背景画像のノッチ

CTを用いた肺がんの診療における診療放射線技師の新しい役割
仙台厚生病院放射線部
荒井 剛
(Arai Takeshi)
【はじめに】
肺がん診療におけるCTの役割が非常に重要な位置づけであろことは誰もが承知の上である。CTを1度
撮影することにより、癌そのものの存在診断、治療・手術後の効果判定、また全身を撮影することにより、転
移の有無も分かることになり、その後の診療方針を決定するといっても過言ではないくらいにCTの役割は
非常に大きいものといえます。わたしたち診療放射線技師は、CTを扱うスペシャリストとして、これまで物理
的側面で、そのCT画像の画質をコントロールし、診断に有用となる画質であるか検討し、臨床の現場へ提
供してきた。その一方、2009年に「肺がん検診CT専門技師」といった資格が認められ、より臨床的に画像を
判断できる放射線技師が、医療の現場で求められ始めていることも現実である。
当院では約5年前より、放射線技師による肺がん検診CTの1次読影を行っている。また第1回目の肺がん
検診CT専門技師認定試験の合格者を輩出することもできた。今回のシンポジウムでは肺がん検診CTの読
影の現状と問題点、読影のポイント等について紹介した。
【1次読影を行うまでの経緯】
・ 1996年 SDCTを導入。肺がん検診CTを開始。
・ 2003年 SDCTからMDCT(16列)に装置を更新。撮影プロトコール等を考慮し、放射線科医を交えて
CTについての勉強会を開始。(ある疾患についてその臨床的背景のプレゼンと実際の画像
を提示して画像所見をレポートする。
・ 2005年 臨床下で放射線技師による1次読影スタート。(当初は技師4名。現在10名)
・ 2006年 64列MDCT導入
・ 2008年 320列CT導入
【1次読影を目的とした勉強会の内容】
・ CT画像上での正常解剖の理解
・ 肺がんの典型的な画像所見と臨床的背景 (スリガラス様陰影、spicula、notch、TNM分類・・・・・etc)
・ 鑑別診断として考えられる疾患、その他の呼吸器疾患の画像所見
(肺結核症、過誤腫、AVM、肺膿瘍・・・・・etc)
・ 緊急性のある胸部疾患CT画像所見 (解離性大動脈瘤、肺塞栓症、気胸、・・・・・etc)
・ 読影レポート作成のトレーニング
【CT・読影環境】
・ CT装置 Aquilion64 Aquilion One (TOSHIBA)
・ CT件数 約60件/日 肺がん検診CT8件/日
・ 技師による読影 4件/日
・ 胸部CT撮影条件 (臨床) 120kV volumeEC 0.5s 1mm×32 PF0.844
(検診) 120kV 50mA
0.5s 2mm×16 PF1.438
・ 被曝線量 (臨床)CTDIvol 21.45mGy DLP783.0mGy・cm
(検診)CTDIvol 2.10mGy DLP83.8mGy・cm (装置コンソール表示値)
【1次読影の特徴】
* 異常個所の指摘にとどまらず、以下の3点について留意して、より臨床的なレポートの作成。
① 存在診断
たくさんの正常例を見ることが大事!。「何か通常と違うな」と思うことが大事であり、日常的に自分
が撮影した画像を見る癖をつける。
② 性状診断
Ⅰ病変の大きさ 30mm以下は結節。それ以上は腫瘤。
Ⅱ辺縁の性状
辺縁円滑、辺縁不整、spicula、notch、・・・・・etc
Fig.1に肺野型肺癌のHRCT画像所見を示す。通常肺がん検診CTでは低線量撮影であるため、
HRCTなどの画像再構成は行わない。それによって詳細な辺縁の性状を観察できない場合もある。
Fig.2に肺野に異常所見は観察されるが、性状まではとらえられなかった肺がん検診CTの画像を
示す。肺がん検診CTレベルの低線量撮影の場合、性状診断には限界があると考えられる。
Fig.1 肺野型肺癌のHRCT画像所見
A
B
③ 比較診断
肺がんは経時的
に増大する傾向に
あるので、比較診断
は非常に有用であ
る。肺がん検診でも
Fig.2 性状までは十分に観察できなかった症例 (A:10mm画像 B:2mm画像)
毎年検査を受ける
検診者がいるので、
A
B
比較診断が重要に
な る 。 Fig.3 は 経 時
的に検査を行い 、
比較診断が有用で
あった症例を示す。
当初は肺炎を疑わ
れたが 、陰影の増
大と気管支透亮像
が確認されたため
肺 が ん と 診断 さ れ
た。
Fig.3 比較診断が有用であった症例 (a:初回のCT b:8ヶ月後のCT)
【1次読影の精度】
対象 : 2010年8月~2010年10月までの間に肺がん検診CTを施行して、放射線技師が1次読影を行った
92症例について調べた。
受診者 : 平均51.1歳 男女比1.9:1 (初回受診者73%)
評価法 : 1次読影のレポートと放射線科医が最終診断したレポートを比較。以下のように評価した。
Score 2 : 全く修正されなかった。
1 : 異常箇所は合っていたが、若干の修正があった。
0 : 見落としor指摘所見の削除
結果 :
Score
件数
2点
68件
1点
13件
0点
11件
Score1点以上が約88%で、精度が高いと考えられる。またScore0点の症例は、すべて初回
検診者であった。
【撮影条件について】
Fig.4に模擬腫瘤を入れた胸部ファントムを撮影したCT画像を示す。5mmと10mmの模擬腫瘤は管電流
を変化させても観察可能であった。当院の現在肺がん検診CTでの管電流は50mAを使用しているが、さら
に撮影条件を下げることも可能であることが示唆されるが、現在検討中である。
real EC
50mA
real EC
50mA
30mA
10mA
30mA
10mA
Fig.4 模擬腫瘤を入れた胸部ファントム CT 画像
(左:5mm腫瘤 右:10mm腫瘤)
【肺がん検診CT認定技師について】
・設立の趣旨: 有効ながん検診を正しく実施するために専門的なトレーニングを受けることで、CT検診に
おける被ばく低減と最適なスキャン条件の設定、装置の安全管理に関する検査技術を習
得すること
・受験資格 : 診療放射線技師。他に細かな条件はない。資格更新は指定された講習会、セミナー、学
会等の参加。(5年で規定された単位を取得)
・試験内容 : 異常所見の検出試験(120分)、筆記試験(60分)
・講義内容 : 肺の基本構造、肺がんと画像診断、被曝と線量管理、装置管理
・これまでに4回の試験を実施。試験合格者は東北地方で11名。
【まとめ】
当院で平成17年より行われている放射線技師による1次読影は、継続的な勉強会と症例の経験により、
1次読影の精度が向上している。