雇用労働事情のPDFファイル

米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
2.1
労働市場の状況
米国経済は 1930 年の金融恐慌以来最悪の状態となっている。政府の経済復興策の効果
が少しずつ出始めているとする経済学者もいるが、2009 年 7 月現在、国民の多くが仕事
を失い、実際は経済回復の兆しは見えていない。株価や住宅用不動産の下落で金融資産は
大きく目減りし、異常に高い失業率と雇用機会の縮小により、労働市場は最悪の状況であ
る。労働市場に関するデータは連邦政府の労働統計局のホームページ
(http://www.bls.gov)で公表している。
2.1.1
過去 3 年間の労働力人口、就業者数、失業者数及び失業率
労働統計局(Bureau of Labor Statistics:BLS)によると、2009 年 6 月の失業率は 9.5%
で、失業者総数は 1,470 万人であった。2007 年 12 月時点と比較すると、失業率は 4.6%
上昇し、失業者は 720 万人増加した。製造業、建設業、ビジネスサービス業(コンサルタ
ント業や人材派遣業など)多種多様な業界で失業者が出ている。
表 2‐1
年
失業率と失業者数
失業率
失業者数(万人)
2009 年 6 月
9.5%
1,470
2008 年 6 月
5.5%
850
2007 年 12 月
4.9%
750
2007 年 6 月
4.6%
700
2006 年 12 月
4.4%
-
2005 年 12 月
5.1%
-
*出典:Bureau of Labor Statistics, “Employment Situation Summary”,
http://www.bls.gov/news.release/empsit.nr0.htm
2009 年 6 月時点の失業率を分類別に見ると、成人男性 10%、成人女性 7.6%、20 歳以
下(若年層)24%となり、人種別では、白人 8.7%、黒人 14.7%、ヒスパニック 12.2%、ア
ジア系 8.2%である。2009 年 6 月時点では、過去 6 カ月間失業状態であった長期失業者数
は 1 カ月前と比較して、43 万 3,000 人増加し、440 万人になった。長期失業者数の総失業
者数に占める割合は 30%になっている。
フルタイムの仕事が見つからずパートタイムの仕事に就いたり、経済的理由から働き始
めたりする者(例えば、夫がレイオフにより失職したために、妻が働きに出るなど)は非
自発的パートタイム労働者(Involuntary part-time workers)と呼ばれ、2009 年 6 月時
点で 900 万人になり、2007 年 12 月に不況が始まってから 440 万人増加している。
過去 1 年間職探しをしているが、調査の直近 4 週間に就職活動の実績がない者は労働統
計上、労働予備軍(Marginally attached to the labor force)として分類される。この予
備軍は失業者と認められないが、2008 年より 61 万 8 千人増加し、220 万人になっている。
この 220 万人の労働予備軍のうち、79 万 3,000 人(対前年比 37 万 3,000 人増)は、職が
見つからずに就職をあきらめた求職意欲喪失者(Discouraged workers)である。
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米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
正社員の数も減少し、2009 年 6 月には 46 万 7,000 人が失職した。失業者数は 2008 年
11 月から 2009 年 3 月までは月平均 67 万人であったが、2009 年 4 月から 6 月までは月平
均 43 万 6,000 人となった。
製造業の失業は深刻である。2009 年 6 月だけで 13 万 6,000 人が職を失い 2008 年 9 月
以降 190 万人に達した。6 月の失業者数は、自動車やその部品企業で 2 万 7,000 人、金属
加工 1 万 8,000 人、コンピュータやエレクトロニクスは 1 万 6,000 人、工作機械では 1 万
4,000 人などである。自動車業界では不況以降 33 万 5,000 人減少し、3 分の 2 の規模にな
っている。
2.1.2
業種別労働者数
表 2‐2
産
産業別就業者数
業
農業、狩猟業、林業
(単位:人)
就業者数
就業者数
2008 年 6 月
2009 年 6 月
448,000
漁業
‐
増減人数
438,490
11,100
▼9,510
‐
718,300
671,700
▼46,600
13,632,000
11,920,000
▼17,12000
563,500
570,800
▼7,300
7,433,000
6,432,000
▼1,001,000
15,301,700
14,793,100
▼508,600
11,996,300
11,598,400
▼397,900
運輸、倉庫、通信業
4,546,000
4,273,000
▼270,000
金融仲介業
8,278,000
7,802,000
▼476,000
不動産、賃貸業
2,167,900
2,024,600
▼143,300
22,427,000
22,511,000
+84,000
2,823,900
2,906,300
+82,400
15,808,700
16,180,600
+371,900
2,501,000
2,549,100
+48,100
推定 10,500 万人 推定 10,500 万人
0
鉱業、採鉱業
製造業
電気、ガス、水道業
建設業
卸売業、小売業、修理業
(自動車、二輪車、家電製品)
ホテル、レストラン業
官公庁(公務員)
教育
医療、社会福祉
地域、社会、個人サービス活動
自営業
推定 1,500 万人
国外機関
合
推定 1,500 万人
約 1 億 2,500 万人
計
※
0
‐
※この表はすべての業種を網羅してはいないため、合計約 1 億 2,500 万人は全就業者数ではない。米国人
就業者数は現在 1 億 4,000 万人で、2008 年からは 500 万人減少したと推測される。
*出典:Bureau of Labor Statistics,
“Employees nonfarm payrolls by industry sector and selected industry detail”,
http://www.bls.gov/news.release/empsit.t14.htm
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作成年月日:2009 年 9 月 29 日
2.1.3
新規学卒者の就職状況
地域によって差はあるものの、高校や大学の新卒者にとって就職は極めて厳しい。就職
活動に苦労している学生の例を以下に紹介する。
オハイオ州クリーブランドの新聞記事から引用すると、2007 年にマーケティングを専攻
した女子学生は BMW 社で 3 カ月のインターンシップを経験した。上司は働きぶりに満足
したが、彼女は正社員になれず、インターンシップをもう 1 年延期した。2009 年 6 月現
在でもまだ就職できていない。2007 年 12 月の不況が始まって以降、オハイオ州では 28
万 6,000 人が職を失い、そのうち 3 分の 2 が 2008 年秋以降に失業し生活に困窮している。
2009 年 4 月には失業率は 10.2%にまで上昇した。オハイオ州では毎年数万人の学生が就
職活動を行っている。企業は職歴経験が少ない者からレイオフするため、社会に出て間も
ない者がレイオフされ、就職活動に加わってきており、求職状況はさらに厳しくなり、競
争倍率は 5 倍にもなっている。
労働市場は買い手市場である。企業は新卒を採用する代わりに、5 年ほどの経験者を新
卒の給与で採用している。また、現状では社員の紹介や口ききによっての応募があるため、
募集広告を止める企業も多い。社員からの紹介は企業にとって経費がかからず、良い人材
を獲得できるため、このような紹介を社員に促している企業もある。オハイオ州では学卒
への求人数は少なく、あっても給与が低くなっている。2009 年の求人数は前年に比べ 22%
下がっており、給与は 2008 年の新卒平均 4 万 9,624 ドル1から 4 万 8,515 ドルへと下がっ
ている。
企業の 3 分の 2 以上は新卒の採用計画を見直しているといわれている。以下、オハイオ
州の記事を引用する。
「卒業時に就職が決まっている学生の割合は 2007 年時の 51%から、2008 年時 26%、
2009 年は 19.7%まで減少している。全米大学協会の調査によれば、2009 年卒業の 61%
の学生は現況下では就職は厳しい、しかし、52%は 3 カ月以内に就職できる自信があ
ると回答している。大学のキャリアセンターには数年前に卒業した社会人も求人情報
を探しに来ている。彼らのほとんどは卒業後に就職したが、その後レイオフされた者
で、パートタイムの仕事に就いたり、技能を活かしてフリーで仕事をするのも多い。」
大卒資格者の失業率は大卒でない者に比べて低い。大学を卒業して間もない社会人(大
卒 23〜27 歳の層)は高年齢層に比べて、失業率が高く就職も安定していない。また、大
卒でありながら、大卒の資格を求めない仕事に就く者も多い。
1
1 米ドル=90.1469 円(2009 年 9 月 29 日現在)
3
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
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(1)
大卒 23〜27 歳の層の失業率
(2)
全米の失業率
2009 年第 1 四半期:6.0%
2009 年第 1 四半期:8.0%
2008 年第 1 四半期:3.7%
2008 年第 1 四半期:4.9%
2007 年第 1 四半期:3.0%
2007 年第 1 四半期:4.5%
職が見つからない学生は、海外も含めたボランティアに就いたり、インターンシップに
就いたり、起業を始めたりしている。今の学生は 2 年前の学生に比べ、就職への期待度は
低く、大学院へ進学するものもいる。院卒でも就職状況は厳しく、もし良い仕事を得たい
のなら、勤務地について希望を伝えるのは控えた方が良いという。
フロリダ州南部の状況を見てみると、2009 年 6 月時点、州全体で失業率は約 10%、89
万 3,000 人が職を失っている。マイアミ市の失業率は低く 8%であるが、州の主要産業で
ある建設業界では 11 万 3,000 人も職を失い、新規採用はほとんど期待できない。しかし、
医療分野は好調で常に看護師が不足しており、看護学校卒業生はすぐに職を得ている。不
況の時でも、医者と看護師の求人は多い。
2.1.4
離職者の現状
労働統計で離職率(Quits Rate)は自ら希望して転職する人の割合を示している。2009
年 5 月時点では 1.3%と過去 8 年間で最低となっている。2008 年 5 月時点と比較すると、
34%に相当する 90 万 4,000 人減少し、今や 170 万人にまで減少した。すべての業界で離
職率が減少しているのは、転職先を見つけるのが難しいからであり、現状の仕事に不満を
持つ者が少なくなったというわけではない。
一方、レイオフのように会社都合による退職(Non-voluntary separations)もある。労
働統計によると、5 月には 2,933 件の大規模レイオフ(1 件当たり少なくとも 50 人がレイ
オフされる)が実施され、失業保険の申請数は 31 万 2,880 人であった。5 月には対前月比
で 221 件増加し、過去 1 年間で 1,232 件増えたことになる。5 月のレイオフのうち、製造
業は 1,331 件と 1 年間で倍に増えている。2007 年 12 月の不況の始まりから 2009 年 5 月
までの 18 カ月間で大規模なレイオフ件数は 3 万 7,059 件、失職者数は 381 万 1,307 人に
も上っている。大規模レイオフの 37%は製造業で 1 年前に比べ 25%も増加し、内訳は輸送
機器が 4 万 6,816 件、製造機器は 1 万 2,472 件であった。事務管理サービスと資源回収業
で合わせて大規模レイオフ全体件数の 11%を占めた。
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2.1.5
職種別技能労働者数
表 2‐3
職能別労働者
主な職能
人数
代表取締役社長(Chief Executive)
301,930
執行役員・本部長(General and Operations Managers)
1,697,690
64,650
法務職(Legislators)
営業マネージャー(Sales Managers)
333,910
情 報 シ ス テ ム マ ネ ー ジ ャ ー ( Computer and Information
systems managers)
購買職(Purchasing agents)
276,820
286,990
顧客苦情処理職
277,230
(Claims adjusters, examiners, and investigators)
人事・教育・労務管理職
( Human
resources,
training,
and
labor
relations
217,440
specialists)
経理・監査職(Accountants and auditors)
1,133,580
証券アナリスト(Financial analysts)
236,720
融資・貸付職(Loan officers)
321,850
コンピュータプログラマー職(Computer programmers)
394,230
コンピュータソフト開発職
(Computer software engineers, applications)
494,160
コンピュータ管理専門職(Computer support specialists)
545,520
建築設計士(Architects)
110,990
土木技師(Civil engineers)
261,360
電気技師(Electrical engineers)
154,670
電気・電子技術者
(Electrical and electronic engineering technicians)
162,330
市場調査職(Market research analysts)
230,070
社会福祉職(Social and human service assistants)
332,880
弁護士(Lawyers)
553,690
教育・訓練・司書士職
(Education, training, and library occupations)
8,451,250
*出典:Bureau of Labor Statistics, “Occupational Employment and Wages News Release”,
http://www.bls.gov/news.release/ocwage.htm
5
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2.2
賃金
従業員にかかるコストは、2009 年 5 月の労働省労働統計局が実施した全米従業員就業
コスト調査で発表された。この統計は連邦及び州政府の公務員と民間企業(農業は除く)
の従業員を対象にしており、コストの内訳は次のとおりである。
表 2‐4
平均賃金
連邦・州政府公務員、民間
民間企業平均
企業(除農業)の全平均
政府・企業が支払う時間給コスト
$29.39 (100.0%)
$27.46 (100.0%)
給与分
$20.49
(69.7%)
$19.45
(70.8%)
福利厚生分
$ 8.90
(30.3%)
$ 8.02
(29.2%)
表 2‐5
福利厚生費の内訳
社会保障、メディケア、失業保険、
$2.28
(7.8%)
$2.27
(8.3%)
有給休暇(病欠、バケーションなど)
$2.08
(7.1%)
$1.86
(6.8%)
医療保険、障害者補償保険など
$2.52
(8.6%)
$2.14
(7.8%)
補助手当など
$0.70
(2.3%)
$0.78
(2.8%)
退職金積み立て
$1.31
(4.5%)
$0.96
(3.5%)
労災保険など(法的な税負担コスト)
*出典:Bureau of Labor Statistics, “Employer Costs for Employee Compensation news release text”,
http://www.bls.gov/news.release/ecec.nr0.htm
全正規従業員数 1 億 10 万人の 2009 年第 2 四半期の平均週給(給与の支払いは一般に 2
週間ごとである)は 734 ドルで、前年比 2.1%上昇した。週給についてのデータは人口調
査(Current Population Survey)で集計される。以下要点を述べる。
・ 男女別所得(週給ベース)では、男性 815 ドル、女性 652 ドル
人種別所得では、ヒスパニックが 547 ドル、黒人 592 ドル、白人 754 ドル、アジア
系 909 ドル
・ 人種別男女所得の比率を見ると、黒人女性は男性の 91.5%、ヒスパニック 88.9%、
アジア系 80.6%、白人 79.1%
・ 黒人男性の中間値は 620 ドルで白人男性(842 ドル)の 73.6%である。黒人女性の
中間値は 567 ドルで白人女性(666 ドル)の 85.1%と女性の所得格差は少ない。
・ 男女の年代別所得で見ると、男性は 55〜64 歳が 964 ドル、45〜54 歳が 961 ドル、
女性では 55〜64 歳が 721 ドルで最も高い。
・ 職能別では、管理職や専門職が最も高く男性は 1,250 ドルで、女性は 900 ドルであ
り、最も低いのはサービス職である。
・ 学歴別所得では、25 歳以上で高校中退者は 465 ドル、高校卒業者は 630 ドル、大
学卒業者は 1,140 ドルである。修士や博士課程修了者の中で上位 10%は、男性で週
3,434 ドル以上、女性では 2,130 ドル以上の所得を得ている。
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米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
2.2.1
法定最低賃金の最近の動向
連邦政府が定めた最低賃金は 2009 年 7 月 24 日に改定され、時給 6.55 から 7.25 ドルに
なった。29 州では、まだ 7.25 ドル以下の時給を定めているが、改定されることになる。
7 州は既に改定し、14 州とワシントン DC は上回った額を最低賃金と定めている。連邦・
州政府どちらにしても、最低賃金は高い額が適用される。
最低賃金は、長年 5.15 ドルであったが、2007 年 7 月に 5.85 ドルへ、2008 年 6.55 ドル、
2009 年 7.25 ドルへと推移してきた。引き上げの理由は失業者の増加と給与カットであっ
た。2008 年は 310 万人が失業し、2009 年上期だけで失業者は 340 万人に上った。レイオ
フで失業した人々は以前よりもかなり低い給与の仕事に就いている。また、失業期間が 6
カ月以上の失業者が 440 万人にもなり、そのうち失業保険の支給期間も過ぎてしまった者
も多い。経済学者はこのような時期に最低賃金を引き上げると企業は賃金上昇分を吸収で
きないであろうと述べている。最低賃金改定法は景気後退の数年前に議会で可決されてお
り、企業の多くはこの最低賃金改定に応じられず、地域によっては雇用拡大が遅れるとこ
ろが出てくるかもしれない。最も影響を受けるのはレストラン、特にファストフードレス
トランで今回の不況で直撃を受けた小売業も影響が大きい。賃金の安い労働者を擁護する
人たちは、たとえ国民の多くの生活が大変になっても、最低賃金の引き上げは良いことだ
と唱えている。
最低時給 7.25 ドルだと週労働 40 時間で年収は 1 万 5,080 ドルになる。全米の週当たり
の平均労働時間 33 時間で計算すると、年収は 1 万 2,441 ドルになる。米国では政府が定
めた貧困状態(Poverty level)とは 1 人当たり年収 1 万 830 ドル、1 世帯当たり(4 人家
族)2 万 2,050 ドル以下であり、生活保護を受けるにはこの年収以下でなくてはならない。
確かに、最低時給での生活は大変であるが、家族と同居するティーンエイジャーにとって
は充分な給与である。経済が好調の時には、ほとんどの仕事は連邦や州政府が定めた最低
時給よりも高かったが、今の不況時では、最低時給の仕事しか見つからない。政府に生活
保護を申請する最低時給の労働者が増えている。一方、企業の業績悪化により国の税収が
減少すると共に、生活保護手当などの社会福祉予算が削減されており、低所得者層には大
変厳しい状況である。
2.2.2
賃金もしくは給与の実態調査結果
職業、給与、将来の成長業種などの実態調査は数多く行われており、以下、労働調査局
がまとめた最新記事「米国トップ 10 職種」から引用する。
(1)コンピュータシステムソフト技術者
8 万 1,140 ドル
企業のコンピュータ導入・運用及び維持管理を指導し、また、企業内ネットワーク
(Intranet)を導入する業務である。
資格はコンピュータサイエンスや情報システムの大学卒である。
(2)コンピュータアプリケーションソフト技術者
7 万 6,310 ドル
開発言語(C++や Java など)を使ってアプリケーションソフトを開発する業務である。
資格は大学卒、複雑なソフト開発の場合は大学院卒である。
(3)バイオメディカル技術者
7 万 520 ドル
生体や医薬に関する問題に取り組む総合的な知識が求められる技術者で、例えば、人
7
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工臓器や人工器官の研究開発などを行う。
資格はほとんど大学院卒である。
(4)医療看護師
6 万 9,250 ドル
健康維持に関する診断、治療、予防を行い、医師の監督の下で患者への処方箋も出せ
る。資格は公認医療看護師プログラム履修者で大学卒である。
(5)環境技術者
6 万 9,250 ドル
大気汚染、オゾン層破壊、野生動物保護に関する問題を調査、研究することで、環境
改善や保護を進める業務を行う。
資格は大学卒である。
(6)コンピュータシステムアナリスト
6 万 7,520 ドル
現システムの問題点を分析し、新しいシステムの導入を検討、計画を立て企業の投資
効率を最大にする業務である。
資格は複雑なシステムかどうかによるが、短期大学から大学院卒で、専門の教育や検
定資格の取得が必要な場合もある。
(7)データベースアドミニストレーター
6 万 1,950 ドル
データベースを計画作成、検査、修正、また顧客の要望を識別したり、新しいユーザ
ーをシステムに組み入れたりするなどの業務を行う。
資格は業務の複雑さに応じた技術知識や専門教育修了者である。
(8)理学療法士
6 万 1,560 ドル
身体機能に損傷を受けた患者の機能回復を行う業務である。
資格は理学療法の教育を修了し、公的な理学療法士の資格所持者である。
(9)通信ネットワークシステム技術者
6 万 1,250 ドル
インターネットの構築、導入を行う。特に企業内ネットワーク、LAN, WAN などとの
接続検査及び評価を担当することが多い。
資格は 2 年生専門学校(コミュニティーカレッジ)や大学卒である。
(10)水資源管理者
6 万 880 ドル
水資源の水量、供給、循環に関し、環境保護や治水管理につながる業務を行う。資格
は大学卒だが、大学院卒も増えている。
2.2.3
役職別給与体系のサンプル
給与体系は企業や組織によってさまざまである。公務員や大企業でははっきり職務別給
与が定められており、公務員の場合は給与と福利厚生は公表されている。一般に、職務別
給与はトップに至るまで、段階的に定められている。
民間企業の給与体系は公表されていないが、かなりの情報はウェブサイト「サラリード
ットコム」で調べることができる。したがって、求職者はこのサイトを応募の参考にし、
社員は給与交渉の参考にすることができる。また、企業は同業他社との比較に利用してい
る。
大企業は政府機関と同じような職種・職務別固定給与の体系で、営業やマーケティング
職には業績に応じた給与体系を備えている。金融業などは特に従業員の意欲を駆り立てる
ためにボーナスを用意しているし、ほとんどの業界では営業部門に売り上げに応じたコミ
8
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
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ッション(歩合)や利益に応じたインセンティブ(報奨金)などを導入している。
企業は給与に関する方針を明確にする必要がある。給与には固定給と、コミッションや
インセンティブなどの変動給(Variable Pay)がある。新興企業は売り上げや収入が変動
するため、始めは固定給を低く抑え、業績が向上し始めると、目標値達成への従業員のや
る気を鼓舞するために、賞与を導入し始める。業績が落ち込むときは、低い固定給のみに
とどめている。大企業は売り上げ・収益が比較的安定して見込めるので、固定給が高い。
給与体系を作るには、著名な調査会社が発行している業種別給与比較調査報告書を参考
にすると良い。この報告書には職種や職務記述書(Job Description)ごとの給与幅が掲載
されている。給与は業界、職種及び地域によって異なるため、希望の勤務地域の職務記述
書をよく調べることが重要である。
給与は企業のミッションやビジョンに則して、業績目標(Goal)の達成度に応じて支給
されるべきものである。定期昇給や勤務年数による給与システムは業績目標達成には逆効
果である。給与体系を作ることは理想とする企業文化を創造することでなくてはならない
が、業績評価だけの給与体系では企業全体のチームワークの向上にはつながらない。した
がって、企業は自社文化のあるべき姿を入念に作り上げ、その文化達成への貢献度に応じ
た給与体系にする必要がある。給与体系をどのようにするかは、採用及び人事管理の方針
と密接に関係している。もし、企業が従業員を優秀な技能集団にしたいならば、同業他社
よりも高い給与を支給する必要がある。給与が同業他社よりも安ければ、二流の人材しか
応募してこないため、優秀な技能集団にすることはできない。言い換えれば、企業が給与
を低く抑えたいならば、低い技能労働力や高い離職率に目をつぶらなければならない。
失業者があふれているときは優秀な人材を以前よりも低い給与で採用できる。しかし、
景気が回復したときに、従業員の多くは他社に比べ給与が異常に低いと感じ、いとも簡単
に転職してしまう。給与に不満を持つ従業員ほど会社全体の士気に影響するものはない。
福利厚生が平均を上回る企業では、少ない給与でも従業員の意欲を維持できる場合もある。
給与体系の一部である福利厚生の設定は極めて重要な要素である。
ボーナスは業務目標をどれだけ達成し、企業へどの程度貢献ができたか従業員個人ごと
に査定されるが、支給はグループ(部門など)の業績達成を基にすべての従業員に対して
行われることもある。また、ある期間の経常利益に応じて従業員に公平に配分する企業も
ある。ボーナスの支給については、業績目標に対しての実績を定量的に判断し、従業員に
分かりやすく、一貫して公平で、透明性がなくてはならない。企業はボーナス支給の意味
を従業員に充分理解、納得してもらうことが、従業員のモチベーションや業績の向上につ
ながりやすい。従業員それぞれに支給されるボーナスの額は秘匿情報であるが、査定方法
は明確で分かりやすいものにし、従業員に公表すべきである。そうすれば、従業員のやる
気に結びつく。
9
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
2.3
労働時間の現状
労働時間に関しては、農業以外の民間企業従業員(管理職を除く)の 6 月週平均労働時
間は 0.1 時間減って、33 時間になり、1964 年以降で最少になった。製造業は 39.5 時間で
0.1 時間増え、時間外労働時間は変わらず 2.8 時間であった。
以下、2009 年 6 月時点の産業別労働時間を前年同月と比較して示す。
表 2-6
産
産業別労働時間
業
(単位:時間)
週平均労働時間
2008 年 6 月
対前年
2009 年 6 月
同月比
天然資源採掘業
45.4
43.2
▼2.2
建設業
39.4
38.2
▼1.2
製造業
41.1
39.8
▼1.3
貿易、輸送業
33.8
32.8
▼1.0
情報関係業
37.2
36.1
▼1.1
金融関係業
36.6
35.7
▼0.9
レジャー及びサービス業
26.1
25.0
▼1.1
*出典:Bureau of Labor Statistics, “Employment Situation Summary”,
http://www.bls.gov/news.release/empsit.nr0.htm
2.4
労使関係の現状
今回の不況は、就業者の大幅な減少をもたらし、労働組合に影響を与えている。労働組
合員が多い自動車業界、建設業、及び公務員ではレイオフが多く、これらの業界では組合
員数だけでなく、徴収する組合費が減少している。したがって、組合の企業への影響力は
減小しているが、一方、民主党のオバマ大統領が労働組合を支持しているため、この点で
は政治的なバックアップは増しているといえる。
2.4.1
労働組合の現状
労働組合を支持する新しい法案、つまり「従業員自由選択法(Employee Free Choice
Act:EFCA)、通称 Card Check」は今年の議会で審議される予定で、注目を集めている。
この法案は 2007 年にケネディ上院議員が中心となり、当時のオバマ及びバイデン両上院
議員と最初に提出したもので、従業員による労働組合の結成を容易にし、かつ雇用者(企
業)がその行為を妨害すれば、罰則を強化するという法案である。賛同者は中間所得者層
を守る意味で重要と指摘しているが、一方反対者は主に米国商工会議所(U.S. Chamber of
Commerce)や全米レストラン協会(National Restaurant Association:NRA)で、人件
費が上昇し、経営に影響すると主張している。両者ともロビイストや宣伝に数百万ドルつ
ぎ込み対抗している。
現在、労働組合加入者は労働人口全体の 12%にとどまるが、労働組合は過去 75 年間で、
失業保険や社会保障の充実、週 40 時間労働の実現などを果たした実績がある。しかし、
10
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
企業側は福利厚生や給与面で以前よりも優遇しているため、組合は不要であると感じてい
るようである。従業員も就業不安が高まってきていることから、組合の結成をためらって
いる。
今年民主党が過半数を占めたため、この法案が可決される可能性は高い。この法案の重
要な点は、組合結成の是非を問う投票が無記名投票からより開かれた記名投票に変わるた
め、組合が従業員に圧力を掛けることが可能になり、組合の立場がより強くなることであ
る。また、法案は強制仲裁を導入するため、組合に有利に働くことになる。この強制仲裁
は本来従業員のストライキを減らすためのものだが、企業にとっては逆に財務的な負担が
生じることになる。特に政府と公務員には影響がある。というのも、通常労使間交渉は互
いに合意するまで法律の範囲内でいろいろな駆け引きが行われるが、行き詰ると従業員側
がストライキを起こす。しかし、ストライキは労使共に資金的な負担を強いるため、互い
に譲歩する意識が働くことになる。
警察官や消防士がストライキを起こすことを禁止している州は多いが、何らかの強制交
渉を認めている州も約 20 州ほどある。両者が合意できない場合、組合、市及び州政府が
第三者を選び、両者の意見を踏まえて合意を促している。この方法は迅速な解決を導くは
ずであるが、2005 年と 2006 年の 29 件の事例では、実際には解決に 15 カ月も掛かり、迅
速とは言えなかった。また、第三者の仲裁委員会は裁定結果に何ら責任を負うことがなく、
政治的な処理であるため、両者にとって満足な解決策にはなりにくい。デトロイト市の
1978 年の例では、警察官と消防士の申し立てに対し、仲裁委員会が市政府に 4,600 万ドル
の生活保証金の支払いを命じたケースがある。これにより、既に疲弊していた市の財政は
破綻し、結局警察官の 25%削減を実施した。改善していた犯罪率がレイオフ後に増加した
ため、警察はやむをえず 1981 年に向こう 3 年間の給与凍結に同意した。仲裁命令が出た
ことで破綻した市もあり、公務員の争議を認める州(仲裁を認める州)は認めない州に比
べ、市政府の経費が 3〜5%も高くなっている。
EFCA(従業員自由選択法)が議会で可決されると、仲裁命令が生じた場合の民間企業
の賠償負担は公共企業の比ではない。納税者へ付けを回す州や市政府とは異なり、民間企
業はこのコスト負担が経営競争力の低下を招くことになる。企業は生き残りを賭けて、日々
改革とコスト削減に取り組んでいる。しかし、仲裁命令が出ると、企業はこの契約に関わ
る経営管理を 2 年間凍結しなくてはならず、例えば、401K プラン(年金)への企業負担
金から社外発注に至るまで、事業内容の知識もなく、利益を上げる気もない政府の仲裁委
員会から審査や指導を受けることになる。
企業だけが仲裁に影響を受けるわけではない。現行では、組合役員が決定締結する契約
は一般組合員の投票による事前承認が必要となっている。しかし、仲裁が入ると、この投
票が行われることはない。言い換えれば、EFCA 法は各従業員の組合結成のための投票権
を取り上げ、仲裁命令は契約内容の賛否投票権まで取り上げる。したがって、この法案で
は、労働組合の幹部のみが影響力を持つことになる。
11
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
2.4.2
労働争議の現状
1947 年から 1980 年の間には、労働者によるストライキや企業のロックアウトのような
1,000 人以上の大規模な労働争議が年間 200 件以上発生した年が多く、最少は 1963 年の
181 件、最多は 1952 年の 470 件であった。1981 年以降は減少し、2003 年は 11 件であっ
た。2003 年 11 月から 3 カ月間と、2008 年 11 月から 2009 年 5 月までは大規模な労働争
議は一切発生していない。近年で最も有名な労働争議は、2007 年 11 月 5 日から 2008 年
2 月 12 日まで続いたハリウッドの脚本家組合(Writer Guild of America)のストライキ
で 1 万 2,000 人以上の映画、テレビ、ラジオの脚本家が参加した。脚本家の収入は古くか
らの慣習で低く抑えられていたが、ストライキはこれを打破する目的で、ディズニーやソ
ニーピクチャーズを含む全米映画及び TV 会社 397 社を代表する全米映画テレビ制作者同
盟(Alliance of Motion Picture and Television Producers:AMPTP)に対して行われた。
それぞれの代理人による交渉の結果、脚本家は収入を増やすことができたが、このストラ
イキで閉鎖を余儀なくされたロサンゼルスの制作会社の被害総額は 20 億ドルにも及んだ。
2.5
募集、採用、雇用、解雇の現状
全米の現在の失業率は 9.5%で 2008 年より 3.9%増加している。今年 5 月から 6 月では
少し上昇し、州や地域で違いが見られる。38 州とコロンビア特別区は増加、5 州は減少、
残り 7 州では横ばいであった。6 月の非農業従事者数は 39 州とコロンビアと特別地区で対
前月比減少、10 州で増加、残り 1 州は横ばいであった。最も減少が大きかったのはカリフ
ォルニア州の 6 万 6,500 人、次にテキサス州 4 万 600 人、オハイオ州 3 万 3,000 人それに
ミシガン州 3 万 1,300 人であった。米国 4 地域の 2009 年 6 月失業率を対前年同月で見る
と、最も悪化したのは、中西部で+4.2%、西部は 4.1%の増加で、共に 10.2%になった。
一方北東部は 8.6%であった。
連邦法で定められた就業に関する主な規則を以下記述するが、詳細は労働省のホームペ
ージ上(http://www.dol.gov/compliance/guide/)で公表されている。
(1) 賃金と労働時間について(公正労働基準法、Federal Fair Labor Standard Act:FLSA)
公正労働基準法は、最低時給、時間外労働手当、勤務表の記録保存、児童労働、自宅勤
務などに関する規則がある。労働基準局賃金労働時間部が FLSA を管理している。企業は
年俸制社員を除く従業員には最低時給 7.25 ドル(2009 年 7 月 24 日改定)以上支払う義
務があり、業種によっては、チップも給与の一部と見なされる。20 歳未満の若年者の最低
時給は、最初の 90 日間は 4.25 ドルである。雇用者は従業員を解雇してこの最低時給額で
代用員を採用してはならない。法律は 16 歳以上の労働者の就業時間を制約していないが、
週 40 時間以上働く場合には、超過分に対し時給の 1.5 倍を支払わなければならない。ま
た、法律は 16 歳未満の若年者が就業できる仕事と就業時間に制約を設けており、18 歳未
満が就労してはいけない危険な業種も定められている。
12
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
(2) 移民国籍法(Immigration and Nationality Act:INA)
移民国籍法の下で、外国人でも米国で就労することはできる。労働省の賃金と就労時間
局は、以下 4 つの査証(ビザ)に関する規則を設けている。D‐1(パイロット及び客室乗
務員用)、H‐1B と H‐1B1(専門技能所持者、ファッションモデルなど)、H‐2A(農業
に従事する期間従業員)である。この法律により、企業は外国人従業員も含めすべての従
業員の身分と雇用を証明する義務がある。
(3) 労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act:OSHA)
労働安全衛生法は労働省労働安全衛生局の管轄の下、ほとんどの民間企業の職場に適用
されている。ただし、運輸業や採掘業には別の規定がある。安全基準は落下、爆発、火災、
落盤などの事故、機械や車両操作及び維持管理について定めている。また、衛生基準はさ
まざまな健康被害、防塵マスクや聴力保護具のような防護用具の使用、作業管理の見直し
などについて規定している。企業は労働安全衛生基準を遵守し、従業員は定められたすべ
ての規則に従う義務があることが法律で規定されている。労働安全衛生法で、特に条項が
あるわけではないが、企業は一般義務原則の条項に従って、従業員に重大な障害を及ぼす
危険が生じないよう、安全かつ衛生的な職場を備える責任を負っている。
(4) 従業員退職所得保障法(Employee Retirement Income Security Act:ERISA)
従業員退職所得保障法は、企業の退職年金の運用受託者資格を定め報告と情報公開を義
務付けている。同法では運用資産を定義し、適切な運用の実施及び加入者の意思を盛り込
むよう定めている。
(5) 包括予算調整法(Consolidated Omnibus Budget Reconciliation Act:COBRA)
包括予算調整法は、継続医療に関する情報の開示、届出要件を規定している。この規定
は従業員 20 人以上の企業のグループ医療保険に適用され、従業員は退職後でも自費で一
定期間この医療保険を継続することができる。
(6) 医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and
Accountability Act:HIPAA)
医療保険の通算、継続についての条項を従業員退職所得保障法(ERISA)に追加した法
律である。この法律で、転職者が医療保険を受けやすくなり、健康上の理由による就業差
別から健康に問題がある者を守ることになる。小企業雇用者は一定の条件で医療保険内容
を更新・変更することができる。また、企業に労働省管轄の年金給付保証公社(Pension
Benefit Guaranty Corporation:PBGC)へ企業年金基金の保険料を払い込ませることで、
退職年金の支払いを保証する仕組みができている。
(7) 育児介護休業法(Family and Medical Leave Act:FMLA)
従業員 50 人以上の企業は従業員に家族の世話や介護のために 12 日以内の無給休暇を与
える義務がある。例えば、家族の出産や産後の世話、養子縁組や里子の引き取り、従業員
本人もしくは肉親の入院介護などに休暇が与えられる。
13
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
(8) 就業に関するその他の法律
・ 軍人雇用・再雇用権法
(Uniformed Services Employment and Reemployment Right Act:USERRA)
・ 労働者調整・再訓練予告法
(Workers Adjustment and Retraining Notification Act:WARN)
レイオフ、工場閉鎖など従業員への事前通知
・ 労働者ポリグラフ保護法(Employment Polygraph Protection Act:EPPA)
採用時に嘘発見器などの使用禁止
・ 労使報告公開法(Labor Management Reporting and Disclosure Act:LMRDA)
労働組合が組合員へ報告及び情報公開を行う義務
2.6
転職の現状
労働省統計局の 2009 年 5 月末日時点の発表から、求人、採用、退職等について述べる。
(1) 求人率(Job Openings Rate)
求人数は 260 万人で、前年同月比で−36%に相当する 150 万人、すべての業界と地域で
減少した。5 月の求人率は対前月比横ばいの 1.9%で、小売業は増加し、ホテル業、飲食業
と州・地方政府は減少した。求人数は公的機関への求人届出数を示している。
(2) 雇用率(Hires Rate)
雇用率は雇用総数(一定期間に正規、非正規、新卒、中途、パート、季節労働などすべ
てを含む雇用の総数)と現在の就業者総数の割合である。5 月末日で雇用総数は 400 万人
であったが、2000 年 12 月以降で最悪の 3%であった。雇用率が特に低かったのは輸出入
を中心とした小売業であった。連邦政府が 2010 年度の国勢調査要員の一時採用を行った
ので、連邦公務員の雇用率は昨年 5 月に比べ増加したが、農業を除く全業種で 16%、82
万 9,000 人減少した。地域別で見ると、北東部は大きな変化は見られなかったが、中西部、
南部及び西部では大幅に減少した。
(3) 離職率(Total Separations Rate or Turnover Rate)
離職率は自主退職、レイオフ、懲戒解雇、及び定年退職を含み、5 月は対前年比で全産
業が減少し 3.3%であった。5 月時点の自主退職者数は前年同月比で 34%、90 万 4,000 人
減少し、170 万人となった。自主退職率は 1.3%で変わらず、過去 8 年間で見ると昨年同様
最低であった。産業別、地域別で見ても大幅に減少した。
レイオフと懲戒解雇の数字は季節調整されており、民間企業で 220 万人(退職率は 2%)、
公務員で 12 万 1 千人(0.5%)、農業を除く全産業で 230 万人(1.7%)であった。5 月の
統計では特に大きな変化は見られなかった。この 5 月末時点の退職率を前年同月と比較す
ると、ほとんどの業種で大幅に増加したが、ヘルスケア、福祉関連、芸術や娯楽業界では
減少した。地域別では中西部が特に増加したが、その他の地域では大きな変化はなかった。
14
米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
離職者数に占める自主退職者数とレイオフ・懲戒解雇者数の割合の推移をみると、自主
退職者数の割合は 2008 年 1 月に 59%、2009 年 4 月に 38%、2009 年 5 月は 40%と減少し
ているが、レイオフ・懲戒解雇者の割合は 2006 年 8 月に 33%、2009 年 4 月に 54%、2009
年 5 月は 53%と増加した。残りは定年退職者の割合である。
離職者数と採用者数を 2009 年 5 月までの 1 年を月別で比較すると、いずれの月も離職
者数が採用者数を上回っており、5 月時点の累計離職者数は 5,780 万人で累計採用者数は
5,290 万と約 490 万人も就業機会が失われている。
2.7
その他の雇用慣行
米国の労働市場は現在失業者が多いため、企業にとっては買い手市場である。したがっ
て、給与や福利厚生を下げても人材を採用できる状況にある。低い給与でかつ福利厚生に
不満があると、従業員がいずれ会社から離れていくことを理解している企業は長期的視点
から適切な給与体系を継続している。給与を含めた福利厚生、例えば、有給休暇、バケー
ション休暇や医療保険などが手厚い企業では離職率が低く、生産性や仕事への意欲は高い。
以前は一般的であった企業拠出年金(Pension Plan)は企業の拠出負担が大きいため、今
では従業員と企業が共に拠出する 401K(確定拠出年金)のような年金プランを用意して
いる優れた企業などもある。
福利厚生などに関する労働省統計局の調査によると、年間の有給休暇日数は平均 10 日、
入社 2 年目から取得できるバケーション休暇(無給)は平均 9.4 日となっている。中規模
以上の企業の半数以上は、従業員に対して確定給付型年金あるいは従業員も拠出する確定
拠出年金プランを備えている。全体の 75%の企業は医療保険に加入し、従業員の保険金の
一部を負担している。
企業が人材の採用や社員の引き留めのためにボーナスやインセンティブ(報奨金)を活
用することは一つの流れになっている。また、企業がフィットネスクラブの年会費、授業
料補助、フレックスタイム、託児サービスを持ち、また、社内にクリーニング店を備えて
いるところもある。魅力ある職場環境、フレックスタイム、在宅勤務やカジュアルな服装
などは企業の魅力を増やす重要な福利厚生である。
2.7.1
企業の慣行
企業は従業員の仕事と生活の時間バランスを重要視してきている。コンサルティング企
業のコーポレイトエグゼクティブボードでは、このバランスを上手くコントロールできれ
ば、従業員の勤労意欲が高まり、離職率が減少すると指摘している。
仕事と生活時間のバランスについて男女 5 万人を対象とした調査によると、従来の考え
方と違い、バランスを重視するとの回答が多かった。このバランスが上手く取れていると
回答した者の 21%は仕事に意欲を持ち、33%は今の会社に満足しているとの結果であった。
しかし、ある企業での調査では、全体の 16%しか仕事と生活時間のバランスに満足せず、
まだ改善の余地があることが分かった。従業員の約 3 分の 1 は業績目標に対して充分な働
きをしていない。会社の福利厚生プログラム(プライベートの時間を増やせるプログラム)
を知る従業員は 3 人に 1 人だけであった。例えば在宅勤務、フレックスタイムや託児サー
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米国(調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2009 年 9 月 29 日
ビスなどの福利厚生プログラムには利用申請が必要であるが、知っていると答えた従業員
の 25%だけがこのプログラムに満足している。半数はまだ利用していない。従業員は仕事
の進捗を自己管理できる点でこのプログラムを良いと考えている。従業員の 63%はフレッ
クスタイムを、62%は仕事量の適量化を、その他は仕事時間の自己管理を望んでいる。し
たがって、企業はこのような福利厚生プログラムについて明確に従業員に伝える必要があ
る。
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