2015.8.31 さわかみファンド 月次レポート 投資信託と手数料 代表取締役社長 澤上 龍 日本郵政グループ等が出資・設立予定の運用会社が、 ■信託報酬 来年 2 月より投資信託(ファンド)の販売を始めるそう 信託報酬はファンド保有期間ずっとかかる手数料のた です。アベノミクス相場を背景にファンド市場が活況となっ め販売手数料よりも注意しなければならない、といった ている昨今、金融業界は躍起になって個人マネーの争奪 話を聞くことがあります。しかしながらその意見にはやや 戦を繰り広げるような報道も出ています。実際、それは 疑問を持たざるを得ません。 個人投資家にとって良いことなのでしょうか? 業者が販 信託報酬とは個人投資家が改めて支払う手数料の類で 売手数料を稼ぎたいということは、個人投資家からみれ はありません。預けている資産に対し、決められた料率 ば「稼がれる」ことに他なりません。 の手数料(報酬)が自動的に差し引かれるものです。こ さて、ファンドには販売手数料と信託報酬という大きく ちらは販売手数料とは違い、預かっている資産が増える 二つの手数料があります。どちらも個人投資家が金融業 ほどに報酬実額が上がっていくという仕組みです。資産規 者に支払うものですが、それら手数料とどう付き合って 模の増減は個人投資家からの信頼と運用パフォーマンス いくべきか改めて考えてみたいと思います。 で決まりますので、ある意味で投資家と運用会社の利害が ■販売手数料 一致した手数料と言えます。ちなみに報酬料はアクティブ 販売手数料とはファンドの購入時にかかる手数料で、平 均で購入額の 2 ∼ 3%と言われています。100 万円分の ファンドを購入すると 2 ∼ 3 万円の手数料が取られます。 当然ながらその 2 ∼ 3 万円は投資に回らないので、個人 投資家の資産運用にはまったく役に立ちません。運営費、 広告費、人件費などに使われ、余った利益を含めてすべ て販売会社のものです。 我が国では証券会社や銀行など販売会社系列の運用会 社が大半で、販売会社の収益のためのファンドビジネスと なりがちです。肥大化した体質を維持するため、頻繁に新 しいファンドを買わせ手数料を積み上げていく必要がある からです。問題は、販売手数料収入を大きくするために個 人投資家の資産運用を阻害している可能性があることで しょう。小口資金から資産運用をプロに任せるのがファン ドの役割なのですが、次から次へと生まれては消え、結果、 上場企業以上の数となったファンドから一体どれを選んで よいのかわからないのが現状です。さらにそのような短 ファンドでおよそ年率 1 ∼ 3%、インデックスファンドで 1%未満といったところです。 ファンドは日々基準価額を算出します。それが投資家に とっての価値であり、運用会社にとっての成績となります。 この基準価額からは信託報酬が既に差し引かれておりま すので、個人投資家は基準価額を見ていれば、本来、信 託報酬を別途考慮する必要がないはずです。 信託報酬が高い・低いという議論について、設定初期 のファンドにおいてなされるのは合理的なことだと思いま す。なぜならファンドとは将来に向け運用を行っていくも のですので、まだ実績がこれからといったファンドに対し ては、信託報酬という情報は個人投資家にとって大きな 参考となるからです。一方で中長期の実績を持つファンド の場合、その運用成績こそがすべてであり、無論それは 信託報酬込の成績です。 信託報酬を注意深く見なければならないとは、意義に 反して短命なファンドの業界慣習故に言われてしまう残念 期間で成績を出せるファンドなど少なく、流行やブームに な事象なのかもしれません。 よって販売会社が乗り換えをさせてしまっては運用者もま ■受託者責任 ともな運用などできません。 インデックスファンドの始祖であるバンガード社が日本 冒 頭 の 日 本 郵 政 グル ープ 等 が 取り扱 う ファンドも、 の市場に参入するという記事を目にしました。もちろん販 1500 ヶ所の郵便局を拠点に全国の個人投資家の資産運 売手数料ゼロです。個人投資家本位であり且つ、自信の 用ニーズに応えるものであれば良いと思います。しかしな 表れだと思われます。 がら教育や体制づくり等の課題も多く言われ、何よりファ 受託者責任というキーワードも世に出てきており、今後、 ンド販売で収益力を上げ上場に弾みを付けることが真意 真に個人投資家のためのファンドビジネスが求められるこ であるならば、残念ながら個人投資家は稼がれてしまう とでしょう。バンガードのような、または皆様の「さわか だけなのでしょう。 みファンド」を筆頭とする独立系投信の頑張り時が来たの かもしれません。 【2015 年 8 月 25 日記】 ※さわかみファンドにおけるリスク・手数料については、最終ページに記載の「ご留意事項」をご覧ください。 2
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