平成 24 年度 (要約) 手術用鋼製器具の 2 次元シンボルマーキングにおける 題 目 氏 名 卒業研究 ドットピン方式の技術的評価研究 髙山 実幸 (学籍番号 090781089) 1.研究目的 手術用鋼製器具本体に2次元シンボルをマー キングすることで単品識別し、業務改善と医療 安全を向上させるため、安全管理を行うシステ ム導入が先駆的病院で始まった。 日本医用機器工業会(現在の一般社団法人 日 本医療機器工業会)は、2006 年に手術用鋼製器 具の医療安全とトレーサビリティ管理を目的に 「鋼製器具 2 次元シンボル表示標準ガイドライ ン」を策定し、鋼製器具表面に DataMatrix や QR Code を 3mm~5mm 角で表示することを推 奨した1)。 しかし、鋼製器具表面にレーザ方式(白色) (以 下「レーザ方式」と略す)で2次元シンボルマ ーキングを施すと、その周辺に素材の溶解に伴 うクレータ状の凸部が発生し、見かけ上のドッ ト高を形成するが、鋼製器具同士の擦れ摩耗に より凸部の高さが減ることが報告されている2)。 2次元シンボルの長期安定運用を可能とする ためには、長期使用による表面摩耗に強いこと が不可欠であり、新たにドットピン方式を使う ことで錆発生の防止や凸部の摩耗が期待できる と考え、テストピースにマーキングされた2次 元シンボルのドットの幅や深さを検証すること を試みた。 2.方法 実験に供したテストピースは鋼製器具と同じ ステンレス(SUS410、SUS420)で、平面板状 と曲面棒状(曲率:10mmφ)の表面にレーザ 方式(FAYb レーザマーカ:LP-V、SUNX)と ドットピン方式(メタルプリンタ METAZA: MPX-90M、Roland DG)のマーカで2次元シ ンボル(Data Matrix ECC200、3mm 角)を約 10μm の見かけ上の深さでマーキングした3)。 その2次元シンボルを、形状測定レーザマイ クロスコープ (VKX-200、KEYENCE)で読み取 り、 その後、 カラー3D 形状ソフト(VK Analyzer、 KEYENCE)を使用して、2次元シンボルの未使 用時と摩耗後のドット凸部高さと凹部深さおよ び凸部幅と基準高さの幅を比較評価した。 3.結果 上記の実験から、3mm 角の2次元シンボルの ドット形状について、以下のことがわかった。 1)凹部深さを 100%とした場合の凸部高さの 割合は、レーザ方式が 50%程度に隆起してい るのに対し、ドットピン方式は 20%程度に留 まることがわかった。 2)レーザ方式の見かけ上の深さは、凸部高さ の摩耗により未使用時の状態から 70%程度 指導教員 酒井 順哉 に減少するが、ドットピン方式では 80%程度 に抑えられることがわかった。 3)レーザ方式の見かけ上の幅は、凸部高さの 摩耗により未使用時の状態から 75%程度に ドットの幅が減少するが、ドットピン方式で は 90%程度に抑えられることがわかった。 4)ドットピン方式は、同じ条件で印字しても、 SUS410 より SUS420 のほうが 10%程度深 く印字できることがわかった。 5)ドットピン方式で曲面にマーキングした深 さ・幅は、平面にマーキングした場合と殆ど 差がないことがわかった。 4.考察 ドットピン方式の凸部高さが 20%程度に抑え られた理由は、打刻による物理的金属歪により できた凸部であるためと推測される。一方、レ ーザ方式では 50%程度も隆起した理由は、レー ザ照射によるステンレスの溶解によりできた凸 部であるためと推測される。 レーザ方式はドットピン方式より摩耗による 幅の減少が大きくなる理由は、レーザ方式の凸 部高さがドットピン方式より高くなる傾向があ り、摩耗による幅の減少も増えるためで、読み 取りが難しくなることが推測される。 また、SUS410 より SUS420 の方が未使用時 の状態で深くマーキングされた理由は、金属の 弾性の違いによるものと推測される。 5.まとめ 今回の実験で、平面、曲面への印字において、 レーザ方式よりドットピン方式のほうがドット 周辺の凸部によるマーキング摩耗が少なくなる ため、2次元シンボルの長期運用を考慮すると、 レーザ方式よりもドットピン方式で印字するの が有用であると考えられる。しかし、10mmφ 未満の曲面しか有しない鋼製器具には、レーザ 方式でマーキングすることが必要となろう。 【参考文献】 1)日本医用機器工業会(2006):鋼製器具2次 元シンボル表示標準ガイドライン. 2)菊地友樹、小林寛史、山田哲矢、酒井順哉 (2011) :鋼製器具の表面摩耗による 2 次元シ ンボルマーキングサイズ変化の研究、病院設備、 pp.125-126. 3)髙山実幸、菊地友樹、酒井順哉、村田昭夫、住 谷健二、張替順一、矢澤賢裕(2012):手術用鋼 製器具の2次元シンボルマーキングにおけるドッ トピン方式の擦れ摩耗評価研究、医療機器学、 82(2)、pp152.
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