Interview なぜ、すべての人たちが 科学を学ぶ必要があるのか ──科学リテラシーの重要性が高まっている理由── ● 川勝 博[名城大学総合数理教育センター長、教授] 科 学リテラシーを身に付けさせる必要性を指摘する声が、 かわかつ ひろし 近年、国際的に高まっている。 ● 科学リテラシーとはいったいどういうもので、なぜ、重視されるのか。 名城大学総合数理教育センター長、教授。 そして、この能力を養うための教育とはどのようなものなのか。 校で物理を中心に数学・化学・地学を教える。 名古屋大学理学部物理学科卒業後、愛知県の県立高 香川大学教育学部教授を経て、現職。 ユネスコや科学教育をテーマとした様々な国際会議で活躍し、 日本学術会議連携会員。 各国の科学教育研究者との交流が深い川勝博先生に話をうかがった。 またユネスコの AsPEN(アジア物理教育ネットワー キーワード=科学リテラシー、持続可能な開発 著書に 『川勝先生の物理授業 (上・中・下) ( 』海鳴社) 、 ク)日本代表・理事などの国際役員も務める。 編著書に『理科』 (明石書店)などがある。 科学リテラシーとは何か リテラシーとは、もともとは読み書き能力のことを指しま べての人々に理解されるべき科学リテラシーは、今までとは ワンランクレベルアップした〈概念的方法的理解〉である」 す。文字を読める能力と書ける能力が、生きていく上で重要 と述べています。その概念的理解とは、次のように説明でき であることは、あまり多くを説明する必要はないでしょう。国 ます。 が国民に対して識字能力を獲得するための学習を保障するこ 「概念的理解は、自然の言葉を読む力(リテラシー)であ とは、人権を保障することであるといえます。また読み書きの る。人間の内輪の言葉(国語・算数)を理解させるだけでは リテラシーと並んで、計算能力も生活していく上で必要なリ 不十分である。自然と人間の新しいライフスタイルを、自然 テラシーです。近代国家の国々は、国民に識字能力と計算能 の言葉を聴きつつ考えられる基礎概念と自然観が、すべての 力を身に付けさせるための教育に、これまで力を注いできま 人々に必要である」* 1 した。 概念的理解の「自然の言葉を読む力」は、さまざまな自然 そして近年、識字能力と計算能力に加えて、新たに「科学 現象、科学現象を分析して、読み解ける力と言い換えてもい リテラシー」の重要性が国際的に認識されつつあります。 いでしょう。自然の言葉を読むためには、その説明原理とな 1992 年には、ユネスコが「 Science and Technology る基礎概念と自然観を身に付けていることが不可欠となりま Literacy for All パリ決議」において、読み書き・計算と共 す。例えば科学リテラシーの国際調査でよく聞かれる「種と に科学リテラシーを、人権を保障するために必要な学習とし は何か」 、 「分子とは何か」 、 「放射能と放射線の違いは?」と て位置付けました。これを受けて OECD (経済協力開発機 問われたときに、それをきちんと説明できないようでは、基 構)の PISA 調査でも、読解力や数学的リテラシーと共に、 礎概念や自然観を身に付けているとはいえません。 科学リテラシーの調査が実施されています。 10 PISA2006 科学リテラシー委員会議長のバイビー氏は、 「す 一方、方法的理解については、どうでしょう。 このように科学リテラシーの重要性に対する認識は、国際 「方法的理解は、自然の言葉を書き連ねられる力(リテラシ 的には急速に高まっています。しかし日本では、まだその概 ー)である。社会的吟味判断力の養成は、情報公開社会にお 念が十分に定着しているとはいえないようです。そもそも科 ける市民的コントロールの要、参加権の保障である。社会の 学リテラシーとは、どのようなリテラシーなのでしょうか。 科学技術が関わる分野で、何がごまかしを生み、真実の判定 特集 誰の、何のための科学教育なのか を損なわせているかを判断できる訓練は、21 世紀の社会参加 図表[1]理科教育の戦後史 の基本的素養である。これは専門家の真実探求力とは独立の 方法重視 市民が持つべき力である」* 2 概念的理解が「自然の言葉を読む力」なのに対して、方法 ② 科学リテラシー 現代化 的理解は「自然の言葉を書き連ねられる力」だと、ユネスコ の学習権宣言(1985)では考えています。21 世紀は、すべて の人々が自然と人間の新しい歴史を書き綴ることができる力 昭和43年∼ ① 問題解決 学習 ③ 系統 学習 が必要です。今の時代は、遺伝子操作や核技術など、自然現 象や科学現象を応用した科学技術が、著しい発展を遂げてい ます。また社会には、最新の科学技術の是非を論じたさまざ 生活単元学習 系統学習 戦後 昭和33年∼ まな科学的言説が溢れています。そうした現在の科学技術や、 国が進めている科学技術政策、科学的言説が、正しいもので あるかどうか、正しい方向に用いられているかどうかを判断 し、あるべき方向性を探り出していける力が方法的理解とい えるでしょう。 科学的な諸問題を専門家に委ねず 市民が判断・決定を行えるようになるために 内容重視 科学リテラシー教育に必要な3要素とその詳細 ① 問題解決学習* 1 →事例研究(situation) を重視した学習 ② 方法を重視した学習* 2 →知のネットワーク(method)による探究スキル の訓練 ③系統的内容の学習との結合→内容(concept) は自然観の学習 *1 戦後の生活単元問題解決学習との違いは、掘り下げて系統学習と結び付け ること。 *2 教育の現代化時代(昭和43年∼)の探求の方法との違いは、個人が真理を 追究する手続きを学ぶことではなく、社会的に知のネットワークを組織し、解 明するときの知恵を学ぶこと。 *Millar,R.and J.Osborne (1998) . Science Education for the Future, Beyond 2000. King,s College London School of Education.に基づき、川勝先生が日本流にアレ ンジした ではなぜこうした科学リテラシーが、近年特に重視される 最初のきっかけは、72 年にまで遡ります。この年はローマ そしてもう一つは、 「持続可能な技術の開発こそ目指すべ クラブが『成長の限界』を出版した年です。有限の地球に無 き」であるという意味です。20 世紀型の科学技術は、人類に 限の生産力の発展はない。このまま環境汚染や人口増加が進 経済的な発展をもたらし、一定の富を与えてくれました。し めば、地球の成長は限界に達するという警鐘を鳴らしました。 かしその結果招いたのが、人間社会の国内的・国際的格差と また環境問題をテーマにした初の大規模な政府間会合である 環境問題の深刻化でした。それに対して 21 世紀型の科学技 「国連人間環境会議」が、ストックホルムで開催された年でも 術は、科学技術を活用する目的を、20 世紀型の「一国の当面 あります。20 世紀型の大量生産大量消費の政治経済システム の繁栄を考える経済発展主義」から「国際協調による未来を を続けていれば、人類と地球の未来はなく、文明の重要な転 見据えた安全で安心な政治経済社会の実現、持続可能な地球 換点に差しかかっていることが、初めて国連の場で議論の対 共生社会」へと転換することを迫っているわけです。これは 象となったのです。 大転換といっていいでしょう。 さらに、それ以降、20 年間にわたる激しい議論の末に、92 さて、そこで重要になってくるのが、市民の科学リテラシ 年にユネスコが科学リテラシーをすべての人々のものにと決 ーです。例えば国や自治体、民間が、新たな開発を行うとき 議した年、リオデジャネイロでは、世界中の百数十か国の大 に、その開発が持続可能な限りにとどめられているかどうか 統領・首相が臨席する「環境と開発に関する国連会議」で、 「持 をチェックする。あるいはどんな科学技術を、未来のために、 続可能な開発」という政治経済の基本的考え方が国際的な合 大金を払ってでも投資しなければならないかを、しっかり評 意になります。 価できる。こうした能力が、専門家ではない一般の市民に求 この「持続可能な開発」という言葉には、二つの意味が込 められています。一つは、 「開発を、地球環境が持続可能な限 りにとどめる」という意味。地球環境を破壊し、後戻りでき 2009 ないような開発は、規制を加えようということです。 NO.15 ようになっているのでしょうか。 められているわけです。 *1と2を合わせて「概念的方法的理解」という。Bybee(1997) . Towards an Understanding of Scientific Literacy, 11 なぜ、すべての人たちが科学を学ぶ必要があるのか Interview 図表[2]小学生の理科の態度と理科問題への解答状況 Q.下の図は、昆虫が木の花から草の花へ花粉を運ぶようすです。 いちばん起こりそうなことはどれですか。次の1から4までの中から1つ選びなさい。 1.木から生まれる子孫が、草に似る 2.草から生まれる子孫が、木に似る 3.草から生まれる子孫が、木と草の両方に似る 4.子孫ができないので、何も起こらない 木 図表[3]PISA2003 年 科学リテラシー調査問題例 11 世紀という昔から、中国の医師たちは免疫システムを操作 することを知っていた。天然痘の患者から採取したかさぶたを 粉砕した粉を患者の鼻に吹き込むことにより、病気の軽い症状 を起こすことが可能となり、これによってそれ以後の重い症状 を防ぐことができた。1700 年代になると、人々は乾燥したかさ ぶたを皮膚に擦りつけ、病気から自分を守った。こうした原始 的な習慣がイギリス及びアメリカの植民地にもたらされた。 1771 年と 1772 年に天然痘が大流行したとき、ボストンの医師ザ ブディエル・ボイルストンは自分が考えついたアイデアを実験 した。自分の 6 歳になる息子と 285 人の人々の皮膚に傷を付け、 その傷に天然痘のかさぶたから採取した膿を擦りつけたのであ る。彼の患者は6人を除いて全員が生き延びたのであった。 草 人数 反応率(%) 正答率(%) 国/地域 (人) 1 2 3 4 無答・他 全体 男子 女子 男女差 チェコ 400 2.6 1.8 12.2 79.4 3.9 79.4 79.5 79.3 0.2 スロベニア 324 6.6 1.9 8.3 79.0 4.2 79.0 76.5 81.1 -4.6 ハンガリー 365 3.2 4.8 11.5 75.6 4.9 75.6 74.5 75.9 -1.4 オーストリア 334 6.6 6.7 9.3 72.1 5.2 72.1 71.7 71.7 0.0 アイルランド 355 5.9 7.8 11.6 72.0 2.6 72.0 67.7 75.8 -8.1 香港 545 12.0 19.3 32.6 35.3 0.7 35.3 33.9 37.3 -3.4 クウェート 536 9.7 20.4 24.1 34.0 11.8 34.0 31.8 36.3 -4.5 タイ 325 17.9 17.9 36.6 27.3 0.2 27.3 29.5 26.2 2.4 日本 538 28.9 22.5 26.9 21.5 0.2 21.5 21.7 21.3 0.4 国際平均値 10.5 11.5 18.6 55.2 4.1 55.2 53.4 57.1 -3.7 Q1.ザブディエル・ボイルストンが実験したアイデアとは、どのよ うなものだったと考えられますか? 完全正答:以下の両方に言及する解答 ①誰かを天然痘に感染させるとある程度の免疫が与えられるとい う概念 ②皮膚を傷つけることにより天然痘が血流に導入されるという概念 Q2.ボイルストンのアプローチが、どの程度成功したかを判断する のに必要な情報を 2 つ示してください。 完全正答:以下の2つの情報を提供する解答 ①ボイルストンの処置をしなかった場合の生存率 ②彼の患者が、その処置とは別に天然痘にかかったかどうか *下野洋(2003) 『小学生の理科の態度と理科問題への解答状況∼第 3 回国際数 学・理科教育調査の児童質問紙・理科問題の集計結果∼』より *『PISA2003年調査評価の枠組み』国立教育政策研究所監訳/ぎょうせい/2004年 「持続可能な開発」を目指す社会においては、遺伝子組み してこうしたシステムを確立する上で大切になるのが、市民 換え食品問題で明らかなように、科学技術の分野でも、シビ が高い科学リテラシーを身に付けるように教育されているこ リアン・コントロール(文民統制)の確立が不可欠になって とです。科学リテラシーは、20 世紀の終わりから 21 世紀に います。例えば、高度の専門家集団である軍隊に対して、自 かけて明確になった、人類の生存権を守り保障するリテラシ らの専門的判断だけで行動することを許すと、暴走を招き、 ーです。 国民の生命や身体の安全を脅かすことになりかねません。で すから民主主義国家では、軍事力の行使に関する最終判断・ 決して高いとはいえない 最高決定は、軍事の素人である国民が行い、その決定に軍隊 日本の子どもたちの科学リテラシー が従い、実行するというシステムをとっています。 現在の日本の子どもたちの科学リテラシーは、残念ながら 軍事と同様のシステムが、高度に専門的知識が必要な科学 12 決して高いとはいえないと思います。小学生と中学生を対象 技術の分野でも求められます。科学者は、本来自然界では変 とした第 3 回国際数学・理科教育調査の解答状況を見ると、 化しない原子を変化させる核技術を獲得し、生命を操作する 問題によっては、実施国の中でも正答率が下位に低迷してい 遺伝子技術を獲得しました。こうした科学技術の活用は、た るものもあります。 とえ科学者が純粋な知的好奇心から研究を続けた結果だとし 例えば小学生に出題された図表 2 の問題。正解は「4 .子 ても、一歩間違えれば、地球環境や生態系に修復不可能なダ 孫ができないので、何も起こらない」なのですが、日本の子 メージを与えるリスクを伴っています。そこで軍事における どもの正答率は、実施国中最下位の 21.5 %。1 位のチェコの シビリアン・コントロールと同じように、科学の専門家では 79.4 %からは、大きく引き離されています。 ない一般の市民が、 「持続可能な開発」という視点から、また この問題は、 「生物は種の壁を越えて子孫をつくることはで 総合的英知から科学の活用に関する判断・決定を行い、専門 きない」ことが分かっていれば、答えが得られます。日本の 家がそれに従うというシステムが求められているのです。そ 子どもの正答率が低かったのは、 「種とは何か」を理解できて 特集 誰の、何のための科学教育なのか いないからです。 これは端的にいえば、学校の授業で「種とは何か」という ことが教えられていないからでしょう。日本の学校教育は、 学習指導要領に盛り込まれていない学習内容は、一切教えな い傾向が顕著です。そのため国際テストを実施すると、正答 率が高い問題と低い問題の差が極端になります。 しかし、 「学習指導要領から外された学習内容であるから、 正答率が低くても仕方がない」で、済ませるわけにはいきま せん。遺伝子操作や種の絶滅の問題を考えるときに、 「種とは 何か」を理解しておくことは大前提となります。今日の科学 問題を考える上で重要な基礎概念であるから、国際的なテス トでも出題されているわけです。前述したバイビー氏の概念 的理解の中でも重要な基礎概念が、学校教育で取り上げられ ていないというのは、大きな課題です。 もう一つ問題を紹介しましょう。図表 3 は、03 年の PISA 科学リテラシー調査で出題された問題です。問題文を読んで 「問 1」と「問 2」に答える構成となっていますが、 「問 1」は 文章の読み取りに近い出題です。一方「問 2」では、科学的 な文章の妥当性を批判的に分析・判断する力が求められま す。科学リテラシーの中でも、方法的理解の定着度を測る問 解決するためにどのように生かせばいいのかが、なかなか見 題といえるでしょう。 えてきません。 出題文の文章は、一見ボイルストンの実験結果が、免疫シ 一方、今の時代に求められている科学リテラシーとは、現 ステムの操作の成功を裏付けているように読めます。しかし 実社会で起きている科学をめぐる諸問題や、国の科学政策 「問 2」の正答を見ても分かるように、 「ボイルストンの処置を を、科学的に分析・判断できる力です。そのため基礎を見据 えながら現実を吟味できる力が必要となります。 に天然痘にかかったかどうか」についての情報と比較できな すでにヨーロッパの教育界では、科学リテラシーを身に付 ければ、ボイルストンの実験が成功しているかどうかを判断 けさせることを狙いとした、カリキュラム改革が進められてい することはできません。 ます。図表 4(P.14)は、イギリスで計画されている義務教育 段階の理科教育のカリキュラム概念図を示したものです。 データの妥当性を検証する学習が不可欠となります。しかし 図表の中の「モジュール」とは、 「地球温暖化」や「携帯電 そのような学習は、日本の学校教育ではまったくといってい 話の使用と健康上のリスク」といった事例研究から入る授業 いほど、取り組まれていないのではないでしょうか。 のことです。モジュールは、できるだけ現実の社会で課題と なっているテーマが取り上げられます。イギリスでは小学生 「知識を積み上げる学習」だけでなく の携帯電話の使用が禁止されています。そこで「携帯電話と 「現実問題から基礎に遡る学習」も 健康」では、携帯電話は本当に健康上のリスクがあるのかを、 これまでの科学教育では、 「一つひとつ知識を積み上げなが ら応用に至る」手法が中心とされてきました。こうしたスタ 2009 上記のような問題に対応するには、科学的な文章や言説、 NO.15 しなかった場合の生存率」と「彼の患者が、その処置とは別 子どもたちが探究していくわけです。 しかし探究活動をするためには、 「放射線」や「電磁波」 、 イルは、専門家向けの効率のよい学習には向いているでしょ 「細胞内の DNA」といった科学の基礎概念を知っておかない うが、多くの学習者にとって、学んだ知識を社会的な問題を と、活動が深まっていきません。そこでこうした基礎概念・ 13 なぜ、すべての人たちが科学を学ぶ必要があるのか Interview 図表[4]21 世紀コア科学カリキュラム(英国国立科学学習センター) 科学による説明(例) モジュール(例) 科学についての考え(例) あなたとあなたの遺伝子 データとその限界:誤差と不確実性 SE3 物質とその諸性質 携帯電話 相関性と要因:パターン探し SE4 生き物の相互依存 食品問題 説明を展開する:科学的な説明 SE8 遺伝の遺伝子説 放射と生命 科学コミュニティ:同僚による批評・評価 SE11 エネルギー資源とその利用 放射性物質 リスク:現実のリスクと認識されたリスク 健康を維持する 意思決定:科学と社会 SE2 化学変化 SE12 放射 SE13 放射能 SE16 宇宙 地球温暖化 空気の質 etc. 法則・自然観を習得するために、基礎に遡った系統学習との 定の結論に誘導するような授業は避けるべきですが、今論争 結合が図られます。概念図でいう「科学による説明」が、系 になっている課題ほどテーマとして取り上げ、それで判断力 統学習に当たります。 の訓練もすべきです。そのためには学校や教師に対して、教え さらに探究活動の過程で子どもたちは、 「携帯電話が生体 に及ぼす影響」についてのさまざなデータに触れるわけです もう一つは、地域の教育機関や教育従事者の連携を活発化 が、データを正しく読み取る力や、データの科学的根拠や妥 させること。科学をめぐる諸問題は、時代により常に変化し 当性を判断する力などを学びます。これが概念図でいう「科 ています。今の時代に考えるべき課題を適切に選び、独りよ 学についての考え」に該当します。 がりにならず普遍性を持つように教材化し授業化していくの こうして子どもたちは、現実的な課題に取り組みながら、 は、とても一人の教員の手には負えません。大学と高校、中 科学リテラシーに必要とされる科学の基礎概念と自然観、方 学校、小学校の教員の連携による、しっかりした地域レベル 法的理解を身に付けていくわけです。 の教材作りや授業研究が不可欠となります。 私は、日本の科学教育も今後は、 「現実的な問題から入り、 こうした教育環境、学習環境を現実化するのは、決してた その謎を吟味追究しながら基礎をも学ぶ」高いレベルの学習 やすいものではないでしょう。しかし文明の転換点(ストッ スタイルを取り入れていく必要があると思います。そのとき クホルム人間環境会議)ともいえる 21 世紀を迎えて、科学リ ポイントとなることは大きく二つあります。 テラシーの獲得を保障する学習のためには、どうしても乗り 一つは、教える内容の自由度を学校や教員に与えること。 例えば日本の学校教育は、原子力発電など、その是非が議論の 対象となっている問題については、子どもたちに学習させる 機会を避けています。しかしエネルギー問題を考える上で原 子力発電問題は、避けては通れません。市民の科学リテラシ 14 る内容についての裁量度、自由度を上げなくてはいけません。 ーによる判断力がまさに必要とされる分野です。もちろん特 越えなくてはいけない課題だと、多くの国の科学教育関係者 は考えていると思います。 References ● 川勝博「川勝先生の物理授業(上・中・下) 」海鳴社/1997∼1998年 ● 川勝博「科学リテラシー入門」 『楽しい理科授業』明治図書/ 2007 年 4 月号 ∼ 2008年3月号
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