昭和に思う 巨人、大鵬、卵焼き 昭和 30 年代後半から 40 年代にかけて

昭和に思う
巨人、大鵬、卵焼き
昭和 30 年代後半から 40 年代にかけて、日本は高度経済成長期を迎えた。そのような時代を代
表した言葉が、昭和 36 年の流行語の「巨人、大鵬、卵焼き」である。大鵬は昭和 36 年に横綱に
なり、32 回の優勝を飾っている。当時の巨人は、長嶋と王を擁し、絶大な人気を誇っており、昭
和 40 年からは V9 を遂げている。高度成長期の日本は、国民が希望に満ち溢れ、強いものにあこ
がれた時代であった。また、子供たちの大好物が卵焼きであるという、実に可愛い時代でもあっ
た。
その大鵬も 1 月 19 日に亡くなった。享年 72 歳である。日本の高度成長も本当に終わりを迎え
たのであろうか。大鵬というと、もう一人の横綱であった柏戸が思い出される。柏鵬時代と称さ
れ、相撲が絶大な人気を誇った。柏戸は左前みつを取って、右からの強烈なおっつけで一気に相
手を押し倒す豪快な相撲を取っており、大鵬に並ぶ人気があった。しかし、少し不器用で、体が
硬いのか怪我や病気が多く、たびたび休場していた。昭和 38 年の 9 月場所は、休場明けの再起
の場所であった。千秋楽は 14 戦全勝同士で大鵬と優勝をかけての対決となった。この取り組み
を、かかりつけの病院でたまたま観戦した。何の病気で医者に行ったのか定かでないが、テレビ
に映し出される両者の熱戦に声援を送り、柏戸が勝ったことを嬉しく思ったことを覚えている。
子供心に大鵬はあまりに強く、柏戸にひそかに声援を送ったのは判官びいきであったのであろう。
そういえば巨人も強すぎて、何故か相手チームに声援を送りながら見ていたように記憶している。
なお、
かかりつけの先生は大鵬びいきだったのであろう。
大鵬の敗戦をしきりに残念がっていた。
ところで、西鉄ライオンズの稲尾投手は豪快であった。何せ、
「神様、仏様、稲尾様」である。
昭和 33 年の日本シリーズでは、西鉄が 3 連敗の後に 4 連勝して優勝したが、その立役者が 4 連
投、4 連勝の稲尾投手である。残念ながら、このシリーズの記憶はない。野球を見るには、まだ
あまりに幼く、それに、我が家にテレビもない時代であった。
このように高度成長が始まった頃の日本には、プロレスの力道山なども含めて、多くのスーパ
ーヒーローが存在し、国民が湧きに沸いた時代でもあったのだと懐かしく思う。しかし、大鵬や
稲尾の訃報に接すると、高度成長を遂げた「昭和も遠くなりにけり」である。
テロ事件
高度成長期には明るい話題の一方、影の部分もあった。昭和 45 年 3 月には赤軍派が、
「よど号
ハイジャック事件」を引き起こした。赤軍派の 9 名の犯人グループが JAL 機を乗っ取り、北朝鮮
に亡命した。また、連合赤軍が、昭和 46 年 12 月から翌年の 2 月にかけて山岳ベース事件と呼ば
れるリンチ事件と浅間山荘事件を引き起こし、日本中を震撼させた。また、昭和 52 年 9 月には、
フランスから日本に向かっていた JAL 機を、日本赤軍グループの 5 名がハイジャックしてダッカ
国際空港に強行着陸させたダッカ事件が起こった。犯人らは、当時のお金手で 16 億円にも上る
身代金と日本で服役中の 9 名の犯罪者の釈放と日本赤軍への参加を要求した。この時、「一人の
生命は地球よりも重い」として、時の福田内閣は、この要求に応じた。その結果、乗客 137 名と
乗員 14 名は無事に全員が解放された。しかし、この後、身代金で得た軍資金を使って、釈放さ
れた犯罪者たちが幾多の事件を引き起こしていくことになった。
イナメナス武装勢力襲撃事件
16 日の未明、アルジェリアのイナメナスにある天然ガス施設が、イスラム原理主義の武装勢力
に襲撃された。そして、17 日にはアルジェリア軍による人質救出作成が実施された。救出作成で
は人質ごと車を爆撃するなど、人質側にも多数の犠牲者が出たようである。イナメナスの天然ガ
ス関連施設は広大な敷地に展開しており、アルジェリア軍による全体掌握に時間がかかった。完
全に制圧できたのは、19 日になってからである。そのため、犠牲者に関する情報も錯綜しており、
19 日夜に人質 23 人と武装勢力 32 人が死亡したとの内務省声明が報道されたが、国籍や氏名な
どの詳細は明らかにされていない。日本時間で 20 日時点では、報道された人数以外にも多くの
安否不明者がおり、犠牲者は相当数にのぼると予想される。実に痛ましい事件である。
日本政府を始め、自国民を人質に取られた各国は、人質の安全を最優先にした慎重な対応をア
ルジェリア政府に求めた。しかし、アルジェリア政府は、翌日には制圧行動に出て、人質の乗っ
ている車にも爆撃を加え、多くの人質が犠牲になった。この軍事行動の背後には、
「一人の生命は
地球よりも重い」という論理とは、まったく異なる論理がある。日本の常識は、必ずしも世界の
常識とは限らない。襲撃してきた武装勢力にも論理があるのであろう。絶対に許される論理では
ないが、論理は論理である。砂漠の真ん中にある施設を襲って人質を取っても、軍隊に囲まれれ
ば逃げ場はない。そういう意味では明らかに自殺行為である。自殺行為に走る何らかの論理が行
動の背後にはある。また、人質を殺してもなんとも思わない狂気の論理がある。
日本の領土から一歩でも外に出れば、異なる論理が支配している。尖閣諸島と竹島と北方領土
の領有に関しても、日本と異なる論理が相手国にはある。イナメナスの悲惨なテロ事件と制圧に
関する報道を目の当りにすると、平和ボケした日本も少しだけ目を覚ます必要があるように感じ
る。それにしても、
「友愛外交」や「一人の生命は地球よりも重い」という論理だけでは、日本国
の固有の領土と国民の命を守りきることができないことは自明のようである。
平成 25 年 1 月 20 日
矢田部龍一