博 士 ( 歯学 ) 金 子正範 学 位 論 文 題 名 放 射 線 照 射 後 の 耳 下 腺 に 摘 け る 唾 液 分 泌 機 能 と 吸 収 線 量 の 関係 ― 経 時 的 唾 液 腺 シ ン チ グ ラ フ イ ー と 線 量容 積 曲 線 に よる 分 析 一 学 位 論 文 内 容 の 要旨 緒言 頭 頚 部 臓 癌 の 放 射 線 治 療 は 唾 液 腺 障 害 を 多 く 引 き 起 こ し て い る .正 常組 繊の 放射 繚 障 害 発 生 に は 線 . 羈 依 存 性 が あ り , 吸 収 線 畳 と 障 害 発 生 卒 の 関 係 は sigmoid curveで 表 わ さ れ る と 考 え ら れ て い る . 本 研 究 の 目 的 は 耳 下 腺 吸 収 線 量 と 唾 液 分 泌 機 能 の 定 畳 的 関 係 を 明 ら か に す る こ と で 耳 下 腺 の 機 能 的 障 害 を 数 値的 に推 定す るこ と で あ る . 耳 下 腺 吸 収 線 量 は 線 畳 容 積 曲 線 を 用 い て 評 価 し , 唾 液 分泌 機能 は経 時的 唾液腺シンチグラフイーを用いて評価を行った. 材料と方法 1) . 対 鍛 対 象 は 北 海 道 大 学 医 学 部 附 属 病 院 放 射 線 科 に て 1981年 か ら 1992年ま でに 根治 的放 射 線 治 療 を 受 け , 耳 下 腺 部 が 照 射 野 に 含 ま れ て い た 上 中 咽 頭 腫 痴 患者 49 名 の98耳下 腺 と し た . 正 常 対 照 群 は 放 射 線 治 療 前 で 唾 液 腺 疾 患 の 既 往 が な く 口腔 乾燥 の訴 えも 認 め ら れ な い 者 29名 の 耳 下 腺 58腺 と し た . 2) . 放 射 線 治 療 治 療 計 画 は 1987年 以 前 に は X線 シ ュ ミ レ ー タ を 用 い , 1987年 以 後 は 放 射 線 治 療 用 CTシ ス テ ム ( Radiotherapy dedicated CT system: 以 下 RTー CTシ ス テ ム と 略 す ) を 用 い た . 患 者 に "oCoア 線 治 療 装 置で , ̄ 1回線 畳250 cGy,週 4 回 ,癌 腫は 65 ∼ 70 Gy, 悪 性 リ ン バ 腫 は 40∼ 50 Gyの 治 療 を 行 っ た . 照 射 法 は 左 右 対 向 2門 照 射 法 と 3門 照 射 法 で 行 っ た . 3門 照 射 法 は 耳 下 腺 線 風 の 軽 減 を 目 的 と し て 導 入 さ れ た 方 法 で , 左 右 対 向 2門 照 射 法 に 前 方 1門 の 照 射 を 加 え た も の で あ る . 20例 に 左 右 対 向 2 門 照 射 法 を 用 い , 29例 は RT− CTシ ス テ ム で 治 療 計 画 を た て , 3門 照 射 法 で 治 療 した. 3) . 耳 下 腺 線 量 と 耳 下 腺 の 時 間 ・ 線 量 ・ 分 割 係 数 の 推 定 線 鼠 容 積 曲 線 ( Dose― volumehistogra ms)は ある 関心 領 域に つい ての 3 次 元゛ 的線 量 分 布 を , 横 軸 が 吸 収 線 鼠 , 縦 軸 が 照 射 容 積 の 形 の ヒ ス ト グ ラ ム で表 わし たも ので あ る , 対 象 症 例 7症 儚 Jの 14腺 に っ き , 耳 下 腺 の 容 積 線 量 曲 線 を 算 出 し , Histogram reduction法 に よ り 耳 下 腺 全 体 が 均 等 に 照 射 さ れ た 線 最 分 布 に 近 似 し て , 各 照 射 法 に つ い て の 平 均 耳 下 腺 線 量 を 推 定 し た . 照 射 法 ご と の 1回 平 均 耳 下 腺 線 量 と 治 療 回 数 を も と に し て , 各 症 例 に つ い て の 耳 下 腺 総 線 量 と 時 間 ・ 線 量 ・ 分割 係数 (time , -123 - dose, and fractionation factor: TDF) を計 算し た. TDFの貫t.算 はOrtonと Ellisにより提唱されたTDFの換算表を用いた・ 4).珥下腺の唾液分泌機能の評価 耳下 腺の 唾液 分泌 機能 は5% 酒石 酸( 0.35Mに相 当) によ る味覚刺激に対する唾 液分をB能により評価した.唾液腺シンチグラ‘フイーにより唾液分泌の動態を検出し た.‖“Tc04−による経時的シンチグラフイーの撮像途中に5%酒石酸で味覚刺激を 加え,刺激ぬU後の耳下腺部のRI減少串(刺激分泌串)で唾液分泌機能を評価した. ガ ンマカメラ及びデー夕収集装冠はSearle社製Pho/Gamma LFOVを用い,コリメータ は低エネルギー用高分解能型コリメ亠夕を用いた.仰臥位閉口状態の患者に’’ ̄Tc -pertechnetateを185 MBq静注し,恋後よルガンマカメラにて1分罐に60分後まで顔 面 正 面 像 の RI分 布 の デ ー 夕 収 集 を 行 った .30分経 過時 に5% 酒石 酸1mlを口 腔内 に一度に滴.下し,味覚刺激を加えた.後に左右耳下腺部に関心領域を設定し,1分 紐 の RI検 出凪 をも とに ,耳 下腺 の経H寺的 RI動 態曲 線を 算出 した. 勁態 曲線 の特 性 を表わすバラメータとして,刺激分泌牢を用いた.刺激分泌串(secretion rate after stimulation:SR) は 味 覚 刺 激 前 後 の RI滅 少 率 で あ り , 以 下の 式で 表わ される. SR={C(pre)-C(post)}/C(pre)x100 (%) ここ で, C(pre) は刺 激血 前の1分f田のRIカウント数,C(post)は刺激後の母 分あたりのRIカウント数の最小値を指す・ 5),耳下腺の放身寸線性障害発生串の推定 平均 f血 より2標郎 偏差 を超 えて 低い SR値を 示し たも のを 瓜度の唾液腺障害と考 え,その発生!弘を障害兜生!衽とした.晩兜性障害は放射線治療後6か月以上経過し て 発生 する 障害 と一 般的 に考 えられていることより,ここでは照射後6か月以上で 検 査 し た 39例 の 78腺 を 対 象 と し た . 平均 検査 時期 は照 射後 20.4か 月( 標準 偏差 18.5か 月 )で あっ た. 障害 発生 率を縦 軸に とり ,耳 下腺 線盈 とTDFをそ れそ れ横 軸にとったグラフにロジスティック曲線を適用した. 結果 正常対照群の刺激分泌率の平均値は44.6土13.8%であった.容積線風曲線から1 回 照射 あた りの 平均 耳下 腺線 量は 左右 対向2門で 250 cGy, 3門で185 cGyと推定さ れ ,照 射後 2回以 上検 査し た26名中,耳下腺線量が55∼70 Gyの9名は2か月から9年 の間に全例が10%以下の刺激分泌率を示したが,30∼52 G yの1 7名中13名は10 %以 下 のf直を示した後,照射後2年以内に15%以上に回復を示した.平均値より2橡竍q 偏 差 を 超 え て 低 い SR値 を 示 し た も の を重 度の 唾液 腺障 害と 考え, 17% 未満 のSR を 示し た腺 の比 率を 障害 発生 率とした.晩発性障害は放射線治療後6か月以上経過 し て発 生す る障 害と 一般 的に 考えられていることより,ここでは照射後6か月以上 で 検査 した 39例 の78腺を 対象 とし た. この場 合の 平均 検査 時期は照射後20.4か月 ( 標 準 偏 差18.5か 月) であ った .障害 発生 宰を 縦軸 にと り, 耳下 腺線 量と TDFを そ れそれ横軸にとったグラフにロジステイック曲線を適用した.その結果,耳下腺 の 50% 障 害 発 生 線 畳 は 48.2 Gy, 50% の障 害発 生串 を示 すTDFは75.0と 推定 され た・ 結論 耳下腺全体が均等に照射された症例では,亜度の唾液分泌機能障害の50%障害発 生 率 を 示 す 線 最 と TDF値 は そ れ そ れ 48 Gy, 75と 推 定 さ れ た . − 124― 学位論文審査の要旨 主 査 教 授 中 村 太 保 副 査 教 授 福 田 博 副 査 教 授 亀 田 和 夫 学 位 論 文 題 名 放射線照射後の耳下腺に摘ける唾液分泌機能と吸収線量の関係 ―経時的唾液腺シンチグラフイーと線量容積曲線による分析一 頭頚部腫瘍の放射線治療は照射野内に唾液腺が含まれる事が多く、唾 液腺障害を引き起こす事が高頻度に認められている。唾液腺障害による 口腔乾燥症は難治性であり、患者に大きな苦痛をもたらしている。一般 に1E常K1織の放9こl 線5斑宙発生には線壁依行1生かあり、吸||又線壁とジさ生半 のf剄係はsigmc, id curv eで表わされると考えられている。しかしながら、 iil LL ctl Zn泉については吸収綜鼠と『瞶4fとの定凧「カ膜J係を明硼!に示したゃR告は ほとんど児!u.せなかった。学位f llヨガ者は、耳下腺の吸収線盈と唾液分泌 機能との定量的関係を明らかにし、耳下腺の機能的障害を数値的に推定 するtヨf |′、Jで本研究を行なった。 対象は、北海道大学医学部附属病院放射線科にて、19 81年から199 2年 までにユr'r腺音I!を!!鰻g4小fに舍む放身J線治療を受けた上il1‖川頭Jl 血瘍心者 494 ’|の98耳下腺とした。また.、正常対照#羊は放カォ線治療前で、唾液腺疾 心ぴ)II ℃i1:゛、H8 や1;iL燃ぴ)l iIFえむない肯29名のr,8]T-「腺とした。 放n j線冶艫は(‥)C ov線治療装鐙により1回線疊250c(;y、遡4 回照射、 艸;|fn6r,∼7 0 (;y、悪rI:リン/く4 tn/io∼s o Cyの汀t 療総線亂で彳了なった。対鍛 1'I 〃)うむ,2()fケlJIこノi:イ.・f尖tl^J2 |1rJ iw カ、fひ:を´Hしヽ、2tJ伽Jf :L、/fイ7対ffiJ2 |I ワ1!f.t身す 法に前方l f11jの!!8 射を加えた3r|!照身寸法で治療した。 -125 線皿容 キ出|Ill線( Dose一vc,liJmelli.s t.c,g.rains:DVJ・ I)はある関心 領域につ いての3次 元的線量分布 を、吸収線量 を横軸、照射容 積を縦軸にと って 表示した ヒスト/ノラム である。各照 身↑法について の平均耳下腺 線量を4健 定するた めに、7症例の 14腺にっき、 耳下腺の容積線 量曲線を算凵 jした。 llist,ogram reduc t:ion法により耳 下腺全体が均 等に照射され た線量分布に 変換した 結果、1回照射 あたりの平均 耳下腺線量を左 右対向2門照 射法は 250 cGy、 3門照射法は185 cGyと推定 した。以上の値 と照射回数を もと に、各々 の症例の耳下腺 総線量と時‖ jj.線量・分 割係数(time, dose. andrractlonationfactor:TDF)を計算した 。 耳下腺 のiiJr液分泌機 能は5%酒石 酸(0.35Mにキ n当)のi来覚 4jIj激に対す る経時的 唾液腺シンチグ ラフイーの動 態曲線の変化 で評価した。 すなわ ち、】75 MBqのqq“・Tc04―を静注し た30分後に5% 酒石酸1 mlを 口腔内に滴 下して唾 液//}泌qj0激 をhiiえ、珂. F腺“Bの経時 的RIlro態|‖ 1線から刺激前 後のRI減 少率(刺激分泌 率)を求め、 唾液分泌機能 を評価した。 正常 対!!聴 jjIでは、刺激 //}泌;器の jF均他はil4.6土13.8%であ った。 :Eた、 1!彊射後2同 以上検ぬした 26名にて耳下腺 t幾能が回復 する線量に つ し ヽ て | 炎 小 Jし た 。 lr‥ r鵬 ! 線 謎 が 5r, -70 (;yの 9名 は 2カ ゝ 月 カ ゝ ら 9‘ 書 三 の 川 Jに , 全例が10%以下の刺激分 泌字を示した が、30--- 52 Gyの17名【 p13名は10% 以下の伽 ||:を示した 後、照射後2年以IAに15%以 I.l二に同復 を示した。次 に、 晩発性障 害の発生率を求 めた。ここで 、平均値より 2標準偏差以上 低い 刺激う} 泌値を示したも のをc度ぴ) 1唾t成肋!I嘶 吉と考えた。 また、晩うも性 障 害は觚身 丶J後6か′J以 上jT琶過して からぢ芭生する 障害と一般的 に考えられて いるため 、ここではf曝 射後6か月以. Lに検査した39例の78腺で検 討した。 そび)ll′・J勺わ!. n‖りJOJり、 州i}-] i曁2().′lかJJ`く Iわ′)/こ。 『や´fljも′ 」ニ;魯i を縦|Il川ことり、 ユT,1; IIR線址と′I゛1)Fをそれ ぞれ倣|IIllIにとったグジ ソに11ジスケィ ック曲 線をj商用 した。その結 采から、耳下 腺全体を均等に 照身寸Iした 症例におけ ― 126 る爾度の唾液分泌書幾能障害の5 0協障害発生宰線量を48G y、5 0%障害発生 率を示すTD F他を75と推定した。 以上の 論文内容につ いて、まず申請 者がスライドを用いて補足説明を 行なっ た。その内容は、上巾咽頭腫4語の照射野と耳下腺の位段関係から 耳 下腺 の 全部 が 照射 野 に含 まれ る こと 、 CT画像上 の耳下腺の線 量分布 から線量容1 貴f!量l線を計算する過程、経時的RI 動態dh 線の例、左右対向 2門 照 射法 に よろ 治療 患 者と 3門 照 射法 によ る治療 患者の口腔内 の乾燥 状態の対比などであった。 次に審 査担当者より 論文内容および 関連事項に関して質問が行われた が こ れ ら の 質 nHに 対 し て そ れ ぞ れ 適 切 な lf答 が な さ れ た 。 本研究は臨床データを多而的に解析し、耳下腺の5 0%障害発生率線量、 TDF値を 見 いHjした可Eは高 く評価でき、耳 下腺における 放射綜5章害軽 減のた めのn(身t法の改蕃に関しても示唆を与えた点で意綾深く今後の発 展が期待された。 以上よ り本研究は博士(歯学)の学位を授与されるにf直するものと認 めた。 ― 127―
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