資料2-4放射線利用の例

添付2
○放射線利用の例
日本原子力研究所 高崎研究所ホームページの
「技術移転」のページから
http://www.taka.jaeri.go.jp/transfer/index_j.html
工業の分野
電化製品に欠かせないコードの絶縁体に。
あなたの部屋を見回してください。居間にはテレビやビデオが、台所には電子レン
ジや冷蔵庫が、そしてあなた自身の部屋にはパソコンなどが置いてあるかもしれませ
ん。じつはこれらの電気を使用する機器類のほとんどに放射線が使われているので
す。
家電類の中には無数のコードがありますが、すべてのコードはショートを防ぐため
に絶縁体(プラスチックの部分)で包まれています。普通のプラスチックが耐えられる
温度はせいぜい 100℃程度。このまま電流が流れて加熱したコードに耐えることはで
きません。この絶縁体に原研が開発した放射線照射を行えば、約 300℃まで耐熱性
が向上できます。このノウハウは現在家電製造工場などで使用されています。
色とりどりのガラス加工製品に。
薬品、染料などを使わずに、ガラスの灰皿に着色できるか? 放射線研究がこの難
題を見事にクリアしました。どんなに透明なガラスも微量の不純物を含んでいて、しか
もその不純物はガラスの産出した地域によって異なります。そこでガラスに放射線を
照射してやると、たとえばナトリウムを含むものは茶色に、コバルトを含むものは紫と
いった具合に、不純物によってさまざまな色に変色するのです。あなたの身のまわり
にも、この技術で着色したガラス製品があるかもしれません。機会があったら探して
みてください。
お風呂場の必需品、バスマットに。
お風呂場で使うバスマット、あるいはプールで使うビート板に使用されている発泡
ポリエチレンをご存じですか。あの防水性、浮力が高く、ほどよく硬い素材は、ポリエ
チレンに放射線を照射し、加熱することで内部に細かい気泡をつくりだしたもの。これ
もいまから 20 年以上も前に開発された素材。このように放射線は、私たちの生活に
欠かせない縁の下の力持ち的な技術なのです。
フロッピィに、ビデオ、カセットテープに。
フロッピィディスクの中身。ご存じの方も多いでしょうが、プラスチックの丸い板(磁
気ディスク)が入っています。この磁気ディスクの作り方は、まず表面には薄く糊を塗
り、その上に鉄粉を吹き付ければできあがり。同じ要領でビデオテープやカセットテー
プも作られます。ここで放射線がどう役立っているのでしょうか。じつは磁気ディスク
(テープ)に鉄粉を吹き付けたあとに放射線を照射すると、鉄粉の接着性が高くなり、
高品質で長寿命の製品をつくることができるのです。こうした放射線照射済み製品の
表示には EB マークがついています。お店で製品を購入する際にはぜひご確認を。
美しさが求められる美術全集などの印刷に。
放射線にはまだまだ魅力的な特徴がいっぱい。液体をすばやく乾燥させるドライヤ
ーがわりにも使えます。たとえば色の鮮やかさ、美しさが要求される美術全集などの
凹版印刷では、紙の上に乗せたインクがにじんだり、インクが互いに混ざったりする
前に乾燥させる必要があります。そこで放射線の出番。放射線照射を使った印刷物
はややコストがかかりますが、普通の印刷物では表現できない生き生きした発色を可
能にします。美術全集と放射線、一見なんの関係もなさそうですが、美術全集に放射
線は不可欠の技術なのです。
医療の分野
使い捨て注射針、衛生面は完璧です。
最近、病院で使用される注射針、注射筒、手術器具、縫合糸などの医療器具に放
射線を照射する滅菌方法が普及しています。この方法は熱湯につけて消毒する煮沸
消毒、薬品による消毒に適さない器具に対しても簡単に消毒が行えるメリットがありま
す。しかも透過力の高いγ線を使用するため、あらかじめビニール、段ボールなどで
二重に梱包した器具にも使用可能です。病院で注射を受けるとき、先端がよく切れて
あまり痛くない使い捨ての注射針がありますが、あれもほとんどが放射線で滅菌され
たものなのです。
患者の診察、治療でも大活躍の放射線。
レントゲン撮影やがんの治療に放射線を使用すること。これを放射線治療といいま
す。レントゲン撮影にはものを突き抜ける性質を持った X 線、がんの治療には悪性の
細胞を破壊するγ線を使用します。原研では後者のがん治療に使用する RALS(遠
隔操作式後充填法)用イリジウム 192 線源を開発。これは悪いがん細胞だけを高精
度に破壊できる放射線治療技術として大きな期待を集めています。
無菌状態の実験動物のえさに。
モルモット、ハツカネズミといった実験動物は、今日も人類の医療の発展に大きく関
わっています。これらの実験動物は基本的に無菌状態の飼育箱の中で育てられます。
また実験結果に影響が出るため、外部からの菌の侵入には細心の注意が必要です。
ここでも実験動物の飼料に放射線を照射して滅菌する技術が役立っています。
農業・畜産の分野
海外でもポピュラーな食品照射です。
じゃがいもの新芽には毒があるという話を聞いたことがありますか。これは新芽の
部分に含まれる毒素のせい。この毒素を摂りすぎると腹痛の原因になったりします。
そこで北海道の一部の農家では、とれたてのじゃがいもに放射線を照射。新芽の発
芽を防いでいます。このじゃがいもへの放射線照射が日本で認可されたのは 1972 年。
日本では放射線を照射した食品で流通できるのはじゃがいもだけですが、欧米では
肉や果物、香辛料などを殺菌するための放射線照射が認められています。
また現在輸入果物の消毒には臭化メチルが利用されていますが、これはオゾン層
を破壊する有害な物質。2004 年には全廃される予定です。その後の輸入果物の殺
菌方法としても放射線が注目されています。
農林産廃棄物を 2 度再利用しています。
こんどは日本ではなくマレーシアのお話。世界第 1 位のパーム油生産国のマレー
シアで排出される年間 300 万トンのオイルパーム廃棄物は、大部分が焼却されてい
ました。これらのセルロース廃棄物の有効利用に、原研はマレーシアの研究機関と協
力して着手。放射線殺菌と有用糸状菌による発酵の組み合わせによる飼料化に取り
組んできました。これは平たくいうとパーム油の搾りかすに米ぬかなどを混ぜて放射
線で滅菌。ここに食用のキノコ菌を植え付け栽培。キノコを収穫した後は家畜の飼料
に使えるという、地球にやさしくムダのない再再利用です。これが実現できれば、パー
ム油になじみのないわが国でも稲ワラ、サトウキビの廃棄物などで簡単に応用できま
す。
色々な花色のキクなど植物の品種改良を行なっています。
イオンビームは、γ線とは異なり局所的に大きなエネルギーを付与する特徴があり
生物に大きな影響を与えるという特徴があり、独特の花色突然変異系統を多数作る
ことに成功しています。
放射線不妊虫放飼法により害虫を根絶します。
害虫を人工的に大量に増殖し、放射線によって不妊化し、野外に放して、これと交
尾したメスの卵が孵化しな いことを利用して、害虫を根絶させる技術です。
リサイクルの分野
排ガスをきれいに浄化して空に返します。
環境を浄化するための重要な方法のひとつに大気汚染防止があります。原研では、
大気汚染の原因となっているガス状の有害化合物を効率的に除去する新しい技術の
開発を進めています。この方法は工場の煙突から出る排ガスに含まれているガス状
の汚染物質を電子ビーム照射によって細かい粒子に分解。粒状になった汚染物質を
フィルタなどで除去して、大気を汚さないきれいな浄化ガスを空に返すという方法です。
近い将来実用化されれば、21 世紀には世界中に青空が広がっているかもしれませ
ん。
かけがえのない地下水源を澄んだ地下水源に。
かつては豊かで美しい地下水源を誇ったオーストリアも、近年は工業排水、生活排
水の影響で地下水源の汚染が進み、大きな問題となっています。そこで原研はオー
ストリアの研究機関と共同で地下水源を浄化するプラントの建設を計画。これは地下
水源に含まれる有機塩素化合物を電子ビームで除去するというものです。また韓国
の製紙工場でも、この電子ビームによる工業用水浄化システムを採用。工場排水を
繰り返し利用することで、河川への排水を最大限に抑えています。
宇宙開発の分野
宇宙環境では機器類の狂いは許されません。
宇宙空間は想像以上に地上と環境がかけ離れているのをご存じでしょうか。たとえ
ば宇宙空間で活躍する人工衛星は、地球を取り巻くヴァンアレン帯をはじめとした強
い放射線の影響を受けます。人工衛星に使用される半導体は放射線に弱く、これが
人工衛星の寿命や信頼性の低下の原因につながっています。原研ではイオン照射
研究施設(TIARA)を使って、宇宙環境の放射線状況をシミュレート。宇宙空間の放射
線が半導体に及ぼす影響の研究に取り組んでいます。この研究を通して、21 世紀の
人工衛星や宇宙ステーションでの使用に耐える長寿命、高信頼の半導体が誕生する
のも間近です。
来たるべき宇宙旅行時代へ向けて。
宇宙空間を経由して大陸間をひとっ飛び。東京~ワシントン間をわずか 2 時間で
結び、日帰りの海外旅行を可能にするスペースプレーン構想。まだ実現するにはさま
ざまな課題が残されていますが、その課題のひとつに耐熱材があります。現在の人
工衛星にはタイル製の耐熱材が使用されていますが、大気圏突入時の熱で焦げたり、
はげ落ちたりと信頼性はいまひとつ。そこで注目されているのが原研が放射線照射を
利用して開発した新素材、耐熱性炭化ケイ素繊維(SiC)です。従来のタイルより軽量
で強度も高く、しかも 1700 度までの熱に耐えます。まさに宇宙旅行時代を担う新素材
です。
このページは、日本原子力研究所ホームページの「原子力基礎知識、4.放射線の利用」、そ
の他、原研のプレス発表などを元にしています。