乗員組合の裁判を分析する!シリ-ズ③(No.194) PDF

1999. 12.01
NO. 194
日本航空機長組合
TEL 03-5756- 3909
日 本 航 空 先 任 航 空 機 関 士 組 合
日本航空乗員組合
TEL 03-5756-3074
TEL 03-5756-9251
乗員組合の裁判判決を分析する!シリーズ③
<勤務完遂の原則>
確認された訴え
乗務割上の一連続の乗務にかかわる勤務を開始後その終了前に、既に着
陸回数に応じた乗務時間制限又は勤務時間制限を越える事態が発生してお
り、又は更に勤務を継続すればこれを越えることとなる事態が発生した場合
において、機長が他の運航乗務員と協議し、運航の安全に支障がないと判断
したときでない限り、その勤務を完遂しなければならないとの義務がない。
認められた事実(以下判決文より抜粋、強調文字は組合)
○就業規程12条1項は、「乗務割上の一連続の乗務に係わる勤務は、開始
後完遂することを原則とする。但し、他の乗員と協議し、運航状況、乗員
の疲労度その他の状況を考慮して運航の安全に支障があると機長が判断
した時は中断しなければならない。」と規定している。
○この規定の意味は、離陸した航空機は着陸させなければならないといった
当然のことを規定することではない。
○予定された乗務開始後その終了前に、天候・空港・機材の異変等の様々な
事情により乗務時間制限又は勤務時間制限を超える事態が発生した場合
に、航空機の運航の観点からだけであれば、当該運航乗務員がそれ以上の
運航を中止することが可能なときでも、予定された勤務を完遂するために
必要な運航業務(例えばダイバート)を更に続行しなければならないこと
が原則であることと、その例外として勤務を中断する場合の要件を定めて
いることにあるものと解するのが相当である。
○米国国家運輸安全委員会(NTSB)は、アメリカン・インターナショナ
ル・エアウェイ(AIA)航空グアンタナモ湾事故に関し、運航乗務員の
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スケジューリングは疲労と能力低下の要因であったと判断し、次のように
指摘している。
① 一般に個人が自分の疲労状態を正確に認識することは難しく、多く
の場合、大して疲れていないと判断する傾向が強い。
② 競争が激化している中で、極度に疲れた運航乗務員自身が、自己評
価と自己申告により、会社の圧力に抗して更なる乗務を指示しない
ように求めることを期待し、これによって安全メカニズムが機能す
ることを期待するのは現実的でない。
③ 競争圧力が高まると、航空会社が運航乗務員の生産性を高め、会社
の利益を最大にするために連邦航空規則の乗務時間制限の基準一杯
で運航することがあり得る。会社自身がポリシーを変更することも、
個々の運航乗務員が疲労の限界を考慮するのに今より積極的になる
こともあり得ないと判断されるので、疲労に起因する事故の再発を
防止するには法規を改正する必要がある。
○就業規程は乗務割上の一連続の乗務に係わる勤務を開始後完遂すること
を原則とする旨明記する一方で、その例外として機長が運航の安全に支障
があると判断した場合に中断しなければならないこととしている。
○しかし原則を明確に定めつつ、例外については何も明確な基準を定めず、
既に乗務時間制限・勤務時間制限を超過し、疲労が蓄積している状態の中
で、機長に運航状況、乗員の疲労度その他の状況を考慮して運航の安全に
支障があるか否かの判断をすることを求める内容となっている。
○米国国家運輸安全委員会(NTSB)の指摘に照らすと、航空機の航行の
安全を確保する安全弁の設定方法としては相当ではないといわざるを得
ない。
○ユナイテッド航空においては、1 時間 30 分を限度としてパイロットの同
意なしに延長を命ずることができ、パイロットが同意した場合でも合計勤
務時間 14 時間 30 分を超えて延長することはできないことを原則としてい
る。太平洋路線及び大西洋路線ではこの合計勤務時間による制限はない。
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○英国航空においては、機長が安全な運航を保障できる場合、勤務時間制限
を超えて勤務時間を延長してよいが、緊急の場合を除き、通常の勤務時間
制限を超えて延長できるのは最大限 3 時間までとされている。
○ルフトハンザ航空においては、勤務協定ではすべて機長の判断にゆだねら
れているが、法により延長は 2 時間までと定められている。
○機長陳述書び原告A本人尋問の結果、機長の声として、あるいは副操縦士
から見て、本件就業規程の定める勤務完遂の原則の下では、機長が乗務を
中断する決断をすることが困難な立場に置かれていることが指摘されて
いる。
○勤務完遂の原則は極限的な状況もあり得る中で、何ら明確な基準を定める
ことなく、乗務を中断する決断をすることが困難な立場に置かれている機
長に航空機の航行の安全をゆだねているものである。
よって事故事例に照らしての科学的、専門技術的見地からの検討によっ
ても、他の航空会社の基準と仕較しても、相当なものではなく、航空機の
航行の安全を損なう危険のある規定であり、内容自体の合理性がないとい
わざるを得ない。
結論
よって、機長が他の乗員と協議し、運航状況、乗員の疲労度その他の状況
を考慮して運航の安全に支障があると判断した場合でない限り、運航乗務員
が、乗務割上の一連続の乗務に係わる勤務を開始後これを完遂しなければな
らない義務の不存在確認を求める原告ら(確認の利益を有する原告らに限
る。)の請求は理由がある。
裏面に自由に意見をお書きの上、各組合メイルボックスまたは組合事務所
に提出してください。
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該当個所に○をして下さい。
あなたの職種は
( 機長 副操縦士 航空機関士 訓練生 )
乗務機種は
( −400 747 777 MD11 DC10 767 737 )
ご意見
(ありがとうございました)
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