思ひ出写真館「祝いに沸く柳川」、新市史抄片「奇妙な古文書」

新 市史抄片
【問】市生涯学習課市史編さん係(☎ 72・1275)
No.131
奇妙な古文書
柳川古文書館副館長 田渕義樹
【写真 1】新憲法実施記念大会(原田家蔵)
【写真 2】端午の節句(吉開家蔵)
今年のゴールデンウィー
ク、皆さんはどのようにお過
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ごしですか?
日の昭和天皇
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昭和 (1948)年に「国
民の祝日に関する法律」が施
行され、4月
誕生日(昭和の日)や、5月
3日の憲法記念日、5月5日
の子どもの日などが休日とな
りました。そこで今回は、5
月の祝日にまつわる写真を紹
介したいと思います。
写真1は昭和 年に日本国
憲法の施行されたことを祝っ
て、 東 魚 屋 町 の 本 光 寺 に 集
ま っ た 人 々 の 写 真 で す。「 奉
祝 新憲法実施記念大会」と
大きく書かれた看板を背景
に、思い思いの仮装をした人
たちが写っています。これま
で皆さんから寄せられた写真
の中には、第一次世界大戦の
戦勝祝賀や平和復興、昭和天
皇の即位大典などを仮装して
市史編さん係 伊東かおり
復員がまだ終わっていない時
期だからでしょうか。それと
も世相を反映したものなので
しょうか。いずれにしても戦
争が終わり新しい時代を迎え
た柳川の人々の、期待に胸が
弾む様子が伝わってきます。
写真2は、大正時代のころ
の鶴味噌醸造の前で、端午の
節句を祝う模様が収められた
写真です。初夏の柳川の空を
悠然と泳ぐ鯉のぼりが印象的
です。吹き流しは現代の一般
的な5色のものではなく、鯉
が滝を登った姿と言われる龍
が、迫力ある図柄で描かれて
います。鯉のぼりの習慣は江
戸時代に関東で始まったとさ
れ て い ま す。 一 方、 柳 川 と い
えば桃の節句のさげもんが有
名ですが、端午の節句の鯉の
ぼりについての歴史や習俗は
文 献 が 乏 し く、 詳 し い こ と は
わかっていません。ご存じの
方がいらっしゃいましたらお
広報やながわ 2016.5.1
知らせください。
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ゴールデンウィークが始ま
り、多くの人が長い休暇をお
これは「大宮司に任命するので神事など怠らずに勤
めよ」という内容です。この補任状、熊本中世史研究
会編『筑後鷹尾文書』では、編者によって「本文書疑
楽しみのことと思います。連
正応三年七月 日 左兵衛尉重成
徳大寺家の荘園であることもあり、これまでと同様に
ちゅうちょ
疑文書とするのには躊躇されます。筆跡、用語は疑わ
しいが、花押は本物、そんな古文書なのです。
休中家に眠っている古い写真
右、以人如元為彼職、
恒例神事以下無
懈怠可致其沙汰之
状、所仰如件
は異なるものの、筆順その他は、同じ花押と考えてい
いという感触を得ました。瀬高下荘と三鈷寺領は同じ
を発見されたら、ぜひ柳川古
宛賜 筑後国瀬高下御庄
定補高良別宮大宮司事
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祝い事に沸く柳川
文書館へご連絡ください。
写真1の釈文
(花押)
祝う柳川の人々の写真があ
み や べ っ と う た め し
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年5月1日号の「思
し
り、平成
き
ぐって、大宮司紀氏 ( 鷹尾家 ) と宮別当多米氏は相論
( 裁判 ) を行っており、その際の訴状・陳状が多く残
されています。また同時期に、京都の荘園領主徳大寺
家側から出された大宮司の任命状 ( 高良別宮大宮司職
ぶにんじょう
補任状・鷹尾家文書A 26・写真 1) も有ります。 ひ出」写真館で「仮装して祝
正 応年間 (1288 ~ 92)、高 良別宮の大 宮司職をめ
使っていることや、任命された人物の名前がないなど、
疑うべき点が多いのです。疑文書とするに充分なもの
だと言えます。
か お う
しかし、この補任状の袖 ( 右端 ) にある花押 ( サイン )
さ ん こ じ
は、三鈷寺文書 ( 東京大学法学部所蔵 ) の正応四年八
きみたか
みきょうじょ
さきのかずさのすけ
月十八日付の徳大寺公 孝家御 教書の「前 上総介」( 写
真 2) と一致するという指摘が出ました ( 東京大学史
料編纂所編『花押かがみ三 鎌倉時代二』)。
そこで昨年度、原本の調査を行ったところ、大きさ
う柳川」として紹介しました。
だ い ぐ う じ
今 回 取 り 上 げ た 写 真 に は、
新憲法の内容を反映して「主
こうらべつぐう
権」「人権」「男女」などと書
しょうおう
文書ナルベシ」との注記がされ、これまで積極的に利
用されて来ませんでした。写真1をみていただくと分
かりますが、確かに書かれた字は同時期のものと比べ
あてたまう
て下手で、また「宛賜」というあまり使わない言葉を
かれた紙も掲げられていま
柳川古文書館の管理する国指定重要文化財 「 鷹尾神
社大宮司家文書 」 が、平安末以降の瀬高下荘 ( 現柳川
市やみやま市一帯 ) の歴史を知る上で重要な文書群で
あることはいうまでもありませんが、この中には、や
や疑いありとされてきた古文書も含まれています。
【写真2】「前上総介」の花押『花押かがみ三』
す。一見して女性が多いのは、
【写真1】高良別宮大宮司職補任状(鷹尾家文書)
あるいは、裁判を有利に運ぼうとした大宮司紀氏 ( 鷹
尾家 ) 側が勝手に作成した文書 ( だから文字が下手で、
疑わしい ) に、何らかの手を使って、袖に花押を据え
てもらったのかもしれません。そう考えた時、この文
書は、もはや疑文書ではありません。当時の相論 ( 裁判 )
の実相を生々しく伝えるものと言えます。
市史抄片別巻 vol.23
「思ひ出」写真館
市史編集委員会では、数年後に写真を中心とした本を刊行
する予定で、現在さまざまな写真や絵はがきなどを集めてい
ます。毎月1日号に、同委員会で調査した写真を紹介します。
【問】市生涯学習課市史編さん係(☎ 72・1275)
広報やながわ 2016.5.1
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