馬に蹴られて死ぬ確率 ~ポワソンが発見した確率現象

2011 三重総合 数学科 菅 淳 司
この調査結果から,1軍団あ
Vol.
12
死亡した兵士
0
1
2
3
4
5以上
軍団数
109
65
22
3
1
0
たりの死者の期待値は(なんか
不謹慎な話をしている気もして
馬に蹴られて死ぬ確率
きましたが…),約0.61人と求
めることができます。これは1
~ポワソンが発見した確率現象~
軍団の人数に対して,非常に小
さな数なので,馬に蹴られて死
前号では,「人工衛星が人に当たる確率」を考えてみましたが,同じく
ぬというのは,非常に稀な現象
「そんなこと滅多にないだろ~」という事象を考えてみましょう。
だと言えます。
しかし,このような「稀な現象にも数学法則が働いている」ことが発見
されたのです。フランスの数学者ポワソン (1781-1840)は,1835年の論文で
人の恋路を邪魔する奴は,馬に蹴られて死んじまえ
次のような確率現象を報告しました。
あまりいい言葉とは思えませんし,馬が身の回りにいる時代でない現代
においては言葉そのものが『死語』となっている気もします。
確率的に決まる変数 Y が k という値を取る確率は
mk
k!
に比例する。
もともとは,他人の恋愛を邪魔するようなこ
ぶすい
とは,無粋の極みだから,往来を歩いていると,
このような確率的な変数 Y を「ポワソン分布する確率変数」といいます。
人にも馬にも蹴られるだろうよ,という意味で,
ここで,m はこの確率現象の期待値(平均値)です。じつは,「1つの軍団に
どどいつ
都都逸から出た詩だと言われています。転じて,
おいて馬に蹴られて死ぬ人数」という確率現象が,このポアソン分布に当
恋愛関係以外でも,嫌味や皮肉を込めてバカに
たることが判明したのです。
して使うことがあります。
Y が平均0.61のポワソン分布の確率変数だとすると,Y の数値が0,1,
この言葉が言われ始めた頃は,もっと「馬に
2,…となる起こりやすさの比例関係は,
蹴られる」人も多かったのかもしれませんが…,現代では「人工衛星に当
まれ
たる」くらい稀 なことかもしれません。
1
0.6 0.6 2 0.6 3 0.6 4 0.6 5
:
:
:
:
:
0!
1!
2!
3!
4!
5!
であ り , これ を 計算 すると ,
1.000 : 0.600 : 0.180 : 0.036 : 0.005 : 0.0006 となります。
こんな「馬に蹴られて」という事象を真面目に研究した人がいます。
一方で現実の馬に蹴られて死んだ人数の比例関係は各数を109で割って
ロシアで生まれドイツで活躍した統計学者ボルトキーヴィッチ (1868-1931)
1.000 : 0.596 : 0.201 : 0.027 : 0.009 : 0.0000 と な り ま す 。 こ れ は ,
は,1875年から1894年までの間に200の騎兵隊を調べて「馬に蹴られ
おおよそ前出の比例と同じだと判断していいでしょう。馬に蹴られて死ぬ
て死んだ兵士」の数の統計を作ったそうです。その結果は右の表のように
というような偶然の極みのような確率現象にも,数学法則が降り注いでい
なりました。
ることに面白さを感じますよね。
Math2 No.1112/作成日:2011年11月11日