングも重要である。こ
化では,ネット上の発信については上向きだ
のカテゴリに属するのは携帯電話,iPod・MP3
が,参照する度合いはあまり大きく変わってい
プレイヤー,自動車,カメラ,携帯電話・スマ
ない。
ホ等である。
第 2 因子「ネットクチコミ参照」では購買前
にブログ・個人ホームページや SNS や掲示板
第 2 象限:非クチコミ財:
を参照する要素が抽出されている。2007 年か
このカテゴリは基本的にネット上でのクチコ
ら 2012 年の変化については全般的には掲示板
ミになりにくい財である。食品・ビール等宣伝
と mixi が若干減り facebook と twitter が増えて
予算の規模が大きい商品群も多いため,ソー
おり,トータルでは増加が見られる。
シャルメディアへの取り組みも積極的だが,実
第 3 因子「ネットショッピング受発信」は購
は相対的にソーシャルメディア戦略がそれほど
買前にショッピングサイトや企業・商品のホー
重要では無いカテゴリである。マス宣伝と店舗
ムページで情報収集し,購買後にショッピング
における陳列が重要な財である。このカテゴリ
サイトで発信をするという要素である。これは
には医薬品・お菓子・カップ麺・レトルト食品・
2007 年から 2011 年にかけて多くの商品カテゴ
低アルコール飲料・清涼飲料・ビール類・掃除
リで増加している。この因子は購買チャネルが
洗濯用品などが含まれる。
リアルからネットへ移行するとともに進む因子
であり,その先進カテゴリで起こっていること
第3象限:経験財(ネットクチコミ情報不足財)
を,今後起こるであろう他のカテゴリでもよく
このカテゴリは経験財が多く,経験してみな
理解し,ヒントとすることが求められる。
いことには自分に合っているかどうか,品質が
分類軸として本質的な分類は第 1 因子と第 2
高いかどうかの判断が出来ず,リスク回避のた
因子であるので,この 2 軸を用いて以下のよう
めにクチコミを積極的に読むカテゴリである。
に分類した。
ヘアケア・スキンケア・病院・洋服・健康食品・
宿泊施設・子供の通信教育などが代表的である。
第 1 象限:話題財(ネットクチコミ発信財)
:
これらのカテゴリにおいては,品質を向上して
このカテゴリは皆入手した情報を話題にした
満足度を高め,不満客へのフォローをしっかり
いので,様々な情報源からの情報を話題にする。
と行なうことで良いクチコミが発生するように
友人知人にも話題にするが,ネット掲示板や
することが求められるカテゴリである。とりわ
SNS での発信がなされる。この領域においては
け満足している顧客にいかに語らせるかが重要
記事や番組になること及び,企業や商品のホー
であり,認知のための宣伝は余り効き目が無い
ムページ,カタログ・パンフなどあらゆる機を
と考えられる。
捉えて適切な情報を提供することが重要であ
る。パブリシティのコントロールが主な施策と
第 4 象限:クチコミ財(ネットクチコミ情報
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購入に影響を及ぼす情報源と情報発信の変化
旺盛財)
かった。
このカテゴリは発信する側も受信する側も
同じ価格帯でも,商品特性によってその情報
ネットクチコミを多用するカテゴリである。す
受発信状況が異なるため,「ネット上で話題に
なわち黙っていても良い評判も悪い評判もどん
したくなる度合い」と「ネット上でのクチコミ
どん伝わるカテゴリである。品質を上げ満足度
についての情報ニーズの強弱」の 2 軸で分類し
を上げることはもちろんのこと,どんなクチコ
たことにより,商品カテゴリによりネットクチ
ミがネット上で伝わっているのかのリアルタイ
コミに対する打ち手が異なることが明らかに
ムモニタリングを行い,即座に対応することが
なった。
重要であると考えられる。代表的なものとし
本研究では,39 商品カテゴリの違いに注目
ては 5 万円以上家電,ダイエット関連商品,金
したが,購入段階ごとの情報源の違いの変化
融商品,生命保険・医療保険,宿泊施設,国
や,個人レベルへの注目などは今後の課題とし
内・海外ツアー,テレビ・レコーダー,書籍・
たい。
CD・DVD などがある。
注 1)2007 年度研究チーム A,2011 年度研究チーム C のコー
ディネータ・メンバの皆様には厚く御礼申し上げた
い。
2)「ビール」はビール,発泡酒,新ジャンルが対象。「低
アルコール飲料」はチューハイ,カクテルが対象。
「ビール」,「低アルコール飲料」,「その他のお酒」
では,お店での飲用を除いている。「洋服」はスーツ,
ブラウス,スカート,ベビー・子供服,下着類が対象。
「医薬品」は風邪薬,目薬,ドリンク剤が対象。「デ
ジタルオーディオプレーヤー」は iPod,MP3 プレ
イヤーが対象。「1 万円未満の家電製品」では,デジ
タルオーディオプレーヤーを除いている。
「ダイエッ
ト関連商品」食品,器具が対象。「カメラ」は一眼
レフ,デジタルカメラ,ビデオカメラが対象。「5 万
円以上の家電製品」はカメラ,テレビ,HDD/DVD
レコーダー,パソコンを除いている。「自動車・オー
トバイ用品」はタイヤ,カーナビ,カーオーディオ
が対象。分譲住宅はマンション,一戸建てが対象で
あり,賃貸を除いている。損害保険は自動車保険,
火災保険,地震保険が対象。金融商品は株式,投信,
個人向け国債,外貨預金が対象。宿泊施設はホテル,
旅館が対象。
3)2007 年の調査の対象は,10 ~ 99 歳までの男女となっ
ている。2012 年の調査は 20 ~ 59 歳とは調査対象が
異なるため厳密な比較は困難であることが課題であ
る。
4)2007 年の調査では「お酒」について調査しているが,
2012 年の調査では,「ビール」,「低アルコール飲料」,
「その他のお酒」に変更している。また 2007 年の調
以上「ネット上で話題にしたくなる度合い」
と「ネット上でのクチコミについての情報ニー
ズの強弱」の 2 軸で 38 商品を分類した。これに
より,商品カテゴリによりネットクチコミに対
する打ち手が異なることが明らかになり,それ
ぞれの商品を位置づけ,その特徴に応じてどの
ようなコミュニケーション施策が重要かを考え
ることが出来るようになった。
❻ ——— おわりに
39 商品カテゴリの比較を行ったことにより,
商品カテゴリの違いによって,購入する際に参
考にした情報源,及び,購入した商品・サービ
スの情報発信先が異なることが明らかになっ
た。具体的には,中価格商品,高価格商品,サー
ビス商品は,店頭だけでなく,インターネット
での情報が重要であることがわかった。また,
クチコミサイトや比較サイト,ショッピングサ
イトへ書き込む行動比率が増していることがわ
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論文
査では「加工食品」(カップ麺,レトルト食品など)
について調査しているが,2012 年の調査では,
「カッ
プ入りスープ」,
「カップ麺」,
「レトルト食品」に変更・
分割して調査している。その他「教育関連」
(2007)は,
「子供の通信教育」(2012)に,
「レストラン」(2007)
は「飲食店」(2012),「CD/DVD」(2007)は「書籍,
CD/DVD ソフト」に変更している。これらのカテ
ゴリについては過去の結果と正確な比較はできない
ため,増減については注意を要する。
5)「掲示板」は 2 ちゃんねるなど,「比較サイト」は価
格 .com など「クチコミサイト」は@ cosme など,
「ショッピングサイト」は楽天市場などを対象とし
ている。
6)なお 2007 年段階でまだ尋ねていなかった twitter と
facebook も含めた比較にするために便宜的に mixi
と twitter と facebook は合わせて SNS として扱った。
渡部和雄・岩崎邦彦(2010)「ネット購買における消費
者意識にもとづく商品類型化」,『東京都市大学環
境情報学部紀要』(11), 5-13
Copeland M.T.(1924)"Principles of Merchandising",
Chicago,IL:A.W.Shaw
神田 晴彦(かんだ はるひこ)
1979 年 神奈川生まれ
2002 年 早稲田大学社会科学部卒
2002 年 株式会社野村総合研究所入社(現在)
2010 年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科 博士
前期課程修了
主要著書:共著「顧客の声マネジメント-テキスト
参考文献
池尾恭一(1993)「消費者業態選択の規定因 -- 購買関与
度と品質判断力」,『慶応経営論集』10(2), p13-29
神田晴彦(2009),「顧客の声の活用と課題に関する一
考察 - テキスト・マイニングを用いた定性情報の活
用を中心に -」,『流通情報』No.479,Vol.41 No.2,
pp.29-36
澁谷覚(2009),「ネット・クチコミの発信者に対する
手がかり情報が受け手に及ぼす影響」,『日経広告
研究所報』, 43(4), pp.80-94
清水聰(2006),『戦略的消費行動論』千倉書房
清水聰・長谷川想・高山佳子(2008)「ブログの効果測
定~ . 量的側面と質的側面~」,『マーケティング・
ジャーナル』. Vol.110,pp63-77.
濱岡豊・里村卓也(2009),『消費者間の相互作用につ
いての基礎研究 クチコミ,e クチコミを中心に』,
慶應義塾大学出版会
松村真宏・山本晶(2011)「ブログ空間におけるインフ
ルエンサーおよび消費者インサイトの発見」,
『マー
ケティング・ジャーナル』30(3)82-94
三浦俊彦(2000)「消費者の店舗選択行動の類型化 -- 認
知的関与と感情的関与を中心に」
『中央大学企業研究所年報』(21), 73-89
山本晶・片平秀貴(2008)「インフルエンサーの発見と
クチコミの効果~ AIDEES モデルの実証分析~」,
『マーケティング・ジャーナル』, 28(1)pp.4-18
山本晶・西田悟史・森岡慎司・山川茂孝(2011)「知覚
認知率がクチコミ受信意向に与える影響」,『マー
ケティング・サイエンス』,19(1)73-89
山本晶(2009)「Web マーケティング」,『人工知能学会
誌』,24 巻 4 号,pp.486-493
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マーケティングジャーナル Vol.32 No.4(2013)
マイニングで本音を「見る」-」
(2007)オーム社,
「“顧
客の声”分析・活用術―テキストマイニングが拓く コールセンター高付加価値化への新たな提案」
(2008)
リックテレコム,「ビッグデータ革命 無数のつぶやき
と位置情報から生まれる日本型イノベーションの新
潮流』(2012),アスキーメディアワークスほか
鳥山 正博(とりやま まさひろ)
1960 年 東京生まれ
1983 年 国際基督教大学教養学部社会科学科卒
1983 年 株式会社野村総合研究所入社
1988 年 ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院
修了,MBA
2009 年 東京工業大学大学院総合理工学研究科修了,
博士(工学)
2009 年 立命館大学大学院経営管理研究科 教授(現
在)
研究分野:マーケティング戦略,マーケティングリ
サーチ,エージェントベースシミュレーション
主要著書:監訳「社内起業成長戦略」(2010),マグ
ロウヒル論文「企業内ネットワークとパフォーマン
90
http://www.j-mac.or.jp
Japan Marketing Academy
購入に影響を及ぼす情報源と情報発信の変化
ス」(2009),社会情報学会博士論文奨励賞ほか。
清水 聰(しみず あきら)
1963 年 東京生まれ
1986 年 慶應義塾大学商学部卒,同大学大学院修士
課程,博士課程を経て
1991 年 明治学院大学経済学部専任講師,助教授
2000 年 同大学経済学部教授
2009 年 慶應義塾大学商学部教授(現職)
2004 年 博士(商学)(慶應義塾大学)
1996 ~ 97 年 米国ノースウェスタン大学ケロッグ経
営大学院客員研究員
2005 ~ 06 年 豪州シドニー大学アジア太平洋研究所
訪問研究員
研究分野:消費者行動論,小売業戦略,マーケティ
ング・リサーチ
主要著書:単著「新しい消費者行動」
(1999)千倉書房,
「消費者視点の小売戦略」(2004)千倉書房,「戦略的
消費行動論」(2006)千倉書房,ほか
91
http://www.j-mac.or.jp
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